呪縛
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「名前ちゃん」
トロトロとお砂糖を煮詰めたような甘い声。
そして同時に背中には温もりとお腹に回った腕。
「会いたかったわぁ」
「……直哉様」
頭に顎を乗せられグリグリと頬擦りされる。
「オイっ!!」
「また来たね」
「キミらに会いに来たわけやないわ」
悟くんと傑くんが眉間にシワを寄せながら歩いてきた。
慌てて直哉様から抜け出そうとするものの、直哉様は離してくれず困り果てる。
「名前を離せよ」
「悟君こそ何しに来たん?」
「キミこそ何しに来たのかな?」
「そんなん恋人との逢瀬に決まっとるやろ」
なぁ?と米神にキスをされる。
何度も何度も口付けられて恥ずかしくなり私は両手で顔を覆うと直哉様は楽しそうにクックッと笑った。
「可愛ぇ」
「……やめて、くださいっ」
「嫌?」
「駄目、です」
「嫌やないんやったらえぇやん」
「うぅ……悟くんっ、傑くんっ」
「他の男の名前なんて呼ぶなや。嫉妬させたいん?」
顔を近付けて拗ねた顔をする直哉様。
以前のように手を上げられる事は無くなったものの……こうしていきなり現れてはベタベタと甘い言葉を吐いてくる。
今までと違う対応の差に困り果て、どうしていいのかわからない。
悟くんが怖い顔のまま近寄ってきて私と直哉様を無理矢理引き離す。
そのまま傑くんが手を握って少し離れた位置に。
「邪魔や」
「オマエがな」
元々仲の悪いと聞いている禪院家と五条家。
二人はバチバチと火花が散っているかのごとく睨みあっている。
その様子を見守っていれば後ろから硝子ちゃんが抱き付いてきた。
「またやってんの?」
「懲りないよね。負けるのに」
「そこ!!聞こえとるで!!」
「負け犬が吠えんなよ」
「うっさいわ!!」
不機嫌な直哉様に少しだけハラハラする。
「そもそも何しに来たんだ?アレ」
「さあ?京都は暇なんだろうね」
「たまたまこっちで任務あったから恋人に会いに来て何がアカンの?」
「恋人ォ?」
「妄想が酷いね。一度病院に行ったらどうだい?」
「ほんっま腹立つわ」
悟くんと傑くんの言葉にイライラとしている直哉様。
その様子から視線を逸らそうとしていれば、硝子ちゃんが手を握ってくれたので少しホッとする。
「ストーカーだな」
「美人な顔で何て事言うん?」
「だって名前、誰とも付き合って無いよ」
「………名前ちゃん?」
目を見開いている直哉様が怖い。
思わず傑くんの背中に隠れる。
「コラ。隠れとらんで出て来ぃ」
「や……っ」
「怒っとらんから」
「ストーカーのお帰りはあちらですよ?」
「えぇ笑顔すな!!」
あの日……帰りの新幹線で一緒に乗り合わせた日。
確かに私は直哉様が好きだったと告げたのだが……まさか、こんなことになるとは思っておらず毎回困惑してしまう。
「名前、ハッキリ言ってやらなきゃわかってもらえないよ」
「……うん。
あの、直哉様」
「なん?名前ちゃん」
「オェ」「うわぁ」
蜂蜜のような甘い声に悟くんと傑くんが表情を歪める。
「私と直哉様……付き合ってません!」
「付き合うてるよ」
「あの、無理です」
「何で?」
「直哉様……怖いから」
キュッ、と眉を下げて答える。
怖い。
また同じ事を繰り返すかもしれない。
いきなり態度変えている。
何を考えているのかわからず……怖い。
「…………」
「おやおやぁ?身から出た錆びだなぁ」
「仕方ないね。私達の可愛い可愛い名前は愛されるべきなのにあーんなことやこーんなことをして怖がらせたのは自分なんだから」
「嫌われてても仕方ないよな」
「むしろ会話してもらえてるだけありがたいと思うべきだ」
「……嫌われてあらへん」
「「嫌われてるだろ」」
「嫌われてあらへん!!」
再び騒ぎだした三人。
「〜〜っ、名前ちゃん!!」
「は、はい?」
「俺のこと好かんちゃうよね!?」
「………」
「何で視線逸らすん!」
「……えっと、嫌いではありません」
「ほら見ぃ!!嫌われてあらへん!!」
「好かれてもねーだろ」
「だね」
「キミら何なん!?」
嫌いではない。
好き……ではあるが、怖い。
好きだから恋人同士、と言うには少し気持ちが追い付かない。
直哉様のわからない思考回路にどうしたものかと考えていると、硝子ちゃんが頬を撫でてきた。
多分三人の言い合いに飽きたのか、私で遊ぶことにしたらしい。
むにむにと頬を潰したり、撫でてみたり。
くすぐったくなって硝子ちゃんの手を押さえてその手にすり寄る。
「くすぐったいですよ、硝子ちゃん」
「暇だな。アイツらほっといて部屋戻るか」
「いいんですかね?」
「いいだろ」
「いいわけあるか!!」
いつの間に……?
直哉様に抱えられて硝子ちゃんから距離を取られる。
威嚇する動物のように私を抱えている直哉様に対し、悟くん達の顔色が変わる。
「ほんっま性格悪いわぁ」
「「「オマエがな」」」
「名前ちゃん、こないな奴ら見習ったらアカンよ」
「やっべー。ぶっ飛ばしていいかな傑くん?」
「お供するよ悟くん」
「ついでに2度と出入り出来ないようにするか」
「だから俺はオマエらに用無いねん」
「あの、直哉様?
一体何の後用事で?」
らちが明かない。
上を見上げながら聞いてみたら無言で抱き付かれた。
「名前ちゃんこれから暇?」
「任務などは今のところ無いです」
「なら、俺とデートせん?」
「デート?」
デート?
デートとは……恋仲の二人や親しい友人が出掛けることなはず。
「出来ません」
「何で?」
「だってデートは親しい友達か恋仲の方と行くんですよね?
直哉様とはその……特別な関係ではありませんので……デートは、その……」
「「「ぶはっっ!!!」」」
「………オイコラそこの三人組。
名前ちゃんに何吹き込んだん?」
「それに直哉様には新しい婚約者の方が出来たんですよね?
私なんかに構わず、その方を気にかけてください」
父から直哉様に新しい婚約者が出来たと聞いた。
私と直哉様の間にはもう何もない。
「惨めな立場を気に掛けてくださっているのなら大丈夫ですよ。
私は気にしていませんので……」
直哉様の腕を解いて三人の所へ行こうとしたが、腕を捕まれる。
眉間にシワを寄せて怒っているような、悲しんでいるような……。
「……そんなんちゃう」
「えぇっと……」
「とにかく!!暇なら来ぃや」
「え?あの、直哉様っ」
「オマエらは来んな!!」
一方的に引きずられ、あっという間に車の中へ。
どこへ向かっているのかわからないが、黙って車に乗っているしかない。
「名前ちゃん水族館好き?」
「水族館ですか?」
「好き?嫌い?」
「行ったこと無いのでわかりませんが……」
なぜそんな質問を?と思っていたら
着いたのは都内の水族館。
ふと、携帯しか持っていないことに気付いて直哉様に言おうと思ったのだが直哉様は私の手を引いて中へ。
「あの、直哉様!私お財布っ」
「気にせんでえぇよ」
「でもっ」
「ほら、入るで」
手を繋いで中へ。
少し薄暗い中、大きな水槽に魚達がいる。
お財布やこの状況を忘れて思わず魅入ってしまう。
キョロキョロと魚を目で追いかけポカンと口を開けている姿は間抜けだろう。
自分よりも大きな水槽の中を自由に泳ぐ魚やサメや亀やエイ。
初めて目の当たりにする生き物達に視界と心を奪われてしまう。
「綺麗……」
「気に入ったん?」
「テレビで見るより凄いですね……」
水槽のトンネルはいつまでも眺めていられそうだ。
熱帯魚はカラフルで小さく綺麗だし、チンアナゴは可愛らしいし、深海魚は怖いけれどどこか引き込まれてしまう魅力があるし、クラゲは癒され、サメは怖いがじっと見ていると凛々しさがある。
時間に合わせてアシカやペンギンイルカのショーもあるみたいでパンフレットを見ながらつい時計を気にしてしまう。
ふと、私だけが楽しんでいるのでは?と直哉様を見れば……クスクスと口元を隠しながら笑っている。
「楽しんどるな」
「……直哉様、あのっ」
「えぇよ。楽しんで貰えとるならデート誘ったかいあったわ」
「……どうして、私なんかを」
婚約者様がいるのに。
私なんかじゃなくその方と行けばいいのに。
友達でもなく、特別な存在でもない私と……。
「名前ちゃんとこうやって出歩いた事少なかったやろ?
今の婚約者なんて親父が決めた相手や。
向こうも望んで婚約したわけやない」
「ですが直哉様にとって……禪院家にとっては必要なお方でしょう?」
「要らん。俺は名前ちゃんがえぇ」
そんな事を言われても……私は選べる立場にはいない。
一度直哉様の婚約者から下ろされ、悟くんが肩代わりまでして縁を切ったのだ。
あんな大騒動を起こして直哉様と繋がっているのはおかしい。
直哉様の手を離して立ち止まる。
「私……帰ります。
やはりこんなのおかしいです」
「親父のこと気にしとんの?」
「直哉様、ごめんなさい」
頭を下げて先に進む。
こんな素敵な場所で幸せそうな親子やカップルが多い中、一人表情を曇らせてあるく。
さっさと帰ろう。
そう思って早歩きで歩くのに、ピッタリとその横を歩く直哉様。
「名前ちゃんって意外と頑固やね」
「………」
「頭硬いし、アホやと思っとったら真面目やし」
「………」
「堪忍な。名前ちゃんが嫌でも俺は名前ちゃんが好きやし諦めたくあらへん」
ギュウッと、手を握られる。
「……酷い人ですね。
私はもう、嫌です。
痛い思いも、直哉様の期待に答えられないのも、周りから認められないのも。
私は直哉様にとって都合のいい人形じゃないんです……っ」
また同じ事を繰り返したくない。
好きだから、だけじゃ一緒に居られないこともあるんだと知ってしまったから。
「私じゃなくても代わりは沢山居ると言ったのは直哉様ですよ」
「………せやけど」
「直哉様にはもう婚約者様が居るなら私なんかを気に掛けてはいけません。
同じ事を繰り返すおつもりですか?」
「おらん。婚約者なんて」
「え?」
「親父から用意されとったが俺は認めて無い」
力強くこちらを見ている。
その眼差しに嘘は無いようで……
「俺が欲しいんは名前ちゃんだけや」
「直哉様……」
「俺と名前ちゃんに名前のある関係が必要なら恋人がえぇ。
友達?仲間?そんなんほぼ他人やろ。
名前ちゃんにとっての男は俺だけでえぇ」
真剣な眼差しから目が逸らせない。
頬を撫で、唇を指で触り、腰を抱く直哉様から離れられず、どんどんと近寄ってくる顔。
「目ェ閉じんの?」
あまりにも優しい声で、優しい顔をしながら言うから勘違いしてしまいそうになる。
うつむきたくても、顔を逸らしたくても直哉様の手がそれを許さない。
「ママー、あのお兄ちゃんとお姉ちゃんちゅーするの?」
「こら、しっ!!」
聞こえてきた無邪気な声にハッとして慌てて直哉様から離れる。
近くのカップルや家族達にチラチラ見られ……恥ずかしくなった私はそそくさとその場から逃げ出す。
「チッ」
直哉様から舌打ちが聞こえたがそれどころではない。
そのあとは恥ずかしくて水槽を見てもどこか上の空となってしまったが……綺麗で自由な海洋生物達に夢中となり、ショーまでしっかりと楽しみお土産コーナーへ。
いつの間にかまた直哉様と手を繋いでお土産を見て回る。
「何か欲しいもんあった?」
「いえ。自分でお金を持ってきていたら悟くん達に何かお土産を……と思って」
「アイツらには買わん」
苦々しい表情をする直哉様。
お菓子やレトルトカレー。
玩具やガラス細工の置物に人形などなど……とにかく沢山のお土産は見ているだけでも楽しい。
「素敵な物ばかりですね。
見てるだけでどれもこれも欲しくなってしまいます」
「どれ?水族館やからやっぱイルカ?」
「いえ、このチンアナゴが可愛らしくて」
「え"?」
「?」
微妙そうな表情の直哉様。
チンアナゴ……可愛くないのかな?
指先サイズのガラスの置物はすぐに壊れてしまいそうだが可愛らしい。
ニシキアナゴとセットで部屋に飾って置きたいが、また今度まで我慢しよう。
「イルカとかアザラシとかカワウソとか可愛ぇ人形は?」
「わぁ、深海魚の人形もあるんですね!」
可愛らしいくなっている深海魚の人形はどこか独特だ。
肌触りのよいダイオウグソクムシはとても可愛らしい。
「……せめて、せめてこっちにしぃ」
「メンダコ!!」
少し大きめのメンダコの人形を渡され抱き締める。
そのまま手を引かれて会計をする直哉様に驚くが、手を引かれて水族館を出た。
「あの、直哉様これっ!」
「今日のデート記念や。
もーちょい可愛いらしいもん選ぶと思ってたんやけど……」
「?」
「いや、可愛ぇからえぇわ」
行きと同じように車に乗せられ高専へ。
「直哉様……今日は楽しかったです。
えっと……ありがとうございました」
「そか。
次は制服やなくて可愛ぇ服着て行こ」
「次?」
「次。今日みたいに出掛けるだけやなく、お茶するだけでもえぇから」
「?」
「恋人らしいことしていきたい」
頬を赤くしながら話す直哉様。
「………直哉様、私達恋人ではありませんよ?」
「恋人やろ」
「駄目です。あれだけの事を起こして許されないです」
「そんなん関係あらへん」
「恋人は無理、です」
「嫌や」
「……お友達からじゃ、駄目ですか?」
メンダコの人形を抱き締める。
本当はこんなこと望んじゃいけない。
「私……直哉様と一緒に居たのに、直哉様の事ほとんど知らないんです」
「俺も名前ちゃんの趣味良くない事初めて知ったわ」
「可愛いですよ。
チンアナゴもダイオウグソクムシもメンダコも」
「どう見てもヤバいわ」
「人気でしたよ?」
「ありえん」
お互いに微妙な顔をする。
悟くん達にもハダカデバネズミを笑われたがそんなに趣味良くないだろうか?
「恋人で我慢しとるのに格下げされたない。
どうせ次期当主は俺やからどうとでもなる」
「そんな事怒られますよ」
「悟くんには俺個人で支払う。
このまま黙って奪われた無いわ」
「……期待、しちゃうのでやめてください」
そんな事を言われたら……勘違いしてしまう。
期待してしまう。
怖いと思う反面、願ってしまう。
「期待してくれんと困る」
直哉様に正面から抱き締められる。
怖いと思う反面、私はこの腕の中にいるのが好きだから。
「もう痛いことせん。
なるべく名前ちゃんの話聞くし……
出来ればエッチな事したい」
直哉様の言葉に少し引いてしまう。
「そないな顔せんでえぇやろ。
むしろ今まで手ェ出さんかった方が偉いやろ」
「怖いのは嫌です」
「気持ちえぇ事したいなんて名前ちゃんのスケベ」
「……帰ります」
「嘘や。
いや、エッチな事はしたいけど……まぁしばらくえぇわ」
額と額をくっ付ける。
直哉様はニヤリと笑って少しだけ屈む。
「今はこうやって子供みたいな弛いお付き合いしながら名前ちゃんの事知りたい。
急がんでも名前ちゃんが手に入るならいくらでも待ったる」
「直哉様……」
「やから、俺の事見て?俺の事知って?
焼きもちは妬くし、嫉妬もするし、悟君と傑くんはほんま腹立つけど他の男よりマシやから腹立つけど多めに見る……腹立つけど!」
「ふふっ」
「名前ちゃんを手放す気なんかあらへん」
額に、瞼に、頬に、鼻先にキスを落としていく。
熱のこもった瞳で見られると恥ずかしくなる。
「好きや。愛しとる」
本心からなのだろう。
以前よりも真っ直ぐな直哉様の想いはなんだかくすぐったくなる。
「私……諦めなくてもいいんですか?」
「えぇよ。もっともっと欲張り」
「期待しても、いいですか?」
「して」
額に、瞼に、頬に、鼻先に。
何度も何度も唇を落としてはニヤリと笑う直哉様。
「ここにしても、えぇ?」
唇を親指でなぞる。
その姿が厭らしくて照れてしまう。
近付いてくる直哉様の顔に、私はどうしようかと迷うものの直哉様を見上げて……
「「「駄目に決まってんだろ」」」
ガンッ、と蹴られた車の扉。
後ろを振り向けば悟くんが車の扉を蹴っていて、傑くんがにこりと笑って腕を付き出している。
真後ろの硝子ちゃんは煙草を吸っていた。
「空気読めやっ!!!」
「直哉君だっけ?オマエ俺らに誠意見せろや」
「そうだね。私達を越えられない者に名前を渡す気は無いよ」
「お邪魔虫やってわからん?」
「傑、この腐った蜜柑何か話してるぜ?」
「悟、蜜柑は食べ物だから話さないよ」
「は、ら、た、つ、わぁっ!!!」
「おい、ドクズ共」
スパーっ、と煙を吐き出す硝子ちゃん。
「1、名前を泣かせる奴は切り落とす。
2、名前を粗末に扱う奴も切り落とす。
3、名前を幸せに出来ない奴は去勢する。
……わかったな?」
瞳孔が開いたままじっとこちらを見る硝子ちゃんはかっこ良くて……胸がトキめいた。
ポポポッ、と頬が赤くなったので思わずメンダコに顔を埋めた。
「……こっわ」
「というわけで禪院さん、硝子はマジだよ」
「マジでやるぞ、硝子は」
「名前を幸せに出来なかった奴の言葉なんて信用出来るわけないだろ。
私らを信用させたいなら名前が心から幸せだって笑っていないならどんなに実力があっても渡さないさ」
「硝子ちゃん……」
「何かあったらすぐ言いなよ?
いつでも切り落とす準備は万端だから」
クスリ、と笑った硝子ちゃんに私は嬉しくなって抱き付いた。
「キミらより最強のライバル彼女やん」
「硝子だからな」
「硝子だからね」
毎日の何気無い連絡に
時々デート
手を繋いで隣を歩き
大切にされる日々
「名前」
「どうしました?直哉くん」
後ろから抱き締めて私を膝の上に乗せている直哉くん。
季節は巡り……高専を卒業後、私達はまた一緒に暮らす事に。
悟くんと硝子ちゃんには渋い顔をされたものの
何かあったらすぐに駆けつけると言われた。
高専時代、様々な事があった。
傑くんが離反した時……私が傑くんのサポートをよくしていたので上層部から疑われた。
悟くんや学長は勿論、直哉くんが庇ってくれたのは大きい。
毎日毎日傑くんとの仲を疑われ白状しろと脅される毎日から救いだしてくれたのは直哉くんだった。
もしかしたら直哉くんですら疑われる可能性もあったのに、傑くんとはただの同級生で離反や共謀は無いと言ってくれた。
上層部からの圧力に心身ともに疲れ果てた私を守ってくれたのは直哉くんで、悟くんも硝子ちゃんも今までのように無理矢理引き離す事はせず、そっとしておいてくれた。
「体調は?」
「大丈夫ですよ」
「そか。些細なことでも言うてな?」
「はい」
まだまだ膨らみの少ないお腹を撫でる。
嬉しそうに苦しくない程度に抱き締められる。
「楽しみやなぁ」
「……あの、本当にいいんですか?」
「んー?」
「相伝ではない可能性の方が大きいですし、もしかしたら……」
「えぇよ。どんな子でも。
名前ちゃんとの子なら関係無いわ」
お腹を優しく撫でる手は優しい。
「呪力が無くても、術式が無くてもえぇ。
名前ちゃんと俺の子を愛さん理由にはならんやろ?」
「……ありがとうございます」
「盛大な結婚式やなく身体に無理しぃひん程度にやろな」
「はい」
「綺麗な名前ちゃん見れるなんて幸せやなぁ」
もうすぐ、私は禪院となる。
父と母を説得するのに何度も直哉くんが通い両親からも納得してもらった。
子供はそのあとに発覚し、まだ今は初期だが……直哉くんの心配性は既に始まっている。
私個人で任務ということも無く、依頼は禪院を通して直哉くんの許可が降りなければ行かない事に。
硝子ちゃんとの医療の勉強が役立ち、硝子ちゃんと共に最短で医師免許を取れ京都校の校医となり危険な任務が減った。
「無理だけはせんでな」
「勿論です」
「直哉様、御当主がお呼びです」
使用人の声に直哉くんは渋々立ち上がる。
「少し行ってくる」
「はい。任務ですかね?」
「嫌やなぁ。名前ちゃんと離れたない」
「まずは当主様の所へ」
何度も顔中にキスをして、ゆっくりと部屋から出ていく。
「待っててな」
「いってらっしゃい」
笑顔で手を振る愛しい存在。
ゆっくりと当主の元へ進ませる足。
「やほー!なーおやくん!!」
「うわっ……悟君か」
「なーに?その嫌な顔?ブッ飛ばしちゃうよ?」
「デカイ男が首傾げても可愛いないわ」
サングラス姿で我が家のように歩くのは五条悟。
その後ろには中学生だろうか……?
全く似てない大きい子供を引き連れていた。
「名前は?元気?」
「元気や」
「顔だして行こうかな」
「えぇけど……
俺の可愛ぇお嫁さんにけったいな事しいひんでな?」
「はぁー、やだやだ。
やっぱオマエなんかに渡さなければ良かったよ」
チッ、と舌打ちする五条悟に俺はにっこりと笑う。
「ラブラブなんやから悟君の出番ないで?」
「よく言えたね。
傑の件利用して名前に無い罪着せて美味しいとこ取りしたクソヤロウなのに」
「何の事や?
可愛ぇ恋人を親身に守るんは当たり前やろ?」
「泣かせたら次は無いよ」
「泣かせたりしいひん。
名前ちゃんは俺のやからまーた悟君に取られちゃ敵わん」
悟君の真横を通り過ぎる。
後ろを歩く使用人に名前の部屋に連れていき付き添う事を命令する。
「禪院って本当クソだな」
「五条家よりマシやろ」
「直哉君の愚痴聞いて帰るね!
帰りに屋敷の一部分ブッ壊れてたらごめーん!!」
「はははっ!!そん時は五条家に倍で請求したるわ」
渡さんよ。
どんな手を使うても。
どんなに傷をつけても。
「名前は俺のや」
光を通さないサングラスの奥の瞳が細まる。
それに気付かないフリをして今度こそ歩き出す。
「悟君、俺の可愛ぇお嫁さんをよろしゅう」
「腹立つな」
「あんま危なっかしい事しいひんでなー?
身重な身体やから」
「チッ」
「悟君のお陰でラッブラブやねん。
ありがとな」
「恵、行こう。
僕の可愛い幼馴染紹介するから」
今度こそ当主の元へ。
あとがき
ハッピーエンド?ん?ハッピー?
………ハッピーエンド!!!!(クソデカボイス)
直哉くんってやっぱクズだから計画犯だと思うんですよ。
どこから計画だったのかって?
………ニコリ。
本当は裏連載として始める予定だったのが、なぜかうちの直哉くん……ヘタレてしまったので。
通常連載で行いました。
直哉くん連載で始めたから一応これにて呪縛は終了させていただきます。
お付き合いくださりありがとうございました!
・幸せ満喫中な名前ちゃん
この度無事好きな人と結ばれてハピハピ。
じっくり長い間大事に大事にしまわれちゃったけど何も知らない幸せな子。
子供の事は心配だけど、今の直哉くんなら大丈夫だよね?と思ってる。
直哉様だと距離あるので直哉くんへ。
懐妊時は多分25とかそんな感じ。
本誌あたりにはきっと三人くらい子供いそう。
・計画犯直哉くん
この度無事に好きな人をしまった。やったね!
最初は手に終えないクズだったけれど可愛い子が離れちゃう……アカーーーン!!となって一生懸命アピール頑張った。
一生懸命頑張ってたらコロコロ落ちてきた夢主ちゃんにチョロッ……とか思ってないよ?
そしたらなんと!!同級生が離反!?
しゃーない、一肌脱いだろ……とニヤリニヤリ。
ちょろっと上層部の面倒な人間の関係者にそーいやあの結界使う子よく一緒に居たなぁって使用人に噂させた。ちなみにその使用人はクビ。
かーらーの、可哀想になぁ……俺が守ってやんよ!!と王子様ムーヴ。
めでたくしまっちゃおーねーと腕の中。にっこり。
そのまま手込めにしてしまい、逃がさない口実を作った。にっこり。
子供?嫁より大事なもんは無いけど、嫁と似てたら可愛がるかも。
見た目は嫁で術式自分のならもうにっっこり。
そう願掛けしながらお腹を撫でる(呪い)
逃 が さ な い (呪縛)
・出遅れた悟くん
気付いた時には計画犯が。
疑われていたから庇うと共謀扱いで悪化していくので夜蛾と共にどうにかしなきゃと色々手回ししていたら王子様ムーヴかまされ連れ去られちゃった。
幸せそうだし、やり方はクソだが辛い時に側に居たのも無実に出来たのも直哉なので黙るしかなかった。
次は無い。泣かせたらブッ殺☆
・メスを尖らす硝子ちゃん
あの子が幸せならそれでいいと思っているが、
次はない。
3ヶ条を心に刻め。
一つでも破れば2度と使い物になると思うなよ。
・教祖様
………………ニコリ。
トロトロとお砂糖を煮詰めたような甘い声。
そして同時に背中には温もりとお腹に回った腕。
「会いたかったわぁ」
「……直哉様」
頭に顎を乗せられグリグリと頬擦りされる。
「オイっ!!」
「また来たね」
「キミらに会いに来たわけやないわ」
悟くんと傑くんが眉間にシワを寄せながら歩いてきた。
慌てて直哉様から抜け出そうとするものの、直哉様は離してくれず困り果てる。
「名前を離せよ」
「悟君こそ何しに来たん?」
「キミこそ何しに来たのかな?」
「そんなん恋人との逢瀬に決まっとるやろ」
なぁ?と米神にキスをされる。
何度も何度も口付けられて恥ずかしくなり私は両手で顔を覆うと直哉様は楽しそうにクックッと笑った。
「可愛ぇ」
「……やめて、くださいっ」
「嫌?」
「駄目、です」
「嫌やないんやったらえぇやん」
「うぅ……悟くんっ、傑くんっ」
「他の男の名前なんて呼ぶなや。嫉妬させたいん?」
顔を近付けて拗ねた顔をする直哉様。
以前のように手を上げられる事は無くなったものの……こうしていきなり現れてはベタベタと甘い言葉を吐いてくる。
今までと違う対応の差に困り果て、どうしていいのかわからない。
悟くんが怖い顔のまま近寄ってきて私と直哉様を無理矢理引き離す。
そのまま傑くんが手を握って少し離れた位置に。
「邪魔や」
「オマエがな」
元々仲の悪いと聞いている禪院家と五条家。
二人はバチバチと火花が散っているかのごとく睨みあっている。
その様子を見守っていれば後ろから硝子ちゃんが抱き付いてきた。
「またやってんの?」
「懲りないよね。負けるのに」
「そこ!!聞こえとるで!!」
「負け犬が吠えんなよ」
「うっさいわ!!」
不機嫌な直哉様に少しだけハラハラする。
「そもそも何しに来たんだ?アレ」
「さあ?京都は暇なんだろうね」
「たまたまこっちで任務あったから恋人に会いに来て何がアカンの?」
「恋人ォ?」
「妄想が酷いね。一度病院に行ったらどうだい?」
「ほんっま腹立つわ」
悟くんと傑くんの言葉にイライラとしている直哉様。
その様子から視線を逸らそうとしていれば、硝子ちゃんが手を握ってくれたので少しホッとする。
「ストーカーだな」
「美人な顔で何て事言うん?」
「だって名前、誰とも付き合って無いよ」
「………名前ちゃん?」
目を見開いている直哉様が怖い。
思わず傑くんの背中に隠れる。
「コラ。隠れとらんで出て来ぃ」
「や……っ」
「怒っとらんから」
「ストーカーのお帰りはあちらですよ?」
「えぇ笑顔すな!!」
あの日……帰りの新幹線で一緒に乗り合わせた日。
確かに私は直哉様が好きだったと告げたのだが……まさか、こんなことになるとは思っておらず毎回困惑してしまう。
「名前、ハッキリ言ってやらなきゃわかってもらえないよ」
「……うん。
あの、直哉様」
「なん?名前ちゃん」
「オェ」「うわぁ」
蜂蜜のような甘い声に悟くんと傑くんが表情を歪める。
「私と直哉様……付き合ってません!」
「付き合うてるよ」
「あの、無理です」
「何で?」
「直哉様……怖いから」
キュッ、と眉を下げて答える。
怖い。
また同じ事を繰り返すかもしれない。
いきなり態度変えている。
何を考えているのかわからず……怖い。
「…………」
「おやおやぁ?身から出た錆びだなぁ」
「仕方ないね。私達の可愛い可愛い名前は愛されるべきなのにあーんなことやこーんなことをして怖がらせたのは自分なんだから」
「嫌われてても仕方ないよな」
「むしろ会話してもらえてるだけありがたいと思うべきだ」
「……嫌われてあらへん」
「「嫌われてるだろ」」
「嫌われてあらへん!!」
再び騒ぎだした三人。
「〜〜っ、名前ちゃん!!」
「は、はい?」
「俺のこと好かんちゃうよね!?」
「………」
「何で視線逸らすん!」
「……えっと、嫌いではありません」
「ほら見ぃ!!嫌われてあらへん!!」
「好かれてもねーだろ」
「だね」
「キミら何なん!?」
嫌いではない。
好き……ではあるが、怖い。
好きだから恋人同士、と言うには少し気持ちが追い付かない。
直哉様のわからない思考回路にどうしたものかと考えていると、硝子ちゃんが頬を撫でてきた。
多分三人の言い合いに飽きたのか、私で遊ぶことにしたらしい。
むにむにと頬を潰したり、撫でてみたり。
くすぐったくなって硝子ちゃんの手を押さえてその手にすり寄る。
「くすぐったいですよ、硝子ちゃん」
「暇だな。アイツらほっといて部屋戻るか」
「いいんですかね?」
「いいだろ」
「いいわけあるか!!」
いつの間に……?
直哉様に抱えられて硝子ちゃんから距離を取られる。
威嚇する動物のように私を抱えている直哉様に対し、悟くん達の顔色が変わる。
「ほんっま性格悪いわぁ」
「「「オマエがな」」」
「名前ちゃん、こないな奴ら見習ったらアカンよ」
「やっべー。ぶっ飛ばしていいかな傑くん?」
「お供するよ悟くん」
「ついでに2度と出入り出来ないようにするか」
「だから俺はオマエらに用無いねん」
「あの、直哉様?
一体何の後用事で?」
らちが明かない。
上を見上げながら聞いてみたら無言で抱き付かれた。
「名前ちゃんこれから暇?」
「任務などは今のところ無いです」
「なら、俺とデートせん?」
「デート?」
デート?
デートとは……恋仲の二人や親しい友人が出掛けることなはず。
「出来ません」
「何で?」
「だってデートは親しい友達か恋仲の方と行くんですよね?
直哉様とはその……特別な関係ではありませんので……デートは、その……」
「「「ぶはっっ!!!」」」
「………オイコラそこの三人組。
名前ちゃんに何吹き込んだん?」
「それに直哉様には新しい婚約者の方が出来たんですよね?
私なんかに構わず、その方を気にかけてください」
父から直哉様に新しい婚約者が出来たと聞いた。
私と直哉様の間にはもう何もない。
「惨めな立場を気に掛けてくださっているのなら大丈夫ですよ。
私は気にしていませんので……」
直哉様の腕を解いて三人の所へ行こうとしたが、腕を捕まれる。
眉間にシワを寄せて怒っているような、悲しんでいるような……。
「……そんなんちゃう」
「えぇっと……」
「とにかく!!暇なら来ぃや」
「え?あの、直哉様っ」
「オマエらは来んな!!」
一方的に引きずられ、あっという間に車の中へ。
どこへ向かっているのかわからないが、黙って車に乗っているしかない。
「名前ちゃん水族館好き?」
「水族館ですか?」
「好き?嫌い?」
「行ったこと無いのでわかりませんが……」
なぜそんな質問を?と思っていたら
着いたのは都内の水族館。
ふと、携帯しか持っていないことに気付いて直哉様に言おうと思ったのだが直哉様は私の手を引いて中へ。
「あの、直哉様!私お財布っ」
「気にせんでえぇよ」
「でもっ」
「ほら、入るで」
手を繋いで中へ。
少し薄暗い中、大きな水槽に魚達がいる。
お財布やこの状況を忘れて思わず魅入ってしまう。
キョロキョロと魚を目で追いかけポカンと口を開けている姿は間抜けだろう。
自分よりも大きな水槽の中を自由に泳ぐ魚やサメや亀やエイ。
初めて目の当たりにする生き物達に視界と心を奪われてしまう。
「綺麗……」
「気に入ったん?」
「テレビで見るより凄いですね……」
水槽のトンネルはいつまでも眺めていられそうだ。
熱帯魚はカラフルで小さく綺麗だし、チンアナゴは可愛らしいし、深海魚は怖いけれどどこか引き込まれてしまう魅力があるし、クラゲは癒され、サメは怖いがじっと見ていると凛々しさがある。
時間に合わせてアシカやペンギンイルカのショーもあるみたいでパンフレットを見ながらつい時計を気にしてしまう。
ふと、私だけが楽しんでいるのでは?と直哉様を見れば……クスクスと口元を隠しながら笑っている。
「楽しんどるな」
「……直哉様、あのっ」
「えぇよ。楽しんで貰えとるならデート誘ったかいあったわ」
「……どうして、私なんかを」
婚約者様がいるのに。
私なんかじゃなくその方と行けばいいのに。
友達でもなく、特別な存在でもない私と……。
「名前ちゃんとこうやって出歩いた事少なかったやろ?
今の婚約者なんて親父が決めた相手や。
向こうも望んで婚約したわけやない」
「ですが直哉様にとって……禪院家にとっては必要なお方でしょう?」
「要らん。俺は名前ちゃんがえぇ」
そんな事を言われても……私は選べる立場にはいない。
一度直哉様の婚約者から下ろされ、悟くんが肩代わりまでして縁を切ったのだ。
あんな大騒動を起こして直哉様と繋がっているのはおかしい。
直哉様の手を離して立ち止まる。
「私……帰ります。
やはりこんなのおかしいです」
「親父のこと気にしとんの?」
「直哉様、ごめんなさい」
頭を下げて先に進む。
こんな素敵な場所で幸せそうな親子やカップルが多い中、一人表情を曇らせてあるく。
さっさと帰ろう。
そう思って早歩きで歩くのに、ピッタリとその横を歩く直哉様。
「名前ちゃんって意外と頑固やね」
「………」
「頭硬いし、アホやと思っとったら真面目やし」
「………」
「堪忍な。名前ちゃんが嫌でも俺は名前ちゃんが好きやし諦めたくあらへん」
ギュウッと、手を握られる。
「……酷い人ですね。
私はもう、嫌です。
痛い思いも、直哉様の期待に答えられないのも、周りから認められないのも。
私は直哉様にとって都合のいい人形じゃないんです……っ」
また同じ事を繰り返したくない。
好きだから、だけじゃ一緒に居られないこともあるんだと知ってしまったから。
「私じゃなくても代わりは沢山居ると言ったのは直哉様ですよ」
「………せやけど」
「直哉様にはもう婚約者様が居るなら私なんかを気に掛けてはいけません。
同じ事を繰り返すおつもりですか?」
「おらん。婚約者なんて」
「え?」
「親父から用意されとったが俺は認めて無い」
力強くこちらを見ている。
その眼差しに嘘は無いようで……
「俺が欲しいんは名前ちゃんだけや」
「直哉様……」
「俺と名前ちゃんに名前のある関係が必要なら恋人がえぇ。
友達?仲間?そんなんほぼ他人やろ。
名前ちゃんにとっての男は俺だけでえぇ」
真剣な眼差しから目が逸らせない。
頬を撫で、唇を指で触り、腰を抱く直哉様から離れられず、どんどんと近寄ってくる顔。
「目ェ閉じんの?」
あまりにも優しい声で、優しい顔をしながら言うから勘違いしてしまいそうになる。
うつむきたくても、顔を逸らしたくても直哉様の手がそれを許さない。
「ママー、あのお兄ちゃんとお姉ちゃんちゅーするの?」
「こら、しっ!!」
聞こえてきた無邪気な声にハッとして慌てて直哉様から離れる。
近くのカップルや家族達にチラチラ見られ……恥ずかしくなった私はそそくさとその場から逃げ出す。
「チッ」
直哉様から舌打ちが聞こえたがそれどころではない。
そのあとは恥ずかしくて水槽を見てもどこか上の空となってしまったが……綺麗で自由な海洋生物達に夢中となり、ショーまでしっかりと楽しみお土産コーナーへ。
いつの間にかまた直哉様と手を繋いでお土産を見て回る。
「何か欲しいもんあった?」
「いえ。自分でお金を持ってきていたら悟くん達に何かお土産を……と思って」
「アイツらには買わん」
苦々しい表情をする直哉様。
お菓子やレトルトカレー。
玩具やガラス細工の置物に人形などなど……とにかく沢山のお土産は見ているだけでも楽しい。
「素敵な物ばかりですね。
見てるだけでどれもこれも欲しくなってしまいます」
「どれ?水族館やからやっぱイルカ?」
「いえ、このチンアナゴが可愛らしくて」
「え"?」
「?」
微妙そうな表情の直哉様。
チンアナゴ……可愛くないのかな?
指先サイズのガラスの置物はすぐに壊れてしまいそうだが可愛らしい。
ニシキアナゴとセットで部屋に飾って置きたいが、また今度まで我慢しよう。
「イルカとかアザラシとかカワウソとか可愛ぇ人形は?」
「わぁ、深海魚の人形もあるんですね!」
可愛らしいくなっている深海魚の人形はどこか独特だ。
肌触りのよいダイオウグソクムシはとても可愛らしい。
「……せめて、せめてこっちにしぃ」
「メンダコ!!」
少し大きめのメンダコの人形を渡され抱き締める。
そのまま手を引かれて会計をする直哉様に驚くが、手を引かれて水族館を出た。
「あの、直哉様これっ!」
「今日のデート記念や。
もーちょい可愛いらしいもん選ぶと思ってたんやけど……」
「?」
「いや、可愛ぇからえぇわ」
行きと同じように車に乗せられ高専へ。
「直哉様……今日は楽しかったです。
えっと……ありがとうございました」
「そか。
次は制服やなくて可愛ぇ服着て行こ」
「次?」
「次。今日みたいに出掛けるだけやなく、お茶するだけでもえぇから」
「?」
「恋人らしいことしていきたい」
頬を赤くしながら話す直哉様。
「………直哉様、私達恋人ではありませんよ?」
「恋人やろ」
「駄目です。あれだけの事を起こして許されないです」
「そんなん関係あらへん」
「恋人は無理、です」
「嫌や」
「……お友達からじゃ、駄目ですか?」
メンダコの人形を抱き締める。
本当はこんなこと望んじゃいけない。
「私……直哉様と一緒に居たのに、直哉様の事ほとんど知らないんです」
「俺も名前ちゃんの趣味良くない事初めて知ったわ」
「可愛いですよ。
チンアナゴもダイオウグソクムシもメンダコも」
「どう見てもヤバいわ」
「人気でしたよ?」
「ありえん」
お互いに微妙な顔をする。
悟くん達にもハダカデバネズミを笑われたがそんなに趣味良くないだろうか?
「恋人で我慢しとるのに格下げされたない。
どうせ次期当主は俺やからどうとでもなる」
「そんな事怒られますよ」
「悟くんには俺個人で支払う。
このまま黙って奪われた無いわ」
「……期待、しちゃうのでやめてください」
そんな事を言われたら……勘違いしてしまう。
期待してしまう。
怖いと思う反面、願ってしまう。
「期待してくれんと困る」
直哉様に正面から抱き締められる。
怖いと思う反面、私はこの腕の中にいるのが好きだから。
「もう痛いことせん。
なるべく名前ちゃんの話聞くし……
出来ればエッチな事したい」
直哉様の言葉に少し引いてしまう。
「そないな顔せんでえぇやろ。
むしろ今まで手ェ出さんかった方が偉いやろ」
「怖いのは嫌です」
「気持ちえぇ事したいなんて名前ちゃんのスケベ」
「……帰ります」
「嘘や。
いや、エッチな事はしたいけど……まぁしばらくえぇわ」
額と額をくっ付ける。
直哉様はニヤリと笑って少しだけ屈む。
「今はこうやって子供みたいな弛いお付き合いしながら名前ちゃんの事知りたい。
急がんでも名前ちゃんが手に入るならいくらでも待ったる」
「直哉様……」
「やから、俺の事見て?俺の事知って?
焼きもちは妬くし、嫉妬もするし、悟君と傑くんはほんま腹立つけど他の男よりマシやから腹立つけど多めに見る……腹立つけど!」
「ふふっ」
「名前ちゃんを手放す気なんかあらへん」
額に、瞼に、頬に、鼻先にキスを落としていく。
熱のこもった瞳で見られると恥ずかしくなる。
「好きや。愛しとる」
本心からなのだろう。
以前よりも真っ直ぐな直哉様の想いはなんだかくすぐったくなる。
「私……諦めなくてもいいんですか?」
「えぇよ。もっともっと欲張り」
「期待しても、いいですか?」
「して」
額に、瞼に、頬に、鼻先に。
何度も何度も唇を落としてはニヤリと笑う直哉様。
「ここにしても、えぇ?」
唇を親指でなぞる。
その姿が厭らしくて照れてしまう。
近付いてくる直哉様の顔に、私はどうしようかと迷うものの直哉様を見上げて……
「「「駄目に決まってんだろ」」」
ガンッ、と蹴られた車の扉。
後ろを振り向けば悟くんが車の扉を蹴っていて、傑くんがにこりと笑って腕を付き出している。
真後ろの硝子ちゃんは煙草を吸っていた。
「空気読めやっ!!!」
「直哉君だっけ?オマエ俺らに誠意見せろや」
「そうだね。私達を越えられない者に名前を渡す気は無いよ」
「お邪魔虫やってわからん?」
「傑、この腐った蜜柑何か話してるぜ?」
「悟、蜜柑は食べ物だから話さないよ」
「は、ら、た、つ、わぁっ!!!」
「おい、ドクズ共」
スパーっ、と煙を吐き出す硝子ちゃん。
「1、名前を泣かせる奴は切り落とす。
2、名前を粗末に扱う奴も切り落とす。
3、名前を幸せに出来ない奴は去勢する。
……わかったな?」
瞳孔が開いたままじっとこちらを見る硝子ちゃんはかっこ良くて……胸がトキめいた。
ポポポッ、と頬が赤くなったので思わずメンダコに顔を埋めた。
「……こっわ」
「というわけで禪院さん、硝子はマジだよ」
「マジでやるぞ、硝子は」
「名前を幸せに出来なかった奴の言葉なんて信用出来るわけないだろ。
私らを信用させたいなら名前が心から幸せだって笑っていないならどんなに実力があっても渡さないさ」
「硝子ちゃん……」
「何かあったらすぐ言いなよ?
いつでも切り落とす準備は万端だから」
クスリ、と笑った硝子ちゃんに私は嬉しくなって抱き付いた。
「キミらより最強のライバル彼女やん」
「硝子だからな」
「硝子だからね」
毎日の何気無い連絡に
時々デート
手を繋いで隣を歩き
大切にされる日々
「名前」
「どうしました?直哉くん」
後ろから抱き締めて私を膝の上に乗せている直哉くん。
季節は巡り……高専を卒業後、私達はまた一緒に暮らす事に。
悟くんと硝子ちゃんには渋い顔をされたものの
何かあったらすぐに駆けつけると言われた。
高専時代、様々な事があった。
傑くんが離反した時……私が傑くんのサポートをよくしていたので上層部から疑われた。
悟くんや学長は勿論、直哉くんが庇ってくれたのは大きい。
毎日毎日傑くんとの仲を疑われ白状しろと脅される毎日から救いだしてくれたのは直哉くんだった。
もしかしたら直哉くんですら疑われる可能性もあったのに、傑くんとはただの同級生で離反や共謀は無いと言ってくれた。
上層部からの圧力に心身ともに疲れ果てた私を守ってくれたのは直哉くんで、悟くんも硝子ちゃんも今までのように無理矢理引き離す事はせず、そっとしておいてくれた。
「体調は?」
「大丈夫ですよ」
「そか。些細なことでも言うてな?」
「はい」
まだまだ膨らみの少ないお腹を撫でる。
嬉しそうに苦しくない程度に抱き締められる。
「楽しみやなぁ」
「……あの、本当にいいんですか?」
「んー?」
「相伝ではない可能性の方が大きいですし、もしかしたら……」
「えぇよ。どんな子でも。
名前ちゃんとの子なら関係無いわ」
お腹を優しく撫でる手は優しい。
「呪力が無くても、術式が無くてもえぇ。
名前ちゃんと俺の子を愛さん理由にはならんやろ?」
「……ありがとうございます」
「盛大な結婚式やなく身体に無理しぃひん程度にやろな」
「はい」
「綺麗な名前ちゃん見れるなんて幸せやなぁ」
もうすぐ、私は禪院となる。
父と母を説得するのに何度も直哉くんが通い両親からも納得してもらった。
子供はそのあとに発覚し、まだ今は初期だが……直哉くんの心配性は既に始まっている。
私個人で任務ということも無く、依頼は禪院を通して直哉くんの許可が降りなければ行かない事に。
硝子ちゃんとの医療の勉強が役立ち、硝子ちゃんと共に最短で医師免許を取れ京都校の校医となり危険な任務が減った。
「無理だけはせんでな」
「勿論です」
「直哉様、御当主がお呼びです」
使用人の声に直哉くんは渋々立ち上がる。
「少し行ってくる」
「はい。任務ですかね?」
「嫌やなぁ。名前ちゃんと離れたない」
「まずは当主様の所へ」
何度も顔中にキスをして、ゆっくりと部屋から出ていく。
「待っててな」
「いってらっしゃい」
笑顔で手を振る愛しい存在。
ゆっくりと当主の元へ進ませる足。
「やほー!なーおやくん!!」
「うわっ……悟君か」
「なーに?その嫌な顔?ブッ飛ばしちゃうよ?」
「デカイ男が首傾げても可愛いないわ」
サングラス姿で我が家のように歩くのは五条悟。
その後ろには中学生だろうか……?
全く似てない大きい子供を引き連れていた。
「名前は?元気?」
「元気や」
「顔だして行こうかな」
「えぇけど……
俺の可愛ぇお嫁さんにけったいな事しいひんでな?」
「はぁー、やだやだ。
やっぱオマエなんかに渡さなければ良かったよ」
チッ、と舌打ちする五条悟に俺はにっこりと笑う。
「ラブラブなんやから悟君の出番ないで?」
「よく言えたね。
傑の件利用して名前に無い罪着せて美味しいとこ取りしたクソヤロウなのに」
「何の事や?
可愛ぇ恋人を親身に守るんは当たり前やろ?」
「泣かせたら次は無いよ」
「泣かせたりしいひん。
名前ちゃんは俺のやからまーた悟君に取られちゃ敵わん」
悟君の真横を通り過ぎる。
後ろを歩く使用人に名前の部屋に連れていき付き添う事を命令する。
「禪院って本当クソだな」
「五条家よりマシやろ」
「直哉君の愚痴聞いて帰るね!
帰りに屋敷の一部分ブッ壊れてたらごめーん!!」
「はははっ!!そん時は五条家に倍で請求したるわ」
渡さんよ。
どんな手を使うても。
どんなに傷をつけても。
「名前は俺のや」
光を通さないサングラスの奥の瞳が細まる。
それに気付かないフリをして今度こそ歩き出す。
「悟君、俺の可愛ぇお嫁さんをよろしゅう」
「腹立つな」
「あんま危なっかしい事しいひんでなー?
身重な身体やから」
「チッ」
「悟君のお陰でラッブラブやねん。
ありがとな」
「恵、行こう。
僕の可愛い幼馴染紹介するから」
今度こそ当主の元へ。
あとがき
ハッピーエンド?ん?ハッピー?
………ハッピーエンド!!!!(クソデカボイス)
直哉くんってやっぱクズだから計画犯だと思うんですよ。
どこから計画だったのかって?
………ニコリ。
本当は裏連載として始める予定だったのが、なぜかうちの直哉くん……ヘタレてしまったので。
通常連載で行いました。
直哉くん連載で始めたから一応これにて呪縛は終了させていただきます。
お付き合いくださりありがとうございました!
・幸せ満喫中な名前ちゃん
この度無事好きな人と結ばれてハピハピ。
じっくり長い間大事に大事にしまわれちゃったけど何も知らない幸せな子。
子供の事は心配だけど、今の直哉くんなら大丈夫だよね?と思ってる。
直哉様だと距離あるので直哉くんへ。
懐妊時は多分25とかそんな感じ。
本誌あたりにはきっと三人くらい子供いそう。
・計画犯直哉くん
この度無事に好きな人をしまった。やったね!
最初は手に終えないクズだったけれど可愛い子が離れちゃう……アカーーーン!!となって一生懸命アピール頑張った。
一生懸命頑張ってたらコロコロ落ちてきた夢主ちゃんにチョロッ……とか思ってないよ?
そしたらなんと!!同級生が離反!?
しゃーない、一肌脱いだろ……とニヤリニヤリ。
ちょろっと上層部の面倒な人間の関係者にそーいやあの結界使う子よく一緒に居たなぁって使用人に噂させた。ちなみにその使用人はクビ。
かーらーの、可哀想になぁ……俺が守ってやんよ!!と王子様ムーヴ。
めでたくしまっちゃおーねーと腕の中。にっこり。
そのまま手込めにしてしまい、逃がさない口実を作った。にっこり。
子供?嫁より大事なもんは無いけど、嫁と似てたら可愛がるかも。
見た目は嫁で術式自分のならもうにっっこり。
そう願掛けしながらお腹を撫でる(呪い)
逃 が さ な い (呪縛)
・出遅れた悟くん
気付いた時には計画犯が。
疑われていたから庇うと共謀扱いで悪化していくので夜蛾と共にどうにかしなきゃと色々手回ししていたら王子様ムーヴかまされ連れ去られちゃった。
幸せそうだし、やり方はクソだが辛い時に側に居たのも無実に出来たのも直哉なので黙るしかなかった。
次は無い。泣かせたらブッ殺☆
・メスを尖らす硝子ちゃん
あの子が幸せならそれでいいと思っているが、
次はない。
3ヶ条を心に刻め。
一つでも破れば2度と使い物になると思うなよ。
・教祖様
………………ニコリ。