呪縛
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「初めまして。私五条悟様の婚約者の理恵と申します」
目の前に現れたとても美人な方。
にこりと微笑み目の前に立つ。
「えっと……初めまして」
「……名前、行くよ」
「え?でも、硝子ちゃん……」
硝子ちゃんは嫌そうに表情を歪めている。
腕を引かれ足早に校舎の中へ入ろうとしているが、私は悟くんの婚約者だと言う人をこのまたほっといていいものかと考える。
「悟くんの婚約者様なら案内しなくては…」
「ほっとけ」
「あら?悟様の婚約者である私を放っておくだなんて酷いお人。
悟様から御学友に優しい女性がいると聞いておりましたが……どうやら私の勘違いだったようで」
硝子ちゃんが嫌そうに舌打ちをする。
どうしたんだろうと頭を傾げ、婚約者様を見る。
「悟くんに何か用事でしたか?」
「えぇ」
「悟くんと連絡取ればいいと思います」
「……悟様の手を煩わせたくありませんの」
「では補助監督の方に連絡いたしますので…」
「気の効かない方々ですのね」
はぁ、と目の前で大きなため息をつかれる。
隣の硝子ちゃんは話を聞く気は無いらしく、携帯をカコカコ弄り出した。
私は補助監督の人に連絡を入れて迎えを頼む。
「では、私達はこれで」
「は?」
「今補助監督さんが来てくださるので案内はその方に頼みました。
私達はこれから授業もありますので失礼させて頂きます」
「お待ちになって?私は貴女方に……」
「ごめんなさい。
貴女が本当に悟くんの婚約者様かどうかわかりかねますので、詳しい方に対応を任せました」
「私が悟様の婚約者の偽物だとでも?」
「そういうわけではありませんが……その」
「はっきり言ってくださらない?」
「貴女で今月5人目なので……」
そう、そうなのだ。
私と硝子ちゃんはなぜか今月……悟くんの婚約者だと名乗る女性達から罵倒されたり威圧されたりなどなど……とにかく不思議と対応に追われている。
「硝子、名前」
「傑くん!」
「遅い」
「ごめんごめん。少し厄介な事があってね……ほら、早く行こうか」
傑くんが来てくれてホッとする。
だがそう簡単には行かせてくれないのが自称婚約者様だ。
「酷い人達ね。
五条家の次期当主である悟様の婚約者である私を粗末に扱うなんて……金で買われた女の態度は違いますね。そうやって悟様にも図々しく媚を売って取り入ったのかしら?」
「「あ?」」
「硝子ちゃん、傑くん。
私は気にしていませんので早く行きましょう」
「恥知らずね」
二人の背を押し自称婚約者さんを置いていく。
二人な怒りがおさまらないらしく、眉間に深いシワを作っているまま教室へ。
「腹立つ」
「奇遇だね、硝子。私もだよ」
「不愉快だ」
「そろそろ堪忍袋の尾が切れそうだ」
教室でもイライラとした様子の二人に苦笑するしかない。
悟くんの婚約者様達はそれぞれ私を見に来ている。
婚約者を選ばない悟くんが禪院家の次期当主の婚約者から金で婚約者を買い取った……などなど噂が尾びれ胸びれ背びれまでついてすいすい泳いでいる。
結果、五条家の悟くんの婚約者様……ではなく、婚約者候補の方々が値踏みしにやってきているのだ。
「五条をブッ潰そう」
「硝子、協力するよ」
「落ち着いてください……お二人とも」
「名前こそ随分落ち着いているね」
「私もそう思った」
硝子ちゃんと傑くんは一度怒りを鎮めて珍しそうにこちらを見てる。
「多分ですが直哉様のおかげかと」
「「?」」
「基本的には屋敷の人にあまり相手にされていませんでしたが、私を目障りだと思う方々は居たんですよ」
「「ん"?」」
硝子ちゃんと傑くんが笑顔で固まった。
私はそれに気付かず話続ける。
「次期当主候補の正妻は何も出来ないお飾り妻という扱いが基本でしたから」
「基本?」
「他にもいた直哉様の許嫁候補の方々が時折挨拶に来てはクスクス笑って嫌みの一つ二つは当たり前でしたし」
「当たり前…?」
「その内使用人の方々を買収し、影でこそこそ嫌がらせが始まりまして」
「「うわ……」」
「時には見知らぬ男の夜這いを仕掛けに来られていたのは驚きました」
「は?婚約者に女が夜這いじゃなくて?」
「直哉様の所にも行っていたのかもしれませんが、基本的に直哉様は私と同じ寝所でしたから」
「「…………」」
「結婚前に不徳をいたした、という事実があればどんな理由や状況であろうと追い出す理由になりますから」
硝子ちゃんと傑くんの表情が抜け落ちていく。
二人に心配をかけまいと、慌てて明るく訂正した。
「直哉様が酷くなる前に嫌がらせの対処をしてくださったり、夜に来た方々は直哉様が手を下していたようなので!!」
「そこじゃない……そこじゃないんだよ、名前」
「御三家やベー」
「まぁ、買収された方々がいなくても事実私は使い物にならなかったので出来る限り迷惑にならないよう過ごしていました」
傑くんからは頭を撫でられ、硝子ちゃんは抱きついてくる。
二人共どうしたのだろうと頭を傾げた時だった。
「あ"〜っ!!面倒臭ェっ!!」
ドスドスと足音が聞こえてきそうな程大股で歩いてきた悟くん。
眉間にシワを寄せ、明らかに機嫌が悪そうだ。
ガタンっ、と荒々しく椅子に座り舌打ちをしている。
ここまで機嫌が悪いだなんてどうしたのか……と本人に聞く前にカラカラと開いた教室のドア。
「悟様、まだお話は終わっておりません」
「こんなとこまで……っ、うっぜーんだよ!!」
「照れなくてもよろしいかと?
……あぁ、そこにいる可哀想な売れ残りの方を思ってでしょうか?」
突然教室まで押し掛けて来てまで、私を嘲笑うタイプは初めてで驚いた。
「お優しい悟様。
ですがそのような使用済みの玩具ばかりではなく私にもお相手をお願いしたいところですわ」
「……今、何つった?」
「悟様、遊び程度にしてくださいね?
玩具との間のお子は玩具様が惨めな思いをするだけですわ」
クスリ、クスリ。
禪院家でも向けられた人を馬鹿にし、下に見ている目だ。
だが私にはそれよりも恐ろしく冷たい目をした悟くんの方が気になった。
「悟」
「……止めんなよ傑」
「息の根止まってなけりゃ金額次第では治してやるけど?」
「誰が出すんだい?硝子」
「隠蔽するなら五条家でするわ」
物騒な会話が聞こえてくる。
さて、どうしたものかと婚約者様を見れば一瞬だけ表情を歪めた。
おや?と思って頭を傾げる。
どこかで見たことがある気がする。
先ほどは一瞬だけであまり顔を見ないようにしていたが、どこかで……。
「本当図太くいらっしゃるのね。
ご両親の育ちの悪さが滲み出ておりますわ」
「あっ」
思い出した。
と、同時に婚約者様の真横と足元が抉れる。
「「「今、何つった?」」」
「ひっ!!」
腰を抜かした婚約者様。
真顔でその人を見下ろす三人。
「たかが婚約者候補がいい気になってんじゃねーよ」
「で、ですが私はっ!!悟様の正式な!!」
「俺が良しとしてないのに正式もクソもねぇよ」
「っ、夜だって共にっ」
「あー、そうだっけ?
数ある相手の顔なんか覚えてねーよ」
どんどんと青ざめていく婚約者様。
悟様くらいになればそれこそ正室だけじゃなく側室だって宛がわれるだろうし、次代の為にと行為を勧められるのはわかる。
直哉様も例外ではなく、夜違う匂いを纏わせてくる事は良くあった。
多分、そういう事なのだろう。
「悟、きちんと避妊してるのかい?」
「してるっつの。
なんなら途中から気持ち悪くて相手なんかしてねーし」
「ならいいけど……どうでもいい相手との子供なんて面倒だからね」
「まじでオマエらクズだな」
硝子ちゃんがごみを見るように冷たい瞳を向けている。
「そ、んな……私は悟様をお慕いしてっ」
「あー、そんなのどーでもいいわ。
五条家から正式に通達すっからさっさと帰れよ」
「……っ」
しっしっ、と冷たい目をしながら追い払う動作をする悟くん。
傷付いた顔をして俯く婚約者様。
「な、んで……っ!!なんで、そいつばかりっ!!」
ギロリ、と睨まれ綺麗にした爪なども気にせず床に爪を立てる婚約者様。
「私の方が禪院家にも!!五条家にとっても役立てるのに!!」
「それが本性かよ」
「なのにお前達は揃いも揃ってそこにいるグズの子を選ぶっ!!
私の方が習い事も器用にこなせる!!
お家の役に立てるのにっ!!」
「名前、硝子下がって」
傑くんが私と硝子ちゃんの前に出てくれる。
しかし、婚約者様には私しか目にはいっていないらしい。
「お前のような出来損ないなんかよりも、当主の妻となるのは私の方が相応しいのに!!」
此方に向かって鋭い爪を向けながら手を振り上げる。
私は咄嗟に傑くんと悟くんの前に結界を張って防いだ。
顔を歪ませた婚約者様……いや、理恵様はフラリと立ち上がって此方を忌々しいとでも言うように睨み付ける。
「お前が居るからだ……お前が、居るからっ!!
私よりも何もかも下のくせにっ」
「警備員呼んだよ」
バタバタと駆け付けた警備員。
理恵様を掴もうとした途端、目をつり上げて警備員を叩く。
「私に触れるなっ!!私を誰だと思っているの!?」
「はぁ、うぜー」
「悟様……貴方がそのような出来損ないをお選びになるなんて、失望いたしましたわ!
直哉様といい悟様といい……次期当主様達は女を選ぶ目がございませんのね!!」
「……あ"?」
「次期当主達が揃いも揃って女を選ぶ才が無いなんて!!長年の歴史に傷をつける事になりましょう!」
「あの、理恵様」
「名前、近寄んな」
硝子ちゃんと傑くんが守ってくれているのをすり抜けて前へ出る。
悟くんに腕で制されたが……ここは、譲っちゃいけないと思った。
「理恵様は本当に悟くんを慕っているんですか?」
「当たり前の事を確認しに来たの?お飾り妻だったお前が嫌味の一つを言えるようになったのね!」
「……私には"当主の妻"を慕っているように聞こえました」
御三家の妻となる者は様々な重みがのし掛かる。
禪院家御当主である直毘人様の奥方様とお話した時……とても綺麗で強い方だと思った。優しく凛として寛大で……奥方として相応しき方だと。
下の者を蔑むわけでもなく、主人の不徳を必要なものと目をつむり、主人を支える為に己を押し殺しながらも先を見据える。
何度も心を殺し、家の中の者達を束ねる。
直毘人様を慕い、直毘人様を支えるお方。
「それが何!?何が悪いのよ!!」
警備員の掴む腕を振り払おうともがく。
「理恵様が慕うモノの違いに気付けぬ内は貴女の望む地位は掴めませんよ」
「何を……生意気なっ!!」
「直哉様や悟くんの事を慕えない人が当主の妻を望むなど烏滸がましい」
「お前なぞ……呪霊に食われてしまえっ!!」
ジタバタと暴れながら引きずられて行った理恵様。
やっと静かになった教室。
静かすぎる三人にどうしたのかと振り向けば、ポカンとした三人が。
「どうかしましたか?」
「……名前、凄いな」
「私も驚いた」
「?」
「名前みたいなのが当主の妻に相応しいのかもな」
ポカンとしながら話す硝子ちゃんと傑くん。
二人とも大袈裟だよ、と笑って一言も話さない悟くんを見る。
「悟くん?」
「………」
「あの、大丈夫ですか?」
じっとどこを見ているのかわからないが動かない悟くん。
「名前ほっときな」
「悟は今までに無い体験をしているんだよ」
「?」
クスクスはと笑う硝子ちゃんと傑くんの言っている意味がわからず頭を傾げる。
「悟の事は何とも思わなかったのかい?」
「悟くん?」
「名前、五条だけは止めておけ。
側室、愛人たんまりで浮気って何?って男だ」
「そうだよ。
名前は特別可愛がっているけどいざお嫁さんになった場合悲しむのは名前だ」
「こんな事言ってるコイツもやベーけど」
「硝子、今私の話ではないよ?」
「悟くんや直哉様は次期当主として多くの子を遺すのは義務なので」
「「…………」」
微妙な顔をした硝子ちゃんと傑くん。
まぁ、普通はこんな考えあり得ないだろう。
「それに悟くんにも選ぶ権利がありますので私じゃない素敵な方を選びますよ」
「……えーっと」
「私も次は素敵な人と結ばれるよう頑張らなくてはいけませんね。
……今は、皆さんと一緒の方が楽しいから、えっと…あまり、頑張れないですが」
「あー、可愛い」
「うちの子が可愛い」
大きなため息と共に硝子ちゃんと傑くんから撫でられる。
「……いやいやいや、ちょっと待て!!」
突然悟くんが、グワッと恐ろしい表情で此方を振り向く。
何事かと三人で驚いたが、足音を立てながら目の前に来た悟くん。
「オマエ……他に好き奴作るのかよ?」
「……出会いが、ありましたら?」
「俺は!?」
「悟くん?」
はて?と頭を傾げる。
真横にいた硝子ちゃんと傑くんが顔を背けて肩を震わせている。
「だから、俺!!俺との婚約!!」
「悟くんはお友達ですよ?」
「オトモダチ……」
「はい!私の初めてのお友達です!」
「「ぶふっ!!」」
「私……直哉様以外と関わる事を禁じられていたので、たまに会える悟くんと会えるのが嬉しかったんですよ」
「……アァ、ウン?」
「友達の癖に悟くんにお世話になりすぎて申し訳ないのですが……必ず、三億もお返し出来るように私強くなりますので!!
これからも三人にご迷惑おかけしますが……その、えっと……仲良くして貰えたら、と思って……」
言葉にすると友人に対して頼める事じゃないな、と思ってしまう。
これじゃあ手のかかる娘だ。
「名前は悟の娘か何かかな?」
「不出来な娘で申し訳ございません……」
「いや、私の娘だし」
「硝子ちゃん……!!
あ、でも私硝子ちゃんみたいな方とお付き合いしたいです」
「娶るわ。同姓結婚出来る国どこだっけ?」
「硝子、落ち着くんだ」
カコカコと真剣な顔で「同姓 結婚
国」と調べ始めた硝子ちゃん。
本当優しいなと思ってくっつけば、頭を撫でられた。
「………嘘だろ」
「お疲れ、悟」
「笑ってんじゃねーよ」
「驚いたよ。眼中に入って無い、初めてのお友達だったなんて」
「ああ"ん?」
クスクス笑いながら傑くんが悟くんの肩を叩いている。
悟くんの呪力が膨れ上がり……硝子ちゃんに手を引かれて教室から出る。
「傑、調子に乗んなよ」
「オトモダチが勝手にヤキモキしていてカッコ悪いな」
「表出ろ」
「出せるもんなら出してみなよ、オトモダチくん」
ドギャーンとあり得ない音がした。
何度も振り替えるが、硝子ちゃんに腕を引かれて歩く。
「あの、硝子ちゃん。
私何か変なこと言っちゃったかな?」
「ほっとけ」
遠くで夜蛾先生の怒声が聞こえた。
悟くんと傑くんのいつもの大騒ぎも落ち着いて、任務も何も無かった私達は悟くんの部屋でDVD観賞。
今日は傑くんチョイスでデ○ズニーだ。
映画の中では必ずプリンセスが不幸な思いをして最後はハッピーエンド。
「なぁ、傑」
「なんだい?」
「何でコイツら歌い出すの?」
「歌があった方が子供が観やすいだろ?」
「告白シーンで歌い出すとか怖くね?」
「リアルで考えるな。感じろ」
真顔で悟くんと傑くんが話していた。
男の子にはあまり気乗りしない内容だったのかな?と思って隣を見たら硝子ちゃんは寝ていた。
「次何見る?」
「激しい奴」
「硝子起きてたのかい?」
「半分」
一息つこう、とお菓子や飲み物に手をつける。
私は今もハッピーエンドだった先ほどの映画を思い返していた。
「名前は好きだったかい?ディ○ニー」
「面白かったです」
「そうかー?あんなの夢物語じゃん。
現実なんて出会った瞬間恋に落ちるとかねーし」
「確かに。だからこそ夢があるんだろう?」
誰もが憧れる運命の相手。
「現実はあんな綺麗に恋愛できるとは思わないけどね」
「ほら、傑もそう思うだろ?」
「呪術師である限り燃え上がる恋はしても、儚く散る可能性のが高いからね。
思い出としては残りやすいだろうけど」
「最悪な思い出だろ」
「そうかい?
死ねば美化されていい思い出になるんじゃないか?」
硝子ちゃんと悟くんが冷めた目を向ける。
色々な恋愛があるんだな、と思う。
「名前は?」
「ん?」
「どんな恋愛をしたい?」
こちらを見る硝子ちゃん。
どんな恋愛……と言っても、そもそも恋愛感情というものがよくわからない。
「どんな、と言われると難しいですね。
一緒に居て笑い合えて、くっ付く……?」
「うーん……それだと名前は私達全員と恋している事になるね」
「……お友達と恋人の差って何でしょう?」
「ドキドキして、苦しくなったり、嬉しくなったり。
その人の事ばかり考えてしまって他の人とは違うって想える事かな?」
「だとしたら悟くんはお友達じゃ無くなるんですよね」
「えっ?」
「お?」
「続けて?」
悟くんが驚き、硝子ちゃんが目を開き、傑くんがにこりと笑って続きを促す。
「私にとって悟くんは一番苦しかった時に世界を色付かせてくれました。
初めての友達で、いつも会いに来てくれる悟くんと会うのが楽しみで心の支えでした」
「へー」
「それで?」
「いつも私を助け出してくれる悟くんは、さっきのプリンスみたいな存在だな、と思って」
「…………」
「おや、悟。耳が赤いよ?」
「首も赤いぞ」
「うっせーよ……」
「でも、私が悟くんのプリンセスにはなれませんよ」
「「「は?」」」
何かおかしな事を言ってしまっただろうか?
くつろいでいたはずの三人がバッ、とこちらを見る。
「……何で?」
「えっと?」
「だから、何で?俺じゃダメなの」
「……えーっと…」
「何だよ」
「五条に不満があると」
「悟のクズさが嫌かい?」
「いえ!!そんな、悟くんみたいな凄い人と恋仲なんてそもそもあり得ないですよ!!」
「悟が好きだって言っても?」
「友人としてですよね?
悟くんが万が一、私と恋仲になったとしても……あ、もしもですよ?
そんな勘違いしてませんが、例えとして考えても……やっぱり、お家事情は付きまといますので……」
「嫌なのか?」
「私、自分の両親みたいに想い合って幸せな姿に憧れているので……
直哉様の時も思いましたが、側室や愛人や浮気みたいな事って考えられないです」
ガンっ、と悟くんがテーブルに顔を打ち付けていた。
「あの、本当……御三家の考え方を否定するわけじゃないですし、直哉様の時は我慢して耐えなきゃって思っていたので!
本当に個人的な我が儘でしかないんです……」
「いや、間違えてないだろ」
「うん。間違えてないよ」
「そうでしょうか?
人手不足の呪術界を考えると、私みたいな考えの方が異質ですよ」
その我が儘で今回迷惑をかけてしまったのだから。
「つまり名前にとって悟は恋愛対象にすらならないって事かな?」
「お友達をそんな目で見ませんよ?」
「嘘だろ……」
「ドンマイ、悟」
「ザマァ」
プルプル震える硝子ちゃんと傑くん。
悟くんはいきなり立ち上がるとフラフラしながらドアの方へ。
「悟くん?」
「……飲み物買ってくる」
バタンッ、と少し荒々しく出ていってしまった。
「ダッサ」
「カッコ悪いね」
「……やっぱり、私なんかが悟くんと付き合ったらなんて例え話嫌でしたよね」
悟くんの目の前で話すことでは無かったかな?と思うが、聞かれたら話すべきだろう。
「アレはアレで面白いからいいが……
名前はさ、我慢に慣れすぎ」
「硝子ちゃん?」
「好きなんだろ?五条の事」
硝子ちゃんの言葉に驚いて固まる。
傑くんも目を細めて笑う。
「私達も名前に意地悪な質問したね」
「えーっと……いつから?」
「見てればわかる」
「わりと初めからかな」
ぶわっと恥ずかしくなって顔を覆う。
友達に好きな人がバレていた。
何これ。恥ずかしい。
「正直……本当、わからないんですよ」
「何が?」
「……悟くんに助けられた事によって、周りの圧力から逃避したくて悟くんに依存していた所があるので。
私のこの気持ちは吊り橋効果のようなものなんじゃないかな?と」
「あぁ、なる程」
「確かに」
「さっきのプリンセスみたいに綺麗な感情なんかじゃないんです。
恋って、愛って……もっと素敵なものでしょう?」
恋をして綺麗になる。
恋をして傷付く。
恋をして成長する。
恋をして愛となる。
「私のこの感情は……恋なんかじゃ、ありません」
親を取られたくない子供みたいで
親から離れられない子供みたいで
あれが欲しい、これが欲しいと思うのに
手に入らないなら要らないと駄々をこねる。
「友達に抱くには物騒で
恋人に抱くには我が儘で
憧れを壊されたくない押し付けです」
ドロドロとしている。
ドキドキなんかより、ドクドクとうるさくて
楽しいとか、嬉しいとか、そんな感情で納まらない。
「少し特別扱いされて思い上がってるだけなんです。
悟くんだって初めましての印象が酷すぎて手放せないだけです。
これは、恋じゃない」
「なぁ、名前。
名前が五条の気持ちを決めつけるのはおかしいぞ」
「でも……雨の日にボロボロの子犬がいて保護した子犬に恋心を抱きますか?」
「確かに特殊な出会い方で恋か保護か迷うことはあるだろうが……
子犬を愛する気持ちを否定しないであげてくれ」
二人にそう言われるものの、私は自分に自信が無い。
そんな都合よく、考えて今の関係を壊したく無い。
「まぁ、御三家だからこそ面倒なのはわかるけどな」
「自分だけ見て欲しいが、お家事情を考えると難しい……か」
「直哉様のように悟くんと終わるなんて、嫌なんです。
悟くんとの縁が切れるくらいなら私は今のままがいい。
悟くんと終わるなら今度こそ私の世界は終わると思うので」
今でも時折世界が暗闇に飲まれる。
色を失くした世界は寒くて冷たい。
そこに悟くんが居るだけで華やぐ。
「これは恋でも愛でもありません。
呪い、です」
悟くんに触れるのは私だけ。
悟くんが微笑むのは私だけ。
悟くんが大切にしてくれるのは私だけ。
優越感を感じては自分を制する。
こんな感情持ってはいけない。
こんな重たくて酷く醜い感情が恋ならば……
どうして人は笑ってられるの?
どうして幸せだと言えるの?
「恋って、もっと……素敵なものでしょう?」
私が笑うと硝子ちゃんも傑くんも黙って撫でてくれた。
ポロポロと流れ落ちる涙がどんな意味なのかわからないフリをして、この気持ちに蓋をする。
「愛されたいと願いながら、愛するのが怖い、なんて変ですよね」
「……名前、前に私が話した事覚えてるかい?交流戦の時の」
「……はい」
傑くんが考える、傑くんの好き。
涙を流すなら悲しさではなく、嬉しさがいい。
いつでも相手に笑っていて貰いたい。
自身も一緒に笑っていたい。
好きだから触れたいし、触れて欲しい。
我が儘を言われたいし、自分からの我が儘を聞いて欲しい。
「名前にとっての幸せは悟との"友達"?
それとも……」
「……」
「難しい事考えんな」
「硝子ちゃん?」
「好きなら好きでいいだろ?
五条が結婚して既婚者なら問題あるが、アイツはまだ結婚してない」
「………そう、ですけど」
「嫌われている相手にその想いを押し付けるのは迷惑になるだろうが
名前はどう見ても好かれてるよ」
「デロデロにね」
「あんなクズ選ぶなって言いたいところだけど……名前にとっては違うだろ?」
チッ、と舌打ちする硝子ちゃん。
「名前を笑顔に出来たのは五条だ。
私や夏油はアイツが居たから名前と関われた」
「………硝子ちゃん」
「泣かされたら言え。
いつでも切り落としてやるから」
「まずは悟と話してごらん?」
ポンポン、と二人に背中を押される。
何から話せばいいのかわからないが……
部屋を出て、走り出した。
「世話が焼けるね」
「アンタはいいの?夏油」
ニヤリ、と笑う硝子。
夏油もニコリと笑って返す。
「子供達の背を押すのも親の役割だろ?」
「そういう事にしておくよ、夏油ママ」
「プリンセスを迎えに行くのはプリンスの役割だろ?
私は魔法使いでいいのさ」
「最近はプリンセスが迎えに行くのが多くなってきてるけどな」
「女性が社会に通用できる教訓だね」
「うちのプリンセスは無事にクズを迎えに行けるかな?」
「クズンスだからやらかす予感しかないよ」
外にある自販機の前。
悟くんはボーッとしながら缶コーヒーを飲んでいた。
「悟くん」
「どーした?」
思っていたより普通の悟くん。
改めてどうした、と聞かれてもどう答えていいかわからず飲み物を買いに来たと言うが、お財布すら持っていなかった。
どうしようかと自販機を見ながら悩むフリ。
考えも纏まらず勢いで出て来てしまったので、どう切り出していいかわからない。
「どれ?」
「……お水」
お財布を持っていないことを見抜かれたのか
後ろから小銭を入れて水を押してくれる。
ガコンッと落ちてきた水を取ろうとしゃがみ込めば、私に覆い被さるように後ろに温もりが。
「俺じゃ嫌?婚約者なんかになりたくねぇ?」
「………」
「知らない女よりも俺は名前がいい。
金の事は本当に気にしなくていいから」
「……悟くん」
「こっち見て」
ゆっくり振り向けば、近い距離に悟くんの顔があった。
真っ直ぐに悟くんを見つめる。
悟くんの手を取り、握り締める。
この手に守られた。
この手に慰められた。
その瞳に憧れた。
存在に助けられた。
「ありがとうございます」
「……なら」
「けれど婚約のお話……無しにしてください」
「何で」
「私……今までずっと与えられ続けてきました。
家族は勿論、直哉様にも、悟くんにも、傑くんや硝子ちゃんからも」
一人では何も出来ない私。
一人では何もしようとしない私。
そんな私に与えてくれる人達がいる。
私はそんな人達に少しでも必要とされたい。
「今の私じゃ駄目なんです。
弱くて、惨めで、駄目な私が……悟くんの優しさに甘えるのは間違っているんです」
「俺がいいって言っても?」
「その甘えに身を寄せたら……私は後悔します」
こんなことを言える立場じゃないとわかってる。
御三家の、五条家の次期当主である悟くんからの発言を私のような下位の家の者が断れる立場にいない。
「凄く、嬉しかったんです。
悟くんからお嫁さんに……って言われて」
きっと……私は悟くんを好きになれる。
いや、もう好きだ。
あの日……初めて出会った時からずっと。
「今の私じゃ、私が納得出来ないんです」
「何で?」
「……比べるのは失礼だと思います。
だけど、禪院家では本当に……役立たず、だったので」
「気にしないっつってるだろ」
「気にします!
私なんかを背負わないでください!」
可哀想だから?
心配だから?
手がかかるから?
「優しくされたら、勘違いするんです。
お友達で居たい……。悟くんに、呆れられていらないって言われるのが怖い……っ」
愛されたい。
愛したい。
好き。
大好き。
他の人を触らないで。
他の人を愛さないで。
他の人を好きにならないで。
「同情なんかで、背負われたく無いんですっ」
惨めな気持ちが消えない。
結局私は自分の弱い立場を使って悟くんに取り入ってしまっているという考えが残ってしまう。
「悟くんを失えば……私、私っ」
怖い。
自らの欲で、世界を壊すのが。
怖い。
直哉様を好きだと言いながら心の奥底では違う人を想っていたという自覚をするのが。
怖い。
我慢を制御出来ず欲で愛しき人を捕らえようとしている自分が。
「うるせーよ」
顔を捕まれふにっと柔らかな感覚が唇に。
同時に鼻先に当たる悟くんのサングラスが痛い。
「俺がいいっつってんのにごちゃごちゃうっせーわ」
「だって…」
「俺が名前を好きだから囲って何が悪ィの?
やっとあの野郎から引き離して、懐かせて、俺のもんにしたいのに……
禪院だとか、役立たずだとか、ごちゃごちゃうるせぇわ」
「……す、き?」
「好きだよ。
あの日、名前と初めて会ってからずっと」
「……嘘」
「気付いたのはわりと最近。
けど、多分……ずっと好きだった」
頬を赤く染めて頭を下げる悟くん。
悟くんの旋毛が見える。
同時に真っ赤になった耳も。
「側室も愛人もいらねぇ。浮気もしない」
「………」
「婚約者が嫌なら恋人からでいい。
金で買い取った形にはなってるけど……
たかが三億で名前を買っても気持ちが無いなら意味無いだろ」
「いや、大きいですよ?三億」
「俺にとっては安すぎる」
しゃがんだ膝に腕をのせて、ちらりと此方を見上げる悟くん。
「で、返事は?」
「へ?」
「告白したんだけど」
「……告白、でしたかね?」
「告白だろ。花束渡す?」
ブチブチとたまたま這えていたたんぽぽを渡してくる。
夜だから花は閉じ蕾となっている物を千切っては手に乗せてくる。
雑なその様子に思わず笑ってしまった。
「〜〜っ、た、ん……ぽぽっ」
「仕方ないだろ。花屋なんてこの時間やってねーし」
「ふふっ、悟くん……私の事好きだったんですか?」
「好きなんだよ。今も」
ブスッとしながら照れているのか、顔を逸らされる。
笑いが止まらなくて笑っていれば、大きな手で頭をぐしゃぐしゃにされる。
「笑いすぎ」
「だって……たんぽぽ…」
「虫ついてっかもな」
「え」
「引くなよ」
思わずじっとたんぽぽを眺めるが、虫はいなかった。
笑いも収まり改めて悟くんを見れば……じっと此方を見つめている。
「悟くん」
「ん?」
「悟くん」
「何」
「……好き、です」
初めて想いを乗せて言葉にすると、恥ずかしくて、でも胸にストンと落ち着いた。
ドロドロと醜い欲望が顔を出す。
「悟くんが好きで、私だけ特別扱いして欲しい」
「うん」
「悟くんとお出かけしたいし、引っ付きたい」
「いいよ」
「悟くんの全てを私だけの物にしたい。
視線も、温もりも、匂いも、全部っ」
「俺も名前の全部が欲しい」
「……好き、です。悟くんが、大好きです」
「俺のが大好きだし」
悟くんの大きな腕が背中に回る。
私も我慢出来ずに悟くんの首へと腕を回す。
「私を、悟くんの恋人にして下さい」
「婚約者じゃなくていいの?」
「……今は、もっと。お家事情とか無しで悟くんが欲しい」
「めちゃくちゃ興奮する殺し文句じゃん」
「……はしたない、ですか?」
「もっと求めて。
俺だけを見て、俺だけを欲しがって、俺だけを感じて。
逃す気無いから覚悟しとけよ」
「……はい。いっぱい、愛してください」
ジワジワと瞳に涙が浮かぶ。
近付いてくる悟くんの顔を押さえて、サングラスを取り上げる。
綺麗な綺麗なお星様が煌めく青空。
「目、閉じろ」
「勿体無いです」
「これからはいつでも見れる権利が名前だけにはあるけど?」
「……光栄です」
「いーから閉じろ。こっちが照れる」
悟くんでも恥ずかしくなるんだな、と一つ知れて嬉しくなる。
目を閉じればまた柔らかな感触。
何度も何度も押し付け合い、少し唇を開けると悟くんの舌が入ってきた。
いつの間にか頭の後ろを大きな手で捕まれていて、必死に舌を絡ませながら悟くんのシャツを掴む。
はぁ、とお互いの吐息が漏れて口を離すと
透明な糸で舌が繋がっていてプチリ、と切れた。
「……エロ」
「悟くんのエッチ」
「傑と硝子追い出すか」
「駄目です」
舌打ちされてしまったが、ヤります!って雰囲気は流石に遠慮したい。
悟くんが立ち上がると私の手を取って立たせてくれる。
「イチャイチャくらいは?」
「……引っ付くだけなら」
「次の映画俺の膝の上ね」
「ギュッてしててくれますか?」
「……やっぱ映画無しでアイツら追い出そ」
「駄目です。
寮は壁薄いので……薔薇の花びらが浮かぶお風呂あるところでお願いします」
「えー。そこは泡風呂だろ?一緒に入って遊べるじゃん」
「悟くんってエッチィ事ばっかですね」
「男の子だもん」
手を繋いで、二人で笑う。
沢山遠回りをして
まだ覚悟も足りない。
けれど
今ある幸せを大事にしたい。
「あれ?先生その人誰?」
「可愛い子ね……妹?」
悠仁に見られたスマホ画面。
あどけない寝顔で幸せそうに眠っている姿は何度見ても顔がニヤけてしまう。
野薔薇まで覗いてきて顔を歪めている。
「可愛いでしょ?」
「妹をスマホ画面にするってキモいわ」
「可愛いけど、先生犯罪臭いよ?」
「妹さんの将来に影響しかないから今すぐ妹離れしなさい」
「えー、無理。だって僕の愛しい子だもん」
「先生…」
「うわ……」
距離を置く二人に対し、ニヤニヤとしてしまう。
「五条先生、家入さんの所に……オマエら何してんだ?」
「「伏黒ぉ!!」」
ガラッ、と入ってきた恵に抱き付く野薔薇と悠仁。
鬱陶しそうに二人を引き剥がすのを笑って見る。
「伏黒、五条先生がヤバい!!」
「この人はいつもヤバいだろ」
「ロリコンよ!幼女趣味よ!!」
「何言ってんだ」
わーわーと説明になっていない説明をして恵のイライラゲージが上がっている。
恵の困る姿を楽しみながらも、さっき硝子のところに、と何か言いかけていた。
「恵、硝子が僕に何か用事?」
「来てましたよ」
「………は?」
「硝子さんは教えるなと言ってましたが、あの身体ですからね。
何かあったらアンタ気にする……」
言い終わる前に部屋から駆け出す。
僕に連絡無しで先に硝子の所に行くなんて……とモヤモヤしながら廊下を歩く。
「え?何?何よ」
「もしかして妹さん?」
「……虎杖、今すぐあの馬鹿止めなきゃ。
アイツに内緒で来てあんな慌てるなんて妹さんが危ないわ!!」
「五条先生早まらないでっ!!」
バタバタと走って行く釘崎と虎杖。
何となく察した伏黒だけが大きなため息をついた。
「デカくなったな」
「お腹苦しいんだ」
私のお腹を撫でる硝子ちゃん。
ポコポコと硝子ちゃんの手のひらを蹴り返す元気さに二人で笑う。
「体調は?」
「気持ち悪さも落ち着いたよ。
ただ、お腹蹴られると少し苦しいの」
「元気ならいい」
「ちょっとちょっと!!
愛しの僕を差し置いて内緒でイチャイチャしないでくれる?」
ガラッと開けられた扉。
不機嫌そうにやってきた悟くんに硝子ちゃんは舌打ちし、私は両手を伸ばす。
ぎゅっ、と抱き締めてくれた悟くんの頬に頬をすり寄せてキスを一つ。
「見た?僕の名前が最高に可愛い」
「見せ付けるな。うざい」
「名前、一人で来たの?」
「伊地知さんに送って貰ったよ」
「僕聞いてない」
「悟くんに内緒で来たかったの。
ずっと家に居ると体力落ちちゃうし、薨星宮の結界の様子も見たくて無理を頼んだの」
「結界は大丈夫だよ」
「うん。でも自分の目で見たくて」
ブスッとした顔の悟くんの頬を撫でる。
「悟くんにバレちゃったから一緒に行ってくれる?」
「行くに決まってるじゃん」
「ありがとう」
再び抱き付けば頭を撫でられる。
嬉しくてついその手にすり寄れば、ふと視界の隅に見えたのは黒い制服とカラフルな頭。
「あら?悟くんの生徒?」
「五条先生が……ロリコンっ」
「幼妻……!?」
「えーっと?」
「気にしないで下さい。五条先生にからかわれて妹か年下だと思ったみたいなので」
「……私そんな若く見える?」
「名前が可愛いのは今更だな」
「硝子ちゃんみたいな大人の女性を目指しているんだけどな」
「え、ヤだよ。硝子みたいなゴミを見る目をされたら僕のメンタルブレイクダンス決めるよ?」
「安心しろ。ゴミじゃなくクズを見る目だ」
悟くんの腕の中からひょっこりと覗いてお辞儀をする。
「初めまして。五条 名前です」
「……嘘よね?」
「現実を見ろよ」
「五条先生結婚してたの!?ちゃらんぽらんなのに!!?」
「悠仁、それどういう事?」
「だって先生すぐ適当な事言うから!!」
「大丈夫?貴女この馬鹿にお金で買い取られた?」
「あ、はい。昔」
「「!!?」」
「ちょっと語弊ありまくりだから。
ちゃんと僕らは恋愛結婚ですぅ」
「なんやかんやありましたが、めでたく悟くんのお嫁さんになりました」
「……伏黒、この人大丈夫?」
「騙されてない?」
「こっちでは名前さんはまともな大人にカウント出来るが、基本的ズレてっから。
だから五条先生と結婚してる」
「「なるほど」」
恵くんの説明になぜか納得されてしまった。
「ほら、恵達と楽しく話する前にやることやって安静にしてて」
「そうだね。
硝子ちゃん、恵くん。それにお二人もまた後で」
悟くんと手を繋いで医務室を後にする。
「……妊娠してたわね」
「もうすぐ臨月だからな」
「五条先生めちゃくちゃ溺愛してんね」
「溺愛どころか呪って縛っても足りないくらいの重い奴だよ」
「あの不誠実の塊が?」
「名前は特別だからね。
五条にとっても、私達にとっても」
「「「?」」」
「あまり関わらない方がいい。
五条に呪い殺されたくなかったらな」
くすり、と笑う家入に冗談だよね?と返せるものはいなかった。
「連絡くらいしてよ」
「ごめんね?悟くんが忙しくいなくなる前に少しでも会いたくて」
「連絡くれたらすぐ跳ぶ」
「ありがたいけど、仕事は仕事だから」
重たいお腹を支えながら歩くのは一苦労だ。
悟くんが腰に腕を回しながら歩いてくれるのが助かる。
「デカくなったね」
「うん。もう後少し」
「10月31日だっけ?」
「予定日はハロウィーンだよ」
結界の様子を見て、綻んでいる場所を直す。
天元様の結界とは別に私の結界を混ぜる。
「楽しみ」
「うん」
難しくない作業ではあるが、やはり疲れやすい身体は少し動いただけでしんどい。
ふぅ、と一息ついていれば悟くんがお腹を撫でていて、ポコポコと元気に悟くんの手を蹴り返している。
「元気だね」
「とっても」
ぐるんっ、と激しく動いているのがわかり悟くんもクスクス笑う。
「元気に産まれておいで。
キミが強くなるまで僕が守るから」
「"最強"のパパがいて嬉しいね」
「名前は決めた?」
「まだ」
「じゃあーーーーー」
幸せも、地獄も
何度も人生の中で繰り返す。
それは神様が与えた試練だと言った人がいた。
貴女なら乗り越えられるから与えられたものだと。
それを乗り越えた時、貴女はより多くの祝福を受けると。
10月31日 18:30
「ごめん。こんな時に付き添えなくて」
「……大丈夫。悟くんこそ、怪我しないでね」
「僕を誰だと思ってんの?」
「悟くん」
「なぁに?」
手を握り締めて、額につける。
「無事で帰って来て」
「名前こそ無事でいて。
戻って来たら可愛い僕らの子、見せてね。
いっぱいいっぱい褒めるし、キスして抱き締めるから。……頑張って」
「うん。頑張る」
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
不安が押し寄せるのは、いざ出産本番だからかな?
悟くんの後ろ姿を見送り、お腹と腰の痛みを息を吐いて逃す。
渋谷で大きな未登録の帳。
状況の理解が追い付かず悟くんへ応援の要請が来た。
最後まで渋っていたものの、緊急事態だと繰り返される呼び出しに重い腰を上げた。
「パパも頑張っているから、ママも頑張るね」
これから出会える愛し子に期待と不安。
10月31日 21:24 五条家長男誕生
産まれた我が子に愛しさと嬉しさで涙を流す一方で
この世で唯一無二の彼が封印されたと知ったのは数日後だった。
あとがき
出産時間は多分五条さんが封印された時刻はこれくらいかな?と思って。
25分に悠仁がナナミンコール手前。
26分には封印からの地面にドシャッだったので、23〜4分くらいかなーと。
予想なので、あてにしないでくださいww
一番長くなったのに、ほぼbad√。
悟くん……キミ、バッボーイ!!
続くように見せかけて、続きませんww
・幸せから地獄の名前ちゃん
見事に両思い。たんぽぽ可愛いね。
花言葉は「真心の愛」
愛が重いって?ヒント:母親
父親似だが、母親に全く似てないとは言っていない。例(ストーカー)の血が巡ってる。
失礼だな、純愛だよ。
11年の間に幸せと地獄を山あり谷ありしていたのに、幸せの愛し子を産んだ一方で地獄が始まっていたなんて……
この√に救いはあるの?
・幸せから缶詰めの悟くん
たんぽぽの花言葉は「別離」
後から知ってショック受けて花束渡した男。
しゅきしゅきだいしゅき!!!!
激おも感情で嫁に絡む奴は絶許。
特に京都の金髪。オマエは絶対許さない。
嫁たんの出産やぞ。フザケンナと激おこからの封印。
・遅れて登場直哉くん
えー、悟くんいないん?
しゃーないなぁ……お嫁たん保護しとかんと悟くんの居らん今、誰が支えるん?(いい笑顔)
アップを始めました。
・ニヤニヤしてる脳ミソ
おや?いい獲物がいるじゃないか。
アップを始めました
目の前に現れたとても美人な方。
にこりと微笑み目の前に立つ。
「えっと……初めまして」
「……名前、行くよ」
「え?でも、硝子ちゃん……」
硝子ちゃんは嫌そうに表情を歪めている。
腕を引かれ足早に校舎の中へ入ろうとしているが、私は悟くんの婚約者だと言う人をこのまたほっといていいものかと考える。
「悟くんの婚約者様なら案内しなくては…」
「ほっとけ」
「あら?悟様の婚約者である私を放っておくだなんて酷いお人。
悟様から御学友に優しい女性がいると聞いておりましたが……どうやら私の勘違いだったようで」
硝子ちゃんが嫌そうに舌打ちをする。
どうしたんだろうと頭を傾げ、婚約者様を見る。
「悟くんに何か用事でしたか?」
「えぇ」
「悟くんと連絡取ればいいと思います」
「……悟様の手を煩わせたくありませんの」
「では補助監督の方に連絡いたしますので…」
「気の効かない方々ですのね」
はぁ、と目の前で大きなため息をつかれる。
隣の硝子ちゃんは話を聞く気は無いらしく、携帯をカコカコ弄り出した。
私は補助監督の人に連絡を入れて迎えを頼む。
「では、私達はこれで」
「は?」
「今補助監督さんが来てくださるので案内はその方に頼みました。
私達はこれから授業もありますので失礼させて頂きます」
「お待ちになって?私は貴女方に……」
「ごめんなさい。
貴女が本当に悟くんの婚約者様かどうかわかりかねますので、詳しい方に対応を任せました」
「私が悟様の婚約者の偽物だとでも?」
「そういうわけではありませんが……その」
「はっきり言ってくださらない?」
「貴女で今月5人目なので……」
そう、そうなのだ。
私と硝子ちゃんはなぜか今月……悟くんの婚約者だと名乗る女性達から罵倒されたり威圧されたりなどなど……とにかく不思議と対応に追われている。
「硝子、名前」
「傑くん!」
「遅い」
「ごめんごめん。少し厄介な事があってね……ほら、早く行こうか」
傑くんが来てくれてホッとする。
だがそう簡単には行かせてくれないのが自称婚約者様だ。
「酷い人達ね。
五条家の次期当主である悟様の婚約者である私を粗末に扱うなんて……金で買われた女の態度は違いますね。そうやって悟様にも図々しく媚を売って取り入ったのかしら?」
「「あ?」」
「硝子ちゃん、傑くん。
私は気にしていませんので早く行きましょう」
「恥知らずね」
二人の背を押し自称婚約者さんを置いていく。
二人な怒りがおさまらないらしく、眉間に深いシワを作っているまま教室へ。
「腹立つ」
「奇遇だね、硝子。私もだよ」
「不愉快だ」
「そろそろ堪忍袋の尾が切れそうだ」
教室でもイライラとした様子の二人に苦笑するしかない。
悟くんの婚約者様達はそれぞれ私を見に来ている。
婚約者を選ばない悟くんが禪院家の次期当主の婚約者から金で婚約者を買い取った……などなど噂が尾びれ胸びれ背びれまでついてすいすい泳いでいる。
結果、五条家の悟くんの婚約者様……ではなく、婚約者候補の方々が値踏みしにやってきているのだ。
「五条をブッ潰そう」
「硝子、協力するよ」
「落ち着いてください……お二人とも」
「名前こそ随分落ち着いているね」
「私もそう思った」
硝子ちゃんと傑くんは一度怒りを鎮めて珍しそうにこちらを見てる。
「多分ですが直哉様のおかげかと」
「「?」」
「基本的には屋敷の人にあまり相手にされていませんでしたが、私を目障りだと思う方々は居たんですよ」
「「ん"?」」
硝子ちゃんと傑くんが笑顔で固まった。
私はそれに気付かず話続ける。
「次期当主候補の正妻は何も出来ないお飾り妻という扱いが基本でしたから」
「基本?」
「他にもいた直哉様の許嫁候補の方々が時折挨拶に来てはクスクス笑って嫌みの一つ二つは当たり前でしたし」
「当たり前…?」
「その内使用人の方々を買収し、影でこそこそ嫌がらせが始まりまして」
「「うわ……」」
「時には見知らぬ男の夜這いを仕掛けに来られていたのは驚きました」
「は?婚約者に女が夜這いじゃなくて?」
「直哉様の所にも行っていたのかもしれませんが、基本的に直哉様は私と同じ寝所でしたから」
「「…………」」
「結婚前に不徳をいたした、という事実があればどんな理由や状況であろうと追い出す理由になりますから」
硝子ちゃんと傑くんの表情が抜け落ちていく。
二人に心配をかけまいと、慌てて明るく訂正した。
「直哉様が酷くなる前に嫌がらせの対処をしてくださったり、夜に来た方々は直哉様が手を下していたようなので!!」
「そこじゃない……そこじゃないんだよ、名前」
「御三家やベー」
「まぁ、買収された方々がいなくても事実私は使い物にならなかったので出来る限り迷惑にならないよう過ごしていました」
傑くんからは頭を撫でられ、硝子ちゃんは抱きついてくる。
二人共どうしたのだろうと頭を傾げた時だった。
「あ"〜っ!!面倒臭ェっ!!」
ドスドスと足音が聞こえてきそうな程大股で歩いてきた悟くん。
眉間にシワを寄せ、明らかに機嫌が悪そうだ。
ガタンっ、と荒々しく椅子に座り舌打ちをしている。
ここまで機嫌が悪いだなんてどうしたのか……と本人に聞く前にカラカラと開いた教室のドア。
「悟様、まだお話は終わっておりません」
「こんなとこまで……っ、うっぜーんだよ!!」
「照れなくてもよろしいかと?
……あぁ、そこにいる可哀想な売れ残りの方を思ってでしょうか?」
突然教室まで押し掛けて来てまで、私を嘲笑うタイプは初めてで驚いた。
「お優しい悟様。
ですがそのような使用済みの玩具ばかりではなく私にもお相手をお願いしたいところですわ」
「……今、何つった?」
「悟様、遊び程度にしてくださいね?
玩具との間のお子は玩具様が惨めな思いをするだけですわ」
クスリ、クスリ。
禪院家でも向けられた人を馬鹿にし、下に見ている目だ。
だが私にはそれよりも恐ろしく冷たい目をした悟くんの方が気になった。
「悟」
「……止めんなよ傑」
「息の根止まってなけりゃ金額次第では治してやるけど?」
「誰が出すんだい?硝子」
「隠蔽するなら五条家でするわ」
物騒な会話が聞こえてくる。
さて、どうしたものかと婚約者様を見れば一瞬だけ表情を歪めた。
おや?と思って頭を傾げる。
どこかで見たことがある気がする。
先ほどは一瞬だけであまり顔を見ないようにしていたが、どこかで……。
「本当図太くいらっしゃるのね。
ご両親の育ちの悪さが滲み出ておりますわ」
「あっ」
思い出した。
と、同時に婚約者様の真横と足元が抉れる。
「「「今、何つった?」」」
「ひっ!!」
腰を抜かした婚約者様。
真顔でその人を見下ろす三人。
「たかが婚約者候補がいい気になってんじゃねーよ」
「で、ですが私はっ!!悟様の正式な!!」
「俺が良しとしてないのに正式もクソもねぇよ」
「っ、夜だって共にっ」
「あー、そうだっけ?
数ある相手の顔なんか覚えてねーよ」
どんどんと青ざめていく婚約者様。
悟様くらいになればそれこそ正室だけじゃなく側室だって宛がわれるだろうし、次代の為にと行為を勧められるのはわかる。
直哉様も例外ではなく、夜違う匂いを纏わせてくる事は良くあった。
多分、そういう事なのだろう。
「悟、きちんと避妊してるのかい?」
「してるっつの。
なんなら途中から気持ち悪くて相手なんかしてねーし」
「ならいいけど……どうでもいい相手との子供なんて面倒だからね」
「まじでオマエらクズだな」
硝子ちゃんがごみを見るように冷たい瞳を向けている。
「そ、んな……私は悟様をお慕いしてっ」
「あー、そんなのどーでもいいわ。
五条家から正式に通達すっからさっさと帰れよ」
「……っ」
しっしっ、と冷たい目をしながら追い払う動作をする悟くん。
傷付いた顔をして俯く婚約者様。
「な、んで……っ!!なんで、そいつばかりっ!!」
ギロリ、と睨まれ綺麗にした爪なども気にせず床に爪を立てる婚約者様。
「私の方が禪院家にも!!五条家にとっても役立てるのに!!」
「それが本性かよ」
「なのにお前達は揃いも揃ってそこにいるグズの子を選ぶっ!!
私の方が習い事も器用にこなせる!!
お家の役に立てるのにっ!!」
「名前、硝子下がって」
傑くんが私と硝子ちゃんの前に出てくれる。
しかし、婚約者様には私しか目にはいっていないらしい。
「お前のような出来損ないなんかよりも、当主の妻となるのは私の方が相応しいのに!!」
此方に向かって鋭い爪を向けながら手を振り上げる。
私は咄嗟に傑くんと悟くんの前に結界を張って防いだ。
顔を歪ませた婚約者様……いや、理恵様はフラリと立ち上がって此方を忌々しいとでも言うように睨み付ける。
「お前が居るからだ……お前が、居るからっ!!
私よりも何もかも下のくせにっ」
「警備員呼んだよ」
バタバタと駆け付けた警備員。
理恵様を掴もうとした途端、目をつり上げて警備員を叩く。
「私に触れるなっ!!私を誰だと思っているの!?」
「はぁ、うぜー」
「悟様……貴方がそのような出来損ないをお選びになるなんて、失望いたしましたわ!
直哉様といい悟様といい……次期当主様達は女を選ぶ目がございませんのね!!」
「……あ"?」
「次期当主達が揃いも揃って女を選ぶ才が無いなんて!!長年の歴史に傷をつける事になりましょう!」
「あの、理恵様」
「名前、近寄んな」
硝子ちゃんと傑くんが守ってくれているのをすり抜けて前へ出る。
悟くんに腕で制されたが……ここは、譲っちゃいけないと思った。
「理恵様は本当に悟くんを慕っているんですか?」
「当たり前の事を確認しに来たの?お飾り妻だったお前が嫌味の一つを言えるようになったのね!」
「……私には"当主の妻"を慕っているように聞こえました」
御三家の妻となる者は様々な重みがのし掛かる。
禪院家御当主である直毘人様の奥方様とお話した時……とても綺麗で強い方だと思った。優しく凛として寛大で……奥方として相応しき方だと。
下の者を蔑むわけでもなく、主人の不徳を必要なものと目をつむり、主人を支える為に己を押し殺しながらも先を見据える。
何度も心を殺し、家の中の者達を束ねる。
直毘人様を慕い、直毘人様を支えるお方。
「それが何!?何が悪いのよ!!」
警備員の掴む腕を振り払おうともがく。
「理恵様が慕うモノの違いに気付けぬ内は貴女の望む地位は掴めませんよ」
「何を……生意気なっ!!」
「直哉様や悟くんの事を慕えない人が当主の妻を望むなど烏滸がましい」
「お前なぞ……呪霊に食われてしまえっ!!」
ジタバタと暴れながら引きずられて行った理恵様。
やっと静かになった教室。
静かすぎる三人にどうしたのかと振り向けば、ポカンとした三人が。
「どうかしましたか?」
「……名前、凄いな」
「私も驚いた」
「?」
「名前みたいなのが当主の妻に相応しいのかもな」
ポカンとしながら話す硝子ちゃんと傑くん。
二人とも大袈裟だよ、と笑って一言も話さない悟くんを見る。
「悟くん?」
「………」
「あの、大丈夫ですか?」
じっとどこを見ているのかわからないが動かない悟くん。
「名前ほっときな」
「悟は今までに無い体験をしているんだよ」
「?」
クスクスはと笑う硝子ちゃんと傑くんの言っている意味がわからず頭を傾げる。
「悟の事は何とも思わなかったのかい?」
「悟くん?」
「名前、五条だけは止めておけ。
側室、愛人たんまりで浮気って何?って男だ」
「そうだよ。
名前は特別可愛がっているけどいざお嫁さんになった場合悲しむのは名前だ」
「こんな事言ってるコイツもやベーけど」
「硝子、今私の話ではないよ?」
「悟くんや直哉様は次期当主として多くの子を遺すのは義務なので」
「「…………」」
微妙な顔をした硝子ちゃんと傑くん。
まぁ、普通はこんな考えあり得ないだろう。
「それに悟くんにも選ぶ権利がありますので私じゃない素敵な方を選びますよ」
「……えーっと」
「私も次は素敵な人と結ばれるよう頑張らなくてはいけませんね。
……今は、皆さんと一緒の方が楽しいから、えっと…あまり、頑張れないですが」
「あー、可愛い」
「うちの子が可愛い」
大きなため息と共に硝子ちゃんと傑くんから撫でられる。
「……いやいやいや、ちょっと待て!!」
突然悟くんが、グワッと恐ろしい表情で此方を振り向く。
何事かと三人で驚いたが、足音を立てながら目の前に来た悟くん。
「オマエ……他に好き奴作るのかよ?」
「……出会いが、ありましたら?」
「俺は!?」
「悟くん?」
はて?と頭を傾げる。
真横にいた硝子ちゃんと傑くんが顔を背けて肩を震わせている。
「だから、俺!!俺との婚約!!」
「悟くんはお友達ですよ?」
「オトモダチ……」
「はい!私の初めてのお友達です!」
「「ぶふっ!!」」
「私……直哉様以外と関わる事を禁じられていたので、たまに会える悟くんと会えるのが嬉しかったんですよ」
「……アァ、ウン?」
「友達の癖に悟くんにお世話になりすぎて申し訳ないのですが……必ず、三億もお返し出来るように私強くなりますので!!
これからも三人にご迷惑おかけしますが……その、えっと……仲良くして貰えたら、と思って……」
言葉にすると友人に対して頼める事じゃないな、と思ってしまう。
これじゃあ手のかかる娘だ。
「名前は悟の娘か何かかな?」
「不出来な娘で申し訳ございません……」
「いや、私の娘だし」
「硝子ちゃん……!!
あ、でも私硝子ちゃんみたいな方とお付き合いしたいです」
「娶るわ。同姓結婚出来る国どこだっけ?」
「硝子、落ち着くんだ」
カコカコと真剣な顔で「同姓 結婚
国」と調べ始めた硝子ちゃん。
本当優しいなと思ってくっつけば、頭を撫でられた。
「………嘘だろ」
「お疲れ、悟」
「笑ってんじゃねーよ」
「驚いたよ。眼中に入って無い、初めてのお友達だったなんて」
「ああ"ん?」
クスクス笑いながら傑くんが悟くんの肩を叩いている。
悟くんの呪力が膨れ上がり……硝子ちゃんに手を引かれて教室から出る。
「傑、調子に乗んなよ」
「オトモダチが勝手にヤキモキしていてカッコ悪いな」
「表出ろ」
「出せるもんなら出してみなよ、オトモダチくん」
ドギャーンとあり得ない音がした。
何度も振り替えるが、硝子ちゃんに腕を引かれて歩く。
「あの、硝子ちゃん。
私何か変なこと言っちゃったかな?」
「ほっとけ」
遠くで夜蛾先生の怒声が聞こえた。
悟くんと傑くんのいつもの大騒ぎも落ち着いて、任務も何も無かった私達は悟くんの部屋でDVD観賞。
今日は傑くんチョイスでデ○ズニーだ。
映画の中では必ずプリンセスが不幸な思いをして最後はハッピーエンド。
「なぁ、傑」
「なんだい?」
「何でコイツら歌い出すの?」
「歌があった方が子供が観やすいだろ?」
「告白シーンで歌い出すとか怖くね?」
「リアルで考えるな。感じろ」
真顔で悟くんと傑くんが話していた。
男の子にはあまり気乗りしない内容だったのかな?と思って隣を見たら硝子ちゃんは寝ていた。
「次何見る?」
「激しい奴」
「硝子起きてたのかい?」
「半分」
一息つこう、とお菓子や飲み物に手をつける。
私は今もハッピーエンドだった先ほどの映画を思い返していた。
「名前は好きだったかい?ディ○ニー」
「面白かったです」
「そうかー?あんなの夢物語じゃん。
現実なんて出会った瞬間恋に落ちるとかねーし」
「確かに。だからこそ夢があるんだろう?」
誰もが憧れる運命の相手。
「現実はあんな綺麗に恋愛できるとは思わないけどね」
「ほら、傑もそう思うだろ?」
「呪術師である限り燃え上がる恋はしても、儚く散る可能性のが高いからね。
思い出としては残りやすいだろうけど」
「最悪な思い出だろ」
「そうかい?
死ねば美化されていい思い出になるんじゃないか?」
硝子ちゃんと悟くんが冷めた目を向ける。
色々な恋愛があるんだな、と思う。
「名前は?」
「ん?」
「どんな恋愛をしたい?」
こちらを見る硝子ちゃん。
どんな恋愛……と言っても、そもそも恋愛感情というものがよくわからない。
「どんな、と言われると難しいですね。
一緒に居て笑い合えて、くっ付く……?」
「うーん……それだと名前は私達全員と恋している事になるね」
「……お友達と恋人の差って何でしょう?」
「ドキドキして、苦しくなったり、嬉しくなったり。
その人の事ばかり考えてしまって他の人とは違うって想える事かな?」
「だとしたら悟くんはお友達じゃ無くなるんですよね」
「えっ?」
「お?」
「続けて?」
悟くんが驚き、硝子ちゃんが目を開き、傑くんがにこりと笑って続きを促す。
「私にとって悟くんは一番苦しかった時に世界を色付かせてくれました。
初めての友達で、いつも会いに来てくれる悟くんと会うのが楽しみで心の支えでした」
「へー」
「それで?」
「いつも私を助け出してくれる悟くんは、さっきのプリンスみたいな存在だな、と思って」
「…………」
「おや、悟。耳が赤いよ?」
「首も赤いぞ」
「うっせーよ……」
「でも、私が悟くんのプリンセスにはなれませんよ」
「「「は?」」」
何かおかしな事を言ってしまっただろうか?
くつろいでいたはずの三人がバッ、とこちらを見る。
「……何で?」
「えっと?」
「だから、何で?俺じゃダメなの」
「……えーっと…」
「何だよ」
「五条に不満があると」
「悟のクズさが嫌かい?」
「いえ!!そんな、悟くんみたいな凄い人と恋仲なんてそもそもあり得ないですよ!!」
「悟が好きだって言っても?」
「友人としてですよね?
悟くんが万が一、私と恋仲になったとしても……あ、もしもですよ?
そんな勘違いしてませんが、例えとして考えても……やっぱり、お家事情は付きまといますので……」
「嫌なのか?」
「私、自分の両親みたいに想い合って幸せな姿に憧れているので……
直哉様の時も思いましたが、側室や愛人や浮気みたいな事って考えられないです」
ガンっ、と悟くんがテーブルに顔を打ち付けていた。
「あの、本当……御三家の考え方を否定するわけじゃないですし、直哉様の時は我慢して耐えなきゃって思っていたので!
本当に個人的な我が儘でしかないんです……」
「いや、間違えてないだろ」
「うん。間違えてないよ」
「そうでしょうか?
人手不足の呪術界を考えると、私みたいな考えの方が異質ですよ」
その我が儘で今回迷惑をかけてしまったのだから。
「つまり名前にとって悟は恋愛対象にすらならないって事かな?」
「お友達をそんな目で見ませんよ?」
「嘘だろ……」
「ドンマイ、悟」
「ザマァ」
プルプル震える硝子ちゃんと傑くん。
悟くんはいきなり立ち上がるとフラフラしながらドアの方へ。
「悟くん?」
「……飲み物買ってくる」
バタンッ、と少し荒々しく出ていってしまった。
「ダッサ」
「カッコ悪いね」
「……やっぱり、私なんかが悟くんと付き合ったらなんて例え話嫌でしたよね」
悟くんの目の前で話すことでは無かったかな?と思うが、聞かれたら話すべきだろう。
「アレはアレで面白いからいいが……
名前はさ、我慢に慣れすぎ」
「硝子ちゃん?」
「好きなんだろ?五条の事」
硝子ちゃんの言葉に驚いて固まる。
傑くんも目を細めて笑う。
「私達も名前に意地悪な質問したね」
「えーっと……いつから?」
「見てればわかる」
「わりと初めからかな」
ぶわっと恥ずかしくなって顔を覆う。
友達に好きな人がバレていた。
何これ。恥ずかしい。
「正直……本当、わからないんですよ」
「何が?」
「……悟くんに助けられた事によって、周りの圧力から逃避したくて悟くんに依存していた所があるので。
私のこの気持ちは吊り橋効果のようなものなんじゃないかな?と」
「あぁ、なる程」
「確かに」
「さっきのプリンセスみたいに綺麗な感情なんかじゃないんです。
恋って、愛って……もっと素敵なものでしょう?」
恋をして綺麗になる。
恋をして傷付く。
恋をして成長する。
恋をして愛となる。
「私のこの感情は……恋なんかじゃ、ありません」
親を取られたくない子供みたいで
親から離れられない子供みたいで
あれが欲しい、これが欲しいと思うのに
手に入らないなら要らないと駄々をこねる。
「友達に抱くには物騒で
恋人に抱くには我が儘で
憧れを壊されたくない押し付けです」
ドロドロとしている。
ドキドキなんかより、ドクドクとうるさくて
楽しいとか、嬉しいとか、そんな感情で納まらない。
「少し特別扱いされて思い上がってるだけなんです。
悟くんだって初めましての印象が酷すぎて手放せないだけです。
これは、恋じゃない」
「なぁ、名前。
名前が五条の気持ちを決めつけるのはおかしいぞ」
「でも……雨の日にボロボロの子犬がいて保護した子犬に恋心を抱きますか?」
「確かに特殊な出会い方で恋か保護か迷うことはあるだろうが……
子犬を愛する気持ちを否定しないであげてくれ」
二人にそう言われるものの、私は自分に自信が無い。
そんな都合よく、考えて今の関係を壊したく無い。
「まぁ、御三家だからこそ面倒なのはわかるけどな」
「自分だけ見て欲しいが、お家事情を考えると難しい……か」
「直哉様のように悟くんと終わるなんて、嫌なんです。
悟くんとの縁が切れるくらいなら私は今のままがいい。
悟くんと終わるなら今度こそ私の世界は終わると思うので」
今でも時折世界が暗闇に飲まれる。
色を失くした世界は寒くて冷たい。
そこに悟くんが居るだけで華やぐ。
「これは恋でも愛でもありません。
呪い、です」
悟くんに触れるのは私だけ。
悟くんが微笑むのは私だけ。
悟くんが大切にしてくれるのは私だけ。
優越感を感じては自分を制する。
こんな感情持ってはいけない。
こんな重たくて酷く醜い感情が恋ならば……
どうして人は笑ってられるの?
どうして幸せだと言えるの?
「恋って、もっと……素敵なものでしょう?」
私が笑うと硝子ちゃんも傑くんも黙って撫でてくれた。
ポロポロと流れ落ちる涙がどんな意味なのかわからないフリをして、この気持ちに蓋をする。
「愛されたいと願いながら、愛するのが怖い、なんて変ですよね」
「……名前、前に私が話した事覚えてるかい?交流戦の時の」
「……はい」
傑くんが考える、傑くんの好き。
涙を流すなら悲しさではなく、嬉しさがいい。
いつでも相手に笑っていて貰いたい。
自身も一緒に笑っていたい。
好きだから触れたいし、触れて欲しい。
我が儘を言われたいし、自分からの我が儘を聞いて欲しい。
「名前にとっての幸せは悟との"友達"?
それとも……」
「……」
「難しい事考えんな」
「硝子ちゃん?」
「好きなら好きでいいだろ?
五条が結婚して既婚者なら問題あるが、アイツはまだ結婚してない」
「………そう、ですけど」
「嫌われている相手にその想いを押し付けるのは迷惑になるだろうが
名前はどう見ても好かれてるよ」
「デロデロにね」
「あんなクズ選ぶなって言いたいところだけど……名前にとっては違うだろ?」
チッ、と舌打ちする硝子ちゃん。
「名前を笑顔に出来たのは五条だ。
私や夏油はアイツが居たから名前と関われた」
「………硝子ちゃん」
「泣かされたら言え。
いつでも切り落としてやるから」
「まずは悟と話してごらん?」
ポンポン、と二人に背中を押される。
何から話せばいいのかわからないが……
部屋を出て、走り出した。
「世話が焼けるね」
「アンタはいいの?夏油」
ニヤリ、と笑う硝子。
夏油もニコリと笑って返す。
「子供達の背を押すのも親の役割だろ?」
「そういう事にしておくよ、夏油ママ」
「プリンセスを迎えに行くのはプリンスの役割だろ?
私は魔法使いでいいのさ」
「最近はプリンセスが迎えに行くのが多くなってきてるけどな」
「女性が社会に通用できる教訓だね」
「うちのプリンセスは無事にクズを迎えに行けるかな?」
「クズンスだからやらかす予感しかないよ」
外にある自販機の前。
悟くんはボーッとしながら缶コーヒーを飲んでいた。
「悟くん」
「どーした?」
思っていたより普通の悟くん。
改めてどうした、と聞かれてもどう答えていいかわからず飲み物を買いに来たと言うが、お財布すら持っていなかった。
どうしようかと自販機を見ながら悩むフリ。
考えも纏まらず勢いで出て来てしまったので、どう切り出していいかわからない。
「どれ?」
「……お水」
お財布を持っていないことを見抜かれたのか
後ろから小銭を入れて水を押してくれる。
ガコンッと落ちてきた水を取ろうとしゃがみ込めば、私に覆い被さるように後ろに温もりが。
「俺じゃ嫌?婚約者なんかになりたくねぇ?」
「………」
「知らない女よりも俺は名前がいい。
金の事は本当に気にしなくていいから」
「……悟くん」
「こっち見て」
ゆっくり振り向けば、近い距離に悟くんの顔があった。
真っ直ぐに悟くんを見つめる。
悟くんの手を取り、握り締める。
この手に守られた。
この手に慰められた。
その瞳に憧れた。
存在に助けられた。
「ありがとうございます」
「……なら」
「けれど婚約のお話……無しにしてください」
「何で」
「私……今までずっと与えられ続けてきました。
家族は勿論、直哉様にも、悟くんにも、傑くんや硝子ちゃんからも」
一人では何も出来ない私。
一人では何もしようとしない私。
そんな私に与えてくれる人達がいる。
私はそんな人達に少しでも必要とされたい。
「今の私じゃ駄目なんです。
弱くて、惨めで、駄目な私が……悟くんの優しさに甘えるのは間違っているんです」
「俺がいいって言っても?」
「その甘えに身を寄せたら……私は後悔します」
こんなことを言える立場じゃないとわかってる。
御三家の、五条家の次期当主である悟くんからの発言を私のような下位の家の者が断れる立場にいない。
「凄く、嬉しかったんです。
悟くんからお嫁さんに……って言われて」
きっと……私は悟くんを好きになれる。
いや、もう好きだ。
あの日……初めて出会った時からずっと。
「今の私じゃ、私が納得出来ないんです」
「何で?」
「……比べるのは失礼だと思います。
だけど、禪院家では本当に……役立たず、だったので」
「気にしないっつってるだろ」
「気にします!
私なんかを背負わないでください!」
可哀想だから?
心配だから?
手がかかるから?
「優しくされたら、勘違いするんです。
お友達で居たい……。悟くんに、呆れられていらないって言われるのが怖い……っ」
愛されたい。
愛したい。
好き。
大好き。
他の人を触らないで。
他の人を愛さないで。
他の人を好きにならないで。
「同情なんかで、背負われたく無いんですっ」
惨めな気持ちが消えない。
結局私は自分の弱い立場を使って悟くんに取り入ってしまっているという考えが残ってしまう。
「悟くんを失えば……私、私っ」
怖い。
自らの欲で、世界を壊すのが。
怖い。
直哉様を好きだと言いながら心の奥底では違う人を想っていたという自覚をするのが。
怖い。
我慢を制御出来ず欲で愛しき人を捕らえようとしている自分が。
「うるせーよ」
顔を捕まれふにっと柔らかな感覚が唇に。
同時に鼻先に当たる悟くんのサングラスが痛い。
「俺がいいっつってんのにごちゃごちゃうっせーわ」
「だって…」
「俺が名前を好きだから囲って何が悪ィの?
やっとあの野郎から引き離して、懐かせて、俺のもんにしたいのに……
禪院だとか、役立たずだとか、ごちゃごちゃうるせぇわ」
「……す、き?」
「好きだよ。
あの日、名前と初めて会ってからずっと」
「……嘘」
「気付いたのはわりと最近。
けど、多分……ずっと好きだった」
頬を赤く染めて頭を下げる悟くん。
悟くんの旋毛が見える。
同時に真っ赤になった耳も。
「側室も愛人もいらねぇ。浮気もしない」
「………」
「婚約者が嫌なら恋人からでいい。
金で買い取った形にはなってるけど……
たかが三億で名前を買っても気持ちが無いなら意味無いだろ」
「いや、大きいですよ?三億」
「俺にとっては安すぎる」
しゃがんだ膝に腕をのせて、ちらりと此方を見上げる悟くん。
「で、返事は?」
「へ?」
「告白したんだけど」
「……告白、でしたかね?」
「告白だろ。花束渡す?」
ブチブチとたまたま這えていたたんぽぽを渡してくる。
夜だから花は閉じ蕾となっている物を千切っては手に乗せてくる。
雑なその様子に思わず笑ってしまった。
「〜〜っ、た、ん……ぽぽっ」
「仕方ないだろ。花屋なんてこの時間やってねーし」
「ふふっ、悟くん……私の事好きだったんですか?」
「好きなんだよ。今も」
ブスッとしながら照れているのか、顔を逸らされる。
笑いが止まらなくて笑っていれば、大きな手で頭をぐしゃぐしゃにされる。
「笑いすぎ」
「だって……たんぽぽ…」
「虫ついてっかもな」
「え」
「引くなよ」
思わずじっとたんぽぽを眺めるが、虫はいなかった。
笑いも収まり改めて悟くんを見れば……じっと此方を見つめている。
「悟くん」
「ん?」
「悟くん」
「何」
「……好き、です」
初めて想いを乗せて言葉にすると、恥ずかしくて、でも胸にストンと落ち着いた。
ドロドロと醜い欲望が顔を出す。
「悟くんが好きで、私だけ特別扱いして欲しい」
「うん」
「悟くんとお出かけしたいし、引っ付きたい」
「いいよ」
「悟くんの全てを私だけの物にしたい。
視線も、温もりも、匂いも、全部っ」
「俺も名前の全部が欲しい」
「……好き、です。悟くんが、大好きです」
「俺のが大好きだし」
悟くんの大きな腕が背中に回る。
私も我慢出来ずに悟くんの首へと腕を回す。
「私を、悟くんの恋人にして下さい」
「婚約者じゃなくていいの?」
「……今は、もっと。お家事情とか無しで悟くんが欲しい」
「めちゃくちゃ興奮する殺し文句じゃん」
「……はしたない、ですか?」
「もっと求めて。
俺だけを見て、俺だけを欲しがって、俺だけを感じて。
逃す気無いから覚悟しとけよ」
「……はい。いっぱい、愛してください」
ジワジワと瞳に涙が浮かぶ。
近付いてくる悟くんの顔を押さえて、サングラスを取り上げる。
綺麗な綺麗なお星様が煌めく青空。
「目、閉じろ」
「勿体無いです」
「これからはいつでも見れる権利が名前だけにはあるけど?」
「……光栄です」
「いーから閉じろ。こっちが照れる」
悟くんでも恥ずかしくなるんだな、と一つ知れて嬉しくなる。
目を閉じればまた柔らかな感触。
何度も何度も押し付け合い、少し唇を開けると悟くんの舌が入ってきた。
いつの間にか頭の後ろを大きな手で捕まれていて、必死に舌を絡ませながら悟くんのシャツを掴む。
はぁ、とお互いの吐息が漏れて口を離すと
透明な糸で舌が繋がっていてプチリ、と切れた。
「……エロ」
「悟くんのエッチ」
「傑と硝子追い出すか」
「駄目です」
舌打ちされてしまったが、ヤります!って雰囲気は流石に遠慮したい。
悟くんが立ち上がると私の手を取って立たせてくれる。
「イチャイチャくらいは?」
「……引っ付くだけなら」
「次の映画俺の膝の上ね」
「ギュッてしててくれますか?」
「……やっぱ映画無しでアイツら追い出そ」
「駄目です。
寮は壁薄いので……薔薇の花びらが浮かぶお風呂あるところでお願いします」
「えー。そこは泡風呂だろ?一緒に入って遊べるじゃん」
「悟くんってエッチィ事ばっかですね」
「男の子だもん」
手を繋いで、二人で笑う。
沢山遠回りをして
まだ覚悟も足りない。
けれど
今ある幸せを大事にしたい。
「あれ?先生その人誰?」
「可愛い子ね……妹?」
悠仁に見られたスマホ画面。
あどけない寝顔で幸せそうに眠っている姿は何度見ても顔がニヤけてしまう。
野薔薇まで覗いてきて顔を歪めている。
「可愛いでしょ?」
「妹をスマホ画面にするってキモいわ」
「可愛いけど、先生犯罪臭いよ?」
「妹さんの将来に影響しかないから今すぐ妹離れしなさい」
「えー、無理。だって僕の愛しい子だもん」
「先生…」
「うわ……」
距離を置く二人に対し、ニヤニヤとしてしまう。
「五条先生、家入さんの所に……オマエら何してんだ?」
「「伏黒ぉ!!」」
ガラッ、と入ってきた恵に抱き付く野薔薇と悠仁。
鬱陶しそうに二人を引き剥がすのを笑って見る。
「伏黒、五条先生がヤバい!!」
「この人はいつもヤバいだろ」
「ロリコンよ!幼女趣味よ!!」
「何言ってんだ」
わーわーと説明になっていない説明をして恵のイライラゲージが上がっている。
恵の困る姿を楽しみながらも、さっき硝子のところに、と何か言いかけていた。
「恵、硝子が僕に何か用事?」
「来てましたよ」
「………は?」
「硝子さんは教えるなと言ってましたが、あの身体ですからね。
何かあったらアンタ気にする……」
言い終わる前に部屋から駆け出す。
僕に連絡無しで先に硝子の所に行くなんて……とモヤモヤしながら廊下を歩く。
「え?何?何よ」
「もしかして妹さん?」
「……虎杖、今すぐあの馬鹿止めなきゃ。
アイツに内緒で来てあんな慌てるなんて妹さんが危ないわ!!」
「五条先生早まらないでっ!!」
バタバタと走って行く釘崎と虎杖。
何となく察した伏黒だけが大きなため息をついた。
「デカくなったな」
「お腹苦しいんだ」
私のお腹を撫でる硝子ちゃん。
ポコポコと硝子ちゃんの手のひらを蹴り返す元気さに二人で笑う。
「体調は?」
「気持ち悪さも落ち着いたよ。
ただ、お腹蹴られると少し苦しいの」
「元気ならいい」
「ちょっとちょっと!!
愛しの僕を差し置いて内緒でイチャイチャしないでくれる?」
ガラッと開けられた扉。
不機嫌そうにやってきた悟くんに硝子ちゃんは舌打ちし、私は両手を伸ばす。
ぎゅっ、と抱き締めてくれた悟くんの頬に頬をすり寄せてキスを一つ。
「見た?僕の名前が最高に可愛い」
「見せ付けるな。うざい」
「名前、一人で来たの?」
「伊地知さんに送って貰ったよ」
「僕聞いてない」
「悟くんに内緒で来たかったの。
ずっと家に居ると体力落ちちゃうし、薨星宮の結界の様子も見たくて無理を頼んだの」
「結界は大丈夫だよ」
「うん。でも自分の目で見たくて」
ブスッとした顔の悟くんの頬を撫でる。
「悟くんにバレちゃったから一緒に行ってくれる?」
「行くに決まってるじゃん」
「ありがとう」
再び抱き付けば頭を撫でられる。
嬉しくてついその手にすり寄れば、ふと視界の隅に見えたのは黒い制服とカラフルな頭。
「あら?悟くんの生徒?」
「五条先生が……ロリコンっ」
「幼妻……!?」
「えーっと?」
「気にしないで下さい。五条先生にからかわれて妹か年下だと思ったみたいなので」
「……私そんな若く見える?」
「名前が可愛いのは今更だな」
「硝子ちゃんみたいな大人の女性を目指しているんだけどな」
「え、ヤだよ。硝子みたいなゴミを見る目をされたら僕のメンタルブレイクダンス決めるよ?」
「安心しろ。ゴミじゃなくクズを見る目だ」
悟くんの腕の中からひょっこりと覗いてお辞儀をする。
「初めまして。五条 名前です」
「……嘘よね?」
「現実を見ろよ」
「五条先生結婚してたの!?ちゃらんぽらんなのに!!?」
「悠仁、それどういう事?」
「だって先生すぐ適当な事言うから!!」
「大丈夫?貴女この馬鹿にお金で買い取られた?」
「あ、はい。昔」
「「!!?」」
「ちょっと語弊ありまくりだから。
ちゃんと僕らは恋愛結婚ですぅ」
「なんやかんやありましたが、めでたく悟くんのお嫁さんになりました」
「……伏黒、この人大丈夫?」
「騙されてない?」
「こっちでは名前さんはまともな大人にカウント出来るが、基本的ズレてっから。
だから五条先生と結婚してる」
「「なるほど」」
恵くんの説明になぜか納得されてしまった。
「ほら、恵達と楽しく話する前にやることやって安静にしてて」
「そうだね。
硝子ちゃん、恵くん。それにお二人もまた後で」
悟くんと手を繋いで医務室を後にする。
「……妊娠してたわね」
「もうすぐ臨月だからな」
「五条先生めちゃくちゃ溺愛してんね」
「溺愛どころか呪って縛っても足りないくらいの重い奴だよ」
「あの不誠実の塊が?」
「名前は特別だからね。
五条にとっても、私達にとっても」
「「「?」」」
「あまり関わらない方がいい。
五条に呪い殺されたくなかったらな」
くすり、と笑う家入に冗談だよね?と返せるものはいなかった。
「連絡くらいしてよ」
「ごめんね?悟くんが忙しくいなくなる前に少しでも会いたくて」
「連絡くれたらすぐ跳ぶ」
「ありがたいけど、仕事は仕事だから」
重たいお腹を支えながら歩くのは一苦労だ。
悟くんが腰に腕を回しながら歩いてくれるのが助かる。
「デカくなったね」
「うん。もう後少し」
「10月31日だっけ?」
「予定日はハロウィーンだよ」
結界の様子を見て、綻んでいる場所を直す。
天元様の結界とは別に私の結界を混ぜる。
「楽しみ」
「うん」
難しくない作業ではあるが、やはり疲れやすい身体は少し動いただけでしんどい。
ふぅ、と一息ついていれば悟くんがお腹を撫でていて、ポコポコと元気に悟くんの手を蹴り返している。
「元気だね」
「とっても」
ぐるんっ、と激しく動いているのがわかり悟くんもクスクス笑う。
「元気に産まれておいで。
キミが強くなるまで僕が守るから」
「"最強"のパパがいて嬉しいね」
「名前は決めた?」
「まだ」
「じゃあーーーーー」
幸せも、地獄も
何度も人生の中で繰り返す。
それは神様が与えた試練だと言った人がいた。
貴女なら乗り越えられるから与えられたものだと。
それを乗り越えた時、貴女はより多くの祝福を受けると。
10月31日 18:30
「ごめん。こんな時に付き添えなくて」
「……大丈夫。悟くんこそ、怪我しないでね」
「僕を誰だと思ってんの?」
「悟くん」
「なぁに?」
手を握り締めて、額につける。
「無事で帰って来て」
「名前こそ無事でいて。
戻って来たら可愛い僕らの子、見せてね。
いっぱいいっぱい褒めるし、キスして抱き締めるから。……頑張って」
「うん。頑張る」
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
不安が押し寄せるのは、いざ出産本番だからかな?
悟くんの後ろ姿を見送り、お腹と腰の痛みを息を吐いて逃す。
渋谷で大きな未登録の帳。
状況の理解が追い付かず悟くんへ応援の要請が来た。
最後まで渋っていたものの、緊急事態だと繰り返される呼び出しに重い腰を上げた。
「パパも頑張っているから、ママも頑張るね」
これから出会える愛し子に期待と不安。
10月31日 21:24 五条家長男誕生
産まれた我が子に愛しさと嬉しさで涙を流す一方で
この世で唯一無二の彼が封印されたと知ったのは数日後だった。
あとがき
出産時間は多分五条さんが封印された時刻はこれくらいかな?と思って。
25分に悠仁がナナミンコール手前。
26分には封印からの地面にドシャッだったので、23〜4分くらいかなーと。
予想なので、あてにしないでくださいww
一番長くなったのに、ほぼbad√。
悟くん……キミ、バッボーイ!!
続くように見せかけて、続きませんww
・幸せから地獄の名前ちゃん
見事に両思い。たんぽぽ可愛いね。
花言葉は「真心の愛」
愛が重いって?ヒント:母親
父親似だが、母親に全く似てないとは言っていない。例(ストーカー)の血が巡ってる。
失礼だな、純愛だよ。
11年の間に幸せと地獄を山あり谷ありしていたのに、幸せの愛し子を産んだ一方で地獄が始まっていたなんて……
この√に救いはあるの?
・幸せから缶詰めの悟くん
たんぽぽの花言葉は「別離」
後から知ってショック受けて花束渡した男。
しゅきしゅきだいしゅき!!!!
激おも感情で嫁に絡む奴は絶許。
特に京都の金髪。オマエは絶対許さない。
嫁たんの出産やぞ。フザケンナと激おこからの封印。
・遅れて登場直哉くん
えー、悟くんいないん?
しゃーないなぁ……お嫁たん保護しとかんと悟くんの居らん今、誰が支えるん?(いい笑顔)
アップを始めました。
・ニヤニヤしてる脳ミソ
おや?いい獲物がいるじゃないか。
アップを始めました