五条
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傑の離反を聞いた時
最初に思ったことは
置いていかれた、だった。
思い出すのは
優しく笑いかけて、抱き締めてくれた温もり。
なのに
今はもう、傑がどんな顔で
笑っていたのかわからない。
先生から伝えられた傑の離反に
悟は怒りを露に、見付けたら連絡するように
硝子と私に言った。
私はといえば
傑の離反に加担したわけでもないし
私の様子から、何も知らなかったと判断され
特に何も聞かれなかった。
ベッドに横になり
傑のことを思い浮かべる。
私が一人で盛り上がっていて
傑は私のことを想っていなかったのか?とか
大切にされていたと思い込み
全て都合良く解釈し
傑にとってはどうでもいい存在だったのか?
むしろ
傑が離反を考えていたことに気付かないほど
私は傑を想っていなかったのか?と
考えれば考えるほど
わからなくなっていった。
硝子からメールがあり
渋谷に傑がいたよ、と書いている。
しかし私は動こうと思わなかった。
会ったところで
私が傑に何か出来ると思わないし
傑本人を目の前に
私の存在は何だったのか聞けないと思った。
高専から追放されたということは
弁解もせず、逃げたということは
同級生も、恋人も、仲間も、親も
全て捨ててまで
傑が選んだと言うことは
聞かなくても答えが出てる気がしたんだ。
「行かなかったのか」
高専の中を歩いていると
夜蛾先生に会った。
「行きませんよ」
「なぜだ」
「会いに行ったところで
私の欲しい"答え"を
傑がくれるとは思わないので」
「答えとは?」
「傑が全て捨てていなくなった。
それが答えであり
私が何を聞いても傑は答えてくれませんよ」
「………名前」
「怒りも無く、悲しみも無く
すんなりと受け入れてしまった私は……
傑にとって何だったのかなんて
言う資格すら無いんです」
「病むなよ」
ぽん、と肩に手を乗せられ
通りすぎて行った先生。
ぼーっと、教室で空を見上げる。
キラキラと星が現れ
真っ暗になった教室は静かだ。
月明かりに照らされた
並んだ四つの机。
しかし、もう使うことのない机が一つ。
硝子からの連絡で
傑に会いに行ったであろう悟が帰ってきた。
「傑とは会えた?」
「何で行かなかったんだよ」
「行っても意味が無いと思ったから」
「お前なら!!」
「先生にも言ったけど
"全て捨てていなくなった"
それが事実である以上
私が会っても何も変わらない」
へらり、と笑った私は
悟の目にどんな風に映ったかな?
馬鹿な女として映っているだろう。
「ごめん、って」
「?」
「傑から」
まさか、伝言を残されているとは思わず
きょとんとしてしまう。
ごめん?
ソレは何の謝罪なのかーーー。
その答えも、わかってしまう自分が
悔しいやら、悲しいやら……
無意識に溢れるのは不細工な笑い。
「ねぇ、悟」
「なに」
「私、傑が離反したと聞いた時さ
置いていかれた………って思った」
「………」
「けど、怒りも無くて、悲しくも無くて…
簡単に捨てられる存在だったのかな?とか
私、思ってたより傑のこと
興味無かったのか?とか考えた」
「それで?」
「私は怒っていたし
悲しかったし
絶望していたんだ。
けど、色々キャパオーバーすると
人間って虚無感が勝つんだね」
「………」
「馬鹿だなぁ………傑」
ぽっかりと穴が開いたままな気がする。
「私と傑って何だったんだろ」
彼女だったんだから
嘆くべきか
悲しむべきか
怒るべきか
何かしら思うことはあるはずなのに
私は捨てられたことに納得してしまった。
「置いていかれたと思ったくせに
追おうとは思わないし
捨てられたと納得してしまったからね」
「いいのかよ」
「なにに悩めばいいのかすら
わからないんだ」
思考を放棄していると言われたら
それまでなのだが……
「悟」
「なんだよ」
「私、何を考えればいいんだろ」
「知るかよ」
「だよね」
考えることを放棄しているくせに
何かを考えたいだなんて
おかしな話だ。
「今、何かをしなきゃいけないなら……
強くなるしか無いのかな」
「何でそうなんだよ」
「強くなれば、この虚無感が埋まるのかな?
強くなれば、悟や傑の考えを理解出来る?」
「………さぁな」
悟は答えてくれなかった。
そんな悟に
私はまた、不細工な顔で
へにゃりと顔を歪ませて笑う。
あれから、9年。
傑が高専に対し百鬼夜行の宣言をし
傑と全面戦争することに。
「大丈夫なの?」
「何が?」
「一応、昔の男でしょ」
作戦会議が終わり
それぞれが捌けていく中
悟が隣に来て昔の話を掘り起こす。
「………悟さぁ、そーゆーとこ残念だよね」
「何で僕ディスられてんの」
「何の心配されてるかわかんないけど
大丈夫だよ」
「本当に?
置いていかれたってベソかいてたのに」
「泣いてないから」
「あぁ、不細工に笑ってたのか」
「ねぇ、さっきの仕返し?」
「お前、傑に誘われてたけど大丈夫かよ」
そう。
9年前は悟に"ごめん"と伝言を残したくせに
先程宣戦布告をしに
高専に来ていた傑は
驚くことに、私の姿を見付けて
手を伸ばして言ってきたのだ。
「名前
あの時は連れて行けなかったが
今なら共に歩めるよ。
一緒に来ないか?」
ポカンとしてしまっている間に
傑は家族と呼ぶ者達と共に
居なくなってしまった。
この9年。
がむしゃらに強さだけを求めて
悟の隣にいられるくらいの
強さを確立出来るくらいには
強くなれたのだが
悟としては、感情の無い人形に見えると
何度も心配らしきものをされた。
「正直に言っていい?」
「うん」
「あいつ、ナメてんのかな?と思った」
「…………は?」
「9年も放置して?
今さら一緒に居ようとかナメてんの?
捨てておいて
実は大切だから一緒には連れて行けなかったけど、今なら居られるよ、的な?
何で今なのさ。
高専に喧嘩売って、さらに私に飛び火じゃん。
今さら9年前のこと掘り起こされて
有りもしない内通の疑いかけられ
上から圧力かけられんの?
え、私損しかしないよね?
大火傷もいいとこなんだけど
私、あいつに何か恨まれてたの?
あいつ私のこと何だと思ってんの?」
怒涛のマシンガントークが止まらない。
悟が引いてるのがわかる。
「ホイホイあいつのとこ行って
私何の得あるの?
非術師殺して、私に得あるの?無いよね?
好きだ、惚れたの時代は
あの日、あの時に止まってるってゆーか
終わってんのに
え?私まだあいつに未練タラタラに見える?」
「えーっと………うん、落ち着こうか」
「何だろう……
虚無感埋めるために強くなったけど
私ってそんな粘着質?
むしろあいつのが粘着質じゃない?」
「名前さーん?
戻ってきてくれる?
そして五条さんと会話して」
「………思い返したら
私怒っていいかな?いいよね?」
「落ち着けよ」
べしり、と頭を叩かれ
吐き出した気持ちに少し楽になる。
「お前が問題無いことはよーくわかった」
「悟もナメてるよね。
傑の一言で、私がホイホイ行く女だと
思ってたなんて」
「舐めるなら身体を舐めてやるけど?」
「お馬鹿」
「これでも、一応心配したんだよ。
あの日、消えそうなくらい弱ってたから」
この9年。
隣にいて、強さを求める私の側に居たのは
悟だった。
傑のいない虚無感を
お互いに埋めたかったのかもしれないし
不安定に見えたであろう
私の存在を
側で支えてくれようとしたのは
確かに悟だった。
「悲劇のヒロインみたいに
可愛いらしかったら
ここは漫画展開としては
熱い展開だったかもね」
「何の話?」
「私が可愛いヒロインみたいな存在じゃ
無かったって話」
置いていかれた答えは
あの日、あの時に
もう出ていたのだから。
確かに悲しみも、恐怖も、絶望もあった。
それを認めたくなくて
虚無感に考えることを放棄していたのだが
私は傑と同じ道を歩めない。
そして、その理想を共に叶えることも。
ならば、進むしかない。
もう出ている答えに
なんで?どうして?と
考えるよりも
受け入れて
次に進むことを選んだ。
「悟こそ、大丈夫なの?」
「んー?」
「最期を見届けるのは、きっと悟だよ」
どんな結果であれ
私は悟の強さを信じている。
だからこそ
悟の方が辛いことになると思っている。
「道を違えた時に覚悟は決めたよ」
「そっか」
「慰めてくれるの?」
「悟が無事に帰って来てくれたらね」
「約束ね」
にっ、と笑う悟に
私もにっ、と笑う。
あの日、確かに私は
絶望し、悲しみ、苦しみ、受け入れたくない現実から目を反らそうとした。
その結果、何もわからなくなり
虚無感だけが残った。
けど、それじゃ駄目だと
何も終わらないし、始まらない。
傑のことがどうでも良かったわけじゃない。
ただ、私の守りたかった一部が
消えてしまった。
失くなったものを必死にかき集めようとしても
それは意味が無いとわかり
ならば、失くなったものより
今あるものを守るなら
何をすべきか、考えた時に
出てきたのが強さだった。
悲しみと対峙する度
私は必死に守ろうと強くなる。
この9年
守りきれず
亡くした者もいた。
その死が無駄にならないように
心に刻み、強さを求めた。
その結果が
最強である悟の隣に居られる。
「悟」
「なに?」
「傑に会ったら伝言よろしく」
「自分で言えよ」
「傑はズルいから、会ってくれないよ。
あーして皆の前で言ったけど
ホイホイ行ったら傑は私を殺すだろうね」
「………あいつのことなら
わかりますーって感じヤダ。腹立つ」
「傑も悟も
可愛くない私だから、惚れたんでしょ」
「………」
「おや?図星?」
「漢らしすぎだよ、名前」
「か弱い子がいいなら、他に求めなさい」
「ヤダ。
僕のこと抱いてくれる?」
「無事に帰って来てくれるならね」
くすくす笑って
悟の頬にキスを送ると
悟からは唇にキスをされる。
「伝言、なんて?」
「"来世で待ってて"」
「うっわー、妬けるね」
「傑を嫌いになったわけじゃないからね。
ただ、私の守りたかったモノから
抜け出てしまっただけ」
私はきっと
守りたいものが一つでも残ってるなら
どんな絶望があっても
何度だって立ち上がる。
「さぁ、悟。
今世紀最大の馬鹿を締め上げに行こうか」
「うわ、いい笑顔」
「大切な馬鹿をよろしく頼んだよ」
「はいはい」
進む。進む。
私の大切な仲間を守るために。
何度、こぼれ落ちても
何度、掴み損ねても
私の仲間は
次世代に受け継がれ
新たな芽が育つから。
私が強くあり
守れる芽があるなら
私は何度だって立ち上がり
前に進む。
あとがき
名前変換少なくてごめんなさい。
補足すると
夢主ちゃんの守りたいもの=術師
ですが、傑のように
術師だけの世界は望んでいない。
だから、傑にはついていかない。
術師か非術師なら
夢主ちゃんは術師が大切だと
はっきり言い切ります。
傑が置いていった理由として
術師が亡くなるたび
胸を痛める夢主ちゃん。
それを知っているから
術師だけの世界を作れば
もう胸を痛めなくて済むだろうと
思う部分もあるが
非術師を皆殺しには出来ないとわかってるから。
自分がいなくなることで
夢主ちゃんの守りたい"世界"の一部が
壊れてしまうことに"ごめん"と謝りたかった。
それをわかってるから
夢主ちゃんは傑を憎みきれないし
嫌いになれない。
うーん、補足だけで
もう一本書けそうな勢い(笑)(笑)
傑sideも書きたくなる(笑)
余裕があったら書こうか(笑)
最初に思ったことは
置いていかれた、だった。
思い出すのは
優しく笑いかけて、抱き締めてくれた温もり。
なのに
今はもう、傑がどんな顔で
笑っていたのかわからない。
先生から伝えられた傑の離反に
悟は怒りを露に、見付けたら連絡するように
硝子と私に言った。
私はといえば
傑の離反に加担したわけでもないし
私の様子から、何も知らなかったと判断され
特に何も聞かれなかった。
ベッドに横になり
傑のことを思い浮かべる。
私が一人で盛り上がっていて
傑は私のことを想っていなかったのか?とか
大切にされていたと思い込み
全て都合良く解釈し
傑にとってはどうでもいい存在だったのか?
むしろ
傑が離反を考えていたことに気付かないほど
私は傑を想っていなかったのか?と
考えれば考えるほど
わからなくなっていった。
硝子からメールがあり
渋谷に傑がいたよ、と書いている。
しかし私は動こうと思わなかった。
会ったところで
私が傑に何か出来ると思わないし
傑本人を目の前に
私の存在は何だったのか聞けないと思った。
高専から追放されたということは
弁解もせず、逃げたということは
同級生も、恋人も、仲間も、親も
全て捨ててまで
傑が選んだと言うことは
聞かなくても答えが出てる気がしたんだ。
「行かなかったのか」
高専の中を歩いていると
夜蛾先生に会った。
「行きませんよ」
「なぜだ」
「会いに行ったところで
私の欲しい"答え"を
傑がくれるとは思わないので」
「答えとは?」
「傑が全て捨てていなくなった。
それが答えであり
私が何を聞いても傑は答えてくれませんよ」
「………名前」
「怒りも無く、悲しみも無く
すんなりと受け入れてしまった私は……
傑にとって何だったのかなんて
言う資格すら無いんです」
「病むなよ」
ぽん、と肩に手を乗せられ
通りすぎて行った先生。
ぼーっと、教室で空を見上げる。
キラキラと星が現れ
真っ暗になった教室は静かだ。
月明かりに照らされた
並んだ四つの机。
しかし、もう使うことのない机が一つ。
硝子からの連絡で
傑に会いに行ったであろう悟が帰ってきた。
「傑とは会えた?」
「何で行かなかったんだよ」
「行っても意味が無いと思ったから」
「お前なら!!」
「先生にも言ったけど
"全て捨てていなくなった"
それが事実である以上
私が会っても何も変わらない」
へらり、と笑った私は
悟の目にどんな風に映ったかな?
馬鹿な女として映っているだろう。
「ごめん、って」
「?」
「傑から」
まさか、伝言を残されているとは思わず
きょとんとしてしまう。
ごめん?
ソレは何の謝罪なのかーーー。
その答えも、わかってしまう自分が
悔しいやら、悲しいやら……
無意識に溢れるのは不細工な笑い。
「ねぇ、悟」
「なに」
「私、傑が離反したと聞いた時さ
置いていかれた………って思った」
「………」
「けど、怒りも無くて、悲しくも無くて…
簡単に捨てられる存在だったのかな?とか
私、思ってたより傑のこと
興味無かったのか?とか考えた」
「それで?」
「私は怒っていたし
悲しかったし
絶望していたんだ。
けど、色々キャパオーバーすると
人間って虚無感が勝つんだね」
「………」
「馬鹿だなぁ………傑」
ぽっかりと穴が開いたままな気がする。
「私と傑って何だったんだろ」
彼女だったんだから
嘆くべきか
悲しむべきか
怒るべきか
何かしら思うことはあるはずなのに
私は捨てられたことに納得してしまった。
「置いていかれたと思ったくせに
追おうとは思わないし
捨てられたと納得してしまったからね」
「いいのかよ」
「なにに悩めばいいのかすら
わからないんだ」
思考を放棄していると言われたら
それまでなのだが……
「悟」
「なんだよ」
「私、何を考えればいいんだろ」
「知るかよ」
「だよね」
考えることを放棄しているくせに
何かを考えたいだなんて
おかしな話だ。
「今、何かをしなきゃいけないなら……
強くなるしか無いのかな」
「何でそうなんだよ」
「強くなれば、この虚無感が埋まるのかな?
強くなれば、悟や傑の考えを理解出来る?」
「………さぁな」
悟は答えてくれなかった。
そんな悟に
私はまた、不細工な顔で
へにゃりと顔を歪ませて笑う。
あれから、9年。
傑が高専に対し百鬼夜行の宣言をし
傑と全面戦争することに。
「大丈夫なの?」
「何が?」
「一応、昔の男でしょ」
作戦会議が終わり
それぞれが捌けていく中
悟が隣に来て昔の話を掘り起こす。
「………悟さぁ、そーゆーとこ残念だよね」
「何で僕ディスられてんの」
「何の心配されてるかわかんないけど
大丈夫だよ」
「本当に?
置いていかれたってベソかいてたのに」
「泣いてないから」
「あぁ、不細工に笑ってたのか」
「ねぇ、さっきの仕返し?」
「お前、傑に誘われてたけど大丈夫かよ」
そう。
9年前は悟に"ごめん"と伝言を残したくせに
先程宣戦布告をしに
高専に来ていた傑は
驚くことに、私の姿を見付けて
手を伸ばして言ってきたのだ。
「名前
あの時は連れて行けなかったが
今なら共に歩めるよ。
一緒に来ないか?」
ポカンとしてしまっている間に
傑は家族と呼ぶ者達と共に
居なくなってしまった。
この9年。
がむしゃらに強さだけを求めて
悟の隣にいられるくらいの
強さを確立出来るくらいには
強くなれたのだが
悟としては、感情の無い人形に見えると
何度も心配らしきものをされた。
「正直に言っていい?」
「うん」
「あいつ、ナメてんのかな?と思った」
「…………は?」
「9年も放置して?
今さら一緒に居ようとかナメてんの?
捨てておいて
実は大切だから一緒には連れて行けなかったけど、今なら居られるよ、的な?
何で今なのさ。
高専に喧嘩売って、さらに私に飛び火じゃん。
今さら9年前のこと掘り起こされて
有りもしない内通の疑いかけられ
上から圧力かけられんの?
え、私損しかしないよね?
大火傷もいいとこなんだけど
私、あいつに何か恨まれてたの?
あいつ私のこと何だと思ってんの?」
怒涛のマシンガントークが止まらない。
悟が引いてるのがわかる。
「ホイホイあいつのとこ行って
私何の得あるの?
非術師殺して、私に得あるの?無いよね?
好きだ、惚れたの時代は
あの日、あの時に止まってるってゆーか
終わってんのに
え?私まだあいつに未練タラタラに見える?」
「えーっと………うん、落ち着こうか」
「何だろう……
虚無感埋めるために強くなったけど
私ってそんな粘着質?
むしろあいつのが粘着質じゃない?」
「名前さーん?
戻ってきてくれる?
そして五条さんと会話して」
「………思い返したら
私怒っていいかな?いいよね?」
「落ち着けよ」
べしり、と頭を叩かれ
吐き出した気持ちに少し楽になる。
「お前が問題無いことはよーくわかった」
「悟もナメてるよね。
傑の一言で、私がホイホイ行く女だと
思ってたなんて」
「舐めるなら身体を舐めてやるけど?」
「お馬鹿」
「これでも、一応心配したんだよ。
あの日、消えそうなくらい弱ってたから」
この9年。
隣にいて、強さを求める私の側に居たのは
悟だった。
傑のいない虚無感を
お互いに埋めたかったのかもしれないし
不安定に見えたであろう
私の存在を
側で支えてくれようとしたのは
確かに悟だった。
「悲劇のヒロインみたいに
可愛いらしかったら
ここは漫画展開としては
熱い展開だったかもね」
「何の話?」
「私が可愛いヒロインみたいな存在じゃ
無かったって話」
置いていかれた答えは
あの日、あの時に
もう出ていたのだから。
確かに悲しみも、恐怖も、絶望もあった。
それを認めたくなくて
虚無感に考えることを放棄していたのだが
私は傑と同じ道を歩めない。
そして、その理想を共に叶えることも。
ならば、進むしかない。
もう出ている答えに
なんで?どうして?と
考えるよりも
受け入れて
次に進むことを選んだ。
「悟こそ、大丈夫なの?」
「んー?」
「最期を見届けるのは、きっと悟だよ」
どんな結果であれ
私は悟の強さを信じている。
だからこそ
悟の方が辛いことになると思っている。
「道を違えた時に覚悟は決めたよ」
「そっか」
「慰めてくれるの?」
「悟が無事に帰って来てくれたらね」
「約束ね」
にっ、と笑う悟に
私もにっ、と笑う。
あの日、確かに私は
絶望し、悲しみ、苦しみ、受け入れたくない現実から目を反らそうとした。
その結果、何もわからなくなり
虚無感だけが残った。
けど、それじゃ駄目だと
何も終わらないし、始まらない。
傑のことがどうでも良かったわけじゃない。
ただ、私の守りたかった一部が
消えてしまった。
失くなったものを必死にかき集めようとしても
それは意味が無いとわかり
ならば、失くなったものより
今あるものを守るなら
何をすべきか、考えた時に
出てきたのが強さだった。
悲しみと対峙する度
私は必死に守ろうと強くなる。
この9年
守りきれず
亡くした者もいた。
その死が無駄にならないように
心に刻み、強さを求めた。
その結果が
最強である悟の隣に居られる。
「悟」
「なに?」
「傑に会ったら伝言よろしく」
「自分で言えよ」
「傑はズルいから、会ってくれないよ。
あーして皆の前で言ったけど
ホイホイ行ったら傑は私を殺すだろうね」
「………あいつのことなら
わかりますーって感じヤダ。腹立つ」
「傑も悟も
可愛くない私だから、惚れたんでしょ」
「………」
「おや?図星?」
「漢らしすぎだよ、名前」
「か弱い子がいいなら、他に求めなさい」
「ヤダ。
僕のこと抱いてくれる?」
「無事に帰って来てくれるならね」
くすくす笑って
悟の頬にキスを送ると
悟からは唇にキスをされる。
「伝言、なんて?」
「"来世で待ってて"」
「うっわー、妬けるね」
「傑を嫌いになったわけじゃないからね。
ただ、私の守りたかったモノから
抜け出てしまっただけ」
私はきっと
守りたいものが一つでも残ってるなら
どんな絶望があっても
何度だって立ち上がる。
「さぁ、悟。
今世紀最大の馬鹿を締め上げに行こうか」
「うわ、いい笑顔」
「大切な馬鹿をよろしく頼んだよ」
「はいはい」
進む。進む。
私の大切な仲間を守るために。
何度、こぼれ落ちても
何度、掴み損ねても
私の仲間は
次世代に受け継がれ
新たな芽が育つから。
私が強くあり
守れる芽があるなら
私は何度だって立ち上がり
前に進む。
あとがき
名前変換少なくてごめんなさい。
補足すると
夢主ちゃんの守りたいもの=術師
ですが、傑のように
術師だけの世界は望んでいない。
だから、傑にはついていかない。
術師か非術師なら
夢主ちゃんは術師が大切だと
はっきり言い切ります。
傑が置いていった理由として
術師が亡くなるたび
胸を痛める夢主ちゃん。
それを知っているから
術師だけの世界を作れば
もう胸を痛めなくて済むだろうと
思う部分もあるが
非術師を皆殺しには出来ないとわかってるから。
自分がいなくなることで
夢主ちゃんの守りたい"世界"の一部が
壊れてしまうことに"ごめん"と謝りたかった。
それをわかってるから
夢主ちゃんは傑を憎みきれないし
嫌いになれない。
うーん、補足だけで
もう一本書けそうな勢い(笑)(笑)
傑sideも書きたくなる(笑)
余裕があったら書こうか(笑)