幼馴染は生き残りたい
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先日のモブ女勘違い事件から私は学校全体でヤベェ男と付き合っている女と噂されるように。
確かに傑はヤベェ。
しかし、私までヤベェ扱いはやめて欲しい。
なぜって?
「名前ちゃーん。オレとも一発どぉ?」
「オマエあのヤベェ男に殺されるぞー」
「ヤベェ奴に好かれてるってことは具合がいいんからだろ?」
「じゃあオレの相手もよろしくー!」
ゲラゲラと下世話な声を投げつけられるが無視。
クソな男達にからかわれる原因になると思わないじゃん?
しかもあのモブ女……私がヤリマンビッチみたいな噂流しやがった。
そのせいで私はヤリマンビッチでヤベェ男を虜にしたから何も悪くないモブカップルが浮気されたのに土下座させられた……なんて面倒な事に。
何度乗り込んでやろうかと思ったが………
思い出して欲しい。
私は傑の前では強気でも、人見知りなんだよ。
基本引きこもりなんだよ。
だから自らオラオラいくタイプじゃないんだよ。
虐められて泣き寝入りしちゃうタイプなんだよ。
今一緒にいる友達は最初から傑の写真が待ち受けだから彼氏が居ると知っているし、彼氏の名前がすぐるだと知っている。
モブ女の事を知っていたし、バイト先が同じ子に関してはモブ男のクソ具合も知っていたので庇ってくれる。
友達が庇ってくれてなるべくウザイ奴らと距離を置いて気にしないように言ってくれるからいいのだが……
遠くから冷やかす声が止まない。
なぜ転校して1〜2ヶ月でこんな精神的攻撃受けなきゃならんの?
私傑にコロコロされる前に東京の学校にコロコロされるんじゃね?とかちょっと思ってしまった。
「私は80のおばぁちゃんになるまで生きるんだ」
「年齢が生々しいね」
傑が私の膝枕でゴロゴロしている。
窮屈な学校を終えてすぐに帰って来た。
ちなみにバイトは週3にした。
傑と部屋の中でDVDを見ていたが、映画に集中出来ず口から溢してしまった言葉に傑が反応した。
「老衰がいいけどこのままだと私は学生に殺される」
「何かあった?」
「今の私はヤベェ男を虜にしたヤリマンビッチらしいから」
「私以外の男を誘惑したのか」
「ヤベェ。私の命此処で終わる」
ギラッとした傑の視線から目を逸らす。
やめてくれ…私はまだ長生きしたい。
最近の噂と共によく声を掛けられる事を言えば傑がにっこり笑っていた。
「潰すか」
「物騒」
「舐められっぱなしはよくないと思うんだ」
「相手してなければ相手も飽きるでしょ」
「……選手交代」
「?」
膝枕していた傑が起き上がって胡座をかいて座り、膝をポンポンしている。
「おいで。今日は名前を甘やかしてあげる」
「えー」
「嫌かい?」
両手を広げているイケメンがいる。
イケメンに強い人間っている?
ぐふっと心に矢が突き刺さってヤバい。
例え胡散臭い笑顔でも。
例え下心しかなさそうな笑顔でも。
抱き付いて傑の首に顔を埋める。
クソッ!!いい匂い!!
「酷いようなら私がどうにかするよ」
「うん」
「ちゃんと頼ってね」
「……うん」
傑は身体を触りながらもちゃんと甘やかしてくれた。
イケメンにいい子いい子してもらえるお金のかからないホストが此処に。
知ってる?
これ私の彼氏なんだぜ?
いまだに信じられないが彼氏なんだぜ?
そうやってメンタル回復してもらいながら過ごした。
なんやかんや新学期となり、クラス替えから一部の女子からは嫌われているみたいだが、仲良しの子と同じクラスになれたので問題無い。
目立たず穏やかに過ごそう!!そう思っていた。
目立たず!!穏やかに!!
………人はそれを、フラグと呼ぶ。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「おー」
口元に傷のあるセクシーな男、伏黒甚爾ご来店☆
バイト先の!!コスプレ喫茶!!
貴方の来るところじゃないっ!!!
「何時におわるんだよ」
「旦那様、此処でその発言は店長行きでございます」
見てみろよ。
店長が脇パシンパシンしながらウォーミングアップしちまったじゃん。
なのに気にしない。
「いつもんとこ居る」
それだけ言って出ていった甚爾。
…………なぜこうなったのかと説明しよう。
そう、あれは二週間程前の出来事……。
無視していたら学校での声かけは少なくなったとはいえ……しつこいやつはしつこい。
その日もうざく絡んで来ていたクソ野郎を無視してバイトに行こうと思ったのだが……そのクソ野郎は爆弾を落としてきた。
「オマエが出会い系サイトで募集してたのにふざけんなよ!!」
「………は?」
この野郎なんつった?
聞き捨てならない言葉に頭が理解出来ない。
勿論出会い系なんかやってない。
「いいから来いよ。可愛がって欲しいんだろ」
「いやっ!!」
無理矢理連れ去られそうになって流石に焦る。
ヤバいヤバいヤバい。
傑に連絡……入れてる場合じゃねぇ!!
捕まれた腕を引き離そうとぐいぐいしているが、万年引きこもりのオタクは非力です!!
夢ヒロインの誰もが格闘技覚えてると思うな!!!
抵抗という非力な抵抗をしていたら
ドンッ、と誰かにぶつかった。
「……あ"?」
「!!」
私はその人の逞しい腕を掴んだ。
こちとら必死だったんだ!!
「助けてくださいっ」
黒いスウェット姿で路地から出てきたその人の腕を掴む。
思ってたより筋肉ゴリゴリでこれ勝ち組!!と思った。
ヤクザでも何でも良かった。
とにかくクソ野郎から離れてしまえば傑を呼ぼうと焦っていたのだ。
そう、焦っていた。
「ふざけんなよビッチが!!」
「やだっ」
「あ"ー……悪ィな。コイツ今日は俺のだ」
軽々と抱き上げられた。
捕まれて痛かった腕も簡単に外された。
「勝手に人のもん…」
「あ"?」
「っ!!」
クソ野郎はビクッと怯えた顔をして固まった。
「俺のだつってんだろ」
めっちゃいい声が聞こえる。
そして逃げていくクソ野郎。
私はヤベー奴に声かけてしまったんじゃ?と後悔すらし始めた。
「……あの、ありがとうございました」
助けて貰ったお礼はきちんとせねば。
人見知りでもお礼はします。
そしてまじまじと見て……驚いた。
「あん?」
伏黒甚爾やんけ。
「礼なんかいらねーよ。さっさと行くぞ」
「へ?あの……どこに?」
「ホテル。オマエ持ちなんだろ」
「?」
「昨日連絡してきたろ」
「どちら様ですか?」
面倒そうに昨日?連絡を取り合ったという内容を話されるが……まったく身に覚えがない。
はて?と頭を傾げると顔を隠しておっぱい出した私っぽいような女の子の写真。
「オマエだろ」
「違いますね」
画像が粗いが……何枚かある。
〜◯◯高校の名前っていいます☆
エッチ大好きなので皆さん声かけてね!
生OK☆〜
いやいや。
私じゃねーよ。
エッチは大好きだけど出会い系なんか怖くてやってられるか!!
「……これ、本人じゃなくても登録出来ますよね?」
「まぁな」
「よく似せてますが私じゃないです」
嘘だろ……。
何でこんなことされなきゃならないんだ。
ショックで心が砕け散りそうになる。
変な男にホテル連れ込まれそうになるし。
出会い系に登録されてるし。
大丈夫、大丈夫……と己に言い聞かせてきたが……もう、コレは駄目だ。アウト。
「ふっ……うぅ…っ」
「待て。泣くな」
「うっ、うぇっ」
「……オマエ誰かに恨まれたりしてねーか?」
「逆恨みはされてるぅ…」
「じゃあそいつだな」
「うぅ………うわーーんっ、わ、私…なんも、してなぃのにぃぃいいいっ」
「うわぁ……」
「長生きさせてよっ!!」
何か諸々耐えきれず泣いた。
年甲斐も無く泣きわめいた。
面倒そうな甚爾は白けた顔をしている。
「………じゃ」
「ちょっと聞いて。
幸せに生きたいだけなのになぜか人生エンドコースしかないの。
確かに?確かに私は何の力も無い猿ですよ!!けどさ、猿は猿なりに強く前向いて生きてるの!!なのに猿だからって理由でさよならバイバイされるかもしれない未来にどう感謝しろと!?」
「知らねーよ」
「聞けよ!!!
いたいけな犯罪と無縁の見た目美少女が性犯罪に遭うところってか出会い系サイト登録されてるって何この地獄!?不名誉なエロ女扱いされて誰にでも腰振られてよがる猿だと思われてんの!?
猿は猿でも私は万年発情期じゃないんだよ!!」
「……あー、はいはい」
「聞いて!!」
もう一度言おう。
この時の私のキャパはオーバーしていた。
伏黒甚爾に心は無いと理解していても、だ。
夢女的な……支部的な妄想で伏黒甚爾=いい奴みたいな。
プロヒモ男は女性を粗末に扱わないと。
絶対的な自信がなぜかあった。
いや……クソ野郎みたいな知らない人より一方的に見慣れた人と出会えたから安心したのかもしれない。
だからこんなことが出来たのかも。
「私だってさぁ……素直に恋したいし、好きになりたいんだよ。
けど猿は猿だから無駄なんだよ」
「はいはい」
「そりゃ死にたくないから危険な事はしたくないの。憧れはあるけど私人間だぞ?
野生の猿に襲われたら勝てない猿だぞ?」
「何言ってんだ」
「……好きな人と一緒に居たいけど、死ぬ運命にあるなら居られないじゃん」
「………」
「どう思う?私間違えてる?
死ぬのが怖いから逃げ出したいって悪いこと?
生きてりゃチャンスはあるけど死んだらおしまいじゃん」
「………さぁな」
「生きたいのに生きる邪魔されるって何だよ……私そんな悪いことしたかな?
道端に落ちてたお金パクったから?」
ぐしぐし泣きながら路地にしゃがんで愚痴る。
勿論甚爾を捕まえて、だ。
とにかく鬱憤を晴らそうと愚痴愚痴言いたいことを言葉に出してみる。
「そりゃアレだ。
ヤッて忘れちまえばいい」
「駄目だろ。いくら顔が良くても駄目だろ」
「本当に写真と違うか確かめてやるよ」
「駄目だっつってんじゃん。父親が女子高生に手を出した犯罪者って知ったら子供泣くよ?一生の恥だよ?」
「子供なんかいねーよ」
「………え?」
ここで我に返った。
私、今何やらかしてた?と鼻水を啜りながら考えるが覚えてない。
むしろ泣きすぎて頭痛い。あと涙が目に入って痛い。
「……いやいやいや。おじ……おにーさん子持ちでしょ」
「いねぇつってんだろ」
「いる。私の脳内のおじ…おにーさんは奥さんに先立たれて子供置き去りにふらついてるクソニートだと脳内が告げている」
「何だよその脳内」
「ほら、胸に手を当てて?よーく思い出してごらん?」
「知らねーな」
「……えーっと、ごめんなさい。
さっき何か色々吐き出したけど……先立たれた奥さんいるのに、その、ごめんなさい」
「勝手に決めて申し訳無さから謝るのやめろ。話進めんな」
そんなこんなで、本来なら出会い系でホテル代持ちの私と一発ヤりながら宿確保する予定だったらしいプロヒモ。
私は奥さんに先立たれたのに死ぬのが怖いから逃げ出したい云々と愚痴り続けた申し訳なさから……ひとまずお腹空くし晩御飯の手伝いもあるからプロヒモを連れて帰ることに。
バイトは痴漢に襲われ警察行った事にして休んだ。もう接客する精神じゃない。
正常な判断?そんなもん出会い系サイトに登録されてると知った時点でとっくに無かった。
「ただいまー」
「………名前ちゃん、その人は?」
「変な男から助けてくれたおにーさん」
驚いたおばぁちゃんだったが、訳を話せば快く家に上げた。
おじぃちゃんは詳しく話せと言うので、プロヒモに出会い系サイトを開いてもらいコレを見た変な人にホテル連れ込まれそうになったと話せば怒り狂ってどこかに行ってしまった。
ご飯作っている間にお風呂に入ってもらい、傑や五条用にとおばぁちゃんが買ったスウェットを渡しておく。
今日はもつ煮らしい。
美味しそうな匂いに小皿に分けて並べていく。
おじぃちゃんも安心しろ、と笑顔で戻って来たので4人でご飯を食べた。
おじぃちゃんとお酒を飲み交わし、酔い潰れたおじぃちゃんをプロヒモが抱えて布団に寝かせ、もう遅いからと客間に布団を敷いてゴロンと横になるプロヒモ。
「……馴染みすぎでは?」
「あ」
プロヒモも驚く違和感の無さ。
おじぃちゃんとおばぁちゃんのおもてなし精神が凄い。
「おにーさん何で此処にいるんでしたっけ?」
「……礼?」
よくわからなくなった。
プロヒモはぐっすり翌朝まで寝て、朝起こされ、4人でご飯を食べ……まったりしていた。
プロヒモを置いて、いつものように登校。
傑と普通通り登校し、バイトして、帰宅したら……まだいた。
「何で?」
「成り行き」
どうやらおじぃちゃんとおばぁちゃんの手伝いをしていたらしい。電球替えたり屋根掃除したり、物置小屋の掃除とか。
気まぐれで動くとお礼とお菓子を貰えるので色々していたら夕方となり……気付いたらまた晩御飯食べてゴロゴロしていた、と。
晩酌に付き合いおじぃちゃんを寝かせ客間で眠る。
流石プロヒモ。
他人の家で寛ぐ違和感の無さ。
次の日、4人で朝ごはんを食べて学校の準備をしていたら傑から少し遅れると連絡が。
毎朝早起き苦手なのに無理しなくていいと言ってるのだが聞いてくれない。
「何時に出るんだ?」
「もう少ししたら出るよ」
「声かけろよ。一緒に出る」
プロヒモにそう言われ傑には"知り合いに送って貰う事になったから大丈夫。ゆっくりして"と送る。
甚爾さんと一緒に駅に向かう。
「どうにかしてやろうか?」
「へ?」
「出会い系のやつ。書き込んだ奴まで特定してやるよ」
「……出来るの?」
「多分な。知り合いに詳しい奴がいる」
「そうしてもらえたら、ありがたいけど……」
頭の中では札束が消えていく。
プロヒモに仕事を頼んで良いのか悪いのか……。
「その代わり報酬寄越せよ」
「……あの、分割払いは可能でしょうか?」
「払えんのか」
「……五万、くらいなら」
バイト代に推しの我慢。
ちょっと傑と相談してバイト増やすか……うんうん頭を悩ませていたら、ケタケタ笑い出す甚爾さん。
「金は取らねーよ」
「……じゃあ身体?」
「ガキに手なんか出さねぇーよ」
「ややこしいセフレと別れるための彼女役は嫌です」
「んなことさせるか馬鹿。
……連絡したら飯と寝床寄越せよ」
「それだけ?」
「飯がもつ煮の日は必ず呼べ」
そう言って駅前で別れた。
それから二週間。
ちょくちょく連絡が入り家を出入りするようになった甚爾さん。
傑は忙しいのか……出張任務が続いている。
なので二人は顔合わせしていない。
ハラハラしたものの……プロヒモの慣れは早かった。
我が家を我が物顔で過ごし、おじぃちゃんもおばぁちゃんも気にしない。
普通にお腹だして茶の間で寝るし。
気にするのも馬鹿馬鹿しくなり甚爾さんをクッション代わりにしてみたら思いの外……素晴らしい。
座り心地のいい角度。
背もたれにしてもビクともしない。
乗っても気にしない。
胡座の上に乗ったら頭撫でてくれる。
これが……プロヒモの力!!!!
こりゃ女の人メロメロなるわ。
何だよこの居心地のいい筋肉クッション。
人を駄目にする筋肉だ。
甚爾さんも私もおじぃちゃんもおばぁちゃんも適応力がおバグりなさっていた。
結果、私達は違和感無く過ごしている。
そんな甚爾さんがバイト先に現れてどうしたものかと思った。
いつもなら駅前で待ち合わせして一緒に帰るのに何か急用かな?とバイトを早めに上がらせて貰った。
「お疲れ、甚爾さん」
「おー」
ほら、と渡された大きめの茶封筒。
なんだなんだと中身を見れば……携帯電話の履歴情報や出会い系サイトの登録情報、ホテルに入る女子高生の写真などなど。
「これ……」
「それ見せても問題起こるなら言え。
知り合いに元警察がいるから」
「…………」
まさか。
まさかだ。
いくら家に来るようになったとはいえ……伏黒甚爾だぞ?
仕事となればきっと私は見限られるし、そもそもここまでされる程の事はしていない。
一発ヤッてお金請求されても不思議じゃないくらいの働きをしたのに……アフターケアまでだと?
「〜〜っ!!甚爾さん大好き!!ありがとう!!」
「へいへい」
「本当にありがとう!!やれば出来る子!素敵な子!」
「オマエは俺の母親か」
抱き着いて頬にちゅっちゅっとキスをする。
白けた顔をしながら犬に舐められたと思ってる甚爾さんにぐりぐりと頭を押し付ける。
「お祝いよ!!今日もつ煮は無理だけど明日はもつでパーティナイト!!」
「乳当たってんぞ」
「そんな些細な事を気にする仲じゃないでしょ」
「もっと危機感持て」
甚爾さんの腕に抱き着いて一緒に帰る。
おじぃちゃんとおばぁちゃんに話せば2人とも大喜びで甚爾さんに感謝した。
おじぃちゃんの知り合いの弁護士を雇い、法的に制裁しようということに。
父と母にも連絡すると仕事を休んで今すぐ帰る!!と大事になってしまい胸がドキドキ。
一度犯罪に巻き込まれてる私だからしっかりやろうとおじぃちゃんは既に弁護士に相談していたらしい。
甚爾さんも出会い系サイトのやり取りを残していてコピーしてくれていたので証拠もバッチリだ。
甚爾さんの活躍に私達はうかれていた。
いや、私がうかれていた。
次の日
私は昼休みクソ女がクソ男の膝に乗り仲間達とギャハギャハやっている中乗り込んだ。
「んだよ、ビッチ」
「何か私に言うことは?」
「何もねーよ」
「夜の相手探し?それなら他所でやんなよ」
「オレ立候補してやろうか?」
「やめときなよぉー。病気移されそー」
OK。そーゆー態度な。
茶封筒を突き付けても受け取らない。
むしろ、叩き落とされた。
「オマエの裸体写真なんかいらねーし」
「ふーん。いらないんだ?」
「ヌード写真?オレ見てみよ!」
なぜ裸体写真だと思うんだよ。
男の一人がニヤニヤしながら中身を見て……表情が抜け落ちていく。
「オイ」
「なぁにー?」
「オマエら……ねぇわ」
怒りに満ちている男はバァンと書類を叩き付ける。
そりゃそーなるわな。
出てきたのはコピーではあるが制服姿で女が2〜3人……クソ女とその仲間が若いお兄さんらとラブなホテルに入る姿。
「!!」「!?」
「オマエらコレどーゆー事だよ」
「な、なによコレっ!?」
「ウチラじゃねーしっ」
「ふざけんなよ!!コレのどこが違うって?」
言い合いを始めたグループ内で交際していた男女。
はいはい。君達の痴話喧嘩なら他所でやってねー。今そんな時間ないからねー、とぶった切る。
「人の事散々クソビッチ、病気持ち、援交、出会い系してる云々言いふらして浮気売女扱いしてくれたけど全部貴女の事だったんだね」
「テッメェ!」
「謝る気も無いなら仕方ないよね」
「ふざけんなよ!!」
胸ぐら捕まれて顔にツバが飛ぶ。
やめてくれ。
「アンタが先に酷い事したから仕返ししただけじゃん!!ふざけんなよ!!」
「どっちがふざけてるの?
勘違いして叩いた事を謝ったのは君達の誠意だったはずだよ?」
「だからって!!」
「逆恨みで勝手に出会い系サイト登録して個人情報や写真使われて変な人に声掛けられてホテル連れ込まれそうになったんだけど?
1度や2度じゃないから警察にも相談して被害者届け出してる。
これ犯罪だから」
怒りで顔を赤くして騒ぐクソ女。
教室はざわざわと野次馬が集まる。
「犯罪って……大袈裟!!」
「あの、ごめんなさい。コイツが勝手にやった事でウチラは関係無いっていうか……」
「そうそう!ノリでコイツに逆らえなくて……ごめん!!ウチラも本当は嫌だったから!!」
「オマエら!?」
罪の擦り付け合いを始めた三人に呆れてしまう。
「オマエもノリ悪い奴だな!!
こんなことで警察とか脅しかよ!!」
「ノリねぇ……。ノリなら何してもいいのかな?」
「ちょっとした悪戯だろ。本気にするのが馬鹿なんだよ」
「そっか。反省してないんだね」
「オマエだって個人情報晒して脅してきてるんだから立派な犯罪だろ!!」
「違う。これは交渉。
貴女が認めて誠意を持って謝るなら許すよ」
「バッカじゃねーの?コレだって捏造だろ?パソコンでうちらの画像使っただけで本当はオマエがやってんじゃねーの?」
よく吠えるクソに私はにこりと笑う。
こちとら精神年齢オマエより年上なんだよ……つまり。
クソガキの強がりなんかぶちギレた私には些細な事なんじゃい!!!!
「私、老衰で死にたいから長生きしたいんだ」
「はぁ?」
「だから私は私を守るために大人を頼る事にしたの」
交渉決裂だね、とメールを送る。
後は大人の話し合いだ。
「ノリで人を殺せる才能があるって凄いね」
「はぁ!?名誉毀損で訴えるぞ!!」
「考えつかなかった?
見知らぬ人に声を掛けられ身に覚えの無いセクハラ発言に罵倒の数々で傷付く心。無理矢理ホテルに連れ込まれる恐怖。人の見る目が変わっていく瞬間。
……貴女達は確かに手を出してはいないけど、人を追い込み陥れる才能が素晴らしいんだね。
それで万が一私に何かあっても笑うんでしょ?
凄いね。どんなメンタルしてんの?
じゃあ……今から貴女達に向けられる非難の目にも耐えられるよね?」
クソ女の携帯が鳴る。
父親かららしいがなかなか出ない。
「ちゃんと出た方がいいと思うよ。
貴女が自分を正義だと思っているなら」
「うるせぇよ!!」
「貴女が出会い系サイトに登録した主犯だから主に貴女を訴える為に弁護士は動いてるよ。
貴女は未成年で法に守られるかもしれないけど……犯罪は犯罪だから。親が貴女の慰謝料やら諸々払わなきゃいけなくなるね。
勿論、他の人にも弁護士から話がいくと思うな」
「な、に言って……」
「たかが学生同士の揉め事だって。ノリだって笑える?
おめでたい頭だね」
犯罪は犯罪に決まってんだろ。
「人は簡単に死ぬんだよ。
ちょっとしたきっかけで死ねるの」
人だから。
今までが耐えれても、急に耐えられなくなる。
「私は私が大切だから……ごめんね?
謝らない、認めない相手に容赦なんてしないよ」
ボイスレコーダーに、友達が撮ってくれた動画。
コピーした証拠の数々。
「学校には君達のグループを虐めの主犯として提出するよ。
あぁ、噂に乗じて数々のセクハラ発言の動画もいくつかあるから……野次馬している人達も覚悟してね?」
私は自分を追い込むより先に、手助けしてくれる人達がいたからぶちギレてしまった。
泣き寝入りするより今後のよりよい生活と私の人生の為に。
「残念だな。前回の時に反省してくれたら良かったのに」
その後、主犯グループは緊急呼び出し。
勿論私も。
「オマエの私生活や素行にも何か問題があったんじゃないか」と発言してきた男子教師はボイスレコーダーを校長に聞かせ、こちらの学校側の態度も弁護士に叩き付けますね、と笑うと男子教師は青ざめて謝罪してきた。
穏便に済ませたい学校はモゴモゴしていたが、後は親と話す事で私も主犯グループも謹慎へ。
緊急だが父と母がこの事態にすっ飛んで来てくれて私を全面的に信用してくれ、証拠の数々と弁護士を引き連れて保護者会へ。
帰宅後完全勝利だと両親は帰って来た。
私は普通に登校。主犯グループは……ひとまず謹慎となり、今後どうなるかわからない。
高校を変えるか相談したが、私は悪いことしていないので堂々と通う事に。
……友達作りを初めからが嫌だったとかじゃないよ。
私はよりよい学校生活を手にすると共に、ヤベェ女として認識されてしまった。
……まぁ、ビッチ扱いされるよりはいいかと己を納得させて長生きの為の安寧を手にしたのだった。
………が、私は自分にいっぱいいっぱいで大切な事を疎かにし、忘れていた。
「名前、私に何か話す事は?」
「?」
傑に報告・連絡・相談する事を。
「コレ……どういう事かな?」
「ヴァッ」
傑に見せられたのは甚爾さんに抱き着いている写真。
「私が出張中後輩が見掛けたと送って来てくれたんだ」
「後輩……?」
嘘だろ?何で私ななみんと灰原に知られてんの!?そして何で写真撮られてんの!!?
「どういう事か説明しろ」
「……ぁい」
かくかくしかじかと話し終えると……傑は盛大な溜め息。
そして立ち上がる。
「私はそんなに頼りないか?」
「あの、傑……」
「悪いが暫く距離を置こう。
……名前の浮気の心配はしていないが、ちょっと今は無理だ」
「頼りないわけじゃなくって」
「全て終わった後に知る私の気持ちも考えてくれない。信用されていない。
……どんなに名前に私の気持ちを伝えても信じようとしてくれない、頼ってすら貰えないなら私はキミに必要無いんじゃないのか?」
「傑!!」
「キミの考えが分からない」
怒って出ていってしまった。
嘘だろ……。やっちまった。
過去最大級に傑を怒らせてしまった私はコロコロ√待ったなしの道を踏み抜いてしまったのだった。
あとがき
法的措置やら携帯の情報開示などなど……
この時代で出来たかどうかちょっと記憶に乏しいですが……あまり深く考えないでください。
普段大人しい子を怒らせると怖い。
プチッと切れると人間何をしでかすかわかりませんね、本当……。
犯罪、だめ、絶対。
・名前ちゃん
怒らせると怖い。……やらかした
・傑くん
レベル14:ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスター
・甚爾さん
いい宿見つけた
・モブ女
終了
・モブ男
終了
確かに傑はヤベェ。
しかし、私までヤベェ扱いはやめて欲しい。
なぜって?
「名前ちゃーん。オレとも一発どぉ?」
「オマエあのヤベェ男に殺されるぞー」
「ヤベェ奴に好かれてるってことは具合がいいんからだろ?」
「じゃあオレの相手もよろしくー!」
ゲラゲラと下世話な声を投げつけられるが無視。
クソな男達にからかわれる原因になると思わないじゃん?
しかもあのモブ女……私がヤリマンビッチみたいな噂流しやがった。
そのせいで私はヤリマンビッチでヤベェ男を虜にしたから何も悪くないモブカップルが浮気されたのに土下座させられた……なんて面倒な事に。
何度乗り込んでやろうかと思ったが………
思い出して欲しい。
私は傑の前では強気でも、人見知りなんだよ。
基本引きこもりなんだよ。
だから自らオラオラいくタイプじゃないんだよ。
虐められて泣き寝入りしちゃうタイプなんだよ。
今一緒にいる友達は最初から傑の写真が待ち受けだから彼氏が居ると知っているし、彼氏の名前がすぐるだと知っている。
モブ女の事を知っていたし、バイト先が同じ子に関してはモブ男のクソ具合も知っていたので庇ってくれる。
友達が庇ってくれてなるべくウザイ奴らと距離を置いて気にしないように言ってくれるからいいのだが……
遠くから冷やかす声が止まない。
なぜ転校して1〜2ヶ月でこんな精神的攻撃受けなきゃならんの?
私傑にコロコロされる前に東京の学校にコロコロされるんじゃね?とかちょっと思ってしまった。
「私は80のおばぁちゃんになるまで生きるんだ」
「年齢が生々しいね」
傑が私の膝枕でゴロゴロしている。
窮屈な学校を終えてすぐに帰って来た。
ちなみにバイトは週3にした。
傑と部屋の中でDVDを見ていたが、映画に集中出来ず口から溢してしまった言葉に傑が反応した。
「老衰がいいけどこのままだと私は学生に殺される」
「何かあった?」
「今の私はヤベェ男を虜にしたヤリマンビッチらしいから」
「私以外の男を誘惑したのか」
「ヤベェ。私の命此処で終わる」
ギラッとした傑の視線から目を逸らす。
やめてくれ…私はまだ長生きしたい。
最近の噂と共によく声を掛けられる事を言えば傑がにっこり笑っていた。
「潰すか」
「物騒」
「舐められっぱなしはよくないと思うんだ」
「相手してなければ相手も飽きるでしょ」
「……選手交代」
「?」
膝枕していた傑が起き上がって胡座をかいて座り、膝をポンポンしている。
「おいで。今日は名前を甘やかしてあげる」
「えー」
「嫌かい?」
両手を広げているイケメンがいる。
イケメンに強い人間っている?
ぐふっと心に矢が突き刺さってヤバい。
例え胡散臭い笑顔でも。
例え下心しかなさそうな笑顔でも。
抱き付いて傑の首に顔を埋める。
クソッ!!いい匂い!!
「酷いようなら私がどうにかするよ」
「うん」
「ちゃんと頼ってね」
「……うん」
傑は身体を触りながらもちゃんと甘やかしてくれた。
イケメンにいい子いい子してもらえるお金のかからないホストが此処に。
知ってる?
これ私の彼氏なんだぜ?
いまだに信じられないが彼氏なんだぜ?
そうやってメンタル回復してもらいながら過ごした。
なんやかんや新学期となり、クラス替えから一部の女子からは嫌われているみたいだが、仲良しの子と同じクラスになれたので問題無い。
目立たず穏やかに過ごそう!!そう思っていた。
目立たず!!穏やかに!!
………人はそれを、フラグと呼ぶ。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「おー」
口元に傷のあるセクシーな男、伏黒甚爾ご来店☆
バイト先の!!コスプレ喫茶!!
貴方の来るところじゃないっ!!!
「何時におわるんだよ」
「旦那様、此処でその発言は店長行きでございます」
見てみろよ。
店長が脇パシンパシンしながらウォーミングアップしちまったじゃん。
なのに気にしない。
「いつもんとこ居る」
それだけ言って出ていった甚爾。
…………なぜこうなったのかと説明しよう。
そう、あれは二週間程前の出来事……。
無視していたら学校での声かけは少なくなったとはいえ……しつこいやつはしつこい。
その日もうざく絡んで来ていたクソ野郎を無視してバイトに行こうと思ったのだが……そのクソ野郎は爆弾を落としてきた。
「オマエが出会い系サイトで募集してたのにふざけんなよ!!」
「………は?」
この野郎なんつった?
聞き捨てならない言葉に頭が理解出来ない。
勿論出会い系なんかやってない。
「いいから来いよ。可愛がって欲しいんだろ」
「いやっ!!」
無理矢理連れ去られそうになって流石に焦る。
ヤバいヤバいヤバい。
傑に連絡……入れてる場合じゃねぇ!!
捕まれた腕を引き離そうとぐいぐいしているが、万年引きこもりのオタクは非力です!!
夢ヒロインの誰もが格闘技覚えてると思うな!!!
抵抗という非力な抵抗をしていたら
ドンッ、と誰かにぶつかった。
「……あ"?」
「!!」
私はその人の逞しい腕を掴んだ。
こちとら必死だったんだ!!
「助けてくださいっ」
黒いスウェット姿で路地から出てきたその人の腕を掴む。
思ってたより筋肉ゴリゴリでこれ勝ち組!!と思った。
ヤクザでも何でも良かった。
とにかくクソ野郎から離れてしまえば傑を呼ぼうと焦っていたのだ。
そう、焦っていた。
「ふざけんなよビッチが!!」
「やだっ」
「あ"ー……悪ィな。コイツ今日は俺のだ」
軽々と抱き上げられた。
捕まれて痛かった腕も簡単に外された。
「勝手に人のもん…」
「あ"?」
「っ!!」
クソ野郎はビクッと怯えた顔をして固まった。
「俺のだつってんだろ」
めっちゃいい声が聞こえる。
そして逃げていくクソ野郎。
私はヤベー奴に声かけてしまったんじゃ?と後悔すらし始めた。
「……あの、ありがとうございました」
助けて貰ったお礼はきちんとせねば。
人見知りでもお礼はします。
そしてまじまじと見て……驚いた。
「あん?」
伏黒甚爾やんけ。
「礼なんかいらねーよ。さっさと行くぞ」
「へ?あの……どこに?」
「ホテル。オマエ持ちなんだろ」
「?」
「昨日連絡してきたろ」
「どちら様ですか?」
面倒そうに昨日?連絡を取り合ったという内容を話されるが……まったく身に覚えがない。
はて?と頭を傾げると顔を隠しておっぱい出した私っぽいような女の子の写真。
「オマエだろ」
「違いますね」
画像が粗いが……何枚かある。
〜◯◯高校の名前っていいます☆
エッチ大好きなので皆さん声かけてね!
生OK☆〜
いやいや。
私じゃねーよ。
エッチは大好きだけど出会い系なんか怖くてやってられるか!!
「……これ、本人じゃなくても登録出来ますよね?」
「まぁな」
「よく似せてますが私じゃないです」
嘘だろ……。
何でこんなことされなきゃならないんだ。
ショックで心が砕け散りそうになる。
変な男にホテル連れ込まれそうになるし。
出会い系に登録されてるし。
大丈夫、大丈夫……と己に言い聞かせてきたが……もう、コレは駄目だ。アウト。
「ふっ……うぅ…っ」
「待て。泣くな」
「うっ、うぇっ」
「……オマエ誰かに恨まれたりしてねーか?」
「逆恨みはされてるぅ…」
「じゃあそいつだな」
「うぅ………うわーーんっ、わ、私…なんも、してなぃのにぃぃいいいっ」
「うわぁ……」
「長生きさせてよっ!!」
何か諸々耐えきれず泣いた。
年甲斐も無く泣きわめいた。
面倒そうな甚爾は白けた顔をしている。
「………じゃ」
「ちょっと聞いて。
幸せに生きたいだけなのになぜか人生エンドコースしかないの。
確かに?確かに私は何の力も無い猿ですよ!!けどさ、猿は猿なりに強く前向いて生きてるの!!なのに猿だからって理由でさよならバイバイされるかもしれない未来にどう感謝しろと!?」
「知らねーよ」
「聞けよ!!!
いたいけな犯罪と無縁の見た目美少女が性犯罪に遭うところってか出会い系サイト登録されてるって何この地獄!?不名誉なエロ女扱いされて誰にでも腰振られてよがる猿だと思われてんの!?
猿は猿でも私は万年発情期じゃないんだよ!!」
「……あー、はいはい」
「聞いて!!」
もう一度言おう。
この時の私のキャパはオーバーしていた。
伏黒甚爾に心は無いと理解していても、だ。
夢女的な……支部的な妄想で伏黒甚爾=いい奴みたいな。
プロヒモ男は女性を粗末に扱わないと。
絶対的な自信がなぜかあった。
いや……クソ野郎みたいな知らない人より一方的に見慣れた人と出会えたから安心したのかもしれない。
だからこんなことが出来たのかも。
「私だってさぁ……素直に恋したいし、好きになりたいんだよ。
けど猿は猿だから無駄なんだよ」
「はいはい」
「そりゃ死にたくないから危険な事はしたくないの。憧れはあるけど私人間だぞ?
野生の猿に襲われたら勝てない猿だぞ?」
「何言ってんだ」
「……好きな人と一緒に居たいけど、死ぬ運命にあるなら居られないじゃん」
「………」
「どう思う?私間違えてる?
死ぬのが怖いから逃げ出したいって悪いこと?
生きてりゃチャンスはあるけど死んだらおしまいじゃん」
「………さぁな」
「生きたいのに生きる邪魔されるって何だよ……私そんな悪いことしたかな?
道端に落ちてたお金パクったから?」
ぐしぐし泣きながら路地にしゃがんで愚痴る。
勿論甚爾を捕まえて、だ。
とにかく鬱憤を晴らそうと愚痴愚痴言いたいことを言葉に出してみる。
「そりゃアレだ。
ヤッて忘れちまえばいい」
「駄目だろ。いくら顔が良くても駄目だろ」
「本当に写真と違うか確かめてやるよ」
「駄目だっつってんじゃん。父親が女子高生に手を出した犯罪者って知ったら子供泣くよ?一生の恥だよ?」
「子供なんかいねーよ」
「………え?」
ここで我に返った。
私、今何やらかしてた?と鼻水を啜りながら考えるが覚えてない。
むしろ泣きすぎて頭痛い。あと涙が目に入って痛い。
「……いやいやいや。おじ……おにーさん子持ちでしょ」
「いねぇつってんだろ」
「いる。私の脳内のおじ…おにーさんは奥さんに先立たれて子供置き去りにふらついてるクソニートだと脳内が告げている」
「何だよその脳内」
「ほら、胸に手を当てて?よーく思い出してごらん?」
「知らねーな」
「……えーっと、ごめんなさい。
さっき何か色々吐き出したけど……先立たれた奥さんいるのに、その、ごめんなさい」
「勝手に決めて申し訳無さから謝るのやめろ。話進めんな」
そんなこんなで、本来なら出会い系でホテル代持ちの私と一発ヤりながら宿確保する予定だったらしいプロヒモ。
私は奥さんに先立たれたのに死ぬのが怖いから逃げ出したい云々と愚痴り続けた申し訳なさから……ひとまずお腹空くし晩御飯の手伝いもあるからプロヒモを連れて帰ることに。
バイトは痴漢に襲われ警察行った事にして休んだ。もう接客する精神じゃない。
正常な判断?そんなもん出会い系サイトに登録されてると知った時点でとっくに無かった。
「ただいまー」
「………名前ちゃん、その人は?」
「変な男から助けてくれたおにーさん」
驚いたおばぁちゃんだったが、訳を話せば快く家に上げた。
おじぃちゃんは詳しく話せと言うので、プロヒモに出会い系サイトを開いてもらいコレを見た変な人にホテル連れ込まれそうになったと話せば怒り狂ってどこかに行ってしまった。
ご飯作っている間にお風呂に入ってもらい、傑や五条用にとおばぁちゃんが買ったスウェットを渡しておく。
今日はもつ煮らしい。
美味しそうな匂いに小皿に分けて並べていく。
おじぃちゃんも安心しろ、と笑顔で戻って来たので4人でご飯を食べた。
おじぃちゃんとお酒を飲み交わし、酔い潰れたおじぃちゃんをプロヒモが抱えて布団に寝かせ、もう遅いからと客間に布団を敷いてゴロンと横になるプロヒモ。
「……馴染みすぎでは?」
「あ」
プロヒモも驚く違和感の無さ。
おじぃちゃんとおばぁちゃんのおもてなし精神が凄い。
「おにーさん何で此処にいるんでしたっけ?」
「……礼?」
よくわからなくなった。
プロヒモはぐっすり翌朝まで寝て、朝起こされ、4人でご飯を食べ……まったりしていた。
プロヒモを置いて、いつものように登校。
傑と普通通り登校し、バイトして、帰宅したら……まだいた。
「何で?」
「成り行き」
どうやらおじぃちゃんとおばぁちゃんの手伝いをしていたらしい。電球替えたり屋根掃除したり、物置小屋の掃除とか。
気まぐれで動くとお礼とお菓子を貰えるので色々していたら夕方となり……気付いたらまた晩御飯食べてゴロゴロしていた、と。
晩酌に付き合いおじぃちゃんを寝かせ客間で眠る。
流石プロヒモ。
他人の家で寛ぐ違和感の無さ。
次の日、4人で朝ごはんを食べて学校の準備をしていたら傑から少し遅れると連絡が。
毎朝早起き苦手なのに無理しなくていいと言ってるのだが聞いてくれない。
「何時に出るんだ?」
「もう少ししたら出るよ」
「声かけろよ。一緒に出る」
プロヒモにそう言われ傑には"知り合いに送って貰う事になったから大丈夫。ゆっくりして"と送る。
甚爾さんと一緒に駅に向かう。
「どうにかしてやろうか?」
「へ?」
「出会い系のやつ。書き込んだ奴まで特定してやるよ」
「……出来るの?」
「多分な。知り合いに詳しい奴がいる」
「そうしてもらえたら、ありがたいけど……」
頭の中では札束が消えていく。
プロヒモに仕事を頼んで良いのか悪いのか……。
「その代わり報酬寄越せよ」
「……あの、分割払いは可能でしょうか?」
「払えんのか」
「……五万、くらいなら」
バイト代に推しの我慢。
ちょっと傑と相談してバイト増やすか……うんうん頭を悩ませていたら、ケタケタ笑い出す甚爾さん。
「金は取らねーよ」
「……じゃあ身体?」
「ガキに手なんか出さねぇーよ」
「ややこしいセフレと別れるための彼女役は嫌です」
「んなことさせるか馬鹿。
……連絡したら飯と寝床寄越せよ」
「それだけ?」
「飯がもつ煮の日は必ず呼べ」
そう言って駅前で別れた。
それから二週間。
ちょくちょく連絡が入り家を出入りするようになった甚爾さん。
傑は忙しいのか……出張任務が続いている。
なので二人は顔合わせしていない。
ハラハラしたものの……プロヒモの慣れは早かった。
我が家を我が物顔で過ごし、おじぃちゃんもおばぁちゃんも気にしない。
普通にお腹だして茶の間で寝るし。
気にするのも馬鹿馬鹿しくなり甚爾さんをクッション代わりにしてみたら思いの外……素晴らしい。
座り心地のいい角度。
背もたれにしてもビクともしない。
乗っても気にしない。
胡座の上に乗ったら頭撫でてくれる。
これが……プロヒモの力!!!!
こりゃ女の人メロメロなるわ。
何だよこの居心地のいい筋肉クッション。
人を駄目にする筋肉だ。
甚爾さんも私もおじぃちゃんもおばぁちゃんも適応力がおバグりなさっていた。
結果、私達は違和感無く過ごしている。
そんな甚爾さんがバイト先に現れてどうしたものかと思った。
いつもなら駅前で待ち合わせして一緒に帰るのに何か急用かな?とバイトを早めに上がらせて貰った。
「お疲れ、甚爾さん」
「おー」
ほら、と渡された大きめの茶封筒。
なんだなんだと中身を見れば……携帯電話の履歴情報や出会い系サイトの登録情報、ホテルに入る女子高生の写真などなど。
「これ……」
「それ見せても問題起こるなら言え。
知り合いに元警察がいるから」
「…………」
まさか。
まさかだ。
いくら家に来るようになったとはいえ……伏黒甚爾だぞ?
仕事となればきっと私は見限られるし、そもそもここまでされる程の事はしていない。
一発ヤッてお金請求されても不思議じゃないくらいの働きをしたのに……アフターケアまでだと?
「〜〜っ!!甚爾さん大好き!!ありがとう!!」
「へいへい」
「本当にありがとう!!やれば出来る子!素敵な子!」
「オマエは俺の母親か」
抱き着いて頬にちゅっちゅっとキスをする。
白けた顔をしながら犬に舐められたと思ってる甚爾さんにぐりぐりと頭を押し付ける。
「お祝いよ!!今日もつ煮は無理だけど明日はもつでパーティナイト!!」
「乳当たってんぞ」
「そんな些細な事を気にする仲じゃないでしょ」
「もっと危機感持て」
甚爾さんの腕に抱き着いて一緒に帰る。
おじぃちゃんとおばぁちゃんに話せば2人とも大喜びで甚爾さんに感謝した。
おじぃちゃんの知り合いの弁護士を雇い、法的に制裁しようということに。
父と母にも連絡すると仕事を休んで今すぐ帰る!!と大事になってしまい胸がドキドキ。
一度犯罪に巻き込まれてる私だからしっかりやろうとおじぃちゃんは既に弁護士に相談していたらしい。
甚爾さんも出会い系サイトのやり取りを残していてコピーしてくれていたので証拠もバッチリだ。
甚爾さんの活躍に私達はうかれていた。
いや、私がうかれていた。
次の日
私は昼休みクソ女がクソ男の膝に乗り仲間達とギャハギャハやっている中乗り込んだ。
「んだよ、ビッチ」
「何か私に言うことは?」
「何もねーよ」
「夜の相手探し?それなら他所でやんなよ」
「オレ立候補してやろうか?」
「やめときなよぉー。病気移されそー」
OK。そーゆー態度な。
茶封筒を突き付けても受け取らない。
むしろ、叩き落とされた。
「オマエの裸体写真なんかいらねーし」
「ふーん。いらないんだ?」
「ヌード写真?オレ見てみよ!」
なぜ裸体写真だと思うんだよ。
男の一人がニヤニヤしながら中身を見て……表情が抜け落ちていく。
「オイ」
「なぁにー?」
「オマエら……ねぇわ」
怒りに満ちている男はバァンと書類を叩き付ける。
そりゃそーなるわな。
出てきたのはコピーではあるが制服姿で女が2〜3人……クソ女とその仲間が若いお兄さんらとラブなホテルに入る姿。
「!!」「!?」
「オマエらコレどーゆー事だよ」
「な、なによコレっ!?」
「ウチラじゃねーしっ」
「ふざけんなよ!!コレのどこが違うって?」
言い合いを始めたグループ内で交際していた男女。
はいはい。君達の痴話喧嘩なら他所でやってねー。今そんな時間ないからねー、とぶった切る。
「人の事散々クソビッチ、病気持ち、援交、出会い系してる云々言いふらして浮気売女扱いしてくれたけど全部貴女の事だったんだね」
「テッメェ!」
「謝る気も無いなら仕方ないよね」
「ふざけんなよ!!」
胸ぐら捕まれて顔にツバが飛ぶ。
やめてくれ。
「アンタが先に酷い事したから仕返ししただけじゃん!!ふざけんなよ!!」
「どっちがふざけてるの?
勘違いして叩いた事を謝ったのは君達の誠意だったはずだよ?」
「だからって!!」
「逆恨みで勝手に出会い系サイト登録して個人情報や写真使われて変な人に声掛けられてホテル連れ込まれそうになったんだけど?
1度や2度じゃないから警察にも相談して被害者届け出してる。
これ犯罪だから」
怒りで顔を赤くして騒ぐクソ女。
教室はざわざわと野次馬が集まる。
「犯罪って……大袈裟!!」
「あの、ごめんなさい。コイツが勝手にやった事でウチラは関係無いっていうか……」
「そうそう!ノリでコイツに逆らえなくて……ごめん!!ウチラも本当は嫌だったから!!」
「オマエら!?」
罪の擦り付け合いを始めた三人に呆れてしまう。
「オマエもノリ悪い奴だな!!
こんなことで警察とか脅しかよ!!」
「ノリねぇ……。ノリなら何してもいいのかな?」
「ちょっとした悪戯だろ。本気にするのが馬鹿なんだよ」
「そっか。反省してないんだね」
「オマエだって個人情報晒して脅してきてるんだから立派な犯罪だろ!!」
「違う。これは交渉。
貴女が認めて誠意を持って謝るなら許すよ」
「バッカじゃねーの?コレだって捏造だろ?パソコンでうちらの画像使っただけで本当はオマエがやってんじゃねーの?」
よく吠えるクソに私はにこりと笑う。
こちとら精神年齢オマエより年上なんだよ……つまり。
クソガキの強がりなんかぶちギレた私には些細な事なんじゃい!!!!
「私、老衰で死にたいから長生きしたいんだ」
「はぁ?」
「だから私は私を守るために大人を頼る事にしたの」
交渉決裂だね、とメールを送る。
後は大人の話し合いだ。
「ノリで人を殺せる才能があるって凄いね」
「はぁ!?名誉毀損で訴えるぞ!!」
「考えつかなかった?
見知らぬ人に声を掛けられ身に覚えの無いセクハラ発言に罵倒の数々で傷付く心。無理矢理ホテルに連れ込まれる恐怖。人の見る目が変わっていく瞬間。
……貴女達は確かに手を出してはいないけど、人を追い込み陥れる才能が素晴らしいんだね。
それで万が一私に何かあっても笑うんでしょ?
凄いね。どんなメンタルしてんの?
じゃあ……今から貴女達に向けられる非難の目にも耐えられるよね?」
クソ女の携帯が鳴る。
父親かららしいがなかなか出ない。
「ちゃんと出た方がいいと思うよ。
貴女が自分を正義だと思っているなら」
「うるせぇよ!!」
「貴女が出会い系サイトに登録した主犯だから主に貴女を訴える為に弁護士は動いてるよ。
貴女は未成年で法に守られるかもしれないけど……犯罪は犯罪だから。親が貴女の慰謝料やら諸々払わなきゃいけなくなるね。
勿論、他の人にも弁護士から話がいくと思うな」
「な、に言って……」
「たかが学生同士の揉め事だって。ノリだって笑える?
おめでたい頭だね」
犯罪は犯罪に決まってんだろ。
「人は簡単に死ぬんだよ。
ちょっとしたきっかけで死ねるの」
人だから。
今までが耐えれても、急に耐えられなくなる。
「私は私が大切だから……ごめんね?
謝らない、認めない相手に容赦なんてしないよ」
ボイスレコーダーに、友達が撮ってくれた動画。
コピーした証拠の数々。
「学校には君達のグループを虐めの主犯として提出するよ。
あぁ、噂に乗じて数々のセクハラ発言の動画もいくつかあるから……野次馬している人達も覚悟してね?」
私は自分を追い込むより先に、手助けしてくれる人達がいたからぶちギレてしまった。
泣き寝入りするより今後のよりよい生活と私の人生の為に。
「残念だな。前回の時に反省してくれたら良かったのに」
その後、主犯グループは緊急呼び出し。
勿論私も。
「オマエの私生活や素行にも何か問題があったんじゃないか」と発言してきた男子教師はボイスレコーダーを校長に聞かせ、こちらの学校側の態度も弁護士に叩き付けますね、と笑うと男子教師は青ざめて謝罪してきた。
穏便に済ませたい学校はモゴモゴしていたが、後は親と話す事で私も主犯グループも謹慎へ。
緊急だが父と母がこの事態にすっ飛んで来てくれて私を全面的に信用してくれ、証拠の数々と弁護士を引き連れて保護者会へ。
帰宅後完全勝利だと両親は帰って来た。
私は普通に登校。主犯グループは……ひとまず謹慎となり、今後どうなるかわからない。
高校を変えるか相談したが、私は悪いことしていないので堂々と通う事に。
……友達作りを初めからが嫌だったとかじゃないよ。
私はよりよい学校生活を手にすると共に、ヤベェ女として認識されてしまった。
……まぁ、ビッチ扱いされるよりはいいかと己を納得させて長生きの為の安寧を手にしたのだった。
………が、私は自分にいっぱいいっぱいで大切な事を疎かにし、忘れていた。
「名前、私に何か話す事は?」
「?」
傑に報告・連絡・相談する事を。
「コレ……どういう事かな?」
「ヴァッ」
傑に見せられたのは甚爾さんに抱き着いている写真。
「私が出張中後輩が見掛けたと送って来てくれたんだ」
「後輩……?」
嘘だろ?何で私ななみんと灰原に知られてんの!?そして何で写真撮られてんの!!?
「どういう事か説明しろ」
「……ぁい」
かくかくしかじかと話し終えると……傑は盛大な溜め息。
そして立ち上がる。
「私はそんなに頼りないか?」
「あの、傑……」
「悪いが暫く距離を置こう。
……名前の浮気の心配はしていないが、ちょっと今は無理だ」
「頼りないわけじゃなくって」
「全て終わった後に知る私の気持ちも考えてくれない。信用されていない。
……どんなに名前に私の気持ちを伝えても信じようとしてくれない、頼ってすら貰えないなら私はキミに必要無いんじゃないのか?」
「傑!!」
「キミの考えが分からない」
怒って出ていってしまった。
嘘だろ……。やっちまった。
過去最大級に傑を怒らせてしまった私はコロコロ√待ったなしの道を踏み抜いてしまったのだった。
あとがき
法的措置やら携帯の情報開示などなど……
この時代で出来たかどうかちょっと記憶に乏しいですが……あまり深く考えないでください。
普段大人しい子を怒らせると怖い。
プチッと切れると人間何をしでかすかわかりませんね、本当……。
犯罪、だめ、絶対。
・名前ちゃん
怒らせると怖い。……やらかした
・傑くん
レベル14:ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスター
・甚爾さん
いい宿見つけた
・モブ女
終了
・モブ男
終了