君の一番になれたら
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「悟の疑問に答えるよ」
大人になったな。
私が悟に抱いた印象。
体つきが厚くなって、相変わらず自分が最強だと疑わない圧倒的な圧がありながらも洗練された呪力。
昔は誰彼構わず威圧して力の差を感じさせていたのに。
物静かに此方を見ているだけで恐ろしい。
夏油と私を視界に捕らえ、いつでも動けるように緊張を解いていない。
「何で呪術界隈の人間を殺して回った?」
「灰原の死に関わったゴミ掃除」
久しく聞くことが無かったであろう名前に目を見開き驚いている。
「灰原の任務は…」
「臭いものに蓋をするのは相変わらずだね。
おかしいと思った事は無かった?
任務の多さ、情報の足りなさ、誤った情報。
今も昔も気に入らない奴を貶めたり、黙らす為に情報が操作される」
悟なら、わかるよね?
言葉にせずとも悟自身が一番よく知っているであろう呪術界の汚い闇の部分を改めて口にする。
「つつけば簡単に見えてくるのに。
おかしい、と思う事すら麻痺していく」
悟を責めているわけじゃない。
誰もが目を瞑り、見ないようにしていることが当たり前となってしまったから。
「汚いゴミは味を占めて何度も繰り返す。
気に入らなければ貶め、傀儡にならないなら罪を被せる」
悟でも逆らえない。
最強であっても組織相手に一人で全ては壊せない。ある程度の我が儘を聞いてもらえる半面、縛られる事もある。
「五条悟は呪術界隈にとって想定外だった。
手綱を握るには最強の条件が揃いすぎてしまっていた。
じゃあ、どうすればいいのか……」
悟を見れば苦々しい表情をしていた。
「本人に手を出せないのなら、周りから落とせばいい」
夏油、家入、灰原、七海、私、夜蛾先生。
「家入は呪術界に必要だった。
でも、"最強"は2人もいらない」
特級といえど、学生。
力で地位を、一族を、規則を揺るがす異端児二人に手を焼くよりもどちらかを壊せばいい。
どちらも壊れてしまえばいい。
「こちらの世界の闇を知らない夏油はいい的だった。
地位も後ろ楯も無いあの頃、上部だけの呪術界を知った程度の学生を壊す方法なんて容易かったってこと」
「傑の離反まで計算されていたって言うのかよ」
「さぁ?
ただ、灰原の死は計画的だった。
そしてその計画を立てたのは私の元婚約者だったってだけ」
気に入らない。ただそれだけのために悟の仲間になり得るものを叩いていった。
そして引き剥がせば悟の周りに残ったのは家入だけ。
「私の血筋、灰原の任務の計画に加担した一族、元婚約者の血筋。
叩けば出てくるゴミ掃除は大変だったけど……どいつもこいつも現役から退いた者や細々と血を繋ぐ道具、術式を持たない者ばかりだった」
呪術界の過疎化は深刻だ。
だからこそ、血を濃く残そうとするのかもしれない。
「全部消してしまえば、少なくとも私みたいな人間は今後産まれないでしょう?」
この身体に流れる血もゴミの一部。
一族の為に子を産み続ける道具にならず
一族の為に子を売らず
一族の為に生きることを否定されず
一族の為に消されず
腐りきった血筋を残さなくていい。
「まだ腐った者達は上層部に残っているけど……少し削れば悟は息をしやすくなるよ」
「……フザけるなよ。
そんな方法取らなくてもいくらでもやり方はあった!!」
「そうだね。
でも、その道を選ぶ事は私が私を許せなかった」
私のせいで灰原が死んで
私のせいで七海は怪我をして
私のせいで夏油は心を病み
私のせいで家入は狙われ
私のせいで悟の手にしたものが奪われていく
「名前のせいじゃない」
「周りを不幸にしてまで手にする幸せなんていらない」
だから、決めた。
「全部壊して、最期は悟の手で私を壊して欲しかった」
「………………は?」
それが、私にとっての最高の幸せだと気付いてしまった。
悟は驚いて目をぱちくりと開いたまま。
私のこれまでの行動は悟に殺されるためのものだったなんて思わなかったらしい。
「生きて悟の隣に居ても私は悟の子を産めない。
でも、悟は五条家当主として子を残さなきゃいけない。
……愛した人が他の女を抱き、子を抱える姿を見るなんてごめんだね」
「そんなのオマエが気にする事じゃない」
「悟がそう思っても、周りは納得しないよ」
悟の幸せより、私の幸せを選んだ。
「……元より、生きながら死んでいく命だ。
死に方くらい好きに終わらせたかった」
だから、壊し始めた。
悟に殺される理由を作るために。
「……馬鹿かよ」
「馬鹿だよ。
悟が他の女へと愛を囁けず、必ず悟の胸の奥底に住み着いて、忘れられない女になろうとするくらい」
無表情を保てずくしゃりと歪めている。
そんな悟へ私は手を伸ばした。
「悟が私に自由を教えてくれた。
悟がいなかったら私は生きて人形となり腐ったまま死に逝くのを静かに願うしか無かった。
悟の隣に居て他者を妬みながら心の狭い醜い女にはなりたくなかった。
それならいっそ、悟にとって忘れられない存在でありたかった」
死ぬのは怖い事だと今は思う。
生きる事を、共に生きたいと惜しむくらいに。
「………悟」
「ん」
「大きくなったなぁ」
「田舎のおばさんかよ」
「かっこよかったけど、ますます男前になった」
「当たり前」
「私より肌も綺麗で腹立たしいな」
「………名前も、綺麗になったね」
悟に伸ばした手は悟に触れられない。
今の私は悟の敵だから。
悟もわかっているからこそ、私と悟の間には見えない壁がある。
「敵だらけの中、この先悟が寂しくないように信頼出来る仲間を増やすんだ」
「……寂しいって、子供かよ」
「悟は寂しがりでしょう?それに甘えん坊だ。
私も夏油もいなくなったらきっと寂しくて泣いちゃうだろうね」
学生の頃よりまた背が伸びた。
サラサラと質のいい髪の毛は変わらなさそう。
肌もスベスベだが……少し、隈が見える。
澄んだ青い空は私を見て揺らぐことはない。
「恨んで、憎んで、殺したいと思えるような存在になりたかったけど……
私、思っていた以上に悟に愛されていたんだね」
「……今さら」
「いつも何で?って思っていたの。
自分に自信が無かったから私自身に魅力の欠片も存在しないと思っていた。
でも……悟が私を愛おしいって見てくれる度、愛されるのが嬉しくて、悟に惹かれた」
だからこそ
君のいる世界で笑ったことが何よりも幸せで
君の見る未来に私がいないことを恨んだ
君の声が好きで
温もりが大好きで
態度が愛おしくて
君からの愛のすべてが宝物となった
「私、悟と出会えて良かった……」
何度も思った。
愛しきれない君のことを諦めたくて素っ気ないフリをしてみた。
一目見たあの時から、私は悟に惹かれていたというのに気付かないフリをした。
なのに、ドシドシ人の心を踏み荒らし
代わりなんてないって、特別だって
許してもいいんだって言ってくれた。
明日なんか、ないのに。
抑えきれない心に揺さぶられ圧し殺して。
せめて、図々しいかもしれないけれど……不器用な私なりに考えた未来の君へ。
残される君に届けるただひとつが何か無いかと考えた。
私が見ることの出来ない未来を思って。
君が元気にいられるように。
笑顔でいられるように。
嫌だけど他の誰かを愛せるように。
私は君の隣にはいられないから未来を見ることは出来ないけれど……。
望まず、願わず、息を殺して終わることが幸せだと思っていた私に細やかな幸せをくれた。
どんどんと膨らみ続ける幸せが怖くなった事もあった。
耐えて、耐えて、耐えて。
その結果が悟や周りを巻き込むだけならいっそ。
全て壊してしまえばいい。
壊して壊して壊して腐った血を流しきれば
少しは悟に優しい世界になるかな?
終わらせることが幸せならば……我が儘を言ってもいいかな?
最期の終わり方くらい、自分で選んでも。
空のように自由な君に触れながら
君を想い、君を愛し、君の手で終わらせて欲しい。
そうすれば君はきっと私を忘れることはないでしょう?
君の想いも、強がりも、甘さも、弱さも持っていくから。
キミはまた、私を越えて孤独となり強くなる。
こんな愛を歌って最低だって言われても
私は君を愛してる。
言葉に出来ない程の想いを遺せば、キミはこの先も生きていてくれるでしょ?
だから
「愛してる」
狂おしい程、悟だけを。
「だから終わらせて」
苦しいだけの世界でした。
生きたいのに生きられない世界でした。
愛しているのに愛せない。
側に居たいのに居られない。
幸せになりたいのに不幸になる。
そんな、最低な世界だったけど……
綺麗で、憎らしくて、愛おしい
素晴らしくも汚れた世界は矛盾だらけ。
「………言い残すのがそんなんでいいのかよ」
「キミの幸せな未来を願うよ」
「皮肉過ぎる言葉をありがとう」
くしゃりと寂しそうな顔で笑う悟。
それを最期に私は痛みも無いまま意識が無くなった。
さよなら。