幼馴染は生き残りたい
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前回:やらかした
携帯を眺めていても連絡無し。
ちなみに謝罪の連絡を入れても無視。
なるほど……これはつまり?
「やらかしたな」
「そこ言っちゃ駄目だって甚爾さぁぁああああんっ」
「お疲れ」
「クッソ!!他人事だと思いやがって!!」
「他人事だからな」
クックックッ、と笑いながら正月にやる尻をシバかれる映像を見ている。
今さらそんなの観ても笑えねぇ!!
「……甚爾さんはさ、やっぱ言われなかったら嫌?」
「あー?」
「周りが助けてくれた結果、終わった事を後から知るのは……頼っていない事になる?」
「ハッ、さぁな」
鼻で笑われた。
答えてくれる気は無いらしい。
突然よっこいせ……と立ち上がったので枕にしていた膝から落とされる。
なんてこった。頭が畳にゴッツンコ。
「いたーい!」
「オマエは?同じ事されたらどうなんだよ」
「同じ事?」
傑が私を頼る事なんてある?
後から報告受けたとしても……多分そっか、で終わる。
傑の問題を傑が解決出来ないのに私が解決出来るわけなくね?
「腹立つとかねぇのか、オマエ」
「うん」
「だったらその程度なのかもな」
「……は?」
「可哀想だな。オマエの男」
目を細められて見られる。
私の身の内を覗き込む……いや、私の偽りを見破っている目。
ドクリ、と心臓が嫌な音をたてる。
「やだなー、甚爾さん。
それってどーゆー意味ですかー?」
「まぁ、精々頑張れ。俺は関係ねぇからな」
「どーこーいーくーのー?」
「野暮用」
無理矢理ヘラっと笑って誤魔化すが……甚爾さんは呆れた顔。
泊まらずにさっさとどこか行ってしまった黒猫を留めて聞くには骨が折れそうだ。
モヤモヤ、モヤモヤ。
嫌な気持ちが溢れて消化出来ない。
こんな日はおばぁちゃん特製の手作り梅酒(アルコール度数クソ高い)でパーっとやろう!とお酒をこっそり拝借し、部屋からベランダに出て月見酒。
サイダー割なんぞしない。
梅酒は黙ってロックに決める。
良い子の未成年は飲酒やめようね。
私はほら、精神的には20オーバーだから。
「……嫌だなぁ」
あぁ、嫌だ嫌だ。
嫌なことは全部お酒と一緒に飲み込んで流れてくれ。
……こんな気持ちが呪いを生み出すのかと思うとまた嫌になる。
スッキリしたい酒盛りなはずなのに、この日の酒盛りはとてもスッキリとはしなかった。
結果……翌朝の酒焼けした声と浮腫んだ顔に絶望した。
それから二週間程。
傑とは連絡を取らず過ごしていると
「面白い事になってるねぇ」
「ちょっと面貸しな」
華ちゃんと硝子ちゃんが目が笑っていない姿で現れ、問答無用でお洒落なカフェに連行された。
「本当さぁ、最近の夏油くん最悪なんだけどぉ。常にイライラしてるしぃ、八つ当たりしてくるしぃ、すっごくムカつくのぉ!!」
「で?何したんだ」
「あ、私が何かしてるの前提なんですね」
「だって名前ちゃんしか考え付かないしぃ!!」
「……何も話さないからこうなったというか」
「「は?」」
は?の威力よ。
お顔の良さ自覚して。まじ怖い。
クソカップルの勘違いから始まり、クソ共の粛清を行った事まで一連の流れを話す。
「あぁ、その時にたまたま協力してくれた人が予想以上のフォローとアフターケアまでしてくれたので嬉しくて抱き着いてほっぺにちゅーした所を高専の後輩さんに撮られたらしくて……ぶちギレられて今音信不通です」
「「自業自得」」
なぜ!?
少し……少し、二人なら私を悪くないって言ってくれると思ってたのに!!!
「ぶっちゃけ名前ちゃんがついに浮気したんだと思ったぁ」
「私も。離れる為の理由を作ったのかと」
「な、ん、で!?」
「だってねぇ?硝子ちゃん」
「アレだよな」
意味深に私を見てくる二人。
「だって名前ちゃん、夏油くんの事好きじゃないでしょ?」
「好きになろうとはしているが、好きにならないようにしている……って思っていたが?」
二人からの言葉に私は息が詰まる。
「最初は夏油がヤバいくらいの熱量だと思っていたが……アンタもなかなかだね。
夏油自身の事は確かに他よりも大切なんだろうけど……アンタのソレは恋でも愛でもない。
夏油の愛情を鏡のように返してるフリだけだ」
「普通に見たらとっても上手く出来てるよぉ!だから安心してねぇ。
……僕達は歪んでイカれてるから見破れただーけ!!」
二人の言葉に私は笑おうとした。
したが……笑えなかった。
頭を抱えて大きな大きな溜め息。
髪型がぐちゃぐちゃになる事なんて考えず掻き乱す。
「……否定はしませんよ」
「しないんだ」
「名前ちゃんならもっと言い訳すると思ったよぉ!」
「したところで納得しませんよね?」
あーもぅやだーー、とダレてしまう。
何もかも思い通りにいかない。
「………訂正するとしたら傑の事は好きですよ」
「「へー」」
「もっと興味持って下さいよ」
何て酷い二人だ!!
興味無いのになんでぶっ込んできたの!?
「オマエ達二人の感情は興味ない………が」
「常日頃共に生活するのに支障があるからどーにかしてって事で話しに来たのぉ!
ついでに女子会して聞いてあげるんだからほらほらぁ、話してごらんよぉ!」
「ありがたく無い女子会だ」
こんな酷ぇ女子会ある?
テメーらに興味無いけど一応聞いてやっからオマエの男どーにかしろよって事でしょ?
もうやだぁ!!壺に入るぅ!!ってオバブロしていい?
「じゃあ、甘えますけど。
責任持ってちゃんと聞いて下さいね。
途中離脱は認めませんから」
「硝子ちゃん、恋バナだよ恋バナ」
「私は長生きがしたい。私の原点はまずそこです」
「恋バナどこいった?」
「だけどエッチもしたい」
「待ってぇ?これ一体何の話始まるのぉ?」
「その結果……幼馴染の傑が以前までは丁度良かったから付き合ったのは認めます。
そこに愛情も恋愛も無くただのセフレなら問題無かったんだけどなぁぁぁああああ………」
クソッ、なんてこった!!
……なーんて頭を抱える。
「付き合っていると傑……、クズだけど根が腐ってるわけじゃないから……優し過ぎるし理想の彼氏再現してくれるんですよ。
やりたいことも一緒にしてくれるし、雑な扱いかと思ったら大切にしてくれるし。
飴と鞭の使い方がとてもお上手で理想のスパダリされたら陥落しちゃいますって。絆されますって。
……もっとクソで居てくれたら良かったのにっ!!」
「とりあえずアンタがクソだというのはわかった」
「うん。名前ちゃんがクソだねぇ」
「引かないで下さいよ。私も予想外にクソな自分に嫌気が差しているんですから!!」
そう……予想外だったんだ。
「そもそもあんっっっっなに激重感情向けてくるなんて思って無かったんですよ」
「あぁ、そこは気付いてたのか」
「むしろ気付かない人います?アレ何なんですか?重い重い重い重い」
「名前ちゃん何したのぉ?マジで。
傑くんの新しい性癖の扉開かせて離れられなくしたとかぁ?」
「夏油の尻は開発済みか?」
「待って待って。お二人の私へのイメージ酷くない?」
「そのままだよ、ドスケベ」
「そのままかなぁ、ドスケベェ」
「え?どんな?」
私=ドスケベって何?
「あの陰湿な変態と付き合っている時点でアレなのに、そのアレから重い感情向けられる程のめり込まれてるなんてアレだろ」
「だよねぇ。まだ五条くんのがピュアだもん。
夏油くんは……うん、アレだわぁ」
「嫌だな、そのイメージ」
アレって何?
傑と付き合う=ドスケベって何?
特殊なプレイなんてしていないよ?
そりゃとことん追究してみた事はある。
中イキ、潮吹き、ポルチオ、イラマ、オーラル、玩具。
お互いお尻だけは許せなかったが……私も傑も身体を弄りあってとことん追究した。
これは性への興味であり、お互いの気持ちいいを追究した結果であって特殊ではない!!
「「特殊だよ」」
「え"?」
「嘘でしょ……それは他じゃ満足いかないわぁ」
「彼氏なら彼女の身体開発したいし、彼女なら自分の触れない良いところ知りたいって思うの普通じゃないですか!?」
「スキモノも行き過ぎると特殊だな」
「夏油くんが染めていくならまだ分かるけど、共に染まっちゃうあたり……うん」
「可愛い顔して……なかなかだな」
「やめてやめてやーめーてー!!!!」
まるで!!私が!!ヤバいって!!なってる!!!
2人の遠い目線が!!
はい、解散って帰りそうな雰囲気が!!
「……あー、私のその…アレがソレな部分は置いといて…」
「やーい、スキモノ」
「やーい、スキモノォ」
「……私の原点はさっき話しましたが、"長生きする"事なんですよ」
「「シカト」」
否定はしない。
はいはい、スキモノでございますとも!!
話が進まないから無視だ。
「長生きすればいいだろう」
「傑と居たら無理なんですよ」
「奴が呪術師だからか?確かに呪術師は死にやすいが……夏油はそこまで弱くないぞ」
「……いっそ、弱かったら一緒に居られたかもしれませんね」
ははっ、と笑ってしまう。
「真面目な話……傑が家入さんや竈門さん、五条さんを裏切ったら?」
「そんなわけないだろ」
「夢、みたいな……話ですよ」
「………名前ちゃん」
「理由はどうであれ……傑が、五条さんが、竈門さんが、家入さんやその他の呪術師が絶対に裏切らない可能性は?
……裏切った場合、最初に手折られるのは私達のような弱者です」
「随分な夢だな」
「臆病なんですよ。もしも、をどうしても考えてしまうんです。
……どんどん傑が力を付ける度、夢が現実となっていくんです。
私はそれが怖い」
死にたくない。
「たらればで距離を置くのか?」
「距離を置けたら……良かったんですけどね」
死にたくない。
「距離を置けば、好きにならなければ……一線を引けたら良かったんですけど」
死にたくは、ないのに……。
「あんなに好きってアピールされたら勘違いしちゃうじゃないですか」
「勘違いでは無いからねぇ」
「万が一が起きても……私は愛されているなら大丈夫って。
私が好きになっても大丈夫じゃないかって」
アレは一つの物語。
私が居る事で、華ちゃんが居る事で、その他のイレギュラーが居る事で変更されるんじゃないかと。
原作は原作であり……今、この場を生きる人々に嘘や偽りや台本など無い。
創られた人々ではあるが、ロボットではない。
分かってる。分かってる。分かっている。
そう、何度も期待しながら……
「傑が強くなる度に、呪術師として成功する度に……怖くなるんです。
夢は私の夢で終わり……現実は変わらないって」
「まるで夏油の未来を知っている口振りだな」
「……そんな力があるなら、傑の側に居られたんですけど私には無いので不安になるんです」
怖くて仕方がない。
優しい事を知っているのに。
正義感が強いと知っているのに。
実は弱い事を知っているのに。
本当は泣き虫で怖がりだと知っているのに。
呪術師として成功していく度、怖くなる。
指先一つで
気紛れで
非呪術師だという理由だけで……簡単に殺せると知っているから。
「……よーくわかったよ。
アンタが夏油よりクソでクズでヤベェって」
はぁ、と溜め息をつかれる。
「つまりアンタは初めから夏油という人間が裏切って人殺しをすると決めつけているんだろ?だから不安に襲われる」
「………」
「ちょっとちょっと硝子ちゃん!!」
「黙りな、華。
コイツは自分がか弱いって言いながら私らの事を心の中では人殺しにもなれるって思ってんだ」
「………っ、でも、でもねぇ、硝子ちゃん!
名前ちゃんはそんなつもりじゃ無いと思う!!
えーっと、えーっとぉ……名前ちゃんも誤解されるような言い方やめた方がいいと思うなぁ!!」
「人殺し予定の人間と付き合って自分に酔ってるのか?サイコパスかよ」
「ストーーップ!!ストップストップ!!」
華ちゃんがピピー、と笛を鳴らすフリをする。
「えーっと……名前ちゃんは夏油くんや僕達が嫌い?」
華ちゃんの言葉に笑ってしまう。
嫌い?嫌いなわけがない。
「勿論お二人の事は"友人"として好きです。
けど傑は……彼氏だから好きなのか
幼馴染だから好きなのか
男だから好きなのか
そう……問われると私の"好き"は何かわからないです。傑という人間を愛おしいと思うのに……」
記憶が甦らなければ普通に傑を好きになれたのかな?なんて思ってしまう。
「好きだ、……と思います。
思うのにどこか"それって本当に?"と聞く自分がいる。
好きだって言われたから勘違いしてるんじゃないか?って。
そもそも以前までどう思っていた?
好きだと言われて好きだと思っている自分が好きなんじゃないのか?とか
本当は何とも思っていないんだろ?って」
「……名前ちゃん」
いずれ消えて亡くなる存在を好きだったら傷付く自分が可哀想になるのが怖いから、いつでも泣けるように傷付いたフリが出来るようにしたいだけ?
運命の決まっている可哀想な幼馴染を最期まで好きだと思い込めば素敵だよ、と思い込む自分が好き?
いなくなるかもしれない存在を大切にすればするほど……傷つく自分が嫌で壁を作る。
対等で居たかったのに、対等な位置に立てない私は覚悟を決めなきゃいけない。
傑が選ぶ側なら、私は選ばれる側。
「一緒に居たいとは思うけど、すがり付いて泣いて引き留めるような真似はしたくないんです」
傑の好きに便乗してるだけだから。
だから傑からも同じ好きじゃないなんて言われる。
「……私は自分が可愛いです。
生き汚いと言われようと、生きたい」
「じゃあ今すぐ夏油と別れてしまえ。
アイツだって別れてしまえばいずれ時が解決する」
「ははっ、そうですね」
「むしろ夏油はオマエと離れた方がいいとすら思うよ。
アイツを可哀想だと思う日が来るとは思わなかった」
「……私もそう、思います」
硝子ちゃんは間違って無い。
同期の恋愛事に巻き込まれて客観的に考えて意見を言っているだけだ。
オロオロとする華ちゃんはきっと気まずいんだろう。
"原作"を知り、"物語"の中に息をする。
何度も憧れていたのに、実際に体験するとソコはとても窮屈で息苦しい。
命の重さ、命の軽さを理解していても……目の前に叩き付けられる"現実"は"創造"じゃない。
何をしても頭を過る"物語"は私の、華ちゃんの生きる道を邪魔する。
諦めてしまった私は"物語"に怯えてしまう。
それなら手離してしまえば良かったと誰もが言うし、私もそう思うのに……
「………手離せなかった」
「何で?」
「傑が泣いていたから」
記憶が戻ってすぐに傑を切り捨てるべきだった。
幼馴染だろうと、時が経てば関わらなくなる。
連絡しなければ、いずれどうでも良くなる。
そうすれば幼馴染だから、という理由で殺される可能性は低かったかもしれない。
けど……
「守りたいと思ってしまったんです」
あの日、あの時。
化物が怖いと泣いていた傑。
嘘つきと呼ばれていた傑。
一人ぼっちで取り残されていた傑を守ろうと決めたのは私だった。
世界で初めて……味方を得たと笑った傑を捨ててしまえる選択肢など私には無かった。
記憶が溢れだしたからと切り捨てるには、傑という一人の人間の魅力を知りすぎてしまっていた。
「生きたい。けど、傑が怖い。
守りたかったのに、守れない。
傑の手を取りたいのに……私は、そちらの世界に行けない」
「だから中途半端に好きなフリして一線引いているくせに離れるのが嫌だって?
最悪だな」
「ごもっとも」
硝子ちゃんの指摘は間違ってない。
間違っていないのに私は認められない。
「夏油もオマエも幸せになれないんだぞ」
「こんなクソみたいな内容聞いても私の幸せを心配してくださるなんて……。
家入さん、優しいですね」
「何て言うかぁ……僕も恋愛なんてしたこと無いからコレが正解!!って言えないんだけどさぁ。
名前ちゃんはもっと夏油くんに興味無いんだと思ってたぁ。
めちゃくちゃ拗らせてるぅ」
「興味無かったらもっと上手くやれてますよ。
言ってますよね?
なんやかんややらかしてますが私なりに傑が好きなんです」
好きじゃなければもっと早くから離れていたし、コロコロされない為に、なんて考えずバッサリ縁を切っていなくなる。
「そーだねぇ。
けど生きたいから離れたい。
離れたら寂しいから側に居たい。
側に居たら殺されちゃうかもしれないから怖いって話でしょぉ?
僕はその立場じゃないから複雑な感情云々わからないけどぉ……好きをコントロールするって事が難しい事はわかるよぉ」
「………」
「同じ大きさで感情を返せないのは仕方ないとしても、連絡もしないで放置って今の夏油くんは可哀想過ぎると思うなぁ」
華ちゃんの言葉に黙ってしまう。
私の我が儘に振り回されているのだから、傑は本当にいい迷惑だろう。
「未来の妄想ばかり考えていないでぇ、今の夏油くんを見なよぉ。
さっきから名前ちゃんずーっとあれそれ未来の事や過去の事ばかりでなーーんも今の夏油くんを見てないし、考えて無いじゃん」
「だな」
「でも……」
「でも、だって、だけど、って言い訳の常套句だよねぇ」
「うっ……」
「綺麗事並べているが結局オマエは夏油とどうなりたいんだ?」
「……どう、なりたいか」
考えていなかった。
硝子ちゃんに言われてどうしたいのか考える。
「夏油くんに今、会えるなら何したいのぉ?」
「抱き着きたい」
「ドスケベ健在か」
「そんな事ばっかしか頭に無いのぉ?名前ちゃん頭の中常にドスケベだぁ」
「待って。私ヤりたいって言ってません!!
抱き着きたい=ヤるって考えやめてもらえません!?」
「「本音は?」」
「いつもぐいぐい来ていたのが無くなって物足りないからヤりたいに決まってんじゃないですか」
「一言言うならまじで名前ちゃんクソだなって思うんだぁ」
「ドスケベ。ド変態」
「……反論の言葉もございません」
「「クーズ」」
頭を抱えてしまう。
いや、本当に……傑とヤってない期間が長いなんて遠距離の時は普通にあったのに……完全にヤれないとなると、こう……ますますムラムラするというか?
私こんな性欲高めだったっけ?
なんでこうなった?と私も己を改めて見返すと大変な事になっている。
……私の性欲の話は置いといて、傑から離れて生き残る道を選ぼうと思っていたはずが、思ってた以上の執着心を見せられ……私自身も思ってた以上にのめり込みこれ離れたら絶対にアカーンと思ってしまっている。
じゃあどうするか……と悩んでいたがそもそも私は傑をどう思っていた?となると……好き、なんだよな?
「ぶっちゃけエッチ上手いし相性いいし甘えたら甘やかしてくれるし、甘やかすと甘えてくれる。身長高い、筋肉ある、顔良い、体よい、ちょい悪い、お金ある……めちゃくちゃ素晴らしい男に落ちない女います?」
「性格をちょい悪で済ますあたり終わってんな」
「アレはちょい悪じゃなくゲロヤバイって言うんだよぉ?」
「……他の男で試した事無いけど……感じなかった場合私の性欲は大変な事になります」
「クソだな」
「心配するとこ違くなぁい?」
「結構真面目に深刻です」
真面目な話、私は傑しか知らない。
多分かなり上手いと思う。
前世イッた記憶がないから比べ方がわからないが……一言言えるのはアレだ。
傑はヤバイ。
アレを体験して知ってしまった私は傑より熟練、又は同等のレベルじゃないと満足出来ないと言いきれる。
「竈門さんレベルまで堕ちたくない!!! 」
「散々相談乗ったのにぃ、めっちゃ失礼ですけどぉ」
「華と同じレベルまで堕ちたら今度こそ終わりだぞ」
「硝子ちゃんまで失礼すぎるぅ!」
「せめてクソでクズでもいいから人間でありたい」
「だな」
「人の事人外扱い止めてくれないかなぁ!?」
硝子ちゃんと真剣な顔で頷き合う。
下手物喰って喜ぶのは遠慮したいんだよ。
「とにかく夏油どうにかしろ。いい迷惑だ」
「さーせん」
「夏油くんはさ、待ってると思うよぉ。
本当は名前ちゃんに甘えられたいしぃ、頼られたい。
大好きなのに遠ざけられるなんて寂しいよぉ」
「……そう、だけど」
それが出来ているならこんな事になっていないんだ。
「名前ちゃんは遠慮しないでデロッデロに絆されればいいと思うなぁ!」
「ちゃんと聞いてました?私長生きしたいんですって」
「聞いてた聞いてましたぁ!
悲劇のヒロイン気取って無いでどーにかしろって言ってんだよぉ。
さっきは納得しかけたけどぉ、よく考えたら僕ら貶されて八つ当たりされてとばっちりなんだってぇ。
グダグダ悲劇のヒロインごっこしたいなら火サスでやってくれよぉ。コナン呼べよぉ」
「迷宮入りさせずさっさと解決しろ。
真実はいつも一つ。
つまり大人しく身も心も捧げて諦めて囲われるかバッサリ切り捨てろ」
にっこにこの華ちゃんと硝子ちゃん。
額の青筋は見ないフリしておこう。
「……ヤダ」
「往生際が悪い」
「認めたらこう……抜け出せない沼な感じがあるから嫌だ!!」
「夏油くんいい物件なんでしょぉ?
ならいーじゃん。惚れさせまくってれば死なないってぇ。愛は勝つってぇ」
「惚れすぎてコロコロされるかもしれないじゃないですか!!」
「それも愛だ。諦めろ」
ガッッデムッ!!!
この二人、庇う気無い!!
「夏油とまずは話合え」
そう告げて居なくなってしまった硝子ちゃん。
華ちゃんは私の耳元に口を寄せる。
「色々言ったけど……名前ちゃんの全てを否定しないよぉ。
僕だって怖い。今も昔も死ぬのは怖い。
だから変えられない事もあるしぃ、変えてしまった後に酷い反動が来るかもと考えたら不安しかない。
けどね……原作や物語云々の前に、僕らは此所で今を生きてる。
忘れないでねぇ。僕らは物語の一部であり一部じゃないって事」
「竈門さん…」
「過去は変えられない。
今、僕らからすれば此処は過去に居るけれど……此処で息をして生きている僕らの現在でもあるんだぁ。
未来は変えられるんだよぉ」
見えなくなった二人に大きな溜め息をついてしまう。
「未来は変えられる、かぁ」
分かっていても不安が消えない。
華ちゃんの言葉を何度も繰り返す。
未来は変えられる……。
そんな勇気が無いから今まで何度も可能性を持った人に押し付けて逃げようとしてきた。
私じゃ未来は変えられないと諦めて逃げてきた。
今でもその考えは変わらない。
私じゃ無理だとわかっているから。
私の言葉一つで、想い一つで未来が変えられるなら華ちゃんの言葉一つでだって変えられる。
「……いっそのこと、殺されてもいいと思えるくらい傑の事好きになれていたら良かったのに」
今の私はとても中途半端だ。
あとがき
グダグダしてる。
夢主って結構キッパリハッキリしてるの方が物語が見やすいけど、この面倒でグダグダしてるのが人間っぽいかなーと思ってグダグダさせてます。
見ていてイラッとするというか、ハッキリしない優柔不断。
呪術師の判断が遅いのは致命的ですが、この子猿なので(笑)
幼馴染ちゃん
グダグダ。
好きだけど殺されたい程の愛じゃない。
言い方変えるなら現実的。
愛じゃ米は買えん。
華ちゃん
恋心?わかるわかる。
けど僕当事者じゃないからやっぱわからんわ。
だって童貞ニートだもん。
女心はエロゲの選択肢しかわからん。
男心?モテた事無いからわからん。
童貞の気持ちしかわからん。
硝子ちゃん
ドスケベの本能を間近で見た。
狂ってる奴の恋人は狂ってるんだな。
面倒臭い。
末永く爆発していろ。
傑くん
怒ってるんだぞ!!プンプン!!
何で連絡来ないんだよプンプン!!
愛があるから何でも与えてあげるけど?(特級の給料)
悟くん
金と権力あるからだいたいどーにでもなる。
愛?金で買えるだろ?
携帯を眺めていても連絡無し。
ちなみに謝罪の連絡を入れても無視。
なるほど……これはつまり?
「やらかしたな」
「そこ言っちゃ駄目だって甚爾さぁぁああああんっ」
「お疲れ」
「クッソ!!他人事だと思いやがって!!」
「他人事だからな」
クックックッ、と笑いながら正月にやる尻をシバかれる映像を見ている。
今さらそんなの観ても笑えねぇ!!
「……甚爾さんはさ、やっぱ言われなかったら嫌?」
「あー?」
「周りが助けてくれた結果、終わった事を後から知るのは……頼っていない事になる?」
「ハッ、さぁな」
鼻で笑われた。
答えてくれる気は無いらしい。
突然よっこいせ……と立ち上がったので枕にしていた膝から落とされる。
なんてこった。頭が畳にゴッツンコ。
「いたーい!」
「オマエは?同じ事されたらどうなんだよ」
「同じ事?」
傑が私を頼る事なんてある?
後から報告受けたとしても……多分そっか、で終わる。
傑の問題を傑が解決出来ないのに私が解決出来るわけなくね?
「腹立つとかねぇのか、オマエ」
「うん」
「だったらその程度なのかもな」
「……は?」
「可哀想だな。オマエの男」
目を細められて見られる。
私の身の内を覗き込む……いや、私の偽りを見破っている目。
ドクリ、と心臓が嫌な音をたてる。
「やだなー、甚爾さん。
それってどーゆー意味ですかー?」
「まぁ、精々頑張れ。俺は関係ねぇからな」
「どーこーいーくーのー?」
「野暮用」
無理矢理ヘラっと笑って誤魔化すが……甚爾さんは呆れた顔。
泊まらずにさっさとどこか行ってしまった黒猫を留めて聞くには骨が折れそうだ。
モヤモヤ、モヤモヤ。
嫌な気持ちが溢れて消化出来ない。
こんな日はおばぁちゃん特製の手作り梅酒(アルコール度数クソ高い)でパーっとやろう!とお酒をこっそり拝借し、部屋からベランダに出て月見酒。
サイダー割なんぞしない。
梅酒は黙ってロックに決める。
良い子の未成年は飲酒やめようね。
私はほら、精神的には20オーバーだから。
「……嫌だなぁ」
あぁ、嫌だ嫌だ。
嫌なことは全部お酒と一緒に飲み込んで流れてくれ。
……こんな気持ちが呪いを生み出すのかと思うとまた嫌になる。
スッキリしたい酒盛りなはずなのに、この日の酒盛りはとてもスッキリとはしなかった。
結果……翌朝の酒焼けした声と浮腫んだ顔に絶望した。
それから二週間程。
傑とは連絡を取らず過ごしていると
「面白い事になってるねぇ」
「ちょっと面貸しな」
華ちゃんと硝子ちゃんが目が笑っていない姿で現れ、問答無用でお洒落なカフェに連行された。
「本当さぁ、最近の夏油くん最悪なんだけどぉ。常にイライラしてるしぃ、八つ当たりしてくるしぃ、すっごくムカつくのぉ!!」
「で?何したんだ」
「あ、私が何かしてるの前提なんですね」
「だって名前ちゃんしか考え付かないしぃ!!」
「……何も話さないからこうなったというか」
「「は?」」
は?の威力よ。
お顔の良さ自覚して。まじ怖い。
クソカップルの勘違いから始まり、クソ共の粛清を行った事まで一連の流れを話す。
「あぁ、その時にたまたま協力してくれた人が予想以上のフォローとアフターケアまでしてくれたので嬉しくて抱き着いてほっぺにちゅーした所を高専の後輩さんに撮られたらしくて……ぶちギレられて今音信不通です」
「「自業自得」」
なぜ!?
少し……少し、二人なら私を悪くないって言ってくれると思ってたのに!!!
「ぶっちゃけ名前ちゃんがついに浮気したんだと思ったぁ」
「私も。離れる為の理由を作ったのかと」
「な、ん、で!?」
「だってねぇ?硝子ちゃん」
「アレだよな」
意味深に私を見てくる二人。
「だって名前ちゃん、夏油くんの事好きじゃないでしょ?」
「好きになろうとはしているが、好きにならないようにしている……って思っていたが?」
二人からの言葉に私は息が詰まる。
「最初は夏油がヤバいくらいの熱量だと思っていたが……アンタもなかなかだね。
夏油自身の事は確かに他よりも大切なんだろうけど……アンタのソレは恋でも愛でもない。
夏油の愛情を鏡のように返してるフリだけだ」
「普通に見たらとっても上手く出来てるよぉ!だから安心してねぇ。
……僕達は歪んでイカれてるから見破れただーけ!!」
二人の言葉に私は笑おうとした。
したが……笑えなかった。
頭を抱えて大きな大きな溜め息。
髪型がぐちゃぐちゃになる事なんて考えず掻き乱す。
「……否定はしませんよ」
「しないんだ」
「名前ちゃんならもっと言い訳すると思ったよぉ!」
「したところで納得しませんよね?」
あーもぅやだーー、とダレてしまう。
何もかも思い通りにいかない。
「………訂正するとしたら傑の事は好きですよ」
「「へー」」
「もっと興味持って下さいよ」
何て酷い二人だ!!
興味無いのになんでぶっ込んできたの!?
「オマエ達二人の感情は興味ない………が」
「常日頃共に生活するのに支障があるからどーにかしてって事で話しに来たのぉ!
ついでに女子会して聞いてあげるんだからほらほらぁ、話してごらんよぉ!」
「ありがたく無い女子会だ」
こんな酷ぇ女子会ある?
テメーらに興味無いけど一応聞いてやっからオマエの男どーにかしろよって事でしょ?
もうやだぁ!!壺に入るぅ!!ってオバブロしていい?
「じゃあ、甘えますけど。
責任持ってちゃんと聞いて下さいね。
途中離脱は認めませんから」
「硝子ちゃん、恋バナだよ恋バナ」
「私は長生きがしたい。私の原点はまずそこです」
「恋バナどこいった?」
「だけどエッチもしたい」
「待ってぇ?これ一体何の話始まるのぉ?」
「その結果……幼馴染の傑が以前までは丁度良かったから付き合ったのは認めます。
そこに愛情も恋愛も無くただのセフレなら問題無かったんだけどなぁぁぁああああ………」
クソッ、なんてこった!!
……なーんて頭を抱える。
「付き合っていると傑……、クズだけど根が腐ってるわけじゃないから……優し過ぎるし理想の彼氏再現してくれるんですよ。
やりたいことも一緒にしてくれるし、雑な扱いかと思ったら大切にしてくれるし。
飴と鞭の使い方がとてもお上手で理想のスパダリされたら陥落しちゃいますって。絆されますって。
……もっとクソで居てくれたら良かったのにっ!!」
「とりあえずアンタがクソだというのはわかった」
「うん。名前ちゃんがクソだねぇ」
「引かないで下さいよ。私も予想外にクソな自分に嫌気が差しているんですから!!」
そう……予想外だったんだ。
「そもそもあんっっっっなに激重感情向けてくるなんて思って無かったんですよ」
「あぁ、そこは気付いてたのか」
「むしろ気付かない人います?アレ何なんですか?重い重い重い重い」
「名前ちゃん何したのぉ?マジで。
傑くんの新しい性癖の扉開かせて離れられなくしたとかぁ?」
「夏油の尻は開発済みか?」
「待って待って。お二人の私へのイメージ酷くない?」
「そのままだよ、ドスケベ」
「そのままかなぁ、ドスケベェ」
「え?どんな?」
私=ドスケベって何?
「あの陰湿な変態と付き合っている時点でアレなのに、そのアレから重い感情向けられる程のめり込まれてるなんてアレだろ」
「だよねぇ。まだ五条くんのがピュアだもん。
夏油くんは……うん、アレだわぁ」
「嫌だな、そのイメージ」
アレって何?
傑と付き合う=ドスケベって何?
特殊なプレイなんてしていないよ?
そりゃとことん追究してみた事はある。
中イキ、潮吹き、ポルチオ、イラマ、オーラル、玩具。
お互いお尻だけは許せなかったが……私も傑も身体を弄りあってとことん追究した。
これは性への興味であり、お互いの気持ちいいを追究した結果であって特殊ではない!!
「「特殊だよ」」
「え"?」
「嘘でしょ……それは他じゃ満足いかないわぁ」
「彼氏なら彼女の身体開発したいし、彼女なら自分の触れない良いところ知りたいって思うの普通じゃないですか!?」
「スキモノも行き過ぎると特殊だな」
「夏油くんが染めていくならまだ分かるけど、共に染まっちゃうあたり……うん」
「可愛い顔して……なかなかだな」
「やめてやめてやーめーてー!!!!」
まるで!!私が!!ヤバいって!!なってる!!!
2人の遠い目線が!!
はい、解散って帰りそうな雰囲気が!!
「……あー、私のその…アレがソレな部分は置いといて…」
「やーい、スキモノ」
「やーい、スキモノォ」
「……私の原点はさっき話しましたが、"長生きする"事なんですよ」
「「シカト」」
否定はしない。
はいはい、スキモノでございますとも!!
話が進まないから無視だ。
「長生きすればいいだろう」
「傑と居たら無理なんですよ」
「奴が呪術師だからか?確かに呪術師は死にやすいが……夏油はそこまで弱くないぞ」
「……いっそ、弱かったら一緒に居られたかもしれませんね」
ははっ、と笑ってしまう。
「真面目な話……傑が家入さんや竈門さん、五条さんを裏切ったら?」
「そんなわけないだろ」
「夢、みたいな……話ですよ」
「………名前ちゃん」
「理由はどうであれ……傑が、五条さんが、竈門さんが、家入さんやその他の呪術師が絶対に裏切らない可能性は?
……裏切った場合、最初に手折られるのは私達のような弱者です」
「随分な夢だな」
「臆病なんですよ。もしも、をどうしても考えてしまうんです。
……どんどん傑が力を付ける度、夢が現実となっていくんです。
私はそれが怖い」
死にたくない。
「たらればで距離を置くのか?」
「距離を置けたら……良かったんですけどね」
死にたくない。
「距離を置けば、好きにならなければ……一線を引けたら良かったんですけど」
死にたくは、ないのに……。
「あんなに好きってアピールされたら勘違いしちゃうじゃないですか」
「勘違いでは無いからねぇ」
「万が一が起きても……私は愛されているなら大丈夫って。
私が好きになっても大丈夫じゃないかって」
アレは一つの物語。
私が居る事で、華ちゃんが居る事で、その他のイレギュラーが居る事で変更されるんじゃないかと。
原作は原作であり……今、この場を生きる人々に嘘や偽りや台本など無い。
創られた人々ではあるが、ロボットではない。
分かってる。分かってる。分かっている。
そう、何度も期待しながら……
「傑が強くなる度に、呪術師として成功する度に……怖くなるんです。
夢は私の夢で終わり……現実は変わらないって」
「まるで夏油の未来を知っている口振りだな」
「……そんな力があるなら、傑の側に居られたんですけど私には無いので不安になるんです」
怖くて仕方がない。
優しい事を知っているのに。
正義感が強いと知っているのに。
実は弱い事を知っているのに。
本当は泣き虫で怖がりだと知っているのに。
呪術師として成功していく度、怖くなる。
指先一つで
気紛れで
非呪術師だという理由だけで……簡単に殺せると知っているから。
「……よーくわかったよ。
アンタが夏油よりクソでクズでヤベェって」
はぁ、と溜め息をつかれる。
「つまりアンタは初めから夏油という人間が裏切って人殺しをすると決めつけているんだろ?だから不安に襲われる」
「………」
「ちょっとちょっと硝子ちゃん!!」
「黙りな、華。
コイツは自分がか弱いって言いながら私らの事を心の中では人殺しにもなれるって思ってんだ」
「………っ、でも、でもねぇ、硝子ちゃん!
名前ちゃんはそんなつもりじゃ無いと思う!!
えーっと、えーっとぉ……名前ちゃんも誤解されるような言い方やめた方がいいと思うなぁ!!」
「人殺し予定の人間と付き合って自分に酔ってるのか?サイコパスかよ」
「ストーーップ!!ストップストップ!!」
華ちゃんがピピー、と笛を鳴らすフリをする。
「えーっと……名前ちゃんは夏油くんや僕達が嫌い?」
華ちゃんの言葉に笑ってしまう。
嫌い?嫌いなわけがない。
「勿論お二人の事は"友人"として好きです。
けど傑は……彼氏だから好きなのか
幼馴染だから好きなのか
男だから好きなのか
そう……問われると私の"好き"は何かわからないです。傑という人間を愛おしいと思うのに……」
記憶が甦らなければ普通に傑を好きになれたのかな?なんて思ってしまう。
「好きだ、……と思います。
思うのにどこか"それって本当に?"と聞く自分がいる。
好きだって言われたから勘違いしてるんじゃないか?って。
そもそも以前までどう思っていた?
好きだと言われて好きだと思っている自分が好きなんじゃないのか?とか
本当は何とも思っていないんだろ?って」
「……名前ちゃん」
いずれ消えて亡くなる存在を好きだったら傷付く自分が可哀想になるのが怖いから、いつでも泣けるように傷付いたフリが出来るようにしたいだけ?
運命の決まっている可哀想な幼馴染を最期まで好きだと思い込めば素敵だよ、と思い込む自分が好き?
いなくなるかもしれない存在を大切にすればするほど……傷つく自分が嫌で壁を作る。
対等で居たかったのに、対等な位置に立てない私は覚悟を決めなきゃいけない。
傑が選ぶ側なら、私は選ばれる側。
「一緒に居たいとは思うけど、すがり付いて泣いて引き留めるような真似はしたくないんです」
傑の好きに便乗してるだけだから。
だから傑からも同じ好きじゃないなんて言われる。
「……私は自分が可愛いです。
生き汚いと言われようと、生きたい」
「じゃあ今すぐ夏油と別れてしまえ。
アイツだって別れてしまえばいずれ時が解決する」
「ははっ、そうですね」
「むしろ夏油はオマエと離れた方がいいとすら思うよ。
アイツを可哀想だと思う日が来るとは思わなかった」
「……私もそう、思います」
硝子ちゃんは間違って無い。
同期の恋愛事に巻き込まれて客観的に考えて意見を言っているだけだ。
オロオロとする華ちゃんはきっと気まずいんだろう。
"原作"を知り、"物語"の中に息をする。
何度も憧れていたのに、実際に体験するとソコはとても窮屈で息苦しい。
命の重さ、命の軽さを理解していても……目の前に叩き付けられる"現実"は"創造"じゃない。
何をしても頭を過る"物語"は私の、華ちゃんの生きる道を邪魔する。
諦めてしまった私は"物語"に怯えてしまう。
それなら手離してしまえば良かったと誰もが言うし、私もそう思うのに……
「………手離せなかった」
「何で?」
「傑が泣いていたから」
記憶が戻ってすぐに傑を切り捨てるべきだった。
幼馴染だろうと、時が経てば関わらなくなる。
連絡しなければ、いずれどうでも良くなる。
そうすれば幼馴染だから、という理由で殺される可能性は低かったかもしれない。
けど……
「守りたいと思ってしまったんです」
あの日、あの時。
化物が怖いと泣いていた傑。
嘘つきと呼ばれていた傑。
一人ぼっちで取り残されていた傑を守ろうと決めたのは私だった。
世界で初めて……味方を得たと笑った傑を捨ててしまえる選択肢など私には無かった。
記憶が溢れだしたからと切り捨てるには、傑という一人の人間の魅力を知りすぎてしまっていた。
「生きたい。けど、傑が怖い。
守りたかったのに、守れない。
傑の手を取りたいのに……私は、そちらの世界に行けない」
「だから中途半端に好きなフリして一線引いているくせに離れるのが嫌だって?
最悪だな」
「ごもっとも」
硝子ちゃんの指摘は間違ってない。
間違っていないのに私は認められない。
「夏油もオマエも幸せになれないんだぞ」
「こんなクソみたいな内容聞いても私の幸せを心配してくださるなんて……。
家入さん、優しいですね」
「何て言うかぁ……僕も恋愛なんてしたこと無いからコレが正解!!って言えないんだけどさぁ。
名前ちゃんはもっと夏油くんに興味無いんだと思ってたぁ。
めちゃくちゃ拗らせてるぅ」
「興味無かったらもっと上手くやれてますよ。
言ってますよね?
なんやかんややらかしてますが私なりに傑が好きなんです」
好きじゃなければもっと早くから離れていたし、コロコロされない為に、なんて考えずバッサリ縁を切っていなくなる。
「そーだねぇ。
けど生きたいから離れたい。
離れたら寂しいから側に居たい。
側に居たら殺されちゃうかもしれないから怖いって話でしょぉ?
僕はその立場じゃないから複雑な感情云々わからないけどぉ……好きをコントロールするって事が難しい事はわかるよぉ」
「………」
「同じ大きさで感情を返せないのは仕方ないとしても、連絡もしないで放置って今の夏油くんは可哀想過ぎると思うなぁ」
華ちゃんの言葉に黙ってしまう。
私の我が儘に振り回されているのだから、傑は本当にいい迷惑だろう。
「未来の妄想ばかり考えていないでぇ、今の夏油くんを見なよぉ。
さっきから名前ちゃんずーっとあれそれ未来の事や過去の事ばかりでなーーんも今の夏油くんを見てないし、考えて無いじゃん」
「だな」
「でも……」
「でも、だって、だけど、って言い訳の常套句だよねぇ」
「うっ……」
「綺麗事並べているが結局オマエは夏油とどうなりたいんだ?」
「……どう、なりたいか」
考えていなかった。
硝子ちゃんに言われてどうしたいのか考える。
「夏油くんに今、会えるなら何したいのぉ?」
「抱き着きたい」
「ドスケベ健在か」
「そんな事ばっかしか頭に無いのぉ?名前ちゃん頭の中常にドスケベだぁ」
「待って。私ヤりたいって言ってません!!
抱き着きたい=ヤるって考えやめてもらえません!?」
「「本音は?」」
「いつもぐいぐい来ていたのが無くなって物足りないからヤりたいに決まってんじゃないですか」
「一言言うならまじで名前ちゃんクソだなって思うんだぁ」
「ドスケベ。ド変態」
「……反論の言葉もございません」
「「クーズ」」
頭を抱えてしまう。
いや、本当に……傑とヤってない期間が長いなんて遠距離の時は普通にあったのに……完全にヤれないとなると、こう……ますますムラムラするというか?
私こんな性欲高めだったっけ?
なんでこうなった?と私も己を改めて見返すと大変な事になっている。
……私の性欲の話は置いといて、傑から離れて生き残る道を選ぼうと思っていたはずが、思ってた以上の執着心を見せられ……私自身も思ってた以上にのめり込みこれ離れたら絶対にアカーンと思ってしまっている。
じゃあどうするか……と悩んでいたがそもそも私は傑をどう思っていた?となると……好き、なんだよな?
「ぶっちゃけエッチ上手いし相性いいし甘えたら甘やかしてくれるし、甘やかすと甘えてくれる。身長高い、筋肉ある、顔良い、体よい、ちょい悪い、お金ある……めちゃくちゃ素晴らしい男に落ちない女います?」
「性格をちょい悪で済ますあたり終わってんな」
「アレはちょい悪じゃなくゲロヤバイって言うんだよぉ?」
「……他の男で試した事無いけど……感じなかった場合私の性欲は大変な事になります」
「クソだな」
「心配するとこ違くなぁい?」
「結構真面目に深刻です」
真面目な話、私は傑しか知らない。
多分かなり上手いと思う。
前世イッた記憶がないから比べ方がわからないが……一言言えるのはアレだ。
傑はヤバイ。
アレを体験して知ってしまった私は傑より熟練、又は同等のレベルじゃないと満足出来ないと言いきれる。
「竈門さんレベルまで堕ちたくない!!! 」
「散々相談乗ったのにぃ、めっちゃ失礼ですけどぉ」
「華と同じレベルまで堕ちたら今度こそ終わりだぞ」
「硝子ちゃんまで失礼すぎるぅ!」
「せめてクソでクズでもいいから人間でありたい」
「だな」
「人の事人外扱い止めてくれないかなぁ!?」
硝子ちゃんと真剣な顔で頷き合う。
下手物喰って喜ぶのは遠慮したいんだよ。
「とにかく夏油どうにかしろ。いい迷惑だ」
「さーせん」
「夏油くんはさ、待ってると思うよぉ。
本当は名前ちゃんに甘えられたいしぃ、頼られたい。
大好きなのに遠ざけられるなんて寂しいよぉ」
「……そう、だけど」
それが出来ているならこんな事になっていないんだ。
「名前ちゃんは遠慮しないでデロッデロに絆されればいいと思うなぁ!」
「ちゃんと聞いてました?私長生きしたいんですって」
「聞いてた聞いてましたぁ!
悲劇のヒロイン気取って無いでどーにかしろって言ってんだよぉ。
さっきは納得しかけたけどぉ、よく考えたら僕ら貶されて八つ当たりされてとばっちりなんだってぇ。
グダグダ悲劇のヒロインごっこしたいなら火サスでやってくれよぉ。コナン呼べよぉ」
「迷宮入りさせずさっさと解決しろ。
真実はいつも一つ。
つまり大人しく身も心も捧げて諦めて囲われるかバッサリ切り捨てろ」
にっこにこの華ちゃんと硝子ちゃん。
額の青筋は見ないフリしておこう。
「……ヤダ」
「往生際が悪い」
「認めたらこう……抜け出せない沼な感じがあるから嫌だ!!」
「夏油くんいい物件なんでしょぉ?
ならいーじゃん。惚れさせまくってれば死なないってぇ。愛は勝つってぇ」
「惚れすぎてコロコロされるかもしれないじゃないですか!!」
「それも愛だ。諦めろ」
ガッッデムッ!!!
この二人、庇う気無い!!
「夏油とまずは話合え」
そう告げて居なくなってしまった硝子ちゃん。
華ちゃんは私の耳元に口を寄せる。
「色々言ったけど……名前ちゃんの全てを否定しないよぉ。
僕だって怖い。今も昔も死ぬのは怖い。
だから変えられない事もあるしぃ、変えてしまった後に酷い反動が来るかもと考えたら不安しかない。
けどね……原作や物語云々の前に、僕らは此所で今を生きてる。
忘れないでねぇ。僕らは物語の一部であり一部じゃないって事」
「竈門さん…」
「過去は変えられない。
今、僕らからすれば此処は過去に居るけれど……此処で息をして生きている僕らの現在でもあるんだぁ。
未来は変えられるんだよぉ」
見えなくなった二人に大きな溜め息をついてしまう。
「未来は変えられる、かぁ」
分かっていても不安が消えない。
華ちゃんの言葉を何度も繰り返す。
未来は変えられる……。
そんな勇気が無いから今まで何度も可能性を持った人に押し付けて逃げようとしてきた。
私じゃ未来は変えられないと諦めて逃げてきた。
今でもその考えは変わらない。
私じゃ無理だとわかっているから。
私の言葉一つで、想い一つで未来が変えられるなら華ちゃんの言葉一つでだって変えられる。
「……いっそのこと、殺されてもいいと思えるくらい傑の事好きになれていたら良かったのに」
今の私はとても中途半端だ。
あとがき
グダグダしてる。
夢主って結構キッパリハッキリしてるの方が物語が見やすいけど、この面倒でグダグダしてるのが人間っぽいかなーと思ってグダグダさせてます。
見ていてイラッとするというか、ハッキリしない優柔不断。
呪術師の判断が遅いのは致命的ですが、この子猿なので(笑)
幼馴染ちゃん
グダグダ。
好きだけど殺されたい程の愛じゃない。
言い方変えるなら現実的。
愛じゃ米は買えん。
華ちゃん
恋心?わかるわかる。
けど僕当事者じゃないからやっぱわからんわ。
だって童貞ニートだもん。
女心はエロゲの選択肢しかわからん。
男心?モテた事無いからわからん。
童貞の気持ちしかわからん。
硝子ちゃん
ドスケベの本能を間近で見た。
狂ってる奴の恋人は狂ってるんだな。
面倒臭い。
末永く爆発していろ。
傑くん
怒ってるんだぞ!!プンプン!!
何で連絡来ないんだよプンプン!!
愛があるから何でも与えてあげるけど?(特級の給料)
悟くん
金と権力あるからだいたいどーにでもなる。
愛?金で買えるだろ?