幼馴染は生き残りたい
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愛を告げて1ヶ月程。
傑は忙しく毎日どこかへ飛ばされ、戻ってきたら休む間も無く飛ばされる。
社会に出ていないのにブラックな社会の闇を体験している内に目のハイライトが消えていく。
もうどうせ飛ばされるなら眠る時くらい安心するところがいいと我が家に入って来ては死んだように眠る傑。
そんな生活を約一年程過ごしてきた。
その間に五条は任務先で覚醒したらしく、何やらメキメキ力をつけているとか。
それに焦った傑も必死に追い付こうと頑張って呪いのゲロ玉を飲み込んで、非呪術師を嫌い、飲み込んで、嫌い、飲み込んで、嫌い……傑に何の罰ゲームなのかと聞きたいくらい非呪術師がクソみたいな任務しか入って来なかったらしい。
嫌いになっていく非呪術師の生み出すゲロ玉を飲み込む意味あるのかな……と呟かれた時はもうこっちがしんどくなった。
拝啓、残暑の残る夏の終わりではございますがいかがお過ごしでしょうか?
この度一筆書かさせて頂いたのには訳があります。
テメーの学校、どーなってんだゴラァッ!!!
と、夜蛾ママにお手紙を書いた。
呪術師は数が少なく、その中でも特級や一級と呼ばれる上位案件に関われる者はもっと少ないからと振り回される傑や五条。
ガキで世界救う前に目の前のガキ救うこと考えろ!!振り分け任務見直せ!!と嫌がらせのように毎日送った。
見直さない場合は私が傑を拉致っていきますと添えて。
知識で知ってはいたものの、あまりの疲労困憊具合に傑……おまっ、死ぬん?って真面目に焦った。
五条に殺される前に過労に殺されそう。
お前ら耐えられるか?
寝て、気配に起きて、首に手を添えられながら眼孔開いて真顔で「猿は駆除しなきゃ」ってボソボソ言われてみろ。
恐怖以外何を感じとれと?
疲れているんだね。よしよし…ってママ出せるか?
答えはNO。
思いっきり頬へ蹴りを入れ、ついでにアイデンティティの前髪を何本か引き抜いた。
そしたら我に返りベソベソと幼女のように泣き出し(泣いてはいないがそのように見える)呪術界はクソ、非呪術師もクソ、と嘆いている。
よちよち、と撫でていればそのままぐっすりで寝てしまうのに此方は今しがた訪れた命の恐怖で眠れない。
そんな深夜2時、3時に起こされる日々を送ってみろ。
苦情しかでないっつの。
そんなこんなで脅されはするものの返り討ち?しながら生き延びておりましたら……なんという事でしょう。
傑が2人の幼女を連れて帰って来ました。
三人揃って顔が死んでおる。
もうそんな時期だっけ?と此方も顔が死んだ。
灰原どうなった?とか聞く前に
幼女は見た目ボコボコ。
傑は殺気立っている。
私の顔も死ぬよね。
優先すべきは幼女の怪我……と三人を見て、幼女二人は嫌そうに、殺気を目に浮かべているし、傑も同じく猿嫌い病が発病している。
「おいで」
傑に向かって両手を伸ばせばくしゃりと顔を歪ませる。
幼女達は驚いた顔で傑を見上げるが、傑が私に抱き付いて顔を埋めているのを見てどうすれば良いのかと困惑している。
傑の背中をポンポンしながら抱き締める。
痛いくらい食い込む腕は気にしない。
「ほら、中入るよ」
「………」
「黙って着いておいで」
君達もおいで、と傑を張り付けたまま家の中へ。
どうしようか悩んでいたが、傑の後ろをヒヨコのようにヨチヨチ歩いてくる。
「おばぁちゃん、私の小さい頃の服無い?」
「あらまぁ、可愛いお客様ね。確か、箪笥に……」
「傑、お風呂行っといで」
無言の傑の腕をポンポンとすれば、フラフラと風呂場へ。
おばぁちゃんに服を任せておじぃちゃんは無言で救急箱を取り出してテーブルに。
傑用と私用の衣類を取りに2階へ上がり、部屋着とパンツを脱衣場に置いて腕と足を捲って入る。
双子ちゃんに傑の傑くんは見せられないのでちょっと待っていてね、と待機だ。
「頭流すよー」
無言で好きにさせてくれる傑。
これは相当参ってるな……と思うと同時に血生臭さはあるものの、血で汚れているわけじゃない事に安心する。
双子ちゃんは黙って脱衣所にいる。
背中を洗って前はご自分で……とタオルを渡せばびちゃびちゃな身体で抱き締められる。
傑が泣いている気がした。
顔は見えないが痛いくらい抱き締められ、震える肩や身体が暖まるようにとシャワーで流す。
「傑、まずは暖まって。冷えてる」
季節は夏の終わりだというのにまだまだ残暑が、残ってる。なのに、傑の身体は冷えている気がした。
浴槽に入れようとしたがシャワーで充分だと……子供達を頼むと言われた。
ボーッとどこか虚ろな目をする傑の髪を引っ張り、口付けて目を合わせる。
「着替えて待っててね」
私を目に映す傑に笑えば頷いた。
子供達と脱衣所から出て廊下で待っていると傑が出てきたので交代で中に入る。
双子達は怯えていたが、私が先に全裸になって見せればギョッとする。
そのまま驚く双子を一人づつ脱がしてお風呂場へ。
熱すぎず冷たすぎない……少しだけ冷ためのお湯をたらいの中で作り、足から洗っていく。
「痛いところは痛いって言ってね」
ビクッとする傷口は血の塊と泥だけ落とし、双子の身体や髪を洗っていく。
少しづつ温かくしていき、湯船はまだ傷が腫れているのもあり断念してもらった。
綺麗な金色と黒髪は2度洗っても血の色が出てきたが……ひとまず何度も洗うのは身体に負担がかかる。
双子にタオルをかけ、何度か様子を見ながらお湯を身体にかけてやって身体を暖める。
綺麗なタオルで2人を包めば、おばぁちゃんが用意したワンピースを2人に着せる。
私も着替えて双子を連れて脱衣所を出たら廊下で待っていた傑が気付いて近寄ってきた。
背中に傑を張り付け茶の間へ。
救急箱で双子の手当てをすれば、おばぁちゃんが温かなご飯を出してくれるが三人は手をつけようとしない。
私が一口食べてから一口傑の口へ入れれば雛鳥のように口を開けて食べ始める。
双子ちゃんには目の前で小さめのおにぎりにして手渡せば、傑を見ておにぎりを見て……恐る恐る口にしたあと、勢いよく食べ始めた。
おばぁちゃんが次々とおかずを置いていくと、三人の胃袋へ消えていく。
食べながらボロボロ泣き出した双子に私達は何も言わず頭を撫でたり、お茶を勧めた。
お腹もいっぱいになり、泣き疲れたのか双子はすやすや寝入ってしまった。
おばぁちゃんが私の部屋に双子が眠れるようにと敷き布団を敷いてくれていた。
傑は軽々と双子を抱き上げた。
「名前ちゃん」
「……ごめんね、おじぃちゃん。おばぁちゃん。私も何もわからないんだけど……」
「側に居てやれ」
「困った時は声掛けてね」
どっしり構えてくれている2人に、安心してしまう。
何も言えないのに……こうして、私達のやることを見守ってくれる2人に感謝しかない。
おじぃちゃんとおばぁちゃんを抱き締めておやすみ、と言って2階へ戻ればすやすやと眠る双子に布団を掛ける傑がいた。
「……名前」
「お疲れ様、傑。おかえり」
「………ただ、いま」
くしゃりと顔を歪ませて、泣きそうになる傑。
ベッドに座る私のお腹に顔を埋めて抱き着いてきた傑の頭を撫でる。
「何があったか聞いてもいいの?」
「……水瀬が、来たんだ」
「水瀬?」
突然の聞き慣れない名前に頭を傾げたが……思い出すのは傑に惚れていた後輩だ。
「とある村の呪霊を祓ったら……その子達が災厄の原因だと言われて」
「うわっ、糞じゃん」
「その子達、牢に閉じ込められていた」
「………」
「私達呪術師は猿共の生み出す呪いと戦い、死に逝くのに……猿共は救われて当たり前だと、救う力がある私達を悪魔だと化物だと迫害する」
「………」
「いっそのこと、殺してやろうかと思った」
ぎゅうっ、と力の籠る腕。
私は傑の頭を撫でる。
「殺してやろうかと思ったのに……名前のことが過ったら出来なかった」
「そか」
「そしたら、水瀬が来て……私の代わりに村人全員を皆殺しにしたよ」
「は?」
「『傑先輩の為なら』って…」
スッキリしたんだ。
死んで当然だと思った。
救いたいと思わなかった。
水瀬を止めようと思わなかった。
「……私は名前とは一緒に居ちゃいけないのかもしれない」
震える傑。
何て声を掛けるのが正解か、なんてわからない。
ただ、私から離れようとする傑をそのままにしてはおけず
「ねぇ、傑」
「………ん」
「何でこの子達を私の所に連れてきたの?」
「………」
「この子ら、多分だけど私の事好きになってくれないと思うよ。
好きになってもらうには時間がかかる」
チラリ、と双子を見る傑。
何を考えているのか、拳を強く握る姿は恐ろしい。
私のお腹の近くに顔を置く傑の両頬を撫でて私の方を向かせる。
困った顔を見せる傑に笑う。
そのまま両頬を捻って引っ張る。
「いっっっっ!?!?!?」
「傑さぁ、何回それ繰り返すの?
いや、繰り返してもいいけど」
「痛い」
「睨むなよ。バーカ」
頬を離し、ベチベチ頬を叩く。
こんなことしているが、心臓はドッキドキだ。
「嫌いな奴ら救っても傑は救われないよ。
しんどい道選ぶより楽な方を選びな」
「………」
「傑は私のでしょ?
他の奴ら背負う前に私の事大事にしてよ」
チュッ、と叩いた頬にキスを落とす。
面倒な恋人は猿キライの病に犯されている。
そろそろ頃合いかなぁ、と思うものの……問題が一つ。
「傑、あと半年我慢してよ」
「……半年?」
「うん、半年」
よしよし、と傑の頭を撫でる。
「双子ちゃんはおじぃちゃんとおばぁちゃんに言ってこの家で面倒見る。
あぁ、勿論色々でっちあげて双子ちゃんを保護しているって事にして警察にも届けるよ。
じゃないと幼女誘拐だもん」
「……けど」
「ちなみに傑の方はどうなるの?
傑も現場に居たなら疑われない?」
「……私も、多分…何も言わずに来たから……疑われる、と……思う」
「じゃあ夜蛾先生に手紙書くよ。
その間傑もうちに居な」
「だけど、名前に迷惑が……」
「今更でしょ」
変なところでヘタレになる傑。
「半年、我慢出来なかったら先に此処を離れてもいいよ」
「名前……」
「子犬みたいな顔すんなし。
先に傑が住みやすい場所探しすればって事。
後から私が追い掛ければいいんだから」
「……さっきから、言ってる意味が」
「傑がずっと私を追い掛けて、追い詰めて来たんだ。
なら、今度は私が傑を追い掛けて、追い詰めてもいいでしょ?」
「それは、嬉しいけど……」
意味がわからない、と本気で眉間にシワを寄せて此方を見上げる傑。
私は面白くなって笑う。
「ヒント1、半年後私は高校を卒業します」
「そうだね?」
「ヒント2、傑は18となります」
「……名前」
ハッ、とした傑。
キョロキョロと周りを見て視線が落ち着かない。
恐る恐る私を見上げて……泣きそうな顔をする。
「ヒント3、私はもう条件を満たしてる」
「私は……」
「どうせなら私の卒業までは待ってて欲しいんだけど」
「……だが」
「傑と約束したじゃん。
2年後にもう一度言うって」
去年した口約束。
こんな約束で傑を縛れるとは思っていないが……今の傑には必要だと思った。
引き留めるのはあの時じゃない。今だ。
「あの時から気持ちは変わっていないよ」
あの日からずっと。
いや、幼い時からずっと。
一人で悩む傑の側に居ても……私は傑の力にはなれないと思ってた。
住む世界が違う。
見える世界が違う。
持つ力が違う。
違う所ばかりしか見えず、それが寂しくて悲しい。
けど、一歩引いても見えてくるものは無い。
引いてしまえば距離が出来ただけだった。
諦めた私と違って、そんな馬鹿な私を追い掛けて来てくれていたのは傑だ。
傑と同じでいたいと思いながらも距離を置いて離れようとした私を、関係無いと繋ぎ止めたのは傑だ。
「お母さんやお父さん……おじぃちゃんやおばぁちゃん達の為にも、私の区切りの為にもケジメとして卒業はしたい」
「………うん」
「その間、傑がどこで何をしていてもいいよ。
その代わり、生きているかどうかくらいの返事はしてよ?」
「……教えないなら?」
「傑を探して三千里かな」
くしゃくしゃと昔よりずっと長くなった髪を撫でる。
「うちに居てもいい。遠くに行ってもいい。
もう少し頑張って高専に居るでもいい。
傑の人生、好きに生きなよ」
「……そんな事言ったら、私は道を誤るよ」
「は?私以外の女と一緒に世界征服でもするつもり?」
「いや……そんな気は、無いが…」
「じゃあ、法に触れないレベルでボコりながらフラフラしてなよ」
「言い方」
「半年後、私が捕まえに行くから」
フラフラしていた私を捕まえ続けた傑。
じゃあ、次の鬼は私だね。
「かくれんぼ?鬼ごっこ?
私、傑に負けた覚え無いからね」
「……ふふっ、そう……だった、ね」
「懐かしいなぁ。傑誰にも見付からないように木上に隠れて移動してたもんな」
「名前に見付かったよね。
鬼ごっこしたら私より遅いのに先回りして捕まった」
「何年一緒だと思ってんの。
傑のクセも、傑の行動パターンも、傑のイイ所だって把握してるよ」
「……本当、敵わないよ」
へにゃりと顔を綻ばせる傑の額にキスをする。
起き上がってのし掛かってきた傑を抱き締めながら一緒にベッドに倒れ込む。
私の顔中にキスの嵐のごとく、何度も何度も唇を押し付けるだけのキスをする。
気が済んだのか、肩口に顔を埋めて少し強めに吸い付かれる。
「厭らしい顔してる」
「そっちこそ」
「うん……本当はすごくシたいけど」
チラっと下を見ればスヤスヤと眠る双子。
まだまだ顔が痛々しい。
「……名前や、梅さんや、吾朗さんに迷惑はかけられない」
「どーすんの?」
「けど、高専にも居られない」
どこか覚悟を決めたような傑。
私は傑の顔を傑の腕の中から見上げる。
「……ごめん。迷惑ばかり」
「傑に夜通し抱き潰されるよりは迷惑じゃないっつの」
「ノリノリなくせに」
「じゃあどーすんの?」
「………わからない」
「そか。まぁ、ヒモになるのだけはやめてくれよ」
「ならないよ」
どこぞのプロヒモを思い出しちまった。
やめてよ。めちゃくちゃ似合うから。
「双子ちゃんの事を考えたら、傑に着いていった方がいいだろうけど……双子ちゃんは今後一生私達非呪術師を理解しないだろうね」
「そうかもしれない。けど、わざわざ関わらなくてもいいだろ?」
「それを決めるのは双子ちゃんだよ」
ムッとした傑をなだめるように話す。
「傑は傑の理想があってもいい。
けど、その理想を他に押し付けるな」
「あの子達は充分苦しんだ」
「その苦しみを癒すべきは私達だよ」
非呪術師だろうと、呪術師だろうと
人である限り苦しめるのも癒すのも人だ。
「最低な奴らの中にも、温かな人がいる。
手を伸ばそうとしてくれる人がいる。
それをわかってくれればいい」
「………自己満だ」
「そうだよ。じゃないと私は傑ともやっていけないじゃん」
「…………」
「傑の理想に私は邪魔。けど、傑は私を手離せない」
「…………」
「嫌いなものを排除してもキリがない。
なら、共存していくしかない」
「……はぁ」
「人の綺麗な部分も汚い部分も知って、初めて大人になれるんだよ。
傑、アンタまだ17だよ?
世界を知るには十分薄暗いところに居た。
なら、今度は世界の綺麗な部分を見ておいでよ」
「綺麗な……?」
「世界は綺麗だよ。
人も、同じくらい……汚くて綺麗だから」
傑を抱き寄せ、唇を重ねる。
カサついた唇を少しだけなめって湿らせ、再び唇を重ねた。
「おじぃちゃん、おばぁちゃんと居れば双子ちゃん達も落ち着くと思う」
「………」
「傑もいつでも戻っておいで。
半年、私は此処で待っているから。
半年後、傑を追い掛けに行くから……好きにすればいい」
眉を下げて困った顔をする傑に私は笑う。
「あぁ、そうだ。
仕事が欲しい時は……一人アテがあるから」
「は?」
「呪詛師の仕事だろうけど」
「駄目じゃないか」
「負け犬根性は鍛えられるかと。めちゃくちゃ強いし」
「負け犬じゃない」
「ギャンブルに負けまくってる人生だけどめちゃくちゃ強いから勉強しておいで」
「どんな奴だ」
2人で笑って、手を繋いだまま眠り……
朝起きたら傑はもういなかった。
傑がいなくなった日の朝
朝早く起きたのに傑は既に居なかった。
おじぃちゃんとおばぁちゃんに頭を下げてあと半年、双子の保護をして欲しいこと。
傑が双子を村ぐるみで虐待していた事を保護したが、本人が今回の事で人嫌いになってしまい暫く自分と向き合う為の旅に出たことを説明した。
2人は何も言わず……受け入れてくれた。
ここからが勝負で……
双子ちゃん達は起きたあと、泣きながら私を罵倒し、暴言を吐き、傑を今からでも追い掛けると家を飛び出そうとした。
そんな双子を抱き締めて、私達は謝った。
「ごめんね。勝手な事した」
暴れる双子を強く抱き締める。
「人を嫌ってもいい。恨んでも、憎んでもいい。
君達が受けた仕打ちを消す事は出来ないけど……」
繋がり、温かさ、優しさ
人に傷つけられても
人で癒される
「傑ばかりが世界じゃないよ。
傑も……世界を、人を知らなきゃいけない子供なんだ」
「「…………」」
「あぁ見えて、傑はまだまだ子供なんだよ」
双子は静かに泣き出した。
泣いて、泣いて……心を許されたわけじゃないが一緒に居てくれる事を許してくれた。
あとがき
エロを盛りたいが、なかなかチャンスがなくて申し訳ない。
傑は忙しく毎日どこかへ飛ばされ、戻ってきたら休む間も無く飛ばされる。
社会に出ていないのにブラックな社会の闇を体験している内に目のハイライトが消えていく。
もうどうせ飛ばされるなら眠る時くらい安心するところがいいと我が家に入って来ては死んだように眠る傑。
そんな生活を約一年程過ごしてきた。
その間に五条は任務先で覚醒したらしく、何やらメキメキ力をつけているとか。
それに焦った傑も必死に追い付こうと頑張って呪いのゲロ玉を飲み込んで、非呪術師を嫌い、飲み込んで、嫌い、飲み込んで、嫌い……傑に何の罰ゲームなのかと聞きたいくらい非呪術師がクソみたいな任務しか入って来なかったらしい。
嫌いになっていく非呪術師の生み出すゲロ玉を飲み込む意味あるのかな……と呟かれた時はもうこっちがしんどくなった。
拝啓、残暑の残る夏の終わりではございますがいかがお過ごしでしょうか?
この度一筆書かさせて頂いたのには訳があります。
テメーの学校、どーなってんだゴラァッ!!!
と、夜蛾ママにお手紙を書いた。
呪術師は数が少なく、その中でも特級や一級と呼ばれる上位案件に関われる者はもっと少ないからと振り回される傑や五条。
ガキで世界救う前に目の前のガキ救うこと考えろ!!振り分け任務見直せ!!と嫌がらせのように毎日送った。
見直さない場合は私が傑を拉致っていきますと添えて。
知識で知ってはいたものの、あまりの疲労困憊具合に傑……おまっ、死ぬん?って真面目に焦った。
五条に殺される前に過労に殺されそう。
お前ら耐えられるか?
寝て、気配に起きて、首に手を添えられながら眼孔開いて真顔で「猿は駆除しなきゃ」ってボソボソ言われてみろ。
恐怖以外何を感じとれと?
疲れているんだね。よしよし…ってママ出せるか?
答えはNO。
思いっきり頬へ蹴りを入れ、ついでにアイデンティティの前髪を何本か引き抜いた。
そしたら我に返りベソベソと幼女のように泣き出し(泣いてはいないがそのように見える)呪術界はクソ、非呪術師もクソ、と嘆いている。
よちよち、と撫でていればそのままぐっすりで寝てしまうのに此方は今しがた訪れた命の恐怖で眠れない。
そんな深夜2時、3時に起こされる日々を送ってみろ。
苦情しかでないっつの。
そんなこんなで脅されはするものの返り討ち?しながら生き延びておりましたら……なんという事でしょう。
傑が2人の幼女を連れて帰って来ました。
三人揃って顔が死んでおる。
もうそんな時期だっけ?と此方も顔が死んだ。
灰原どうなった?とか聞く前に
幼女は見た目ボコボコ。
傑は殺気立っている。
私の顔も死ぬよね。
優先すべきは幼女の怪我……と三人を見て、幼女二人は嫌そうに、殺気を目に浮かべているし、傑も同じく猿嫌い病が発病している。
「おいで」
傑に向かって両手を伸ばせばくしゃりと顔を歪ませる。
幼女達は驚いた顔で傑を見上げるが、傑が私に抱き付いて顔を埋めているのを見てどうすれば良いのかと困惑している。
傑の背中をポンポンしながら抱き締める。
痛いくらい食い込む腕は気にしない。
「ほら、中入るよ」
「………」
「黙って着いておいで」
君達もおいで、と傑を張り付けたまま家の中へ。
どうしようか悩んでいたが、傑の後ろをヒヨコのようにヨチヨチ歩いてくる。
「おばぁちゃん、私の小さい頃の服無い?」
「あらまぁ、可愛いお客様ね。確か、箪笥に……」
「傑、お風呂行っといで」
無言の傑の腕をポンポンとすれば、フラフラと風呂場へ。
おばぁちゃんに服を任せておじぃちゃんは無言で救急箱を取り出してテーブルに。
傑用と私用の衣類を取りに2階へ上がり、部屋着とパンツを脱衣場に置いて腕と足を捲って入る。
双子ちゃんに傑の傑くんは見せられないのでちょっと待っていてね、と待機だ。
「頭流すよー」
無言で好きにさせてくれる傑。
これは相当参ってるな……と思うと同時に血生臭さはあるものの、血で汚れているわけじゃない事に安心する。
双子ちゃんは黙って脱衣所にいる。
背中を洗って前はご自分で……とタオルを渡せばびちゃびちゃな身体で抱き締められる。
傑が泣いている気がした。
顔は見えないが痛いくらい抱き締められ、震える肩や身体が暖まるようにとシャワーで流す。
「傑、まずは暖まって。冷えてる」
季節は夏の終わりだというのにまだまだ残暑が、残ってる。なのに、傑の身体は冷えている気がした。
浴槽に入れようとしたがシャワーで充分だと……子供達を頼むと言われた。
ボーッとどこか虚ろな目をする傑の髪を引っ張り、口付けて目を合わせる。
「着替えて待っててね」
私を目に映す傑に笑えば頷いた。
子供達と脱衣所から出て廊下で待っていると傑が出てきたので交代で中に入る。
双子達は怯えていたが、私が先に全裸になって見せればギョッとする。
そのまま驚く双子を一人づつ脱がしてお風呂場へ。
熱すぎず冷たすぎない……少しだけ冷ためのお湯をたらいの中で作り、足から洗っていく。
「痛いところは痛いって言ってね」
ビクッとする傷口は血の塊と泥だけ落とし、双子の身体や髪を洗っていく。
少しづつ温かくしていき、湯船はまだ傷が腫れているのもあり断念してもらった。
綺麗な金色と黒髪は2度洗っても血の色が出てきたが……ひとまず何度も洗うのは身体に負担がかかる。
双子にタオルをかけ、何度か様子を見ながらお湯を身体にかけてやって身体を暖める。
綺麗なタオルで2人を包めば、おばぁちゃんが用意したワンピースを2人に着せる。
私も着替えて双子を連れて脱衣所を出たら廊下で待っていた傑が気付いて近寄ってきた。
背中に傑を張り付け茶の間へ。
救急箱で双子の手当てをすれば、おばぁちゃんが温かなご飯を出してくれるが三人は手をつけようとしない。
私が一口食べてから一口傑の口へ入れれば雛鳥のように口を開けて食べ始める。
双子ちゃんには目の前で小さめのおにぎりにして手渡せば、傑を見ておにぎりを見て……恐る恐る口にしたあと、勢いよく食べ始めた。
おばぁちゃんが次々とおかずを置いていくと、三人の胃袋へ消えていく。
食べながらボロボロ泣き出した双子に私達は何も言わず頭を撫でたり、お茶を勧めた。
お腹もいっぱいになり、泣き疲れたのか双子はすやすや寝入ってしまった。
おばぁちゃんが私の部屋に双子が眠れるようにと敷き布団を敷いてくれていた。
傑は軽々と双子を抱き上げた。
「名前ちゃん」
「……ごめんね、おじぃちゃん。おばぁちゃん。私も何もわからないんだけど……」
「側に居てやれ」
「困った時は声掛けてね」
どっしり構えてくれている2人に、安心してしまう。
何も言えないのに……こうして、私達のやることを見守ってくれる2人に感謝しかない。
おじぃちゃんとおばぁちゃんを抱き締めておやすみ、と言って2階へ戻ればすやすやと眠る双子に布団を掛ける傑がいた。
「……名前」
「お疲れ様、傑。おかえり」
「………ただ、いま」
くしゃりと顔を歪ませて、泣きそうになる傑。
ベッドに座る私のお腹に顔を埋めて抱き着いてきた傑の頭を撫でる。
「何があったか聞いてもいいの?」
「……水瀬が、来たんだ」
「水瀬?」
突然の聞き慣れない名前に頭を傾げたが……思い出すのは傑に惚れていた後輩だ。
「とある村の呪霊を祓ったら……その子達が災厄の原因だと言われて」
「うわっ、糞じゃん」
「その子達、牢に閉じ込められていた」
「………」
「私達呪術師は猿共の生み出す呪いと戦い、死に逝くのに……猿共は救われて当たり前だと、救う力がある私達を悪魔だと化物だと迫害する」
「………」
「いっそのこと、殺してやろうかと思った」
ぎゅうっ、と力の籠る腕。
私は傑の頭を撫でる。
「殺してやろうかと思ったのに……名前のことが過ったら出来なかった」
「そか」
「そしたら、水瀬が来て……私の代わりに村人全員を皆殺しにしたよ」
「は?」
「『傑先輩の為なら』って…」
スッキリしたんだ。
死んで当然だと思った。
救いたいと思わなかった。
水瀬を止めようと思わなかった。
「……私は名前とは一緒に居ちゃいけないのかもしれない」
震える傑。
何て声を掛けるのが正解か、なんてわからない。
ただ、私から離れようとする傑をそのままにしてはおけず
「ねぇ、傑」
「………ん」
「何でこの子達を私の所に連れてきたの?」
「………」
「この子ら、多分だけど私の事好きになってくれないと思うよ。
好きになってもらうには時間がかかる」
チラリ、と双子を見る傑。
何を考えているのか、拳を強く握る姿は恐ろしい。
私のお腹の近くに顔を置く傑の両頬を撫でて私の方を向かせる。
困った顔を見せる傑に笑う。
そのまま両頬を捻って引っ張る。
「いっっっっ!?!?!?」
「傑さぁ、何回それ繰り返すの?
いや、繰り返してもいいけど」
「痛い」
「睨むなよ。バーカ」
頬を離し、ベチベチ頬を叩く。
こんなことしているが、心臓はドッキドキだ。
「嫌いな奴ら救っても傑は救われないよ。
しんどい道選ぶより楽な方を選びな」
「………」
「傑は私のでしょ?
他の奴ら背負う前に私の事大事にしてよ」
チュッ、と叩いた頬にキスを落とす。
面倒な恋人は猿キライの病に犯されている。
そろそろ頃合いかなぁ、と思うものの……問題が一つ。
「傑、あと半年我慢してよ」
「……半年?」
「うん、半年」
よしよし、と傑の頭を撫でる。
「双子ちゃんはおじぃちゃんとおばぁちゃんに言ってこの家で面倒見る。
あぁ、勿論色々でっちあげて双子ちゃんを保護しているって事にして警察にも届けるよ。
じゃないと幼女誘拐だもん」
「……けど」
「ちなみに傑の方はどうなるの?
傑も現場に居たなら疑われない?」
「……私も、多分…何も言わずに来たから……疑われる、と……思う」
「じゃあ夜蛾先生に手紙書くよ。
その間傑もうちに居な」
「だけど、名前に迷惑が……」
「今更でしょ」
変なところでヘタレになる傑。
「半年、我慢出来なかったら先に此処を離れてもいいよ」
「名前……」
「子犬みたいな顔すんなし。
先に傑が住みやすい場所探しすればって事。
後から私が追い掛ければいいんだから」
「……さっきから、言ってる意味が」
「傑がずっと私を追い掛けて、追い詰めて来たんだ。
なら、今度は私が傑を追い掛けて、追い詰めてもいいでしょ?」
「それは、嬉しいけど……」
意味がわからない、と本気で眉間にシワを寄せて此方を見上げる傑。
私は面白くなって笑う。
「ヒント1、半年後私は高校を卒業します」
「そうだね?」
「ヒント2、傑は18となります」
「……名前」
ハッ、とした傑。
キョロキョロと周りを見て視線が落ち着かない。
恐る恐る私を見上げて……泣きそうな顔をする。
「ヒント3、私はもう条件を満たしてる」
「私は……」
「どうせなら私の卒業までは待ってて欲しいんだけど」
「……だが」
「傑と約束したじゃん。
2年後にもう一度言うって」
去年した口約束。
こんな約束で傑を縛れるとは思っていないが……今の傑には必要だと思った。
引き留めるのはあの時じゃない。今だ。
「あの時から気持ちは変わっていないよ」
あの日からずっと。
いや、幼い時からずっと。
一人で悩む傑の側に居ても……私は傑の力にはなれないと思ってた。
住む世界が違う。
見える世界が違う。
持つ力が違う。
違う所ばかりしか見えず、それが寂しくて悲しい。
けど、一歩引いても見えてくるものは無い。
引いてしまえば距離が出来ただけだった。
諦めた私と違って、そんな馬鹿な私を追い掛けて来てくれていたのは傑だ。
傑と同じでいたいと思いながらも距離を置いて離れようとした私を、関係無いと繋ぎ止めたのは傑だ。
「お母さんやお父さん……おじぃちゃんやおばぁちゃん達の為にも、私の区切りの為にもケジメとして卒業はしたい」
「………うん」
「その間、傑がどこで何をしていてもいいよ。
その代わり、生きているかどうかくらいの返事はしてよ?」
「……教えないなら?」
「傑を探して三千里かな」
くしゃくしゃと昔よりずっと長くなった髪を撫でる。
「うちに居てもいい。遠くに行ってもいい。
もう少し頑張って高専に居るでもいい。
傑の人生、好きに生きなよ」
「……そんな事言ったら、私は道を誤るよ」
「は?私以外の女と一緒に世界征服でもするつもり?」
「いや……そんな気は、無いが…」
「じゃあ、法に触れないレベルでボコりながらフラフラしてなよ」
「言い方」
「半年後、私が捕まえに行くから」
フラフラしていた私を捕まえ続けた傑。
じゃあ、次の鬼は私だね。
「かくれんぼ?鬼ごっこ?
私、傑に負けた覚え無いからね」
「……ふふっ、そう……だった、ね」
「懐かしいなぁ。傑誰にも見付からないように木上に隠れて移動してたもんな」
「名前に見付かったよね。
鬼ごっこしたら私より遅いのに先回りして捕まった」
「何年一緒だと思ってんの。
傑のクセも、傑の行動パターンも、傑のイイ所だって把握してるよ」
「……本当、敵わないよ」
へにゃりと顔を綻ばせる傑の額にキスをする。
起き上がってのし掛かってきた傑を抱き締めながら一緒にベッドに倒れ込む。
私の顔中にキスの嵐のごとく、何度も何度も唇を押し付けるだけのキスをする。
気が済んだのか、肩口に顔を埋めて少し強めに吸い付かれる。
「厭らしい顔してる」
「そっちこそ」
「うん……本当はすごくシたいけど」
チラっと下を見ればスヤスヤと眠る双子。
まだまだ顔が痛々しい。
「……名前や、梅さんや、吾朗さんに迷惑はかけられない」
「どーすんの?」
「けど、高専にも居られない」
どこか覚悟を決めたような傑。
私は傑の顔を傑の腕の中から見上げる。
「……ごめん。迷惑ばかり」
「傑に夜通し抱き潰されるよりは迷惑じゃないっつの」
「ノリノリなくせに」
「じゃあどーすんの?」
「………わからない」
「そか。まぁ、ヒモになるのだけはやめてくれよ」
「ならないよ」
どこぞのプロヒモを思い出しちまった。
やめてよ。めちゃくちゃ似合うから。
「双子ちゃんの事を考えたら、傑に着いていった方がいいだろうけど……双子ちゃんは今後一生私達非呪術師を理解しないだろうね」
「そうかもしれない。けど、わざわざ関わらなくてもいいだろ?」
「それを決めるのは双子ちゃんだよ」
ムッとした傑をなだめるように話す。
「傑は傑の理想があってもいい。
けど、その理想を他に押し付けるな」
「あの子達は充分苦しんだ」
「その苦しみを癒すべきは私達だよ」
非呪術師だろうと、呪術師だろうと
人である限り苦しめるのも癒すのも人だ。
「最低な奴らの中にも、温かな人がいる。
手を伸ばそうとしてくれる人がいる。
それをわかってくれればいい」
「………自己満だ」
「そうだよ。じゃないと私は傑ともやっていけないじゃん」
「…………」
「傑の理想に私は邪魔。けど、傑は私を手離せない」
「…………」
「嫌いなものを排除してもキリがない。
なら、共存していくしかない」
「……はぁ」
「人の綺麗な部分も汚い部分も知って、初めて大人になれるんだよ。
傑、アンタまだ17だよ?
世界を知るには十分薄暗いところに居た。
なら、今度は世界の綺麗な部分を見ておいでよ」
「綺麗な……?」
「世界は綺麗だよ。
人も、同じくらい……汚くて綺麗だから」
傑を抱き寄せ、唇を重ねる。
カサついた唇を少しだけなめって湿らせ、再び唇を重ねた。
「おじぃちゃん、おばぁちゃんと居れば双子ちゃん達も落ち着くと思う」
「………」
「傑もいつでも戻っておいで。
半年、私は此処で待っているから。
半年後、傑を追い掛けに行くから……好きにすればいい」
眉を下げて困った顔をする傑に私は笑う。
「あぁ、そうだ。
仕事が欲しい時は……一人アテがあるから」
「は?」
「呪詛師の仕事だろうけど」
「駄目じゃないか」
「負け犬根性は鍛えられるかと。めちゃくちゃ強いし」
「負け犬じゃない」
「ギャンブルに負けまくってる人生だけどめちゃくちゃ強いから勉強しておいで」
「どんな奴だ」
2人で笑って、手を繋いだまま眠り……
朝起きたら傑はもういなかった。
傑がいなくなった日の朝
朝早く起きたのに傑は既に居なかった。
おじぃちゃんとおばぁちゃんに頭を下げてあと半年、双子の保護をして欲しいこと。
傑が双子を村ぐるみで虐待していた事を保護したが、本人が今回の事で人嫌いになってしまい暫く自分と向き合う為の旅に出たことを説明した。
2人は何も言わず……受け入れてくれた。
ここからが勝負で……
双子ちゃん達は起きたあと、泣きながら私を罵倒し、暴言を吐き、傑を今からでも追い掛けると家を飛び出そうとした。
そんな双子を抱き締めて、私達は謝った。
「ごめんね。勝手な事した」
暴れる双子を強く抱き締める。
「人を嫌ってもいい。恨んでも、憎んでもいい。
君達が受けた仕打ちを消す事は出来ないけど……」
繋がり、温かさ、優しさ
人に傷つけられても
人で癒される
「傑ばかりが世界じゃないよ。
傑も……世界を、人を知らなきゃいけない子供なんだ」
「「…………」」
「あぁ見えて、傑はまだまだ子供なんだよ」
双子は静かに泣き出した。
泣いて、泣いて……心を許されたわけじゃないが一緒に居てくれる事を許してくれた。
あとがき
エロを盛りたいが、なかなかチャンスがなくて申し訳ない。