幼馴染は生き残りたい
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「名前、悪いんだけど来年からおばぁちゃんの家から学校通ってくれる?」
「おばぁちゃん?」
「お父さんが急に海外にある会社勤務になっちゃったのよ」
「じゃあ私も海外行くよ」
「アンタ日本に残すのにおばぁちゃんに頼んだから大丈夫だって」
「いやいや、おばぁちゃん知らんし」
「あら?そうだったかしら?
とにかくおばぁちゃんとこ行って貰うから。来週から」
「来週!?」
突然決まった転校と引っ越し。
私の冬休みは潰れる様子です。
「って訳でそちらには居ませんでした」
『は?ふざけすぎ』
引っ越しでバタバタしていて、やっと荷解きを終え一息ついて携帯を見たら……なぜか電源が切れていた。充電をすると……恐ろしい数字が見えた。
着信 50件
メール 100件
何事!?と思っていたら電話が鳴る。
「もっしー?」
『今何処にいる?旅行に行くなんて一言も言って無かったよね』
「あぁ、引っ越したから」
『は?』
「今東京なんだー」
『は?』
「むしろ、今日から東京」
『ふざけてるなら今なら許す』
傑の低くなる声に昨日母から言われて急遽徹夜で荷造りをし、荷物を詰め込んだ一週間。
そしてつい先程荷解きが終わった事を告げた。
傑はいつも通りいきなり帰って私がいないので驚いて連絡したが繋がらなかったと。
『東京と言っても広いだろ……』
「広い。が、おばぁちゃん宅めっちゃ街中から外れてるの」
『へぇ』
「近所にコンビニあるだけマシだけど田舎かな?って思うくらい広い屋敷と山」
『……住所わかったら教えて。顔だすから』
「えー、別にいいよ」
茶の間でゴロゴロしていたらおばぁちゃんがお茶菓子とお茶用意してくれた。
おばぁちゃんは齢70になるが元気だ。
にこにこしていて穏やかなおばぁちゃんは隙あらばお菓子を差し入れしてくれる。
おじぃちゃんは無口でじっと此方を見てくるが特に何も言って来ない。嫌われてはいないと思うが……じっと見られていると緊張する。
お母さんに相談したら吹き出して笑われた。孫との関わり方がわからず機会をうかがっているだけだと言われたが……ムスッとした表情のじぃちゃんに関わるってめちゃくちゃレベル高くね?
りっちゃんと泣く泣く感動的に別れを告げ、連絡をかかさず取り合っているものの……。
新しい高校に不安を隠せないのも事実。
郊外なので自転車で高校に向かうことになるが……不安しかない。
大丈夫。私なら出来る。桐○さんに私はなる!
「傑は年越し実家?」
『いや、また高専に戻るよ』
「忙しいね」
『まぁ……任務は待ってくれないから』
「たまには家族と話してゆっくりしなよ。
なーんにも考えず家族の温かさに絆されなさい」
『そうだね』
持ち運びタイプの充電器に変えておばぁちゃんとおじぃちゃんにコンビニ行ってくると告げる。
ファースヌードをし、モコモコの上着を羽織る。
着いていくと言い出したおばぁちゃんだがすぐ戻ると約束したら渋々納得してくれた。
『一人歩きは危ないよ』
「いけるいける」
『いつも消極的なくせに何の自信だ』
「そんな夜遅くないから大丈夫だって」
コンビニに入って飲み物を手に取る。
おじぃちゃんとおばぁちゃんに餡まんを買おうとレジへ。
「餡まん3つお願いします」
包んで貰った餡まんを手に外へ出ようとしたら……黒い壁が。
通行の邪魔になるかと横へ避けたがなぜか目の前に。
んだよ、コイツ……と顔を上げた。
『名前?』
「オマエ何でここに居んの?」
「………うっわ」
五条が居た。
ポカンとする私と五条。
『悟の声?』
「傑は?実家行ったよな?」
「待て待て待て。どういう事だってばよ」
『は?何で悟が?』
「何で五条さんが?」
「だってここ高専の近くだし」
嘘だろ……!!!!
確かに?確かに東京にしては田舎だけどっ!!!
まさかそんな事ってある!?
「うわっ、餡まんねーじゃん」
「……じゃ」
「その袋の中身は?」
「ははっ、傑ったらそんな恥ずかしい事言えないよ。うんうん、今から帰るから」
「待てよ。シカトすんな」
「ちょっとやだー。どちら様ー?ナンパは受け付けて無いんですけどー」
横をすり抜けようとしたが肩を捕まれた。
チッ、と舌打ちしたが離してもらえなかった。
『名前?本当に悟か?』
「マジのガチな五条さんだわ。嘘だろ?こんな偶然あんの?」
『名前の親呪術関係者じゃないよね?』
「違う違う。え?って事はおじぃちゃんとおばぁちゃんは関係者って事?嘘だろ」
「高専からコンビニ離れてるから別に関係者では無いだろ」
たまたまだとしても凄い偶然。
これが夢の力!?都合良すぎじゃね?
『………へぇ』
「いや、違う。嘘だと言ってくれ。五条さんあれでしょ?任務でたまたま寄ったんだよね?そうだと言え」
「どう見ても部屋着だろ」
「クッソイケメン!!部屋着姿でもイケメンってなんだよ」
『まだ終電間に合うな』
「いい、来るな。実家でゆっくりしたまえ」
『母さん、父さん。学校から呼び出しされたから帰るよ。すまないね』
「帰って来るな!!」
ガタガタと電話で音がする。
ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。
近くに来たとわかったら傑は我が家のように出入りするだろう。やめてくれ。
おじぃちゃんにもおばぁちゃんにも可愛い孫が男連れ込むようなクソビッチだと思われたくないんだよ!!
「五条さんコンビニ来たんだよね?
さぁ、今退けたから今すぐ店内へどうぞ」
「傑、コイツ家まで送って家わかったら教えるからハーゲンダッツ買ってきて」
『わかったよ。ハーゲンダッツ箱で買ってきてやるか、絶対に家つきとめて』
「やだやだ。おじぃちゃんとおばぁちゃんにクソビッチだと思われたくない!!」
「餡まんくれたら考える」
「ほら!餡まんだよ!」
一個五条に手渡せば躊躇い無く食べた。
私の餡まん一個で傑に黙ってて貰えるなら安いもんだ!!
『悟、わかってるな』
「へーへー。しっかりお届けするっつの」
「来なくてよろしい」
『すぐ帰るよ』
ピッ、と切られた電話に頭を抱える。
何てこった。ふざけんな。
急に背筋がゾッとして冬の寒さを感じてしまう。なんてこった。風邪引くわ。
「で?何で此処にいんの?」
「口の端にあんこ付けてますよ」
「あんこ付けててもイケメンだから、俺」
キリッとした顔で見るな。惚れてまうやろ。
顔面がよろしいから無闇やたらとキメ顔すんでないよ。
「……家庭の事情で祖父母の家に引っ越して来たんですよ」
「離婚?」
「私の言い方が悪かったですね。両親が海外に転勤になったので置いていかれました」
「着いて行けば良かっただろ」
「最初はそのつもりだったみたいですが転勤先のアパートがクッソ狭かったらしくて。
家族三人は無理だって」
「前の家は?」
「母が定期的に帰っては来ますがどうしても長期にはなるのでその間一人暮らしは心配だと」
「そんなもん?」
「私がキッチンで一度小規模爆発させちゃったのが原因かと」
「何やったんだよ」
「電子レンジで卵爆発させました」
「あぁ。やるよな、アレ」
オマエもやったんか、五条。
どーーーしてもゆで卵の半熟が食べたくて、でもお湯沸かすの面倒でレンチンすりゃいいや!!と思ってやったらやらかした。
加熱時間の絶妙なタイミング間違えて卵は急に沸騰しボンッ。
それ以来母さんにはキッチンで料理する時は見張りをされるように。
「学校遠くね?」
「自転車爆走するんで」
「冬は止めとけ」
「雪積もってないから行けますって」
「凍ってる時のそこの坂やベーんだよ」
「……実体験ですか?」
「傑と2ケツしたら死ぬかと思った」
「馬鹿ですか」
ケラケラ笑っている五条はどれだけヤバかったかを力説している。自転車は壊れたらしい。笑ってるから危険性がいまいち伝わらないが……とりあえず自転車は冬の間止めておこうと思った。
「遠いけど歩くか……」
「じーさんとかに頼んで近場まで送って貰えば?」
「高齢者に運転させて何かあったら困るじゃん」
「駅まで遠いじゃん。ダッル」
「それにおじぃちゃんあんまり私と話してくれないし。いきなり預けられて迷惑してるだろうにそこまで頼めないよ」
「ふーん」
居心地が悪いわけじゃないが……会った記憶の無い祖父母の家は緊張する。
あまり人付き合いは積極的じゃないんだよ私。
心の中は明るいけど。
「あ、おじぃちゃん」
「ん?あれ?」
玄関前におじぃちゃんが立っていた。
キョロキョロして私を見るとホッと安心した顔を見せた後、隣の五条を見て顔をしわくちゃに顔を歪めた。
「コラクソガキ。
見る目はあるがうちの孫に手ェ出してただで済むと思うな」
「うっわ。ジジィの所の孫ってコイツ?
コレのどこが天使?俺の顔面見てから言えよ」
「鼻垂らした鬱陶しい顔しとるクソガキ顔だな」
「寒くて鼻赤くなってるだけだっつの。鼻なんか垂れてねーわ」
「五条さん垂れてるよ」
「まじ?」
ズズッ、と鼻をすする五条。
イケメンは鼻水さえ似合うんだな。
「おじぃちゃんと五条さん知り合い?」
「知り合いじゃねーし。いちいち口うっせージジィだよ」
「人ん家の自転車盗んで壊したろクソガキ」
「ちゃんと買って返したろ。新品で」
孫に浮かれて新品の自転車買ったんじゃなかったのか。
めっちゃ綺麗な自転車だなーと思ったら五条……傑も何してんだよ。
「孫と知り合いだったのか」
「傑の彼女。ばーちゃんにいつも相談してたろ」
「………認めん」
「傑今度から通うと思うぞ」
「認めん!!」
「ばーちゃんが傑と楽しそうに話してるからってヤキモチ妬かなくて済むじゃん」
「グッ!!」
「その代わり孫が傑とイチャイチャするけどな」
「認めん!!」
おじぃちゃんと五条が思ってた以上に仲良しなんだが?
何なの?どーゆー事だってばよ。
「うちの高専寮母とかいねーから飯は自炊なんだよ。だからコンビニで飯買ってたらこのジジィに目ェつけられた」
「若い頃からコンビニの洒落た飯ばっか食ってんじゃねぇ」
「で、ジジィが俺らに野菜やおにぎり持たせてくるようになって」
「米食え」
「作るの面倒な時はジジィに連絡してジジィの家で飯食ってる程度の仲」
「めちゃくちゃ仲良しじゃん」
しかもおじぃちゃん私より五条と話す方がイキイキしてるな?
私おじぃちゃんに嫌われていた?
「良かったな、ジジィ。死ぬまでに孫と暮らせて」
「五月蝿い」
「ジジィ息子と喧嘩してから里帰りしてくれなくなったって寂しん坊だったからな」
「………」
そうだったんだ。
お父さん穏やかなのに喧嘩なんかするんだ。
お母さんの親は早い内から病気で亡くなったと聞いていたが……。
「私おじぃちゃんとおばぁちゃん居るって今回初めて知ったもん」
「う"っ」
「お父さんからおじぃちゃん達の話聞いたこと無かったから今回驚いたな…」
「………」
「ちゃんと話せよジジィ。可愛い孫がジジィが怖い顔して話してくれねーって不安がってたぞ」
「五条さん!!」
「事実じゃん。ほら、さっさと中入れば」
しっしっ、と追い払う五条。
鼻の頭を赤くしているのでファースヌードを巻いてやる。
「うわ。やっすいファーだろこれ」
「暖かいから我慢しなよ」
コンビニだけの予定だったと思うが、わざわざ送って貰ったんだ。
鼻垂らしてるのにほっとけないわ。
「ありがとう、五条さん」
「おー」
「傑には言わないでね」
「傑よくここ来るぞ」
「引きこもる」
「精々頑張れ」
ぐしゃぐしゃと私の頭を撫で回してコンビニへと戻って行く。
あのスヌードに鼻水をつけられていないことを祈ろう。
中に入っておじぃちゃんとおばぁちゃんに餡まんを渡す。
私の分は五条に上げた事を言うと二人とも半分にして片方をくれた。
「昔……此処によく来て遊んでいたんだが誘拐されかけてな」
「おばぁちゃんが?」
「名前ちゃんが、よ」
「私?」
覚えて無いんだが?
「覚えていないのも無理は無い。
幼稚園ぐらいの年齢だったからな」
「犯人は近所に住むお兄さんだったんだけど……いつもはとても優しい子でね。そんな事するなんて思っていなくて」
「たまたまそこの学校の関係者が幼女を連れていく姿を見ていて、名前を探す息子達の姿にピンと来て警察に話し、すぐに救出出来たんだ」
「へぇ……」
まったく身に覚え無いんだが?
「近所の連中が騒ぎテレビまで押し掛けてな……あること無いことを騒ぎ立て犯人の家族は引っ越して行ったがしつこいメディアはお前の顔を世間に出そうとして息子が怒ったんだ」
「当然の事だけど……息子はほとぼりが冷めるまで私達の所には行かないと。
それから手紙や写真のやり取りはしていたんだけど息子も忙しいみたいでね。なかなか会えなくて」
「なるほど?」
そんな事情があったのか……。
まぁ、私美少女だからな。
誘拐されそうだな、と鏡見て自分で思ったがそんな過去あったのか。
まっっっったく記憶に無いけど。
「此処に住むのが嫌になっても仕方ないけど……」
「いや……むしろ急に引っ越して来ちゃったからおばぁちゃんやおじぃちゃん達の迷惑かな、と」
「そんな事ない」
「此処、駅から遠いでしょ?
名前ちゃんには不便をかけてしまうけど」
困った顔をしている二人。
あぁ、優しい人達だと思った。
「おじぃちゃん、おばぁちゃん」
まったく覚えてないから、私は恐怖すら感じていなかったのだろう。
地元の人の記憶には残っているかもしれないが、私覚えてないので。
なるほど。今後は近所の人に会ったら声掛けられる可能性あるって事か。
「これからよろしくお願いします」
私の言葉によろしく、と返してくれた二人。
五条のお陰でおじぃちゃんとおばぁちゃんと仲良くなるキッカケとなった。
めでたしめでたし………じゃ、ない。
「やぁ、吾朗さん。梅さん」
「来たぞ、ジジィ。バーさんいるー?」
「ジーさん呑むぞ」
「こんばーんわ!!お邪魔しまーっす!!」
「おやまぁ。皆よく来たねぇ」
「バーさんこれお土産」
「梅さん、私からも」
「あらあら!沢山ありがとうね」
「「帰れ!!」」
おじぃちゃんと声が合わさる。
傑と五条と硝子ちゃんと華ちゃんが来た。
傑は笑顔で米俵持っているし、五条は箱菓子とお酒の瓶がある。
華ちゃんは何か……高級そうな木箱に入った肉を何箱も持っていた。
米俵とか初めて見たんだが!?
「おじぃちゃん。いつもこうなの?」
「あぁ」
「名前、会いたかったよ」
「離れようか、傑」
「まさか梅さんと吾朗さんの孫が名前だったなんて」
「私も知らなかった」
「吾朗さん、お孫さんは私が責任を持つのでご安心ください」
「やらん」
「今度からお爺ちゃんって呼びますね」
「呼ぶな!!」
「名前。駅前までの道のりは毎朝迎えに行くから私に見送りさせておくれ」
傑に抱き締められていればおじぃちゃんの背後に鬼が見える。
面倒な事になる前に傑から離れておばぁちゃんの手伝いへ。
「ほら、傑離れて」
「………うん」
「? ご飯の用意するだけだよ」
「梅さんの邪魔しないようにね」
一瞬、おや?と思ったが傑はパッと離れた。
何事も無かったようにおじぃちゃんと茶の間に戻る傑。
大人数のご飯は賑やかだった。
こっそり飲み始めた硝子ちゃんがおじぃちゃんと飲み始めてしまい……おじぃちゃんを酔い潰した。
「おじぃちゃん……」
「吾朗さん、ほら布団行きますよ」
「ごめんね、傑くん。いつもいつも」
「こちらこそ硝子がすいません。飲酒も見逃してもらって」
「こんな偏屈おじいさんに付き合ってくれてありがとうね。
名前ちゃんが誘拐されたの……自分のせいだと思ってたから息子に来てくれとも言えなくて。
名前ちゃんと同じ年の皆が来てくれるようになっておじいさん嬉しそうでね」
「そういえば名前。私聞いてないけど」「私も誘拐されたって聞いたこと無い」
「嘘だろ」
傑ににっこり笑顔を向けられたが、私も覚えてないんだよ。
記憶が戻ったとしても幼稚園前後の記憶なんて薄い。
傑に嫌がらせした事実以外吹き飛んで覚えて無いんだよ。
「傑くんの彼女がまさか名前ちゃんだったとは思わなかったわ」
「私も梅さんのお孫さんが名前だったとは思いませんでした」
「名前ちゃんをよろしくね」
「梅さんや吾朗さんに心配かけないよう精進します」
おじぃちゃんを寝かせて傑と茶の間へ戻る。
おばぁちゃんは後片付けへ。
五条と硝子ちゃんと華ちゃんはまったり寛いでいた。
「私より寛いでるね」
「オマエより出入りしてっからな」
「今は誘拐犯いないけど近所とかで噂にならないの?」
「んー…引っ越ししてから近所の人に会ったこと無いんだ。
だけど今後は出歩いて気付く人は気付くだろうけど……正直どうでもいいかなぁ」
覚えていないこと聞かれてもなー。
「何にも覚えてないの?」
「まっったく」
「少しも?」
「傑の事に関しては覚えてるけど他の記憶はどーも薄くて」
「……そ、っか」
「ん?どうかした?」
口元に手を当て顔を背けた傑。
私にとっては重要な事だぞ。
「そーいえば誘拐犯から助けてくれたの傑の学校の人らしいけど」
「そうなのかい?」
「だからジジィ俺らの事受け入れ早いのか?」
「普通の高校生が寮母もいない寮で自炊ってなかなかないもんねぇ」
「あー、それ先生だと思う」
「「「「ん?」」」」
「夜蛾先生。私らがよく吾朗さん宅でご飯食べる話したら孫さんは元気か?って聞かれたから」
まさかの夜蛾先生!?
なんてこった……!!夜蛾ママは昔私のママだった!?
「世間は狭いね」
「ね……」
「そろそろ帰るか」
「梅さーん。お邪魔しました」
「梅さん!!また来るねぇ!」
ゾロゾロと動き出した三人。
おばぁちゃんが戻ってきて笑顔で手を振る。
「またおいで」
「またお世話になります。……名前、ちょっと」
「ん?」
「梅さん、遅くならないよう帰しますが名前を連れ出しても?」
「傑くんが一緒なら安心だわ」
「お孫さんお借りします」
傑に厚着させられ手を繋がれる。
少し肌寒さにそーいや五条からスヌード返ってきてない事を思い出す。
「首寒い?」
「少し。五条さんにスヌード貸しっぱなしだ」
「もしかしてフワフワの黒いの?」
「そう」
「悟が洗濯していたからそれかな?
悟にしては可愛いとおもたんだよね」
「この間送って貰った時に鼻垂らしていたから貸したの」
「あぁ、なるほど」
あっという間にコンビニに着いてなんとなく中に入る。
暖かいカフェラテとお茶を2人で選んでまた外へ。
暖かい飲み物をポケットに入れておけば少しマシだ。
「本当驚いたよ」
「私も。お父さん全然おじぃちゃん達の話なんてしなかったから」
「梅さんから少し聞いていたんだ。
吾朗さんと庭で遊んでいたが、少し目を離した隙に居なくなったって。
何事も無くその日の内に見付かったけど……噂を聞き付けたメディア関係者の対応が大変だったって」
「………そっか」
「目を離したせいだ、と今も自分を攻め続けているんだよ。だから口煩くなっても私達みたいな子供が夜出歩く事を快く思わなかったみたいでね。
最初の頃はよく怒鳴られた」
くすり、と笑っている傑。
「毎回怒鳴ってくれるのが最初は面倒だったけど……からかっている内に仲良くなって」
「何やってんの」
「梅さんから話聞いて、毎回ご飯ご馳走になっている内に……怒られる事って貴重だな、と思ったよ」
「夜蛾先生も怒るでしょ」
「悟はよく怒られるけど私はなかなかないよ」「悪いのに?」
「上手く生きてると言ってくれ。
……吾朗さんと梅さんにとっては、私も悟も硝子も華も名前と等しく同じ子供なんだよね。
子供扱いが面倒な時もあるし、煩わしい時もあるけど……心配して怒られるって悪い気はしないと思ってきたんだ」
どこか遠くを見ながら話す傑。
やっぱり何かあったんだろう。
「高専では私達は子供だが強さは大人より上だ。学生だろうと一人の術師として数えられる。
どんな内容の任務であろうと、ね」
「………」
「だから、吾朗さんと梅さんの所に居ると……ホッとするよ。
私達はひ弱ではないし普通とは違うと思う一方で、等しく同じように扱ってくれるんだ、って」
クスクスと笑う傑。
握った手を強く握ればこちらを見る。
「傑、何かあったでしょ」
「……何も無いさ」
「嘘つきな前髪してる」
「どんな前髪だい?」
「言いたくないならいいけど……言わないと辛いのも傑だよ」
何か、はあったらしい。
目を細めて笑おうとしているが……疲れたような、何かを諦めた顔に見えた。
「無理して笑わなくていいよ。胡散臭いから」
「酷いな」
「傑は大口開けて笑う方が可愛いもん」
「可愛いのかい?」
「そうやって無理に笑えばその笑顔が辛くなる時もあるんだから。
本当の笑い方、忘れちゃうよ」
傑に向かって両手を伸ばせば……大人しく私の首筋に頭をすり寄せてきた。
傑の頭を撫でて背中をポンポンする。
「……吾朗さんや梅さんの孫の事、どこか他人事のように聞いていたんだ」
「うん」
「それが名前だとわかった瞬間……肝が冷えたよ。
他人事だと平気で見逃せると思っていたのに……関わりがあるとわかった瞬間怖くなった」
ぎゅっ、と傑が抱き締める力を強める。
「もう大丈夫だと思っていたが……駄目だね。
諦めて、飲み込んで、気付かないフリをしていたのに気付いてしまうと今まで出来ていた事が出来そうに無くなる」
「例えば?」
「自分に関係の無い人が死んで救えなくても仕方ないと思っていた。
だけど……私の知らない所で繋がりがあって……救えなくても仕方ない、と思っていたら私は私の大切なものをいつか見落とし見捨ててしまうかもしれない」
え?大丈夫?これ大丈夫?
傑の呪詛師コースへの入り口じゃないよね?
さっきまで非呪術師のおじぃちゃんとおばぁちゃんに感謝していた口で呪詛師コースじゃないよね?
「救わなくちゃいけないものを仕方ないと諦めた時……。
いつか、私は名前も仕方ないと諦めてしまうんじゃないかと…」
「おーい、落ち着け」
落ち着け!!
傑の頭をよしよししながら抱き締めてついでにおでこにチュッチュしてやる。
弱ってんなーと思ったがどこに地雷あった?
「名前、私は……っ」
「はいはいはいはーい。おーちーつーけ」
「……怖かったんだ。他人事のように聞いていた話が名前だと知って。
私は名前と一緒に居るのが長いけど……こうやって知らない事もあるんだと身に染みたよ」
「そんな事言ったら私も傑の事で知らない事多いよ」
「そうかい?」
「いまだに傑が何で私にそんな好意向けられてるかわかんないし」
「は?そこは分かれよ」
「怖い怖い怖い」
しょんぼりしていたのにギュッどころかギリギリ締め上げられた。
中身が出る!!
「記憶に無いこと懺悔されてもなー。
傑の自己嫌悪を押し付けるような許して貰いたいだけの謝罪と懺悔ならいらないんだけど」
「……」
「私は無事だった。犯人は捕まった。おじぃちゃんとおばぁちゃんと仲良くなれた。
なのに傑が意味わからん後悔してしょんぼりされてもかなり……いや、結構うざいなーと」
「もっと他に言葉無いのかい?」
「傑は何を救いたいの?
目の前の人全て救うなんて神にでもなりたいの?怪しい宗教開いて夏油様ーって崇められたいの?」
「待て。どうしてそうなる」
「救えなかった人と関わりがある人の心配はする。けど赤の他人のそんなとこまで心を砕いて罪の意識を持たなきゃいけないなら傑には荷が重いよ。ヒーローに向いてない」
「………私は」
「ヒーローでも救えない時は救えない。
美談が毎回必ず起こるなんてあり得ない。
美談の裏にだって薄汚い実情があるんだから」
「めちゃくちゃだな」
「現実ってそんなもんでしょ。
……傑達は私の知らない所でいっぱい頑張っててさ……他の誰よりも人を助け、人を見捨て、人の終わりを見るんだと思ってる」
少しの。一瞬のミスと言えないような判断で生き死にが変わってくる。
何度も何度も心を砕かれ、直らないまま次のヒビが出来ていく。
粉々になっても……誰かが直してくれるなんて保証もないまままた次の闇。
「他者の事なんて二の次でいいよ。
傑は誰かの為に動く前に自分の為に動いてよ」
「でも私は強い。だから弱い者達を助けて…」
「自分を守れない奴が他人を守れると思ってんの?自惚れんな」
傑のおでこをベチベチ叩く。
「傑って見た目ゴツゴツなのに精神はやっぱ泣きべそだね」
「うるさい。私は名前が関わってると知ったから!!」
「終わった事だよ。記憶に無い事で傑が助けてくれなかった!なんて言って無いでしょ」
「だが……」
「私の記憶は傑との楽しくて愉快な記憶しかないよ」
「……恥ずかしくないのか?」
「何が?」
はぁぁぁ、と大きな溜め息の後クスクス笑い出す傑。
大丈夫?情緒不安定過ぎん?
「……まぁ、ちょっと?いやかなり?やらかしたせいでこんな性格に育ってしまったのかと思うと申し訳ないが」
「そうだね。私は名前に沢山の辱しめを受けたから責任取って貰わないと」
「うんまい棒でいい?」
「名前の旦那がいい」
「うちの旦那面倒臭ぇ」
笑いながら傑を抱き締める。
「帰りたくないな」
「それ普通私の台詞じゃないかな?」
「泊まっていい?」
「だが断る。まだ荷物完璧に片付いてない」
「じゃあ……今度はゆっくり」
耳元で色気たっぷりに話す傑。
思わず顔が赤くなる。
「……耳が孕んだ」
「可愛いね。名前のそういうとこ好きだよ」
「百戦錬磨め」
「失礼だな。女性関係は名前が初めての彼女だよ」
本日も私は無事に生き残っておりますが
近付いてしまったのでヤバさは悪化しました。
あとがき
近くに来ちゃいました。
そこ、ありきたりな設定言わない。私がよくわかっている。
高専の近場に絶対民家あるよね。
かなり離れていそうだけど(笑)
五条と夏油が近所のジジババに謎に好かれてて欲しい。
そんでアオハルするのに2ケツしたら絶対壊す。この二人ならやる。
そして夏油と共にお金出して自転車(全自動)のいいやつ贈られてジジババがお菓子や野菜渡すんだ。そんな平和な時間あってほしいけど、きっとそんな関係だったら離反してないんだよなー
「おばぁちゃん?」
「お父さんが急に海外にある会社勤務になっちゃったのよ」
「じゃあ私も海外行くよ」
「アンタ日本に残すのにおばぁちゃんに頼んだから大丈夫だって」
「いやいや、おばぁちゃん知らんし」
「あら?そうだったかしら?
とにかくおばぁちゃんとこ行って貰うから。来週から」
「来週!?」
突然決まった転校と引っ越し。
私の冬休みは潰れる様子です。
「って訳でそちらには居ませんでした」
『は?ふざけすぎ』
引っ越しでバタバタしていて、やっと荷解きを終え一息ついて携帯を見たら……なぜか電源が切れていた。充電をすると……恐ろしい数字が見えた。
着信 50件
メール 100件
何事!?と思っていたら電話が鳴る。
「もっしー?」
『今何処にいる?旅行に行くなんて一言も言って無かったよね』
「あぁ、引っ越したから」
『は?』
「今東京なんだー」
『は?』
「むしろ、今日から東京」
『ふざけてるなら今なら許す』
傑の低くなる声に昨日母から言われて急遽徹夜で荷造りをし、荷物を詰め込んだ一週間。
そしてつい先程荷解きが終わった事を告げた。
傑はいつも通りいきなり帰って私がいないので驚いて連絡したが繋がらなかったと。
『東京と言っても広いだろ……』
「広い。が、おばぁちゃん宅めっちゃ街中から外れてるの」
『へぇ』
「近所にコンビニあるだけマシだけど田舎かな?って思うくらい広い屋敷と山」
『……住所わかったら教えて。顔だすから』
「えー、別にいいよ」
茶の間でゴロゴロしていたらおばぁちゃんがお茶菓子とお茶用意してくれた。
おばぁちゃんは齢70になるが元気だ。
にこにこしていて穏やかなおばぁちゃんは隙あらばお菓子を差し入れしてくれる。
おじぃちゃんは無口でじっと此方を見てくるが特に何も言って来ない。嫌われてはいないと思うが……じっと見られていると緊張する。
お母さんに相談したら吹き出して笑われた。孫との関わり方がわからず機会をうかがっているだけだと言われたが……ムスッとした表情のじぃちゃんに関わるってめちゃくちゃレベル高くね?
りっちゃんと泣く泣く感動的に別れを告げ、連絡をかかさず取り合っているものの……。
新しい高校に不安を隠せないのも事実。
郊外なので自転車で高校に向かうことになるが……不安しかない。
大丈夫。私なら出来る。桐○さんに私はなる!
「傑は年越し実家?」
『いや、また高専に戻るよ』
「忙しいね」
『まぁ……任務は待ってくれないから』
「たまには家族と話してゆっくりしなよ。
なーんにも考えず家族の温かさに絆されなさい」
『そうだね』
持ち運びタイプの充電器に変えておばぁちゃんとおじぃちゃんにコンビニ行ってくると告げる。
ファースヌードをし、モコモコの上着を羽織る。
着いていくと言い出したおばぁちゃんだがすぐ戻ると約束したら渋々納得してくれた。
『一人歩きは危ないよ』
「いけるいける」
『いつも消極的なくせに何の自信だ』
「そんな夜遅くないから大丈夫だって」
コンビニに入って飲み物を手に取る。
おじぃちゃんとおばぁちゃんに餡まんを買おうとレジへ。
「餡まん3つお願いします」
包んで貰った餡まんを手に外へ出ようとしたら……黒い壁が。
通行の邪魔になるかと横へ避けたがなぜか目の前に。
んだよ、コイツ……と顔を上げた。
『名前?』
「オマエ何でここに居んの?」
「………うっわ」
五条が居た。
ポカンとする私と五条。
『悟の声?』
「傑は?実家行ったよな?」
「待て待て待て。どういう事だってばよ」
『は?何で悟が?』
「何で五条さんが?」
「だってここ高専の近くだし」
嘘だろ……!!!!
確かに?確かに東京にしては田舎だけどっ!!!
まさかそんな事ってある!?
「うわっ、餡まんねーじゃん」
「……じゃ」
「その袋の中身は?」
「ははっ、傑ったらそんな恥ずかしい事言えないよ。うんうん、今から帰るから」
「待てよ。シカトすんな」
「ちょっとやだー。どちら様ー?ナンパは受け付けて無いんですけどー」
横をすり抜けようとしたが肩を捕まれた。
チッ、と舌打ちしたが離してもらえなかった。
『名前?本当に悟か?』
「マジのガチな五条さんだわ。嘘だろ?こんな偶然あんの?」
『名前の親呪術関係者じゃないよね?』
「違う違う。え?って事はおじぃちゃんとおばぁちゃんは関係者って事?嘘だろ」
「高専からコンビニ離れてるから別に関係者では無いだろ」
たまたまだとしても凄い偶然。
これが夢の力!?都合良すぎじゃね?
『………へぇ』
「いや、違う。嘘だと言ってくれ。五条さんあれでしょ?任務でたまたま寄ったんだよね?そうだと言え」
「どう見ても部屋着だろ」
「クッソイケメン!!部屋着姿でもイケメンってなんだよ」
『まだ終電間に合うな』
「いい、来るな。実家でゆっくりしたまえ」
『母さん、父さん。学校から呼び出しされたから帰るよ。すまないね』
「帰って来るな!!」
ガタガタと電話で音がする。
ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。
近くに来たとわかったら傑は我が家のように出入りするだろう。やめてくれ。
おじぃちゃんにもおばぁちゃんにも可愛い孫が男連れ込むようなクソビッチだと思われたくないんだよ!!
「五条さんコンビニ来たんだよね?
さぁ、今退けたから今すぐ店内へどうぞ」
「傑、コイツ家まで送って家わかったら教えるからハーゲンダッツ買ってきて」
『わかったよ。ハーゲンダッツ箱で買ってきてやるか、絶対に家つきとめて』
「やだやだ。おじぃちゃんとおばぁちゃんにクソビッチだと思われたくない!!」
「餡まんくれたら考える」
「ほら!餡まんだよ!」
一個五条に手渡せば躊躇い無く食べた。
私の餡まん一個で傑に黙ってて貰えるなら安いもんだ!!
『悟、わかってるな』
「へーへー。しっかりお届けするっつの」
「来なくてよろしい」
『すぐ帰るよ』
ピッ、と切られた電話に頭を抱える。
何てこった。ふざけんな。
急に背筋がゾッとして冬の寒さを感じてしまう。なんてこった。風邪引くわ。
「で?何で此処にいんの?」
「口の端にあんこ付けてますよ」
「あんこ付けててもイケメンだから、俺」
キリッとした顔で見るな。惚れてまうやろ。
顔面がよろしいから無闇やたらとキメ顔すんでないよ。
「……家庭の事情で祖父母の家に引っ越して来たんですよ」
「離婚?」
「私の言い方が悪かったですね。両親が海外に転勤になったので置いていかれました」
「着いて行けば良かっただろ」
「最初はそのつもりだったみたいですが転勤先のアパートがクッソ狭かったらしくて。
家族三人は無理だって」
「前の家は?」
「母が定期的に帰っては来ますがどうしても長期にはなるのでその間一人暮らしは心配だと」
「そんなもん?」
「私がキッチンで一度小規模爆発させちゃったのが原因かと」
「何やったんだよ」
「電子レンジで卵爆発させました」
「あぁ。やるよな、アレ」
オマエもやったんか、五条。
どーーーしてもゆで卵の半熟が食べたくて、でもお湯沸かすの面倒でレンチンすりゃいいや!!と思ってやったらやらかした。
加熱時間の絶妙なタイミング間違えて卵は急に沸騰しボンッ。
それ以来母さんにはキッチンで料理する時は見張りをされるように。
「学校遠くね?」
「自転車爆走するんで」
「冬は止めとけ」
「雪積もってないから行けますって」
「凍ってる時のそこの坂やベーんだよ」
「……実体験ですか?」
「傑と2ケツしたら死ぬかと思った」
「馬鹿ですか」
ケラケラ笑っている五条はどれだけヤバかったかを力説している。自転車は壊れたらしい。笑ってるから危険性がいまいち伝わらないが……とりあえず自転車は冬の間止めておこうと思った。
「遠いけど歩くか……」
「じーさんとかに頼んで近場まで送って貰えば?」
「高齢者に運転させて何かあったら困るじゃん」
「駅まで遠いじゃん。ダッル」
「それにおじぃちゃんあんまり私と話してくれないし。いきなり預けられて迷惑してるだろうにそこまで頼めないよ」
「ふーん」
居心地が悪いわけじゃないが……会った記憶の無い祖父母の家は緊張する。
あまり人付き合いは積極的じゃないんだよ私。
心の中は明るいけど。
「あ、おじぃちゃん」
「ん?あれ?」
玄関前におじぃちゃんが立っていた。
キョロキョロして私を見るとホッと安心した顔を見せた後、隣の五条を見て顔をしわくちゃに顔を歪めた。
「コラクソガキ。
見る目はあるがうちの孫に手ェ出してただで済むと思うな」
「うっわ。ジジィの所の孫ってコイツ?
コレのどこが天使?俺の顔面見てから言えよ」
「鼻垂らした鬱陶しい顔しとるクソガキ顔だな」
「寒くて鼻赤くなってるだけだっつの。鼻なんか垂れてねーわ」
「五条さん垂れてるよ」
「まじ?」
ズズッ、と鼻をすする五条。
イケメンは鼻水さえ似合うんだな。
「おじぃちゃんと五条さん知り合い?」
「知り合いじゃねーし。いちいち口うっせージジィだよ」
「人ん家の自転車盗んで壊したろクソガキ」
「ちゃんと買って返したろ。新品で」
孫に浮かれて新品の自転車買ったんじゃなかったのか。
めっちゃ綺麗な自転車だなーと思ったら五条……傑も何してんだよ。
「孫と知り合いだったのか」
「傑の彼女。ばーちゃんにいつも相談してたろ」
「………認めん」
「傑今度から通うと思うぞ」
「認めん!!」
「ばーちゃんが傑と楽しそうに話してるからってヤキモチ妬かなくて済むじゃん」
「グッ!!」
「その代わり孫が傑とイチャイチャするけどな」
「認めん!!」
おじぃちゃんと五条が思ってた以上に仲良しなんだが?
何なの?どーゆー事だってばよ。
「うちの高専寮母とかいねーから飯は自炊なんだよ。だからコンビニで飯買ってたらこのジジィに目ェつけられた」
「若い頃からコンビニの洒落た飯ばっか食ってんじゃねぇ」
「で、ジジィが俺らに野菜やおにぎり持たせてくるようになって」
「米食え」
「作るの面倒な時はジジィに連絡してジジィの家で飯食ってる程度の仲」
「めちゃくちゃ仲良しじゃん」
しかもおじぃちゃん私より五条と話す方がイキイキしてるな?
私おじぃちゃんに嫌われていた?
「良かったな、ジジィ。死ぬまでに孫と暮らせて」
「五月蝿い」
「ジジィ息子と喧嘩してから里帰りしてくれなくなったって寂しん坊だったからな」
「………」
そうだったんだ。
お父さん穏やかなのに喧嘩なんかするんだ。
お母さんの親は早い内から病気で亡くなったと聞いていたが……。
「私おじぃちゃんとおばぁちゃん居るって今回初めて知ったもん」
「う"っ」
「お父さんからおじぃちゃん達の話聞いたこと無かったから今回驚いたな…」
「………」
「ちゃんと話せよジジィ。可愛い孫がジジィが怖い顔して話してくれねーって不安がってたぞ」
「五条さん!!」
「事実じゃん。ほら、さっさと中入れば」
しっしっ、と追い払う五条。
鼻の頭を赤くしているのでファースヌードを巻いてやる。
「うわ。やっすいファーだろこれ」
「暖かいから我慢しなよ」
コンビニだけの予定だったと思うが、わざわざ送って貰ったんだ。
鼻垂らしてるのにほっとけないわ。
「ありがとう、五条さん」
「おー」
「傑には言わないでね」
「傑よくここ来るぞ」
「引きこもる」
「精々頑張れ」
ぐしゃぐしゃと私の頭を撫で回してコンビニへと戻って行く。
あのスヌードに鼻水をつけられていないことを祈ろう。
中に入っておじぃちゃんとおばぁちゃんに餡まんを渡す。
私の分は五条に上げた事を言うと二人とも半分にして片方をくれた。
「昔……此処によく来て遊んでいたんだが誘拐されかけてな」
「おばぁちゃんが?」
「名前ちゃんが、よ」
「私?」
覚えて無いんだが?
「覚えていないのも無理は無い。
幼稚園ぐらいの年齢だったからな」
「犯人は近所に住むお兄さんだったんだけど……いつもはとても優しい子でね。そんな事するなんて思っていなくて」
「たまたまそこの学校の関係者が幼女を連れていく姿を見ていて、名前を探す息子達の姿にピンと来て警察に話し、すぐに救出出来たんだ」
「へぇ……」
まったく身に覚え無いんだが?
「近所の連中が騒ぎテレビまで押し掛けてな……あること無いことを騒ぎ立て犯人の家族は引っ越して行ったがしつこいメディアはお前の顔を世間に出そうとして息子が怒ったんだ」
「当然の事だけど……息子はほとぼりが冷めるまで私達の所には行かないと。
それから手紙や写真のやり取りはしていたんだけど息子も忙しいみたいでね。なかなか会えなくて」
「なるほど?」
そんな事情があったのか……。
まぁ、私美少女だからな。
誘拐されそうだな、と鏡見て自分で思ったがそんな過去あったのか。
まっっっったく記憶に無いけど。
「此処に住むのが嫌になっても仕方ないけど……」
「いや……むしろ急に引っ越して来ちゃったからおばぁちゃんやおじぃちゃん達の迷惑かな、と」
「そんな事ない」
「此処、駅から遠いでしょ?
名前ちゃんには不便をかけてしまうけど」
困った顔をしている二人。
あぁ、優しい人達だと思った。
「おじぃちゃん、おばぁちゃん」
まったく覚えてないから、私は恐怖すら感じていなかったのだろう。
地元の人の記憶には残っているかもしれないが、私覚えてないので。
なるほど。今後は近所の人に会ったら声掛けられる可能性あるって事か。
「これからよろしくお願いします」
私の言葉によろしく、と返してくれた二人。
五条のお陰でおじぃちゃんとおばぁちゃんと仲良くなるキッカケとなった。
めでたしめでたし………じゃ、ない。
「やぁ、吾朗さん。梅さん」
「来たぞ、ジジィ。バーさんいるー?」
「ジーさん呑むぞ」
「こんばーんわ!!お邪魔しまーっす!!」
「おやまぁ。皆よく来たねぇ」
「バーさんこれお土産」
「梅さん、私からも」
「あらあら!沢山ありがとうね」
「「帰れ!!」」
おじぃちゃんと声が合わさる。
傑と五条と硝子ちゃんと華ちゃんが来た。
傑は笑顔で米俵持っているし、五条は箱菓子とお酒の瓶がある。
華ちゃんは何か……高級そうな木箱に入った肉を何箱も持っていた。
米俵とか初めて見たんだが!?
「おじぃちゃん。いつもこうなの?」
「あぁ」
「名前、会いたかったよ」
「離れようか、傑」
「まさか梅さんと吾朗さんの孫が名前だったなんて」
「私も知らなかった」
「吾朗さん、お孫さんは私が責任を持つのでご安心ください」
「やらん」
「今度からお爺ちゃんって呼びますね」
「呼ぶな!!」
「名前。駅前までの道のりは毎朝迎えに行くから私に見送りさせておくれ」
傑に抱き締められていればおじぃちゃんの背後に鬼が見える。
面倒な事になる前に傑から離れておばぁちゃんの手伝いへ。
「ほら、傑離れて」
「………うん」
「? ご飯の用意するだけだよ」
「梅さんの邪魔しないようにね」
一瞬、おや?と思ったが傑はパッと離れた。
何事も無かったようにおじぃちゃんと茶の間に戻る傑。
大人数のご飯は賑やかだった。
こっそり飲み始めた硝子ちゃんがおじぃちゃんと飲み始めてしまい……おじぃちゃんを酔い潰した。
「おじぃちゃん……」
「吾朗さん、ほら布団行きますよ」
「ごめんね、傑くん。いつもいつも」
「こちらこそ硝子がすいません。飲酒も見逃してもらって」
「こんな偏屈おじいさんに付き合ってくれてありがとうね。
名前ちゃんが誘拐されたの……自分のせいだと思ってたから息子に来てくれとも言えなくて。
名前ちゃんと同じ年の皆が来てくれるようになっておじいさん嬉しそうでね」
「そういえば名前。私聞いてないけど」「私も誘拐されたって聞いたこと無い」
「嘘だろ」
傑ににっこり笑顔を向けられたが、私も覚えてないんだよ。
記憶が戻ったとしても幼稚園前後の記憶なんて薄い。
傑に嫌がらせした事実以外吹き飛んで覚えて無いんだよ。
「傑くんの彼女がまさか名前ちゃんだったとは思わなかったわ」
「私も梅さんのお孫さんが名前だったとは思いませんでした」
「名前ちゃんをよろしくね」
「梅さんや吾朗さんに心配かけないよう精進します」
おじぃちゃんを寝かせて傑と茶の間へ戻る。
おばぁちゃんは後片付けへ。
五条と硝子ちゃんと華ちゃんはまったり寛いでいた。
「私より寛いでるね」
「オマエより出入りしてっからな」
「今は誘拐犯いないけど近所とかで噂にならないの?」
「んー…引っ越ししてから近所の人に会ったこと無いんだ。
だけど今後は出歩いて気付く人は気付くだろうけど……正直どうでもいいかなぁ」
覚えていないこと聞かれてもなー。
「何にも覚えてないの?」
「まっったく」
「少しも?」
「傑の事に関しては覚えてるけど他の記憶はどーも薄くて」
「……そ、っか」
「ん?どうかした?」
口元に手を当て顔を背けた傑。
私にとっては重要な事だぞ。
「そーいえば誘拐犯から助けてくれたの傑の学校の人らしいけど」
「そうなのかい?」
「だからジジィ俺らの事受け入れ早いのか?」
「普通の高校生が寮母もいない寮で自炊ってなかなかないもんねぇ」
「あー、それ先生だと思う」
「「「「ん?」」」」
「夜蛾先生。私らがよく吾朗さん宅でご飯食べる話したら孫さんは元気か?って聞かれたから」
まさかの夜蛾先生!?
なんてこった……!!夜蛾ママは昔私のママだった!?
「世間は狭いね」
「ね……」
「そろそろ帰るか」
「梅さーん。お邪魔しました」
「梅さん!!また来るねぇ!」
ゾロゾロと動き出した三人。
おばぁちゃんが戻ってきて笑顔で手を振る。
「またおいで」
「またお世話になります。……名前、ちょっと」
「ん?」
「梅さん、遅くならないよう帰しますが名前を連れ出しても?」
「傑くんが一緒なら安心だわ」
「お孫さんお借りします」
傑に厚着させられ手を繋がれる。
少し肌寒さにそーいや五条からスヌード返ってきてない事を思い出す。
「首寒い?」
「少し。五条さんにスヌード貸しっぱなしだ」
「もしかしてフワフワの黒いの?」
「そう」
「悟が洗濯していたからそれかな?
悟にしては可愛いとおもたんだよね」
「この間送って貰った時に鼻垂らしていたから貸したの」
「あぁ、なるほど」
あっという間にコンビニに着いてなんとなく中に入る。
暖かいカフェラテとお茶を2人で選んでまた外へ。
暖かい飲み物をポケットに入れておけば少しマシだ。
「本当驚いたよ」
「私も。お父さん全然おじぃちゃん達の話なんてしなかったから」
「梅さんから少し聞いていたんだ。
吾朗さんと庭で遊んでいたが、少し目を離した隙に居なくなったって。
何事も無くその日の内に見付かったけど……噂を聞き付けたメディア関係者の対応が大変だったって」
「………そっか」
「目を離したせいだ、と今も自分を攻め続けているんだよ。だから口煩くなっても私達みたいな子供が夜出歩く事を快く思わなかったみたいでね。
最初の頃はよく怒鳴られた」
くすり、と笑っている傑。
「毎回怒鳴ってくれるのが最初は面倒だったけど……からかっている内に仲良くなって」
「何やってんの」
「梅さんから話聞いて、毎回ご飯ご馳走になっている内に……怒られる事って貴重だな、と思ったよ」
「夜蛾先生も怒るでしょ」
「悟はよく怒られるけど私はなかなかないよ」「悪いのに?」
「上手く生きてると言ってくれ。
……吾朗さんと梅さんにとっては、私も悟も硝子も華も名前と等しく同じ子供なんだよね。
子供扱いが面倒な時もあるし、煩わしい時もあるけど……心配して怒られるって悪い気はしないと思ってきたんだ」
どこか遠くを見ながら話す傑。
やっぱり何かあったんだろう。
「高専では私達は子供だが強さは大人より上だ。学生だろうと一人の術師として数えられる。
どんな内容の任務であろうと、ね」
「………」
「だから、吾朗さんと梅さんの所に居ると……ホッとするよ。
私達はひ弱ではないし普通とは違うと思う一方で、等しく同じように扱ってくれるんだ、って」
クスクスと笑う傑。
握った手を強く握ればこちらを見る。
「傑、何かあったでしょ」
「……何も無いさ」
「嘘つきな前髪してる」
「どんな前髪だい?」
「言いたくないならいいけど……言わないと辛いのも傑だよ」
何か、はあったらしい。
目を細めて笑おうとしているが……疲れたような、何かを諦めた顔に見えた。
「無理して笑わなくていいよ。胡散臭いから」
「酷いな」
「傑は大口開けて笑う方が可愛いもん」
「可愛いのかい?」
「そうやって無理に笑えばその笑顔が辛くなる時もあるんだから。
本当の笑い方、忘れちゃうよ」
傑に向かって両手を伸ばせば……大人しく私の首筋に頭をすり寄せてきた。
傑の頭を撫でて背中をポンポンする。
「……吾朗さんや梅さんの孫の事、どこか他人事のように聞いていたんだ」
「うん」
「それが名前だとわかった瞬間……肝が冷えたよ。
他人事だと平気で見逃せると思っていたのに……関わりがあるとわかった瞬間怖くなった」
ぎゅっ、と傑が抱き締める力を強める。
「もう大丈夫だと思っていたが……駄目だね。
諦めて、飲み込んで、気付かないフリをしていたのに気付いてしまうと今まで出来ていた事が出来そうに無くなる」
「例えば?」
「自分に関係の無い人が死んで救えなくても仕方ないと思っていた。
だけど……私の知らない所で繋がりがあって……救えなくても仕方ない、と思っていたら私は私の大切なものをいつか見落とし見捨ててしまうかもしれない」
え?大丈夫?これ大丈夫?
傑の呪詛師コースへの入り口じゃないよね?
さっきまで非呪術師のおじぃちゃんとおばぁちゃんに感謝していた口で呪詛師コースじゃないよね?
「救わなくちゃいけないものを仕方ないと諦めた時……。
いつか、私は名前も仕方ないと諦めてしまうんじゃないかと…」
「おーい、落ち着け」
落ち着け!!
傑の頭をよしよししながら抱き締めてついでにおでこにチュッチュしてやる。
弱ってんなーと思ったがどこに地雷あった?
「名前、私は……っ」
「はいはいはいはーい。おーちーつーけ」
「……怖かったんだ。他人事のように聞いていた話が名前だと知って。
私は名前と一緒に居るのが長いけど……こうやって知らない事もあるんだと身に染みたよ」
「そんな事言ったら私も傑の事で知らない事多いよ」
「そうかい?」
「いまだに傑が何で私にそんな好意向けられてるかわかんないし」
「は?そこは分かれよ」
「怖い怖い怖い」
しょんぼりしていたのにギュッどころかギリギリ締め上げられた。
中身が出る!!
「記憶に無いこと懺悔されてもなー。
傑の自己嫌悪を押し付けるような許して貰いたいだけの謝罪と懺悔ならいらないんだけど」
「……」
「私は無事だった。犯人は捕まった。おじぃちゃんとおばぁちゃんと仲良くなれた。
なのに傑が意味わからん後悔してしょんぼりされてもかなり……いや、結構うざいなーと」
「もっと他に言葉無いのかい?」
「傑は何を救いたいの?
目の前の人全て救うなんて神にでもなりたいの?怪しい宗教開いて夏油様ーって崇められたいの?」
「待て。どうしてそうなる」
「救えなかった人と関わりがある人の心配はする。けど赤の他人のそんなとこまで心を砕いて罪の意識を持たなきゃいけないなら傑には荷が重いよ。ヒーローに向いてない」
「………私は」
「ヒーローでも救えない時は救えない。
美談が毎回必ず起こるなんてあり得ない。
美談の裏にだって薄汚い実情があるんだから」
「めちゃくちゃだな」
「現実ってそんなもんでしょ。
……傑達は私の知らない所でいっぱい頑張っててさ……他の誰よりも人を助け、人を見捨て、人の終わりを見るんだと思ってる」
少しの。一瞬のミスと言えないような判断で生き死にが変わってくる。
何度も何度も心を砕かれ、直らないまま次のヒビが出来ていく。
粉々になっても……誰かが直してくれるなんて保証もないまままた次の闇。
「他者の事なんて二の次でいいよ。
傑は誰かの為に動く前に自分の為に動いてよ」
「でも私は強い。だから弱い者達を助けて…」
「自分を守れない奴が他人を守れると思ってんの?自惚れんな」
傑のおでこをベチベチ叩く。
「傑って見た目ゴツゴツなのに精神はやっぱ泣きべそだね」
「うるさい。私は名前が関わってると知ったから!!」
「終わった事だよ。記憶に無い事で傑が助けてくれなかった!なんて言って無いでしょ」
「だが……」
「私の記憶は傑との楽しくて愉快な記憶しかないよ」
「……恥ずかしくないのか?」
「何が?」
はぁぁぁ、と大きな溜め息の後クスクス笑い出す傑。
大丈夫?情緒不安定過ぎん?
「……まぁ、ちょっと?いやかなり?やらかしたせいでこんな性格に育ってしまったのかと思うと申し訳ないが」
「そうだね。私は名前に沢山の辱しめを受けたから責任取って貰わないと」
「うんまい棒でいい?」
「名前の旦那がいい」
「うちの旦那面倒臭ぇ」
笑いながら傑を抱き締める。
「帰りたくないな」
「それ普通私の台詞じゃないかな?」
「泊まっていい?」
「だが断る。まだ荷物完璧に片付いてない」
「じゃあ……今度はゆっくり」
耳元で色気たっぷりに話す傑。
思わず顔が赤くなる。
「……耳が孕んだ」
「可愛いね。名前のそういうとこ好きだよ」
「百戦錬磨め」
「失礼だな。女性関係は名前が初めての彼女だよ」
本日も私は無事に生き残っておりますが
近付いてしまったのでヤバさは悪化しました。
あとがき
近くに来ちゃいました。
そこ、ありきたりな設定言わない。私がよくわかっている。
高専の近場に絶対民家あるよね。
かなり離れていそうだけど(笑)
五条と夏油が近所のジジババに謎に好かれてて欲しい。
そんでアオハルするのに2ケツしたら絶対壊す。この二人ならやる。
そして夏油と共にお金出して自転車(全自動)のいいやつ贈られてジジババがお菓子や野菜渡すんだ。そんな平和な時間あってほしいけど、きっとそんな関係だったら離反してないんだよなー