幼馴染は生き残りたい
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まだまだ肌寒いが……
「…………以上を持ちまして、第○○期、○○回卒業式を閉会とさせていただきます」
無事、私は卒業式を迎えることが出来ました。
卒業式にはお父さんとお母さんも来てくれて、バッシバシ写真を撮られた。
友達とも携帯やインスタントカメラで撮りまくり後からの出来が楽しみだ。
仲良くしていた後輩からと祝われて、少しだけ涙が込み上げてくるものの笑顔で頂いた花やプレゼントを貰う。その代わりに、とお返しはいつ渡せるかわからないので手作りのクッキーを持参し配った。
「あ、あのっ!名前先輩!!」
後輩の一人に声を掛けられたが、突如校門がザワつく様子に私は誰が来たのか察してしまった。
このザワめきは何度も経験している。
「よぉ」
「や」
「やっほぉー!」
真っ黒な改造された学ランの三人組はそれぞれ薔薇の花束を持っている。
「「「卒業おめでと」」」
「わぁー、うれっしー」
わさっ、と花束だらけになった私は注目の的もいいところ。
「もっと嬉しそうな顔しろよ。
祝いに来たんだから」
「うれしーうれしー」
「照れんな」
「うんうん、ありがとうございまーす」
顎クイするな。顔を近付けるな。腰に手を回すな。
全て笑顔で払い、ムスッとした五条の髪に薔薇を挿す。
そのまま頬に手を当て、微笑みながら
「ありがとう、五条さん。貴方の気持ちだけ受け取っておきますね」
「………つまんねぇ」
「家入さん、竈門さん動画そろそろやめてくださーい」
茶番劇を終えて、改めておめでとうと言われたのでお礼を返す。
そーいや後輩くんどーした、と振り替えれば何やら同級生達に肩を叩かれ気にしないでくれと苦笑いされた。
三人と卒業写真をなぜか撮ることとなり、私の学生生活は幕を閉じた。
「いつ行くんだよ」
「んー、今夜かな」
卒業おめでとう!とお祝い準備をしようとしたら、五条が当たり前のようにどこかに電話をしたら家に豪華なお寿司が並んだ。
華ちゃんがピザ屋に電話し、ピザもきた。
硝子ちゃんがおじぃちゃん名義でお酒を頼んだ。
お父さんとお母さんがギョッとする中、おじぃちゃんとおばぁちゃんはいつもの事だと気にしていない。
おばぁちゃんと美々子と菜々子がケーキ作ってくれた。
「今夜か。美々子と菜々子はどうするんだ?」
「ついていくって言われたけど、なんとか説得しましたよ」
「双子ちゃんは僕に任せてよぉ!」
「竈門さん、大丈夫です」
モグモグと高級であろうお寿司を食べていく。
五条に遠慮すると足りなかった?と追加されるので五条からの品物はありがたく受け取り、後日何かしらお返ししている。
おじぃちゃんとおばぁちゃんを呆れさせ、受け取らないという選択肢を潰した五条強い。
「んー?名前、どこか行くのかいぃ?」
「あら?同級生と卒業パーティーか何か?」
あ、いっけね!とここに来て思い出す両親の存在。
おじぃちゃんとおばぁちゃんは説得済みだったのに。
私は高級寿司を飲み込んで両親の前にキチッと座って頭を下げる。
「沢山迷惑もかけたし、沢山の愛情を貰ったし、ここまで育ててくれてありがとうございます」
「あら、改まってなに?」
「まるでお嫁に行くみたいだなぁ」
「うん。私、これから未来の旦那を迎えにちょっと旅立つ」
「「は?」」
はっはっはーと笑っていた両親がギョッと驚いた顔に。
「えっ?え、ええっ!?」
「あらまぁ」
「だ、誰だい!?どこのどいつが?」
「もしかして傑くん?」
「うん」
「傑くん!?」
「あら、じゃあ夏油さん宅と連絡取らなくちゃ」
「お母さん頼んだ。私はちょっくらハニーを迎えに行ってくるから」
「待って!!た、確かに傑くんならお父さんも認めるいい男だけど、ま、まだ結婚は……っ」
「お父さん、ごめんね。
ずっと待たせて追い掛けてくれた人を手放せるほど私、大人じゃない。
まだ正式に決まったわけじゃないけど……私が傑に会いたいから行ってくる」
よしっ、とお腹も膨らみまとめていた荷物を手に取る。
「名前」
「何?お母さん」
「いってらっしゃい」
泣きながら騒ぐお父さんの口を塞いで、笑顔で見送ってくれるお母さん。
唇をぎゅっ、と噛みながら私も今出来る笑顔を見せる。
「いってきます!」
そう言って私は夜間バスに乗り込んだ。
思い出すのは、いつだってキミとの思い出。
ここは、キミと行った場所。
ここは、キミがいつか行きたいと話した場所。
屈託ない笑顔ではしゃぎながら私の服を引っ張るキミが簡単には想像出来るのに、隣にキミはいない。
あぁ、キミがいない世界はこんなにも寂しいんだね……。そう、気付いたらあの日眠るキミを置いて飛び出さなければ、と後悔ばかりで今すぐにでもキミを抱き締めに帰りたくなった。
キミがいないだけで記憶と同じ場所は色褪せている。
汚い部分しか見えなくなれば、より汚い部分ばかりに目が行くように。
こんな世界でも、キミは"美しいんだ"と笑えるのかと何度も問いかけるが……私の中のキミは笑っていた。
"ほら、見て"
そう言って目を向けると汚い世界を拭うように小さな親切が落ちている。
その小さな親切がきっかけで見て見ぬフリをした者も、声を掛けようか迷っていた者も皆が立ち止まり手を差し出す。
偽善者が。優越感に浸りたいだけだろ、と考えてしまう私もいた。
それでも……たった一つの、一瞬の欠片が大きな光となる瞬間を何度も目にした。
それでも。
世界は呪霊を生み出すし、感謝などせず怖がられ、終わることのないゲームに身を落とされ、命を落とす……。
世界は少しも変わらない。
誰もが他を羨み、嫉妬し、憎み、呪う。
だがそれは……私達呪術師も変わらない。
呪詛師に堕ちた者達の苦しみを吐露されたところで、ありきたりな理由。
呪術師への恨み辛み、裏家業、金回りの良さ。
人間という生き物自体が欲にまみれた生き物だからこそ……呪いは消えない。
たとえ全人類が呪力を持ちコントロール出来たところで力を持った猿の行うことなど簡単に考え付く。
「名前……世界は、何をしても醜いよ」
ならばいっそ。
私のこの手で……。
己の手のひらを見つめていれば、ポンッと乗ったのはシワシワな手のひら。
何事かと目の前を見ればニコニコと笑う老婆が一人。
「は?」
「すまないねぇ。こんっなえぇ男に手ぇ引いて貰うなんて長生きするもんだぁ」
「いやっ、私は…」
「兄ちゃん、私の家はあっちだぁ」
強引なお婆さんに渋々着いていけば、畑しかない山奥の農村。
さっさと出ていこうとしても日本昔話のような山盛りのご飯におかず。
ニコニコと笑うお婆さんは此方の意見も聞かずに勧めてきて逃げられない。
さて、どーしたもんかと落ち着きのない私にお婆さんはにこにこと表情を変えずに笑っている。
「長い人生、そう投げやりになるもんじゃあ無いよ」
「………え?」
「ほら、まずはお食べ」
ホカホカと温かなご飯を自然と一口。
口の中に広がる米本来の甘み。
「人間ってーのはお腹が空くとなーんも考えれんくなる」
「………」
「まずは食べぇ。寝て元気だしぃ」
温かい。
見知らぬ人なのに。
呪力もない猿なのに。
旅に出て、初めてホッと一息つけた瞬間……どうしようもなく名前に会いたくなった。
名前に言われて目を向けても、視野の狭くなった私にはどんな小さな光も霞んでしまう。
汚い部分ばかりに目が行き、結局は同じだと思い込んでしまった。
「いっぱい食べぇ」
お婆さんと少しの間過ごした。
見知らぬ他人であるお婆さんは猿の一人なのに……ポツリ、ポツリと話し出す口からは色んなことをボカシながら話してしまう。
なのに、黙って聞いてくれた。
「そかそか。頑張ってるなぁ」
「………私は」
「頑張って頑張って、息苦しくなっちまったんだなぁ。なら休めばえぇ。
ウチはじぃ様にも先立たれ、息子達は帰って来んから好きなだけ休みぃ」
頑張った?
私は私のすべきことをしているのに……頑張っていなきゃいけなかった?
いや、頑張らなきゃ悟と肩を並べられない。
頑張らなきゃ仲間がいなくなる。
頑張らなきゃ、頑張らなきゃ、頑張ら……な、きゃ?
何のために?
私は……何の、為に、頑張って……。
お婆さんに別れを告げ、色んな場所に赴いた。
どこへ行こうか、なんて何も考えず……時に古い旅館。高級ホテル。カプセルホテル。野宿。
"ほら、傑"
名前の優しい声がする。
何も考え無いようにしながら綺麗なものばかりに目を向けるようになり、気の向くまま写真を撮り、送り、好きなものを食べて、時に強そうな、使えそうな呪霊を自分の為に取り込む。
相も変わらず酷い味だが……不思議と気分は悪くなかった。
"見て"
世界はどこまでも広くて。
世界はどこまでも繋がっていて。
この大きな世界を目の前に、私という存在はちっぽけなもの。
あの世界で特級だと一人前だと囃し立てられても、世界から見ればまだまだ幼い子供の私。
子供の私が細々と活動をしたところで、世界には敵わない。
それでも、やれないのか?と聞かれれば……出来ないわけじゃない。
計画を煮詰めて仲間を増やし、やろうと思えば………。
簡単に手折る事の出来る力がある自分。
その力を使おうとすればチラつく彼女の笑顔。
そして同じように彼女を想い笑う自分。
この気持ちを捨てる覚悟があっても……
彼女が他の誰かと幸せに笑うのも、私以外の誰かの隣を歩くのも許せない。
だからと言って彼女だけを特別扱いするなら私も周りも納得しない。
矛盾した穴だらけの計画なんて誰もついてこない。
なら、私がしたいことは?
私が本当にすべきことは?
私が頑張る理由は?
"傑"
彼女の声、まだ覚えてる。
笑顔も、温もりも、柔さも、脆さも。
私は………私は、彼女とずっと一緒に居たくて。
コレが、依存だったとしても手放せないほどのめり込んだ。
彼女が手に入るのなら。
彼女が側に居てくれるのなら。
怖いことも、嫌なことも乗り越えられる。
私は……私を受け入れてくれた名前の為に生きようと思ったのだから。
ストン、と胸に落ちた。
名前の為になるなら、と……非呪術師の為に。弱いものの為に。困っている人の為に。強者に対抗する為に。呪術界の為に。
色んなものに彼女を結び付け、いつの間にか大きくなりすぎていたのかもしれない。
彼女の為になるから、と私が自分で負担を増やしていながら辛くなって全てが嫌になった、なんて……ダサ過ぎる。
どんだけ私は名前の事好きなんだ、と思わず頭を抱えてしまった。
いや、好き。好きだからこその結果か。
自業自得にしても気付かないなんてどれだけ盲目なんだ。盲目だからこうなったんだよ。
うん………と、落ち着けばなんて事無い。
色んなものを背負っていたが、その荷を下ろせば単純な事だったのに。
それでもすぐに猿共を普通に見れるか、と言われれば無理だ。
糞不味い奴らの負の感情飲み込む身にもなれ。
偽善活動やってられるか。
此方も人を選ばせろ。
一度感じてしまった嫌悪感を持ったまま猿の為には動きたくない。
ならどうしたいか……と自問自答して行き着いたのは名前と出会わなかったら、という考え。
理解者は悟や硝子などの呪術界のみで、今回のように押し潰されたら……私は迷わず善悪関係無く猿を駆逐する。
名前という存在を抜きにして……私がやりたいこと。
私なら出来ること……と、考え思い付いたのは双子の存在。
もしも。
もしも、私が……高専に居ては出来ないが、外で出来ることがあるというのならきっと。
「盤星教は解体されたハズだが?」
「別の団体でも根っこは同じさ。
表向きは居抜きみてぇにしてるがな。嫌か?」
「いや、呪いと金と同志が集められれば何でもいいさ」
やりたかったのは、きっと………。
私や水瀬のように埋もれた存在はどこにでもいて、双子達のように蔑まれているかもしれない。
「本当にその格好で出るのか?」
「いいだろう?ハッタリは大事だ」
全ての人間が救われるなど思ってはいない。
悟が呪術界で生きるというのなら……
私は違う方向から動けばいい。
私は、私のやり方で。
呪術師を救えばいい。
「揃っているな?」
「各支部長、代表役員、会長
その他太客お揃いで」
こんな格好、名前が見たら笑うかな?
うん、大笑いで転がりそうだ。
「あーあー、皆さんお待たせしました。
それでは手短かに。
今、この瞬間からこの団体は私のモノです。
名前も改め、皆さんは今後私に従って下さい」
反対多数
「困りましたね。
そうだ!!園田さんよろしければ壇上へ。
そう!アナタです!!」
額に大きなコブのある男。
その男にたまたま、以前野放しにしていた呪霊がとりついた。
突如苦しみだした男。
「あぁ、大変だ!良くないものがとりついているのでアナタを指名しましたが……これはいけない。園田さん、今から私が貴方を救ってみせます。大丈夫、痛いことも苦しいこともありませんよ」
呻き声を出し転がる猿を見下ろす。
貰った情報でこの猿は以前星漿体で絡んでいたことを知った。
「いかがです?身体、楽になったでしょう?」
殺したいほど憎いと思うよ。
この猿達に人生を狂わされた水瀬やリコちゃん。
「皆さんも信じていただけたでしょうか?
私が皆さんを救ってさしあげましょう。
だから………」
猿は嫌い。
それが私の選んだ本音。
でも、全ての猿を駆逐してしまえば私の術式は呪術界にとって不都合な存在となる。
それだと、意味がない。
高専は古の呪術界の規定を重んじる。
古くさいもの程間違ってはいないが面倒だし融通がきかない。
それに縛られ、身動きのとれなさに息苦しくなるくらいならいっそ……私に都合の良い居場所があればいい。
「私に従え」
そもそもスカウトだって効率が悪すぎる。
他者と違う生きざまに怯え、偶然が重ならなければ一生隠れて生きるか、見付かって淘汰されるのならばいっそわかりやすい目印を作ってしまえば良いのに。
黙っていても呪い集めが出来て、仲間も呼び込める。
しかも話を聞くだけでお金が入る。
わざわざ危ないところに睡眠時間を削って移動しつつ、立て続けに入る任務の数々より黙っていても勝手に相手から来るんだから。
わぁ、なんっってホワイトなんだろう?
しかもオカルト集団の宗教だから強い呪霊の情報だって入ってくる。
高専の効率の悪さよりも断然良くないか?
あぁ、呪術師の卵達を教育する場も作らなければ。
あとは会計に、秘書に……。
やることは沢山ある。
自分の力でどれだけ出来るかわからないが……やりがいはある。
自分では考え付かなかった"可能性"の道。
ニヤケてしまう口元を隠し、私は私の道を行く。
元々あったシステムに此方の都合が良いように手を加え、最初は信者達を信じ込ませる為に親切を撒き散らすのは忙しかったが繁忙期程ではない。
夜はしっかり眠れるし、朝は少し遅めの起床。
何人か見つけた呪術師となれる要素がある子らは引き入れ指導にあたり、噂を聞き付けた呪詛師は返り討ちか使えそうなら引き込んだ。
そうしているうちに……あっという間に半年など過ぎ去り、私は私の立場を確立させた。
東京から離れているし、盤星教は解体され今は別の組織として名乗っている。
私と繋がるべき居場所はあえて教えていない。
長い長いかくれんぼであり鬼ごっこ。
彼女は……名前は私を見付けて捕まえると言ったが、実際は難しいだろう。
日本という小さな島国の中からたった一人を見付けるだなんて随分とまぁ大見得をきったものだ。
私が反対の立場でも探しはするが……非呪術師である彼女を探すには骨がおれる。
半年、という約束ではあったが……何年かかるかわからない。
それでも……信じたい、と思ってしまった。
"もーいーかーい?"
彼女の、楽しそうな声がした。
「夏油様」
うたた寝をしてしまったらしい。
私の秘書として仲間となった真奈美さんが心配そうにしている。
「お疲れなら今日はこのあたりで」
「いや、平気さ。少し……懐かしい夢を見たんだ」
「?」
半年。
短いようで長い期間……私は必死になった。
多少無理してでも早めに仲間を集め機能させることを選んだのだから。
「真奈美さん、次の予定は?」
「急ぐものでは……」
「大丈夫。無理はしないさ」
まだまだ組織としての機能は十分じゃない。
やっとある程度纏まってきたかな、程度なのだから。
ここからが忙しくなるのだから……今体調を崩したり弱音を吐くわけにはいかない。
「……次は、信者との謁見が何人か」
「そう」
「その後は上の方々との会食があります」
「面倒だね。代わりは?」
「他の者達にも空きがなくて」
「そうか……」
忙しい。
教祖として働き、面倒な上役のご機嫌伺いを相手し、呪いを取り込み、後進を育てる。
任せられる者を見極め、信頼感系を築く。
たかが半年、見せかけだけでも作り上げたものを今ここで崩すわけにはいかない。
「あともう一人、二人欲しいところだね」
「はい」
欠伸をしながら呪い付きの人間であればいいな、なくらいでやる気の起きない身体を引きずって歩く。
猿のくだらない話を聞き流して適当に相づちを打つ。今回もどうやら外れのようで、自分の不都合なことを呪いのせいだと怯えているだけの者だった。
適当にあしらいつつ特にご利益もない御守りを持たせれば嬉々として帰っていく。
よくこんな安物の硝子玉の塊やそれっぽく描いた御守りを入れたもので運気が上がりましたと喜べるものだ。
それ程までに切羽詰まっていて、自分で自分を追い込み回復していく猿の姿はまるで芸達者なピエロのようなもの。
「はぁ、面倒臭っ」
「予定を変更なさいますか?」
「いや、さっさと終わらせるよ。会食をサボって金蔓を逃すわけにはいかないからね」
「わかりました」
その後も似たような信者との謁見に気分は下がっていく。
先ほど、久しぶりに彼女の夢を見たから何だかホームシックになりつつある。
夢でもいいからまた会えないか、と目を瞑るが彼女の声を思い出そうとしてもどんな声だったか、と思ってしまう。
人は声から忘れていくと言うが……なるほど、と思ってしまった。
「夏油様」
「ん?どうしたんだい?」
「すいません……断ったのですが、どうしてもともう一件謁見依頼が」
「あー、うん。いいよ。その代わり会食に遅れる旨を」
「わかりました」
「真奈美さんの方は?」
「此方は問題ないです」
「そう。じゃあ悪いけど先に猿の相手をお願いするよ」
「かしこまりました」
憂鬱な会食が少し削られるのと、面倒な猿の会話を聞くだけなら猿の話を聞いていた方が楽だ。
さっさと終わらせて時間を潰して最後に顔出せばいいかな、なんて思いながら信者が入ってくるのをにこやかに受け入れる。
「ようこそ。貴方の悩みを私が救って「ブハッッッッ」…………」
話している途中に自分の事しか考えていない猿が遮る事はよくあることだ。
偽物かと警戒して話さない猿もいるが………笑われたのは初めてだ。
しかし、相手は躾のなっていない猿だ。
ここは一つ私が大人になって………。
「ンフフフッ、この胡散臭いのが教祖とか終わってんね」
たまーにいる冷やかしか?
面倒な相手はさっさと追い返すに限る。
「すいません、お客様。冷やかしなら……」
「やぁ、傑」
無礼にも近付いてきた猿の顔を見て……驚いた。
「迎えにきたよ、ハニー」
これは、都合のいい夢だろうか?
私の会いたかった人がいた。
私の抱き締めたかった人がいた。
私を追い掛けてくると言った人がいた。
私の愛してる人が目の前にいる。
「………」
「傑、捕まえた」
ぎゅうっ、と抱き締めてくれた温もり。
ふわり、と香るのは私の知らない彼女の香り。
記憶の中とは違う彼女。
でも……私の唯一無二の、彼女。
「………名前」
「はいはい。名前さんですよ」
「な、んで…」
何で此処がわかった?
何ですぐ来た?
何で追い掛けてきた?
何で、何で何で何で何でっ
「約束したでしょ?」
「…………」
「半年後、会いに行くって。
傑が何処に居ても必ず見つけ出すって」
手を伸ばし、抱き締めたら……確かに腕の中に。
「来たよ、傑」
にっこりと笑う彼女が眩しくて。
それ以上に……愛おしさが溢れて止まらない。
「名前」
「なぁに?」
「名前、名前、名前っ!!」
「はーい」
「会い、たかった………っ!!」
「私も。傑に……会いたかったぁ」
笑いながらボロボロ涙を溢す名前。
そんな名前の姿を見てしまえば……歯止めなど効かず手を伸ばした。
頭を押さえ付けながらなりふり構わず名前の唇を奪う。
名前の涙が頬に当たり、流れていく。
「傑……傑っ」
「名前……」
何度も何度も角度を変えて唇を貪る。
くっ付けて、離して、くっ付けて、舌を絡ませて。
言葉を交わすことなく思うがままに口内を貪る。
口の周りも、頬も唾液やら涙やらでぐちゃぐちゃになった私達の意識を戻したのは謁見終了の合図が鳴ったから。
「……あっ」
後先考えず、私は携帯を手に取る。
仲間達の予定を瞬時に思い浮かべ、一番可能性のある男へと連絡する。
「ラルゥ。すまないが急ぎで今の用事が終わったら真奈美さんと◯◯ホテルで会食を頼んでいいかい?」
『あら?どうかしたの?』
「急用が出来た」
『随分切羽詰まっているけど大丈夫?』
「問題ないよ。けど、そうだな……
明日の朝まで部屋には誰も近寄らせないでくれないか?」
『あら』
「頼んだよ」
『任せなさい』
携帯をしまい、名前を抱き上げる。
此処でもいいが信者がいつ出入りするかわからない。
雇っている職員に残りの業務を口早に説明し、さっさと奥の私の使っている部屋を目指す。
部屋について、ベッドの上に名前を落とした。
「あの、傑……?」
先程まで泣いていたのに、困惑した表情の名前。
「ほんっとうに……馬鹿だね、名前は」
「はぁ?」
「馬鹿。馬鹿だよ……本当、馬鹿」
「卒業式終わってすぐ旅立って2日で辿りついた私を誉めるとこじゃないの?」
「馬鹿……ふふっ、馬鹿過ぎて、笑えるよ」
「オイっ」
クックッ、と肩を震わせながら笑う私を叩く。
名前の肩に顔を埋める。
「名前」
「なに?」
「名前……呼んで。私の、名前」
「傑?」
「もっと」
傑、傑、傑、すぐる。
何度も何度も呼んでくれるその名前に、その声に……忘れていた声を思い出す。
高すぎず、低すぎない……そうだ。私の安心するこの声。
「傑」
「もっと」
「ねぇ、傑」
「ん………」
「顔、見せてよ。傑ばっかりズルい」
名前の首筋にすり寄っていた頭をぐいっと引っ張られる。
酷くないか?と思うが……目の前に泣きそうな顔をしながらも微笑む名前がいて……。
名前が、可愛らしく唇にちゅっ、とキスをしてくる。
「私の名前も呼んで。いっぱい、いっぱい呼んでよ」
「………」
「ちゃんと見て。私も傑を見たい」
「………」
「ねぇ、傑」
「………」
「傑が、足りないの」
ペロリ、と舐められた唇に頭の中がプツリ、と切れた。
噛み付くように唇を重ねて名前をベッドに押し倒した。
舌を絡めて、隙間なく身体を密着させる。
名前のスカートからタイツと下着を剥ぎ取る。
そのまま秘部へと顔を近付ければ焦ったような
名前の止める声が聞こえたが知らないふりをした。
ツンっとする尿の臭いとトロトロ流れ出る愛液。シャワーを浴びていないせいか、濃い臭いに興奮していく自身。
肉を広げ、秘豆に向かって舌先でチロチロと舐めれば名前の身体に力が入った。
秘豆を口に含みら舐めたり押し潰したり吸い付いたり。
その間にトロトロとすぐに濡れ出す秘部に指を2本。
思っていたより狭く、キュッキュッと指の侵入に驚き締め付ける中は温かい。
そのまま奥へと入れ、お腹側のざらざらとしたGスポットへと辿り着けば面白い程身体が跳ねた。
「ぁっああっ、んっ、すぐるっ、す、ぐるっ」
甘い声に脳内が満たされていく。
中を広げるようにGスポットを避けてぐるりと指を回す。
さらにもう一本追加するがキツク締め付けるのでゆっくり出し入れしながらも中をほぐしていく。
レロリ、と秘豆全体を舌で押し潰しながら舐めればピクッと身体が跳ねたあと指をキュッキュッと締め付けていく。
「イッちゃった?」
「ん、少し……」
「だれとも遊ばなかったの?」
悟、とか。
耳元でわざとらしく呟けばピクンッと跳ねた。
「酷い、いじわる」
「ふふっ、ごめんね」
耳の中へ舌先を入れ、耳朶を食み、何度も吸い付いたり舐めたりしていれば声を押し殺しながらも身体を震わせる名前。
中はまだキツいが……自身の衣類も脱いで、名前の服も脱がしていく。
あっという間に生まれたての姿でベッドに転がる名前の姿は……何度見てきたはずなのに、ゴクリと喉が鳴った。
「傑」
「……ごめん余裕、ない」
欲しい。
ずっと、ずっと我慢していた。
やるべき事があるからと後回しにしていたが……目の前に来た名前を我慢なんて出来なかった。
ぬるぬると先端を穴に擦り付ける。
ゴム……と思ったが、逃がす気などないのにいらないか、とゆっく挿入ていく。
痛いのか、苦しいのか……シーツを握り必死に呼吸をしようとする姿は愛らしい。
1/3を残しているが、いっぱいそうな名前の腹を撫で、ぐっと押すと入っている自身がわかりなぜだか満たされた。
グッグッ、とお腹を押して楽しんでいたら両手で止める私よりも小さな手。
「それ、やだっ」
「痛い?」
「違う。まだ、傑でいっぱいじゃないからもどかしくなるの」
「………」
「傑、傑。ねぇ、お願い。
もっと。もっと奥までちょーだい。足りないのっ」
「………名前、やっぱ遊んだ?」
中の形は変わっていなさそうだけど……
「ドスケベ」
「ああぁぁあっ!!!」
腰を掴み、勢いに任せて奥へとねじ込む。
グリグリとすれば奥のザラザラとした突起が当たって気持ちがいい。
腰を引いて奥へ……と、動き出せば止まらない。
パンパンっと名前の負担など考えずに快楽に身を任せる。
名前の様子を見ながら、名前の好きだった場所をつついてやれば大袈裟に身体が跳ねて身をよじり逃げ出そうとするのを押さえ付ける。律動を止め、クニクニと秘豆を弄ればカクカク動く腰に笑ってしまう。
「あっ、すぐるっ!そ、れっ」
「私ばかり気持ちよくても駄目だろ?」
「んんっ、きもち、いいっ」
「私も気持ちいい……久しぶりで、早く出そうだから」
先にイッて?と秘豆を潰しながら奥をグリグリと潰す。
わざとらしくゆっくりと律動し、子宮をゴリゴリ押し潰す動きに呆気なくイッたが襲いくる締め付けに、耐えるように動きを止める。
ウネウネと生き物のように動きながら絡まる中にもう我慢はしないと腰を叩き付けた。
「あっ、やだっ!ま、だイッてッッッ!!」
「無理っ」
最低だと言われても我慢し続けた欲をぶつけたくて名前の唇を塞ぐ。
名前の爪が背中を引っ掻くがそれすら心地よくて目の前の身体を貪る。
上がってきた精液を我慢することなく子宮に注ぎ込むように奥へと擦り付け、最後の一滴まで出しきる。
程よい疲労感とスッキリとした解放感。
だが収まることのない欲はすぐにムクムクと起き上がる。
「んっ」
「名前。ねぇ、名前」
「ん、まって、傑っ」
「私、沢山我慢したから。だから……ねぇ」
トロンとした瞳。赤い頬。乱れた呼吸。
「もう、我慢はしないと決めた」
私の、幼馴染。
私の、彼女。
私の、名前。
「私に全てくれないか?」
「……それ、プロポーズ?」
「そうなるかな?嫌だと言われてももう無理。返品不可」
「何それ」
ははっ、と笑うから中に入った私の陰茎に刺激がいく。
硬さを取り戻していく陰茎。
「ねぇ、傑」
「んっ、なに?」
「私は私の全てを傑にあげるから、傑は私に傑の全部をちょーだい」
「………」
「その為に見つけに来たよ。傑を捕まえたい」
「……ほんっとに、キミは」
鼻先をくっ付け合えばくすぐったい、と笑う名前。
ゆるゆると口角を上げ、赤く火照り色付いた頬。目尻を下げ、愛しいものでも見つめるように此方を見ている。
両腕を私の首に回し、頬、額、瞼、鼻先、唇と何度も触れるだけのキスを落としていく。
「傑の重荷も、傑の哀しみも、傑の怒りも分け合いたいけど……私は、理解できない」
"見えない"
その壁が分厚い。
何度も何度も名前がこちら側に来ればいいのに、と思った。
「理解出来ないけど、支えたいし分けて貰いたい。
傑が疲れたなら私に寄りかかってもいいように。
傑が駄目になったら私が傑を励ませるように」
「…………」
「この世界で私が傑を一番に愛しているから、他の人に渡したくない」
「ふふっ、一番?」
「そーだよ。一番」
子供のように無邪気に笑うのに、もう私達は子供から卒業する。
幼き頃と同じ笑顔なのに……目の前の彼女は立派な一人の女だ。
厭らしくて、情熱的で、綺麗な………愛しい人。
悪戯心で腰を動かせば、ピクンッと跳ねた身体と締め付ける中。
「ちょっと」
「ごめん。情熱的な告白に興奮してる」
「だからって時と場合を……ンッ」
「うん。私の答えは決まってる」
「傑っ!ちょっ、とッ」
まだ、足りない。もっともっと奥まで。
たかが、半年。
その長くも短い間……どれだけ名前を求めたか。
触れたくて、会いたくて、恋い焦がれ……。
「私を見て、愛してくれる名前を2度と手離す気は無い」
「ンッ、す、ぐるっ傑ッッッ」
「名前ッ、名前、愛しているッ」
上がってくる精液を我慢せずに再び名前の中へ。
トロトロと熱に浮かされ意識がフワフワとしている名前が愛おしい。
うねる中をわざとグリグリ奥を擦り付ければ甘い声と共にピクンピクンする身体。
「私と結婚してずっと一緒に居てくれないか?」
大好きじゃ足りない。
愛しているでも足りない。
この気持ちを言葉にするより、ありのままの欲望と共に受け止めて欲しい。
「………最低なプロポーズ」
「テイク2はもっと頑張るよ」
「ふふっ、傑のカッコ悪いプロポーズ竈門さんや家入さんに教えてあげなきゃ」
「辞めてくれ」
ズルッ、と引き抜けばドロッとした白い液体が出てくるのが見える。
その光景に喉がなり、再び熱を持ち硬くなる。
じっと見ていれば眉を寄せジト目で見てくる名前。
「傑……」
「仕方ない。エロい名前が悪い」
「真面目な話よりエッチ優先とか無いわ」
「………」
ドンッと押されて、そのままのり上がってくる名前の好きにさせる。
私に股がり笑う姿は悪戯に成功した子供のよう。
「まぁ、溜まるもんはしょうがない」
「うん。だからその厭らしい格好止めないか?」
私に股がりニヤニヤと笑っている名前。
「逃げ回ってた私が言葉で傑に愛情を示すには、些かパンチが欠けるので……」
「………は?」
クパリ、と指二本で恥部の肉を開く。
トロッと落ちてきた白濁液はゆっくりと流れ、ポタポタと私の陰茎に落ちる。
予想外のエロさと光景に思考が止まる。
何これ?私、何を見せられてる?
「私も身体で示すよ」
ポタポタと流れる白濁と、汚れた陰茎。
そしてもう片方の手で自身のお腹に手を置く名前。
「傑の愛でいっぱいにしてよ。
逃げも隠れもしないから、もう2度と離さないで。
……いや、この場合…私が離さなければいいのか?」
「…………」
「傑、返事は?」
ニヤニヤと笑っている名前。
どこでこんなこと覚えたんだか……思わず声を出して笑ってしまった。
笑い出した私に、体勢を崩した名前が私の腹に手をつく。
腹筋で起き上がり抱き締めればすっぽりと収まってしまう。
「うん。大好き。愛している」
「私もだよ」
「だから、名前……全部、全部くれないか?
キミの心も、キミの身体も、キミの未来も全て」
「勿論。傑にあげる」
「私も全てをあげる」
涙を浮かべる名前に口付ける。
嬉しくて嬉しくて仕方がないはずなのに……私の目から涙が溢れた。
あぁ、心が満たされる。
足りなかったものがピタリとはまり
やっと息をする事が出来た気がした。
「…………以上を持ちまして、第○○期、○○回卒業式を閉会とさせていただきます」
無事、私は卒業式を迎えることが出来ました。
卒業式にはお父さんとお母さんも来てくれて、バッシバシ写真を撮られた。
友達とも携帯やインスタントカメラで撮りまくり後からの出来が楽しみだ。
仲良くしていた後輩からと祝われて、少しだけ涙が込み上げてくるものの笑顔で頂いた花やプレゼントを貰う。その代わりに、とお返しはいつ渡せるかわからないので手作りのクッキーを持参し配った。
「あ、あのっ!名前先輩!!」
後輩の一人に声を掛けられたが、突如校門がザワつく様子に私は誰が来たのか察してしまった。
このザワめきは何度も経験している。
「よぉ」
「や」
「やっほぉー!」
真っ黒な改造された学ランの三人組はそれぞれ薔薇の花束を持っている。
「「「卒業おめでと」」」
「わぁー、うれっしー」
わさっ、と花束だらけになった私は注目の的もいいところ。
「もっと嬉しそうな顔しろよ。
祝いに来たんだから」
「うれしーうれしー」
「照れんな」
「うんうん、ありがとうございまーす」
顎クイするな。顔を近付けるな。腰に手を回すな。
全て笑顔で払い、ムスッとした五条の髪に薔薇を挿す。
そのまま頬に手を当て、微笑みながら
「ありがとう、五条さん。貴方の気持ちだけ受け取っておきますね」
「………つまんねぇ」
「家入さん、竈門さん動画そろそろやめてくださーい」
茶番劇を終えて、改めておめでとうと言われたのでお礼を返す。
そーいや後輩くんどーした、と振り替えれば何やら同級生達に肩を叩かれ気にしないでくれと苦笑いされた。
三人と卒業写真をなぜか撮ることとなり、私の学生生活は幕を閉じた。
「いつ行くんだよ」
「んー、今夜かな」
卒業おめでとう!とお祝い準備をしようとしたら、五条が当たり前のようにどこかに電話をしたら家に豪華なお寿司が並んだ。
華ちゃんがピザ屋に電話し、ピザもきた。
硝子ちゃんがおじぃちゃん名義でお酒を頼んだ。
お父さんとお母さんがギョッとする中、おじぃちゃんとおばぁちゃんはいつもの事だと気にしていない。
おばぁちゃんと美々子と菜々子がケーキ作ってくれた。
「今夜か。美々子と菜々子はどうするんだ?」
「ついていくって言われたけど、なんとか説得しましたよ」
「双子ちゃんは僕に任せてよぉ!」
「竈門さん、大丈夫です」
モグモグと高級であろうお寿司を食べていく。
五条に遠慮すると足りなかった?と追加されるので五条からの品物はありがたく受け取り、後日何かしらお返ししている。
おじぃちゃんとおばぁちゃんを呆れさせ、受け取らないという選択肢を潰した五条強い。
「んー?名前、どこか行くのかいぃ?」
「あら?同級生と卒業パーティーか何か?」
あ、いっけね!とここに来て思い出す両親の存在。
おじぃちゃんとおばぁちゃんは説得済みだったのに。
私は高級寿司を飲み込んで両親の前にキチッと座って頭を下げる。
「沢山迷惑もかけたし、沢山の愛情を貰ったし、ここまで育ててくれてありがとうございます」
「あら、改まってなに?」
「まるでお嫁に行くみたいだなぁ」
「うん。私、これから未来の旦那を迎えにちょっと旅立つ」
「「は?」」
はっはっはーと笑っていた両親がギョッと驚いた顔に。
「えっ?え、ええっ!?」
「あらまぁ」
「だ、誰だい!?どこのどいつが?」
「もしかして傑くん?」
「うん」
「傑くん!?」
「あら、じゃあ夏油さん宅と連絡取らなくちゃ」
「お母さん頼んだ。私はちょっくらハニーを迎えに行ってくるから」
「待って!!た、確かに傑くんならお父さんも認めるいい男だけど、ま、まだ結婚は……っ」
「お父さん、ごめんね。
ずっと待たせて追い掛けてくれた人を手放せるほど私、大人じゃない。
まだ正式に決まったわけじゃないけど……私が傑に会いたいから行ってくる」
よしっ、とお腹も膨らみまとめていた荷物を手に取る。
「名前」
「何?お母さん」
「いってらっしゃい」
泣きながら騒ぐお父さんの口を塞いで、笑顔で見送ってくれるお母さん。
唇をぎゅっ、と噛みながら私も今出来る笑顔を見せる。
「いってきます!」
そう言って私は夜間バスに乗り込んだ。
思い出すのは、いつだってキミとの思い出。
ここは、キミと行った場所。
ここは、キミがいつか行きたいと話した場所。
屈託ない笑顔ではしゃぎながら私の服を引っ張るキミが簡単には想像出来るのに、隣にキミはいない。
あぁ、キミがいない世界はこんなにも寂しいんだね……。そう、気付いたらあの日眠るキミを置いて飛び出さなければ、と後悔ばかりで今すぐにでもキミを抱き締めに帰りたくなった。
キミがいないだけで記憶と同じ場所は色褪せている。
汚い部分しか見えなくなれば、より汚い部分ばかりに目が行くように。
こんな世界でも、キミは"美しいんだ"と笑えるのかと何度も問いかけるが……私の中のキミは笑っていた。
"ほら、見て"
そう言って目を向けると汚い世界を拭うように小さな親切が落ちている。
その小さな親切がきっかけで見て見ぬフリをした者も、声を掛けようか迷っていた者も皆が立ち止まり手を差し出す。
偽善者が。優越感に浸りたいだけだろ、と考えてしまう私もいた。
それでも……たった一つの、一瞬の欠片が大きな光となる瞬間を何度も目にした。
それでも。
世界は呪霊を生み出すし、感謝などせず怖がられ、終わることのないゲームに身を落とされ、命を落とす……。
世界は少しも変わらない。
誰もが他を羨み、嫉妬し、憎み、呪う。
だがそれは……私達呪術師も変わらない。
呪詛師に堕ちた者達の苦しみを吐露されたところで、ありきたりな理由。
呪術師への恨み辛み、裏家業、金回りの良さ。
人間という生き物自体が欲にまみれた生き物だからこそ……呪いは消えない。
たとえ全人類が呪力を持ちコントロール出来たところで力を持った猿の行うことなど簡単に考え付く。
「名前……世界は、何をしても醜いよ」
ならばいっそ。
私のこの手で……。
己の手のひらを見つめていれば、ポンッと乗ったのはシワシワな手のひら。
何事かと目の前を見ればニコニコと笑う老婆が一人。
「は?」
「すまないねぇ。こんっなえぇ男に手ぇ引いて貰うなんて長生きするもんだぁ」
「いやっ、私は…」
「兄ちゃん、私の家はあっちだぁ」
強引なお婆さんに渋々着いていけば、畑しかない山奥の農村。
さっさと出ていこうとしても日本昔話のような山盛りのご飯におかず。
ニコニコと笑うお婆さんは此方の意見も聞かずに勧めてきて逃げられない。
さて、どーしたもんかと落ち着きのない私にお婆さんはにこにこと表情を変えずに笑っている。
「長い人生、そう投げやりになるもんじゃあ無いよ」
「………え?」
「ほら、まずはお食べ」
ホカホカと温かなご飯を自然と一口。
口の中に広がる米本来の甘み。
「人間ってーのはお腹が空くとなーんも考えれんくなる」
「………」
「まずは食べぇ。寝て元気だしぃ」
温かい。
見知らぬ人なのに。
呪力もない猿なのに。
旅に出て、初めてホッと一息つけた瞬間……どうしようもなく名前に会いたくなった。
名前に言われて目を向けても、視野の狭くなった私にはどんな小さな光も霞んでしまう。
汚い部分ばかりに目が行き、結局は同じだと思い込んでしまった。
「いっぱい食べぇ」
お婆さんと少しの間過ごした。
見知らぬ他人であるお婆さんは猿の一人なのに……ポツリ、ポツリと話し出す口からは色んなことをボカシながら話してしまう。
なのに、黙って聞いてくれた。
「そかそか。頑張ってるなぁ」
「………私は」
「頑張って頑張って、息苦しくなっちまったんだなぁ。なら休めばえぇ。
ウチはじぃ様にも先立たれ、息子達は帰って来んから好きなだけ休みぃ」
頑張った?
私は私のすべきことをしているのに……頑張っていなきゃいけなかった?
いや、頑張らなきゃ悟と肩を並べられない。
頑張らなきゃ仲間がいなくなる。
頑張らなきゃ、頑張らなきゃ、頑張ら……な、きゃ?
何のために?
私は……何の、為に、頑張って……。
お婆さんに別れを告げ、色んな場所に赴いた。
どこへ行こうか、なんて何も考えず……時に古い旅館。高級ホテル。カプセルホテル。野宿。
"ほら、傑"
名前の優しい声がする。
何も考え無いようにしながら綺麗なものばかりに目を向けるようになり、気の向くまま写真を撮り、送り、好きなものを食べて、時に強そうな、使えそうな呪霊を自分の為に取り込む。
相も変わらず酷い味だが……不思議と気分は悪くなかった。
"見て"
世界はどこまでも広くて。
世界はどこまでも繋がっていて。
この大きな世界を目の前に、私という存在はちっぽけなもの。
あの世界で特級だと一人前だと囃し立てられても、世界から見ればまだまだ幼い子供の私。
子供の私が細々と活動をしたところで、世界には敵わない。
それでも、やれないのか?と聞かれれば……出来ないわけじゃない。
計画を煮詰めて仲間を増やし、やろうと思えば………。
簡単に手折る事の出来る力がある自分。
その力を使おうとすればチラつく彼女の笑顔。
そして同じように彼女を想い笑う自分。
この気持ちを捨てる覚悟があっても……
彼女が他の誰かと幸せに笑うのも、私以外の誰かの隣を歩くのも許せない。
だからと言って彼女だけを特別扱いするなら私も周りも納得しない。
矛盾した穴だらけの計画なんて誰もついてこない。
なら、私がしたいことは?
私が本当にすべきことは?
私が頑張る理由は?
"傑"
彼女の声、まだ覚えてる。
笑顔も、温もりも、柔さも、脆さも。
私は………私は、彼女とずっと一緒に居たくて。
コレが、依存だったとしても手放せないほどのめり込んだ。
彼女が手に入るのなら。
彼女が側に居てくれるのなら。
怖いことも、嫌なことも乗り越えられる。
私は……私を受け入れてくれた名前の為に生きようと思ったのだから。
ストン、と胸に落ちた。
名前の為になるなら、と……非呪術師の為に。弱いものの為に。困っている人の為に。強者に対抗する為に。呪術界の為に。
色んなものに彼女を結び付け、いつの間にか大きくなりすぎていたのかもしれない。
彼女の為になるから、と私が自分で負担を増やしていながら辛くなって全てが嫌になった、なんて……ダサ過ぎる。
どんだけ私は名前の事好きなんだ、と思わず頭を抱えてしまった。
いや、好き。好きだからこその結果か。
自業自得にしても気付かないなんてどれだけ盲目なんだ。盲目だからこうなったんだよ。
うん………と、落ち着けばなんて事無い。
色んなものを背負っていたが、その荷を下ろせば単純な事だったのに。
それでもすぐに猿共を普通に見れるか、と言われれば無理だ。
糞不味い奴らの負の感情飲み込む身にもなれ。
偽善活動やってられるか。
此方も人を選ばせろ。
一度感じてしまった嫌悪感を持ったまま猿の為には動きたくない。
ならどうしたいか……と自問自答して行き着いたのは名前と出会わなかったら、という考え。
理解者は悟や硝子などの呪術界のみで、今回のように押し潰されたら……私は迷わず善悪関係無く猿を駆逐する。
名前という存在を抜きにして……私がやりたいこと。
私なら出来ること……と、考え思い付いたのは双子の存在。
もしも。
もしも、私が……高専に居ては出来ないが、外で出来ることがあるというのならきっと。
「盤星教は解体されたハズだが?」
「別の団体でも根っこは同じさ。
表向きは居抜きみてぇにしてるがな。嫌か?」
「いや、呪いと金と同志が集められれば何でもいいさ」
やりたかったのは、きっと………。
私や水瀬のように埋もれた存在はどこにでもいて、双子達のように蔑まれているかもしれない。
「本当にその格好で出るのか?」
「いいだろう?ハッタリは大事だ」
全ての人間が救われるなど思ってはいない。
悟が呪術界で生きるというのなら……
私は違う方向から動けばいい。
私は、私のやり方で。
呪術師を救えばいい。
「揃っているな?」
「各支部長、代表役員、会長
その他太客お揃いで」
こんな格好、名前が見たら笑うかな?
うん、大笑いで転がりそうだ。
「あーあー、皆さんお待たせしました。
それでは手短かに。
今、この瞬間からこの団体は私のモノです。
名前も改め、皆さんは今後私に従って下さい」
反対多数
「困りましたね。
そうだ!!園田さんよろしければ壇上へ。
そう!アナタです!!」
額に大きなコブのある男。
その男にたまたま、以前野放しにしていた呪霊がとりついた。
突如苦しみだした男。
「あぁ、大変だ!良くないものがとりついているのでアナタを指名しましたが……これはいけない。園田さん、今から私が貴方を救ってみせます。大丈夫、痛いことも苦しいこともありませんよ」
呻き声を出し転がる猿を見下ろす。
貰った情報でこの猿は以前星漿体で絡んでいたことを知った。
「いかがです?身体、楽になったでしょう?」
殺したいほど憎いと思うよ。
この猿達に人生を狂わされた水瀬やリコちゃん。
「皆さんも信じていただけたでしょうか?
私が皆さんを救ってさしあげましょう。
だから………」
猿は嫌い。
それが私の選んだ本音。
でも、全ての猿を駆逐してしまえば私の術式は呪術界にとって不都合な存在となる。
それだと、意味がない。
高専は古の呪術界の規定を重んじる。
古くさいもの程間違ってはいないが面倒だし融通がきかない。
それに縛られ、身動きのとれなさに息苦しくなるくらいならいっそ……私に都合の良い居場所があればいい。
「私に従え」
そもそもスカウトだって効率が悪すぎる。
他者と違う生きざまに怯え、偶然が重ならなければ一生隠れて生きるか、見付かって淘汰されるのならばいっそわかりやすい目印を作ってしまえば良いのに。
黙っていても呪い集めが出来て、仲間も呼び込める。
しかも話を聞くだけでお金が入る。
わざわざ危ないところに睡眠時間を削って移動しつつ、立て続けに入る任務の数々より黙っていても勝手に相手から来るんだから。
わぁ、なんっってホワイトなんだろう?
しかもオカルト集団の宗教だから強い呪霊の情報だって入ってくる。
高専の効率の悪さよりも断然良くないか?
あぁ、呪術師の卵達を教育する場も作らなければ。
あとは会計に、秘書に……。
やることは沢山ある。
自分の力でどれだけ出来るかわからないが……やりがいはある。
自分では考え付かなかった"可能性"の道。
ニヤケてしまう口元を隠し、私は私の道を行く。
元々あったシステムに此方の都合が良いように手を加え、最初は信者達を信じ込ませる為に親切を撒き散らすのは忙しかったが繁忙期程ではない。
夜はしっかり眠れるし、朝は少し遅めの起床。
何人か見つけた呪術師となれる要素がある子らは引き入れ指導にあたり、噂を聞き付けた呪詛師は返り討ちか使えそうなら引き込んだ。
そうしているうちに……あっという間に半年など過ぎ去り、私は私の立場を確立させた。
東京から離れているし、盤星教は解体され今は別の組織として名乗っている。
私と繋がるべき居場所はあえて教えていない。
長い長いかくれんぼであり鬼ごっこ。
彼女は……名前は私を見付けて捕まえると言ったが、実際は難しいだろう。
日本という小さな島国の中からたった一人を見付けるだなんて随分とまぁ大見得をきったものだ。
私が反対の立場でも探しはするが……非呪術師である彼女を探すには骨がおれる。
半年、という約束ではあったが……何年かかるかわからない。
それでも……信じたい、と思ってしまった。
"もーいーかーい?"
彼女の、楽しそうな声がした。
「夏油様」
うたた寝をしてしまったらしい。
私の秘書として仲間となった真奈美さんが心配そうにしている。
「お疲れなら今日はこのあたりで」
「いや、平気さ。少し……懐かしい夢を見たんだ」
「?」
半年。
短いようで長い期間……私は必死になった。
多少無理してでも早めに仲間を集め機能させることを選んだのだから。
「真奈美さん、次の予定は?」
「急ぐものでは……」
「大丈夫。無理はしないさ」
まだまだ組織としての機能は十分じゃない。
やっとある程度纏まってきたかな、程度なのだから。
ここからが忙しくなるのだから……今体調を崩したり弱音を吐くわけにはいかない。
「……次は、信者との謁見が何人か」
「そう」
「その後は上の方々との会食があります」
「面倒だね。代わりは?」
「他の者達にも空きがなくて」
「そうか……」
忙しい。
教祖として働き、面倒な上役のご機嫌伺いを相手し、呪いを取り込み、後進を育てる。
任せられる者を見極め、信頼感系を築く。
たかが半年、見せかけだけでも作り上げたものを今ここで崩すわけにはいかない。
「あともう一人、二人欲しいところだね」
「はい」
欠伸をしながら呪い付きの人間であればいいな、なくらいでやる気の起きない身体を引きずって歩く。
猿のくだらない話を聞き流して適当に相づちを打つ。今回もどうやら外れのようで、自分の不都合なことを呪いのせいだと怯えているだけの者だった。
適当にあしらいつつ特にご利益もない御守りを持たせれば嬉々として帰っていく。
よくこんな安物の硝子玉の塊やそれっぽく描いた御守りを入れたもので運気が上がりましたと喜べるものだ。
それ程までに切羽詰まっていて、自分で自分を追い込み回復していく猿の姿はまるで芸達者なピエロのようなもの。
「はぁ、面倒臭っ」
「予定を変更なさいますか?」
「いや、さっさと終わらせるよ。会食をサボって金蔓を逃すわけにはいかないからね」
「わかりました」
その後も似たような信者との謁見に気分は下がっていく。
先ほど、久しぶりに彼女の夢を見たから何だかホームシックになりつつある。
夢でもいいからまた会えないか、と目を瞑るが彼女の声を思い出そうとしてもどんな声だったか、と思ってしまう。
人は声から忘れていくと言うが……なるほど、と思ってしまった。
「夏油様」
「ん?どうしたんだい?」
「すいません……断ったのですが、どうしてもともう一件謁見依頼が」
「あー、うん。いいよ。その代わり会食に遅れる旨を」
「わかりました」
「真奈美さんの方は?」
「此方は問題ないです」
「そう。じゃあ悪いけど先に猿の相手をお願いするよ」
「かしこまりました」
憂鬱な会食が少し削られるのと、面倒な猿の会話を聞くだけなら猿の話を聞いていた方が楽だ。
さっさと終わらせて時間を潰して最後に顔出せばいいかな、なんて思いながら信者が入ってくるのをにこやかに受け入れる。
「ようこそ。貴方の悩みを私が救って「ブハッッッッ」…………」
話している途中に自分の事しか考えていない猿が遮る事はよくあることだ。
偽物かと警戒して話さない猿もいるが………笑われたのは初めてだ。
しかし、相手は躾のなっていない猿だ。
ここは一つ私が大人になって………。
「ンフフフッ、この胡散臭いのが教祖とか終わってんね」
たまーにいる冷やかしか?
面倒な相手はさっさと追い返すに限る。
「すいません、お客様。冷やかしなら……」
「やぁ、傑」
無礼にも近付いてきた猿の顔を見て……驚いた。
「迎えにきたよ、ハニー」
これは、都合のいい夢だろうか?
私の会いたかった人がいた。
私の抱き締めたかった人がいた。
私を追い掛けてくると言った人がいた。
私の愛してる人が目の前にいる。
「………」
「傑、捕まえた」
ぎゅうっ、と抱き締めてくれた温もり。
ふわり、と香るのは私の知らない彼女の香り。
記憶の中とは違う彼女。
でも……私の唯一無二の、彼女。
「………名前」
「はいはい。名前さんですよ」
「な、んで…」
何で此処がわかった?
何ですぐ来た?
何で追い掛けてきた?
何で、何で何で何で何でっ
「約束したでしょ?」
「…………」
「半年後、会いに行くって。
傑が何処に居ても必ず見つけ出すって」
手を伸ばし、抱き締めたら……確かに腕の中に。
「来たよ、傑」
にっこりと笑う彼女が眩しくて。
それ以上に……愛おしさが溢れて止まらない。
「名前」
「なぁに?」
「名前、名前、名前っ!!」
「はーい」
「会い、たかった………っ!!」
「私も。傑に……会いたかったぁ」
笑いながらボロボロ涙を溢す名前。
そんな名前の姿を見てしまえば……歯止めなど効かず手を伸ばした。
頭を押さえ付けながらなりふり構わず名前の唇を奪う。
名前の涙が頬に当たり、流れていく。
「傑……傑っ」
「名前……」
何度も何度も角度を変えて唇を貪る。
くっ付けて、離して、くっ付けて、舌を絡ませて。
言葉を交わすことなく思うがままに口内を貪る。
口の周りも、頬も唾液やら涙やらでぐちゃぐちゃになった私達の意識を戻したのは謁見終了の合図が鳴ったから。
「……あっ」
後先考えず、私は携帯を手に取る。
仲間達の予定を瞬時に思い浮かべ、一番可能性のある男へと連絡する。
「ラルゥ。すまないが急ぎで今の用事が終わったら真奈美さんと◯◯ホテルで会食を頼んでいいかい?」
『あら?どうかしたの?』
「急用が出来た」
『随分切羽詰まっているけど大丈夫?』
「問題ないよ。けど、そうだな……
明日の朝まで部屋には誰も近寄らせないでくれないか?」
『あら』
「頼んだよ」
『任せなさい』
携帯をしまい、名前を抱き上げる。
此処でもいいが信者がいつ出入りするかわからない。
雇っている職員に残りの業務を口早に説明し、さっさと奥の私の使っている部屋を目指す。
部屋について、ベッドの上に名前を落とした。
「あの、傑……?」
先程まで泣いていたのに、困惑した表情の名前。
「ほんっとうに……馬鹿だね、名前は」
「はぁ?」
「馬鹿。馬鹿だよ……本当、馬鹿」
「卒業式終わってすぐ旅立って2日で辿りついた私を誉めるとこじゃないの?」
「馬鹿……ふふっ、馬鹿過ぎて、笑えるよ」
「オイっ」
クックッ、と肩を震わせながら笑う私を叩く。
名前の肩に顔を埋める。
「名前」
「なに?」
「名前……呼んで。私の、名前」
「傑?」
「もっと」
傑、傑、傑、すぐる。
何度も何度も呼んでくれるその名前に、その声に……忘れていた声を思い出す。
高すぎず、低すぎない……そうだ。私の安心するこの声。
「傑」
「もっと」
「ねぇ、傑」
「ん………」
「顔、見せてよ。傑ばっかりズルい」
名前の首筋にすり寄っていた頭をぐいっと引っ張られる。
酷くないか?と思うが……目の前に泣きそうな顔をしながらも微笑む名前がいて……。
名前が、可愛らしく唇にちゅっ、とキスをしてくる。
「私の名前も呼んで。いっぱい、いっぱい呼んでよ」
「………」
「ちゃんと見て。私も傑を見たい」
「………」
「ねぇ、傑」
「………」
「傑が、足りないの」
ペロリ、と舐められた唇に頭の中がプツリ、と切れた。
噛み付くように唇を重ねて名前をベッドに押し倒した。
舌を絡めて、隙間なく身体を密着させる。
名前のスカートからタイツと下着を剥ぎ取る。
そのまま秘部へと顔を近付ければ焦ったような
名前の止める声が聞こえたが知らないふりをした。
ツンっとする尿の臭いとトロトロ流れ出る愛液。シャワーを浴びていないせいか、濃い臭いに興奮していく自身。
肉を広げ、秘豆に向かって舌先でチロチロと舐めれば名前の身体に力が入った。
秘豆を口に含みら舐めたり押し潰したり吸い付いたり。
その間にトロトロとすぐに濡れ出す秘部に指を2本。
思っていたより狭く、キュッキュッと指の侵入に驚き締め付ける中は温かい。
そのまま奥へと入れ、お腹側のざらざらとしたGスポットへと辿り着けば面白い程身体が跳ねた。
「ぁっああっ、んっ、すぐるっ、す、ぐるっ」
甘い声に脳内が満たされていく。
中を広げるようにGスポットを避けてぐるりと指を回す。
さらにもう一本追加するがキツク締め付けるのでゆっくり出し入れしながらも中をほぐしていく。
レロリ、と秘豆全体を舌で押し潰しながら舐めればピクッと身体が跳ねたあと指をキュッキュッと締め付けていく。
「イッちゃった?」
「ん、少し……」
「だれとも遊ばなかったの?」
悟、とか。
耳元でわざとらしく呟けばピクンッと跳ねた。
「酷い、いじわる」
「ふふっ、ごめんね」
耳の中へ舌先を入れ、耳朶を食み、何度も吸い付いたり舐めたりしていれば声を押し殺しながらも身体を震わせる名前。
中はまだキツいが……自身の衣類も脱いで、名前の服も脱がしていく。
あっという間に生まれたての姿でベッドに転がる名前の姿は……何度見てきたはずなのに、ゴクリと喉が鳴った。
「傑」
「……ごめん余裕、ない」
欲しい。
ずっと、ずっと我慢していた。
やるべき事があるからと後回しにしていたが……目の前に来た名前を我慢なんて出来なかった。
ぬるぬると先端を穴に擦り付ける。
ゴム……と思ったが、逃がす気などないのにいらないか、とゆっく挿入ていく。
痛いのか、苦しいのか……シーツを握り必死に呼吸をしようとする姿は愛らしい。
1/3を残しているが、いっぱいそうな名前の腹を撫で、ぐっと押すと入っている自身がわかりなぜだか満たされた。
グッグッ、とお腹を押して楽しんでいたら両手で止める私よりも小さな手。
「それ、やだっ」
「痛い?」
「違う。まだ、傑でいっぱいじゃないからもどかしくなるの」
「………」
「傑、傑。ねぇ、お願い。
もっと。もっと奥までちょーだい。足りないのっ」
「………名前、やっぱ遊んだ?」
中の形は変わっていなさそうだけど……
「ドスケベ」
「ああぁぁあっ!!!」
腰を掴み、勢いに任せて奥へとねじ込む。
グリグリとすれば奥のザラザラとした突起が当たって気持ちがいい。
腰を引いて奥へ……と、動き出せば止まらない。
パンパンっと名前の負担など考えずに快楽に身を任せる。
名前の様子を見ながら、名前の好きだった場所をつついてやれば大袈裟に身体が跳ねて身をよじり逃げ出そうとするのを押さえ付ける。律動を止め、クニクニと秘豆を弄ればカクカク動く腰に笑ってしまう。
「あっ、すぐるっ!そ、れっ」
「私ばかり気持ちよくても駄目だろ?」
「んんっ、きもち、いいっ」
「私も気持ちいい……久しぶりで、早く出そうだから」
先にイッて?と秘豆を潰しながら奥をグリグリと潰す。
わざとらしくゆっくりと律動し、子宮をゴリゴリ押し潰す動きに呆気なくイッたが襲いくる締め付けに、耐えるように動きを止める。
ウネウネと生き物のように動きながら絡まる中にもう我慢はしないと腰を叩き付けた。
「あっ、やだっ!ま、だイッてッッッ!!」
「無理っ」
最低だと言われても我慢し続けた欲をぶつけたくて名前の唇を塞ぐ。
名前の爪が背中を引っ掻くがそれすら心地よくて目の前の身体を貪る。
上がってきた精液を我慢することなく子宮に注ぎ込むように奥へと擦り付け、最後の一滴まで出しきる。
程よい疲労感とスッキリとした解放感。
だが収まることのない欲はすぐにムクムクと起き上がる。
「んっ」
「名前。ねぇ、名前」
「ん、まって、傑っ」
「私、沢山我慢したから。だから……ねぇ」
トロンとした瞳。赤い頬。乱れた呼吸。
「もう、我慢はしないと決めた」
私の、幼馴染。
私の、彼女。
私の、名前。
「私に全てくれないか?」
「……それ、プロポーズ?」
「そうなるかな?嫌だと言われてももう無理。返品不可」
「何それ」
ははっ、と笑うから中に入った私の陰茎に刺激がいく。
硬さを取り戻していく陰茎。
「ねぇ、傑」
「んっ、なに?」
「私は私の全てを傑にあげるから、傑は私に傑の全部をちょーだい」
「………」
「その為に見つけに来たよ。傑を捕まえたい」
「……ほんっとに、キミは」
鼻先をくっ付け合えばくすぐったい、と笑う名前。
ゆるゆると口角を上げ、赤く火照り色付いた頬。目尻を下げ、愛しいものでも見つめるように此方を見ている。
両腕を私の首に回し、頬、額、瞼、鼻先、唇と何度も触れるだけのキスを落としていく。
「傑の重荷も、傑の哀しみも、傑の怒りも分け合いたいけど……私は、理解できない」
"見えない"
その壁が分厚い。
何度も何度も名前がこちら側に来ればいいのに、と思った。
「理解出来ないけど、支えたいし分けて貰いたい。
傑が疲れたなら私に寄りかかってもいいように。
傑が駄目になったら私が傑を励ませるように」
「…………」
「この世界で私が傑を一番に愛しているから、他の人に渡したくない」
「ふふっ、一番?」
「そーだよ。一番」
子供のように無邪気に笑うのに、もう私達は子供から卒業する。
幼き頃と同じ笑顔なのに……目の前の彼女は立派な一人の女だ。
厭らしくて、情熱的で、綺麗な………愛しい人。
悪戯心で腰を動かせば、ピクンッと跳ねた身体と締め付ける中。
「ちょっと」
「ごめん。情熱的な告白に興奮してる」
「だからって時と場合を……ンッ」
「うん。私の答えは決まってる」
「傑っ!ちょっ、とッ」
まだ、足りない。もっともっと奥まで。
たかが、半年。
その長くも短い間……どれだけ名前を求めたか。
触れたくて、会いたくて、恋い焦がれ……。
「私を見て、愛してくれる名前を2度と手離す気は無い」
「ンッ、す、ぐるっ傑ッッッ」
「名前ッ、名前、愛しているッ」
上がってくる精液を我慢せずに再び名前の中へ。
トロトロと熱に浮かされ意識がフワフワとしている名前が愛おしい。
うねる中をわざとグリグリ奥を擦り付ければ甘い声と共にピクンピクンする身体。
「私と結婚してずっと一緒に居てくれないか?」
大好きじゃ足りない。
愛しているでも足りない。
この気持ちを言葉にするより、ありのままの欲望と共に受け止めて欲しい。
「………最低なプロポーズ」
「テイク2はもっと頑張るよ」
「ふふっ、傑のカッコ悪いプロポーズ竈門さんや家入さんに教えてあげなきゃ」
「辞めてくれ」
ズルッ、と引き抜けばドロッとした白い液体が出てくるのが見える。
その光景に喉がなり、再び熱を持ち硬くなる。
じっと見ていれば眉を寄せジト目で見てくる名前。
「傑……」
「仕方ない。エロい名前が悪い」
「真面目な話よりエッチ優先とか無いわ」
「………」
ドンッと押されて、そのままのり上がってくる名前の好きにさせる。
私に股がり笑う姿は悪戯に成功した子供のよう。
「まぁ、溜まるもんはしょうがない」
「うん。だからその厭らしい格好止めないか?」
私に股がりニヤニヤと笑っている名前。
「逃げ回ってた私が言葉で傑に愛情を示すには、些かパンチが欠けるので……」
「………は?」
クパリ、と指二本で恥部の肉を開く。
トロッと落ちてきた白濁液はゆっくりと流れ、ポタポタと私の陰茎に落ちる。
予想外のエロさと光景に思考が止まる。
何これ?私、何を見せられてる?
「私も身体で示すよ」
ポタポタと流れる白濁と、汚れた陰茎。
そしてもう片方の手で自身のお腹に手を置く名前。
「傑の愛でいっぱいにしてよ。
逃げも隠れもしないから、もう2度と離さないで。
……いや、この場合…私が離さなければいいのか?」
「…………」
「傑、返事は?」
ニヤニヤと笑っている名前。
どこでこんなこと覚えたんだか……思わず声を出して笑ってしまった。
笑い出した私に、体勢を崩した名前が私の腹に手をつく。
腹筋で起き上がり抱き締めればすっぽりと収まってしまう。
「うん。大好き。愛している」
「私もだよ」
「だから、名前……全部、全部くれないか?
キミの心も、キミの身体も、キミの未来も全て」
「勿論。傑にあげる」
「私も全てをあげる」
涙を浮かべる名前に口付ける。
嬉しくて嬉しくて仕方がないはずなのに……私の目から涙が溢れた。
あぁ、心が満たされる。
足りなかったものがピタリとはまり
やっと息をする事が出来た気がした。