通行人 番外編
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濃厚な甘くていい香りがする。
その匂いに包まれて自然と息が上がっていく。
クラクラするような香りに頭がおかしくなりそうだ。
「見つけた」
ギラギラと瞳に空を閉じ込めた男が舌舐めづりする。
興奮しているのであろう。
息を荒げて苦しそうに胸を上下し、何度も私の首筋に顔を埋めて呼吸する。
「甘い」
「……んっ」
「美味そう」
「やっ」
「喰いたい」
「あっ……」
「なぁ、お前の首……噛ませてよ」
妖艶で、ドロドロに欲で蕩けた瞳。
そして太腿に当たる男の象徴のソレ。
首輪などしていない首筋を舐めて……軽く歯を立てる男。
「オマエが欲しい」
耳元ではぁ……と色気たっぷりに囁かれたところで私は限界だった。
目の前のフワフワだがサラリとした白い髪に両腕を伸ばしてしっかりと頭を抱き締め……
「〜〜〜っ、ざけんな発情期!!」
なかなかいい筋肉をしているボディーに膝を叩き込み見事に決めた私。
少し離れた場所で同じ黒い制服の男女は吹き出して爆笑した。
この世には第2性というものがある。
「 男性 / 女性 」の他に「 アルファ / ベータ / オメガ 」という第2の性、3種類の性別がある。
まぁ、これは世界の常識なので皆も知識があるだろうから置いておこう。
知らない君はあれだ。
お医者さんから検査があるだろうから。
あと授業でも習うから。しっかり勉強してくれよな!
で、だ。
私はしがない平々凡々のβである。
なので、まぁ当たり障り無い毎日を楽しく友人と騒いでいた。
幼馴染はどちらもβ。
若干クロがαっぽさもあるがβである。
世の中にはβが突然αに〜やらβが突然Ωに〜って人々もいるらしいが、私達幼馴染は仲良しβ三兄弟みたいな感じで平々凡々過ごしてきた。
身の回りのαなんてそれはそれは珍しい個体ホイホイ身近にいるもんじゃないんですよ。
αもΩも選ばれしものなんですよ。
ここまではいいな?みんな、OKだな?
いつものごとく友達と某ファーストフード店で駄弁っていたら隣に来た明らかに人種の違う3人組。
なるほど、これがαの頂点か……と女友達達とほぅ、と息を溢してしまうほど魅入った。
それほどまでにαの影響力は凄まじい。
街灯に群がる蛾のごとく彼らに群がるβ達は見ていて驚くほどキショかった。
フラフラと行きそうだった女友達を引き留め往復ビンタをしたら逆に殴られた。
そんな私が珍しかったのだろう。
クスリ、と笑われ声をかけたのは私だ。
身の程知らずにαをナンパするβ。
私も結局は自分の性に逆らえず魅力的なαに魅了され、声を掛けられずにはいられたかったのだ。
そんなこんなでなぜか気に入られた私。
仲良くやっていると思っていたら何の気まぐれか……突然それは起こった。
αの頂点かよってくらいの美貌もフェロモンも身体も家柄も全てが完璧な男ーーー五条悟になぜか突然壁ドンされ言い寄られた。
それがつい先ほどの出来事である。
思わず膝を決めてしまったが、まぁ……仕方ないよね?うんうん。
「ところかまわずフェロモン撒き散らして発情期ですかコノヤロウ」
「うっせーよ!!オマエがいい匂い撒き散らしてるからだろ!!」
「あらやだ褒め言葉?」
「ちっっげーっつの!!!
オマエ本当にβ?絶対嘘だろ」
「馬鹿野郎。いくらアホだと言われてる私でも第2性が違ったら気付くわ」
何を言っているんだコイツは。
私がβじゃないなら何なんだよ?
輝かしい才能の持ち主であるαだとか?
「あ、やばい。
αの頂点に性別疑われてちょっと自分がαな気がしてきた」
「ナイナイ」
「キミからは何の才能も圧も感じられ無いから勘違いだと思うよ」
「美少女も前髪も酷くね?」
なーんて言ってた時もありました。
実際私は平々凡々なβだったし、Ω特有のヒートも無ければα特有のエリート体質でも無い。
性欲も普通だった。
「何で硝子も傑も普通にしてんだよ」
「だって何も感じないし」
「あらやだ。あちらのαさん歩く生殖体ですわよ」
「おやおや、気を付けなくては」
「抑制剤いるか?」
はぁはぁと息荒く興奮している白髪。
まじで発情期ですか?
白髪のフェロモンによってフラフラ引き寄せられてくる女や男。
「あぁ、くそっ!!オマエ本当臭い!!」
「人を異臭呼ばわりする前に抑制剤飲めば?」
「何でキミは平気なんだい?」
「アレだよ、アレ。
遺伝子が白髪のフェロモンを全スルーしてるのかと」
「「ぶはっっ!!!」」
「うるっせーーーよ!!!!」
だがしかし
先程にも言ったのだが……稀にβの性別が変わることがある。
それはその時じゃないとわからないし、人体の神秘なのでお医者さんもわかっていない。
稀にいる。
そう、絶滅危惧種が絶滅危惧種を産み出す超神秘な出来事………のはずだった。
「………っ、はぁ…っ」
息が辛い。
汗が身体に纏わり付く。
下半身が疼く。
全身が疼く。
意味がわからない。
その身体の現象に思考回路が追い付かない。
ただ頭の仲を支配するのはこの身体の疼きを止めてほしくて、圧倒的なαのフェロモンの匂うものが欲しくて堪らない。
手当たり次第匂いの濃いものを集めてしまう。
せっかく畳んだのに、とか
まだ洗濯していないのに、とか
色々考えることはあるけれど……とにかく不安で落ち着きたかった。
「ただぃ……は?」
ガサッ、と落とされた何かの音。
バタバタと慌ただしく走ってくる足音。
その勢いで開けられた寝室の扉。
「うわ……やば」
「さ、とるぅ」
甘ったるい声が嫌になる。
けれどこの疼きを止めてほしくて
この熱から解放されたくて
目の前のいい匂いのする愛しき"運命"に手を伸ばす。
その瞬間、ギラギラと瞳孔の開いた瞳を向けて荒々しく抱き締められて唇を噛まれながらキスされた。
「っはぁ、名前、名前っ!!
絶っ対孕ます」
その後はまぁ……はい。
約一週間。
色々と、その……ね?知識があるなら察して欲しい。
動けない身体に、全身に歯形と赤い咲き乱れる跡。
ヒリヒリなのか、ジンジンなのかわからないほど痛むうなじ。
精も根も尽き果てたとはまさしくこの事か……と下品な事を考えながら倒れる私にケラケラ笑いながら隣に座って私の腰を撫でる悟。
「ビックリしたよね。
帰って来たら彼女のヒート始まってるって」
「いや……そもそも私β…」
「んなわけないじゃん。
名前は僕の運命の番であるΩだよ」
「まっさかぁ」
「初めて会った時からすっげぇいい匂いだと思ってたけどβとか言われるし。
なかなかヒート来ないから本当にβだと思って離れたけど名前の匂いが忘れられなくて迎えに行って良かった」
「いやいや。まだ私Ωって決まったわけじゃ…」
「βでも好きな匂いと一緒に居られるならいいと思ってたけど、Ωだったなら納得」
「ねぇ?聞いてる?興奮し過ぎて人の話聞いて無くね?」
ペラペラと興奮気味に話す悟による予想。
曰く、私は元々Ωではあるが、なんの因果かΩとしての機能……つまり第2性の発育が著しく弱かった。なので第2性の性別判断ではβと言われ、今まで過ごしてきた。
実際Ωとしての機能が果たされていなければβと変わらない。Ωの機能が果たされていなければαとも番えない。
普通は遅くても10代にはくるヒートが来なかったのはよくわからないが……3ヶ月に一度、悟曰く微量ながらフェロモンは出ていたらしい。
優秀なαである悟だから気付いた……というよりも、私が悟の運命の番だから本能的に感じ取っていたという事らしい。
だから同じαでも硝子ちゃんや前髪は何も気にならなかった、と。
私はβだ!と言うにはあまりにも自信が無い。
一週間熱に浮かされ何度も噛まれ、何度も求めた。
食事も水分も自力で取れず、悟が合間合間に口移しで与えられた。
「腰も肩もうなじも全部痛い……」
「可哀想」
「これ絶対子供出来た」
「だろうね。僕も余裕無かったし」
ケタケタ笑い飛ばす悟に近くにあった枕を投げる。
ベッドにしずんで動けない私の背中に覆い被さるようにのし掛かってきた。
「お"も"い"」
「僕さ、結婚とか諸々興味なかったんだけど」
「?」
「家に自分以外の誰かいるって気持ち悪いし、自分の生活リズム崩されるって凄い腹立つじゃん?」
「おい、それ同棲してる彼女に言ったら駄目なやつ」
コイツ喧嘩売ってるのか?と拳を握りしめる。
だが後ろから体重かけられて抱きついてくる190cmオーバーをどうにかする気力も体力も無い。
「まぁ最後まで聞いてよ。
実際名前に逃げられたら僕絶対誰かと一緒に住むとか考えて無かったし、そもそも家から宛がわれた女と結婚して、外で愛人作りながらツマンナイ人生送るのかもなーって思ってたの」
「バチクソドクズな発言に引いたわ」
「だってさ、Ω宛がわれたらそうするしかなくない?
稀少なΩ宛がわれて、今後の呪術界の事考えたら少なくとも名家の人間として子孫は残さなきゃいけないし、Ωだからαとして大切にしなきゃいけないし」
「ねぇ、まじで私何聞かされてんの?」
そろそろ腹立ってきたぞ?
つまり悟は家から用意されているΩと子孫残しながら浮気して………オイオイちょっ、待てよ!!
この場合私浮気相手じゃないか!!!
「…………」
「あれ?名前?泣いてる?」
「おまっ…!!本妻のΩいるのになんって事してんの!?
Ωがαに捨てられたらっ!」
「うん。大変だよね」
「オマっ!!」
「勘違いしているっぽいけど家からのΩには指一本触れてないよ」
「はぁん!?」
「いや、どこでキレてんの?
そこは喜ぶとこでしょ」
ニヤニヤ笑いながら私の手に指を滑らせる。
もう片方はお腹へ。
「運命の番なんて夢物語だし、実際に好きになった子はβだし。
結婚とか子供とかなーんも考えて無かったんだけど……
名前といたら楽しいだろうなーって思うようになったんだよね」
「………へぇ」
「照れてる?」
照れるよ。
そりゃ照れるよっ!!!
「……私だから、結婚考えてくれるってこと?」
「そう。
Ωだったのは結果的にラッキーって話」
だから、結婚しよう?
そう言いながらいつの間に嵌めたのか……左手の薬指にはシンプルな指輪が。
「………うわっ、キザッ」
「やめてくれる?折角の雰囲気台無しじゃん」
「ヒート終わってうなじ噛まれて番にされた後にいい感じのそれっぽい雰囲気出されてもねぇ?」
「正論やめてよ」
「いいよ」
悟と向き合って首に腕を回す。
「ドクズなプロポーズ引き受けてあげる」
「もーちょい喜ぶとこじゃない?」
「喜んでるよ」
βでいつ捨てられるかわからないより、悟の唯一無二の番になれた喜び。
「ただのΩより、運命の番なら捨てられる心配しなくていいって事でしょ?
そんなん嬉しくないわけ無いじゃん」
「捨てるわけないだろ」
「……うわ、顔赤い。照れてるの?」
耳が真っ赤な悟。
クスクス笑って頭を撫でると人の胸に顔を埋めてくる。
「何々?カッコつけてプロポーズ決めようとしてたの?」
「………うるさい」
「結果クソダサイプロポーズになってんね」
「うるさいよ」
うわぁぁああああ、なんて人の胸で叫ぶな。
「硝子ちゃんに教えてやろ。
カッコつけようとしてバチクソドクズなプロポーズだったって」
「やめてよ」
「ニヤニヤしながらプロポーズいつしようか迷ってたぞって言われてたが、クソダサイ結果でしたって」
「硝子の野郎……」
この間ニヤニヤしながらネタばらしした硝子ちゃん。
まさか本当だとは思っておらず、ネタとして笑っていたが予想外にも酷かった。
「ばーか。名前のばーか」
「はいはい」
「笑うなばーか」
拗ねてしまった悟の頭を撫でる。
「いつ結婚するんですか?旦那さん(仮)」
「今すぐ」
「紙無いじゃん」
「……ある」
「あるの?」
「硝子から聞いてたんじゃないの?」
「そこまで準備万端だとは聞いてなかった」
指輪を今一度見てみる。
ニヤニヤと口元が緩む。
「へへっ」
「笑うなっつーの」
世の中のΩが幸せになれることは少ない。
稀少性から本人の意思とは関係なく番とされ、捨てられてしまい命を落とす者も少なくない。
「出来る限り幸せにするから結婚して」
「はははっ!いーよ」
そんな中、偶然とはいえ好きな人の番となれた私は幸せ者なのだろう。
どうかこの幸せが……
少しでも長続きしますように、と願いながら。
今日も私達は笑って生きる。
あとがき
やってしまったオメガバースパロ。
色々と地雷あるだろうけど、やってみた。
ちなみにそこまでオメガバースに詳しくはありませんが、美味しいですよね、モグモグwww
通行人らしさまったくありませんが、オメガバース世界ならば結婚は早そうだし、通行人は特殊ケース間違いなし。
αの威嚇とかそういうの全く関係ねぇ!!とαを脅かしそうなβを書きたかったんですが、無理でした。
コイツ、βのくせに何なんだ…!!っての書きたかったはずなのに、いつの間にやらただのラブラブでした。
おかしい……。
その匂いに包まれて自然と息が上がっていく。
クラクラするような香りに頭がおかしくなりそうだ。
「見つけた」
ギラギラと瞳に空を閉じ込めた男が舌舐めづりする。
興奮しているのであろう。
息を荒げて苦しそうに胸を上下し、何度も私の首筋に顔を埋めて呼吸する。
「甘い」
「……んっ」
「美味そう」
「やっ」
「喰いたい」
「あっ……」
「なぁ、お前の首……噛ませてよ」
妖艶で、ドロドロに欲で蕩けた瞳。
そして太腿に当たる男の象徴のソレ。
首輪などしていない首筋を舐めて……軽く歯を立てる男。
「オマエが欲しい」
耳元ではぁ……と色気たっぷりに囁かれたところで私は限界だった。
目の前のフワフワだがサラリとした白い髪に両腕を伸ばしてしっかりと頭を抱き締め……
「〜〜〜っ、ざけんな発情期!!」
なかなかいい筋肉をしているボディーに膝を叩き込み見事に決めた私。
少し離れた場所で同じ黒い制服の男女は吹き出して爆笑した。
この世には第2性というものがある。
「 男性 / 女性 」の他に「 アルファ / ベータ / オメガ 」という第2の性、3種類の性別がある。
まぁ、これは世界の常識なので皆も知識があるだろうから置いておこう。
知らない君はあれだ。
お医者さんから検査があるだろうから。
あと授業でも習うから。しっかり勉強してくれよな!
で、だ。
私はしがない平々凡々のβである。
なので、まぁ当たり障り無い毎日を楽しく友人と騒いでいた。
幼馴染はどちらもβ。
若干クロがαっぽさもあるがβである。
世の中にはβが突然αに〜やらβが突然Ωに〜って人々もいるらしいが、私達幼馴染は仲良しβ三兄弟みたいな感じで平々凡々過ごしてきた。
身の回りのαなんてそれはそれは珍しい個体ホイホイ身近にいるもんじゃないんですよ。
αもΩも選ばれしものなんですよ。
ここまではいいな?みんな、OKだな?
いつものごとく友達と某ファーストフード店で駄弁っていたら隣に来た明らかに人種の違う3人組。
なるほど、これがαの頂点か……と女友達達とほぅ、と息を溢してしまうほど魅入った。
それほどまでにαの影響力は凄まじい。
街灯に群がる蛾のごとく彼らに群がるβ達は見ていて驚くほどキショかった。
フラフラと行きそうだった女友達を引き留め往復ビンタをしたら逆に殴られた。
そんな私が珍しかったのだろう。
クスリ、と笑われ声をかけたのは私だ。
身の程知らずにαをナンパするβ。
私も結局は自分の性に逆らえず魅力的なαに魅了され、声を掛けられずにはいられたかったのだ。
そんなこんなでなぜか気に入られた私。
仲良くやっていると思っていたら何の気まぐれか……突然それは起こった。
αの頂点かよってくらいの美貌もフェロモンも身体も家柄も全てが完璧な男ーーー五条悟になぜか突然壁ドンされ言い寄られた。
それがつい先ほどの出来事である。
思わず膝を決めてしまったが、まぁ……仕方ないよね?うんうん。
「ところかまわずフェロモン撒き散らして発情期ですかコノヤロウ」
「うっせーよ!!オマエがいい匂い撒き散らしてるからだろ!!」
「あらやだ褒め言葉?」
「ちっっげーっつの!!!
オマエ本当にβ?絶対嘘だろ」
「馬鹿野郎。いくらアホだと言われてる私でも第2性が違ったら気付くわ」
何を言っているんだコイツは。
私がβじゃないなら何なんだよ?
輝かしい才能の持ち主であるαだとか?
「あ、やばい。
αの頂点に性別疑われてちょっと自分がαな気がしてきた」
「ナイナイ」
「キミからは何の才能も圧も感じられ無いから勘違いだと思うよ」
「美少女も前髪も酷くね?」
なーんて言ってた時もありました。
実際私は平々凡々なβだったし、Ω特有のヒートも無ければα特有のエリート体質でも無い。
性欲も普通だった。
「何で硝子も傑も普通にしてんだよ」
「だって何も感じないし」
「あらやだ。あちらのαさん歩く生殖体ですわよ」
「おやおや、気を付けなくては」
「抑制剤いるか?」
はぁはぁと息荒く興奮している白髪。
まじで発情期ですか?
白髪のフェロモンによってフラフラ引き寄せられてくる女や男。
「あぁ、くそっ!!オマエ本当臭い!!」
「人を異臭呼ばわりする前に抑制剤飲めば?」
「何でキミは平気なんだい?」
「アレだよ、アレ。
遺伝子が白髪のフェロモンを全スルーしてるのかと」
「「ぶはっっ!!!」」
「うるっせーーーよ!!!!」
だがしかし
先程にも言ったのだが……稀にβの性別が変わることがある。
それはその時じゃないとわからないし、人体の神秘なのでお医者さんもわかっていない。
稀にいる。
そう、絶滅危惧種が絶滅危惧種を産み出す超神秘な出来事………のはずだった。
「………っ、はぁ…っ」
息が辛い。
汗が身体に纏わり付く。
下半身が疼く。
全身が疼く。
意味がわからない。
その身体の現象に思考回路が追い付かない。
ただ頭の仲を支配するのはこの身体の疼きを止めてほしくて、圧倒的なαのフェロモンの匂うものが欲しくて堪らない。
手当たり次第匂いの濃いものを集めてしまう。
せっかく畳んだのに、とか
まだ洗濯していないのに、とか
色々考えることはあるけれど……とにかく不安で落ち着きたかった。
「ただぃ……は?」
ガサッ、と落とされた何かの音。
バタバタと慌ただしく走ってくる足音。
その勢いで開けられた寝室の扉。
「うわ……やば」
「さ、とるぅ」
甘ったるい声が嫌になる。
けれどこの疼きを止めてほしくて
この熱から解放されたくて
目の前のいい匂いのする愛しき"運命"に手を伸ばす。
その瞬間、ギラギラと瞳孔の開いた瞳を向けて荒々しく抱き締められて唇を噛まれながらキスされた。
「っはぁ、名前、名前っ!!
絶っ対孕ます」
その後はまぁ……はい。
約一週間。
色々と、その……ね?知識があるなら察して欲しい。
動けない身体に、全身に歯形と赤い咲き乱れる跡。
ヒリヒリなのか、ジンジンなのかわからないほど痛むうなじ。
精も根も尽き果てたとはまさしくこの事か……と下品な事を考えながら倒れる私にケラケラ笑いながら隣に座って私の腰を撫でる悟。
「ビックリしたよね。
帰って来たら彼女のヒート始まってるって」
「いや……そもそも私β…」
「んなわけないじゃん。
名前は僕の運命の番であるΩだよ」
「まっさかぁ」
「初めて会った時からすっげぇいい匂いだと思ってたけどβとか言われるし。
なかなかヒート来ないから本当にβだと思って離れたけど名前の匂いが忘れられなくて迎えに行って良かった」
「いやいや。まだ私Ωって決まったわけじゃ…」
「βでも好きな匂いと一緒に居られるならいいと思ってたけど、Ωだったなら納得」
「ねぇ?聞いてる?興奮し過ぎて人の話聞いて無くね?」
ペラペラと興奮気味に話す悟による予想。
曰く、私は元々Ωではあるが、なんの因果かΩとしての機能……つまり第2性の発育が著しく弱かった。なので第2性の性別判断ではβと言われ、今まで過ごしてきた。
実際Ωとしての機能が果たされていなければβと変わらない。Ωの機能が果たされていなければαとも番えない。
普通は遅くても10代にはくるヒートが来なかったのはよくわからないが……3ヶ月に一度、悟曰く微量ながらフェロモンは出ていたらしい。
優秀なαである悟だから気付いた……というよりも、私が悟の運命の番だから本能的に感じ取っていたという事らしい。
だから同じαでも硝子ちゃんや前髪は何も気にならなかった、と。
私はβだ!と言うにはあまりにも自信が無い。
一週間熱に浮かされ何度も噛まれ、何度も求めた。
食事も水分も自力で取れず、悟が合間合間に口移しで与えられた。
「腰も肩もうなじも全部痛い……」
「可哀想」
「これ絶対子供出来た」
「だろうね。僕も余裕無かったし」
ケタケタ笑い飛ばす悟に近くにあった枕を投げる。
ベッドにしずんで動けない私の背中に覆い被さるようにのし掛かってきた。
「お"も"い"」
「僕さ、結婚とか諸々興味なかったんだけど」
「?」
「家に自分以外の誰かいるって気持ち悪いし、自分の生活リズム崩されるって凄い腹立つじゃん?」
「おい、それ同棲してる彼女に言ったら駄目なやつ」
コイツ喧嘩売ってるのか?と拳を握りしめる。
だが後ろから体重かけられて抱きついてくる190cmオーバーをどうにかする気力も体力も無い。
「まぁ最後まで聞いてよ。
実際名前に逃げられたら僕絶対誰かと一緒に住むとか考えて無かったし、そもそも家から宛がわれた女と結婚して、外で愛人作りながらツマンナイ人生送るのかもなーって思ってたの」
「バチクソドクズな発言に引いたわ」
「だってさ、Ω宛がわれたらそうするしかなくない?
稀少なΩ宛がわれて、今後の呪術界の事考えたら少なくとも名家の人間として子孫は残さなきゃいけないし、Ωだからαとして大切にしなきゃいけないし」
「ねぇ、まじで私何聞かされてんの?」
そろそろ腹立ってきたぞ?
つまり悟は家から用意されているΩと子孫残しながら浮気して………オイオイちょっ、待てよ!!
この場合私浮気相手じゃないか!!!
「…………」
「あれ?名前?泣いてる?」
「おまっ…!!本妻のΩいるのになんって事してんの!?
Ωがαに捨てられたらっ!」
「うん。大変だよね」
「オマっ!!」
「勘違いしているっぽいけど家からのΩには指一本触れてないよ」
「はぁん!?」
「いや、どこでキレてんの?
そこは喜ぶとこでしょ」
ニヤニヤ笑いながら私の手に指を滑らせる。
もう片方はお腹へ。
「運命の番なんて夢物語だし、実際に好きになった子はβだし。
結婚とか子供とかなーんも考えて無かったんだけど……
名前といたら楽しいだろうなーって思うようになったんだよね」
「………へぇ」
「照れてる?」
照れるよ。
そりゃ照れるよっ!!!
「……私だから、結婚考えてくれるってこと?」
「そう。
Ωだったのは結果的にラッキーって話」
だから、結婚しよう?
そう言いながらいつの間に嵌めたのか……左手の薬指にはシンプルな指輪が。
「………うわっ、キザッ」
「やめてくれる?折角の雰囲気台無しじゃん」
「ヒート終わってうなじ噛まれて番にされた後にいい感じのそれっぽい雰囲気出されてもねぇ?」
「正論やめてよ」
「いいよ」
悟と向き合って首に腕を回す。
「ドクズなプロポーズ引き受けてあげる」
「もーちょい喜ぶとこじゃない?」
「喜んでるよ」
βでいつ捨てられるかわからないより、悟の唯一無二の番になれた喜び。
「ただのΩより、運命の番なら捨てられる心配しなくていいって事でしょ?
そんなん嬉しくないわけ無いじゃん」
「捨てるわけないだろ」
「……うわ、顔赤い。照れてるの?」
耳が真っ赤な悟。
クスクス笑って頭を撫でると人の胸に顔を埋めてくる。
「何々?カッコつけてプロポーズ決めようとしてたの?」
「………うるさい」
「結果クソダサイプロポーズになってんね」
「うるさいよ」
うわぁぁああああ、なんて人の胸で叫ぶな。
「硝子ちゃんに教えてやろ。
カッコつけようとしてバチクソドクズなプロポーズだったって」
「やめてよ」
「ニヤニヤしながらプロポーズいつしようか迷ってたぞって言われてたが、クソダサイ結果でしたって」
「硝子の野郎……」
この間ニヤニヤしながらネタばらしした硝子ちゃん。
まさか本当だとは思っておらず、ネタとして笑っていたが予想外にも酷かった。
「ばーか。名前のばーか」
「はいはい」
「笑うなばーか」
拗ねてしまった悟の頭を撫でる。
「いつ結婚するんですか?旦那さん(仮)」
「今すぐ」
「紙無いじゃん」
「……ある」
「あるの?」
「硝子から聞いてたんじゃないの?」
「そこまで準備万端だとは聞いてなかった」
指輪を今一度見てみる。
ニヤニヤと口元が緩む。
「へへっ」
「笑うなっつーの」
世の中のΩが幸せになれることは少ない。
稀少性から本人の意思とは関係なく番とされ、捨てられてしまい命を落とす者も少なくない。
「出来る限り幸せにするから結婚して」
「はははっ!いーよ」
そんな中、偶然とはいえ好きな人の番となれた私は幸せ者なのだろう。
どうかこの幸せが……
少しでも長続きしますように、と願いながら。
今日も私達は笑って生きる。
あとがき
やってしまったオメガバースパロ。
色々と地雷あるだろうけど、やってみた。
ちなみにそこまでオメガバースに詳しくはありませんが、美味しいですよね、モグモグwww
通行人らしさまったくありませんが、オメガバース世界ならば結婚は早そうだし、通行人は特殊ケース間違いなし。
αの威嚇とかそういうの全く関係ねぇ!!とαを脅かしそうなβを書きたかったんですが、無理でした。
コイツ、βのくせに何なんだ…!!っての書きたかったはずなのに、いつの間にやらただのラブラブでした。
おかしい……。