幼馴染は生き残りたい
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「うん、うん。あ、マジ?
そしたら硝子と華に声掛けて……え?華が迎えに行ったの?うわっ、あの子大丈夫?
ーーーあぁ、なら心配無いね。わかったよ」
ブチリ、と切れた電話。
目の前では丁度実習の終わった一年生三人。
「先生、電話終わった?」
「お疲れ〜!今日は予定変更!学校帰りまーす!」
「ちょっと。今日のご飯は?焼き肉じゃなかったの?」
晩御飯を奢ると言っていたが、予定変更。
伊地知の待つ車に乗り込みちょっと寄り道。
「伊地知、肉屋寄ってね」
「肉屋……ですか?」
「うん。可愛い子が遊びに来るみたいだからいい肉食わせてやらなきゃ」
機嫌のいい僕に生徒達は頭を傾げる。
伊地知はピンッときたのかいつもより嬉しそうに笑ってわかりました、と言った。
お高い肉を買い高専に戻れば、ギャーギャーと騒がしい。
「ちょっっっっと!!!
ウチの子をその汚い手で触るの止めてよねっ!!」
「穢らわしい」
「うっっわ、酷くなぃ?僕一応君らの育ての親だよぉ?」
「「黙れよビッッチ」」
白と黒のセーラー服姿の双子とスーツ姿の華が騒いでいる。双子の片方の腕の中には小さな赤子。
「はいはーい!ちょっと失礼」
「「あ"っ!?」」
「うわっ、ウケる。この子クリソツじゃん」
「五条悟は触んな!!」
「穢れる」
「見事な遺伝子を感じるよねぇ」
こんなに騒いでもスヤスヤと眠る図太さ。
前髪だけ異様にしっかりしている。
「あの子は?」
「硝子ちゃんと密会中!」
「ふーん。そう」
「おやおやぁ?五条くーん、お顔がニヤニヤしてますよぉ」
「五月蝿いよ」
ニヤニヤしながら此方を見上げる華の頭を叩く。
「「五条悟っ!!大事に抱けぇっ!!」」
「はいはい。過保護だな」
双子が額に青筋を浮かべながら吠える。
全く、お宅の猛犬の躾どーなってんの?と頭の中で飼い主へ苦情。
ふにゃふにゃで柔らかな赤ん坊を片手で抱きながらスタスタと硝子の居るであろう客室へ向かう。
「やほ!元気にしてた?」
学長と硝子と共にいた彼女へ声を掛けると、彼女はふわりと笑った。
一年生達は困っていた。
目の前には見たことの無い女子が二人。
ジロジロと此方を睨み付けるように見ている。
「……んだ、アイツら」
「釘崎、どぅどぅ」
「ガン付けられて黙ってろってか?あぁん?」
「釘崎さーん、めっちゃ田舎者丸出しぃ」
「うっせぇ!!女子には殺らなきゃいけない戦いがあんだよ!」
「どこのヤンキーだよ」
虎杖に押さえ付けられつつも、今にも喧嘩を買いそうな釘崎。
伏黒は我関せず。
「ちょっと恵。ソレが宿儺の器?」
「…………」
「え?何々?伏黒の知り合い?」
「おぅコラ。何関係ねぇって面してんだ伏黒ぉ」
女子達から見られ視線を逸らす伏黒。
「伏黒?」
「………宿儺が呪肉した虎杖。双子」
「んな説明で解るわけねぇーーーダロッッ!!!」
釘崎の跳び蹴りが伏黒の背中に炸裂した。
ケラケラ笑う竈門の声が響く。
「まぁ、完結に言うとぉ
此方、僕らの同級生が囲ってる呪術師の卵の双子ちゃん。
こっちのぉウルセーのがぁ菜々子ちゃんでぇ、こっちのぉ静かだけど毒吐くのがぁ美々子ちゃん。
この子らがぁ、ちっさい頃僕がお世話しましたぁ!」
「処す」「吊るす」
「めちゃくちゃ嫌われてるじゃない」
「竈門さん双子にちょっかい出しすぎて嫌われてんだよ。
ちなみに本当の育ての親は別な人だ」
「愛なのにぃ。
でぇ、こっちの三人……伏黒くんは置いといてぇ、田舎から出て来た宿儺の器虎杖くん。そして田舎から出て来た釘崎さんだよぉ!」
「田舎からいらなくね?」
「釘打ち込むわよ」
「ちょっとアンタ」
「何だよ」
「田舎って言うほど田舎でもないでしょ?」
「近所のジジババが勝手に祝うレベルだぞ」
「地図に載ってない」
「バスなんか2時間に一本だし、電車も同じだよ」
「芋料理ばっか」
「村八分」
「虫ヤバいしデカイわよ」
「「「…………」」」
ガシッ、と握手した三人。
「釘崎野薔薇よ」
「菜々子」
「美々子」
「………何あれ?」
「俺が知るか」
仲良しになった。
そこへ、駐車の終わったら伊地知がやってくると、伊地知を見るなり駆け出した竈門が勢いのまま抱き付く。
「きっよたっかきゅーーーーん!」
「ひょえっ!?は、華さん!!あああああ、危なっ」
「潔高潔高潔高潔高きーよーたーかーっ!!!」
「はいはい。華さん落ちついて下さいね。
五条さんは?」
「硝子ちゃんとこぉ」
「なるほど。では皆さん、あちらへ」
竈門を背中に張り付けズルズルと引きずる伊地知。
見慣れた光景とは言え、いつもながら何とも言えない気持ちとなる。
「伊地知さん、何で竈門さんなんか選んだのかしら?」
「さぁな」
「あのビッチ制御出来るの伊地知さんくらいだからじゃない?」
「うん」
「伊地知さーん!俺らどこ行くの?」
「実家!」
「「じっか?」」
頭を傾げる虎杖と釘崎。
ひとまずお腹が減ったので伊地知と竈門の後を着いていく事に。
二人が案内したのは一件の古民家。
ただいまー、と中に入っていく双子と伏黒。
伏黒!?と思ったものの、一緒にコソコソと中に入れば……パタパタと炭を起こしている伏黒の父、甚爾がいた。
「「おばぁ、おじぃただいま」」
「ただいま。吾朗さん、梅さん」
「恵、パパに挨拶しろや」
「うるせぇよ」
勝手知ったるなんとやら。
我が家のように各々が寛ぐ姿に呆然とする虎杖と釘崎。
奥からドタドタと慌ただしい足音が。
「まぁ〜てぇ〜!!」
「しゃけしゃけ!」
「い"や"ぁあ"あ"あ"あ"あ"っ!!」
小さな少年がマジ泣きしながらダッシュで走ってくる。その後ろをニヤニヤとしながら追うパンダと狗巻。
双子の足元に逃げ、ベソベソしながらパンダと狗巻を睨み付ける少年。
「美々、菜々!化物!化物がいるぅっ!!」
「ウチの子脅すなら処すぞ」
「吊るす?」
「そんなマジになんなって」
「おかか」
双子に威圧され、タジタジとなる二人。
「オラッ、オマエらふざけてないでさっさと準備しろ」
「真希さん……」
「パンダと棘はテーブル出せ。一年はコレ運べ」
真希に言われ、テキパキと動き出す。
気が付けば民家でBBQが始まった。
「んで、ここ何処?どなたの実家?」
「伏黒も顔見知りだしどーなってんのよ」
もきゅもきゅと焼き肉を食べながら伏黒に問う。伏黒は肉を頬張りながら面倒そうにしている。
「あの双子の育ての親の実家」
「って事は竈門さん?」
「違う」
「竈門さんはちょっかいかけてただけって言ってただろ。
アンタは?何で馴染んでんだ?」
「俺も此処で一時期世話になったし、親父が勝手に今も住み着いてる」
「「………甚爾先生」」
ゴロゴロと縁側に転がり酒を呑んでいる。
一番寛いで見えるのは間違いじゃない。
「どんな人?呪術師?」
「いや、非呪術師。旦那は呪術師だけど」
「非呪術師の家を溜まり場にするって駄目じゃないの?」
「許可は降りてる」
「んー……あ!いや……」
「何よ」
「さっき五条先生赤ちゃん抱っこして行っちゃったから五条先生の奥さん?って思ったけど、五条先生結婚してないよな……と思って」
「五条先生ではない。……けど、五条先生の初恋の人ではある」
「「初恋!?」」
思わぬ言葉にワクワクしてしまう。
「そう!此処はぁ五条くんの初めての淡い恋のお相手の実家なのさぁ!!」
「うわっ!?竈門さん?」
「……酔ってるわね」
「あれは僕らが素晴らしくも残酷な青春を過ごしていた時の事……五条くんは同級生の彼女に恋をしてしまい……」
「華、それ以上話したらマジビンタ」
「あだだだだだっ!!ストップ!五条くんストップ!君の握力はシャレになんない!!」
いつの間に現れたのか、竈門の頭を鷲掴みミシミシと音が聞こえそうなほど力を込める五条がいた。
その片手には小さな赤子がスヤスヤと眠っている。
「伊地知、ちゃんと首輪して躾といてよー」
「すいません!すいません!」
「でも本当の事だろう?」
「……硝子も黙って」
「ごめんなさい、五条さん。悪いけど私には心に決めた夫がいますので」
五条の後ろからクスクス笑って現れた女性。
五条の隣に並びニヤニヤとしながら思ってもいない言葉を口にする。
「止めてよ。僕の純情な心に傷付けるの」
「どちらかと言えば五条さんの初恋のお相手は私の旦那ですもんね」
「もっとややこしくしないで。お願いだから」
「おばぁちゃん、おじぃちゃんただいまー」
五条から赤子を受け取り家の中へ。
双子と少年が女性へと駆け寄ってそれぞれ女性の衣類の一部分を掴んでいる。
「おかえり、名前ちゃん」
「おかえり」
名前にアレコレ三人が口々にあったことを話すのをうんうんとにこやかに聞いている女性をじっと見る虎杖と釘崎。
赤ん坊は揺りかごのようなものに入れられ、祖父と祖母が表情を緩ませて見ている。
女性は甚爾に気付き、そして伏黒と虎杖と釘崎を見るなり近付いてきた。
「恵くん、大きくなったねぇ!」
「お久しぶりです、名前さん。
産後の体調は大丈夫ですか?」
「このとーり!入学式見に行けなくてごめんね」
「平気です。高専に入学式とか無いんで」
「ふふっ、ちょっと見ない間に大きくなったね」
よしよし、と頭を撫でる名前に大人しく撫でられる伏黒。
あの伏黒が大人しく!?と目が離せない虎杖と釘崎。
その視線に気付いた名前がニコリと笑う。
「えーっと、初めまして。
夏油 名前と申します」
「どうも!虎杖悠仁でっす!」
「釘崎野薔薇よ」
「五条くんから聞いてるよ。
今日は遠慮せずガッツリ食べてお腹いっぱいにしてね」
「いや、でも……」
「大丈夫。お財布はうちの旦那と五条くんだから」
ケラケラ笑う名前に遠慮を考えたものの、五条のお金ならばと遠慮なく食べに行った釘崎と虎杖に伏黒も続く。
「酷くない?少しは遠慮しよーよ」
「五条さん独身だから痛みませんよね?」
「うわっ!?聞いた?硝子この子酷くない?」
「名前がクズなのは昔からだ」
「むしろケチる五条くんダッサァー」
「はぁあ!?そんな事言うならこの高級なお肉様は渡しませんっ」
高級肉、と聞いて飛びかかったのは狗巻、釘崎、虎杖。
しかし大人気なくひょいひょい交わす五条。
「ガキか」
「ガキだねぇ」
硝子と竈門が呆れた顔をしている。
生徒からも呆れられるなか、お肉片手に逃げ回る28歳。
「ほーらほら!僕から取らなければこのお肉様は当たらないよー」
「大人気ないっ!!」
「クズの中のクズ!」
「おかか!明太子!」
「何やってるんだ、悟」
スパーンッ、と五条の頭を叩く男性。
ハーフアップに男性にしては長めの長髪を流している。
全身黒のウィンドブレーカーで黒い手袋をした細目、塩顔のガタイのいい男は虎杖と釘崎にとっとは初対面の男だった。
「いたぁ……」
「ただいま、名前」
「おかえりなさい、傑」
五条から肉を奪い、流れるように狗巻の手へ。
そして手袋を外しながら名前の元へ行くと、チュッチュッと顔中にキスを落とす。
名前も名前でくすぐったそうに笑っていたと思ったら首に腕を回し、唇に軽く口付ける。
2人で頬を撫でながら抱き合う2人は周りなど気にしていなかった。
「ママ、パパ!」
「ただいま。いい子にしていたかい?」
「僕いい子!」
2人の世界へと飛び込むのは、幼い少年。
傑に抱かれ、首に力一杯抱きしめくっつく姿は心が和やかになる。
そこに赤ん坊を抱いた双子も加わる。
「夏油様、次は私達も連れてってくださいね!」
「2人とも名前に付き添っててくれてありがとう。華は不安要素しかないから助かったよ。
名前、ごめんね。悟のせいで急だったから」
「僕のせいかよ」
「キミの任務が回って来たんだからキミのせいだろ」
「たまには働いてくれてもいーじゃん!」
「産後のまだ不安定な時期に妻と子供を置いて出張に行けと?断る」
「オマエのせいだぞ五条悟」
「足の小指ぶつければいい」
「ふざけんな」
バチバチとにらみ会う双子+傑vs五条。
赤ん坊と少年と名前は和やかにまたやってる、と笑っているか寝てる。
このカオスな状況に虎杖と釘崎はついていけず、ぐいぐいと伏黒を引っ張り指差す。
「………あの人、夏油 名前さんは特級呪術師の夏油傑さんの奥さん。
抱かれてる子供は長男と、つい最近産まれた次女。
双子は夏油さん達に引き取られて一緒に住んでる」
「「情報量の多さっ」」
「ちなみに五条の初恋相手だ」
「「どっちが!?」」
「どっちもだねぇ」
「「はぁ!?」」
硝子と華が追加する情報に、アレコレ妄想をしてしまうが……結果的に、夏油夫婦がヤバい?となった。
五条は元々ヤバい奴なので今さらだ。
「五条さんよりはまともに見えるがヤバいのは夏油さんだ」
「どっちもクズだ」
「クズを煮詰めたクズだよぉ」
「女子のスカート穿く馬鹿とどっちがヤバいかしら?」
「夏油はそんな事しないな」
「そうだねぇ。むしろぉ、年頃の双子ちゃん達がいるから五条くんを軽蔑するよぉ」
「じゃあ夏油さんってまとも?」
「「嫁が関わるとポンコツ」」
五条と睨み合っていたが、名前が傑の頭を撫でるとすぐにコロッと破顔し、片腕で子供を抱き、もう片腕で名前を抱き締めながらスリスリと頬擦りする。
双子も傑と名前へ抱き着き何やら幸せそうだ。
その姿に五条が嫌そうに顔を歪めるので、甚爾が野次を飛ばす。
「やーい、独り身独り身」
「うっさいし!!ヒモは黙っててくんない!?」
ケラケラ笑う甚爾に噛み付く五条。
生徒達はお高い肉争奪戦を開催している。
賑やかな晩御飯となった。
10年。
あれから、10年経った。
幼馴染は旦那となった。
もう原作知識はあやふやだし、あまり覚えていない。
傑が死ぬはずだった去年……傑は関わることなく死んでいない。
脳ミソに身体を乗っ取られるだなんて事もなく幸せに過ごしている。
コロコロされる事なく、傑と傑の仲間と共に子育てをしながら穏やかに過ごしている。
子供達を寝かせ、下に降りればおじぃちゃんは潰れていた。
華ちゃんはほろ酔い、硝子ちゃんと甚爾さんと傑はケロッとしている。
五条は相変わらずノンアルだ。
此方に気付いた傑が手招きするので傑の隣へ。
「寝たのかい?」
「うん」
「お疲れ様。毎日ありがとう」
「傑もありがとう」
すり寄ってきた傑に私もすり寄れば、にこりと笑って膝に乗せられる。
抱き締めてきた傑に私も身を寄せる。
「おーい、イチャつくな」
「羨ましいかい?」
「クッソムカつくからドヤ顔止めて?」
「………負け犬」
ボソリ、と甚爾さんが呟きおじぃちゃんを抱えて運ぶ。部屋から出ていく間際呟いた言葉に五条の額に青筋が浮かぶ。
「僻みだな」
「やーい、負け犬負け犬ぅ!!」
「うるっっさいよ!!」
硝子ちゃんと華ちゃんに冷やかされ、ノンアルを口にする五条。
「「「あっ」」」
「?」
イッキ飲みした五条はそのまま倒れた。
顔を真っ赤にしてぐでんぐでんだ。
「間違えたな」
「弱いのにねぇ」
「お布団どうしよう?」
「座布団でもかけとけばいいさ」
ばふっ、と五条に座布団を投げた傑。
うんうんと唸った五条はそのまま寝息を立て始めた。
「そろそろお開きだな」
「潔高くんに連絡するぅー」
「まさかあの華が伊地知と付き合うとは……」
「世の中わかんないものだな」
「えっへっへー」
そう。驚くべき事に華ちゃんが……あの、華ちゃんが伊地知くんと付き合った。
童貞狩りだと騒ぎ数多の陰茎を食い散らかしていた華ちゃんが、だ。
10年の月日は人を変える。
「夏油くんだって非術師狩りするかと思うくらい一時ヤバかったくせにぃ!」
「今も嫌いだよ」
「矛盾してんな」
「名前は別。猿共と同じにしないで」
「愛だな」
「愛だねぇ」
「愛だよ」
お腹に回る腕。
傑の頭を撫でれば頬に何度も口付けてくる。
「くすぐったいよ」
「本当なら今日は家族でゆっくり過ごす予定だったのに。時間が減った」
「仕方ないよ」
「体調は?」
「私は大丈夫」
「まだ日も浅いんだから無理してほしくないんだよ」
産後1ヶ月経ったというのにこの過保護さ。
まだダルい事もあるが、周りが何もさせてくれないので楽なものだ。
「「ゲロ甘」」
「そう?普通の事だろ?」
「夏油、重い」
「夏油くんキモイよぉ。束縛じゃん」
「そんな事ないよね?名前」
「んー……傑が幸せならいいかなぁ、と」
「名前……」
「「毒されてる」」
うっとりと嬉しそうな顔をしてすり寄る傑の頭を撫でる。
今日の実家帰省は予定外だったので心配性の傑には耐えられなかったのだろう。
まぁ、おじぃちゃんとおばぁちゃんに会いに行ける口実になったので私としてはラッキーだった。
「相変わらずだな」
「夏油くんを甘やかし過ぎだよぉ」
「そうですかね?」
「けど羨ましいぃ!!私も潔高くんと結婚してラブラブな家庭を作りたいっ!!」
「伊地知は忙しいからラブラブとは程遠いいな」
「だね」
「ゴムに穴開けて既成事実を……!!」
「竈門さん、それは良くない」
「なんだよぉ!!夏油くんだって似たよーな事してんじゃん!!
半年後の再会から2ヶ月後には子供出来てるってそーゆー事じゃん!」
「私達は合意の上だし、ちゃんと籍入れてから発覚したんだよ」
「僕らも結婚するぅぅううううっ」
酔っているのだろう。
泣き叫ぶ華ちゃんはえぐえぐしている。
ピンポーンと玄関からチャイムが鳴るので傑が見に行ってくれた。
「潔高くんの事こんな愛してるのにぃぃいいいっ」
「はいはい。華、帰るぞ」
「嫌よぉ!!潔高くんがお姫様抱っこしてくれなきゃ嫌ぁぁああああっ」
「だってさ。悟は私が車に乗せるから頼んだよ伊地知」
「……………は、はぃ」
五条を担ぎ、スタスタ歩きだす傑。
硝子ちゃんはさっさと玄関へ。
グズる華ちゃんを伊地知さんは軽々と抱っこしていた。
「では、お世話になりました」
「はーい。伊地知くんも大変だろうからちゃんと食べて休んでくださいね」
「ありがとうございます」
「名前、悟を教師寮に投げてくるから少し待っていて」
4人を見送り静かになった実家を片付ける。
落ち着いて子供らの様子を見て、ぐっすりなので茶の間で待つことに。
再会したあの日、傑に抱き潰され傑の予定を全て無しにし連れ帰った。
家に入るなり私の両親の顔を見るなり「娘さんをいただきました」と言い、父は崩れ落ち母は笑った。
双子は久々の傑に泣きながら抱き着き、置いていかないでと張り付いた。
カオスな家の中、テーブルを叩き場を沈めたのはおばぁちゃん。
「傑くん」
「はい」
「貴方がどういった経緯と考えがあって双子ちゃんや名前ちゃんを置いていったか聞かないわ。
貴方には貴方の考えがあるし、悩みがあると思うの。
でも、一つだけ聞かせてちょーだい」
穏やかな声。
でも、おばぁちゃんはにこりともせず真っ直ぐに傑を見ていた。
「私の孫は貴方と居たら幸せに笑っていられる?」
「わかりません。泣かせる事もあると思います」
「………」
「でも私は名前が居ないとこの世界で幸せにはなれません。
私は私の幸せの為に名前が欲しいです」
「それが、貴方の気持ち?」
「えぇ。
どうか私に名前と歩む許可を頂きたい」
キチッとした姿勢で深く頭を下げる傑。
和気藹々としていた場が静まる中、私も傑の隣に腰を下ろし、姿勢を正す。
「苦労はすると思うし、嫌になることもあると思うけど……傑以外の人は考えられない。
まだみんなの半分も生きていない若い私達が将来を決めるのは早いと言われても仕方がない。
でもね、決めたの」
頭おじぃちゃん、おばぁちゃん、両親の顔を見る。
誰もが不安と寂しさと嬉しさが混ざって見える。
反対されているわけではない。
なら、私は………笑顔で、彼らに伝えたい。
「私、傑と生きたい」
「………そう。」
「迷惑かける事も、手を借りる事もあると思う。
私達はまだ社会的に大人と呼ぶにはまだ子供だから。
その時はどうか……みんなに甘えさせて下さい」
手を畳につきながら頭を下げれば、傑の手が重なる。
大きくて、がっしりした手が微かに震えていた。
「勿論よ」
「いつでも頼って頂戴」
「小僧。泣かせたらわかってるな?」
「………名前〜〜〜っ」
母さん、おばぁちゃん、おじぃちゃん、父さん。
誰もが笑っていた。
傑の手を握り締めれば頭を上げ、弱々しくもほっとした表情の傑がいた。
それから傑の実家にも行き、挨拶をして私達は保護者達からの証人のサインを貰い入籍した。
入籍して傑の拠点に移る際、双子からの強い要望により双子を引き取り私達と一緒に暮らすことに。
手続きは大変だったものの、何とか一緒に暮らせる事となり双子達は大喜び。
小学校の手続きとか、名義変更とか、印鑑やら……本当大変だった。
その1ヶ月後には体調不良で倒れ、傑を心配させてしまった。
手続きで役所やその他駆け回った心労かと思っていたら、まさかの妊娠が発覚。
傑と双子は大喜びでお祝いをした。
お腹の中で人が育っていく過程を傑と双子はずっと見て来た。
具合の悪さに起き上がれない日々。
それでも病気ではないからと動くが、傑も双子も君達が具合悪いの?ってくらい青ざめて情けない顔をしながら色々手伝ってくれるようになった。
平らだったお腹は少しづつ膨れていく。
毎回見せる人の形となっていくモノクロのエコー写真。
お腹を触ればポコポコと動く胎動を感じた時は私よりも傑と双子が喜んでいた。
いざ、出産の時は初産でなかなか産まれず……産まれた我が子を抱いた傑はボロボロと涙を流していた。
"ありがとう……名前"
泣きながら笑った傑にキスされ、私も泣いた。
後日、赤ちゃんを見に来た双子達も泣きながら赤ちゃんを抱いて……私は彼らに少しでも人は温かくて愛しくて大切だと伝えられたかな?と思うと泣いた。
家族4人で和気藹々と過ごし……気付けば10年。
傑は今でも私を溺愛してくれているし、双子や傑の仲間も離反することなく過ごしている。
高専とは別の組織を立ち上げてしまった傑は呪術界的には目の上のたんこぶみたいな存在だったが……ぶっちゃけ仕事は個人でわんさか入ってくるし、お金もザクザク入ってくるし、ブラック企業ではなくクリーンな時間で働いているので過労とストレスと死にたくない者達が流れて来て、非呪術師と呪術師と呪詛師の架け橋みたいになって潰すに潰せず。
好き勝手しながら呪術界に革命の風を吹き込んでいる。
五条と傑は和解した。
殴り愛という素晴らしきガチンコバトル。
山が消し飛んだらしい。
そんなこんなでまぁ……コロコロされるどころかニャンニャンゴロゴロと甘やかされること数十年。
私は傑の隣で幸せに生きている。
「ただいま」
「おかえりなさい」
音もなく後ろから抱き着いてきた傑。
よしよし、と撫でればすり寄ってきてトロトロに甘くふやけた顔をされてみろ。
めっちゃ絆される。
振り向いて両手を腰に回しギュッと抱き締めたらクスクスと笑う傑に撫でられる。
「誘われてるのかな?」
「流石に実家では誘わないよ」
私も笑って傑の柔らかくも弾力のある胸元に頭を預ける。
手の届く位置に居てくれる傑に、幸せだなぁと思ってしまう。
「甘えん坊の日?」
「うん。久しぶりに皆に会ったから……懐かしいな、と思って」
「そうだね」
「……ねぇ、傑」
「ん?」
私は幸せな日々を過ごしている。
私と傑が幸せな分、世界のどこかで誰かが不幸になっているかもしれない。
原作の知識とは違ったこの世界。
何が起こるかわからない未来。
それでも…………
「傑、傑」
「どうかした?」
手を伸ばせば側に居る傑に安心する。
幸せで幸せで、後からどっと怖いことが起こりそう。
傑に何度も啄まれるようにされるキスがくすぐったい。
傑の首に腕を回せば嬉しそうに笑って頭を固定されながら唇をゆっくりと重ねる。
「大好き」
「…………名前」
「だーめ」
熱がこもり、その奥にはギラギラと荒々しい瞳にお腹の奥がキュンとする。
「帰ったら覚えてなよ」
「忘れた」
「ほぼ一年我慢してるんだから」
「その間に何度かしてるじゃん」
「足りるわけない」
「絶倫」
「名前の全てを何度愛しても足りる事などないさ」
「私からの愛足りない?」
部屋に戻る前に不安になって聞けば、困ったように笑う。
「愛されたらもっともっとって止まらないだけ」
「強欲だなぁ」
「名前に関してはね」
にこりと笑う傑の顔が近付いてきたので、私も背伸びして受け入れる。
「愛してるよ、私の名前」
「傑」
珍しい人物に声を掛ける。
なかなか此方に顔を出さないので滅多に顔を合わせることが無いが、久しぶりに会えた友人の顔は無表情だった。
その理由を知っていながらニヤニヤと隠すこと無く友人の肩へと腕を回す。
「やあ、悟。お疲れ」
「おつー。今日は定期報告?」
「そんなところ。
書面だけじゃ駄目なんて時代遅れもいいとこだよ。仕方ないとはいえ、同盟を組んであげているのに自分達が上だと信じている質の悪さに吐き気がする。こちらに来る時は任務も入れられていい迷惑さ」
上っ面だけの笑顔。
その奥に隠された明確な殺意と嫌悪。
冷めたは瞳を見た五条はその姿に笑う。
「うわぁ、お顔こわぁーい!」
「可愛い可愛い嫁と離れたくないからって当たるな」
「当たりたくもなるさ」
「こっわー!嫁ちゃんが見たら恐怖で逃げられるよ」
「そんなわけないだろ。何のために長い時間掛けたと思ってる」
自然と集まった同期達。
家入と竈門もイラつく理由を知りながらニヤリとして近付き夏油の足止めに加勢する。
同期としての仲もあり雰囲気が多少和らぐものの、早く帰りたいであろう夏油をわざと引き留める。
「まともに見えて傑は僕よりイカれてるよね」
「そんなことないさ」
「だって僕、好きな子をそんな風に扱わないもん」
「サイコパスだと思いまぁーすぅ!」
「クズ」
「失礼だな。純愛だよ」
「歪みまくってんね」
「可哀想」
「クズ」
同期達からの容赦ない言葉を投げつけられるが、夏油は笑う。
強ばっていた顔もふわりと和らぎ肩の力を抜く。
「本当失礼だね。キミら」
「サイコパスなオマエに遠慮なんかいらないだろ」
「やーい!サイコパスサイコパス!」
「華シバくよ」
「……でもかなりサイコパスだと思うよ?
一般人の非術者を落とすためだけに呪術界に入るなんて」
「しかも呪術を使って本音まで引き出していたなんてクズの極みだろ」
「何でも無いから良かったけどぉ、下手すりゃ廃人だよぉ?」
にこり、と笑う夏油。
その微笑みに三人は口元をひくつかせた。
「たまたまさ。
たまたま、幼い頃に私の使役する呪霊が暴走してしまった時に聞いてしまっただけ。
まさか、妻に予知能力があるとは思って無かったけどね」
「「「うわぁ……」」」
「私も半信半疑だったし、本当かどうかなんて10年経たないとわからないだろ?」
「だからって普通それ試す為に10年以上かけて計画する?」
「完全にアウトだと思うなぁ」
「キモい」
「硝子、シンプルなのが一番傷付くよ」
傷付いた、なんて言いながらもクスクスと笑う夏油。
「私は私の愛を貫いただけだよ」
にこり。
そう笑う夏油に後悔の色などない。
「いいように転がされて可哀想に」
「やるなら徹底的にしなきゃ。これでもショックだったんだよ?
唯一無二の女の子から私だけは絶対に好きにならないなんて告げられたら。
しかも死ぬとか殺されるから逃げなきゃとか
幼心にグサッと」
「それに巻き込まれる僕ら災難」
「それなぁ!」
「ふふっ、ごめんね」
「とんだ茶番だったわけだ」
「………キミらと友人になれて良かったと心から思っているよ。
始まりは偶然の出来事だったけど……私はあの子以外いらないと本気で思っていたから。
キミらと出会えて、世界を知る事が出来た。
世界を広げられたこと、本音でぶつかれる友人達がいて良かった」
ふわり、と笑う夏油に三人も顔を綻ばせる。
「幸せになりなよ、傑」
「幸せにしてあげてねぇ、夏油くん」
「爆発しろクズ」
四人で笑う。
「そろそろ行くよ」
「たまには遊びに連れて来てよぉ!」
「気が向いたらね」
ひらひらと手を振りいなくなる夏油。
「可哀想」
「サイコパスに捕まったねぇ」
「真相を知らなきゃ当人らはラブラブで幸せそうだしいいんじゃない?
僕ですら後から暴露されて引いたけど」
「知らぬが仏、か」
「だねぇ」
死にたくないと嘆き、1人の運命を変えた物語。
その真相は…………。
あとがき
お付き合いくださりありがとうございました!
途中リアルで色々なことがあり、なかなか進まず更新できず申し訳ない思いとやる気がなくなりましたが……なんとか完結へ。
エロの長編……うかつに手を出すもんじゃないな。
エロの才能がないのに楽しさと勢いで書いたらネタに詰まるなんてw
それでも沢山の方々にコメントを頂けたこと、嬉しく思います。
本当にありがとうございました!
また、次もお付き合い頂けたらと思います!
「傑、あのさぁ」
「!?
名前っ!!」
「!?」
「名前、名前っ!?ごめんっ!ごめっ!!
医者……っ、硝子に……、、どうしたらっ」
「………な、きゃ」
「え?」
「私、本当はいちゃいけないから離れなきゃ」
「……名前?ねぇ、どうしたの?」
「傑は非呪術師が嫌いだから離れなきゃ。
私は猿だから傑に殺されてしまう。離れなきゃ。早く。けど、どーしよ。いや、離れなきゃ。五条悟に殺される傑を、離反してしまう傑を救うなんて無理だよ。
私は猿だから傑を変えられない」
「……な、に………言って」
「けど、やだなぁ。嫌なんだぁ。
人を殺す傑も、傑に殺されるのも嫌だなぁ。
私には見えないし力もないから何も出来ないモブなんだけどやだなぁ。傑には幸せなってほしいのに……やだなぁ。寂しいな」
「………」
「傑が好きだから離れたくないな。寂しい」
「………え?」
「ごめん。ごめんね、傑。
私が猿で、私達のせいで嫌な思いしてゲロ玉飲ませて守ってもらっていて。
傑だってまだ子供なのに守れなくてごめんね。
ごめん。ごめんなさい。ごめんごめんごめん」
「………名前」
「傑……私ね、傑に幸せになってほしい。
傑が幸せになって生きる未来がほしい。
傑が笑って生きる世界がほしい。
その世界に私が居なくてもいいから………願うしか出来ないけど、私みたいなモブがいるんだからきっと傑を救うヒロインがいるんだ。
だから、だからね
誰よりも長生きして、笑って、幸せになってよ。
私じゃ、なくて、ごめん、ね?」
そう言って寂しそうに笑って気絶した少女。
何を話しているのかわからない内容だったが……一つわかるのは、少女が離れようとしていること。
「………離れ、る?私から?」
許さない。
私を救うヒロイン?そんなものいらない。
私が欲しいのは彼女だけ。
私の大切なものは彼女だけ。
私の運命は彼女だけ。
「そんな事させるか」
手持ちの呪霊を見つめる。
弱いし使い道が無いと思っていたが……まさか、心理を告げさせるものだったなんて。
「ひとまず色々試さないといけないな」
手始めに……そうだな。
彼女が何かの拍子にこちら側に来れたら成功。
失敗しても本音は聞ける。
「絶対逃がさないから、覚悟しなよ」
そしたら硝子と華に声掛けて……え?華が迎えに行ったの?うわっ、あの子大丈夫?
ーーーあぁ、なら心配無いね。わかったよ」
ブチリ、と切れた電話。
目の前では丁度実習の終わった一年生三人。
「先生、電話終わった?」
「お疲れ〜!今日は予定変更!学校帰りまーす!」
「ちょっと。今日のご飯は?焼き肉じゃなかったの?」
晩御飯を奢ると言っていたが、予定変更。
伊地知の待つ車に乗り込みちょっと寄り道。
「伊地知、肉屋寄ってね」
「肉屋……ですか?」
「うん。可愛い子が遊びに来るみたいだからいい肉食わせてやらなきゃ」
機嫌のいい僕に生徒達は頭を傾げる。
伊地知はピンッときたのかいつもより嬉しそうに笑ってわかりました、と言った。
お高い肉を買い高専に戻れば、ギャーギャーと騒がしい。
「ちょっっっっと!!!
ウチの子をその汚い手で触るの止めてよねっ!!」
「穢らわしい」
「うっっわ、酷くなぃ?僕一応君らの育ての親だよぉ?」
「「黙れよビッッチ」」
白と黒のセーラー服姿の双子とスーツ姿の華が騒いでいる。双子の片方の腕の中には小さな赤子。
「はいはーい!ちょっと失礼」
「「あ"っ!?」」
「うわっ、ウケる。この子クリソツじゃん」
「五条悟は触んな!!」
「穢れる」
「見事な遺伝子を感じるよねぇ」
こんなに騒いでもスヤスヤと眠る図太さ。
前髪だけ異様にしっかりしている。
「あの子は?」
「硝子ちゃんと密会中!」
「ふーん。そう」
「おやおやぁ?五条くーん、お顔がニヤニヤしてますよぉ」
「五月蝿いよ」
ニヤニヤしながら此方を見上げる華の頭を叩く。
「「五条悟っ!!大事に抱けぇっ!!」」
「はいはい。過保護だな」
双子が額に青筋を浮かべながら吠える。
全く、お宅の猛犬の躾どーなってんの?と頭の中で飼い主へ苦情。
ふにゃふにゃで柔らかな赤ん坊を片手で抱きながらスタスタと硝子の居るであろう客室へ向かう。
「やほ!元気にしてた?」
学長と硝子と共にいた彼女へ声を掛けると、彼女はふわりと笑った。
一年生達は困っていた。
目の前には見たことの無い女子が二人。
ジロジロと此方を睨み付けるように見ている。
「……んだ、アイツら」
「釘崎、どぅどぅ」
「ガン付けられて黙ってろってか?あぁん?」
「釘崎さーん、めっちゃ田舎者丸出しぃ」
「うっせぇ!!女子には殺らなきゃいけない戦いがあんだよ!」
「どこのヤンキーだよ」
虎杖に押さえ付けられつつも、今にも喧嘩を買いそうな釘崎。
伏黒は我関せず。
「ちょっと恵。ソレが宿儺の器?」
「…………」
「え?何々?伏黒の知り合い?」
「おぅコラ。何関係ねぇって面してんだ伏黒ぉ」
女子達から見られ視線を逸らす伏黒。
「伏黒?」
「………宿儺が呪肉した虎杖。双子」
「んな説明で解るわけねぇーーーダロッッ!!!」
釘崎の跳び蹴りが伏黒の背中に炸裂した。
ケラケラ笑う竈門の声が響く。
「まぁ、完結に言うとぉ
此方、僕らの同級生が囲ってる呪術師の卵の双子ちゃん。
こっちのぉウルセーのがぁ菜々子ちゃんでぇ、こっちのぉ静かだけど毒吐くのがぁ美々子ちゃん。
この子らがぁ、ちっさい頃僕がお世話しましたぁ!」
「処す」「吊るす」
「めちゃくちゃ嫌われてるじゃない」
「竈門さん双子にちょっかい出しすぎて嫌われてんだよ。
ちなみに本当の育ての親は別な人だ」
「愛なのにぃ。
でぇ、こっちの三人……伏黒くんは置いといてぇ、田舎から出て来た宿儺の器虎杖くん。そして田舎から出て来た釘崎さんだよぉ!」
「田舎からいらなくね?」
「釘打ち込むわよ」
「ちょっとアンタ」
「何だよ」
「田舎って言うほど田舎でもないでしょ?」
「近所のジジババが勝手に祝うレベルだぞ」
「地図に載ってない」
「バスなんか2時間に一本だし、電車も同じだよ」
「芋料理ばっか」
「村八分」
「虫ヤバいしデカイわよ」
「「「…………」」」
ガシッ、と握手した三人。
「釘崎野薔薇よ」
「菜々子」
「美々子」
「………何あれ?」
「俺が知るか」
仲良しになった。
そこへ、駐車の終わったら伊地知がやってくると、伊地知を見るなり駆け出した竈門が勢いのまま抱き付く。
「きっよたっかきゅーーーーん!」
「ひょえっ!?は、華さん!!あああああ、危なっ」
「潔高潔高潔高潔高きーよーたーかーっ!!!」
「はいはい。華さん落ちついて下さいね。
五条さんは?」
「硝子ちゃんとこぉ」
「なるほど。では皆さん、あちらへ」
竈門を背中に張り付けズルズルと引きずる伊地知。
見慣れた光景とは言え、いつもながら何とも言えない気持ちとなる。
「伊地知さん、何で竈門さんなんか選んだのかしら?」
「さぁな」
「あのビッチ制御出来るの伊地知さんくらいだからじゃない?」
「うん」
「伊地知さーん!俺らどこ行くの?」
「実家!」
「「じっか?」」
頭を傾げる虎杖と釘崎。
ひとまずお腹が減ったので伊地知と竈門の後を着いていく事に。
二人が案内したのは一件の古民家。
ただいまー、と中に入っていく双子と伏黒。
伏黒!?と思ったものの、一緒にコソコソと中に入れば……パタパタと炭を起こしている伏黒の父、甚爾がいた。
「「おばぁ、おじぃただいま」」
「ただいま。吾朗さん、梅さん」
「恵、パパに挨拶しろや」
「うるせぇよ」
勝手知ったるなんとやら。
我が家のように各々が寛ぐ姿に呆然とする虎杖と釘崎。
奥からドタドタと慌ただしい足音が。
「まぁ〜てぇ〜!!」
「しゃけしゃけ!」
「い"や"ぁあ"あ"あ"あ"あ"っ!!」
小さな少年がマジ泣きしながらダッシュで走ってくる。その後ろをニヤニヤとしながら追うパンダと狗巻。
双子の足元に逃げ、ベソベソしながらパンダと狗巻を睨み付ける少年。
「美々、菜々!化物!化物がいるぅっ!!」
「ウチの子脅すなら処すぞ」
「吊るす?」
「そんなマジになんなって」
「おかか」
双子に威圧され、タジタジとなる二人。
「オラッ、オマエらふざけてないでさっさと準備しろ」
「真希さん……」
「パンダと棘はテーブル出せ。一年はコレ運べ」
真希に言われ、テキパキと動き出す。
気が付けば民家でBBQが始まった。
「んで、ここ何処?どなたの実家?」
「伏黒も顔見知りだしどーなってんのよ」
もきゅもきゅと焼き肉を食べながら伏黒に問う。伏黒は肉を頬張りながら面倒そうにしている。
「あの双子の育ての親の実家」
「って事は竈門さん?」
「違う」
「竈門さんはちょっかいかけてただけって言ってただろ。
アンタは?何で馴染んでんだ?」
「俺も此処で一時期世話になったし、親父が勝手に今も住み着いてる」
「「………甚爾先生」」
ゴロゴロと縁側に転がり酒を呑んでいる。
一番寛いで見えるのは間違いじゃない。
「どんな人?呪術師?」
「いや、非呪術師。旦那は呪術師だけど」
「非呪術師の家を溜まり場にするって駄目じゃないの?」
「許可は降りてる」
「んー……あ!いや……」
「何よ」
「さっき五条先生赤ちゃん抱っこして行っちゃったから五条先生の奥さん?って思ったけど、五条先生結婚してないよな……と思って」
「五条先生ではない。……けど、五条先生の初恋の人ではある」
「「初恋!?」」
思わぬ言葉にワクワクしてしまう。
「そう!此処はぁ五条くんの初めての淡い恋のお相手の実家なのさぁ!!」
「うわっ!?竈門さん?」
「……酔ってるわね」
「あれは僕らが素晴らしくも残酷な青春を過ごしていた時の事……五条くんは同級生の彼女に恋をしてしまい……」
「華、それ以上話したらマジビンタ」
「あだだだだだっ!!ストップ!五条くんストップ!君の握力はシャレになんない!!」
いつの間に現れたのか、竈門の頭を鷲掴みミシミシと音が聞こえそうなほど力を込める五条がいた。
その片手には小さな赤子がスヤスヤと眠っている。
「伊地知、ちゃんと首輪して躾といてよー」
「すいません!すいません!」
「でも本当の事だろう?」
「……硝子も黙って」
「ごめんなさい、五条さん。悪いけど私には心に決めた夫がいますので」
五条の後ろからクスクス笑って現れた女性。
五条の隣に並びニヤニヤとしながら思ってもいない言葉を口にする。
「止めてよ。僕の純情な心に傷付けるの」
「どちらかと言えば五条さんの初恋のお相手は私の旦那ですもんね」
「もっとややこしくしないで。お願いだから」
「おばぁちゃん、おじぃちゃんただいまー」
五条から赤子を受け取り家の中へ。
双子と少年が女性へと駆け寄ってそれぞれ女性の衣類の一部分を掴んでいる。
「おかえり、名前ちゃん」
「おかえり」
名前にアレコレ三人が口々にあったことを話すのをうんうんとにこやかに聞いている女性をじっと見る虎杖と釘崎。
赤ん坊は揺りかごのようなものに入れられ、祖父と祖母が表情を緩ませて見ている。
女性は甚爾に気付き、そして伏黒と虎杖と釘崎を見るなり近付いてきた。
「恵くん、大きくなったねぇ!」
「お久しぶりです、名前さん。
産後の体調は大丈夫ですか?」
「このとーり!入学式見に行けなくてごめんね」
「平気です。高専に入学式とか無いんで」
「ふふっ、ちょっと見ない間に大きくなったね」
よしよし、と頭を撫でる名前に大人しく撫でられる伏黒。
あの伏黒が大人しく!?と目が離せない虎杖と釘崎。
その視線に気付いた名前がニコリと笑う。
「えーっと、初めまして。
夏油 名前と申します」
「どうも!虎杖悠仁でっす!」
「釘崎野薔薇よ」
「五条くんから聞いてるよ。
今日は遠慮せずガッツリ食べてお腹いっぱいにしてね」
「いや、でも……」
「大丈夫。お財布はうちの旦那と五条くんだから」
ケラケラ笑う名前に遠慮を考えたものの、五条のお金ならばと遠慮なく食べに行った釘崎と虎杖に伏黒も続く。
「酷くない?少しは遠慮しよーよ」
「五条さん独身だから痛みませんよね?」
「うわっ!?聞いた?硝子この子酷くない?」
「名前がクズなのは昔からだ」
「むしろケチる五条くんダッサァー」
「はぁあ!?そんな事言うならこの高級なお肉様は渡しませんっ」
高級肉、と聞いて飛びかかったのは狗巻、釘崎、虎杖。
しかし大人気なくひょいひょい交わす五条。
「ガキか」
「ガキだねぇ」
硝子と竈門が呆れた顔をしている。
生徒からも呆れられるなか、お肉片手に逃げ回る28歳。
「ほーらほら!僕から取らなければこのお肉様は当たらないよー」
「大人気ないっ!!」
「クズの中のクズ!」
「おかか!明太子!」
「何やってるんだ、悟」
スパーンッ、と五条の頭を叩く男性。
ハーフアップに男性にしては長めの長髪を流している。
全身黒のウィンドブレーカーで黒い手袋をした細目、塩顔のガタイのいい男は虎杖と釘崎にとっとは初対面の男だった。
「いたぁ……」
「ただいま、名前」
「おかえりなさい、傑」
五条から肉を奪い、流れるように狗巻の手へ。
そして手袋を外しながら名前の元へ行くと、チュッチュッと顔中にキスを落とす。
名前も名前でくすぐったそうに笑っていたと思ったら首に腕を回し、唇に軽く口付ける。
2人で頬を撫でながら抱き合う2人は周りなど気にしていなかった。
「ママ、パパ!」
「ただいま。いい子にしていたかい?」
「僕いい子!」
2人の世界へと飛び込むのは、幼い少年。
傑に抱かれ、首に力一杯抱きしめくっつく姿は心が和やかになる。
そこに赤ん坊を抱いた双子も加わる。
「夏油様、次は私達も連れてってくださいね!」
「2人とも名前に付き添っててくれてありがとう。華は不安要素しかないから助かったよ。
名前、ごめんね。悟のせいで急だったから」
「僕のせいかよ」
「キミの任務が回って来たんだからキミのせいだろ」
「たまには働いてくれてもいーじゃん!」
「産後のまだ不安定な時期に妻と子供を置いて出張に行けと?断る」
「オマエのせいだぞ五条悟」
「足の小指ぶつければいい」
「ふざけんな」
バチバチとにらみ会う双子+傑vs五条。
赤ん坊と少年と名前は和やかにまたやってる、と笑っているか寝てる。
このカオスな状況に虎杖と釘崎はついていけず、ぐいぐいと伏黒を引っ張り指差す。
「………あの人、夏油 名前さんは特級呪術師の夏油傑さんの奥さん。
抱かれてる子供は長男と、つい最近産まれた次女。
双子は夏油さん達に引き取られて一緒に住んでる」
「「情報量の多さっ」」
「ちなみに五条の初恋相手だ」
「「どっちが!?」」
「どっちもだねぇ」
「「はぁ!?」」
硝子と華が追加する情報に、アレコレ妄想をしてしまうが……結果的に、夏油夫婦がヤバい?となった。
五条は元々ヤバい奴なので今さらだ。
「五条さんよりはまともに見えるがヤバいのは夏油さんだ」
「どっちもクズだ」
「クズを煮詰めたクズだよぉ」
「女子のスカート穿く馬鹿とどっちがヤバいかしら?」
「夏油はそんな事しないな」
「そうだねぇ。むしろぉ、年頃の双子ちゃん達がいるから五条くんを軽蔑するよぉ」
「じゃあ夏油さんってまとも?」
「「嫁が関わるとポンコツ」」
五条と睨み合っていたが、名前が傑の頭を撫でるとすぐにコロッと破顔し、片腕で子供を抱き、もう片腕で名前を抱き締めながらスリスリと頬擦りする。
双子も傑と名前へ抱き着き何やら幸せそうだ。
その姿に五条が嫌そうに顔を歪めるので、甚爾が野次を飛ばす。
「やーい、独り身独り身」
「うっさいし!!ヒモは黙っててくんない!?」
ケラケラ笑う甚爾に噛み付く五条。
生徒達はお高い肉争奪戦を開催している。
賑やかな晩御飯となった。
10年。
あれから、10年経った。
幼馴染は旦那となった。
もう原作知識はあやふやだし、あまり覚えていない。
傑が死ぬはずだった去年……傑は関わることなく死んでいない。
脳ミソに身体を乗っ取られるだなんて事もなく幸せに過ごしている。
コロコロされる事なく、傑と傑の仲間と共に子育てをしながら穏やかに過ごしている。
子供達を寝かせ、下に降りればおじぃちゃんは潰れていた。
華ちゃんはほろ酔い、硝子ちゃんと甚爾さんと傑はケロッとしている。
五条は相変わらずノンアルだ。
此方に気付いた傑が手招きするので傑の隣へ。
「寝たのかい?」
「うん」
「お疲れ様。毎日ありがとう」
「傑もありがとう」
すり寄ってきた傑に私もすり寄れば、にこりと笑って膝に乗せられる。
抱き締めてきた傑に私も身を寄せる。
「おーい、イチャつくな」
「羨ましいかい?」
「クッソムカつくからドヤ顔止めて?」
「………負け犬」
ボソリ、と甚爾さんが呟きおじぃちゃんを抱えて運ぶ。部屋から出ていく間際呟いた言葉に五条の額に青筋が浮かぶ。
「僻みだな」
「やーい、負け犬負け犬ぅ!!」
「うるっっさいよ!!」
硝子ちゃんと華ちゃんに冷やかされ、ノンアルを口にする五条。
「「「あっ」」」
「?」
イッキ飲みした五条はそのまま倒れた。
顔を真っ赤にしてぐでんぐでんだ。
「間違えたな」
「弱いのにねぇ」
「お布団どうしよう?」
「座布団でもかけとけばいいさ」
ばふっ、と五条に座布団を投げた傑。
うんうんと唸った五条はそのまま寝息を立て始めた。
「そろそろお開きだな」
「潔高くんに連絡するぅー」
「まさかあの華が伊地知と付き合うとは……」
「世の中わかんないものだな」
「えっへっへー」
そう。驚くべき事に華ちゃんが……あの、華ちゃんが伊地知くんと付き合った。
童貞狩りだと騒ぎ数多の陰茎を食い散らかしていた華ちゃんが、だ。
10年の月日は人を変える。
「夏油くんだって非術師狩りするかと思うくらい一時ヤバかったくせにぃ!」
「今も嫌いだよ」
「矛盾してんな」
「名前は別。猿共と同じにしないで」
「愛だな」
「愛だねぇ」
「愛だよ」
お腹に回る腕。
傑の頭を撫でれば頬に何度も口付けてくる。
「くすぐったいよ」
「本当なら今日は家族でゆっくり過ごす予定だったのに。時間が減った」
「仕方ないよ」
「体調は?」
「私は大丈夫」
「まだ日も浅いんだから無理してほしくないんだよ」
産後1ヶ月経ったというのにこの過保護さ。
まだダルい事もあるが、周りが何もさせてくれないので楽なものだ。
「「ゲロ甘」」
「そう?普通の事だろ?」
「夏油、重い」
「夏油くんキモイよぉ。束縛じゃん」
「そんな事ないよね?名前」
「んー……傑が幸せならいいかなぁ、と」
「名前……」
「「毒されてる」」
うっとりと嬉しそうな顔をしてすり寄る傑の頭を撫でる。
今日の実家帰省は予定外だったので心配性の傑には耐えられなかったのだろう。
まぁ、おじぃちゃんとおばぁちゃんに会いに行ける口実になったので私としてはラッキーだった。
「相変わらずだな」
「夏油くんを甘やかし過ぎだよぉ」
「そうですかね?」
「けど羨ましいぃ!!私も潔高くんと結婚してラブラブな家庭を作りたいっ!!」
「伊地知は忙しいからラブラブとは程遠いいな」
「だね」
「ゴムに穴開けて既成事実を……!!」
「竈門さん、それは良くない」
「なんだよぉ!!夏油くんだって似たよーな事してんじゃん!!
半年後の再会から2ヶ月後には子供出来てるってそーゆー事じゃん!」
「私達は合意の上だし、ちゃんと籍入れてから発覚したんだよ」
「僕らも結婚するぅぅううううっ」
酔っているのだろう。
泣き叫ぶ華ちゃんはえぐえぐしている。
ピンポーンと玄関からチャイムが鳴るので傑が見に行ってくれた。
「潔高くんの事こんな愛してるのにぃぃいいいっ」
「はいはい。華、帰るぞ」
「嫌よぉ!!潔高くんがお姫様抱っこしてくれなきゃ嫌ぁぁああああっ」
「だってさ。悟は私が車に乗せるから頼んだよ伊地知」
「……………は、はぃ」
五条を担ぎ、スタスタ歩きだす傑。
硝子ちゃんはさっさと玄関へ。
グズる華ちゃんを伊地知さんは軽々と抱っこしていた。
「では、お世話になりました」
「はーい。伊地知くんも大変だろうからちゃんと食べて休んでくださいね」
「ありがとうございます」
「名前、悟を教師寮に投げてくるから少し待っていて」
4人を見送り静かになった実家を片付ける。
落ち着いて子供らの様子を見て、ぐっすりなので茶の間で待つことに。
再会したあの日、傑に抱き潰され傑の予定を全て無しにし連れ帰った。
家に入るなり私の両親の顔を見るなり「娘さんをいただきました」と言い、父は崩れ落ち母は笑った。
双子は久々の傑に泣きながら抱き着き、置いていかないでと張り付いた。
カオスな家の中、テーブルを叩き場を沈めたのはおばぁちゃん。
「傑くん」
「はい」
「貴方がどういった経緯と考えがあって双子ちゃんや名前ちゃんを置いていったか聞かないわ。
貴方には貴方の考えがあるし、悩みがあると思うの。
でも、一つだけ聞かせてちょーだい」
穏やかな声。
でも、おばぁちゃんはにこりともせず真っ直ぐに傑を見ていた。
「私の孫は貴方と居たら幸せに笑っていられる?」
「わかりません。泣かせる事もあると思います」
「………」
「でも私は名前が居ないとこの世界で幸せにはなれません。
私は私の幸せの為に名前が欲しいです」
「それが、貴方の気持ち?」
「えぇ。
どうか私に名前と歩む許可を頂きたい」
キチッとした姿勢で深く頭を下げる傑。
和気藹々としていた場が静まる中、私も傑の隣に腰を下ろし、姿勢を正す。
「苦労はすると思うし、嫌になることもあると思うけど……傑以外の人は考えられない。
まだみんなの半分も生きていない若い私達が将来を決めるのは早いと言われても仕方がない。
でもね、決めたの」
頭おじぃちゃん、おばぁちゃん、両親の顔を見る。
誰もが不安と寂しさと嬉しさが混ざって見える。
反対されているわけではない。
なら、私は………笑顔で、彼らに伝えたい。
「私、傑と生きたい」
「………そう。」
「迷惑かける事も、手を借りる事もあると思う。
私達はまだ社会的に大人と呼ぶにはまだ子供だから。
その時はどうか……みんなに甘えさせて下さい」
手を畳につきながら頭を下げれば、傑の手が重なる。
大きくて、がっしりした手が微かに震えていた。
「勿論よ」
「いつでも頼って頂戴」
「小僧。泣かせたらわかってるな?」
「………名前〜〜〜っ」
母さん、おばぁちゃん、おじぃちゃん、父さん。
誰もが笑っていた。
傑の手を握り締めれば頭を上げ、弱々しくもほっとした表情の傑がいた。
それから傑の実家にも行き、挨拶をして私達は保護者達からの証人のサインを貰い入籍した。
入籍して傑の拠点に移る際、双子からの強い要望により双子を引き取り私達と一緒に暮らすことに。
手続きは大変だったものの、何とか一緒に暮らせる事となり双子達は大喜び。
小学校の手続きとか、名義変更とか、印鑑やら……本当大変だった。
その1ヶ月後には体調不良で倒れ、傑を心配させてしまった。
手続きで役所やその他駆け回った心労かと思っていたら、まさかの妊娠が発覚。
傑と双子は大喜びでお祝いをした。
お腹の中で人が育っていく過程を傑と双子はずっと見て来た。
具合の悪さに起き上がれない日々。
それでも病気ではないからと動くが、傑も双子も君達が具合悪いの?ってくらい青ざめて情けない顔をしながら色々手伝ってくれるようになった。
平らだったお腹は少しづつ膨れていく。
毎回見せる人の形となっていくモノクロのエコー写真。
お腹を触ればポコポコと動く胎動を感じた時は私よりも傑と双子が喜んでいた。
いざ、出産の時は初産でなかなか産まれず……産まれた我が子を抱いた傑はボロボロと涙を流していた。
"ありがとう……名前"
泣きながら笑った傑にキスされ、私も泣いた。
後日、赤ちゃんを見に来た双子達も泣きながら赤ちゃんを抱いて……私は彼らに少しでも人は温かくて愛しくて大切だと伝えられたかな?と思うと泣いた。
家族4人で和気藹々と過ごし……気付けば10年。
傑は今でも私を溺愛してくれているし、双子や傑の仲間も離反することなく過ごしている。
高専とは別の組織を立ち上げてしまった傑は呪術界的には目の上のたんこぶみたいな存在だったが……ぶっちゃけ仕事は個人でわんさか入ってくるし、お金もザクザク入ってくるし、ブラック企業ではなくクリーンな時間で働いているので過労とストレスと死にたくない者達が流れて来て、非呪術師と呪術師と呪詛師の架け橋みたいになって潰すに潰せず。
好き勝手しながら呪術界に革命の風を吹き込んでいる。
五条と傑は和解した。
殴り愛という素晴らしきガチンコバトル。
山が消し飛んだらしい。
そんなこんなでまぁ……コロコロされるどころかニャンニャンゴロゴロと甘やかされること数十年。
私は傑の隣で幸せに生きている。
「ただいま」
「おかえりなさい」
音もなく後ろから抱き着いてきた傑。
よしよし、と撫でればすり寄ってきてトロトロに甘くふやけた顔をされてみろ。
めっちゃ絆される。
振り向いて両手を腰に回しギュッと抱き締めたらクスクスと笑う傑に撫でられる。
「誘われてるのかな?」
「流石に実家では誘わないよ」
私も笑って傑の柔らかくも弾力のある胸元に頭を預ける。
手の届く位置に居てくれる傑に、幸せだなぁと思ってしまう。
「甘えん坊の日?」
「うん。久しぶりに皆に会ったから……懐かしいな、と思って」
「そうだね」
「……ねぇ、傑」
「ん?」
私は幸せな日々を過ごしている。
私と傑が幸せな分、世界のどこかで誰かが不幸になっているかもしれない。
原作の知識とは違ったこの世界。
何が起こるかわからない未来。
それでも…………
「傑、傑」
「どうかした?」
手を伸ばせば側に居る傑に安心する。
幸せで幸せで、後からどっと怖いことが起こりそう。
傑に何度も啄まれるようにされるキスがくすぐったい。
傑の首に腕を回せば嬉しそうに笑って頭を固定されながら唇をゆっくりと重ねる。
「大好き」
「…………名前」
「だーめ」
熱がこもり、その奥にはギラギラと荒々しい瞳にお腹の奥がキュンとする。
「帰ったら覚えてなよ」
「忘れた」
「ほぼ一年我慢してるんだから」
「その間に何度かしてるじゃん」
「足りるわけない」
「絶倫」
「名前の全てを何度愛しても足りる事などないさ」
「私からの愛足りない?」
部屋に戻る前に不安になって聞けば、困ったように笑う。
「愛されたらもっともっとって止まらないだけ」
「強欲だなぁ」
「名前に関してはね」
にこりと笑う傑の顔が近付いてきたので、私も背伸びして受け入れる。
「愛してるよ、私の名前」
「傑」
珍しい人物に声を掛ける。
なかなか此方に顔を出さないので滅多に顔を合わせることが無いが、久しぶりに会えた友人の顔は無表情だった。
その理由を知っていながらニヤニヤと隠すこと無く友人の肩へと腕を回す。
「やあ、悟。お疲れ」
「おつー。今日は定期報告?」
「そんなところ。
書面だけじゃ駄目なんて時代遅れもいいとこだよ。仕方ないとはいえ、同盟を組んであげているのに自分達が上だと信じている質の悪さに吐き気がする。こちらに来る時は任務も入れられていい迷惑さ」
上っ面だけの笑顔。
その奥に隠された明確な殺意と嫌悪。
冷めたは瞳を見た五条はその姿に笑う。
「うわぁ、お顔こわぁーい!」
「可愛い可愛い嫁と離れたくないからって当たるな」
「当たりたくもなるさ」
「こっわー!嫁ちゃんが見たら恐怖で逃げられるよ」
「そんなわけないだろ。何のために長い時間掛けたと思ってる」
自然と集まった同期達。
家入と竈門もイラつく理由を知りながらニヤリとして近付き夏油の足止めに加勢する。
同期としての仲もあり雰囲気が多少和らぐものの、早く帰りたいであろう夏油をわざと引き留める。
「まともに見えて傑は僕よりイカれてるよね」
「そんなことないさ」
「だって僕、好きな子をそんな風に扱わないもん」
「サイコパスだと思いまぁーすぅ!」
「クズ」
「失礼だな。純愛だよ」
「歪みまくってんね」
「可哀想」
「クズ」
同期達からの容赦ない言葉を投げつけられるが、夏油は笑う。
強ばっていた顔もふわりと和らぎ肩の力を抜く。
「本当失礼だね。キミら」
「サイコパスなオマエに遠慮なんかいらないだろ」
「やーい!サイコパスサイコパス!」
「華シバくよ」
「……でもかなりサイコパスだと思うよ?
一般人の非術者を落とすためだけに呪術界に入るなんて」
「しかも呪術を使って本音まで引き出していたなんてクズの極みだろ」
「何でも無いから良かったけどぉ、下手すりゃ廃人だよぉ?」
にこり、と笑う夏油。
その微笑みに三人は口元をひくつかせた。
「たまたまさ。
たまたま、幼い頃に私の使役する呪霊が暴走してしまった時に聞いてしまっただけ。
まさか、妻に予知能力があるとは思って無かったけどね」
「「「うわぁ……」」」
「私も半信半疑だったし、本当かどうかなんて10年経たないとわからないだろ?」
「だからって普通それ試す為に10年以上かけて計画する?」
「完全にアウトだと思うなぁ」
「キモい」
「硝子、シンプルなのが一番傷付くよ」
傷付いた、なんて言いながらもクスクスと笑う夏油。
「私は私の愛を貫いただけだよ」
にこり。
そう笑う夏油に後悔の色などない。
「いいように転がされて可哀想に」
「やるなら徹底的にしなきゃ。これでもショックだったんだよ?
唯一無二の女の子から私だけは絶対に好きにならないなんて告げられたら。
しかも死ぬとか殺されるから逃げなきゃとか
幼心にグサッと」
「それに巻き込まれる僕ら災難」
「それなぁ!」
「ふふっ、ごめんね」
「とんだ茶番だったわけだ」
「………キミらと友人になれて良かったと心から思っているよ。
始まりは偶然の出来事だったけど……私はあの子以外いらないと本気で思っていたから。
キミらと出会えて、世界を知る事が出来た。
世界を広げられたこと、本音でぶつかれる友人達がいて良かった」
ふわり、と笑う夏油に三人も顔を綻ばせる。
「幸せになりなよ、傑」
「幸せにしてあげてねぇ、夏油くん」
「爆発しろクズ」
四人で笑う。
「そろそろ行くよ」
「たまには遊びに連れて来てよぉ!」
「気が向いたらね」
ひらひらと手を振りいなくなる夏油。
「可哀想」
「サイコパスに捕まったねぇ」
「真相を知らなきゃ当人らはラブラブで幸せそうだしいいんじゃない?
僕ですら後から暴露されて引いたけど」
「知らぬが仏、か」
「だねぇ」
死にたくないと嘆き、1人の運命を変えた物語。
その真相は…………。
あとがき
お付き合いくださりありがとうございました!
途中リアルで色々なことがあり、なかなか進まず更新できず申し訳ない思いとやる気がなくなりましたが……なんとか完結へ。
エロの長編……うかつに手を出すもんじゃないな。
エロの才能がないのに楽しさと勢いで書いたらネタに詰まるなんてw
それでも沢山の方々にコメントを頂けたこと、嬉しく思います。
本当にありがとうございました!
また、次もお付き合い頂けたらと思います!
「傑、あのさぁ」
「!?
名前っ!!」
「!?」
「名前、名前っ!?ごめんっ!ごめっ!!
医者……っ、硝子に……、、どうしたらっ」
「………な、きゃ」
「え?」
「私、本当はいちゃいけないから離れなきゃ」
「……名前?ねぇ、どうしたの?」
「傑は非呪術師が嫌いだから離れなきゃ。
私は猿だから傑に殺されてしまう。離れなきゃ。早く。けど、どーしよ。いや、離れなきゃ。五条悟に殺される傑を、離反してしまう傑を救うなんて無理だよ。
私は猿だから傑を変えられない」
「……な、に………言って」
「けど、やだなぁ。嫌なんだぁ。
人を殺す傑も、傑に殺されるのも嫌だなぁ。
私には見えないし力もないから何も出来ないモブなんだけどやだなぁ。傑には幸せなってほしいのに……やだなぁ。寂しいな」
「………」
「傑が好きだから離れたくないな。寂しい」
「………え?」
「ごめん。ごめんね、傑。
私が猿で、私達のせいで嫌な思いしてゲロ玉飲ませて守ってもらっていて。
傑だってまだ子供なのに守れなくてごめんね。
ごめん。ごめんなさい。ごめんごめんごめん」
「………名前」
「傑……私ね、傑に幸せになってほしい。
傑が幸せになって生きる未来がほしい。
傑が笑って生きる世界がほしい。
その世界に私が居なくてもいいから………願うしか出来ないけど、私みたいなモブがいるんだからきっと傑を救うヒロインがいるんだ。
だから、だからね
誰よりも長生きして、笑って、幸せになってよ。
私じゃ、なくて、ごめん、ね?」
そう言って寂しそうに笑って気絶した少女。
何を話しているのかわからない内容だったが……一つわかるのは、少女が離れようとしていること。
「………離れ、る?私から?」
許さない。
私を救うヒロイン?そんなものいらない。
私が欲しいのは彼女だけ。
私の大切なものは彼女だけ。
私の運命は彼女だけ。
「そんな事させるか」
手持ちの呪霊を見つめる。
弱いし使い道が無いと思っていたが……まさか、心理を告げさせるものだったなんて。
「ひとまず色々試さないといけないな」
手始めに……そうだな。
彼女が何かの拍子にこちら側に来れたら成功。
失敗しても本音は聞ける。
「絶対逃がさないから、覚悟しなよ」