君の一番になれたら
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1年目。
無理を言って親元を離れ、通いだした東京にある学校。
四年生で全寮制。
クラスメートは一般家庭からの男の子と呪術界生まれの女の子がいた。
一般家庭からの男の子はとても元気だった。
正義感が強くて、明るくて。
呪術界生まれの私や女の子からすれば眩しいくらいにいいやつだった。
いいやつだったからか……半年後には任務先で一般人を庇って一般人共々死んでしまった。
もう一人の女の子は儚いという言葉が似合う子だった。生きることどころか未来も諦めていて……あぁ、この子も私と同じかな?と出会った時に思った。秋になり16になった途端……家からの急な呼び出しで女の子は戻らなくなった。その後、風の噂で死んだと聞いた。
同期と呼べる存在を一年も経たずに亡くしたが不思議と悲しいとは思えなかった。
あぁ、欠陥してるな……と思ったもののこの世界じゃ当たり前だと受け入れているので、生きていれば任務して、食べて、排泄して、寝る人生を繰り返すだけ。
つまらないなぁ。つまんない生き方だ。
悲しみも喜びも楽しみも怒りもない。
私という人間は酷くつまらない中身の無い人間だ。
こんな人間の一人や二人、いなくたって世界は変わらずに回る。
代用の人間で回る。私じゃなくてもいい。
わかっていても求められれば答えてしまう。そう、インプットされた人形みたい。
あぁ、空が綺麗だ。
ボーッと手を伸ばすが雲一つ無い青空は遠くて自身の指先が視界に映るだけ。
あ、指先が乾燥でささくれている。こんなの見つかったら私の価値がうんたらかんたらとうるさいやつに見付かると面倒だな。後で手入れしなきゃ、とどうでもいい事へ思考を飛ばす。
けどまた任務に行けば疲れてしまい手入れなんて忘れてしまうんだろうな。
案の定、携帯に任務の連絡が入って特に準備も無いので駐車場へ。
見慣れた補助監督さんに手渡された任務内容の情報へと目を通す。
追加で告げられる情報に気の抜けた返事を返しつつ、都内の廃墟のビルへ。
補助監督が帳を降ろせば沸き出る雑魚。
それらを片付けて本命を探して片付けて。
毎日毎日変わらない日々を過ごし、卒業後は見知らぬクソみたいな男と結婚して、子供を産んで、家に尽くして死んでいく。
未来などあって無いような生活。
なぜ、私は息をするのか。
なぜ、私は生きるのか。
なぜ、私は死を選べないのか。
クソだと、未来がないと絶望し諦めているくせに死に急いでいるのに死を恐れているだなんて矛盾している。
任務終わりの空は変わらず綺麗で憎たらしい。
「初めまして、苗字先輩」
2年目。
入って来たのは三人の後輩……らしい。
入学から短期間で異例の実力を示していると噂で聞いた。
会ってみたいと思ってはいたが、まさか己の階級違いだった任務の助っ人に来られてあっさり助けられてしまった。
「手を貸しましょうか?」
「頼むよ」
お団子頭のキツネのように人を化かす才能に溢れた男に手を差し出され、大人しく掴む。
派手に吹き飛ばされめり込み頭も背中もぶつけて全身が痛い。
「先輩、ちょっと失礼しまーす」
泣き黒子がエッチな女が身体に触れる。
温かさと共に痛くてダクダク出血して熱を持っていた全身から痛みが消えていく。
高度な反転術式だな、と身を任せていれば緊張の糸が解けてうつらうつらと眠気に襲われる。
「あんな雑魚に手間取るなんてたいしたことねーんだな。セーンパイ」
救助と共に建物にどでかい穴を開けて登場し、あっさり祓ってしまった。
あっさりのわりにド派手に周囲を半壊させた犯人である白くてデカイ男は悪びれた様子はない。
「………」
手を、伸ばした。
「何?」
真っ暗な光を遮るガラスの向こう側に空があった。
思わず伸ばしてしまった手は何も掴めず、かといって伸ばしてしまった以上何か……と思って、ふと思い出す。
「………こども」
「子供?」
「あっち……」
指差した方向に顔を向ける三人。
スタスタと歩いて行ったから空が無くなる。
油断していたわけでもないし、報告が無いとかよくあること。情報の誤差にいざ現場に入って文句は言えない。文句を言う前に生きるか死ぬかだから。
生きて文句を言えたらラッキー。まぁ、上に報告がいったところで鼻で笑われて終了だ。
手こずりはしただろうけど、ここまで手負いの傷は出来る予定ではなかった。
「………多分、駄目だろうけど」
「…………」
「五条」
「イタ。けど無理」
「先輩……」
気付くのが遅れたのはその子が瓦礫に埋まっていたから。何をしていたのか、なぜそんなところにいたのか、いつから居たのかはわからない。
手を伸ばして生きようとする小さな手。
目の前に迫る死を天秤にかけ……迷った。
迷った結果、子供は潰れ私は重症。
最悪の後輩との初対面。
……だったはずなのに。
思いの外、後輩達は普通だった。
私を見かければ挨拶をし、お団子頭の夏油とは当たり障り無い会話をするようになったし、なんなら任務が被ることも増えた。
泣き黒子の家入とは女子寮でよく会うので自然と会話をしていたし、酒盛りや煙草のやり取りをした。
五条は会うたび生きてて良かったね、ざぁこと遠回しだったり率直に言ってきた。
まぁ、嫌われていないのかな?と思って私も普通に接した。
良くも悪くもチグハグでありながら、上手く噛み合った三人だと思った。
一般家庭のせいか、清く正しくあろうとする優等生として模範生な夏油。
自身のやるべき事を理解している家入。
呪術界の闇を見て、己の立場や地位や力を理解し抗いねじ伏せようとする問題児な五条。
すれ違いそうなのにうまい具合に噛み合っているから壮絶な喧嘩はするものの笑って過ごせる後輩達が羨ましかった。
「苗字先輩の代は先輩だけなんですか?」
「そだよ。私以外は死んじゃった」
スパーと、紫煙を吐き出しながら言えば何とも言えないような表情をする三人。
「一人は正義感の強さで、正しくあろうとして一般人守ろうとして死んじゃった」
「………」
「もう一人は16になってお家事情で結婚させられたけど旦那に殺されたな」
「うげぇ」
「生き残ったのは中途半端な私だけってこと」
面白い話ではないが、よくあること。
くすり、と笑って後輩達を見る。
「お前達が羨ましい」
私は楽しさを共有する友も
悲しみを共有する友も
生き抜いて喜び合う戦友も
背中を預ける仲間もいないから。
「お前達は互いに支えあって生き残りな。
……一人は、寂しいよ」
経験談だ、と笑えば微妙な顔をした三人がいた。
3年目。
また後輩が二人入って来たらしい。
元気な子とクールな子。
どちらも礼儀正しく一つ下の後輩達よりは随分と可愛げがあった。
「先輩」
「オレらも可愛いじゃん」
「可愛いの塊じゃないですか」
「ハイハイ。可愛い可愛い」
懐かれる要素があったとは思えないが、一つ下の問題児扱いされる後輩達とは上手くやっているつもりだ。
二個下の後輩達は対照的な反応を見せていて思わずクスリ、と笑ってしまう。
「灰原、七海。
頼りない先輩にはなるけれどよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします!」
「……よろしくお願いします」
私が一年の時は上の学年も少人数でかかわり合うことなんて無かった。
だから、一つ下の後輩達が楽しそうに私や灰原や七海を誘って騒ぐ日々に少しだけワクワクしたし、楽しかった。
夏油や家入が一般家庭の遊びだと五条に面白いことを囁く。
すると五条は得意気に灰原や七海や私に楽しそうにしながら話す。それに対して七海がキレの良い正しい正論をぶつけたり、灰原がキラキラとした瞳で五条を馬鹿に……しているつもりがないだろうが五条を黙らせる。
そして拗ねる五条を夏油と家入が指差して笑うんだ。
殺伐とした毎日の中、この一時は楽しいと、幸せだと思えるようになった。
「先輩」
「何?家入」
「楽しいですか?」
「楽しいよ。
毎日楽しくて……困ったなぁ」
「?」
「ますます死ぬのが惜しくなる」
私の言葉に家入が指先を掴んできた。
「一人は寂しいです」
「そうだね」
家入が何を思ってそう言ったのかはわからない。
煙草を咥えて火をつければジトリと見つめられたのでぐしゃぐしゃと頭を撫で回す。
「私が居ますよ。
先輩が怪我したら、死なないでいてくれたら私が治しますから」
「そりゃ頼もしい」
いつの間に来たのか……口に咥えていた煙草を奪われ、夏油が口にする。
手慣れたように吐き出された紫煙は慣れていた。
「苗字先輩が駄目な時は私が助けに行くよ。
その代わり、任務中は弱くても私の背中くらい守ってくださいね?」
急に頭に何かが置かれたと思ったらガシガシと乱暴に頭を撫でられ、額をデコピンされる。
黒いガラスの向こう側に空がある瞳をニヤつかせる五条。
「寂しがりか?
仕方ねーから守ってやるし、寂しくないよーに俺らが遊んでやるよ」
私の発言をどう受け取ったのかわからないが……"一人じゃないだろ"とでも言いたげに不器用ながらに気に掛けてくれているのかと思うと心がふわふわと暖かくなった。
いつの日からだったろうか。
気付けば、隣には誰かしら居たと思う。
朝起きて、家入とボーッとしながら寝癖をつけたまま一緒に起きることが増えた。
夜にお互いの部屋を行き来して、お酒や煙草を楽しみそのまま寝入る。
一人だけの温もりだけじゃなく、誰かが隣で眠る温かさが心地よい。
任務に行く時いってらっしゃいと。
帰って来ておかえりなさい、と言ってくれる。
任務に行けば夏油や五条と組んで行くことが増え、私いらないんじゃ?とか思うほどあっさり終わる任務。そしてあっさり終わったなら早く帰れるのにあそこへ行こう、ここへ行こうと遠慮などせず人の腕を掴んで振り回す大男二人に敵わずついて回る。一人での任務もあるが、今までなら真っ直ぐに帰っていたのにお土産コーナーに寄り道する事が増えた。
お土産を持って帰れば後輩達はそれぞれ文句やら感謝やら悪態をつきながらも受け取ってくれるのでまた心がふわふわした。
当たり前じゃない事が増えていき……
いつの間にか
当たり前になっていった。
当たり前は突然壊れてしまう。
夏油と五条が特別な任務につき、失敗したと聞いた。
極秘扱いの任務内容を知る者はいない。
そのあとから後輩達はバラバラとなってしまった気がする。
忙しかった、と言ってもいい。
それぞれの歯車が噛み合わず、誰もが違和感に気付ける余裕などなくなっていった。
4年目。
歯車は壊れ、バラバラに。
私は高専から追われる身となった。
「………………」
「おや、目が覚めたかい?」
目元をささくれた指が滑る。
泣いて………いたのだろうか?
泣いているつもりはないが、馬鹿になっている涙腺は涙を溢れさせ流している。
「悲しいかい?」
「……懐かしい、夢を見た」
「幸せな夢?」
皺が増えた後輩は眉を下げて微笑む。
あの頃よりも伸びた髪は彼の娘達によっていつも綺麗に手入れされているからサラサラとしている。
「老けたなぁ」
「人聞きが悪い。年を重ねたと言ってくれないか?」
「あの頃より胡散臭さが増した」
「聞いてるかい?」
「………幸せか、不幸せかと問われるとわからないな」
君のいる世界で笑ったこと。
君の見る未来を恨んだこと。
「苗字先輩」
「ん?」
「戻りたいですか?」
自信を無くしたような後輩に私は笑う。
サラサラの髪をわざとぐしゃぐしゃと豪快に撫でる。
「後悔なんてしていない」
「………」
「君が背負うもんじゃない。
私は私がやりたくて、私の為にしている。
その為に君と居ることが都合が良かった」
「………苗字先輩は不器用で愚かですね」
「そっくりそのまま君に返すよ、夏油」
幸せか?
あぁ、幸せだとも。
君がいるこの世界で君と出会えたことが。
不幸せか?
あぁ、不幸せだ。
君の見る未来に私はいないのだから。
それでも
それでも、だ。
君の声
温もり
態度
愛のすべてが…
「愛している」
無理を言って親元を離れ、通いだした東京にある学校。
四年生で全寮制。
クラスメートは一般家庭からの男の子と呪術界生まれの女の子がいた。
一般家庭からの男の子はとても元気だった。
正義感が強くて、明るくて。
呪術界生まれの私や女の子からすれば眩しいくらいにいいやつだった。
いいやつだったからか……半年後には任務先で一般人を庇って一般人共々死んでしまった。
もう一人の女の子は儚いという言葉が似合う子だった。生きることどころか未来も諦めていて……あぁ、この子も私と同じかな?と出会った時に思った。秋になり16になった途端……家からの急な呼び出しで女の子は戻らなくなった。その後、風の噂で死んだと聞いた。
同期と呼べる存在を一年も経たずに亡くしたが不思議と悲しいとは思えなかった。
あぁ、欠陥してるな……と思ったもののこの世界じゃ当たり前だと受け入れているので、生きていれば任務して、食べて、排泄して、寝る人生を繰り返すだけ。
つまらないなぁ。つまんない生き方だ。
悲しみも喜びも楽しみも怒りもない。
私という人間は酷くつまらない中身の無い人間だ。
こんな人間の一人や二人、いなくたって世界は変わらずに回る。
代用の人間で回る。私じゃなくてもいい。
わかっていても求められれば答えてしまう。そう、インプットされた人形みたい。
あぁ、空が綺麗だ。
ボーッと手を伸ばすが雲一つ無い青空は遠くて自身の指先が視界に映るだけ。
あ、指先が乾燥でささくれている。こんなの見つかったら私の価値がうんたらかんたらとうるさいやつに見付かると面倒だな。後で手入れしなきゃ、とどうでもいい事へ思考を飛ばす。
けどまた任務に行けば疲れてしまい手入れなんて忘れてしまうんだろうな。
案の定、携帯に任務の連絡が入って特に準備も無いので駐車場へ。
見慣れた補助監督さんに手渡された任務内容の情報へと目を通す。
追加で告げられる情報に気の抜けた返事を返しつつ、都内の廃墟のビルへ。
補助監督が帳を降ろせば沸き出る雑魚。
それらを片付けて本命を探して片付けて。
毎日毎日変わらない日々を過ごし、卒業後は見知らぬクソみたいな男と結婚して、子供を産んで、家に尽くして死んでいく。
未来などあって無いような生活。
なぜ、私は息をするのか。
なぜ、私は生きるのか。
なぜ、私は死を選べないのか。
クソだと、未来がないと絶望し諦めているくせに死に急いでいるのに死を恐れているだなんて矛盾している。
任務終わりの空は変わらず綺麗で憎たらしい。
「初めまして、苗字先輩」
2年目。
入って来たのは三人の後輩……らしい。
入学から短期間で異例の実力を示していると噂で聞いた。
会ってみたいと思ってはいたが、まさか己の階級違いだった任務の助っ人に来られてあっさり助けられてしまった。
「手を貸しましょうか?」
「頼むよ」
お団子頭のキツネのように人を化かす才能に溢れた男に手を差し出され、大人しく掴む。
派手に吹き飛ばされめり込み頭も背中もぶつけて全身が痛い。
「先輩、ちょっと失礼しまーす」
泣き黒子がエッチな女が身体に触れる。
温かさと共に痛くてダクダク出血して熱を持っていた全身から痛みが消えていく。
高度な反転術式だな、と身を任せていれば緊張の糸が解けてうつらうつらと眠気に襲われる。
「あんな雑魚に手間取るなんてたいしたことねーんだな。セーンパイ」
救助と共に建物にどでかい穴を開けて登場し、あっさり祓ってしまった。
あっさりのわりにド派手に周囲を半壊させた犯人である白くてデカイ男は悪びれた様子はない。
「………」
手を、伸ばした。
「何?」
真っ暗な光を遮るガラスの向こう側に空があった。
思わず伸ばしてしまった手は何も掴めず、かといって伸ばしてしまった以上何か……と思って、ふと思い出す。
「………こども」
「子供?」
「あっち……」
指差した方向に顔を向ける三人。
スタスタと歩いて行ったから空が無くなる。
油断していたわけでもないし、報告が無いとかよくあること。情報の誤差にいざ現場に入って文句は言えない。文句を言う前に生きるか死ぬかだから。
生きて文句を言えたらラッキー。まぁ、上に報告がいったところで鼻で笑われて終了だ。
手こずりはしただろうけど、ここまで手負いの傷は出来る予定ではなかった。
「………多分、駄目だろうけど」
「…………」
「五条」
「イタ。けど無理」
「先輩……」
気付くのが遅れたのはその子が瓦礫に埋まっていたから。何をしていたのか、なぜそんなところにいたのか、いつから居たのかはわからない。
手を伸ばして生きようとする小さな手。
目の前に迫る死を天秤にかけ……迷った。
迷った結果、子供は潰れ私は重症。
最悪の後輩との初対面。
……だったはずなのに。
思いの外、後輩達は普通だった。
私を見かければ挨拶をし、お団子頭の夏油とは当たり障り無い会話をするようになったし、なんなら任務が被ることも増えた。
泣き黒子の家入とは女子寮でよく会うので自然と会話をしていたし、酒盛りや煙草のやり取りをした。
五条は会うたび生きてて良かったね、ざぁこと遠回しだったり率直に言ってきた。
まぁ、嫌われていないのかな?と思って私も普通に接した。
良くも悪くもチグハグでありながら、上手く噛み合った三人だと思った。
一般家庭のせいか、清く正しくあろうとする優等生として模範生な夏油。
自身のやるべき事を理解している家入。
呪術界の闇を見て、己の立場や地位や力を理解し抗いねじ伏せようとする問題児な五条。
すれ違いそうなのにうまい具合に噛み合っているから壮絶な喧嘩はするものの笑って過ごせる後輩達が羨ましかった。
「苗字先輩の代は先輩だけなんですか?」
「そだよ。私以外は死んじゃった」
スパーと、紫煙を吐き出しながら言えば何とも言えないような表情をする三人。
「一人は正義感の強さで、正しくあろうとして一般人守ろうとして死んじゃった」
「………」
「もう一人は16になってお家事情で結婚させられたけど旦那に殺されたな」
「うげぇ」
「生き残ったのは中途半端な私だけってこと」
面白い話ではないが、よくあること。
くすり、と笑って後輩達を見る。
「お前達が羨ましい」
私は楽しさを共有する友も
悲しみを共有する友も
生き抜いて喜び合う戦友も
背中を預ける仲間もいないから。
「お前達は互いに支えあって生き残りな。
……一人は、寂しいよ」
経験談だ、と笑えば微妙な顔をした三人がいた。
3年目。
また後輩が二人入って来たらしい。
元気な子とクールな子。
どちらも礼儀正しく一つ下の後輩達よりは随分と可愛げがあった。
「先輩」
「オレらも可愛いじゃん」
「可愛いの塊じゃないですか」
「ハイハイ。可愛い可愛い」
懐かれる要素があったとは思えないが、一つ下の問題児扱いされる後輩達とは上手くやっているつもりだ。
二個下の後輩達は対照的な反応を見せていて思わずクスリ、と笑ってしまう。
「灰原、七海。
頼りない先輩にはなるけれどよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします!」
「……よろしくお願いします」
私が一年の時は上の学年も少人数でかかわり合うことなんて無かった。
だから、一つ下の後輩達が楽しそうに私や灰原や七海を誘って騒ぐ日々に少しだけワクワクしたし、楽しかった。
夏油や家入が一般家庭の遊びだと五条に面白いことを囁く。
すると五条は得意気に灰原や七海や私に楽しそうにしながら話す。それに対して七海がキレの良い正しい正論をぶつけたり、灰原がキラキラとした瞳で五条を馬鹿に……しているつもりがないだろうが五条を黙らせる。
そして拗ねる五条を夏油と家入が指差して笑うんだ。
殺伐とした毎日の中、この一時は楽しいと、幸せだと思えるようになった。
「先輩」
「何?家入」
「楽しいですか?」
「楽しいよ。
毎日楽しくて……困ったなぁ」
「?」
「ますます死ぬのが惜しくなる」
私の言葉に家入が指先を掴んできた。
「一人は寂しいです」
「そうだね」
家入が何を思ってそう言ったのかはわからない。
煙草を咥えて火をつければジトリと見つめられたのでぐしゃぐしゃと頭を撫で回す。
「私が居ますよ。
先輩が怪我したら、死なないでいてくれたら私が治しますから」
「そりゃ頼もしい」
いつの間に来たのか……口に咥えていた煙草を奪われ、夏油が口にする。
手慣れたように吐き出された紫煙は慣れていた。
「苗字先輩が駄目な時は私が助けに行くよ。
その代わり、任務中は弱くても私の背中くらい守ってくださいね?」
急に頭に何かが置かれたと思ったらガシガシと乱暴に頭を撫でられ、額をデコピンされる。
黒いガラスの向こう側に空がある瞳をニヤつかせる五条。
「寂しがりか?
仕方ねーから守ってやるし、寂しくないよーに俺らが遊んでやるよ」
私の発言をどう受け取ったのかわからないが……"一人じゃないだろ"とでも言いたげに不器用ながらに気に掛けてくれているのかと思うと心がふわふわと暖かくなった。
いつの日からだったろうか。
気付けば、隣には誰かしら居たと思う。
朝起きて、家入とボーッとしながら寝癖をつけたまま一緒に起きることが増えた。
夜にお互いの部屋を行き来して、お酒や煙草を楽しみそのまま寝入る。
一人だけの温もりだけじゃなく、誰かが隣で眠る温かさが心地よい。
任務に行く時いってらっしゃいと。
帰って来ておかえりなさい、と言ってくれる。
任務に行けば夏油や五条と組んで行くことが増え、私いらないんじゃ?とか思うほどあっさり終わる任務。そしてあっさり終わったなら早く帰れるのにあそこへ行こう、ここへ行こうと遠慮などせず人の腕を掴んで振り回す大男二人に敵わずついて回る。一人での任務もあるが、今までなら真っ直ぐに帰っていたのにお土産コーナーに寄り道する事が増えた。
お土産を持って帰れば後輩達はそれぞれ文句やら感謝やら悪態をつきながらも受け取ってくれるのでまた心がふわふわした。
当たり前じゃない事が増えていき……
いつの間にか
当たり前になっていった。
当たり前は突然壊れてしまう。
夏油と五条が特別な任務につき、失敗したと聞いた。
極秘扱いの任務内容を知る者はいない。
そのあとから後輩達はバラバラとなってしまった気がする。
忙しかった、と言ってもいい。
それぞれの歯車が噛み合わず、誰もが違和感に気付ける余裕などなくなっていった。
4年目。
歯車は壊れ、バラバラに。
私は高専から追われる身となった。
「………………」
「おや、目が覚めたかい?」
目元をささくれた指が滑る。
泣いて………いたのだろうか?
泣いているつもりはないが、馬鹿になっている涙腺は涙を溢れさせ流している。
「悲しいかい?」
「……懐かしい、夢を見た」
「幸せな夢?」
皺が増えた後輩は眉を下げて微笑む。
あの頃よりも伸びた髪は彼の娘達によっていつも綺麗に手入れされているからサラサラとしている。
「老けたなぁ」
「人聞きが悪い。年を重ねたと言ってくれないか?」
「あの頃より胡散臭さが増した」
「聞いてるかい?」
「………幸せか、不幸せかと問われるとわからないな」
君のいる世界で笑ったこと。
君の見る未来を恨んだこと。
「苗字先輩」
「ん?」
「戻りたいですか?」
自信を無くしたような後輩に私は笑う。
サラサラの髪をわざとぐしゃぐしゃと豪快に撫でる。
「後悔なんてしていない」
「………」
「君が背負うもんじゃない。
私は私がやりたくて、私の為にしている。
その為に君と居ることが都合が良かった」
「………苗字先輩は不器用で愚かですね」
「そっくりそのまま君に返すよ、夏油」
幸せか?
あぁ、幸せだとも。
君がいるこの世界で君と出会えたことが。
不幸せか?
あぁ、不幸せだ。
君の見る未来に私はいないのだから。
それでも
それでも、だ。
君の声
温もり
態度
愛のすべてが…
「愛している」