君の一番になれたら
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「あれ?」
虎杖がふと、気付いた。
「先生って結婚してたの?」
「ん?してないよ」
「じゃあなんでペアリング持ってんの?」
緩い部屋着姿の五条を見て、キラキラと輝くソレを見つけたのは虎杖の動体視力があったから。
チャリッ、と五条の首から下がる大小異なるリングが通されたソレ。
「あ!もしかして彼女!?……だとしたら何で先生両方首から下げてんの?」
「コレね、遺骨」
「へー。いこ……遺骨!?」
ヘラヘラ笑いながら言った五条に虎杖は耳を疑い距離をとった。
「知らない?遺骨でダイヤモンド作れるって」
「そんなんする人いんの!?じーちゃんの時にポスターは見かけたけど」
指先で摘まんだリングには、小ぶりだが確かにキラキラと輝く石がはめられていた。
「昔ね、僕のことが大っっっっ好き過ぎる人がいてさ」
「へー」
「僕のこと大好き過ぎたから死んじゃった」
「なんで?」
「何でだろうね」
指輪を見て何度思い出しても辿り着くのはあの人の死。
あの人が生きる未来が今も見えない。
「一緒に生きて居てくれたら、今頃僕のお嫁さんだったかも」
「呪霊に殺されちゃったの?」
「違うよ」
虎杖は興味津々に五条を見つめる。
「空っぽな人でね、いつも死にたそうにしていたんだ。なのに、死にたくないって言ってたな」
懐かしそうに指輪を見ながら語りだす五条。
「婚姻だー、許嫁だーってあれこれ家に縛られていて息苦しそうだったけど仕方ない事だって当たり前に受け入れて何ともないフリしてさ。
泣き声一つ言わず諦めてて。
ほっとけない人だったんだ」
「へぇ。美人だった?」
「僕には劣るけど美人だよ。儚いってあの人にピッタリな清楚系美人さん!」
「先生はその人のどこに惚れたの?」
「良いこと聞くね!
僕はねー、最初その人が嫌いだったんだ」
「えっ」
虎杖の反応にケラケラと笑う五条。
「表情に感情が無いし、生きる気力無いし、抗おうとしないし、お家に従う人形だし……僕の好みでは無かったから」
「うわぁ」
「関わりたく無かったし、哀れだなって思ったはずなんだけどね。
彼女が泣きながら空を見る姿が今にも消えてしまいそうでほっとけなかったんだ」
五条の思いがけない言葉に虎杖は驚く。
「色々考えてたら、親友にね
『"変わって欲しい"と思う彼女への気持ちがまだ完成されたものでなくとも
"他の男に渡したくない"と思った時点で』
答えだろ?って言われちゃってさ」
困っちゃったよねー、なんて笑いながら話す。
目を細め、嵌める予定の無い指輪を指先で弄ぶ。
「空っぽな彼女を埋めるのが僕であればいいって思った。
僕だけを見て、僕だけの事を考えて
僕に囚われてくれれば……静かに一人で泣かずに支えてやれるのにって」
「……うわぁっ。
先生、めちゃくちゃその人に惚れてたんだね」
顔を赤くしながら興奮気味に食いついてくる虎杖。
指輪を服の内側に戻す。
「そうなんだ。僕めっちゃ恋愛してたの。
だけど、初恋は実らないって本当だった」
「初恋!?その人が初恋だったの!!?」
「多分ね。後にも先にも僕のこと振り回してる女は彼女だけかな」
「それで!!」
続きを!と期待するように正座しながら話を聞く体勢となった虎杖が可愛らしくて笑う。
「彼女の家が面倒な古ーい考えのお家だったから僕なりに彼女が自由になれるように色々手回ししてたんだ。
彼女には正式な年上の婚約者がいたから」
「りゃ、略奪!?」
「そーそー。しかも相手がおじぃちゃん!!
いい歳して若い子に手を出そうとする変態」
「歳の差!略奪愛!!」
「僕が頑張って彼女が卒業する前にどうにかしようとしてたんだけど……呪詛師になっちゃってさ」
「えっ」
「彼女が謀反するなんて誰も思わなかったんだ。
上層部も、学長も、僕らも。
何の前触れもなく僕の前から消えちゃって、しかも呪詛師になっちゃってさ」
虎杖の予想から大きく外れた展開に言葉を失ってしまう。
事故や、任務や、病気。
そちらばかり考えていたのに裏切り者となった者の末路は言葉にしなくても想像がつく。
「理由がわからなかったんだけど、去年数年振りに再開した時に教えてくれたよ」
再開。
その言葉が意味する事は嫌でも理解してしまう。
「死を選べるなら」
呪術師は死を選べない。
「僕の手で終わりにしたいと願ったみたい」
しゃがんでいた五条はゆったりとした動作で立ち上がる。
「僕の事愛してるって言いながら、僕と一緒に生きる道を選ばないで終わることを選んだ」
「………」
「酷い人だろ?」
「うん」
「昔よりスッキリした顔しながら、幸せだって言うように笑うんだ。
僕が見たかった笑顔も、僕が変えたかった生き方も僕が願っていない方向」
「……先生、ちゃんとその人とお別れ出来た?」
「出来たよ。
最高の呪いを残して、最高に綺麗な姿で」
寂しそうな顔を見せる五条。
「呪術師である以上、後悔の無い死なんて無いはずなのに……大往生したおばぁちゃんかよってくらい清々しいよね」
「ん。
その人も先生の事すっげー好きだったんだね」
「そう?僕より自分の事優先したのに?」
「自分の事優先したら先生と一緒に生きる道あったはずじゃん?」
「死ぬことが彼女にとって最優先だったんだよ」
「呪術界の古いお家事情とか、しきたりとか俺はよくわかんないけどさ……裏切り者になれば呪術界から狙われるリスクがある中、何年も生き延びて先生に殺されたいって願う理由考えたらその人が生きるより死ぬことが先生にとっての最善だと判断したわけでしょ?」
「えー?何でそうなんの?」
「俺も似た立場だから、ちょっとわかる」
へらっと笑う虎杖に、五条が目を見開く。
「宿儺が呪肉した俺は指全部飲み込んで死ぬことになる。
それが最善だから。
俺が生きているだけで誰かを不幸にするなら、俺は俺の役目を全うして死ぬよ。
俺しか出来ない事だから、どんなに辛くても役目を果たす」
「……悠仁」
「周りの人からしたら中には他に方法があるだろ!って人もいると思う。
でも、俺にしか出来ないことであり俺がやらなきゃいけないから。
先生の彼女にとって、先生に殺されるのが幸せであり最善だったなら……きっとその人にしか出来ない何かがあって。
その何かは誰かの為であり、五条先生の為でもあったのかな?」
「………」
「五条先生からしたら何ソレ?ってなるだろうけど、その人には必要な事で……ええっと」
上手く伝えきれず一人でうなる虎杖。
「死にたく無かったはずだよ。
俺、一回死んでるけど死の間際後悔したもん。
死にたくねぇって何度も思った。
けど、俺がやらなきゃって思いの方が強かった」
「………」
「どんなに格好つけても怖かった。
だから先生の彼女も怖かったと思う。
それでも幸せだって笑って死んだなら……五条先生のお陰じゃないかな?」
「僕?」
「死ななきゃいけない時に大好きな人の手で終わりたかったって願いが叶ってるんだもん。
後悔が無いように見えたなら、五条先生を信じて身を任せられるくらいの思いがあったって事だと思ったんだけど」
一人語りとなっていることに恥ずかしくなったのかどんどんと声が小さくなる。
ポリポリと頬を掻き誤魔化しながらも、五条を見てニッと笑う。
「五条先生、めっちゃ愛されてたんだね!」
「……押し付けられた愛は重いね」
「純愛っぽくていいと思うけど」
「映画にしたら三流もいいとこでしょ」
「あー、独りよがりみたいな?」
「うん。……独りよがりの暴走」
先程よりも少し晴れ晴れとした様子で五条は笑う。
「さっ!休憩終わり!」
「うっし!!」
「今日、僕の生徒がね。キミからとても愛されていたんだねって言われたよ」
僕はずっと僕が愛していたと思っていた。
「キミが残した愛してるって言葉。
やっと、素直に受け止められた気がする」
自分ばかり愛していたのだと。
愛しているなら何故共に生きていてくれなかったんだと自問自答していた。
「僕の為を思うなら、一緒に生きて欲しかったなぁ」
そう言った時。
彼女は困った顔をしていたっけ。
「キミと共に生きて、子供作って、忙しないだろうけど在り来たりな幸せを喜びながら過ごしたかった」
自分のような人間を作りたくなかったと言った。
自身の血を受け継がせたく無かったと言った。
罪は罪だと。
一族と関わった者達に呪術界は何もしない。暴こうとしない。罪を問わない。
悪は滅ぼせ、強者を嵌めろ、臭いものには蓋をしろと汚れを増やし腐っていく世界を前に一人で背負って罪は罪だと歯向かった。
「馬鹿だなぁ」
変に真面目。
彼女も、アイツも。
「誰よりも力のある僕を頼らず、何で一人で突っ走るんだか」
嫌味になるだろうか?
「……隣に並んでくれるなら僕は気にしなかったのに」
利用されても。
頼られていても。
楽しても。
「しんどいだろ」
「……硝子」
「一人で寒く語ってる恥ずかしい奴がいる」
「言い方の悪意が凄いな」
呪詛師に墓は無い。
彼女にも墓は無い。
「禁煙中じゃなかった?」
「コレは私のじゃないからノーカンだ」
硝子がそっと火をつけたばかりの煙草を地面に置くとふわりと香るのは懐かしい甘い香り。
彼女の最期の場所を墓とした所に置かれた煙草。
「悠仁がね、夫婦は足並み揃えるもんだって。
頼ることが悪い方向になるから、あの人は一人で突っ走ったんじゃないかな?って」
「………」
「僕が最善だと思う道は彼女にとってしんどくて。
彼女の最善だと思った道は僕にとってしんどいってある意味足並み揃いすぎだよね」
「………先輩は、
先輩は五条を大切にしていたから。
五条に囲われて大切にされるだけの大人しい女で居たくなかったんだろ」
何もない場所。
あの時の血痕はもう見当たらない。
墓となるような物があるわけでもない。
舗装し直された壁のみ。
「オマエと並んで生きるには重すぎた」
任務の手回し、灰原、七海、夏油、五条、家入。
彼女を貶めるものは多く、必然的に五条に守られなければ生きられない。
「並ぶために全てを手放せば、五条との幸せなんて残るわけ無い」
五条が全てを黙らせるか
彼女が全てを黙らせるか
簡単だとしんどくて
しんどいと終わらなくてはいけない
「何かを犠牲にしなきゃいけないなら、先輩は自身を犠牲にするだろ」
自身の幸せより、五条の幸せを。
そして自身の小さな幸せが許されるのであれば……
「早く終わる事を望んでいた先輩が最期に望んだのは五条だった。
愛されていないだなんて思えるオマエは欲張りだ」
「欲張りたくもなるよ」
死んでしまえば終わりなのに。
「生きていればどうにか出来たのに」
「贅沢者」
「だってさー。僕の立場なら生きてって思うじゃん」
「……まぁな」
「悠仁と話して色々考え直した。
今でも名前の選択が最善とは思って無い。
でも
逆の立場なら僕も名前と同じ事したと思う」
キリが無い。
現実的じゃない。
もっと他に方法がある。
"五条悟"としての立場としては否定的になるが
彼女の立場なら。
「想像でしかないけどさ
地位も名誉もいらない。ただ心から愛した人と居たいだけなのに周りを巻き込んで、誰かの命を奪ったり、誰かの人生を狂わせるくらいなら」
自分は存在してはいけない。
「死ぬのは簡単。
でも、何かを残そうとするなら……僕は愛した人が過ごしやすいように願って堕ちるよ」
愛した人の穢れを祓い
愛した人が笑っていられるように。
その隣に自分がいなくても。
ただ一つ、不確かな形無い物だけを残して。
「共に堕ちるのは簡単だけど、それじゃあ為にならないから。
悔しいけど、名前の行動理由がわかった気がする」
想像でしかない。
曖昧でもう2度と答えは聞けない。
「遅かったけどな」
「本当それ。ホウレンソウ大事にして欲しいよ」
「オマエから言われたくないな」
「え?」
最期に息耐えた時
彼女は微笑みながら手を伸ばしていた。
その手を掴むことは出来なかった。
「……愛されて、たんだね。僕」
温度が失くなっていくその時まで
鼓動の止まった身体を抱き締める事しか出来なかった。
「五条悟を狂わせた最初で最期の最高な人だな」
「うん」
2度と触れる事も話す事も出来ない。
「僕が頑張って変えるから。
次、名前が産まれる頃には同じ事を繰り返さないって誓うよ」
歳月が巡って
「その時は」
声を巡って
「また、僕と恋をしようね」
また生まれ変わったら
「来世も五条に付きまとわれるなんて疲れそうだ」
「ロマンが無いなぁ」
「知ってたか?先輩実は五条のアピールうざがっていたって」
「え"っ」
真っ先に君に会いに行こう。
あとがき
久々に書きました!
見てる人いるかな?
死ねたって苦手だから難産でしたが……書き終わって良かった。
モチーフは初音ミクの『オレンジ』です。
めちゃくちゃ好きな曲なので、何か書きたいなって細々と書いてました。
見てくださった方、ありがとうございました!
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