呪縛
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「名前ちゃん」
腹が立つ。腹が立つ。
俺だけ見とればええのに。
俺だけ頼ればええのに。
「……直哉様」
その目は俺だけ映せばええ。
その口は俺だけ呼べばええ。
その耳は俺だけの声を聞けばええ。
名前ちゃんの世界は俺だけでええ。
狂おしい程愛しとんのに……なぜ?
無事……と言えるかわからないが、終わった交流会。
「お疲れ様、名前ちゃん」
「……お疲れ様でした。直哉様」
何と声を掛けたら良いかわからない。
多分……今の直哉様に何を言っても嫌味になるだろうから。
お互い無言となってしまう。
おかしいな……私、直哉様と今までどうやって話していただろう?
「悟君と傑君……やったか?」
「えっ?」
「強いなぁ、そっちの二人」
「は、はい!とても自慢の同期のお二人で…」
「そか」
再び途切れた会話。
私は緊張しながら……直哉様を見上げた。
「あの……直哉様」
「なん?」
「私……まだ、東京の高専に居たい、です!」
少しだけ、勇気を出した。
傑くんの言っていた"普通"が羨ましくて。
直哉様が私を気に入ってくれているのなら……私の気持ちを汲み取って欲しくて。
「まだまだ、直哉様の為にならないかもしれませんがっ!!
私は今、私に出来ることを学びたい」
禪院家だけじゃ学べない事があった。
自分一人でわからないままでも、仲間と共に学ぶ楽しさがあった。
「悟くんと、傑くんと、硝子ちゃんと一緒に居たいんです……っ。
私の……初めての、友達…ですからっ」
初めて、友達と言って貰えた。
初めて、仲間と言って貰えた。
「だから……あの、私っ」
「……だから何?」
「……え?」
小さく呟かれ、聞き取れなかった。
表情無く此方を見る直哉様に背筋がゾクリと冷える。
「ええよ」
パッ、と無表情が消えてニッコリと笑っていた。
「名前ちゃんがそこまで言うならええよ」「……直哉様っ」
「なん?そない泣きそうな顔して。
俺がさっき帰って来ぃ言うたから?」
「いいん、ですか?」
「ええよ。俺の為に頑張ってくれとるんやろ?」
「直哉様……ありがとう、ございますっ」
良かった。
私はまだ、直哉様に必要とされている。
直哉様は私を撫でて顔を寄せる。
「俺の事、忘れたらアカンよ」
「忘れません。あ、連絡先!」
「あぁ、せやな」
直哉様と連絡先を交換出来てホッとする。
「浮気はアカンよ」
「私には直哉様だけです」
「ん……可愛えね。ええ子」
この後、悟くん、傑くん、硝子ちゃんと時間ギリギリまで観光をして楽しんだ。
直哉様も、私の事を思っていてくれていた。
難しく考えすぎたんだ。
悟くんも傑くんも硝子ちゃんも心配性だから、私が頼りないばかりに心配させ過ぎてしまったんだ。
大丈夫。
私は直哉様が好きだ。
直哉様もまだ私を好きでいてくれる。
何も心配する事は無い……はず、なのに。
どうして心のヒビは直らないんだろう?
交流戦後から毎日直哉様へ1日の出来事を送るようになった。
直哉様の日々の様子を聞いたり、電話したり。
東京の高専はとても楽しい。
私が私らしく居られて。
傑くんも、硝子ちゃんも、悟くんも。
皆優しくて、楽しくて、居心地が良かった。
「結」
結界で呪霊を祓う。
悟くんと傑くんとの鍛練のお陰で今までよりも正確に、確実に祓う事が出来るようになってきた。
「お疲れ様、名前」
「傑くん」
「それ、私が取り込んでも?」
「はい。大丈夫です」
呪霊を動けなくするため結界を解く。
傑くんが呪霊に手を向けると、呪霊は黒い玉のようになった。
それを口の中へ。
ごくり、と飲み込む姿を見ていれば傑くんが頭を傾げた。
「どうかしたかい?」
「……いつ見ていても飲み込み辛そうだな、と思いまして」
「大きさかい?まぁ、飲み込みやすくは無いかな」
苦笑する傑くん。
大きさを変えることは出来なさそうなので仕方ないのだろう。
「慣れてしまったから大丈夫だよ」
「ツルッと飲めたらいいんですけどね」
「ふふ…ゼリーみたいに、かい?」
「今度包んで……窒息しそうですね」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
くすくすと笑って撫でられる。
お世話になっているからこそどうにかしてみたいのだが……
そこでふと、思い付く。
「傑くん」
「どうかしたかい?」
「試してみたいことがあるんですが」
「?」
高専に戻り、私と傑くんは二人で顔をしかめている。
その理由は目の前の黒い玉。
「難しくないかい?」
「理論的に言えばいけるかと……」
「聞いた時は驚いたが」
「糸状に出来るのなら丸もこう……気合いで!!」
結!!と意気込んだものの、黒い玉を囲う立方体。
「……飲み込み辛さが増しました」
「ふっ……くくっ」
「どうぞお笑いください……」
意気込んで普通の結界……。笑うしかない。
丸く……とイメージするものの、なかなかうまくいかない。
「うーん……」
「無理しなくていいよ?」
「いえ!私の新しい課題ですから!」
出来ることが増えれば役立つ事もある。
「悟くんの攻撃受けていて少し考えたんです。立方体で受けるより球のような形の方が攻撃を受け流しやすいのではないかな?と」
「確かに…」
「固さや軟らかさが調節可能ならば、形もどうにか出来ないかな?と」
「で、私の呪霊で練習を?」
「最終的に身体を覆う球が出来るなら目指したいのですが……そもそも立方体から球へ、なんて難易度が高すぎて……」
まずは小さい物から球で囲えるようになりたい。
その為には一番身近な玉の練習台は傑くんの呪霊玉がいいかな、と思い付いたのだった。
「これで成功したら傑くんも少し楽になれるかな……と思ったりしたんです」
「私が?」
「傑くんは取り込まなくちゃ使役出来ないって言っていたので……」
「?」
「毎回毎回美味しそうに見えない物を飲み込むのは辛くないですか?
私が結界で包んだものを飲み込めばせめてのど越しと味くらいはどうにかならないかな、と思いまして……」
「……は?」
ポカン……とした傑くん。
どうかしたのだろうか?
私は変な事を言ってしまっただろうか……と不安になってくる。
「……どうして、味を?」
「見た目からして美味しくなさそうですが……」
黒く禍々しいソレ。
どう見ても美味しそうには見えない。
「あっ、意外と無味なんですか?」
「いや……美味しくは、ないかな」
「ですよね。……中身が羊羮だったらいいんですが」
爪楊枝などでプチッと膜を割り、中から出てくるマリモ羊羮のように、この玉を結界で囲い飲み込んだ後に解けば取り込んだ時に嫌な味感じないかな?と思ってみたが……
「すぐに上手くいきませんね。
出来の悪い私がすぐに出来るならお父さんも出来ていただろうし」
傑くんからの反応がない。
どうしたのかと手元から目を離すと、目を見開いてこちらを見ている傑くん。
「傑くん?どうかしました?」
「……何で、そこまで?」
「私の為、です。
私……もっと頑張らなきゃいけなくて。
まだ今は悟くんや傑くんや硝子ちゃんの手を借りなきゃ弱いし使い物にすらならないですが……いつか、三人と一緒に肩を並べたいんです」
「………」
「あっ!勿論肩を並べられる、なんて思っていません!えーっと……そう、なりたいとは思ってますが……私の術式って役に立たないですし」
それでも、今回直哉様と会ってより身を引き締めなくては、と思った。
私が自分で頑張ったのに、と思う程度ではまだまだ足りない。
悟くんも傑くんも硝子ちゃんも私には甘い所があるから、三人の言葉に甘えて自分を甘やかすのは良くないのだと思った。
「最終目標は身体全体を球で囲うことです。
傑くんの呪霊玉は最初の課題でしかない……それに成功して、初めて傑くんの為にもなるかもしれませんが、まだまだ目指す目標の第一歩です。
私の為……が、傑くんの為にもなるなら……喜ばしい事ではありますが、ご覧の通り……理想ばかりで現実はこれっぽっちも進展していませんので……その……」
期待はしないで欲しい……と目で訴える。
理論的には可能かもしれないが……と考えて、ふと大事な事に気付く。
「……傑くん、どうしましょう」
「なんだい?」
「そもそも空間を固定する術式なのに、呪霊玉をここに固定した結界……なら、球に出来ても飲み込めない可能性が……!!」
なんてこった。
球にする事ばかり考えていたが……
「持ち運べる結界を勉強すべきでしょうか……?それとも、まずは球から……?」
新たな問題に頭を抱えてしまう。
私の結界は持ち運べない。
「……大見得切った私をどうぞ罵ってお笑いください…」
「……くっ、くっくっくっくっ」
ほ、本当に笑われた……。
傑くんが口元を隠しながら笑うので、少しショックを受ける。
いや……思い付きから試してみたからこそ、気付けて良かったと言うべきなのか…。
「心強いよ。名前が成功する事を祈ってる」
「……期待はしないでください」
「する。名前なら出来そうだからね」
「ううぅぅ…」
目を細めて笑う傑くんはどこか嬉しそうで……。同時に、どこか寂しそうに見えた。
その理由が何なのかわからないが……私は私の為に頑張ろうとまずは黒い呪霊玉と向き合う事に。
「……あっ!!
円柱にして一気にストトトッっと流し込むのはいかがでしょう!?」
「ぐっ!!ふふふっ!!ははははっ!!
や、やめてくれ……流石にイッキ…飲みはっ、したく…ないなぁ…っ」
やけくそになったら声を出して笑われた。
似たような大きさのボールを探し、球にする練習を始めて1ヶ月……
なんとか球にすることに成功した。
「凄いね。ぴったりだ」
「持ち運びの移動……は出来ないんですが」
円柱のような通路を作り、傾ければ呪霊の玉は転がる。
「傑くんの口に運んだ瞬間に球にして飲み込めば成功ですかね?」
「アトラクションのような飲み込み方になるね」
「ごめんなさい」
「いや、やってみようか」
コロコロと転がし、口を開けた傑くんの口元へ。
口の中に入った瞬間球へと戻し、ごくりと喉が動いた瞬間に結界を解く。
口元を押さえながら黙り込んだ傑くん。
「どう……ですかね?」
「……味がしなかった」
「!!」
成功だ!と喜ぼうとしたのだが、傑くんに抱き込まれて身動きが取れなくなる。
「すっ、傑くん!?」
「……ありがとうっ」
「え……?」
「ありがとう……名前」
何かに耐えるように。
何かを堪えるように。
小さく震えながらも、力強く抱き締められた。
「……傑くん?」
「……ごめん。今は、このままで」
傑くんは強くて、優しくて、真面目で、真っ直ぐで……。
悩みなんて、無いと思っていた。
私なんかじゃ助けになれないし、いつも足手まといで迷惑ばかりかけていて申し訳ないと思っていた。
「私、傑くんの役に立てました?」
「……あぁ」
男の人が泣くなんて、始めてで……。
どうしたらいいのかわからない。
けど、傑くんも私と同じ年齢の子供なんだ、と思うと……傑くんなりの悩みだってあったのかもしれない。
悟くんも傑くんも硝子ちゃんも。
私が思っているよりも子供で、悩み事を抱えながら生きている一人なのかな?と思えば……
途端に、彼らとの距離が近付いた気がした。
私が私の事で悩むように
彼らも彼らなりに自分の事で悩む。
凄い人だから悩みなんて無いと勝手に決め付け、自分よりも凄い人だからと勝手に距離をつくって……。
そんなの、皆を見ようとしていなかったのと同じじゃないか。
「ふふ……っ、良かったぁ…っ」
「……何で、名前が泣いて…」
「私、傑くんの役に……立てるんだぁ」
「……当たり前じゃないか。凄いよ。名前は、とても凄い……私じゃどうにもならなかった事を簡単に解決してくれたんだから」
「へへっ」
傑くんと抱き合って二人でボロボロ涙を流した。
「うわっ!?何事?」
「どんな状況?」
私と傑くんを見つけた悟くんと硝子ちゃんが二人で目を見開く。
私はいつものことだが、傑くんが泣いているこの状況に想像がつかないのだろう。
「……名前に泣かされたんだ」
「泣かしちゃいました」
「「は?」」
「私はもう名前無しでは生きていけない身体になってしまったよ」
「はぁ!?」
「何したの?術式の練習してたんじゃ?」
詰め寄る悟くん。
涙を拭い、しー、と口元に指を当てる傑くんは子供みたいな表情で笑っていた。
私でも誰かの役に立てるんだ、と自信を持てた。
直哉様の為に何か役立てると思えば頑張れた。
私でも直哉様の隣に立てる理由が出来る。
そうすればきっと直哉様だって認めてくれる。
お飾りでもなく
甘やかされるだけでもなく
恥ずべき婚約者ではない
自信を持って直哉様の隣に立ちたい。
そう、思えるようになっていた。
「最近の名前、調子いいじゃん」
「本当ですか!!」
悟くんから褒められる。
悟くんの術式に耐えられる程成長したわけじゃないが、自分の術式に自信を持てるようになったのは大きいかもしれない。
「悪戯しても結界安定してきてるし、的確」
「大きい呪霊前にしても祓うの早くなったね」
「反転術式もいい感じだよ」
大好きな、憧れの三人に褒められたら……頬が緩んでしまう。
嬉しくなってニヤニヤとしていれば、三人はじっと此方を見ていた。
「すいません……お見苦しい顔を……っ」
「可愛いから大丈夫だよ」
「傑くんは褒め上手ですね」
「おや?心から思っているよ?」
「傑、近くね?」
「嫉妬かい?ヤキモチはカッコ悪いよ?悟」
「OK。オマエは俺を怒らせた。今すぐ拳で語り合おうぜ」
「ははは。一人で語っててくれないか?」
「名前間に挟むな。困ってるぞ」
硝子ちゃんに救出され、喧嘩……というか組み手を始めた二人。
「どんな考えの変わり方したんだ?」
「……私は私の事ばかり考えていました。
けど、私と同じように皆も自分の事で悩む事があるのかな?って思うと……少し楽になりました」
「当たり前じゃん。私らを鉄人か何かだと思ってたの?」
「……凄い人達だから、悩む事も凄い事で私なんかじゃ手助け出来ないんだろうな…って思ってました」
「"私なんか"」
ビシッ、と硝子ちゃんからデコピンをされる。
いきなりの事と、思いの外痛かった額にプルプル震えてしまう。
「勝手に私らの事祭り上げるな」
「……はい」
「私らだってただの人間。出来ないことは多いし、悩むよ」
「……はい」
「反転術式の為とはいえ、死体見せられて解剖の手伝いさせられるのは毎回キツいし」
「……」
「そんな日はご飯食いたくないけど、腹は減る。
そんな時に凄い優しい味付けのご飯持って来て貰えるって嬉しいよ」
「……え?」
くすり、と笑いながら私と手を繋ぐ硝子ちゃん。
「今度の晩御飯和食がいいな」
「?」
「名前と買い物行きたいし、夜通し話していたい」
「硝子ちゃん……それって、悩み事?」
「悩むよ。名前に予定入ってたら出来ないことだし、名前には迷惑かもしれないだろ?」
「そんな事!!」
「私らの悩みなんてそんなくっだらねぇ事ばっかだよ」
繋いだ手に力が入る。
それに答えるように、硝子ちゃんからも手を繋ぐ力を込められた。
「今度……和食にしますね」
「頼んだ」
「なにそれ?俺には?」
「私も食べたこと無いよ」
少しボロッ……とした二人。
「オマエらが食う飯は無い」
「硝子だけ?ってか名前飯作れんの?」
「一応自炊してます」
「名前、今日のご飯は?」
「えーっと、蓮根入りハンバーグとサラダと卵スープにしようかと」
「は?ハンバーグに蓮根?」
「しゃきしゃきの蓮根の歯ごたえ美味いぞ」
「嘘だね。肉は肉として食うべきだろ」
「名前、私も信じがたいから一口くれないか?変わりに今日の夕飯のさば味噌のさば一口と交換で
「さば味噌……美味しそうです!」
「俺も。俺もさば味噌あるし」
「残念だったね、悟。名前の蓮根ハンバーグは私のだよ」
「ふざけんなよ!」
「馬鹿か、アイツら」
くだらない事で喧嘩を始めた二人に思わず笑ってしまう。
「鍋!!今度鍋やろ」
「いいね。悟にしてはいい考えだ」
「終わったら桃鉄やろーぜ」
「悟……99年はやめてくれよ?」
楽しかった。
初めての友達であり、仲間と呼べる人達と共に笑い合う事が。
今まで出来なかった事をしてみた。
ご飯を作ったり、一緒に食べたり。
映画館や、DVDを借りて夜更かし。
「悟……変なホラーばかりはやめなよ」
「B級のが楽しくね?」
「あの、これ……」
「何コレ?……まじか」
「名前は何選んだん………は?」
「名前ってこんなの好きなの?」
「後ろの説明見たら楽しそうだったので」
ボーリングにダーツにカラオケ。
お菓子パーティーや枕投げ。
四人で徹夜でゲームをして、そのまま寝てしまい皆で遅刻して先生に怒られた。
だからかな?
私は浮かれていた。
私は私の立場を忘れていた。
「名前、オマエの両親から連絡があった。
今すぐ帰って来て欲しいと……父親が倒れたらしい」
あとがき
直哉君めちゃくちゃジジィと同じ術式じゃーん。若い分絶対強い……。
結界で呪霊玉包むのはご都合的なアレだと思ってください。
・桃鉄4位名前ちゃん
選んだ映画は「ハン○オーバー」
この日、全員で爆笑して翌日には続き借りに行った。
料理は花嫁修業で頑張った。
・桃鉄3位悟くん
選んだ映画は「仄暗い○の底から」
名前ちゃんの隣に居たので引っ付かれて無神を装ったが片手でガッツポーズした。
ダーツとボーリングしてたら女子に声を掛けられる。
・桃鉄2位傑くん
選んだ映画は「天空の城ラ○ュタ」
癒しが欲しかった。そして悟くんと名前ちゃんはジブリにハマった。
今度は名前ちゃんの隣でガチホラー見ると決めた。
・桃鉄1位硝子ちゃん
選んだ映画は「ワイルド・○ピード」
単純に見逃していたから。
今度のご飯は何にしようか考え中。
・ハンカチギリギリ直哉くん
嫉妬ぉぉおおおおお!!!!!(200%)
腹が立つ。腹が立つ。
俺だけ見とればええのに。
俺だけ頼ればええのに。
「……直哉様」
その目は俺だけ映せばええ。
その口は俺だけ呼べばええ。
その耳は俺だけの声を聞けばええ。
名前ちゃんの世界は俺だけでええ。
狂おしい程愛しとんのに……なぜ?
無事……と言えるかわからないが、終わった交流会。
「お疲れ様、名前ちゃん」
「……お疲れ様でした。直哉様」
何と声を掛けたら良いかわからない。
多分……今の直哉様に何を言っても嫌味になるだろうから。
お互い無言となってしまう。
おかしいな……私、直哉様と今までどうやって話していただろう?
「悟君と傑君……やったか?」
「えっ?」
「強いなぁ、そっちの二人」
「は、はい!とても自慢の同期のお二人で…」
「そか」
再び途切れた会話。
私は緊張しながら……直哉様を見上げた。
「あの……直哉様」
「なん?」
「私……まだ、東京の高専に居たい、です!」
少しだけ、勇気を出した。
傑くんの言っていた"普通"が羨ましくて。
直哉様が私を気に入ってくれているのなら……私の気持ちを汲み取って欲しくて。
「まだまだ、直哉様の為にならないかもしれませんがっ!!
私は今、私に出来ることを学びたい」
禪院家だけじゃ学べない事があった。
自分一人でわからないままでも、仲間と共に学ぶ楽しさがあった。
「悟くんと、傑くんと、硝子ちゃんと一緒に居たいんです……っ。
私の……初めての、友達…ですからっ」
初めて、友達と言って貰えた。
初めて、仲間と言って貰えた。
「だから……あの、私っ」
「……だから何?」
「……え?」
小さく呟かれ、聞き取れなかった。
表情無く此方を見る直哉様に背筋がゾクリと冷える。
「ええよ」
パッ、と無表情が消えてニッコリと笑っていた。
「名前ちゃんがそこまで言うならええよ」「……直哉様っ」
「なん?そない泣きそうな顔して。
俺がさっき帰って来ぃ言うたから?」
「いいん、ですか?」
「ええよ。俺の為に頑張ってくれとるんやろ?」
「直哉様……ありがとう、ございますっ」
良かった。
私はまだ、直哉様に必要とされている。
直哉様は私を撫でて顔を寄せる。
「俺の事、忘れたらアカンよ」
「忘れません。あ、連絡先!」
「あぁ、せやな」
直哉様と連絡先を交換出来てホッとする。
「浮気はアカンよ」
「私には直哉様だけです」
「ん……可愛えね。ええ子」
この後、悟くん、傑くん、硝子ちゃんと時間ギリギリまで観光をして楽しんだ。
直哉様も、私の事を思っていてくれていた。
難しく考えすぎたんだ。
悟くんも傑くんも硝子ちゃんも心配性だから、私が頼りないばかりに心配させ過ぎてしまったんだ。
大丈夫。
私は直哉様が好きだ。
直哉様もまだ私を好きでいてくれる。
何も心配する事は無い……はず、なのに。
どうして心のヒビは直らないんだろう?
交流戦後から毎日直哉様へ1日の出来事を送るようになった。
直哉様の日々の様子を聞いたり、電話したり。
東京の高専はとても楽しい。
私が私らしく居られて。
傑くんも、硝子ちゃんも、悟くんも。
皆優しくて、楽しくて、居心地が良かった。
「結」
結界で呪霊を祓う。
悟くんと傑くんとの鍛練のお陰で今までよりも正確に、確実に祓う事が出来るようになってきた。
「お疲れ様、名前」
「傑くん」
「それ、私が取り込んでも?」
「はい。大丈夫です」
呪霊を動けなくするため結界を解く。
傑くんが呪霊に手を向けると、呪霊は黒い玉のようになった。
それを口の中へ。
ごくり、と飲み込む姿を見ていれば傑くんが頭を傾げた。
「どうかしたかい?」
「……いつ見ていても飲み込み辛そうだな、と思いまして」
「大きさかい?まぁ、飲み込みやすくは無いかな」
苦笑する傑くん。
大きさを変えることは出来なさそうなので仕方ないのだろう。
「慣れてしまったから大丈夫だよ」
「ツルッと飲めたらいいんですけどね」
「ふふ…ゼリーみたいに、かい?」
「今度包んで……窒息しそうですね」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
くすくすと笑って撫でられる。
お世話になっているからこそどうにかしてみたいのだが……
そこでふと、思い付く。
「傑くん」
「どうかしたかい?」
「試してみたいことがあるんですが」
「?」
高専に戻り、私と傑くんは二人で顔をしかめている。
その理由は目の前の黒い玉。
「難しくないかい?」
「理論的に言えばいけるかと……」
「聞いた時は驚いたが」
「糸状に出来るのなら丸もこう……気合いで!!」
結!!と意気込んだものの、黒い玉を囲う立方体。
「……飲み込み辛さが増しました」
「ふっ……くくっ」
「どうぞお笑いください……」
意気込んで普通の結界……。笑うしかない。
丸く……とイメージするものの、なかなかうまくいかない。
「うーん……」
「無理しなくていいよ?」
「いえ!私の新しい課題ですから!」
出来ることが増えれば役立つ事もある。
「悟くんの攻撃受けていて少し考えたんです。立方体で受けるより球のような形の方が攻撃を受け流しやすいのではないかな?と」
「確かに…」
「固さや軟らかさが調節可能ならば、形もどうにか出来ないかな?と」
「で、私の呪霊で練習を?」
「最終的に身体を覆う球が出来るなら目指したいのですが……そもそも立方体から球へ、なんて難易度が高すぎて……」
まずは小さい物から球で囲えるようになりたい。
その為には一番身近な玉の練習台は傑くんの呪霊玉がいいかな、と思い付いたのだった。
「これで成功したら傑くんも少し楽になれるかな……と思ったりしたんです」
「私が?」
「傑くんは取り込まなくちゃ使役出来ないって言っていたので……」
「?」
「毎回毎回美味しそうに見えない物を飲み込むのは辛くないですか?
私が結界で包んだものを飲み込めばせめてのど越しと味くらいはどうにかならないかな、と思いまして……」
「……は?」
ポカン……とした傑くん。
どうかしたのだろうか?
私は変な事を言ってしまっただろうか……と不安になってくる。
「……どうして、味を?」
「見た目からして美味しくなさそうですが……」
黒く禍々しいソレ。
どう見ても美味しそうには見えない。
「あっ、意外と無味なんですか?」
「いや……美味しくは、ないかな」
「ですよね。……中身が羊羮だったらいいんですが」
爪楊枝などでプチッと膜を割り、中から出てくるマリモ羊羮のように、この玉を結界で囲い飲み込んだ後に解けば取り込んだ時に嫌な味感じないかな?と思ってみたが……
「すぐに上手くいきませんね。
出来の悪い私がすぐに出来るならお父さんも出来ていただろうし」
傑くんからの反応がない。
どうしたのかと手元から目を離すと、目を見開いてこちらを見ている傑くん。
「傑くん?どうかしました?」
「……何で、そこまで?」
「私の為、です。
私……もっと頑張らなきゃいけなくて。
まだ今は悟くんや傑くんや硝子ちゃんの手を借りなきゃ弱いし使い物にすらならないですが……いつか、三人と一緒に肩を並べたいんです」
「………」
「あっ!勿論肩を並べられる、なんて思っていません!えーっと……そう、なりたいとは思ってますが……私の術式って役に立たないですし」
それでも、今回直哉様と会ってより身を引き締めなくては、と思った。
私が自分で頑張ったのに、と思う程度ではまだまだ足りない。
悟くんも傑くんも硝子ちゃんも私には甘い所があるから、三人の言葉に甘えて自分を甘やかすのは良くないのだと思った。
「最終目標は身体全体を球で囲うことです。
傑くんの呪霊玉は最初の課題でしかない……それに成功して、初めて傑くんの為にもなるかもしれませんが、まだまだ目指す目標の第一歩です。
私の為……が、傑くんの為にもなるなら……喜ばしい事ではありますが、ご覧の通り……理想ばかりで現実はこれっぽっちも進展していませんので……その……」
期待はしないで欲しい……と目で訴える。
理論的には可能かもしれないが……と考えて、ふと大事な事に気付く。
「……傑くん、どうしましょう」
「なんだい?」
「そもそも空間を固定する術式なのに、呪霊玉をここに固定した結界……なら、球に出来ても飲み込めない可能性が……!!」
なんてこった。
球にする事ばかり考えていたが……
「持ち運べる結界を勉強すべきでしょうか……?それとも、まずは球から……?」
新たな問題に頭を抱えてしまう。
私の結界は持ち運べない。
「……大見得切った私をどうぞ罵ってお笑いください…」
「……くっ、くっくっくっくっ」
ほ、本当に笑われた……。
傑くんが口元を隠しながら笑うので、少しショックを受ける。
いや……思い付きから試してみたからこそ、気付けて良かったと言うべきなのか…。
「心強いよ。名前が成功する事を祈ってる」
「……期待はしないでください」
「する。名前なら出来そうだからね」
「ううぅぅ…」
目を細めて笑う傑くんはどこか嬉しそうで……。同時に、どこか寂しそうに見えた。
その理由が何なのかわからないが……私は私の為に頑張ろうとまずは黒い呪霊玉と向き合う事に。
「……あっ!!
円柱にして一気にストトトッっと流し込むのはいかがでしょう!?」
「ぐっ!!ふふふっ!!ははははっ!!
や、やめてくれ……流石にイッキ…飲みはっ、したく…ないなぁ…っ」
やけくそになったら声を出して笑われた。
似たような大きさのボールを探し、球にする練習を始めて1ヶ月……
なんとか球にすることに成功した。
「凄いね。ぴったりだ」
「持ち運びの移動……は出来ないんですが」
円柱のような通路を作り、傾ければ呪霊の玉は転がる。
「傑くんの口に運んだ瞬間に球にして飲み込めば成功ですかね?」
「アトラクションのような飲み込み方になるね」
「ごめんなさい」
「いや、やってみようか」
コロコロと転がし、口を開けた傑くんの口元へ。
口の中に入った瞬間球へと戻し、ごくりと喉が動いた瞬間に結界を解く。
口元を押さえながら黙り込んだ傑くん。
「どう……ですかね?」
「……味がしなかった」
「!!」
成功だ!と喜ぼうとしたのだが、傑くんに抱き込まれて身動きが取れなくなる。
「すっ、傑くん!?」
「……ありがとうっ」
「え……?」
「ありがとう……名前」
何かに耐えるように。
何かを堪えるように。
小さく震えながらも、力強く抱き締められた。
「……傑くん?」
「……ごめん。今は、このままで」
傑くんは強くて、優しくて、真面目で、真っ直ぐで……。
悩みなんて、無いと思っていた。
私なんかじゃ助けになれないし、いつも足手まといで迷惑ばかりかけていて申し訳ないと思っていた。
「私、傑くんの役に立てました?」
「……あぁ」
男の人が泣くなんて、始めてで……。
どうしたらいいのかわからない。
けど、傑くんも私と同じ年齢の子供なんだ、と思うと……傑くんなりの悩みだってあったのかもしれない。
悟くんも傑くんも硝子ちゃんも。
私が思っているよりも子供で、悩み事を抱えながら生きている一人なのかな?と思えば……
途端に、彼らとの距離が近付いた気がした。
私が私の事で悩むように
彼らも彼らなりに自分の事で悩む。
凄い人だから悩みなんて無いと勝手に決め付け、自分よりも凄い人だからと勝手に距離をつくって……。
そんなの、皆を見ようとしていなかったのと同じじゃないか。
「ふふ……っ、良かったぁ…っ」
「……何で、名前が泣いて…」
「私、傑くんの役に……立てるんだぁ」
「……当たり前じゃないか。凄いよ。名前は、とても凄い……私じゃどうにもならなかった事を簡単に解決してくれたんだから」
「へへっ」
傑くんと抱き合って二人でボロボロ涙を流した。
「うわっ!?何事?」
「どんな状況?」
私と傑くんを見つけた悟くんと硝子ちゃんが二人で目を見開く。
私はいつものことだが、傑くんが泣いているこの状況に想像がつかないのだろう。
「……名前に泣かされたんだ」
「泣かしちゃいました」
「「は?」」
「私はもう名前無しでは生きていけない身体になってしまったよ」
「はぁ!?」
「何したの?術式の練習してたんじゃ?」
詰め寄る悟くん。
涙を拭い、しー、と口元に指を当てる傑くんは子供みたいな表情で笑っていた。
私でも誰かの役に立てるんだ、と自信を持てた。
直哉様の為に何か役立てると思えば頑張れた。
私でも直哉様の隣に立てる理由が出来る。
そうすればきっと直哉様だって認めてくれる。
お飾りでもなく
甘やかされるだけでもなく
恥ずべき婚約者ではない
自信を持って直哉様の隣に立ちたい。
そう、思えるようになっていた。
「最近の名前、調子いいじゃん」
「本当ですか!!」
悟くんから褒められる。
悟くんの術式に耐えられる程成長したわけじゃないが、自分の術式に自信を持てるようになったのは大きいかもしれない。
「悪戯しても結界安定してきてるし、的確」
「大きい呪霊前にしても祓うの早くなったね」
「反転術式もいい感じだよ」
大好きな、憧れの三人に褒められたら……頬が緩んでしまう。
嬉しくなってニヤニヤとしていれば、三人はじっと此方を見ていた。
「すいません……お見苦しい顔を……っ」
「可愛いから大丈夫だよ」
「傑くんは褒め上手ですね」
「おや?心から思っているよ?」
「傑、近くね?」
「嫉妬かい?ヤキモチはカッコ悪いよ?悟」
「OK。オマエは俺を怒らせた。今すぐ拳で語り合おうぜ」
「ははは。一人で語っててくれないか?」
「名前間に挟むな。困ってるぞ」
硝子ちゃんに救出され、喧嘩……というか組み手を始めた二人。
「どんな考えの変わり方したんだ?」
「……私は私の事ばかり考えていました。
けど、私と同じように皆も自分の事で悩む事があるのかな?って思うと……少し楽になりました」
「当たり前じゃん。私らを鉄人か何かだと思ってたの?」
「……凄い人達だから、悩む事も凄い事で私なんかじゃ手助け出来ないんだろうな…って思ってました」
「"私なんか"」
ビシッ、と硝子ちゃんからデコピンをされる。
いきなりの事と、思いの外痛かった額にプルプル震えてしまう。
「勝手に私らの事祭り上げるな」
「……はい」
「私らだってただの人間。出来ないことは多いし、悩むよ」
「……はい」
「反転術式の為とはいえ、死体見せられて解剖の手伝いさせられるのは毎回キツいし」
「……」
「そんな日はご飯食いたくないけど、腹は減る。
そんな時に凄い優しい味付けのご飯持って来て貰えるって嬉しいよ」
「……え?」
くすり、と笑いながら私と手を繋ぐ硝子ちゃん。
「今度の晩御飯和食がいいな」
「?」
「名前と買い物行きたいし、夜通し話していたい」
「硝子ちゃん……それって、悩み事?」
「悩むよ。名前に予定入ってたら出来ないことだし、名前には迷惑かもしれないだろ?」
「そんな事!!」
「私らの悩みなんてそんなくっだらねぇ事ばっかだよ」
繋いだ手に力が入る。
それに答えるように、硝子ちゃんからも手を繋ぐ力を込められた。
「今度……和食にしますね」
「頼んだ」
「なにそれ?俺には?」
「私も食べたこと無いよ」
少しボロッ……とした二人。
「オマエらが食う飯は無い」
「硝子だけ?ってか名前飯作れんの?」
「一応自炊してます」
「名前、今日のご飯は?」
「えーっと、蓮根入りハンバーグとサラダと卵スープにしようかと」
「は?ハンバーグに蓮根?」
「しゃきしゃきの蓮根の歯ごたえ美味いぞ」
「嘘だね。肉は肉として食うべきだろ」
「名前、私も信じがたいから一口くれないか?変わりに今日の夕飯のさば味噌のさば一口と交換で
「さば味噌……美味しそうです!」
「俺も。俺もさば味噌あるし」
「残念だったね、悟。名前の蓮根ハンバーグは私のだよ」
「ふざけんなよ!」
「馬鹿か、アイツら」
くだらない事で喧嘩を始めた二人に思わず笑ってしまう。
「鍋!!今度鍋やろ」
「いいね。悟にしてはいい考えだ」
「終わったら桃鉄やろーぜ」
「悟……99年はやめてくれよ?」
楽しかった。
初めての友達であり、仲間と呼べる人達と共に笑い合う事が。
今まで出来なかった事をしてみた。
ご飯を作ったり、一緒に食べたり。
映画館や、DVDを借りて夜更かし。
「悟……変なホラーばかりはやめなよ」
「B級のが楽しくね?」
「あの、これ……」
「何コレ?……まじか」
「名前は何選んだん………は?」
「名前ってこんなの好きなの?」
「後ろの説明見たら楽しそうだったので」
ボーリングにダーツにカラオケ。
お菓子パーティーや枕投げ。
四人で徹夜でゲームをして、そのまま寝てしまい皆で遅刻して先生に怒られた。
だからかな?
私は浮かれていた。
私は私の立場を忘れていた。
「名前、オマエの両親から連絡があった。
今すぐ帰って来て欲しいと……父親が倒れたらしい」
あとがき
直哉君めちゃくちゃジジィと同じ術式じゃーん。若い分絶対強い……。
結界で呪霊玉包むのはご都合的なアレだと思ってください。
・桃鉄4位名前ちゃん
選んだ映画は「ハン○オーバー」
この日、全員で爆笑して翌日には続き借りに行った。
料理は花嫁修業で頑張った。
・桃鉄3位悟くん
選んだ映画は「仄暗い○の底から」
名前ちゃんの隣に居たので引っ付かれて無神を装ったが片手でガッツポーズした。
ダーツとボーリングしてたら女子に声を掛けられる。
・桃鉄2位傑くん
選んだ映画は「天空の城ラ○ュタ」
癒しが欲しかった。そして悟くんと名前ちゃんはジブリにハマった。
今度は名前ちゃんの隣でガチホラー見ると決めた。
・桃鉄1位硝子ちゃん
選んだ映画は「ワイルド・○ピード」
単純に見逃していたから。
今度のご飯は何にしようか考え中。
・ハンカチギリギリ直哉くん
嫉妬ぉぉおおおおお!!!!!(200%)