呪縛
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「「「「交流戦?」」」」
近々開催かれる日本に2校しかない呪術高専の催し物らしい。
「今年は2、3年が京都校よりも少ないから悟、傑。オマエ達に参加資格が与えられた」
「硝子や名前は?」
「硝子は回復要員だ。来年も出ない。
名前だが………」
チラリ、と真横を見る先生。
そこには大きな穴。
そして私の式神達がせっせと穴を塞いでいる。
「出せるレベルではない」
「……ごめんなさい」
修行と言いながら結界の中に結界を作ってみたりしていて……何を思ったのか、突然悟くんに脇腹をつつかれ久々に驚き壁を破壊した。
「交流戦は今年は京都で行う」
「今年は?」
「毎年勝った方の学校で行っている」
「は?ってことは去年負けたのかよ。ダサッ」
「悟、先輩達のコンディションが良くなかったのかもしれないよ?残念だが」
「……いいか?オマエ達。
くれぐれも……くれぐれも!!暴れすぎるなよ。
同じ呪術師同士だ。仲良くやれとは言わないが……」
「はいはい。かるーっくやればいいんでしょ?手加減ね、手加減」
「悟、そんなハッキリ手加減されたら相手も可哀想だろ?」
「俺らに敵うやついると思う?」
「さあ?楽しめる相手くらいはいるんじゃないかな?」
楽しそうに笑う悟くんと傑くん。
「先生、質問」
「どうした?硝子」
「名前一人で居残り?」
悟くんと傑くんは参加が決まっている。
硝子ちゃんは回復要員。
私は戦闘に参加も出来ないし、回復要員にしては心許ない。
「いや、連れていく。
向こうから……禪院家の者が名前を連れて来て欲しいと」
「直哉様が?」
どうしたのだろう?と思ったが
直哉様なりに気をつかってくれたのだろうか?
「いいか?」
「あの、でも……私まだ成功率が…」
「硝子の指導で反転術式の成功率は上がっているのだろう?なら、今回も反転術式の勉強と経験として考えておきなさい」
「…ありがとうございます」
認められている、と思っていいのだろうか。
まだまだ硝子ちゃんのようにうまく行かない時もあるが、独学よりはずっと上達している。
「名前、本当にいいの?」
「あ……やっぱり、私邪魔ですか?」
「そこじゃなくて婚約者」
「直哉様?」
「また何かされたらどうするんだ?」
心配そうな顔をした硝子ちゃんに傑くん。
この数ヶ月で本当に二人からは良くしてもらっている。
だからこそ、心配してくれているのだろう。
「大丈夫ですよ、硝子ちゃん、傑くん。
私も直哉様と会いたいですし、今回会うといっても皆様がいます。
直哉様の会いたい理由も私との連絡手段のお話や私がきちんとしているかどうかですよ」
「……名前、絶対一人で居ないこと」
「私や硝子の側から離れてはいけないよ?」
「は、はい!」
二人が真面目な顔で何度も言ってくるので、何度も頷く。
何度も心配をかけてしまっているので、世話好きの二人からすれば心配なのだろう。
悟くんは、と見ればボーッとしている。
「悟くん?」
「ん?何」
「ボーッとしていましたが……」
「あぁ、ちょっと考え事していただけ。
名前が心配する事じゃねーよ」
ポンポン、と撫でられる。
いつもならば悟くんも心配して大騒ぎなのに、と思うがどこか落ち着いた様子。
夜蛾先生に呼ばれ、悟くんによって背中を押された。
「悪いことでも考えているのかい?」
「べーつに!」
「名前に気取られるなよ」
「平気平気」
「悪い顔だな」
「名前が見たら泣くぞ」
「見せるわけねーじゃん。
今まで慎重に優しく歩み寄ったのに今更」
「で?何をする気だい?」
「夏油までノリノリじゃん」
「んー?
名前には"俺達"が居る。それだけ伝えられりゃいいかな、と思って」
高専に来てから数ヶ月ぶりの京都。
東京校と似た建物の造り。
先輩達の後を追って、硝子ちゃんと手を繋いで歩く。
「ほら、迷子になるよ」
いつもの高専と似ているが、違った景色に目を奪われる。
京都で迷子になることは無いが、校内で迷子になる可能性はある。
慌てて硝子ちゃんの手を握る力を強めて隣を歩く。
「オマエ達。くれぐれも問題は起こすなよ」
「だってさ、傑」
「悟だろ?」
「悟と傑だ」
「先生ひっどーい!俺達こんなにいい子なのに!!」
「そうですよ。優等生じゃないですか」
「優等生は来るまでの間に一悶着起こさない」
苦笑する先輩方。
そう、この二人……来るまでの間に、新幹線で窓を開けようとしてみたり、立っているだけでナンパされたり、とにかく大変だった。
「ただでさえ遅れてしまっているのに…」
「先生、それを言ったら一番の遅刻の原因は名前でーす。すぐはぐれて迷子じゃん」
「遅刻したのを名前のせいにするなよ悟」
「……ごめんなさい」
そうなのだ。
硝子ちゃんと手を繋ぐ前、私は一人はぐれている。しかもよくわからない内に車に引きずり込まれそうになっていたので……とても迷惑を掛けた。
「いい。気にするな。
聞いてはいたが……まさか目の前で生徒の誘拐を見るとは思っていなかった」
「凄かったからな。まさに鬼」
「見事なフォームで走って行ったね」
ケラケラ笑う悟くんと傑くん。
確かに凄い勢いで先生が走って来てくれたので、周りが驚いて道を開けていたが。
先生のお陰で結果的に、私は何事も無かった。
「さっさとぶっとばして観光しよーぜ」
「こら、悟。もしかしたら少し手強い相手がいるかもしれないだろ?」
「俺達が手こずるような相手ぇ?無いだろ無い無い」
「オマエら……頼むから問題は」
「大丈夫だって。来年はわざわざ面倒臭く足運ばなくて済むよう東京だから」
「今回は観光目的ですよ、先生」
「遅れて来て随分な大口叩いとるなぁ」
ざくざくと足音。
聞き慣れた声。
「泣かすぞ」
黒い学生服に金色の渦巻きボタン。
ジロリと此方を睨み付ける面々。
「あ"?」
「嫌やね、こんくらいで頭に血昇るなんて」
「落ち着くんだ、悟」
「落ち着いてるっつの」
「行く店とルート検索は終わっているからここでの時間のロスは避けたい」
「なるほど」
「どうも、京都の方々。
遅刻した分お時間取らせませんから、出来るならすぐに遊びましょう」
ニッコリ笑う傑くんに、今度は京都の方々の顔に青筋が浮かんでいる。
「悟、傑」
「俺何もしてませーん」
「どうかしましたか?先生」
夜蛾先生に強めに名前を呼ばれるが、いつも通りだ。
先輩達も苦笑している。
そんな先輩達の間から顔を覗かせれば、やはり居た。
「直哉様っ!」
「「「なおや?」」」
硝子ちゃんの手を離して、先輩達の後ろから婚約者の前へ。
私を見て目を細めて笑う直哉様。
「久しいなぁ、名前ちゃん」
「お元気でしたか?」
近寄れば抱き締められて腕の中へ。
もぞもぞと動いて顔を上げるとにっこり笑う直哉様。
私の頬に手を当て、反対の腕は腰を抱いている。
「寂しくて泣いとった?」
「……内緒、です」
「泣いたんか。だから俺と同じ京都にしとったら良かったのになぁ?」
今も夜は少し寂しく感じる時はある。だが、悟くん、傑くん、硝子ちゃんがいるので泣き出してしまうほどではない。
「携帯忘れたやろ」
「ごめんなさい。あ、けど最近お父さんが来て買ってくれました」
「お義父さんが?」
「手形よりも早いから、と。
あとで直哉様の連絡先を教えて貰えますか?」
「当たり前やろ。携帯買うたんなら言わな」
「お恥ずかしながら、扱い方をやっと覚えて…」
メールを打つことすら出来ず、最近やっとまともに変換したり絵文字を送ったり出来るようになったのだ。
その前までは平仮名ばかりでとても読みにくい文章を同級生達は解読してくれていた。
「しゃーないなぁ」
良かった。
今日はあまり機嫌が悪くないらしい。
額、瞼、頬、鼻先。
何度もキスをしながら顎を上に向けられ直哉様の瞳を見上げる。
くすり、と笑って腰を強く抱かれ降りてくる直哉様の顔。
「はい、ストーップ」
「うちの癒し系担当にイカガワシイ事はやめて貰えますか?」
ふにっ、と唇に当たったのは白くて細長い指。
べりっと直哉様の腕を雑に外した悟くんに、ささっと私を抱えて硝子ちゃんの所に連れていく傑くん。
あまりにスムーズな二人にポカンとしたものの、慌てて直哉様を見れば……
「あ"っ?」
額に青筋を浮かばせ、怒っていた。
身体がビクリッと震えて固まる。
「久しぶりの婚約者との逢瀬を部外者が何で邪魔しとんの?」
「目の前で可愛い同級生が喰われそうなら助けるだろ」
「名ばかりの婚約者なら挨拶だけでもういいですよね?」
「はあ?」
「名前、行くよ」
「名前ちゃん」
「っ!!」
直哉様の声に硝子ちゃんに引かれていた足が止まる。
振り向いたら直哉様は此方を睨み付けていた。
怖くて、嫌で、どうしようかと頭が真っ白になる。
私は直哉様の婚約者だから、直哉様の命令には絶対で……逆らうなど、あり得なくて…。
「名前ちゃん、おいで」
声は優しいのに目が、怒っていた。
上手く呼吸が出来なくて苦しくなる。
優しく、大事な硝子ちゃんの手を振り払わなきゃいけないのに……出来なくて。
でも、今すぐに私は直哉様の所に行かなきゃいけなくて。
「ヤバいっ」
「名前、大丈夫かい?名前っ」
おかしいな。
硝子ちゃんの声が、傑くんの声が遠い。
目の前で先輩達すら慌てているのに、私なんで皆の声が聴こえないんだろう?
苦しかったはずなのに、おかしいな。
今、私、苦しくない。
なのに皆大慌てでどうしたの?
大丈夫。大丈夫。
だから、直哉様の所に行かなきゃいけないから、と一歩踏み出そうとしたのに身体が思うように動かない。
「名前」
目の前に広がる空色。
キラキラと星を詰め込み雲と星と大空が広がる瞳。
「ゆっくり。ゆっくり、息吸って吐けるか?」
悟くんの声だけ耳に届く。
悟くんが大きく息を吸うので真似する。
吐き出すのもゆっくり、長く。
「俺だけ見て、俺の声だけ聞いて」
コクコク頷けば、にっ、と笑った。
苦しいのを思い出した身体は、また息を何度も吸おうとする。だが、悟くんが一緒にしゃがんで私と目を合わせてくれた。
「ほら、ちゃんと息吐くの忘れんな」
背中を撫でて苦しさが落ち着いた頃には身体から力が抜ける。
地面に膝をつく前に悟くんに抱き抱えられた。
「寝ろ。すぐ終わるから」
「さとる、くん……」
「起きたら観光しよ。旨いもん食べてお土産買って帰るぞ」
優しい声が耳に響く。
ポンポンっ、と子供を寝かしつけるようにされたら……うとうとと、瞼が落ちる。
悟くんの匂いと暖かさ。
私が苦しい時、いつも空色が助けてくれる……そう思うと安心して意識を落とした。
寝入った名前は顔色が悪く、先程までの過呼吸で汗をかいたのかしっとりと額が濡れている。
途中、呼吸すら出来ずパニックに陥ったくらいだ……気絶してしまうのも無理はない。
抱き上げて抱え直せば心配そうな硝子が名前の腕を取り、脈を測っている。
「先生、終わるまで名前を硝子に預けて寝れる場所ある?」
「医務室を借りれるはずだ」
「ふーん。じゃあそこ案内してもらお。
硝子、見てて」
「あぁ」
「オイ……自分ら名前ちゃんに何した?」
怒りで額に青筋を浮かべ、今にもキレて暴れだしそうな男。
「俺らは何もしてねーよ」
「名前ちゃんは過呼吸なんか一度もなったこと無い。自分らがっ」
「邪魔」
俺に触れようとした手は届かない。
サングラス越しにジロリと見れば向こうも睨み返してくる。
「名前に何かあったらオマエを殺す」
「ハッ!!殺れるん?」
「悟、まずは名前を休ませるのが先だよ」
「おう」
傑に言われて婚約者様から離れる。
何か言いたそうに此方を睨み付けていたが、今は相手にしている暇はない。
「彼が婚約者か」
「相当な執着心だね」
傑と硝子も冷めた目で婚約者を見る。
「オマエ達、何度も言うが」
「平気平気。殺しは無し、だろ?」
「私達だってそのくらいわかってますよ」
「……治せる程度にしておけ」
夜蛾は諦めたように溜め息をついていた。
案内された医務室にそっと名前を寝かせれば、硝子が直ぐに医務室から血圧計や聴診器などを持ってきて名前の制服に手を掛ける。
「何見てんだよ。出てけ」
「何かあったらすぐ知らせろよ」
「わかった」
「硝子、名前をよろしくね」
「オマエらこそアイツによろしく」
ニヤリ、と笑う硝子に俺も傑もニコリと笑う。
「硝子、術式使う準備しといて」
「怪我人何名になるかな」
ヒラヒラと手を振る硝子。
名前の眠るカーテンは閉められた。
さーて、早く終わらせて観光楽しまなきゃ。
「お待たせしました、先輩方」
「ほら、遊ぼうぜ」
あとがき
絶対直哉くんと五条さんは似た世代であってほしい。
希望としては一学年上。
・眠りの国へスヤァな名前ちゃん
直哉様好きだが、脳みそと身体から拒否反応あり。
愛情?友情?家族愛?
さぁ、どうなんでしょう?スヤァ
・久々の直哉くん
久々の婚約者が可愛いっっ!!!
頭お花畑状態のところを見知らぬ男達に邪魔された。オコ(20%)
呼んでも来なかった婚約者にオコ(40%)
過呼吸で自分蚊帳の外にオコ(60%)
見知らぬ男達に威嚇されながら連れていかれたオコ(100%)
嫉妬(100%)
・婚約者蹴り飛ばす係悟くん
へーふーんほーん
アイツがね……拳ベキベキッ
・婚約者ぶん殴る係傑くん
へー……アレが婚約者、か。
拳ベキベキッ
・見守り係硝子ちゃん
許す、やれ
・東京の先輩方
わぁ、お空綺麗……来年は東京かー。
後輩達がコワイヨ……
・京都の先輩方
よくわからないけど、喧嘩売られたな……
よし、クソガキの躾と年上は敬えって教えよ。
近々開催かれる日本に2校しかない呪術高専の催し物らしい。
「今年は2、3年が京都校よりも少ないから悟、傑。オマエ達に参加資格が与えられた」
「硝子や名前は?」
「硝子は回復要員だ。来年も出ない。
名前だが………」
チラリ、と真横を見る先生。
そこには大きな穴。
そして私の式神達がせっせと穴を塞いでいる。
「出せるレベルではない」
「……ごめんなさい」
修行と言いながら結界の中に結界を作ってみたりしていて……何を思ったのか、突然悟くんに脇腹をつつかれ久々に驚き壁を破壊した。
「交流戦は今年は京都で行う」
「今年は?」
「毎年勝った方の学校で行っている」
「は?ってことは去年負けたのかよ。ダサッ」
「悟、先輩達のコンディションが良くなかったのかもしれないよ?残念だが」
「……いいか?オマエ達。
くれぐれも……くれぐれも!!暴れすぎるなよ。
同じ呪術師同士だ。仲良くやれとは言わないが……」
「はいはい。かるーっくやればいいんでしょ?手加減ね、手加減」
「悟、そんなハッキリ手加減されたら相手も可哀想だろ?」
「俺らに敵うやついると思う?」
「さあ?楽しめる相手くらいはいるんじゃないかな?」
楽しそうに笑う悟くんと傑くん。
「先生、質問」
「どうした?硝子」
「名前一人で居残り?」
悟くんと傑くんは参加が決まっている。
硝子ちゃんは回復要員。
私は戦闘に参加も出来ないし、回復要員にしては心許ない。
「いや、連れていく。
向こうから……禪院家の者が名前を連れて来て欲しいと」
「直哉様が?」
どうしたのだろう?と思ったが
直哉様なりに気をつかってくれたのだろうか?
「いいか?」
「あの、でも……私まだ成功率が…」
「硝子の指導で反転術式の成功率は上がっているのだろう?なら、今回も反転術式の勉強と経験として考えておきなさい」
「…ありがとうございます」
認められている、と思っていいのだろうか。
まだまだ硝子ちゃんのようにうまく行かない時もあるが、独学よりはずっと上達している。
「名前、本当にいいの?」
「あ……やっぱり、私邪魔ですか?」
「そこじゃなくて婚約者」
「直哉様?」
「また何かされたらどうするんだ?」
心配そうな顔をした硝子ちゃんに傑くん。
この数ヶ月で本当に二人からは良くしてもらっている。
だからこそ、心配してくれているのだろう。
「大丈夫ですよ、硝子ちゃん、傑くん。
私も直哉様と会いたいですし、今回会うといっても皆様がいます。
直哉様の会いたい理由も私との連絡手段のお話や私がきちんとしているかどうかですよ」
「……名前、絶対一人で居ないこと」
「私や硝子の側から離れてはいけないよ?」
「は、はい!」
二人が真面目な顔で何度も言ってくるので、何度も頷く。
何度も心配をかけてしまっているので、世話好きの二人からすれば心配なのだろう。
悟くんは、と見ればボーッとしている。
「悟くん?」
「ん?何」
「ボーッとしていましたが……」
「あぁ、ちょっと考え事していただけ。
名前が心配する事じゃねーよ」
ポンポン、と撫でられる。
いつもならば悟くんも心配して大騒ぎなのに、と思うがどこか落ち着いた様子。
夜蛾先生に呼ばれ、悟くんによって背中を押された。
「悪いことでも考えているのかい?」
「べーつに!」
「名前に気取られるなよ」
「平気平気」
「悪い顔だな」
「名前が見たら泣くぞ」
「見せるわけねーじゃん。
今まで慎重に優しく歩み寄ったのに今更」
「で?何をする気だい?」
「夏油までノリノリじゃん」
「んー?
名前には"俺達"が居る。それだけ伝えられりゃいいかな、と思って」
高専に来てから数ヶ月ぶりの京都。
東京校と似た建物の造り。
先輩達の後を追って、硝子ちゃんと手を繋いで歩く。
「ほら、迷子になるよ」
いつもの高専と似ているが、違った景色に目を奪われる。
京都で迷子になることは無いが、校内で迷子になる可能性はある。
慌てて硝子ちゃんの手を握る力を強めて隣を歩く。
「オマエ達。くれぐれも問題は起こすなよ」
「だってさ、傑」
「悟だろ?」
「悟と傑だ」
「先生ひっどーい!俺達こんなにいい子なのに!!」
「そうですよ。優等生じゃないですか」
「優等生は来るまでの間に一悶着起こさない」
苦笑する先輩方。
そう、この二人……来るまでの間に、新幹線で窓を開けようとしてみたり、立っているだけでナンパされたり、とにかく大変だった。
「ただでさえ遅れてしまっているのに…」
「先生、それを言ったら一番の遅刻の原因は名前でーす。すぐはぐれて迷子じゃん」
「遅刻したのを名前のせいにするなよ悟」
「……ごめんなさい」
そうなのだ。
硝子ちゃんと手を繋ぐ前、私は一人はぐれている。しかもよくわからない内に車に引きずり込まれそうになっていたので……とても迷惑を掛けた。
「いい。気にするな。
聞いてはいたが……まさか目の前で生徒の誘拐を見るとは思っていなかった」
「凄かったからな。まさに鬼」
「見事なフォームで走って行ったね」
ケラケラ笑う悟くんと傑くん。
確かに凄い勢いで先生が走って来てくれたので、周りが驚いて道を開けていたが。
先生のお陰で結果的に、私は何事も無かった。
「さっさとぶっとばして観光しよーぜ」
「こら、悟。もしかしたら少し手強い相手がいるかもしれないだろ?」
「俺達が手こずるような相手ぇ?無いだろ無い無い」
「オマエら……頼むから問題は」
「大丈夫だって。来年はわざわざ面倒臭く足運ばなくて済むよう東京だから」
「今回は観光目的ですよ、先生」
「遅れて来て随分な大口叩いとるなぁ」
ざくざくと足音。
聞き慣れた声。
「泣かすぞ」
黒い学生服に金色の渦巻きボタン。
ジロリと此方を睨み付ける面々。
「あ"?」
「嫌やね、こんくらいで頭に血昇るなんて」
「落ち着くんだ、悟」
「落ち着いてるっつの」
「行く店とルート検索は終わっているからここでの時間のロスは避けたい」
「なるほど」
「どうも、京都の方々。
遅刻した分お時間取らせませんから、出来るならすぐに遊びましょう」
ニッコリ笑う傑くんに、今度は京都の方々の顔に青筋が浮かんでいる。
「悟、傑」
「俺何もしてませーん」
「どうかしましたか?先生」
夜蛾先生に強めに名前を呼ばれるが、いつも通りだ。
先輩達も苦笑している。
そんな先輩達の間から顔を覗かせれば、やはり居た。
「直哉様っ!」
「「「なおや?」」」
硝子ちゃんの手を離して、先輩達の後ろから婚約者の前へ。
私を見て目を細めて笑う直哉様。
「久しいなぁ、名前ちゃん」
「お元気でしたか?」
近寄れば抱き締められて腕の中へ。
もぞもぞと動いて顔を上げるとにっこり笑う直哉様。
私の頬に手を当て、反対の腕は腰を抱いている。
「寂しくて泣いとった?」
「……内緒、です」
「泣いたんか。だから俺と同じ京都にしとったら良かったのになぁ?」
今も夜は少し寂しく感じる時はある。だが、悟くん、傑くん、硝子ちゃんがいるので泣き出してしまうほどではない。
「携帯忘れたやろ」
「ごめんなさい。あ、けど最近お父さんが来て買ってくれました」
「お義父さんが?」
「手形よりも早いから、と。
あとで直哉様の連絡先を教えて貰えますか?」
「当たり前やろ。携帯買うたんなら言わな」
「お恥ずかしながら、扱い方をやっと覚えて…」
メールを打つことすら出来ず、最近やっとまともに変換したり絵文字を送ったり出来るようになったのだ。
その前までは平仮名ばかりでとても読みにくい文章を同級生達は解読してくれていた。
「しゃーないなぁ」
良かった。
今日はあまり機嫌が悪くないらしい。
額、瞼、頬、鼻先。
何度もキスをしながら顎を上に向けられ直哉様の瞳を見上げる。
くすり、と笑って腰を強く抱かれ降りてくる直哉様の顔。
「はい、ストーップ」
「うちの癒し系担当にイカガワシイ事はやめて貰えますか?」
ふにっ、と唇に当たったのは白くて細長い指。
べりっと直哉様の腕を雑に外した悟くんに、ささっと私を抱えて硝子ちゃんの所に連れていく傑くん。
あまりにスムーズな二人にポカンとしたものの、慌てて直哉様を見れば……
「あ"っ?」
額に青筋を浮かばせ、怒っていた。
身体がビクリッと震えて固まる。
「久しぶりの婚約者との逢瀬を部外者が何で邪魔しとんの?」
「目の前で可愛い同級生が喰われそうなら助けるだろ」
「名ばかりの婚約者なら挨拶だけでもういいですよね?」
「はあ?」
「名前、行くよ」
「名前ちゃん」
「っ!!」
直哉様の声に硝子ちゃんに引かれていた足が止まる。
振り向いたら直哉様は此方を睨み付けていた。
怖くて、嫌で、どうしようかと頭が真っ白になる。
私は直哉様の婚約者だから、直哉様の命令には絶対で……逆らうなど、あり得なくて…。
「名前ちゃん、おいで」
声は優しいのに目が、怒っていた。
上手く呼吸が出来なくて苦しくなる。
優しく、大事な硝子ちゃんの手を振り払わなきゃいけないのに……出来なくて。
でも、今すぐに私は直哉様の所に行かなきゃいけなくて。
「ヤバいっ」
「名前、大丈夫かい?名前っ」
おかしいな。
硝子ちゃんの声が、傑くんの声が遠い。
目の前で先輩達すら慌てているのに、私なんで皆の声が聴こえないんだろう?
苦しかったはずなのに、おかしいな。
今、私、苦しくない。
なのに皆大慌てでどうしたの?
大丈夫。大丈夫。
だから、直哉様の所に行かなきゃいけないから、と一歩踏み出そうとしたのに身体が思うように動かない。
「名前」
目の前に広がる空色。
キラキラと星を詰め込み雲と星と大空が広がる瞳。
「ゆっくり。ゆっくり、息吸って吐けるか?」
悟くんの声だけ耳に届く。
悟くんが大きく息を吸うので真似する。
吐き出すのもゆっくり、長く。
「俺だけ見て、俺の声だけ聞いて」
コクコク頷けば、にっ、と笑った。
苦しいのを思い出した身体は、また息を何度も吸おうとする。だが、悟くんが一緒にしゃがんで私と目を合わせてくれた。
「ほら、ちゃんと息吐くの忘れんな」
背中を撫でて苦しさが落ち着いた頃には身体から力が抜ける。
地面に膝をつく前に悟くんに抱き抱えられた。
「寝ろ。すぐ終わるから」
「さとる、くん……」
「起きたら観光しよ。旨いもん食べてお土産買って帰るぞ」
優しい声が耳に響く。
ポンポンっ、と子供を寝かしつけるようにされたら……うとうとと、瞼が落ちる。
悟くんの匂いと暖かさ。
私が苦しい時、いつも空色が助けてくれる……そう思うと安心して意識を落とした。
寝入った名前は顔色が悪く、先程までの過呼吸で汗をかいたのかしっとりと額が濡れている。
途中、呼吸すら出来ずパニックに陥ったくらいだ……気絶してしまうのも無理はない。
抱き上げて抱え直せば心配そうな硝子が名前の腕を取り、脈を測っている。
「先生、終わるまで名前を硝子に預けて寝れる場所ある?」
「医務室を借りれるはずだ」
「ふーん。じゃあそこ案内してもらお。
硝子、見てて」
「あぁ」
「オイ……自分ら名前ちゃんに何した?」
怒りで額に青筋を浮かべ、今にもキレて暴れだしそうな男。
「俺らは何もしてねーよ」
「名前ちゃんは過呼吸なんか一度もなったこと無い。自分らがっ」
「邪魔」
俺に触れようとした手は届かない。
サングラス越しにジロリと見れば向こうも睨み返してくる。
「名前に何かあったらオマエを殺す」
「ハッ!!殺れるん?」
「悟、まずは名前を休ませるのが先だよ」
「おう」
傑に言われて婚約者様から離れる。
何か言いたそうに此方を睨み付けていたが、今は相手にしている暇はない。
「彼が婚約者か」
「相当な執着心だね」
傑と硝子も冷めた目で婚約者を見る。
「オマエ達、何度も言うが」
「平気平気。殺しは無し、だろ?」
「私達だってそのくらいわかってますよ」
「……治せる程度にしておけ」
夜蛾は諦めたように溜め息をついていた。
案内された医務室にそっと名前を寝かせれば、硝子が直ぐに医務室から血圧計や聴診器などを持ってきて名前の制服に手を掛ける。
「何見てんだよ。出てけ」
「何かあったらすぐ知らせろよ」
「わかった」
「硝子、名前をよろしくね」
「オマエらこそアイツによろしく」
ニヤリ、と笑う硝子に俺も傑もニコリと笑う。
「硝子、術式使う準備しといて」
「怪我人何名になるかな」
ヒラヒラと手を振る硝子。
名前の眠るカーテンは閉められた。
さーて、早く終わらせて観光楽しまなきゃ。
「お待たせしました、先輩方」
「ほら、遊ぼうぜ」
あとがき
絶対直哉くんと五条さんは似た世代であってほしい。
希望としては一学年上。
・眠りの国へスヤァな名前ちゃん
直哉様好きだが、脳みそと身体から拒否反応あり。
愛情?友情?家族愛?
さぁ、どうなんでしょう?スヤァ
・久々の直哉くん
久々の婚約者が可愛いっっ!!!
頭お花畑状態のところを見知らぬ男達に邪魔された。オコ(20%)
呼んでも来なかった婚約者にオコ(40%)
過呼吸で自分蚊帳の外にオコ(60%)
見知らぬ男達に威嚇されながら連れていかれたオコ(100%)
嫉妬(100%)
・婚約者蹴り飛ばす係悟くん
へーふーんほーん
アイツがね……拳ベキベキッ
・婚約者ぶん殴る係傑くん
へー……アレが婚約者、か。
拳ベキベキッ
・見守り係硝子ちゃん
許す、やれ
・東京の先輩方
わぁ、お空綺麗……来年は東京かー。
後輩達がコワイヨ……
・京都の先輩方
よくわからないけど、喧嘩売られたな……
よし、クソガキの躾と年上は敬えって教えよ。