夏油
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その報告を聞いたとき
始めに耳を疑い
そして、上層部がついに
イカれたのかと思った。
「死者が甦るぅ?」
「はい…」
「そんな馬鹿な話あるわけないじゃん」
「そうですが……
事実、その馬鹿な話の噂が広がっています」
伊地知は冷や汗をかきながら
目の前の最強の呪術師と向き合う。
「死者蘇生なんて馬鹿げたこと
出来るわけないのにねぇ………
情報の出所は?」
「それが……よくわからないんです」
「はぁ?」
「とあるオカルトサイトに載せられた
一本の動画が噂の発端みたいなんですが…」
伊地知が見せてきた動画には
弔われた一人の女性。
その横には嘆き悲しむ黒いマント。
タイピングで女性の悲劇が流れ
亡くなっていることを物語る。
事実、生々しく見える傷の処置の痕や
化粧なのか、本当なのか
動画ではわかり辛いが
血色の悪い弔われた女性の胸は
生きている鼓動が無い。
"さぁ、今から魔法をかけるよ"
明るい声と共に
加工された動画。
パチリ、と目覚めた女性は
むくりと起き上がり
黒マントの人間は
まるで、本当に死んだ者が生き返ったかのようの演出で大喜び。
しかし……女性は生気の無い顔のまま
黒マントを見ると
そのまま噛み付いていた。
"残念☆
彼女は生き返ったけれど
足りないものを埋めようと
大切な者を喰らう化け物になりました"
叫び声。
ゴリゴリと鈍い音。
咀嚼音。
噛み付かれた映像までしか出ていないが
音だけがリアルに響く。
最後は血のような水溜まりに倒れた人と
こちらをゆっくりと振り向く
口元が血塗れの女。
"信じるか、信じないか 君次第"
そうして終わった動画に
五条は顔をしかめる。
「悪趣味」
「これが話題となり
ネット上では様々な論議が
交わされていますが………」
「なんだよ」
「この女性、実際に亡くなっていることは
確かなんです」
「これはフェイク動画作ってあげて
そのあとに死んでるとか?」
「いえ……
この動画の前に不幸な事故にあい
葬儀の時に死体を盗まれ
この動画がアップされてから
死体となって見つかってるんです……
ここに倒れた方と一緒に」
「………だから、この動画は本物だって?」
「………はい」
気味の悪い報告に
五条は眉間に皺を寄せたまま。
見せられたオカルトサイトには
様々な意見が載っている。
「この現場は?」
「資料の方に」
「わかった。見てくるよ」
もしも、この動画が本物で
そんなことが出来る呪詛師や呪霊がいたのなら
確実に一級以上の呪術師に回される案件だ。
気分の悪い内容ではあるが
文句も言ってられず
早々に動くことを決めた。
動画の現場は
港沿いの倉庫の一つだった。
今は綺麗に片付けられているが
血の滲みがうっすらと残っている。
「………呪力の残穢は無し」
五条の目からしても
倉庫内に不思議な点はない。
結局、事件現場からは
何も情報が得られずに終わった。
「どうでした?」
「何もない」
「………五条さん、これ
さっきとは違うサイトの動画ですが…」
「何」
「死者蘇生だと」
伊地知から受け取ったタブレットには
とある一軒家の一室。
寝かされた人は死装束を着て
顔には白い布が。
やはり黒いマントを着た……
身内だろうか?
そんな者達が泣きながら祈っている。
亡くなっている者の
エピソードらしきものが流れ
魔法をかけるよ、と出てくると
死装束を着た者が起き上がる。
虚ろな顔のまま
喜ぶマントの者達を見て
くわり、と口を開いて動画が止まっている。
今回はそこで終わっていた。
「気味が悪いですね……」
「……伊地知
これ喧嘩売られてるの僕らだよ」
「え?」
「コメント見てごらん」
伊地知がタブレットを見ると
すごい勢いでコメントが伸びるなか
"私を探してごらん、呪術師"
明らかに異様なコメント。
たとえそれが悪ふざけだったとしても
関係者じゃない限り
呪術師、というものが何かを知らない。
事実、コメントで呪術師って?と
不思議がるものがある。
「伊地知、このコメントした奴追える?」
「やってみます」
「何かわかったら連絡して」
「おや?」
「どうしたんだい?」
「どうやら餌に魚がかかったらしい」
「魚?」
「ふふっ
便利な世の中だからねぇ…
ちょっと遊んでいたら
きちんと餌に食い付いたみたいだ」
「………悪趣味だな」
「ちょっとした人形の実験動画さ」
くすくす笑う死神は
垂らした糸を手繰り寄せる。
「釣り上げた魚に噛まれないように」
「大丈夫さ
私は腐っても"神"だからね」
「遊んでくるのかい?」
「君が話す、最強とやらが
どんなものか気になるからね」
「気をつけて」
「少し出掛けてくるよ、傑」
伊地知が掴んだ情報を元に
オカルトサイトの集まりがあると
足を運んだ五条。
森の奥にそびえる
いかにも、な洋館に
オカルト好きが集まる日。
今日の集会では
死者の復活という議題で
それぞれが語り合う場らしい。
それぞれ黒いマントを羽織っており
顔がわからないように
サングラスだったり、マスクや仮面で
隠されている。
五条は普段通りの格好だったが
包帯で隠された瞳は
この場では違和感無くいられた。
「やぁ、皆様!!
今夜の集会にお越しいただき
ありがとうございます」
一人の仮面をつけた男。
声高らかに現れた男の後ろには
顔を隠さない白銀の女が一人。
「今宵、皆様は幸運なことに
奇跡を目の当たりにするのです!!
この世には死が付きまといます…
まだ魅力ある世を堪能したいというのに
突然に
偶然に
ソレは訪れる………」
男は興奮気味に
己の死についての考えを述べる。
五条からすれば
ペラペラと薄い内容を
パフォーマンスを交えて
話しているようにしか
思えず聞き流していた。
「死は絶対のもの……
しかし!!
もう、ソレに恐れることはないのです!!」
興奮気味に声を張る男。
五条はそれよりも
その男をにこやかに見つめる女が
気になっていた。
「私の話はこのくらいにいたしましょう!!
さぁ、その目で見てください!!
この奇跡を!!
神をも恐れぬ、神の技を!!」
がらがらと人が乗せられた台が
広間に入ってきた。
すすり泣く者達が後から続く。
「この少女は先日
心無い者によりこの世から
無理矢理命を奪われました。
大切な者を一時の快楽のために…
私利私欲のために
摘み取ることは許されることではありません!!
だから私は
今から神すら越える
奇跡の技を使います!!」
男は亡骸の少女に
謎の液体をかけ
お香を焚く。
それはパフォーマンスのような
一つの儀式に見え
儀式事態に何か呪術を使っている様子はない。
五条の眼から見ても
少女は死体だし
男は呪術師ですらない。
なのに、だ。
「さぁ、忌まわしき神から
その魂を、命を奪い返そう!!」
ぱちん、と指を鳴らす男。
そして目覚める少女。
ざわめき、高揚とする会場。
「おか……おかあ、さん……」
「嘘……」
「おと、うさ……」
「あぁ…本当に……」
泣きながら、喜びを分かち合う家族。
少女はボーッとしていたが
きちんと言葉を話していた。
今までの動画とは明らかに違う
人に近付けた人形だ。
五条は気味の悪い……
あり得ないものを目にしている。
アレからは命を感じない。
人の形をしたナニカ。
しかし
呪術を用いた呪骸でもない。
映画でしか見たことがない
架空の生き物……
言葉にするなら、ゾンビだ。
「おとう、さん……
おかあさ、ん……
お腹、ヘッタ」
「え……」
「オナカヘッタ、お腹へった、タベサセテ」
がぶり、と親へ噛みつく少女。
がぶがぶと親の首もとを噛み続けると
ソレは動かなくなった。
隣にいた父親らしき男が叫び
腰を抜かす。
父親の叫びに、会場にいた者達は
一目散に逃げ出した。
目の前の母親が動かなくなると
ぐりん、と腰を抜かした父親の方を見て
少女は飛びかかろうとする。
「駄目だよ」
五条が少女の首を掴む。
下手に掴めば噛み付いてくる相手を
止めるには首を掴むしかない……
と、思っていたのだが
少女は五条の手を掴むと
ぎちぎちと爪を立て
肉に食い込ませる勢いで力を込める。
一度手を離し、距離を置くと
少女はガチガチと歯を鳴らしながら
こちらに向かってくる。
父親を側に置き無限で壁をつくるが
ガンガンと体当たりしてくる。
「ねぇ、あんた」
「娘は……娘は、何でっ」
「コレ、本当に娘さん?」
「そうだ!!なぜ、妻を……」
「これは人間じゃないよ
もう、死んでいる」
「しかしっ!!」
「こんなおぞましい姿のゾンビを
娘だと言えるかい?」
「………っ!!!」
涎を垂らし
母親の血をつけ
理性もなく
己に襲いかかろうとする生き物。
「望んだのは君達だ」
カツン、と靴の音。
高揚したまま
演説していた男だ。
「まったく……
今回は上手くいったと思ったのに」
「あんたが最近オカルトサイトで
ゾンビ作成してる本人?」
「ゾンビ?失礼だな」
「ゾンビだろ」
「人間だよ」
おかあさん、おとうさん……と呟く少女。
目が虚ろで、涎を垂らし
力は少女とは思えない。
「肉体があり、感情があり、魂がある。
ほら?立派な人間だろ」
「感情?人を食う化け物が?」
「………君には僕の美学が伝わらないらしい」
「美学?
こんな趣味の悪いゾンビを人だと言える
頭の可笑しい奴の美学なんて
クソみたいなもんだろ。
僕はわかりたくもないね」
どんな仕掛けかわからないが
男に向かっていく気配が無い。
少女は身体が傷つくことすら厭わず
無限に体当たりを続ける。
「人はなぜ死を恐れる?
死というものを乗り越えた先には
無限の可能性があると言うのに」
「アホか」
「悲しみも苦しみも無くなれば
人は幸せに近付けると思わないかい?」
「ねぇ、あいつ人の言葉通じ無いんだけど」
「死からの解放……
その先の領域に僕の美学が」
男が話す途中
先ほど娘に噛まれ、倒れていた母親が
男に噛みついた。
「え……な、で…
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!
何で私が!?
離れろ……離れろよ、くそっ」
噛みつこうとする母親に
男は血濡れになりながら
必死に逃げ出す。
そして、近くにあった蝋燭の台を手にすると
母親の頭に向かって振り落とす。
ぐしゃり、と音がした。
ビクビクと母親は痙攣し
母親は動かなくなった。
「話と違うぞ!!
何で…何で僕がっ」
ズルズルと身体を引きずり
しばらくして動かなくなった男。
「ねぇ」
「………」
「あんたはまだ
この少女が娘だと言えるの?」
「こんな……こんなはずじゃ」
「死者は2度と蘇らない」
崩れ落ちる父親。
「悪いけど
アレを野放しには出来ないから
始末させてもらうよ」
「………こんな、はずじゃ…」
泣き崩れる父親。
目の前の少女は
無限に耐えきれず、身体はボロボロだ。
それでも目の前の肉を食おうと
理性無く襲いかかる。
五条は嫌な仕事だと思った。
呪霊ならば
呪力で消せるのに
コレは人間だ。
姿だけは人間で、中身のない化け物。
なのに、祓うのではなく
殺す、と思ってしまうのは…
中身が無くても、人間だからなのか…
「ごめんね」
綺麗なまま殺せなくて。
後味の悪い中
生きている人間は父親と五条のみ。
もっとも、父親の精神面を考えると
生きているのは五条のみと言えよう。
「おやまぁ、壊されちゃったか」
カツン、とヒール音。
五条がそちらを見ると
男の後ろにいた銀色の髪の女がいた。
「ははっ、アレも食われたのか」
「………あんた、何者?」
「ん?あぁ、ハジメマシテ五条悟」
にやり、と笑い
丁寧にお辞儀をする女。
「私の作った人形はどーだったかな?」
「人形?コレが?」
「人の深層心理を表した
素直な人形だと思うんだが」
「悪趣味だ」
「人間自体が悪趣味の塊だろ?」
「お前、本当なんなの?」
にやにやと笑う女。
五条は今まで感じたことのない
不気味さを感じる。
「私かい?
人が"神"と呼ぶ存在さ」
「神様気取り?頭湧いてんな」
「神は神でも、死神だけどね」
ケラケラと陽気に笑い
カツコツと歩き出す女。
主催者だったらしき
先ほど命を落とした男の前に立つと
女は男の中から写真のフィルムのようなものを取り出した。
現実とは思えない諸行に
ごくり、と唾を飲み込む。
「死神は命を取ると言われてるけど
私達は生きている生き物に干渉は出来ない。
死んだ身体から魂を回収することが
お仕事だからね」
フィルムの終わりは
母親に噛まれたところで終わっている。
なのに
女は男が死んだ瞬間のフィルムを切り取ると
別のフィルムをくっつけると
男の身体にフィルムが戻る。
「死神は命を与えない。
死んだら終わり……死は絶対のものだ。
人間が神になることは出来ないし
神も人間を創らないし
命を与えることもしない」
こちらを見る女は
何が楽しいのか
笑みを絶やさない。
「魂が抜け、残った器は活動を休止する。
なら、その器に残る記憶に
まだ生きているよって記憶を繋げたら?」
死んでいたはずの男が
ぎこちない動きで起き上がる。
「なんということでしょう!!
魂は無いのに、まだ生きていると
勘違いした身体は動き出すのです!!
まぁ、その結果
自分に足りないものを補おうと
食に走ってしまうみたいだけど」
「………お前、何者だよ」
「言ったろ?死神だって」
虚ろな男の手を取り
くるくると回る女。
男が食おうとする様子は見えない。
「私は知りたいのさ。
この人形がどれほど人間に
近付けるのか……」
「本当、悪趣味な神だな」
「ただの暇潰しなんだけど」
男から手を離し
にっ、と笑う。
男は五条に狙いを定め
近寄っていく。
「五条 悟
君と会ってみたかったから
少し餌を撒いて待っていたんだが
思っていたよりも
早く出会えて良かったよ」
「おい」
「今日は挨拶だけ。
ちょくちょくちょっかいかけるから
私の人形の出来の感想を待ってるよ」
またね、と広間から出ていく女。
男が襲いかかってきたので
頭を床に叩き付けて女を追おうとしたのだが
扉を開いた女は
にっこりと笑う。
「人形は人だけじゃなく
生き物全てで作れるんだよ」
扉から
ぞろぞろと入って来た動物達。
「悟、また遊ぼ」
ひらひらと手を振り
広間から消えた女。
その瞬間、動物達が走って襲いかかってきた。
父親を置いていくわけにもいかず
足止めをくらい
女を取り逃がした五条は
大きな舌打ちと共に
動物を仕留めていく。
「おかえり、名前」
「ただいま、傑」
「どうだった?」
「すんごいキレてた」
ケラケラと笑い
傑に抱き着く名前。
「悟を煽り過ぎるなよ」
「ははっ!!怖い怖い」
「たまに遊んでからかうくらいにしておきな」
「そーだね」
「君も弄りすぎると
見付かるのは不都合なんだろ?」
「そーなのさ。
暫くはだらだらと過ごすかな」
「いつもだろ」
ぺしり、と頭を叩く傑に
やはり名前は楽しそうにしている。
「次はどんな遊びをしようか」
「嫌がらせの間違いだろ」
神は嗤う。
愚かな人間を見て
笑う嗤うワラウ。
あとがき
五条さんを怒らせよう!!
そして、漏瑚のように
手を握って恋人繋ぎをして
仲良く……してもらえないな、この主だと(笑)
女性だから、優しくとか
五条さん配慮無さそう(笑)
漏瑚が特別枠何だろう?
恋人繋ぎして
足蹴にされ
煽られても許され?る存在漏瑚。
羨ましいので
とことん五条さんに
キレられたい(笑)(笑)
始めに耳を疑い
そして、上層部がついに
イカれたのかと思った。
「死者が甦るぅ?」
「はい…」
「そんな馬鹿な話あるわけないじゃん」
「そうですが……
事実、その馬鹿な話の噂が広がっています」
伊地知は冷や汗をかきながら
目の前の最強の呪術師と向き合う。
「死者蘇生なんて馬鹿げたこと
出来るわけないのにねぇ………
情報の出所は?」
「それが……よくわからないんです」
「はぁ?」
「とあるオカルトサイトに載せられた
一本の動画が噂の発端みたいなんですが…」
伊地知が見せてきた動画には
弔われた一人の女性。
その横には嘆き悲しむ黒いマント。
タイピングで女性の悲劇が流れ
亡くなっていることを物語る。
事実、生々しく見える傷の処置の痕や
化粧なのか、本当なのか
動画ではわかり辛いが
血色の悪い弔われた女性の胸は
生きている鼓動が無い。
"さぁ、今から魔法をかけるよ"
明るい声と共に
加工された動画。
パチリ、と目覚めた女性は
むくりと起き上がり
黒マントの人間は
まるで、本当に死んだ者が生き返ったかのようの演出で大喜び。
しかし……女性は生気の無い顔のまま
黒マントを見ると
そのまま噛み付いていた。
"残念☆
彼女は生き返ったけれど
足りないものを埋めようと
大切な者を喰らう化け物になりました"
叫び声。
ゴリゴリと鈍い音。
咀嚼音。
噛み付かれた映像までしか出ていないが
音だけがリアルに響く。
最後は血のような水溜まりに倒れた人と
こちらをゆっくりと振り向く
口元が血塗れの女。
"信じるか、信じないか 君次第"
そうして終わった動画に
五条は顔をしかめる。
「悪趣味」
「これが話題となり
ネット上では様々な論議が
交わされていますが………」
「なんだよ」
「この女性、実際に亡くなっていることは
確かなんです」
「これはフェイク動画作ってあげて
そのあとに死んでるとか?」
「いえ……
この動画の前に不幸な事故にあい
葬儀の時に死体を盗まれ
この動画がアップされてから
死体となって見つかってるんです……
ここに倒れた方と一緒に」
「………だから、この動画は本物だって?」
「………はい」
気味の悪い報告に
五条は眉間に皺を寄せたまま。
見せられたオカルトサイトには
様々な意見が載っている。
「この現場は?」
「資料の方に」
「わかった。見てくるよ」
もしも、この動画が本物で
そんなことが出来る呪詛師や呪霊がいたのなら
確実に一級以上の呪術師に回される案件だ。
気分の悪い内容ではあるが
文句も言ってられず
早々に動くことを決めた。
動画の現場は
港沿いの倉庫の一つだった。
今は綺麗に片付けられているが
血の滲みがうっすらと残っている。
「………呪力の残穢は無し」
五条の目からしても
倉庫内に不思議な点はない。
結局、事件現場からは
何も情報が得られずに終わった。
「どうでした?」
「何もない」
「………五条さん、これ
さっきとは違うサイトの動画ですが…」
「何」
「死者蘇生だと」
伊地知から受け取ったタブレットには
とある一軒家の一室。
寝かされた人は死装束を着て
顔には白い布が。
やはり黒いマントを着た……
身内だろうか?
そんな者達が泣きながら祈っている。
亡くなっている者の
エピソードらしきものが流れ
魔法をかけるよ、と出てくると
死装束を着た者が起き上がる。
虚ろな顔のまま
喜ぶマントの者達を見て
くわり、と口を開いて動画が止まっている。
今回はそこで終わっていた。
「気味が悪いですね……」
「……伊地知
これ喧嘩売られてるの僕らだよ」
「え?」
「コメント見てごらん」
伊地知がタブレットを見ると
すごい勢いでコメントが伸びるなか
"私を探してごらん、呪術師"
明らかに異様なコメント。
たとえそれが悪ふざけだったとしても
関係者じゃない限り
呪術師、というものが何かを知らない。
事実、コメントで呪術師って?と
不思議がるものがある。
「伊地知、このコメントした奴追える?」
「やってみます」
「何かわかったら連絡して」
「おや?」
「どうしたんだい?」
「どうやら餌に魚がかかったらしい」
「魚?」
「ふふっ
便利な世の中だからねぇ…
ちょっと遊んでいたら
きちんと餌に食い付いたみたいだ」
「………悪趣味だな」
「ちょっとした人形の実験動画さ」
くすくす笑う死神は
垂らした糸を手繰り寄せる。
「釣り上げた魚に噛まれないように」
「大丈夫さ
私は腐っても"神"だからね」
「遊んでくるのかい?」
「君が話す、最強とやらが
どんなものか気になるからね」
「気をつけて」
「少し出掛けてくるよ、傑」
伊地知が掴んだ情報を元に
オカルトサイトの集まりがあると
足を運んだ五条。
森の奥にそびえる
いかにも、な洋館に
オカルト好きが集まる日。
今日の集会では
死者の復活という議題で
それぞれが語り合う場らしい。
それぞれ黒いマントを羽織っており
顔がわからないように
サングラスだったり、マスクや仮面で
隠されている。
五条は普段通りの格好だったが
包帯で隠された瞳は
この場では違和感無くいられた。
「やぁ、皆様!!
今夜の集会にお越しいただき
ありがとうございます」
一人の仮面をつけた男。
声高らかに現れた男の後ろには
顔を隠さない白銀の女が一人。
「今宵、皆様は幸運なことに
奇跡を目の当たりにするのです!!
この世には死が付きまといます…
まだ魅力ある世を堪能したいというのに
突然に
偶然に
ソレは訪れる………」
男は興奮気味に
己の死についての考えを述べる。
五条からすれば
ペラペラと薄い内容を
パフォーマンスを交えて
話しているようにしか
思えず聞き流していた。
「死は絶対のもの……
しかし!!
もう、ソレに恐れることはないのです!!」
興奮気味に声を張る男。
五条はそれよりも
その男をにこやかに見つめる女が
気になっていた。
「私の話はこのくらいにいたしましょう!!
さぁ、その目で見てください!!
この奇跡を!!
神をも恐れぬ、神の技を!!」
がらがらと人が乗せられた台が
広間に入ってきた。
すすり泣く者達が後から続く。
「この少女は先日
心無い者によりこの世から
無理矢理命を奪われました。
大切な者を一時の快楽のために…
私利私欲のために
摘み取ることは許されることではありません!!
だから私は
今から神すら越える
奇跡の技を使います!!」
男は亡骸の少女に
謎の液体をかけ
お香を焚く。
それはパフォーマンスのような
一つの儀式に見え
儀式事態に何か呪術を使っている様子はない。
五条の眼から見ても
少女は死体だし
男は呪術師ですらない。
なのに、だ。
「さぁ、忌まわしき神から
その魂を、命を奪い返そう!!」
ぱちん、と指を鳴らす男。
そして目覚める少女。
ざわめき、高揚とする会場。
「おか……おかあ、さん……」
「嘘……」
「おと、うさ……」
「あぁ…本当に……」
泣きながら、喜びを分かち合う家族。
少女はボーッとしていたが
きちんと言葉を話していた。
今までの動画とは明らかに違う
人に近付けた人形だ。
五条は気味の悪い……
あり得ないものを目にしている。
アレからは命を感じない。
人の形をしたナニカ。
しかし
呪術を用いた呪骸でもない。
映画でしか見たことがない
架空の生き物……
言葉にするなら、ゾンビだ。
「おとう、さん……
おかあさ、ん……
お腹、ヘッタ」
「え……」
「オナカヘッタ、お腹へった、タベサセテ」
がぶり、と親へ噛みつく少女。
がぶがぶと親の首もとを噛み続けると
ソレは動かなくなった。
隣にいた父親らしき男が叫び
腰を抜かす。
父親の叫びに、会場にいた者達は
一目散に逃げ出した。
目の前の母親が動かなくなると
ぐりん、と腰を抜かした父親の方を見て
少女は飛びかかろうとする。
「駄目だよ」
五条が少女の首を掴む。
下手に掴めば噛み付いてくる相手を
止めるには首を掴むしかない……
と、思っていたのだが
少女は五条の手を掴むと
ぎちぎちと爪を立て
肉に食い込ませる勢いで力を込める。
一度手を離し、距離を置くと
少女はガチガチと歯を鳴らしながら
こちらに向かってくる。
父親を側に置き無限で壁をつくるが
ガンガンと体当たりしてくる。
「ねぇ、あんた」
「娘は……娘は、何でっ」
「コレ、本当に娘さん?」
「そうだ!!なぜ、妻を……」
「これは人間じゃないよ
もう、死んでいる」
「しかしっ!!」
「こんなおぞましい姿のゾンビを
娘だと言えるかい?」
「………っ!!!」
涎を垂らし
母親の血をつけ
理性もなく
己に襲いかかろうとする生き物。
「望んだのは君達だ」
カツン、と靴の音。
高揚したまま
演説していた男だ。
「まったく……
今回は上手くいったと思ったのに」
「あんたが最近オカルトサイトで
ゾンビ作成してる本人?」
「ゾンビ?失礼だな」
「ゾンビだろ」
「人間だよ」
おかあさん、おとうさん……と呟く少女。
目が虚ろで、涎を垂らし
力は少女とは思えない。
「肉体があり、感情があり、魂がある。
ほら?立派な人間だろ」
「感情?人を食う化け物が?」
「………君には僕の美学が伝わらないらしい」
「美学?
こんな趣味の悪いゾンビを人だと言える
頭の可笑しい奴の美学なんて
クソみたいなもんだろ。
僕はわかりたくもないね」
どんな仕掛けかわからないが
男に向かっていく気配が無い。
少女は身体が傷つくことすら厭わず
無限に体当たりを続ける。
「人はなぜ死を恐れる?
死というものを乗り越えた先には
無限の可能性があると言うのに」
「アホか」
「悲しみも苦しみも無くなれば
人は幸せに近付けると思わないかい?」
「ねぇ、あいつ人の言葉通じ無いんだけど」
「死からの解放……
その先の領域に僕の美学が」
男が話す途中
先ほど娘に噛まれ、倒れていた母親が
男に噛みついた。
「え……な、で…
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!
何で私が!?
離れろ……離れろよ、くそっ」
噛みつこうとする母親に
男は血濡れになりながら
必死に逃げ出す。
そして、近くにあった蝋燭の台を手にすると
母親の頭に向かって振り落とす。
ぐしゃり、と音がした。
ビクビクと母親は痙攣し
母親は動かなくなった。
「話と違うぞ!!
何で…何で僕がっ」
ズルズルと身体を引きずり
しばらくして動かなくなった男。
「ねぇ」
「………」
「あんたはまだ
この少女が娘だと言えるの?」
「こんな……こんなはずじゃ」
「死者は2度と蘇らない」
崩れ落ちる父親。
「悪いけど
アレを野放しには出来ないから
始末させてもらうよ」
「………こんな、はずじゃ…」
泣き崩れる父親。
目の前の少女は
無限に耐えきれず、身体はボロボロだ。
それでも目の前の肉を食おうと
理性無く襲いかかる。
五条は嫌な仕事だと思った。
呪霊ならば
呪力で消せるのに
コレは人間だ。
姿だけは人間で、中身のない化け物。
なのに、祓うのではなく
殺す、と思ってしまうのは…
中身が無くても、人間だからなのか…
「ごめんね」
綺麗なまま殺せなくて。
後味の悪い中
生きている人間は父親と五条のみ。
もっとも、父親の精神面を考えると
生きているのは五条のみと言えよう。
「おやまぁ、壊されちゃったか」
カツン、とヒール音。
五条がそちらを見ると
男の後ろにいた銀色の髪の女がいた。
「ははっ、アレも食われたのか」
「………あんた、何者?」
「ん?あぁ、ハジメマシテ五条悟」
にやり、と笑い
丁寧にお辞儀をする女。
「私の作った人形はどーだったかな?」
「人形?コレが?」
「人の深層心理を表した
素直な人形だと思うんだが」
「悪趣味だ」
「人間自体が悪趣味の塊だろ?」
「お前、本当なんなの?」
にやにやと笑う女。
五条は今まで感じたことのない
不気味さを感じる。
「私かい?
人が"神"と呼ぶ存在さ」
「神様気取り?頭湧いてんな」
「神は神でも、死神だけどね」
ケラケラと陽気に笑い
カツコツと歩き出す女。
主催者だったらしき
先ほど命を落とした男の前に立つと
女は男の中から写真のフィルムのようなものを取り出した。
現実とは思えない諸行に
ごくり、と唾を飲み込む。
「死神は命を取ると言われてるけど
私達は生きている生き物に干渉は出来ない。
死んだ身体から魂を回収することが
お仕事だからね」
フィルムの終わりは
母親に噛まれたところで終わっている。
なのに
女は男が死んだ瞬間のフィルムを切り取ると
別のフィルムをくっつけると
男の身体にフィルムが戻る。
「死神は命を与えない。
死んだら終わり……死は絶対のものだ。
人間が神になることは出来ないし
神も人間を創らないし
命を与えることもしない」
こちらを見る女は
何が楽しいのか
笑みを絶やさない。
「魂が抜け、残った器は活動を休止する。
なら、その器に残る記憶に
まだ生きているよって記憶を繋げたら?」
死んでいたはずの男が
ぎこちない動きで起き上がる。
「なんということでしょう!!
魂は無いのに、まだ生きていると
勘違いした身体は動き出すのです!!
まぁ、その結果
自分に足りないものを補おうと
食に走ってしまうみたいだけど」
「………お前、何者だよ」
「言ったろ?死神だって」
虚ろな男の手を取り
くるくると回る女。
男が食おうとする様子は見えない。
「私は知りたいのさ。
この人形がどれほど人間に
近付けるのか……」
「本当、悪趣味な神だな」
「ただの暇潰しなんだけど」
男から手を離し
にっ、と笑う。
男は五条に狙いを定め
近寄っていく。
「五条 悟
君と会ってみたかったから
少し餌を撒いて待っていたんだが
思っていたよりも
早く出会えて良かったよ」
「おい」
「今日は挨拶だけ。
ちょくちょくちょっかいかけるから
私の人形の出来の感想を待ってるよ」
またね、と広間から出ていく女。
男が襲いかかってきたので
頭を床に叩き付けて女を追おうとしたのだが
扉を開いた女は
にっこりと笑う。
「人形は人だけじゃなく
生き物全てで作れるんだよ」
扉から
ぞろぞろと入って来た動物達。
「悟、また遊ぼ」
ひらひらと手を振り
広間から消えた女。
その瞬間、動物達が走って襲いかかってきた。
父親を置いていくわけにもいかず
足止めをくらい
女を取り逃がした五条は
大きな舌打ちと共に
動物を仕留めていく。
「おかえり、名前」
「ただいま、傑」
「どうだった?」
「すんごいキレてた」
ケラケラと笑い
傑に抱き着く名前。
「悟を煽り過ぎるなよ」
「ははっ!!怖い怖い」
「たまに遊んでからかうくらいにしておきな」
「そーだね」
「君も弄りすぎると
見付かるのは不都合なんだろ?」
「そーなのさ。
暫くはだらだらと過ごすかな」
「いつもだろ」
ぺしり、と頭を叩く傑に
やはり名前は楽しそうにしている。
「次はどんな遊びをしようか」
「嫌がらせの間違いだろ」
神は嗤う。
愚かな人間を見て
笑う嗤うワラウ。
あとがき
五条さんを怒らせよう!!
そして、漏瑚のように
手を握って恋人繋ぎをして
仲良く……してもらえないな、この主だと(笑)
女性だから、優しくとか
五条さん配慮無さそう(笑)
漏瑚が特別枠何だろう?
恋人繋ぎして
足蹴にされ
煽られても許され?る存在漏瑚。
羨ましいので
とことん五条さんに
キレられたい(笑)(笑)