幼馴染は生き残りたい
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"続いて昨日 静岡県 浜松市で起きた爆発事故…"
なんだか聞き覚えのあるニュースを朝御飯を食べながら聞く。
そして傑から来た、任務が入ったので暫く会えないって悲しみの顔文字と共に送られてきたメール。
「………おやおやぁ」
華ちゃんにメールをしてみる。
"静岡県、浜松市……もしかして?"
"ご名答。運命の別れ道ですぅ"
うわっ、と思わず表情が歪む。
続けて電話がかかってきた。
「竈門さんは同じ任務じゃないんですか?」
"僕弱いもぉーん!
僕は違う任務だからちょっとわかんなぁーい!極秘だから僕は知らされてないしぃ……この先どうなるか正直わかんない。
名前ちゃんが夏油くんと仲良しで、原作とは違った考えでも………人はどう転ぶかわからない"
「そう、ですね……」
"そもそも此処に転生三人も居たら狂いに狂うってぇ"
「そういえば竈門さんどうしてあの子の事教えてくれなかったんですか!?」
"普通に面白そうだからほっといたぁ!!
あと、女の勘だけどぉ………あの子、あんま好きになれないなぁって思って関わりたく無かった"
華ちゃんの冷めた声にゾッとする。
私はあの一回しか会った事無いが……呪術師同士でも合わない人はいるのかな?
"ところで名前ちゃんは何か考えてるのぉ?"
「いえ……」
"正直僕、流し読み程度だからほぼ知識無いんだよねぇ"
「私も詳しい流れはほとんど記憶に無くて……。
ただ、任務は3日程だった気が…」
"3日かぁ…"
「3日後の献立がもつ煮になった事は確定です」
"は?もつ煮?なんでぇ?"
「約束したので駄目もとで約束守って貰おうと思いまして」
"待って待ってぇ!!筋肉と知り合い!?"
「どの筋肉かわかりませんが……口元に傷のある素晴らしい筋肉の持ち主は餌付け成功してます」
電話先で大笑いしている華ちゃん。
笑い声しか聞こえず何度声を掛けても反応がない。
"ぶっひゃっひゃっひゃっ!!
ひぃー、めっちゃ笑うんだけどぉ!!
これ名前ちゃんしか勝たん!!完全勝利っしょ"
「竈門さん……?」
"僕も出来ることはするけどぉ、名前ちゃんの好きにしてごらんよぉ……ふふっ、面白い結果になりそぉ"
じゃあ忙しいから切るね、と切られた。
自由過ぎやしないか?
不安しか残らないが今さらだが記憶を呼び起こす。
えーっと……女の子が星漿体で、お世話係の人がいて……。
五条がチャペルに乗り込み、星漿体の子を抱えて逃亡。
……あれ?この任務五条の結婚式だった?
傑がおじぃちゃんをボッコボコにし、皆で沖縄メンソーレ。
戻って来たら甚爾さんがフィジカルゴリラで五条が血塗れ。
傑が星漿体の子に手を差し伸べて頭パーン。
傑はボッコボコで女の子は死亡。
額にたんこぶこしらえた男が甚爾さんにお金を支払って、戻ろうとしたら覚醒した五条。
甚爾さんは負けて……。
世界の為に、非術師の為に人生を決められた少女は、非術師によって死を望まれた。
死を喜ぶ非術師達に傑がショックを受けるんだったっけ……。
世界の為に選ばれたが、私らと変わらない少女だったはず。
笑って、泣いて、怒って、悲しんで……
特別な存在であっても、特別変わっている所何て無い普通の女の子。
耳が2つ、目が2つ、鼻と口と頭が一つづつに手足が2本。
見た目も中身も変わらない人間なのに……選ばれたという理由で世界の為の人柱にされようとしていた。
ただの普通を望んだだけ。
当たり前に来るはずの未来を。
誰もが願う"明日"を望んだだけ。
傑と五条はその願いを叶えようとしただけなのに……。
世界はその願いを拒んだ。
2人に力が無かったわけじゃない。
予期せぬタイミングの悪さが重なった。
タイミングの悪さなど、誰にでも訪れること。
世界は誰にでも厳しく、平等だ。
辛さ一つでも平等に同じ痛みとは限らない。
乗り越えられない辛さかもしれない。
掠り傷程度の辛さかもしれない。
傑にとっては大きな傷となり…
五条にとっては掠り傷だった。
私にとっては何事も無くて、穏やかな3日間。
大金ともつ煮、どちらが勝つかなんて前者だろう。
始まってしまった原作に、焦っても考えても私に出来ることといえば……もつ煮の仕込みをし、おばぁちゃんに煮詰めて貰うことだけ。
傑から大量に沖縄の写真が送られて来ようと、五条がナマコをぶん投げていようと……淡々と美味しくなぁれ、ともつ煮に魔法をかけながら煮込むだけ。
今までも何もして来なかったのに、今さら足掻いても仕方がない。
転生しようが、記憶持ちだろうが、最強だろうが死ぬ時は死ぬ。
きっと私の幸せ絶頂期はこの為のモノだったのもしれない。
コロコロ√は避けたいところだが、避けられない事も世の中にはある。
「って事で、最期の晩餐会しよー」
"物騒過ぎるだろ"
「お肉屋さんの最高のモツをバイト代で買って最高のもつ煮が出来ました!!」
"気合いの入り方"
「スーパーのいつものモツを使ったもつ煮も作ったよ。いいお肉と食べ比べしよ。
あとおじぃちゃんが近所の人から大吟醸貰ったって」
"オマエ今どこだ?"
「これから帰るとこ」
"いつものとこで待ってる"
学校帰りに連絡を入れたらそう返ってきた。
あれ?もしや私の記憶違いだった?
ドキドキしながら電車に乗って駅に着けば……私に気付いた甚爾さんが近付いてきた。
「お疲れ様」
「おー」
いつも通り甚爾さんの腕に腕を絡ませる。
こうしてないと甚爾さんすぐ色っぽい女の人に声を掛けられるから。
そしてホイホイ着いていく。
そのまま家に帰ろうと普通通り話して歩いていれば……真横で凄い勢いで止まった黒い車。
何事!?と思ったら……バァンッと勢いよく開いたドアから、出た足。
は?足!?
そう思って見てれば……ぬぅっと出てきた傑。
「傑?」
「……名前」
え?何事?
顔が怖い。あと、何か周りの気温下がった?
「誰だソイツは」
「甚爾さん」
「うっわ、傑居ながら浮気してたのかよ」
「あれ?五条さん?」
「……あー?もしかしなくてもオマエの男か?」
「黒い方ね」
面倒臭そうな甚爾さん。
怒っている傑に、いつもより覇気のない五条。
任務終わって帰って来た?いや、沖縄行ってたよね?
で、甚爾さんはここに普段着でいる……。
「何事?」
「オマエこそ何してんの?俺ら一応まだ任務中なのにオマエが男と帰ってるから傑ご乱心しちまったじゃん」
「男?」
「そのムキムキが男じゃないとか無理あるからな」
「いや、コレ野良猫」
「は?」
「傑こっわ。こないだ話したでしょ?
甚爾さんっていう野良猫が我が家に出入りしてた話」
「それは野良猫の話だろ?
黒くて、傷のある、イケメンな……雄の…」
じっと甚爾さんを頭の先から足の先まで見る。
「俺だな」
「…………待て。待ってくれ」
ビシッ、と無表情で野良猫と認めた甚爾さん。
あんた……野良猫の自覚あったんか。
目の前には頭を抱えだした傑。
「駅前で待っててくれるのを連れて帰ってくるって……」
「甚爾さんどこにいるかわからないから駅前だと目立つでしょ?」
「雌猫に大人気だから捕まえていないとだめだって……」
「見た目こんなんだから隣歩いてても女の人が声掛けて来てフラフラっと着いていくの。
だからそれ防止でこうして捕まえて無いと……子供もいるのにフラフラどこでも種撒き散らす為に付いていく姿を放置は出来ないでしょ?」
「……………」
「……傑?わぁ…目の下の隈凄いね。沖縄の任務そんなに大変だった?」
「ぶはっ!!まじで沖縄行ったのかよオマエら」
「「「ん?」」」
ゲラゲラ笑い出す甚爾さん。
何事だってばよ?
「ちょーっと手伝ってやったが、まさか沖縄行ってるなんてなぁ」
「ん?甚爾さん?」
「オマエが物騒な事言うから手伝いだけで仕事に関わんの辞めたんだよ」
「ん?何?どゆこと?」
「3000万断った分ちゃんと飯食わせろ」
え?そんな大金断った!?
ギョッとしながら甚爾さんを見る。
「……良かったの?」
「分が悪ぃ」
「甚爾さんならこの二人より強くない?」
「楽勝だな」
「「はぁ!?」」
「………ま、色々考えたら不都合なんだよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
何事かと思ったが、まぁいいやと笑う。
これで甚爾さんが死ぬルートは無くなった。
「ほら、飯」
「ご飯は逃げないよ。
じゃ、傑気をつけて行って来てね」
疲れた顔をした傑の額をよしよしする。
ついでにポケットに入ってた飴玉を手に握らせ、五条にも投げた。
「2人とも酷い顔してるけどちゃんと最後まで気合い入れなよ?
途中で気を抜いて後ろからグサッとならないようにね」
「傑の彼女物騒なんだけど」
傑から離れようとしたら無言で抱き締められた。
背中をポンポンしながら抱き締め返せばへにゃりと情けない顔をする傑。
「……終わったら、行ってもいい?」
「いいよ」
「行ってくる」
「気をつけてね」
「あぁ、そうだ」
車に乗り込もうとした傑に甚爾さんが声をかける。
「中で気ぃつけろよ?」
「中?」
「俺の任務引き継いだヤツがいんだよ。
知り合いがボヤいてた」
「……誰が?」
「さぁな?遠足は家に帰るまでが遠足だろ?」
ニヤニヤと笑う甚爾さん。
傑は険しい顔をしながら頷いて車に乗った。
黒い高級車が見えなくなれば興味が無くなったというように私の手を引いて歩き出す。
「甚爾さん?」
「……オマエは関わんな」
その日、甚爾さんは高級もつ煮よりいつものもつ煮のが美味しいとご飯を三回おかわりした。
おじぃちゃんと大吟醸を呑み交わし、いつも通り潰れたおじぃちゃんを部屋に運び、もつ煮を完食。
傑からは特に連絡が無い。
心配で連絡しようと思ったが、任務に支障があってはいけないと連絡するのを戸惑っている。
なので何度も何度も携帯を確認するが連絡はまだ無い。
「心配か?」
「……はい」
自分から聞いてきたのに何か言ってくれる事はない。
「甚爾さんはどうして今回の仕事断ったんですか?」
「………」
「甚爾さんは傑側の人なんですね」
「……それは違ぇ。
アイツらは持っていて、俺はアイツらには敵わねぇ」
「甚爾さんの方が強そうなのに?」
「かもな」
「じゃあ、どうして……」
黙ってお酒を口にしていた手を止める。
酔ってすらいない顔をこちらに向けてじっと見た。
「オマエこそ何でアイツらと関わる?」
「関わるって言っても傑は幼馴染ですし……」
「住む世界が違うだろ」
「そう、ですね」
「どんな人間だろうと力があればあの世界じゃ染まっていく。
持っていない奴にとっては地獄だよ。
無法地帯で腐っていて救い様のねぇクソな世界だ」
「…………」
「あんな奴らと関わっていればオマエなんかすぐ潰れるぞ」
「心配、してくれてます?」
驚いた。
甚爾という人間は何もかも諦めて捨ててしまった人、という記憶。
腐った世界で育ち、認めて貰えなかった。
心の凍てついた甚爾の心を溶かしたのは……非呪術師であろう一人の女性。
その女性が亡くなり子を捨て、自分を捨てた男。
「甚爾さんって優しいですね」
「はぁ?」
「私、もっと貴方は冷たくて、他人なんかどーでもいいと思う人だと思ってました」
いつも冷めた目をしていて。
生きていることがつまらなさそうで。
誰にも知られず、人目を避けてこっそり死に逝く人だと印象があった。
「怖いですよ」
「………」
「幼馴染とはいえ、恋人とはいえ……私は傑やあちらの方々からしたらゴミみたいなもんでしょう」
武器が手に馴染んでる
力が手に馴染んでる
人の死が馴染んでる
「私達からすりゃ向こう側は化物の宴。
人間がひょこひょこ気軽に関わっちゃいけない世界ですよ。
気が変わればコロコロされても不思議じゃない」
「ボロクソ言うな」
「なのでつい最近までは離れようと思ってました」
「……今は?」
「離れたら困るのは私だなぁ、と思ってます」
「怖いのにか」
「怖いけど……離れなくても、変わらないかなぁと思って」
「?」
「未知の力や見えない世界より、結局は人間なら誰であろうと怖いなって思って」
傑だけが特別に怖いわけじゃない。
毎日のように流れるニュースでは傑達のような力が無くても平気で人の命を奪ってる人がいる。
そんな何時、誰が、どんなことを起こすかわからない人間達が身近に闇を抱いて一緒に笑っている。
「私だって殺しはしません!って思っているけど……人間いざって時は何をしでかすかわからないもんです」
「………」
「呪術師だって人間だ。
力で敵わなくても心を殺すことは容易い」
身体を傷つけるだけが死じゃない。
一番治りにくいのは……心の傷だ。
「結局はクソはどの世界だろうとクソだし
力があろうが無かろうが……自分を貫き通す奴が狂っていて強いんですよ」
「……そうだな」
「死にたくは無いですが……惚れた者負けですね」
無理にあがくより身を任せてみようと思った。
どう考えてもコロコロ√しか見付からないなら流れに身を任せてみるのも1つの道だ。
もしかしたら大逆転の生き残り√があるかもしれない。
「はははっ!!狂ってんなぁ」
「失礼ですね。諦めが肝心って先人の言葉を信じるだけです」
「……そんなに好きか?」
「逃がして貰えなさそうだなぁ、ってレベルで愛され続けると人間勘違いするみたいです」
「そういう事にしといてやるよ」
クックッ、と笑いをかみ殺す甚爾さん。
「手離してやるなよ。
向こうの連中は強いが弱ェ奴ばっかだからな」
「甚爾さんこそ向き合ったらどーですか?
逃げてばかりじゃなく」
「………」
「大切な人なんでしょう?」
恵くんがどういった状況なのかわからないが……さぞかし可愛らしいだろうな。
「うちはいつでも駆け込んで来ていいですよ。
野良猫の溜まり場なので」
ご飯と寝床くらいなら用意してますよ、と言えば残っていたお酒を一気に飲み込んで立ち上がる。
「旨かった。ばーさんに言っとけ」
「自分でどーぞ」
「……また来る」
「いってらっしゃい。甚爾さん」
ひらひら手を振っていなくなった。
甚爾さんの後片付けを済ませて携帯を見てもやはり連絡は無い。
ベッドに入って何度かメール画面を作るが何を書いていいかもわからない。
仕方ない、寝るか……と目を閉じて少しするとカラカラッと聞こえた窓の音。
ここ2階だぞ。何事?と思って振り返れば……月夜の明かりに照らされた傑。
「傑?」
「………」
「おかえり」
ただボーッと立つ傑は私を見て泣きそうになる。
恐る恐る手を伸ばすが……私の目の前で止まってしまった。
じっと傑を見ても困った顔をしている。
「名前……っ」
歯を食い縛るかのように立ち尽くしていたかと思ったら後ろへ下がろうとする。
何があったのか……原作通りでは無くても何かしら原作に近いものがあったのかもしれない。
「傑」
「っ!!」
「今決めて」
「……な、に…を…?」
「私を選ぶか、私を捨てるか」
私は傑にとって酷い選択肢を叩き付けていると思う。
「私は選んだよ」
もう、死ぬのが嫌だからと逃げるのはやめた。
周りから愚かだと言われても、惚れた男のする事を拒否するつもりはない。
「………名前」
「なぁに?」
「名前」
「………」
「すまない。私は……っ」
泣きそうな顔をしながら手を伸ばそうとするのに下ろしてしまう。
大きくなっても変わらないな、と笑いそうになる。
化物が見えるのは嘘じゃないと必死に言っていたあの頃と同じじゃないか。
傑の手に触れるとビクッとして手を離そうとする。その手をしっかり握って離さない。
あの頃から私も何も変わっていない。
「傑」
「………」
「傑、大丈夫だよ」
「……名前」
「傑が怖がるものから私が守ってあげる」
同じくらいの手だったのに、傑の手は私の倍大きくなった。
私の方が大きかったはずなのに、傑の方が大きくなった。
「傑を虐める悪い奴らは月に変わってオシオキしてあげる」
「………」
「傑が殴れない相手だろうと私なら関係無いもの」
「……名前」
「何時までたっても泣き虫さんだね」
傑の首に腕を回して抱きつく。
今度は抵抗しなかった。
「私と居れば怖くないでしょ?」
「……居て、くれるのかい?」
「いらないなら余所へ行くしかない」
「そんなわけないだろ!!」
ぎゅうぎゅうと抱き締めてきた傑の頭を撫でる。
「疲れたね」
「……あぁ」
「頑張ったね。お疲れ様」
「……あぁ」
「一緒に寝よ」
「……寝る」
上着を脱がせて髪の毛をほどく。
私を抱き枕にしながらベッドに横になった傑を抱き締める。
「……起きたら、聞いて欲しいことが…あるんだ」
「うん」
「あの男の事も……ちゃんと、聞きたい」
「うん」
「抱きたい」
「いいよ。でも今じゃなく明日ね」
「うん。……名前、大好き」
「私も大好き。おやすみ、傑」
「……おや、す…み…」
願わくば
どうか、どうか……
傑が今までの傑を否定しないで欲しい。
善が悪になっても
悪が善になっても
傑が消えないように。