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「うっわ、クッソデブじゃん」
「見た目に反して思っていたよりも動けるんだね」
入学して数時間後に言われた言葉。
クラスメイトは皆最上級のご尊顔の持ち主達で、美の煌めきを盾に好き放題言われる始末。
私は太っている。
二の腕はぷよぷよどころかタプンタプン。
お腹の肉も三段に分かれており下敷きを挟める。
寄せて集めたら尻が前にも出来る。
足は見事な冷蔵庫で寝かされ過ぎたボンレスハム。
立てばバオバブ、座れば岩石、歩く姿は像の進行と言われて指を指されて笑われる。
幼いころから付き合ってきたこの身体。
私は周りからどんなに比喩られても気にしていない。
……いや、嘘だ。
めちゃくちゃぶん殴りたい。
が、今年入学した高専はスタイル良し、頭脳良し、見た目良し、呪力良し、術式良し、性格破綻している者共しかいなかった。
才能に恵まれ、人格破綻している糞野郎共しかいないなか、特別凄い身体能力があるわけでもなく、特別凄い呪力や術式のあるわけでも無い私は入学する学校を間違えたんじゃ無いかというくらい底辺のゴミだった。
「オイデブ。横が太くて狭いんだよ」
「悟、女の子にそんな言い方は止めな」
「じゃあ傑がコイツの横座れよ」
「遠慮しておくよ」
「名前、アンタ前に行きな」
車に乗れば徐席は当たり前。
クラスでは並べた机を少し後ろに下げて座り、三人の後ろをついて歩く。
「デブ、オマエどんくさい」
「身体に何10キロもの重りを自ら背負っているから仕方ないんだよ」
「ハンデつけて怪我するくらいならその肉脱げよ」
「悟、失礼だろ」
日々投げ付けられる言葉は事実ばかりなので、何も言えず黙ってしまう。
冴えない、使えない、デブスは4人しかいないクラスメイトの中で浮いていた。
そもそも呪術師に筋肉質な人は居ても、ポチャポチャどころかタプンタプンのデブは一人もいない。
皆さん引き締まった美ボディでシックスパックは当たり前の世界だ。
そんな中、タプンタプンの巨体を汗いっぱい汁だくになりながら必死に生きつつ一年頑張った私はクラスメイト2人から嫌われていた。
…ん?人数合わないって?
そりゃそーだ。
「アイツらの息の根を止めるには何が良かろう?硝子」
「その姿見せれば一発で止まるわ」
ゲラゲラ笑いながら私の部屋で一服する私と硝子。
硝子は煙草、私は煙管を口にして煙を吐き出す。
「いやー、相変わらず見事なもんだな」
「苦しゅうない。我が美に刮目せよ」
「今度肉着たままキメ顔やって」
「ヤだよ。決まらん」
カンッ、と灰を落とす。
あぁ、煙管が傷む……と思ってしまうが、イライラすると灰を落とす時に音を立てて落としてしまう。
傷が無いことを確認して刻み煙草を入れ、マッチで火をつける。
ゆっくりと煙を吸い、口の中に広がる煙をゆっくり吐き出す。
硝子はその姿をニヤニヤしながら見て楽しそうに笑っている。
「何じゃ?硝子のエッチ」
「今の名前の方が充分エッチだよ」
2人で笑っていれば、鳴り響く私の携帯。
「……あ、クソッ。任務じゃ」
「だろうな」
「乙女の睡眠時間を何だと思っておる」
クソッ!!と再び悪態をつき、部屋に掛けてあった制服を頭から被る。
体型が体型なのでミニスカートやズボンはキツイ。
体型を隠すよう下はサルエル、上はパーカーと学ランが合わさったようなもの。
胸元に光る金の渦巻きボタン。
今はダボダボだが顔も体型も隠せる。
「んじゃ、行ってくる」
「いってら」
窓から飛び降りて補助監督が待つ車へ。
近場の任務を任され祓い終わったのは日が登りだすくらい。
少しの仮眠をしたらまた授業だ。
「うっわ、デブがブスだ」
「酷い顔だ……」
睡眠が足りず寝不足のまま教室に行けば早々に罵られる。
いつもの事なので気にしない。
先生が来るまで少し寝ようと机にうつ伏せる。
そっとしておいてくれ……こちら、1時間しか寝て無いんだよ、とうとうとしていたらガラッと開く扉。
今日の日程をハキハキ告げる担任の言葉を子守唄に夢の世界へ……と思っていたのに
「名前、報告書出せ」
「……はい」
鬼かよ。
真っ白な報告書の用紙を渡される。
「それとこれから任務の付き添いだ」
「………」
「諦めろ」
アンタ、私の事情知ってるよな?知ってて言ってんの?とジト目になるがスルーされる。
「一年間も似たような事やっててまともな報告書も書けず書き直しかよ。
オマエまじ呪術師に向いてねーよ」
「………」
「さっさと辞めちまえ」
ゴミ……いや、失礼。
五条から鋭い視線と共にいつもの罵倒。
もう一年も言われ慣れたので気にしていない。
「そーいや先生、最近新しい若い女の呪術師出入りしてる?」
「何故だ」
「めっちゃ美人が夜中高専歩いていたから」
「私も見たよ」
「ヤバかったよな」
「あぁ。酒瓶片手に月見酒かな……とても絵になる人だったよ」
「それそれ!」
五条と夏油の言葉に担任からの視線が凄い。
いいじゃん。成人しているんだから。
硝子がプルプルと笑いを堪えているのが見えた。
「昔さぁ、似た人がウチ出入りしてたけどその人の娘かな……」
「悟の家に?」
「めちゃくちゃ美人で綺麗な人だったんだよ。
その人に似てる」
「悟が言うなら相当だろうね」
「俺の付き人にさせようとしたけど家の奴らに無理って言われたんだよな」
「へぇ」
「……名前、後で「名前先輩いますかー!!」
「失礼します。名前先輩、一緒に任務だそうです」
担任からの呼び出しを食らう前にやってきてくれた可愛い後輩達。
ガラッ、と開いたドアから顔を覗かせるのは可愛い後輩の灰原と七海だ。
今回は一年生の付き添い任務か……なら楽そうだとホッとするのも束の間。
「いまだに一年に任務同行してもらわなきゃ任務に行けないなんて居る意味ある?」
「七海や灰原の為の救助訓練の為だろう。
……とは言っても2人の負担が大きすぎる。先生も酷だな」
「「??」」
「……行きましょう」
2人の背を押して任務へ。
あぁ、眠い……。
灰原も七海も優秀なので、行きは爆睡。
任務中は2人の実戦。
帰りは報告書を書くという実に有意義な時間が取れた。
「ありがとう。2人のお陰だよ」
「いえ!!お忙しい中、ありがとうございました!」
「ちゃんと休んで下さい」
「可愛い後輩で嬉しいよ」
何ていい子達なんだ……。
ホロリ、と涙が溢れる。こんな子達を守りたい。
可愛い後輩達にお小遣いをあげたいが、困った顔をされてしまうのでチロルチョコを渡せば灰原はニコニコと笑い、七海もいつもより表情を和らげてくれる。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「2人ともお疲れ様」
報告書を出して部屋に戻り寝不足を解消すべく爆睡した。
私の任務はソロか、七海や灰原と一緒の事が多くなり同級生との任務は無かった。
まぁ、同期に才能の塊である化け物2人がいる中に足手まといを連れていく必要は無い。
元々硝子以外とは仲良く無かったので、同じ任務が無くなっただけでストレスフリー。
教室で授業くらい我慢出来る。
一年我慢した甲斐があった!!
「少しくらい我慢出来ないのか」
「ホッホッホッ!年長者の楽しみを奪うでない」
高専の屋根の上。
月明かりの下で酒盛りをしていれば、担任に見付かった。
「任務かのぉ?」
「いや」
「夜蛾よ。お前さんもどうじゃ?」
「まだ残している書類がある」
「こちら50年に一度、聖霊の宿る大木から満月の夜にしか湧かぬ幻の酒じゃ」
「……一杯だけだ」
満月を映す澄みきった酒は仄かに輝いている。
呑めば口当たりはスッキリするのにアルコール度数が高い為、一口だけでくらりと脳が揺れる。
「………ウマイな」
「当たり前じゃろ。樹齢数億年の大御所様のありがたーいお酒じゃ」
「次は何も無い日にしてくれ」
「なぁに。まだまだ私の貯蔵庫に大事に眠っておる」
「勝手に貯蔵庫を作るな」
「のぉ、夜蛾よ」
「………何だ」
「何時の世も子は子のままじゃ。
大人より才があろうと、大人より実力があろうと」
この世界は才能で決まる。
才能が無ければ努力をしたところで認められない。
「お前さんはまともじゃ。
人を見る目もあるし、人を思いやれる心もある」
「買い被り過ぎだ」
「だからこそ、見誤るな」
「………はい」
「クソガキでも子は、子じゃ」
「気を引き締めます」
「そう、固くなるでない。
……己より才ある子は恐ろしい。だが、それは子も同じじゃ。
己の扱う力の怖さを誰よりも理解しとると慢心し、己自身の力にのまれ堕ち行く」
「気掛かりですか?」
思い過ごしなら良いのだが、生意気な子供が意気がれば年老いた老人達は己の立場を守ろうとする。
力で敵わないなら子供の内に心をへし折る。
大人、という権力を振りかざす。
昔からの伝統も、規則も、考え方も……全てが間違いではないし、先人の教えがあるから成り立つモノもある。
時代が流れれば古きものは廃れてしまい、新しい時代の考えを取り入れるべき事もある。
どちらも正しく、どちらも間違いである時もある。
そこを上手くやり取りする技量が無ければ反発し合い、どちらかが潰れてしまう。
今、新しい波が来て上層部は己の立場を危惧している。
新たな新芽を潰すには成長速度が早く、そして根強く、生命力に溢れた2つの新芽はいずれ早く開花する。
「上の動きが怪しい。気をつけるんじゃよ」
夜は私の領域だ。
小さな子分を引き連れて出歩く。
私の領地を荒らす不届き者がいないか……
不慮の出来事に巻き込まれている子はいないか……
新たに生まれた迷い子はいないか……
子分に見回りをさせてはいるが、弱き者達が多い。
子分の手に負えないことは私が見回りに行かなければならない。
あまり長い時間高専から離れられないので……こうして出歩けるのはわりと好きだ。
今夜も何事も無く一杯しようかと戻れば……
「おや」
「「あ」」
クソガキ共に出会ってしまった。
「貴女は……」
「……やっぱ、アンタ昔ウチに来たことあんだろ!」
「はて?」
五条が指差しながら騒ぐ。
うーん……五条と出会ったのは高専に来てからのはずだが?
頭を傾げれば近寄ってきてご自慢の顔を近付ける五条。
残念ながらトキメキのトの字も心が揺れない。
「ナンパなぞ小生意気じゃな」
「違う!!絶対間違うわけねーんだけど……やっぱあの人の娘?」
「私に娘なんぞおらんわ」
「違う!!オマエに似た女が10年くらい前に五条家出入りしてたから……その人の、娘かって……思って…」
「私の母が?」
10年前……母が?母はもう100年程前に亡くなっているのだが?
数十年などつい最近だが、五条……五条……。
「あぁ、もしやお前さん」
「!!」
「私を許嫁にしたいと駄々をこねた白チビッ子か?」
「っ!!」
「ふむ。そう言われるとその生意気な瞳に覚えがある」
「………悟」
「違っ、くねーけど!!違う!!」
「ホッホッホッ!!あの時のチビッ子が十年で随分と伸びたのぉ」
数年?数十年になるのか。
人間はあっという間に育つ。
つい先日だったと思っていたが……あの幼いチビッ子がこんなに育っていたのか。
「……待ってくれ。悟の幼少期の初恋相手がこの人だと?」
「ほほぉ、初恋か」
「傑っ!!」
「私の美貌はそれはそれは美しかろぉ。
幼い恋心を射止めてしまうのも仕方の無い事よ」
「うるせーよババア!!若作りにも程があんだろ!!」
「……ババア?」
聞き捨てならない言葉に五条を睨み付ける。
まだピチピチの125歳であるというのに、人を年増扱いだと……!!
「お前さん」
「な、何だよ」
「意気がるのも程々にのぉ。
いき過ぎるのは己の首を絞める事になる」
「んだよ。オマエに関係無いだろ」
「そこで、じゃ」
ポンッ、と五条の肩を叩く。
「オマエさんに不幸を与えよう」
「は?」
「大丈夫じゃ。明日の今頃まで足の小指をぶつける呪いじゃ」
「うわっ、地味に痛いやつ」
「ちなみにオマエさんの無下限は通用せぬ」
「はぁ!?」
「ホッホッホッ!
女に年齢の事はタブーじゃよ。勉強せぇ、チビッ子」
さて、今宵は気分がノらないので帰って寝るか。
翌日、めちゃくちゃ足の小指ばかりぶつけてしゃがみこみ、キレ散らかす五条がいたが無視した。
「見た目に反して思っていたよりも動けるんだね」
入学して数時間後に言われた言葉。
クラスメイトは皆最上級のご尊顔の持ち主達で、美の煌めきを盾に好き放題言われる始末。
私は太っている。
二の腕はぷよぷよどころかタプンタプン。
お腹の肉も三段に分かれており下敷きを挟める。
寄せて集めたら尻が前にも出来る。
足は見事な冷蔵庫で寝かされ過ぎたボンレスハム。
立てばバオバブ、座れば岩石、歩く姿は像の進行と言われて指を指されて笑われる。
幼いころから付き合ってきたこの身体。
私は周りからどんなに比喩られても気にしていない。
……いや、嘘だ。
めちゃくちゃぶん殴りたい。
が、今年入学した高専はスタイル良し、頭脳良し、見た目良し、呪力良し、術式良し、性格破綻している者共しかいなかった。
才能に恵まれ、人格破綻している糞野郎共しかいないなか、特別凄い身体能力があるわけでもなく、特別凄い呪力や術式のあるわけでも無い私は入学する学校を間違えたんじゃ無いかというくらい底辺のゴミだった。
「オイデブ。横が太くて狭いんだよ」
「悟、女の子にそんな言い方は止めな」
「じゃあ傑がコイツの横座れよ」
「遠慮しておくよ」
「名前、アンタ前に行きな」
車に乗れば徐席は当たり前。
クラスでは並べた机を少し後ろに下げて座り、三人の後ろをついて歩く。
「デブ、オマエどんくさい」
「身体に何10キロもの重りを自ら背負っているから仕方ないんだよ」
「ハンデつけて怪我するくらいならその肉脱げよ」
「悟、失礼だろ」
日々投げ付けられる言葉は事実ばかりなので、何も言えず黙ってしまう。
冴えない、使えない、デブスは4人しかいないクラスメイトの中で浮いていた。
そもそも呪術師に筋肉質な人は居ても、ポチャポチャどころかタプンタプンのデブは一人もいない。
皆さん引き締まった美ボディでシックスパックは当たり前の世界だ。
そんな中、タプンタプンの巨体を汗いっぱい汁だくになりながら必死に生きつつ一年頑張った私はクラスメイト2人から嫌われていた。
…ん?人数合わないって?
そりゃそーだ。
「アイツらの息の根を止めるには何が良かろう?硝子」
「その姿見せれば一発で止まるわ」
ゲラゲラ笑いながら私の部屋で一服する私と硝子。
硝子は煙草、私は煙管を口にして煙を吐き出す。
「いやー、相変わらず見事なもんだな」
「苦しゅうない。我が美に刮目せよ」
「今度肉着たままキメ顔やって」
「ヤだよ。決まらん」
カンッ、と灰を落とす。
あぁ、煙管が傷む……と思ってしまうが、イライラすると灰を落とす時に音を立てて落としてしまう。
傷が無いことを確認して刻み煙草を入れ、マッチで火をつける。
ゆっくりと煙を吸い、口の中に広がる煙をゆっくり吐き出す。
硝子はその姿をニヤニヤしながら見て楽しそうに笑っている。
「何じゃ?硝子のエッチ」
「今の名前の方が充分エッチだよ」
2人で笑っていれば、鳴り響く私の携帯。
「……あ、クソッ。任務じゃ」
「だろうな」
「乙女の睡眠時間を何だと思っておる」
クソッ!!と再び悪態をつき、部屋に掛けてあった制服を頭から被る。
体型が体型なのでミニスカートやズボンはキツイ。
体型を隠すよう下はサルエル、上はパーカーと学ランが合わさったようなもの。
胸元に光る金の渦巻きボタン。
今はダボダボだが顔も体型も隠せる。
「んじゃ、行ってくる」
「いってら」
窓から飛び降りて補助監督が待つ車へ。
近場の任務を任され祓い終わったのは日が登りだすくらい。
少しの仮眠をしたらまた授業だ。
「うっわ、デブがブスだ」
「酷い顔だ……」
睡眠が足りず寝不足のまま教室に行けば早々に罵られる。
いつもの事なので気にしない。
先生が来るまで少し寝ようと机にうつ伏せる。
そっとしておいてくれ……こちら、1時間しか寝て無いんだよ、とうとうとしていたらガラッと開く扉。
今日の日程をハキハキ告げる担任の言葉を子守唄に夢の世界へ……と思っていたのに
「名前、報告書出せ」
「……はい」
鬼かよ。
真っ白な報告書の用紙を渡される。
「それとこれから任務の付き添いだ」
「………」
「諦めろ」
アンタ、私の事情知ってるよな?知ってて言ってんの?とジト目になるがスルーされる。
「一年間も似たような事やっててまともな報告書も書けず書き直しかよ。
オマエまじ呪術師に向いてねーよ」
「………」
「さっさと辞めちまえ」
ゴミ……いや、失礼。
五条から鋭い視線と共にいつもの罵倒。
もう一年も言われ慣れたので気にしていない。
「そーいや先生、最近新しい若い女の呪術師出入りしてる?」
「何故だ」
「めっちゃ美人が夜中高専歩いていたから」
「私も見たよ」
「ヤバかったよな」
「あぁ。酒瓶片手に月見酒かな……とても絵になる人だったよ」
「それそれ!」
五条と夏油の言葉に担任からの視線が凄い。
いいじゃん。成人しているんだから。
硝子がプルプルと笑いを堪えているのが見えた。
「昔さぁ、似た人がウチ出入りしてたけどその人の娘かな……」
「悟の家に?」
「めちゃくちゃ美人で綺麗な人だったんだよ。
その人に似てる」
「悟が言うなら相当だろうね」
「俺の付き人にさせようとしたけど家の奴らに無理って言われたんだよな」
「へぇ」
「……名前、後で「名前先輩いますかー!!」
「失礼します。名前先輩、一緒に任務だそうです」
担任からの呼び出しを食らう前にやってきてくれた可愛い後輩達。
ガラッ、と開いたドアから顔を覗かせるのは可愛い後輩の灰原と七海だ。
今回は一年生の付き添い任務か……なら楽そうだとホッとするのも束の間。
「いまだに一年に任務同行してもらわなきゃ任務に行けないなんて居る意味ある?」
「七海や灰原の為の救助訓練の為だろう。
……とは言っても2人の負担が大きすぎる。先生も酷だな」
「「??」」
「……行きましょう」
2人の背を押して任務へ。
あぁ、眠い……。
灰原も七海も優秀なので、行きは爆睡。
任務中は2人の実戦。
帰りは報告書を書くという実に有意義な時間が取れた。
「ありがとう。2人のお陰だよ」
「いえ!!お忙しい中、ありがとうございました!」
「ちゃんと休んで下さい」
「可愛い後輩で嬉しいよ」
何ていい子達なんだ……。
ホロリ、と涙が溢れる。こんな子達を守りたい。
可愛い後輩達にお小遣いをあげたいが、困った顔をされてしまうのでチロルチョコを渡せば灰原はニコニコと笑い、七海もいつもより表情を和らげてくれる。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「2人ともお疲れ様」
報告書を出して部屋に戻り寝不足を解消すべく爆睡した。
私の任務はソロか、七海や灰原と一緒の事が多くなり同級生との任務は無かった。
まぁ、同期に才能の塊である化け物2人がいる中に足手まといを連れていく必要は無い。
元々硝子以外とは仲良く無かったので、同じ任務が無くなっただけでストレスフリー。
教室で授業くらい我慢出来る。
一年我慢した甲斐があった!!
「少しくらい我慢出来ないのか」
「ホッホッホッ!年長者の楽しみを奪うでない」
高専の屋根の上。
月明かりの下で酒盛りをしていれば、担任に見付かった。
「任務かのぉ?」
「いや」
「夜蛾よ。お前さんもどうじゃ?」
「まだ残している書類がある」
「こちら50年に一度、聖霊の宿る大木から満月の夜にしか湧かぬ幻の酒じゃ」
「……一杯だけだ」
満月を映す澄みきった酒は仄かに輝いている。
呑めば口当たりはスッキリするのにアルコール度数が高い為、一口だけでくらりと脳が揺れる。
「………ウマイな」
「当たり前じゃろ。樹齢数億年の大御所様のありがたーいお酒じゃ」
「次は何も無い日にしてくれ」
「なぁに。まだまだ私の貯蔵庫に大事に眠っておる」
「勝手に貯蔵庫を作るな」
「のぉ、夜蛾よ」
「………何だ」
「何時の世も子は子のままじゃ。
大人より才があろうと、大人より実力があろうと」
この世界は才能で決まる。
才能が無ければ努力をしたところで認められない。
「お前さんはまともじゃ。
人を見る目もあるし、人を思いやれる心もある」
「買い被り過ぎだ」
「だからこそ、見誤るな」
「………はい」
「クソガキでも子は、子じゃ」
「気を引き締めます」
「そう、固くなるでない。
……己より才ある子は恐ろしい。だが、それは子も同じじゃ。
己の扱う力の怖さを誰よりも理解しとると慢心し、己自身の力にのまれ堕ち行く」
「気掛かりですか?」
思い過ごしなら良いのだが、生意気な子供が意気がれば年老いた老人達は己の立場を守ろうとする。
力で敵わないなら子供の内に心をへし折る。
大人、という権力を振りかざす。
昔からの伝統も、規則も、考え方も……全てが間違いではないし、先人の教えがあるから成り立つモノもある。
時代が流れれば古きものは廃れてしまい、新しい時代の考えを取り入れるべき事もある。
どちらも正しく、どちらも間違いである時もある。
そこを上手くやり取りする技量が無ければ反発し合い、どちらかが潰れてしまう。
今、新しい波が来て上層部は己の立場を危惧している。
新たな新芽を潰すには成長速度が早く、そして根強く、生命力に溢れた2つの新芽はいずれ早く開花する。
「上の動きが怪しい。気をつけるんじゃよ」
夜は私の領域だ。
小さな子分を引き連れて出歩く。
私の領地を荒らす不届き者がいないか……
不慮の出来事に巻き込まれている子はいないか……
新たに生まれた迷い子はいないか……
子分に見回りをさせてはいるが、弱き者達が多い。
子分の手に負えないことは私が見回りに行かなければならない。
あまり長い時間高専から離れられないので……こうして出歩けるのはわりと好きだ。
今夜も何事も無く一杯しようかと戻れば……
「おや」
「「あ」」
クソガキ共に出会ってしまった。
「貴女は……」
「……やっぱ、アンタ昔ウチに来たことあんだろ!」
「はて?」
五条が指差しながら騒ぐ。
うーん……五条と出会ったのは高専に来てからのはずだが?
頭を傾げれば近寄ってきてご自慢の顔を近付ける五条。
残念ながらトキメキのトの字も心が揺れない。
「ナンパなぞ小生意気じゃな」
「違う!!絶対間違うわけねーんだけど……やっぱあの人の娘?」
「私に娘なんぞおらんわ」
「違う!!オマエに似た女が10年くらい前に五条家出入りしてたから……その人の、娘かって……思って…」
「私の母が?」
10年前……母が?母はもう100年程前に亡くなっているのだが?
数十年などつい最近だが、五条……五条……。
「あぁ、もしやお前さん」
「!!」
「私を許嫁にしたいと駄々をこねた白チビッ子か?」
「っ!!」
「ふむ。そう言われるとその生意気な瞳に覚えがある」
「………悟」
「違っ、くねーけど!!違う!!」
「ホッホッホッ!!あの時のチビッ子が十年で随分と伸びたのぉ」
数年?数十年になるのか。
人間はあっという間に育つ。
つい先日だったと思っていたが……あの幼いチビッ子がこんなに育っていたのか。
「……待ってくれ。悟の幼少期の初恋相手がこの人だと?」
「ほほぉ、初恋か」
「傑っ!!」
「私の美貌はそれはそれは美しかろぉ。
幼い恋心を射止めてしまうのも仕方の無い事よ」
「うるせーよババア!!若作りにも程があんだろ!!」
「……ババア?」
聞き捨てならない言葉に五条を睨み付ける。
まだピチピチの125歳であるというのに、人を年増扱いだと……!!
「お前さん」
「な、何だよ」
「意気がるのも程々にのぉ。
いき過ぎるのは己の首を絞める事になる」
「んだよ。オマエに関係無いだろ」
「そこで、じゃ」
ポンッ、と五条の肩を叩く。
「オマエさんに不幸を与えよう」
「は?」
「大丈夫じゃ。明日の今頃まで足の小指をぶつける呪いじゃ」
「うわっ、地味に痛いやつ」
「ちなみにオマエさんの無下限は通用せぬ」
「はぁ!?」
「ホッホッホッ!
女に年齢の事はタブーじゃよ。勉強せぇ、チビッ子」
さて、今宵は気分がノらないので帰って寝るか。
翌日、めちゃくちゃ足の小指ばかりぶつけてしゃがみこみ、キレ散らかす五条がいたが無視した。