夏油
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※闇落ちを阻止したい
※自己解釈あり
好きな人がいる
愛した人がいる
その笑顔を守りたいと
思う人がいる
そんな人に出会えることは
きっと私の人生で
一番幸せなことだったのかもしれない。
その相手も
私と同じ気持ちで
側にいてくれるのだから。
出会ったのは高専に入学してたから。
悟、硝子、名前、私。
同級生として
四人でワイワイとくだらないことを話たり
喧嘩したり、笑ったり…
その中で、特別な感情を抱くようになった
きっかけは、とても些細なことで
ふと、
笑っている顔が好きだと思った。
彼女が笑うと
花が咲いたように、空気が和み
彼女が笑うと
私の心がじんわりと温かくなった。
コレが恋だと自覚するのに
どう受け入れようかと思ったが
彼女が笑ってくれるなら
その笑顔を見ていられるなら
恋と受け入れ、落ちるのに
時間はかからなかった。
「傑」
名前を呼ばれるのが好きだった。
柔らかな声で
私のことが好きだと言うように
笑いかけてくれる表情が
小さな背丈で
全身で抱き付いてくれる姿が
すっぽりと腕のなかに納まるのが
心地よくて好きだった。
その体温も
その声も
その笑顔も
全てが私を虜にした。
なのに
今は笑うことも出来ず
愛でることも出来ず
私は何のために
呪術師をやっているのかと
自問自答ばかりが
頭の中を覆いつくす。
目の前で撃たれ、息絶えた少女。
醜い非術師達。
呪力の持たない非術師にやられた自分。
最強となった親友。
守るべき対象だったはずの非術師を
今は見下し、それを否定を繰り返す。
弱者生存
弱きを助け強きを挫く
呪術は非術師を守るためにある
祓い、取り込むーー
誰のために?
怖くなった。
嫌になった。
このまま先へ進むたび
仲間が
彼女が
非術師によって
呪霊によって
消されていき
屍ばかりが積み上がっていくことに。
私だけが強くても守れない。
仲間が、彼女が
生き残るために自分に出来ることは………??
呪霊が生まれないことが一番いい。
しかし
人は呪霊を生み出してしまう。
呪術師から呪霊が生まれない。
九十九由基が教えてくれた
全人類が術師になれば呪いは生まれない。
なら、非術師を皆殺しにすればーー?
答えは"アリ"だった。
ならーーー
「傑?」
パタパタと目の前で
手を振る名前。
いつの間に部屋に来ていたのか
どれだけ考え、ぼーっとしていたのか…
心配そうにこちらを覗き込む姿に
ほっとする気持ちと
もやっとした気持ちが入り乱れる。
「傑、ちゃんと休んでる?」
「あぁ」
「嘘だ。
目の隈酷いしやつれてる」
「今年の暑さでやられてるだけさ」
「傑」
「なんだい?名前」
「ちゃんと私を見て話して」
ぐいっ、と顔を持ち上げられ
目の前に名前の顔。
「嘘つくとき
私のこと見ないんだから」
「………名前」
「星裝体の任務?」
「………違う。彼女は…きっかけに過ぎない」
「傑がそんなに思い詰めてるのは
何が原因?」
「………わからないんだ」
「?」
「非術師の価値が」
溢れた本音に
彼女は引くだろうか………
「私のなかで揺らいでいる」
「………うん」
「弱者故の尊さ
弱者故の醜さ
その分別と受容が
できなくなってしまっている」
「うん」
「特級の九十九由基さんと会って
呪霊が生まれない世界の話をした時
私は非術師を皆殺しにすればいいと思った」
「………うん」
「アリ、だと言われたよ」
「うん」
「非術師を間引き続けたら
恐怖や危機感で術師に適応する
進化を促せば、可能性があると……」
「………傑」
「彼女はそのやり方をするほど
イカれてはいないから
しないと言っていたけどね」
「そっか」
「名前」
「なぁに?」
「そんなことを考える、私が怖いかい?」
嫌いになったかい?
「私はきっかけさえあれば
選んでしまうだろう」
仲間が生きる世界のために
醜い猿共に価値はない。
「今のうちに離れるべきだ」
私は、私を止められない。
このドス黒く醜い感情を
噛み砕き、飲み込む方法を
私は思い付かない。
「名前……すまない」
「………傑」
がっ、と再び顔を捕まれ
上に無理矢理上げさせられる。
そしてーー
ガッ
頭突きをされた。
じんじんとした痛みと
なぜ?という感情。
口を開こうとしたら
両頬を引き伸ばされる。
「ひょ、にゃにしてっ」
「言いたいことはそれだけ?」
「………え」
「言いたいことはそれだけかって聞いてるの」
「ひょれだけって」
「私のこと
嫌いになったとか
イヤになったとか……
だから離れたいってわけじゃ無いんだよね?」
「………名前?」
「傑のバカ………」
頬を掴んでいた手を離し
ぎゅっと、首もとに抱き付く名前。
「私は傑や悟みたいに
頭いいわけじゃないから
難しい話わかんない」
「………名前」
「悟の術式意味わかんない」
「う、うん?」
「非術師が進化?適応?
呪霊が生まれない方法?
意味わかんない」
「……名前?」
「だけど、
傑が私をつき離そうとしてるのはわかった」
ぎゅっ、と力が込められる。
「非術師か、傑か選べって言われたら
私は傑を選ぶよ」
「………」
「ゴミみたいな呪術師もいれば
ゴミみたいな非術師だっている」
「………ゴミって」
「呪霊と戦って
仲間がいなくなるのは私もヤダ」
「名前……」
「けど、傑がいなくなるのは
もっと嫌だ!!」
「名前、話を」
「傑が呪詛師になったら
私もなる!!なんて言えない
馬鹿なことを考えるな!!なんて言えない」
「………」
「傑は頭がいいし、強いから
やろうと思えば出来ちゃうこともわかってる。
それが、私達と敵対することになっても」
「なら、今のうちに離れるべきだ」
「やだよ」
「名前」
「傑は今、心に余裕が無いんだよ。
だから、嫌なことばかりに目がいくし
馬鹿なことばかり考える」
「………名前、私は」
「だから、まずは傑」
一緒に寝よう。
体重をかけられ、普段なら耐えられるのに
名前が下になるように
ベッドに転がり
名前の胸元に頭を固定される。
起き上がろうとしたが
ぎゅっと締められ
柔らかな感触が
頭と頬に当たる。
「ちゃんと寝て
ちゃんと食べて
それから、また考えよ」
「………名前、私はっ」
「傑」
ぽんぽん、と背中を叩かれる。
一定のリズムで
優しい振動。
そして、名前の胸の鼓動。
「非術師を嫌いでいい。
価値を感じなくてもいい。
真面目に呪術師として
あるべき理想の姿でいなくていいよ」
とくん、とくんと
聞こえる鼓動が気持ちいい。
暖かさに少しずつ
とろんと眠気に襲われる。
「傑、大好きだよ」
撫でられる手が、温度が気持ちいい。
「名前、私は…
私は……怖いんだ」
「うん」
「今あるこの温もりを手放すことも
冷たくなってしまうのも嫌だ」
「うん」
「理子ちゃんを助けられなかった」
「うん」
「非術師を皆殺しにしてもいいと思った」
「うん」
「そんなことしても……
理子ちゃんは戻って来ないし
誰も救われないと分かってるんだ」
「傑は優しいね」
「優しくなんかない」
「優しいよ。
優しいから、苦しくなるんだ。
誰かのために、頑張れる傑は優しいよ」
名前の声が好きだ。
名前の温もりが好きだ。
名前の笑顔が好きだ。
名前が、好きだ。
「私はもう、失いたくないんだ……」
簡単に壊れる人間。
自分には、壊す力がある。
私が、壊す方に力をいれた時……
君を簡単に壊すことができると
思った自分が怖かった。
「名前……好きだ」
「私も好きだよ」
じんわりと濡れた目元に
名前は気付いていたはずなのに
何も言わなかった。
その日はぐっすりとよく眠れた。
沢山寝て、起きたら
名前が笑っておはよーと言ってくれた。
抱き締めて、キスして、また抱き締めて。
そしたらお腹が空いたと
名前の言葉に
自分もお腹が減っていることに気付く。
二人でご飯を食べて
また部屋に戻ると
名前が抱き締めてくれ
お腹も満たされ
心も満たされた気分になり
温かい気持ちのまま
また眠気に襲われ、そのまま眠る。
「名前………ありがとう」
幸せだと思った。
こんな日々がずっと続けばいいと
「傑が非術師を殺したい気持ちになったら
私がそいつら殴ってあげる!!
そして、傑が間違えそうになったら
頭突きして抱き締めてあげる」
「過激だなぁ」
「傑は馬鹿真面目だからね。
少しくらい悟の不真面目さないと
心が壊れちゃうよ」
「悟かぁ」
「悟が最強でも
配慮の足りないお馬鹿さんだよ?」
「そんな風に言えるのは名前くらいだね」
「悟は悟の術式があって
傑は傑の術式がある
どちらも凄いし、二人とも強い」
「敵わないな……」
「傑、大好き!!」
目の前で、檻に入れられた
傷つけられた呪術師の子供達。
村人はこの子達が原因だと
騒いでいる。
人の言葉に聞こえない……
この者達の言葉を理解したくない。
ドス黒い気持ちが沸き上がる。
ふと、名前の笑った顔が
頭を過る。
………ごめん、名前。
大きく息を吸い込み
深く深呼吸をする。
幸せだった。
私は、もう充分な幸せを貰った。
なら、私は……
「頭突きされちゃうなぁ」
くすり、と笑みが浮かべる。
覚悟は、決めた。
「その前に、こいつら締め上げる?」
聞こえるはずの無い声がした。
私の幻聴かと思ったが
振り返れば、確かに名前がいた。
「………名前?何で、ここに…」
「虫の知らせ?
補助監督や先生の許可は貰ってるし
任務終わらせて来たよ」
「………名前」
「傑、私が来たからには安心なさい!!
まずはこの子達助けて
村人全員埋めようか。
顔だけ土から出して説教ね」
にひっ、と無邪気に笑い
子供達に笑いかけながら
檻を呪具で破壊している。
村人が騒ぎだしたが
その二人にデコピンをし
腕を組んで仁王立ちする名前。
「化け物だ!!何だという前に!!
子供に暴力奮って、閉じ込めて!!
いい大人のおじさんとおばさんが
虐待を正当化するな!!」
馬鹿なの!?と叫ぶ名前に
ドス黒い気持ちが四散していく。
「こんなド田舎の変境地にいるから
頭硬いんだよ
この子達が何かしたって言うなら
私が預かる!!
常識的に考えて、頭冷やしなよ。
お前達は神じゃない。
お前達がこの子達を裁く理由なんて
一個も無いんだよ!!
恥を知れ!!!」
「ははっ」
「村人全員呼び出せ、コラ。
全員子供虐めたこと説教だ」
たじたじになる村人達。
何か言い返せば
その分名前が村人の頭を小突いてる。
完全に名前のペースだ。
「名前、君最高だよ」
「私、傑にも怒ってるよ」
「おや?」
「今回、この人達がしたことは
許されることじゃない……
それは非術師だから、じゃないんだよ」
「………」
「呪詛師でも、非術師でも
過ちを起こす人は誰だっている。
そんな嫌なところばかり見ていたら
人類全てが嫌になる」
「………うん」
「傑に非術師を好きになれとは言わないけど
仲間を救える力がある傑が
こんな奴らのために汚れることは無いの」
「………名前、ありがとう」
「私の傑を泣かせた罰は
しっかりお説教してくるから!!」
「泣いてないよ」
「私が来なきゃ、後々泣いてたでしょ?」
にっ、と笑う名前が眩しくて
太陽のように温かい。
そっと抱き締めると
撫でてくれる温もりに安心する。
「説教の前に、子供達をどうにかしないと」
「あぁ、そうだね」
「私は補助監督に連絡するよ」
「子供達保護してもらお。
あと説教だ説教」
震える子供達に
安心させるように言い聞かせ
抱き締めている名前。
名前と出会えたことが
私にとっての
分岐点だったのかもしれない。
名前がいなければ
私は道を違えただろう。
「傑」
「なんだい?」
「大好きっ」
ぎゅっ、と抱き締めてくれる名前に
私も抱き締め返す。
今はこの温もりに感謝し
この温もりが冷えてしまわぬよう
私は進む。
あとがき
wjの3号の鬼滅を読むと……
傑にも、拠り所があったら
違ったんじゃないかなぁ……と思って。
泣ける場所があるのと無いのとじゃ
全然違いますからね。
夢主ちゃんは
たんじろみたいな子を目指して書いたが…
ちょっとどころか、何か違ってる(笑)
傑を幸せにしたいんだ。
※自己解釈あり
好きな人がいる
愛した人がいる
その笑顔を守りたいと
思う人がいる
そんな人に出会えることは
きっと私の人生で
一番幸せなことだったのかもしれない。
その相手も
私と同じ気持ちで
側にいてくれるのだから。
出会ったのは高専に入学してたから。
悟、硝子、名前、私。
同級生として
四人でワイワイとくだらないことを話たり
喧嘩したり、笑ったり…
その中で、特別な感情を抱くようになった
きっかけは、とても些細なことで
ふと、
笑っている顔が好きだと思った。
彼女が笑うと
花が咲いたように、空気が和み
彼女が笑うと
私の心がじんわりと温かくなった。
コレが恋だと自覚するのに
どう受け入れようかと思ったが
彼女が笑ってくれるなら
その笑顔を見ていられるなら
恋と受け入れ、落ちるのに
時間はかからなかった。
「傑」
名前を呼ばれるのが好きだった。
柔らかな声で
私のことが好きだと言うように
笑いかけてくれる表情が
小さな背丈で
全身で抱き付いてくれる姿が
すっぽりと腕のなかに納まるのが
心地よくて好きだった。
その体温も
その声も
その笑顔も
全てが私を虜にした。
なのに
今は笑うことも出来ず
愛でることも出来ず
私は何のために
呪術師をやっているのかと
自問自答ばかりが
頭の中を覆いつくす。
目の前で撃たれ、息絶えた少女。
醜い非術師達。
呪力の持たない非術師にやられた自分。
最強となった親友。
守るべき対象だったはずの非術師を
今は見下し、それを否定を繰り返す。
弱者生存
弱きを助け強きを挫く
呪術は非術師を守るためにある
祓い、取り込むーー
誰のために?
怖くなった。
嫌になった。
このまま先へ進むたび
仲間が
彼女が
非術師によって
呪霊によって
消されていき
屍ばかりが積み上がっていくことに。
私だけが強くても守れない。
仲間が、彼女が
生き残るために自分に出来ることは………??
呪霊が生まれないことが一番いい。
しかし
人は呪霊を生み出してしまう。
呪術師から呪霊が生まれない。
九十九由基が教えてくれた
全人類が術師になれば呪いは生まれない。
なら、非術師を皆殺しにすればーー?
答えは"アリ"だった。
ならーーー
「傑?」
パタパタと目の前で
手を振る名前。
いつの間に部屋に来ていたのか
どれだけ考え、ぼーっとしていたのか…
心配そうにこちらを覗き込む姿に
ほっとする気持ちと
もやっとした気持ちが入り乱れる。
「傑、ちゃんと休んでる?」
「あぁ」
「嘘だ。
目の隈酷いしやつれてる」
「今年の暑さでやられてるだけさ」
「傑」
「なんだい?名前」
「ちゃんと私を見て話して」
ぐいっ、と顔を持ち上げられ
目の前に名前の顔。
「嘘つくとき
私のこと見ないんだから」
「………名前」
「星裝体の任務?」
「………違う。彼女は…きっかけに過ぎない」
「傑がそんなに思い詰めてるのは
何が原因?」
「………わからないんだ」
「?」
「非術師の価値が」
溢れた本音に
彼女は引くだろうか………
「私のなかで揺らいでいる」
「………うん」
「弱者故の尊さ
弱者故の醜さ
その分別と受容が
できなくなってしまっている」
「うん」
「特級の九十九由基さんと会って
呪霊が生まれない世界の話をした時
私は非術師を皆殺しにすればいいと思った」
「………うん」
「アリ、だと言われたよ」
「うん」
「非術師を間引き続けたら
恐怖や危機感で術師に適応する
進化を促せば、可能性があると……」
「………傑」
「彼女はそのやり方をするほど
イカれてはいないから
しないと言っていたけどね」
「そっか」
「名前」
「なぁに?」
「そんなことを考える、私が怖いかい?」
嫌いになったかい?
「私はきっかけさえあれば
選んでしまうだろう」
仲間が生きる世界のために
醜い猿共に価値はない。
「今のうちに離れるべきだ」
私は、私を止められない。
このドス黒く醜い感情を
噛み砕き、飲み込む方法を
私は思い付かない。
「名前……すまない」
「………傑」
がっ、と再び顔を捕まれ
上に無理矢理上げさせられる。
そしてーー
ガッ
頭突きをされた。
じんじんとした痛みと
なぜ?という感情。
口を開こうとしたら
両頬を引き伸ばされる。
「ひょ、にゃにしてっ」
「言いたいことはそれだけ?」
「………え」
「言いたいことはそれだけかって聞いてるの」
「ひょれだけって」
「私のこと
嫌いになったとか
イヤになったとか……
だから離れたいってわけじゃ無いんだよね?」
「………名前?」
「傑のバカ………」
頬を掴んでいた手を離し
ぎゅっと、首もとに抱き付く名前。
「私は傑や悟みたいに
頭いいわけじゃないから
難しい話わかんない」
「………名前」
「悟の術式意味わかんない」
「う、うん?」
「非術師が進化?適応?
呪霊が生まれない方法?
意味わかんない」
「……名前?」
「だけど、
傑が私をつき離そうとしてるのはわかった」
ぎゅっ、と力が込められる。
「非術師か、傑か選べって言われたら
私は傑を選ぶよ」
「………」
「ゴミみたいな呪術師もいれば
ゴミみたいな非術師だっている」
「………ゴミって」
「呪霊と戦って
仲間がいなくなるのは私もヤダ」
「名前……」
「けど、傑がいなくなるのは
もっと嫌だ!!」
「名前、話を」
「傑が呪詛師になったら
私もなる!!なんて言えない
馬鹿なことを考えるな!!なんて言えない」
「………」
「傑は頭がいいし、強いから
やろうと思えば出来ちゃうこともわかってる。
それが、私達と敵対することになっても」
「なら、今のうちに離れるべきだ」
「やだよ」
「名前」
「傑は今、心に余裕が無いんだよ。
だから、嫌なことばかりに目がいくし
馬鹿なことばかり考える」
「………名前、私は」
「だから、まずは傑」
一緒に寝よう。
体重をかけられ、普段なら耐えられるのに
名前が下になるように
ベッドに転がり
名前の胸元に頭を固定される。
起き上がろうとしたが
ぎゅっと締められ
柔らかな感触が
頭と頬に当たる。
「ちゃんと寝て
ちゃんと食べて
それから、また考えよ」
「………名前、私はっ」
「傑」
ぽんぽん、と背中を叩かれる。
一定のリズムで
優しい振動。
そして、名前の胸の鼓動。
「非術師を嫌いでいい。
価値を感じなくてもいい。
真面目に呪術師として
あるべき理想の姿でいなくていいよ」
とくん、とくんと
聞こえる鼓動が気持ちいい。
暖かさに少しずつ
とろんと眠気に襲われる。
「傑、大好きだよ」
撫でられる手が、温度が気持ちいい。
「名前、私は…
私は……怖いんだ」
「うん」
「今あるこの温もりを手放すことも
冷たくなってしまうのも嫌だ」
「うん」
「理子ちゃんを助けられなかった」
「うん」
「非術師を皆殺しにしてもいいと思った」
「うん」
「そんなことしても……
理子ちゃんは戻って来ないし
誰も救われないと分かってるんだ」
「傑は優しいね」
「優しくなんかない」
「優しいよ。
優しいから、苦しくなるんだ。
誰かのために、頑張れる傑は優しいよ」
名前の声が好きだ。
名前の温もりが好きだ。
名前の笑顔が好きだ。
名前が、好きだ。
「私はもう、失いたくないんだ……」
簡単に壊れる人間。
自分には、壊す力がある。
私が、壊す方に力をいれた時……
君を簡単に壊すことができると
思った自分が怖かった。
「名前……好きだ」
「私も好きだよ」
じんわりと濡れた目元に
名前は気付いていたはずなのに
何も言わなかった。
その日はぐっすりとよく眠れた。
沢山寝て、起きたら
名前が笑っておはよーと言ってくれた。
抱き締めて、キスして、また抱き締めて。
そしたらお腹が空いたと
名前の言葉に
自分もお腹が減っていることに気付く。
二人でご飯を食べて
また部屋に戻ると
名前が抱き締めてくれ
お腹も満たされ
心も満たされた気分になり
温かい気持ちのまま
また眠気に襲われ、そのまま眠る。
「名前………ありがとう」
幸せだと思った。
こんな日々がずっと続けばいいと
「傑が非術師を殺したい気持ちになったら
私がそいつら殴ってあげる!!
そして、傑が間違えそうになったら
頭突きして抱き締めてあげる」
「過激だなぁ」
「傑は馬鹿真面目だからね。
少しくらい悟の不真面目さないと
心が壊れちゃうよ」
「悟かぁ」
「悟が最強でも
配慮の足りないお馬鹿さんだよ?」
「そんな風に言えるのは名前くらいだね」
「悟は悟の術式があって
傑は傑の術式がある
どちらも凄いし、二人とも強い」
「敵わないな……」
「傑、大好き!!」
目の前で、檻に入れられた
傷つけられた呪術師の子供達。
村人はこの子達が原因だと
騒いでいる。
人の言葉に聞こえない……
この者達の言葉を理解したくない。
ドス黒い気持ちが沸き上がる。
ふと、名前の笑った顔が
頭を過る。
………ごめん、名前。
大きく息を吸い込み
深く深呼吸をする。
幸せだった。
私は、もう充分な幸せを貰った。
なら、私は……
「頭突きされちゃうなぁ」
くすり、と笑みが浮かべる。
覚悟は、決めた。
「その前に、こいつら締め上げる?」
聞こえるはずの無い声がした。
私の幻聴かと思ったが
振り返れば、確かに名前がいた。
「………名前?何で、ここに…」
「虫の知らせ?
補助監督や先生の許可は貰ってるし
任務終わらせて来たよ」
「………名前」
「傑、私が来たからには安心なさい!!
まずはこの子達助けて
村人全員埋めようか。
顔だけ土から出して説教ね」
にひっ、と無邪気に笑い
子供達に笑いかけながら
檻を呪具で破壊している。
村人が騒ぎだしたが
その二人にデコピンをし
腕を組んで仁王立ちする名前。
「化け物だ!!何だという前に!!
子供に暴力奮って、閉じ込めて!!
いい大人のおじさんとおばさんが
虐待を正当化するな!!」
馬鹿なの!?と叫ぶ名前に
ドス黒い気持ちが四散していく。
「こんなド田舎の変境地にいるから
頭硬いんだよ
この子達が何かしたって言うなら
私が預かる!!
常識的に考えて、頭冷やしなよ。
お前達は神じゃない。
お前達がこの子達を裁く理由なんて
一個も無いんだよ!!
恥を知れ!!!」
「ははっ」
「村人全員呼び出せ、コラ。
全員子供虐めたこと説教だ」
たじたじになる村人達。
何か言い返せば
その分名前が村人の頭を小突いてる。
完全に名前のペースだ。
「名前、君最高だよ」
「私、傑にも怒ってるよ」
「おや?」
「今回、この人達がしたことは
許されることじゃない……
それは非術師だから、じゃないんだよ」
「………」
「呪詛師でも、非術師でも
過ちを起こす人は誰だっている。
そんな嫌なところばかり見ていたら
人類全てが嫌になる」
「………うん」
「傑に非術師を好きになれとは言わないけど
仲間を救える力がある傑が
こんな奴らのために汚れることは無いの」
「………名前、ありがとう」
「私の傑を泣かせた罰は
しっかりお説教してくるから!!」
「泣いてないよ」
「私が来なきゃ、後々泣いてたでしょ?」
にっ、と笑う名前が眩しくて
太陽のように温かい。
そっと抱き締めると
撫でてくれる温もりに安心する。
「説教の前に、子供達をどうにかしないと」
「あぁ、そうだね」
「私は補助監督に連絡するよ」
「子供達保護してもらお。
あと説教だ説教」
震える子供達に
安心させるように言い聞かせ
抱き締めている名前。
名前と出会えたことが
私にとっての
分岐点だったのかもしれない。
名前がいなければ
私は道を違えただろう。
「傑」
「なんだい?」
「大好きっ」
ぎゅっ、と抱き締めてくれる名前に
私も抱き締め返す。
今はこの温もりに感謝し
この温もりが冷えてしまわぬよう
私は進む。
あとがき
wjの3号の鬼滅を読むと……
傑にも、拠り所があったら
違ったんじゃないかなぁ……と思って。
泣ける場所があるのと無いのとじゃ
全然違いますからね。
夢主ちゃんは
たんじろみたいな子を目指して書いたが…
ちょっとどころか、何か違ってる(笑)
傑を幸せにしたいんだ。