君の一番になれたら
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五条は変だ。
あの日、無理矢理私と付き合う事にしたと一方的に決め付けた暴君。
遊びだろうと相手にしなければいいと頭を切り替え、胸の奥をモヤモヤと不愉快にさせられながらも寝入ったのだが………
「んっ」
鼻から漏れる声が変。
何度も何度も押し付けられ、舐められる唇。
苦しくなり身を捩って息をしようとすれば舌が入ってきて好き勝手荒らされる。
最後にはくたりと身体の力が抜けてしまう私の腰を抱いているのは五条だ。
「センパイかぁわいいね」
にこりと笑う五条の脛を無言で蹴る。
あの日から五条は人気の無い場所を見付けては抱き着いたり、キスをしてくる。
夏油や家入が居る時は距離は近いものの手を出す子とはない。会話だって恋人らしさもない。
なのに、だ。
人気の無い場所ではベタベタし、五条の気のすむまで触られる。
「………性処理なら他に頼みなよ」
「違う。俺はセンパイがいいの」
「何がしたいの」
「センパイこそ黙って受け入れてるじゃん」
「君が、黙らせているの、間違いだろ!」
拒否をしようものなら手足を封じられ
拒否の言葉を口にすれば口を塞がれる。
結果的、好き勝手されている。
「いきなり何なんだっ」
「……確かに、いきなりだったかもしんないけど遊びじゃねーよ」
「どうだか」
「信頼無さすぎね?」
「日頃の行いのせいだね」
ぎゅうぎゅう抱き締められるが力加減が曖昧で硬い胸板が痛い。顔がぐりぐりと壁に押し付けられているみたいだ。
「俺さ、五条家じゃん」
「そうだね」
「俺を狙ってくる奴らなんて下心ありのクソみてーな奴ばっかだからさ。
此処は息がしやすいと思った」
何が言いたいのか。
五条の拘束から逃れようとするが力が強くて抜け出せない。
「傑も、硝子も俺が五条だからつるむわけじゃない。俺の地位を認識しても、あいつら普通に俺の事馬鹿にしてくるし」
「……それは普通に五条に一般常識が足りないだけかと」
金で解決。地位フル活用。
庶民の駄菓子を大人買いで喜び、子供に混じってレアカード買い占めてドヤ顔する。
「先生も遠慮とか無いし」
「夜蛾先生、この間胃薬飲んでたよ」
問題児が三名もいると心労が祟るらしい。
「………だからさぁ、センパイ」
「何」
「センパイも此処に居る時くらいは息してよ」
「してるよ」
「縛られんなら俺に縛られて」
「現に君に拘束されてる」
恨めしそうに違うと言うが聞こえないフリをする。
変な子。
私が相手にしなくても嬉しそうに絡んでくる。反応を返せばもっと嬉しそうにする。
なぜ?
五条だって名家なのだからわかっているはずだ。私達は親の都合のいい道具の一つであり、私の代わりなど捨てるほどいる。
五条みたいな選ばれた子ではない限り。
私くらいの実力、私くらいの外見、抜き出たものなど無い私が五条の何を刺激し、気に入られたのかがわからない。
「……君は変わっているね」
なぜ?どうして?
私の問いかけには誰も答えてくれない。
「センパイは面倒な生き方すぎ。
だから」
五条は酷い。
「今だけは自由になれば?」
あぁ、酷い奴だ。
「五条……君は酷い奴だね」
「そう?センパイには優しいと思ってるけど?」
「何でも持っている君と私とじゃ違う」
息が苦しい。
酷い。酷いなぁ。酷いよ。
「君が許される事でも、私は許されない」
世界はそんなに優しくない。
五条の腕をほどいて抜け出す。
真っ直ぐに五条を見るが、五条は何もわかっていない。
「五条、君は理解しなきゃいけない。
君の立場は君が思っているよりずっと偉大だ」
「センパイ?」
「……君なら、思い通りにしたいことが叶う。叶えてしまう。叶ってしまう。
例え君の思っていない事すら」
「何?はっきり言いなよ」
「持っている君に同情されるなんてごめんだね」
力がある。
権力がある。
金がある。
地位がある。
血がある。
持っている君に、この気持ちはわからないだろう。
むしろ、君は小さな事だと鼻で笑う。
「今さら望みなんていらない」
私が意地になっていることだとはわかっている。
素直になってしまえば息がしやすかろう。
意地を張る方が子供だとわかっていても
「生き方は変えられない」
私はこんな生き方しか知らない。
自由になることを望みたくない。
諦めたままでいた方がずっと楽で幸せだと信じてきたんだから。
なのに、今さら。
今さら望んでどう変わる?
変わった後、元に戻らなくちゃいけない時に望まぬ私は今まで以上に全てを手放し、消さなきゃいけない。
飲み込めないもどかしさをこれ以上、どうかみ砕いて流し込めばいいのやら。
「可愛くないなぁ」
「そうだね」
「そこは甘えて、泣いて喜べよ」
「君に?まさか」
五条に甘えて?泣いて喜ぶ?
あり得ない。
「悪いね。君の遊びには付き合えない」
五条から離れてしまおう。
遊びだから離れたら飽きるはずだ。物珍しさに手を出しているだけなのだろうから。
先生達に任務でも貰って暫く帰らなければいい。
未確認な任務は大量にある。窓が確認している最中のものを含めれば低級程度の任務は莫大だ。お金にはならないだろうし、正式な任務にならなくても未然に防げるであろうものを潰していけば此処に居る意味もない。
……まぁ、そうなれば黙っていない出来事もあるだろうが。
その時はその時の私に任せよう。
手っ取り早く担任の所へ行けばどうにか対応してくれるだろうと願って早々と動き出そうとしたのに。
目の前には大きな手のひらで視界が塞がれているし、細いのにゴツい塊が私を拘束している。
「離してくれる?」
「何で怒ってんの?」
「離して」
「センパイさぁ」
「五条」
「何がそんなに怖ェの?」
大きな手のひらは私の視界を覆っている。
耳元で聞こえる囁き声。
「婚約者っつう老害が怖ェわけじゃねぇだろ?」
「そうだね」
「実家を無視するくらいだから家の連中が怖ェわけでもねぇ」
「そうだね」
「死にたくねぇって言いながら死ぬのを受け入れてる。
センパイが怖ェのって何」
怖い。
全てが怖いよ。
でも、終われば怖いものなんてない。
だから私は怖いものなんてない。
「しつこいよ」
「……センパイに言ったじゃん」
""センパイがオ俺を愛せないなら、俺がその倍愛すから。
センパイの弱さも、悲しみも、欲も、喜びも全部俺に頂戴""
「あの言葉に偽りなんてない」
「五条、離すんだ」
「持っている俺でも手に出来ない事やものなんかいっぱいあるっつの」
親、兄弟、家族、友人、信頼、信用、愛情
「だから、センパイが欲しい」
たった一つ。
「親友も同期も。
それだけでも贅沢だって思うけど……俺、欲張りだから」
五条も、私も
この世界に産まれ落ちた時から飢えている。
当たり前であるはずなのに、当たり前がないこの世界。
当たり前から遠い真逆な世界。
「センパイが欲しい」
「他にいいご令嬢がいるよ」
「やだよ。自分の好きな奴くらい自分で選ぶ」
「君にとって最悪な女になるかもよ」
「俺、特殊な目があるから目が肥えてんの」
「………」
「センパイ」
五条の温度を背中に感じる。
嫌だ。嫌だな。
同じ境遇ではないにしても、五条はきっと私の欲しいものを与える。
五条も同じだったから。
私と違うのは……五条が強くて、乗り越える強さがあるから。
「自分の事、許してあげなよ」
許しちゃいけないんだよ。
望んでしまえば……姉が命を賭けて呪った呪いを許してしまえば、私を弱くする。
兄弟達は逃れられなかったのに。
家族達も、誰もが諦めてきたこと。
逃れるには姉のように終わるしかない。
私が私利私欲で望んでいいわけがない。
「……センパイ、俺ね。この世界を変えたい」
「え…」
「まだはっきりと考えてるわけじゃないけどね」
世界を変える?
そんな大きな事……出来る人などいなかった。
根深く残る腐った文化はこの先もずっと続く。
「傑がさ、一般家庭の出だからって上から嫌がらせされたりする。
硝子だって他人に施せる反転術式は貴重だから大事にされているけど……女だからいつどんな嫌がらせされるかわかんねぇ」
「……うん」
「今はまだ俺も五条家を継いでいない。継いだところで二人を守れるかって言ったら微妙。
守られてばかりの二人じゃないし」
「だろうね」
「実力が全てでどうにかなるわけじゃねぇこともわかってる。頭の重い老害共はビビりなくせに権力を使うし」
だから、変えたい。
どう変えるか、どう変わるかはまだわからないけど。
そう、呟く五条が羨ましい。
そんな簡単じゃないことなのに。
「だから、センパイも諦めないでよ」
「………君が言うと、本当にどうにかなりそうだ」
「当たり前じゃん」
夢を語れる君が羨ましい。
夢を持てる君が羨ましい。
「五条」
「なに?」
「……簡単じゃないよ」
「望むところ」
そんな君を、少しだけ信じてみたくなった。
私を許してあげな、なんて言う君を。
「五条の下の名前って何だったっけ」
「嘘でしょ?そこまで俺の事信用してなかったの!?」
「信用していなかったというより興味がなかった」
「ひっでぇ!!」
「君は気紛れだから、遊び飽きたら興味を失くすと思ってて」
「だからって名前すら覚えてないって酷くね?」
悟!悟だから、絶対忘れないでよね!!!
そう言って私の名を恥ずかしそうに呼んだ君を
私はこの世で何よりも愛おしいって思ってしまった。
この時だろうね
私は 君に 恋をした。
「………お前っ」
血に濡れた部屋。
怯えた顔から何もかも諦めたように笑うのはかつて血の繋がりを持った兄弟。
「最期は俺か」
「……貴方方に恨みも、憎しみも無いよ。
ただ、終わらせておこうと思って」
「こんなことをしても意味はないぞ」
「そうだね」
兄は笑う。
私のしていることは自己満足でしかない。
あの人にとって私の行動は呪術界へ害悪でしかない。
それでも。
「これは次の世代の子供達への教訓でもある。
次世代の子供達はきっと……私みたいな、私達みたいなクソの文化を受け入れてのみ込ませちゃいけない。
良くも悪くも。古いものはいずれ新しいものに取り込まれて消え行く」
「だから無くすって?」
「貴方は悪くない。悪いのは全て傲慢に胡座をかく上だって私もわかってる」
「……お前の言いたいことはわかるよ」
極端にこうするしか思いつかなかっただけ。
無慈悲に狩り取るしか。
「全部私が受け持つ。
憎しみも、悲しみも、苛立ちも。
未来ある命も全て無くすと決めたから」
「……馬鹿だな。身を任せていればいずれ時代は変わる。そうなった時に俺達みたいな弱小な家は自ずと消えていく。
お前が無理にやらなくたって」
「変えなきゃいけない。
時代が変わる時に逃げ隠れたって変わろうとする意志がなければ変われない」
「ははっ。まるで、世界が……時代が変わるのがわかるみたいだな」
「変わるよ」
これから、私達が変える。
「目的は違うけど、呪術界は変わらなきゃいけない。
いつまでも古い上をお飾りに置いていても駄目なんだよ。
そして、そんな上に媚を売り生き永らえるだけの寄生虫のような血こそ呪術界を悪くする」
「………そうか」
「ごめんね、兄さん」
たった一部を終わらせたところで変わらない。
そんなこと、私もわかっている。
「お前は……名前はどうするんだ」
「最期は決めてるの」
「……なら、いい」
抵抗を見せない兄をせめて苦しまないように一発で命を奪う。
すぐに異変に気付くであろう外にバレぬよう早足に出ていく。
「終わったのかい?」
「うん」
「お疲れ様」
わざわざ夏油が迎えにきてくれたので夏油の扱う呪霊に乗る。
澄みきった空の上では自身に染み込んだ血生臭さが明確になって気持ちが悪い。
「悟もキミも優しくないね」
「夏油が優し過ぎるんだ」
「呪術界は情緒教育が足りないのかな?」
「情緒なんてものがあったら……少しは優しくなれたのかもね」
私達に優しさなんてものがあったなら。
きっと……
「ううん。たらればなんて無い。
これは変われなかった私達の呪い。
この呪いを次世代に受け継がせたくない私の我が儘」
「私も大概だけど、キミもどうかしている」
「親殺しだけじゃなく一族を消して回る私が怖い?」
「いや」
「理由をつけて自分を正当化すれば……
私のしたことに意味は無くても、私にとっては意味のあるものになる」
許してあげられる優しさがあれば
耐え抜ける強さがあれば
変われていたのかもしれない。
私は私を許せなかった。
「姉が悪いわけじゃない。
私は……私を取りまく全てが許せなくて、自分の都合のいいように正当化してるだけ。
悟や夏油とは違う」
「厳しいなぁ」
「夏油の志しに納得も同情も同意もしない。
だけど……呪術界をぶち壊したい」
「方向性は違うけどひとまず手を組んで良かったよ」
「だから、夏油」
「わかってる。だから止めない」
非呪術師を殺して呪術師の世界を作りたい夏油。
呪術師の一族を殺して古い時代を消し去りたい私。
相反してる私達だけど、手を組む理由にはなった。
「私にとっても腐った上層部はいらないからね」
「ごみ掃除くらいはしておくさ」
世界を変えたい、だなんて子供染みている。
そんなの誰よりも私達がわかってる。
わかった上で変えたいんだ。
あの日、無理矢理私と付き合う事にしたと一方的に決め付けた暴君。
遊びだろうと相手にしなければいいと頭を切り替え、胸の奥をモヤモヤと不愉快にさせられながらも寝入ったのだが………
「んっ」
鼻から漏れる声が変。
何度も何度も押し付けられ、舐められる唇。
苦しくなり身を捩って息をしようとすれば舌が入ってきて好き勝手荒らされる。
最後にはくたりと身体の力が抜けてしまう私の腰を抱いているのは五条だ。
「センパイかぁわいいね」
にこりと笑う五条の脛を無言で蹴る。
あの日から五条は人気の無い場所を見付けては抱き着いたり、キスをしてくる。
夏油や家入が居る時は距離は近いものの手を出す子とはない。会話だって恋人らしさもない。
なのに、だ。
人気の無い場所ではベタベタし、五条の気のすむまで触られる。
「………性処理なら他に頼みなよ」
「違う。俺はセンパイがいいの」
「何がしたいの」
「センパイこそ黙って受け入れてるじゃん」
「君が、黙らせているの、間違いだろ!」
拒否をしようものなら手足を封じられ
拒否の言葉を口にすれば口を塞がれる。
結果的、好き勝手されている。
「いきなり何なんだっ」
「……確かに、いきなりだったかもしんないけど遊びじゃねーよ」
「どうだか」
「信頼無さすぎね?」
「日頃の行いのせいだね」
ぎゅうぎゅう抱き締められるが力加減が曖昧で硬い胸板が痛い。顔がぐりぐりと壁に押し付けられているみたいだ。
「俺さ、五条家じゃん」
「そうだね」
「俺を狙ってくる奴らなんて下心ありのクソみてーな奴ばっかだからさ。
此処は息がしやすいと思った」
何が言いたいのか。
五条の拘束から逃れようとするが力が強くて抜け出せない。
「傑も、硝子も俺が五条だからつるむわけじゃない。俺の地位を認識しても、あいつら普通に俺の事馬鹿にしてくるし」
「……それは普通に五条に一般常識が足りないだけかと」
金で解決。地位フル活用。
庶民の駄菓子を大人買いで喜び、子供に混じってレアカード買い占めてドヤ顔する。
「先生も遠慮とか無いし」
「夜蛾先生、この間胃薬飲んでたよ」
問題児が三名もいると心労が祟るらしい。
「………だからさぁ、センパイ」
「何」
「センパイも此処に居る時くらいは息してよ」
「してるよ」
「縛られんなら俺に縛られて」
「現に君に拘束されてる」
恨めしそうに違うと言うが聞こえないフリをする。
変な子。
私が相手にしなくても嬉しそうに絡んでくる。反応を返せばもっと嬉しそうにする。
なぜ?
五条だって名家なのだからわかっているはずだ。私達は親の都合のいい道具の一つであり、私の代わりなど捨てるほどいる。
五条みたいな選ばれた子ではない限り。
私くらいの実力、私くらいの外見、抜き出たものなど無い私が五条の何を刺激し、気に入られたのかがわからない。
「……君は変わっているね」
なぜ?どうして?
私の問いかけには誰も答えてくれない。
「センパイは面倒な生き方すぎ。
だから」
五条は酷い。
「今だけは自由になれば?」
あぁ、酷い奴だ。
「五条……君は酷い奴だね」
「そう?センパイには優しいと思ってるけど?」
「何でも持っている君と私とじゃ違う」
息が苦しい。
酷い。酷いなぁ。酷いよ。
「君が許される事でも、私は許されない」
世界はそんなに優しくない。
五条の腕をほどいて抜け出す。
真っ直ぐに五条を見るが、五条は何もわかっていない。
「五条、君は理解しなきゃいけない。
君の立場は君が思っているよりずっと偉大だ」
「センパイ?」
「……君なら、思い通りにしたいことが叶う。叶えてしまう。叶ってしまう。
例え君の思っていない事すら」
「何?はっきり言いなよ」
「持っている君に同情されるなんてごめんだね」
力がある。
権力がある。
金がある。
地位がある。
血がある。
持っている君に、この気持ちはわからないだろう。
むしろ、君は小さな事だと鼻で笑う。
「今さら望みなんていらない」
私が意地になっていることだとはわかっている。
素直になってしまえば息がしやすかろう。
意地を張る方が子供だとわかっていても
「生き方は変えられない」
私はこんな生き方しか知らない。
自由になることを望みたくない。
諦めたままでいた方がずっと楽で幸せだと信じてきたんだから。
なのに、今さら。
今さら望んでどう変わる?
変わった後、元に戻らなくちゃいけない時に望まぬ私は今まで以上に全てを手放し、消さなきゃいけない。
飲み込めないもどかしさをこれ以上、どうかみ砕いて流し込めばいいのやら。
「可愛くないなぁ」
「そうだね」
「そこは甘えて、泣いて喜べよ」
「君に?まさか」
五条に甘えて?泣いて喜ぶ?
あり得ない。
「悪いね。君の遊びには付き合えない」
五条から離れてしまおう。
遊びだから離れたら飽きるはずだ。物珍しさに手を出しているだけなのだろうから。
先生達に任務でも貰って暫く帰らなければいい。
未確認な任務は大量にある。窓が確認している最中のものを含めれば低級程度の任務は莫大だ。お金にはならないだろうし、正式な任務にならなくても未然に防げるであろうものを潰していけば此処に居る意味もない。
……まぁ、そうなれば黙っていない出来事もあるだろうが。
その時はその時の私に任せよう。
手っ取り早く担任の所へ行けばどうにか対応してくれるだろうと願って早々と動き出そうとしたのに。
目の前には大きな手のひらで視界が塞がれているし、細いのにゴツい塊が私を拘束している。
「離してくれる?」
「何で怒ってんの?」
「離して」
「センパイさぁ」
「五条」
「何がそんなに怖ェの?」
大きな手のひらは私の視界を覆っている。
耳元で聞こえる囁き声。
「婚約者っつう老害が怖ェわけじゃねぇだろ?」
「そうだね」
「実家を無視するくらいだから家の連中が怖ェわけでもねぇ」
「そうだね」
「死にたくねぇって言いながら死ぬのを受け入れてる。
センパイが怖ェのって何」
怖い。
全てが怖いよ。
でも、終われば怖いものなんてない。
だから私は怖いものなんてない。
「しつこいよ」
「……センパイに言ったじゃん」
""センパイがオ俺を愛せないなら、俺がその倍愛すから。
センパイの弱さも、悲しみも、欲も、喜びも全部俺に頂戴""
「あの言葉に偽りなんてない」
「五条、離すんだ」
「持っている俺でも手に出来ない事やものなんかいっぱいあるっつの」
親、兄弟、家族、友人、信頼、信用、愛情
「だから、センパイが欲しい」
たった一つ。
「親友も同期も。
それだけでも贅沢だって思うけど……俺、欲張りだから」
五条も、私も
この世界に産まれ落ちた時から飢えている。
当たり前であるはずなのに、当たり前がないこの世界。
当たり前から遠い真逆な世界。
「センパイが欲しい」
「他にいいご令嬢がいるよ」
「やだよ。自分の好きな奴くらい自分で選ぶ」
「君にとって最悪な女になるかもよ」
「俺、特殊な目があるから目が肥えてんの」
「………」
「センパイ」
五条の温度を背中に感じる。
嫌だ。嫌だな。
同じ境遇ではないにしても、五条はきっと私の欲しいものを与える。
五条も同じだったから。
私と違うのは……五条が強くて、乗り越える強さがあるから。
「自分の事、許してあげなよ」
許しちゃいけないんだよ。
望んでしまえば……姉が命を賭けて呪った呪いを許してしまえば、私を弱くする。
兄弟達は逃れられなかったのに。
家族達も、誰もが諦めてきたこと。
逃れるには姉のように終わるしかない。
私が私利私欲で望んでいいわけがない。
「……センパイ、俺ね。この世界を変えたい」
「え…」
「まだはっきりと考えてるわけじゃないけどね」
世界を変える?
そんな大きな事……出来る人などいなかった。
根深く残る腐った文化はこの先もずっと続く。
「傑がさ、一般家庭の出だからって上から嫌がらせされたりする。
硝子だって他人に施せる反転術式は貴重だから大事にされているけど……女だからいつどんな嫌がらせされるかわかんねぇ」
「……うん」
「今はまだ俺も五条家を継いでいない。継いだところで二人を守れるかって言ったら微妙。
守られてばかりの二人じゃないし」
「だろうね」
「実力が全てでどうにかなるわけじゃねぇこともわかってる。頭の重い老害共はビビりなくせに権力を使うし」
だから、変えたい。
どう変えるか、どう変わるかはまだわからないけど。
そう、呟く五条が羨ましい。
そんな簡単じゃないことなのに。
「だから、センパイも諦めないでよ」
「………君が言うと、本当にどうにかなりそうだ」
「当たり前じゃん」
夢を語れる君が羨ましい。
夢を持てる君が羨ましい。
「五条」
「なに?」
「……簡単じゃないよ」
「望むところ」
そんな君を、少しだけ信じてみたくなった。
私を許してあげな、なんて言う君を。
「五条の下の名前って何だったっけ」
「嘘でしょ?そこまで俺の事信用してなかったの!?」
「信用していなかったというより興味がなかった」
「ひっでぇ!!」
「君は気紛れだから、遊び飽きたら興味を失くすと思ってて」
「だからって名前すら覚えてないって酷くね?」
悟!悟だから、絶対忘れないでよね!!!
そう言って私の名を恥ずかしそうに呼んだ君を
私はこの世で何よりも愛おしいって思ってしまった。
この時だろうね
私は 君に 恋をした。
「………お前っ」
血に濡れた部屋。
怯えた顔から何もかも諦めたように笑うのはかつて血の繋がりを持った兄弟。
「最期は俺か」
「……貴方方に恨みも、憎しみも無いよ。
ただ、終わらせておこうと思って」
「こんなことをしても意味はないぞ」
「そうだね」
兄は笑う。
私のしていることは自己満足でしかない。
あの人にとって私の行動は呪術界へ害悪でしかない。
それでも。
「これは次の世代の子供達への教訓でもある。
次世代の子供達はきっと……私みたいな、私達みたいなクソの文化を受け入れてのみ込ませちゃいけない。
良くも悪くも。古いものはいずれ新しいものに取り込まれて消え行く」
「だから無くすって?」
「貴方は悪くない。悪いのは全て傲慢に胡座をかく上だって私もわかってる」
「……お前の言いたいことはわかるよ」
極端にこうするしか思いつかなかっただけ。
無慈悲に狩り取るしか。
「全部私が受け持つ。
憎しみも、悲しみも、苛立ちも。
未来ある命も全て無くすと決めたから」
「……馬鹿だな。身を任せていればいずれ時代は変わる。そうなった時に俺達みたいな弱小な家は自ずと消えていく。
お前が無理にやらなくたって」
「変えなきゃいけない。
時代が変わる時に逃げ隠れたって変わろうとする意志がなければ変われない」
「ははっ。まるで、世界が……時代が変わるのがわかるみたいだな」
「変わるよ」
これから、私達が変える。
「目的は違うけど、呪術界は変わらなきゃいけない。
いつまでも古い上をお飾りに置いていても駄目なんだよ。
そして、そんな上に媚を売り生き永らえるだけの寄生虫のような血こそ呪術界を悪くする」
「………そうか」
「ごめんね、兄さん」
たった一部を終わらせたところで変わらない。
そんなこと、私もわかっている。
「お前は……名前はどうするんだ」
「最期は決めてるの」
「……なら、いい」
抵抗を見せない兄をせめて苦しまないように一発で命を奪う。
すぐに異変に気付くであろう外にバレぬよう早足に出ていく。
「終わったのかい?」
「うん」
「お疲れ様」
わざわざ夏油が迎えにきてくれたので夏油の扱う呪霊に乗る。
澄みきった空の上では自身に染み込んだ血生臭さが明確になって気持ちが悪い。
「悟もキミも優しくないね」
「夏油が優し過ぎるんだ」
「呪術界は情緒教育が足りないのかな?」
「情緒なんてものがあったら……少しは優しくなれたのかもね」
私達に優しさなんてものがあったなら。
きっと……
「ううん。たらればなんて無い。
これは変われなかった私達の呪い。
この呪いを次世代に受け継がせたくない私の我が儘」
「私も大概だけど、キミもどうかしている」
「親殺しだけじゃなく一族を消して回る私が怖い?」
「いや」
「理由をつけて自分を正当化すれば……
私のしたことに意味は無くても、私にとっては意味のあるものになる」
許してあげられる優しさがあれば
耐え抜ける強さがあれば
変われていたのかもしれない。
私は私を許せなかった。
「姉が悪いわけじゃない。
私は……私を取りまく全てが許せなくて、自分の都合のいいように正当化してるだけ。
悟や夏油とは違う」
「厳しいなぁ」
「夏油の志しに納得も同情も同意もしない。
だけど……呪術界をぶち壊したい」
「方向性は違うけどひとまず手を組んで良かったよ」
「だから、夏油」
「わかってる。だから止めない」
非呪術師を殺して呪術師の世界を作りたい夏油。
呪術師の一族を殺して古い時代を消し去りたい私。
相反してる私達だけど、手を組む理由にはなった。
「私にとっても腐った上層部はいらないからね」
「ごみ掃除くらいはしておくさ」
世界を変えたい、だなんて子供染みている。
そんなの誰よりも私達がわかってる。
わかった上で変えたいんだ。