君の一番になれたら
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人は恋をして、変わるのだと言った。
「先輩、綺麗になりましたね」
家入の突然の言葉に頭を傾げる。
「身なりを変えた覚えは無いのだけれど」
支給されている学生服を新しくした覚えはない。ここ最近怪我らしい怪我もせずにいるから。
髪を切ってもいないし、美容に関してはいつも通りだ。
「家入、休むことも大切だよ?」
「ド天然かよ」
「夜蛾先生に一言申しておくわ」
後輩が遠い目をしている。これはいけない。
家入のメンタルを考えて、繁忙期に入る前にお休みを願い出ようとしたものの首を振られた。
「確かに綺麗になりましたね」
「君もか」
まじまじと私を見つめる夏油。
サラリ、と自然な動作で髪に触れ私の頬をかさついた大きな手の甲を滑らせる。
「ついてましたよ」
「ありがとう」
「ゴラァ!!傑!!!なーに勝手に触ってんだよ」
後ろから回される長い腕は私を抱き締めて夏油へと吠える。
「悟、うるさいよ」
「名前も触らせんなよ」
「触られた内に入らないよ」
触った、触られていないとくだらない言い争い。それすら楽しくて笑ってしまう。
生きてきた中で多分初めて私は此処に居て、息をして生きていると思えている。
こんな穏やかな幸せがあってもいいのだろうか?
時々姉の顔がチラつくこともあるが、目を瞑り見ないふりをしている。
3年目。
また後輩が二人入って来たらしい。
珍しいことに去年は誰一人欠ける事無く、比較的穏やかだった。
後輩三人が他に比べて出来すぎている、と言える事でもあるのだが……三人はそれ以上の素質とセンスを備えている飛び抜けた人材の年であるということだ。
黄金世代というやつは不思議とその年に密集する。今年も二人も呪術師の才能ある子が見つかった。
元気な子とクールな子。
どちらも礼儀正しく一つ下の後輩達よりは随分と可愛げがあった。
「可愛い」
「「「は?」」」
率直な意見を溢せば、左右上から不満気な声が上がる。
「先輩」
「オレらも可愛いじゃん」
「可愛いの塊じゃないですか」
「ハイハイ。可愛い可愛い」
いつの間にやら問題児とされている後輩達に好かれていて先輩として嬉しいよ。
二個下の後輩達は片や仲良しですね、とニコニコとし。片や何だこの人らは、と言うような対照的な反応を見せていて思わずクスリ、と笑ってしまう。
「灰原、七海。
頼りない先輩にはなるけれどよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします!」
「……よろしくお願いします」
基本的、呪術師が群れることは無い。
何かと忙しく遠征や授業や実習やらで各地を飛び回ることが多いからだ。
会わない時はとことんすれ違うし、会う時はよく会う。
一年生と私は最初の顔合わせ以降すれ違ったままに。寂しいとは思わないが、折角だから仲良くはしたいと思うくらい私は受け入れていた。
が、それは私の事情であって一年生には関係無い。
関わりの無い人間など興味のわかないその他と同じはずだと思うのだが……。
「苗字先輩こんばんは!!」
「こんばんは。苗字さん、この人達どうにかしてくれませんか」
正反対な反応の二人。
そして彼らの前には問題児達。
「何をしてるの?」
「庶民の遊び」
「人生を賭けた遊び」
「人生を破滅させる遊び」
「人生ゲームです!!」
灰原が元気よく答えてくれた。
一応学生寮がありそこで寝泊まりしているからすれ違う生活の中でも繁忙期で無ければそれなりに顔合わせをする。
男女別れた学生寮ではあるが、男子寮に女子が足を運ぶことはよくある。
一仕事終えて、家入からの誘いに悟の部屋に行くと賑わう部屋に一年生達もいた。
そして何やら紙のようなものには線路のような絵と上に車が。
ルーレットには数字が書かれていた。
何かしらのボードゲームだとは思うが見たことがない。
「人生ゲーム?」
「えっ?苗字先輩も知らないんですか!?」
「知らない」
「五条さんと同じ人種ですか」
「五条より常識あるよ」
「悟より常識あるね」
「マトモなんですね」
悟は一体この後輩に何をしたのか。
入学して来てすぐにこの信用の無さ。
家入が簡単にルールを教えてくれるが、マス目を見てなかなか非現実的な内容に頭を傾げる。
「家入、会社ってこんな簡単に倒産するの?」
「ゲームだから」
「夏油、子供多くない?」
「大家族になってしまったよ」
「灰原が一番大金持ち?」
「はい!」
「悟、借金凄いね」
「このゲーム呪われてんじゃね?」
悟がルーレットを回し、止まったマスは再び会社が倒産していた。
「ふっざけんなよ!!」
「上がり」
「上がります!」
「上がるね」
「もっかい!!お前らもう一回だ!!」
悟がビリになったらしい。
もう一度と言っているが誰もやる気はないらしい。
「桃鉄!!次桃鉄な!!」
「やだよ。99年設定だと終わらないじゃないか」
「30年にするから」
「五条さんキングボンビーにして擦り付けるので嫌です」
「七海ビビってるぅ?」
「鬱陶しくて嫌です。やりません」
ハッキリ話す七海に笑ってしまう。
何だかんだ上手く先輩をしているみたいだ。
「先輩」
「何?家入」
「楽しいですか?」
「楽しいよ。
毎日楽しくて……困ったなぁ」
「?」
「ますます死ぬのが惜しくなる」
私の言葉に家入が指先を掴んできた。
「一人は寂しいです」
「そうだね」
家入が何を思ってそう言ったのかはわからない。
煙草を咥えて火をつければジトリと見つめられたのでぐしゃぐしゃと頭を撫で回す。
「私が居ますよ。
先輩が怪我したら、死なないでいてくれたら私が治しますから」
「そりゃ頼もしい」
いつの間に来たのか……口に咥えていた煙草を奪われ、夏油が口にする。
手慣れたように吐き出された紫煙は慣れていた。
「苗字先輩が駄目な時は私が助けに行くよ。
その代わり、任務中は弱くても私の背中くらい守ってくださいね?」
急に頭に何かが置かれたと思ったらガシガシと乱暴に頭を撫でられ、額をデコピンされる。
黒いガラスの向こう側の瞳をニヤつかせている五条。
「寂しがりか?
仕方ねーから守ってやるし、寂しくないよーに俺らが遊んでやるよ」
三人揃って引っ付いてくるので暑苦しいし、煙草は奪われるし、何だか変に心配されている。
ギョッとした表情でこちらを見る七海と灰原が何と言えば良いのかと困っている。
「君達も可愛げなんてあったんだね」
「失礼だな」
「俺らめっちゃ可愛いじゃん」
「先輩目大丈夫ですか?」
「やっぱり可愛くない」
楽しかった。
生きていた中で、一番。
毎日がキラキラ輝いていて、世界が色付いていて、普通の幸せってこういうことかと思ったんだ。
「名前!!」
キラキラと輝くような悟の笑顔は、この世の全てが珍しく楽しく明るいのだと物語る。
その笑顔が続くなら
その笑顔が望むなら
力になれたらいいなって思ったの。
忙しい繁忙期の合間。
時間を見つけては会いに来てくれる悟。
僅かな時間の中、町中を歩いてみたり、校内で悟の修行の手伝いをしたり、会えない時は夜通し電話をしながらどちらかが寝入ってしまい朝まで繋がっていたこともあった。
私も悟も"普通"の"付き合い方"なんて知らないから定番のデートや恋人達のオススメを調べては2人でやってみた。
「手を繋いで海辺デート?そんなん何楽しいわけ?」
「海辺とか呪霊多そうだね」
「ナマコ投げつけ合う?」
「悟は恋人から怒りをぶつけられたいの?」
「冗談だっつの」
「海の楽しみ……水着とか?」
「室内プール貸し切った方が良くね?」
「確かに」
悟の部屋でオススメデートを探していたのだが、海の楽しみが見付からない。
レジャースポットでウォータースライダーなどもあったが……そんな所に行く時間も暇もない。
「こういう所は無理そうだね」
「下手すりゃ任務入って片方置き去りだな」
「破局まっしぐら」
「それはヤダ!!」
私を抱え込んで抱き締める悟の頭を撫でる。
くすぐったそうにしながらも柔らかく笑う姿に心を許されているのかと私も嬉しくなる。
悟と一緒に居て自分でも驚く程変化があった。
我慢をしなくてもいい。
私の姿に悟はよく気が付く。
勿論悟だけじゃなく、家入や夏油もだがそんなに私は分かりやすいか聞いてみればのみ込む事が自然過ぎるから逆に気になってしまったらしい。よく出来た後輩だ。
悟は我慢しなくていいと細やかな我が儘さえも叶えてくれようとする。
自分勝手な男なのに、私に対して向き合って私自身を見てくれる姿は……うん。絆されるなって方が無理だ。
私は私を主張してはいけないと思っていた。
主張は許される事じゃなかったから。
悟が気付いてくれること。許してくれること。何より……私自身を見て、認めてくれている存在が居てくれる事がこんなにも嬉しいことだったんて知らなかった。
「んー……海やプールは今すぐ無理だけどさ」
「?」
「コレ、今から行く?」
見せられたのは水族館のチケット。
「少し遠いしあんまり時間ねぇかもしんねぇけど」
「行ってみたい」
「行こ」
「でも、今から着替えると……いや、私あまり服無いや」
「いーじゃん。このままで」
「でも」
「どっか近場で買えばいいし」
ほら、と急かす悟に連れ出された。
あまり乗ることの無い電車に乗り、人の多さに居心地が悪かったものの悟がいるお陰で息苦しくは無かった。
いつもは基本車移動なので新鮮だ。
適当に入ったブティックはいかにも高級感があったが、悟は気にせず適当に服を選ぶ。
洋服ってヒラヒラし過ぎて落ち着かないからどう選んでいいのかわからない。
「いいのあった?」
「布が薄くて心もとない」
「そこまで薄くなくない?」
「突然の襲撃で動きにくそうな服ばっかだから」
「ぶはっ!!!ゴリゴリの戦闘狂な考えじゃん」
「悟は楽勝でも私は苦戦するの」
「そんな時こそ俺に任せろって。
可愛い格好した好きな女守れないなんてクソダセェ男じゃねーし」
アレコレと勝手に決めていく悟。
悟のセンスはよくわからないので店員に任せて無難な服を決めて貰う。
履き慣れないヒールは少しだけ歩きにくい。
「へぇ。雰囲気違う」
「悟も雰囲気変わるね」
「俺何でも似合うから」
「素敵な顔面に感謝ね」
少し高めのヒールは悟との距離がいつもより近い。
見慣れてきた顔のはずなのに、少し高さが違うだけで見え方が変わるのかと驚く。
「何?じっと熱い視線向けて」
「顔の位置近くなった」
「だね」
ニヤリと笑う悟が少し屈む。
チュッ、と軽く触れる唇に驚く。
「チューしやすい」
「バカ」
タグを切ってもらい、今まで着ていた服を詰めたショップバックは五条が宅配で寮へと送る手続きをしていた。
手慣れた様子にじっと見ていたら、各地を飛び回る中お土産で荷物が嵩張る時に寮宛に送る事が楽だと気付いたらしい。
送り賃は任務ばかりで貯まる貯金の痛手にはならないらしい。
手ぶらとなった私達は水族館へ。
自由気ままな泳ぐ魚達。
小さな水槽、大きな水槽。
ほんのりと冷ややかな空間は時間を忘れて夢中になる魅力があった。
「気に入った?」
「……うん。綺麗」
狭い水槽な筈なのに。
囲われている筈なのに。
息苦しさは無いのかと思えるくらい閉じ込められた空間を彩る彼ら。
アミューズメントパークとしてそう、魅せているのかもしれないが……心奪われる美しさがあった。
「うわっ。これ先生に似てる」
「……似て、いや…」
「傑に見せてやろ」
「不思議な生き物ばっか」
「なぁ、これ可愛いか?キモくね?キモカワイイって言っときゃいいみたいな?」
「可愛く……は、無いかな?」
水槽ごとにどこにいるのか見つけては感想を言ってみたり。売店でドでかいイルカとアザラシの人形を持ちながらどちらも買おうとする悟を止めたり。
あっという間に閉館になってしまい、全て回りきれなかった。
「残念。もう少し見たかったな」
「また来りゃいいじゃん」
「行けるかな」
「何度だって一緒に行くし。これで終わりじゃないから」
あてもなく水族館付近を歩いていたが、慣れないヒールに足が疲れてきた。
「悟」
「なに?」
「……足が」
「悪ィ」
すぐに言いたいことを分かってくれたらしく、近くのベンチに座る。
靴擦れはしていないものの、履き慣れない靴は足に変な力が入っていたらしい。
靴を脱ぐだけで少し足が軽くなった。
「平気?」
「うん。少し休めば大丈夫」
夕暮れ時
チラホラ人に付いて回る蝿頭が目立ってくる。
影から顔を出す低級達。
そんなもの見えていない非呪術師達はそれらの横を通りすぎていく。
「こーゆー場所ってさぁ」
「?」
「呪いの吹き溜まりだよな」
恋人達が多い一方で、それを妬む人々もいる。
幸せそうに歩く恋人の横で呪いに囚われる人々もいる。
「ロマンチックな場所には見えないね」
「な」
まだ、悪さをし始めるようなレベルはいないもののいつか何かをきっかけに呪いが生まれるかわからない。
「こんな場所でイチャついて愛を囁くのが普通なのか」
「ふはっ!!真顔でやめろよ!」
「この景色より君が綺麗だよ、とか?」
「やめろって」
ケラケラ笑う悟に私もつられて笑う。
足を休め悟と手を繋いで帰る。
「愛を囁く一方で恨み言がたまっていくなんて……不可思議な場所ね」
「誰もが同じ場所で幸せになれるとは限らないのからな」
「あら?じゃあ教会は悪意の溜まり場?」
「愛を誓って妬まれ恨まれ蔑まれ?確かにヤバそ」
「教会で式を挙げる前に一仕事あるって事かしら?」
「………」
「なぁに?」
急に黙る悟を見れば、驚いた表情。
何か変なことでも言ったかと頭を傾げれば大きな溜め息をつかれる。
「そーだよね。意識して無いよね」
「何?馬鹿にされた感じがする」
「一瞬でも期待しただけ」
「期待?」
「……教会で式、挙げたい?」
無理だよ、と口にしそうになった。
私は式などしてもらえない。小ぢんまりとする可能性はあっても教会はあり得ない。
「真っ白なドレス、着たい?」
悟の言葉にどう返していいかわからない。
叶わぬ夢を口にすれば悟は叶えようとしてくれるだろう。
「………」
「……やっぱ無し。今はまだ聞かないから
そんな泣きそうな顔すんな」
「ごめんね」
と言ってしまえばこの関係が終わる気がした。
「ありがとう」
と言ってしまえば悟は無理をしてしまうとわかっていた。
どちらの言葉も言えず困らせる私を、悟は笑いながら何でもないように振る舞う。
「悟」
「気にすんな」
「悟、」
「ちょっと早とちりしただけ」
「悟っ!」
「恥ずいからもう何も言うな」
「………私、充分幸せ」
私の言葉に悟は何も返さなかった。
ただ、繋いだ手に力が入って少し痛かったけど
その温もりが私は幸せだった。
私に幸せをくれた悟。
私を我が儘にさせてくれた悟。
私に甘えを教えてくれた悟。
苦しくても、辛いことがあっても
幸せの事があったから。
楽しいことがあったから。
救いがあったから。
今のぬるま湯のような心地好さに浸かっていたかった。
そんなわけがないのに。
「悟、元気でしたよ」
夏油の言葉にそっか、とだけ返す。
行く予定だったのに直前で判明した腐った血の処理に思ったより時間がかかってしまった。
ぐちゃぐちゃと汚い床に掃除が大変そうだとぼんやりと思った。
「行けなかったけど元気そうなら何より」
「包帯巻いて不審者感が凄かったよ」
「夏油にだけは言われたくないと思う」
「アレで教師とか笑えるね」
「夏油の姿も笑えるよ?」
君達はお笑いコンビだ、と笑えば呆れたような納得がいかないとでも言うような顔を見せる。
きっと悟に言っても同じように顔をしかめて納得がいかないと訴えるだろうと思えば笑みが溢れてしまう。
「………恋人、出来たかなぁ」
「さぁ?それらしき情報はないよ」
「大事に大事に囲っているかもよ?」
「ないと思うよ。
執着心はあるのに悟はいざという時には割り切るから」
「流石親友」
「……どんな手を使っても、無慈悲だと思われても。悟は未来の為なら大事なものすら必要な犠牲だと判断したら手放すよ」
酷い奴だ、と溢す夏油。
確かに悟ならやりそうだと声を上げて笑った。
「だとしたら夏油の方が優しいね」
「悟よりはいつだって優しかったと思うよ」
「……夏油はその優しさに自身を滅ぼしそうだ」
「私が自身で選んだ事。滅ぶつもりは無いよ」
汚れた赤が頬を汚す。
汚い、と眉間にシワを寄せながらごしごしと法衣で拭ってくる。
「……苗字先輩はいつだって自身を終わらそうとするね」
「君の言う"自身で選んだ事"だよ」
「全て私に渡して背負わせてくれればいいのに」
「夏油は既に背負っているじゃないか。
充分だよ」
頬を拭う夏油の手を取り部屋から出る。
夏油が残さず喰え、と呪霊を放つ。
数分後には液体だけが残っていることだろう。
「誰かを深く愛してくれていたなら……
少しだけ、考え直せたかも」
「……無理だろうね、キミ達は」
ーーー通りすぎた過去。
「悟にとっての唯一はキミしかいない」
「君かもしれないだろ?」
「私と悟はそんな関係じゃないよ」
「嘘。私より親密だった」
「親友だったからね」
寂しそうな顔をする夏油。
多分私も同じ顔をしている。
「………あんな風に」
教師をしている悟と夏油。
時々指導方法で二人で本気になって喧嘩して、生徒達がまたか、と呆れてる。
怪我をしても家入は治さないし、七海と灰原は対照的な反応をしているんだろうな。
「こんな風になっていたら」
特級2人の大人げないやり取りに周りが焦りだして誰かが夜蛾先生を呼びに走る。
「良かったと思うことがあるよ」
拳骨を落とされ二人揃って正座で説教をされているのに、見てないところで小さな喧嘩をしてまた怒られ………隙を見て二人で仲良くいなくなる。
夜蛾先生の声が響き渡る………日常。
「あぁ」
「歳とったなぁって感じちゃう」
「まだまだ若いはずなんだけど」
「思い描いていた"未来"ではないけど……うん。
あの頃考えていた未来よりはずっといい」
大口開けてケラケラ笑いながら、私を見付けて寄ってくるんだ。
そして、大きな腕で抱き締めて「俺悪くないのに!」って……。
「………無い物ねだりは、あの頃と変わらないや」
ーーーずっと来るはずのない"未来"に鍵をかけて。