呪縛
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「方位」
ーー標的指定
「定礎」
ーーー位置指定
「結」
ーーー生成・発動
私の術式はこれで成り立っている。
基本は直方体に空間を支配するという非常にシンプルな能力。結界の固さや粘度をコントロールするほかに特定の対象のみ結界の出入りを許可、禁止するなど結界内の理を変えることで多彩な応用が効く……はずなのだが、私はご先祖様ほどの応用力は無く、やっと結界を作れる程度。
昔は何やら凄いものを守るために先祖代々受け継がれてきていたが、ここ数十年の間にそれは無くなったらしい。
並べられた空き缶の下には□のマーク。
出来るだけ早く、出来るだけ正確に。
「うーん……ちょっとズレてる」
結界の上に乗る空き缶。
下に描いた正方形からはみ出している。
基本中の基本だが、それすらまともに出来ていない私はやはり落ちこぼれだ。
一度解除し、次ははみ出さないように綺麗な正方形。その上に同じ正方形を作り積んでいく。
「はよ。何やってんの?コレ」
「〜〜っ!!」
後ろから聞こえた声に驚いて結界がズレてしまう。
「あ"っ」
「あーあ」
集中力がブレると定礎がズレ結界自体がブレてしまい崩れる。
解、で結界を解除して結界を消す。
「いつ見ても不思議だよな、それ」
「そうですか?」
私の術式は結界術。
実用性重視の為にシンプルではある。
昔の古書を漁って調べたものの、歴史は古いくせにここ数十年で記録は途絶えている。
曾祖父いわく何代か前の凄い人が色々と一族の因縁とやらを終わらせたそうだ。
なので、父や私の代では古い歴史はあるものの一族がやるべき重大な任務というのはやっていない。
術式あるし、祓い屋を個人でやるよりは組織に……と呪術界に入ったのも何代か前らしい。
その時、禪院家の方と血を交わったと聞いたものの、禪院家の術式を受け継ぐ子はいない。
どちらかといえばうちは結界系の術式を持つ者が多い。
「空間を固定するなんてぶっ飛んでる」
「使い勝手はいいのですが、集中力が途切れてしまうと途端に崩れてしまいますが」
大小のサイズや、長さ。
固さや形まで変えてやろうと思えば多種多様な結界。
しかし、私は一連の方位、定礎、結までが限界。
集中力が散漫で結界の強度すら微妙な時もある。
「三級あたりならばギリギリですが……同じ三級でも姿が大きすぎると一撃では……」
「は?嘘でしょ?」
「本当ですよ?」
下手すれば四級でも身体が大きすぎると無理。
大きすぎる結界は薄くなり呪霊の攻撃を一撃でも受ければ解けてしまう。
「いやいやいや。名前、その術式強いって」
「へ?」
「指導者とかいねーの?」
「お父さんから基礎を教わったくらいで、お父さんも基礎ぐらいしか……」
「嘘だろ。宝の持ち腐れ」
「……ごめんなさい」
悟さ……くん、の目から見れば凄いのかもしれない。だけど、それは術式が凄いのであって、使う者が弱ければ意味がない。
ご先祖様もさぞや残念だろう。
「今は?何してた?」
「えっと……定礎を正確なものにしようと思って」
自分の思い描く位置と狂わず生成出来るように。
まぁ、それすらイメージとズレてしまっているのだが。
「名前はどうしたい?」
「……どう?とは…?」
「でかい結界が作りたいのか、確実に仕留める為に作りたいのか」
「えっと……」
「デカイ敵を一度に囲うのが大変なら、小分けに囲むとかできねーの?」
「理論的には出来る……と思います」
複数の結界を出せない事は無い。
ただ、そうなると一つ一つが小さくて……
「あっ」
「でかい敵に立ち向かう方法はいくらでもあるだろ?
地道に削るのも、一気に倒すのも」
「なるほど……」
「名前の場合、精神的にブレッブレで結界が安定してないからまずそこからじゃね?」
「返すお言葉がありません……」
後ろから挨拶されたくらいで崩れるのなら、そもそも強度とか関係無く基本が出来ていない。
自身の不甲斐なさにため息が出てしまう。
「っ!?」
「はい、頑張って」
「なっ、にを!?」
突然後ろから悟さ……くんに抱き上げられた。
暴れる私を気にせず抱き上げている悟く…んはニヤリと笑う。
「常に緊張している。又は常に同じ精神状態の維持が修行なるんだろ?
じゃあこうしていた方が修行なるじゃん」
「だっ、からと言っても……っ」
「傑と硝子にも協力してもらえ。
で、緊張しなくなったらまた次考えていこ」
まずは緊張状態で定礎な、とニヤニヤ笑う悟……くん。
呼吸を整え結界を作ったら……
「うわ、まじか」
「………ごめんなさい」
馬鹿みたいにでかくて長い結界が。
悟…くんの笑い声が響いた。
「まずは……くっ、基礎…か、らっ」
「……はい」
それからボチボチと授業合間に突然抱き付かれたり、抱き上げられたり、膝に乗せられたり、引っ付かれたりなどなど……スキンシップが多くなった。
「何をしているんだい?」
「セクハラなら容赦しねーよ?」
「見てわかんねーの?修行だろ」
「悟が無理矢理泣きそうな名前を抱いて嫌がらせをしてるとしか……」
「オイ」
「弱みにぎられたのか?」
「オイッ!!」
悟様から……悟くんから話を聞いて協力してくれると言ってくれたも。
「そういう事なら私達も協力するよ」
「で?具体的には嫌がらせでいいの?」
「硝子、言い方……。
けど、どこまでなら名前は平気なんだい?」
「み"っ!!」
悟様が後ろにいる状態で、傑様は私の髪の毛を手に取ると、顔を寄せて……指一つ分の距離で髪の毛の束に唇を落としてきた。
チュッ……と聞こえた音が頭に響く。
そのまま私を上目遣いで見上げてきて……
「うあっ!!!」
「「「あっ」」」
いざやってみると……悟くんだけじゃなく傑さっ…傑くんのスキンシップの近さに驚きすぎて教室の壁をぶち抜いてしまった。三人はポカンとした後爆笑した。
……勿論先生もいる状態だったので、先生もポカンとしたあと……頭を抱えてしまいわざとではないとしても、もう少しコントロールを……、と注意された。
それから方向性を変えて常に結界をいくつか出している状況から三人のスキンシップに耐える、というものに変わった。
突然驚いた拍子に何度も壁を開けていては教室が使い物にならないので、少し方向性を変えた。
最初は何度も結界がボロボロになったものの、人間慣れるのは早いもので安定してきた。
「最近結界安定してきたな」
「うっ……つまらなさそうに言わないで下さい」
「少し私達に慣れた証拠だね」
「その節はご迷惑をおかけしました……」
「名前で呼べるようになってきたのも進歩したよね」
「硝子ちゃん!」
悟くんの膝の上に乗せられながら、肩に顎を乗せられている。
ほぼ1日、結界を保つ事が出来るようになってきた。突然の驚きや焦りがあっても結界に影響はほとんどない。
「結界解けたら罰ゲームできねーじゃん」
「悟くん、残念そうにしないでください」
「一回結界ブレるごとにだったからね」
「はい……」
罰ゲームがあればより成長出来ると追加されたもの。
私が結界を保てないと、三人は直ぐにその場で罰ゲームを言い渡す。
「腹筋、背筋、腕立て。校内走り込みに壁走り」
「俺らと組み手の時は泣いてたな」
「ちゃんと手加減しているんだけどね?」
「泣きながら逃げる名前を笑って追いかけて空にぶん投げて追い詰めてんのを楽しめるのはオマエらだけだろ」
そう。
罰ゲームは体力作りと近接練習と受け身。
「式神使いではないにしろ、名前の戦い方は術者本人が叩かれたら終わりだからな」
「私達は近接に弱いからね」
「傑くんで弱かったら私は……」
体力がつく事で結界が安定した感じもある。
「次は強度か?」
「正確性の方がいいんじゃないか?」
「だいたいでいいだろ」
「正確な位置、正確な形の意識をしっかり認識すれば強度のイメージのしやすさや名前自身の呪力の負担も少なく済むだろ?」
「だいたいの感覚で出来るって」
「悟と名前を一緒にするな」
「過保護じゃ何も出来ねーよ」
「正確さだ」
「強度だろ」
「「……………」」
バチバチとし始めた悟くんと傑くん。
硝子ちゃんに手を引かれさっさと教室を出れば、その数秒後には教室から酷い音が。
「くっだらねー」
「あははは……」
まだ入学して5ヶ月程。
悟くんを始め傑くんも硝子ちゃんもとても良くしてくれた。
駄目な私に最後まで付き合ってくれる三人。
三人はとても凄いのに、私だけ平凡以下。
そんな私を駄目な奴と言わず、こうして私の術式にも向き合ってくれる三人はとても優しくて自慢の友達。
「何ニヤニヤしてんの?」
「……そんなに顔、緩んでいましたか?」
「嬉しそうな顔していた」
「……三人が同級生で嬉しいなって思ってました」
「……照れんなばーか」
「ふふっ」
今では三人を様付けせず、目を見て話す事が出きるほどには普通になれた。
「硝子ちゃん」
「何?」
「あのね、今度の休み此処に行ってみたいです」
「いいよ。どうせならこの後行く?」
「ありがとう!!」
「いいなー!俺もいきたーい」
「悟くん……もう終わったんですか?」
「どうせなら四人で行かないかい?」
今日は早めに喧嘩が終わったらしい。
少しボロボロの二人が硝子ちゃんと私の隣にそれぞれ並んだ。
「来んなよ」
「ピュアっ子の名前の保護者いないと駄目だろ?すぐキャッチ捕まるし」
「変な輩に素直に付いて行ってしまうからね……」
「よし、来い」
心配性……だとは思うが、それくらい心配かけてしまっているらしい。
悪気は無いのだが……直哉様以外と話してはいけない状況だった事に慣れてしまったのが、徐々にクラスメートと談笑する楽しみを覚え、街で声を掛けられると反応してしまう。
困っているというから付いて行ってしまうのだが……良くない事だった。
「はい、お出かけのお約束!」
「えっと……知らない人に付いて行ってはいけません。
困っている人がいても無闇に近寄らず、同行者に相談する。
困ったら三人に連絡する。
必ず三人の誰かと手を繋ぐ!」
「……子供のお使いかよ」
「いいや、硝子。これくらいが打倒だよ」
「あ、そうだ。
名前、さっきの話同時進行する事にしたわ」
「……ん?」
「私と悟で話し合った結果……甘やかすばかりでは成長出来ないと思ってね」
「傑が正確性。俺が強度」
「……お断りする事は」
「「駄目」」
「硝子ちゃんっ!!」
「良かったじゃん。反転術式も勉強出来るよね?」
同級生達は優しいけれどスパルタでした。
子供より子供扱いをする三人だが、この数時間後……三人が少し余所見をした瞬間に迷子を見付けてしまい離れるとは知らない。
「……やらかした。
名前、いいカモに見えるから凄い狙われやすいんだ」
「意味わかんね!!なんでたった一瞬で消えるんだよ!?
結界か!?だとしたら天才だろ!!」
「キレてないで探すよ。
五条、眼使え。何のための六眼だよ」
「迷子探しじゃねーことは確かだよ!!」
三人が探している頃……私はというと親はすぐ見付かったものの、三人とはぐれて困ってしまった。
「……どうしよう」
「どうしたの?一人?」
「迷子?」
「えっと……」
見知らぬ男性に囲まれ、困る。
三人との約束で連絡しようと思ったのだが……あれよあれよという間にカラオケボックスに連れられそうになってしまう。
「っいた!!」
「す、傑くんっ」
「良かった……何も無かったかい?」
「うん。ごめんなさい、はぐれて」
「ちょっとちょっと君何?」
「この子の何だよ」
「キミらこそ彼女に何の用だい?」
汗をかきながら探してくれていた傑くんは私を見付けるとホッとした顔をした。
毎回毎回傑くんが見付けてくれるのは、日頃よく一緒に任務を組むからだと思われる。
……こんな事に慣れて欲しくなかったが、慣れさせてしまったのは私で申し訳なくなる。
「傑、いた?」
「名前!」
「おっ、可愛い子がもう一人」
「ねぇ、そっちの可愛い子も一緒に…」
「「「あ"あん?」」」
三人に見られ、男達はいなくなってしまった。
この後めちゃくちゃ三人から怒られたものの、心配したとそれぞれから抱き締められた。
お出かけする時は必ず二人以上で誰かと手を繋いで離さない約束が追加された。
「じゃあまずこの岩持ち上げれるか?」
「はいっ!!」
裏山の自然豊かな高専の山。
そこにあった大きな岩。
岩の下を方位し、定礎。そして結で持ち上げ……
「〜〜〜っ」
持ち上がらない。
「まずは軽いものから持ち上げるか」
「頑張り…ま、す」
まずは大きな岩からじゃなく、徐々に大きくする事にした。
空き缶は以前から持ち上がられる。
「五条や夏油で試してみたら?」
「さらっと私達を実験台にしようとしてるね?」
恐る恐る、まずは悟くんから。
「おー、エスカレーターみてぇ」
「……私がこのまま上に乗る?」
「多分……いけそう?です」
傑くんへ足場を作って上に乗って貰う。
少し結界が重くなったものの、持ち直した。
「なんとかって感じだね」
「………」
「どうした?悟」
「名前、自分に結界張れるか?
5重……いや、できるだけ」
「?」
「傑と硝子と三人入って、ミルフィーユみたいに何層も出来る限り強固なイメージで」
言われた通り、10層くらい強い壁をイメージして囲う。
結界の中におぉ、と硝子ちゃんと傑くんは叩いてみたり触ったりしている。
結界の外には悟くん。
「名前はさ、突発的に結界に流す呪力がバラバラなんだよな。
最近は一定になってきたけど、集中しているから一定なわけ」
「はい」
「ってことで"蒼"」
「「「!!?」」」
ズガガガッ、と地面を抉りながら結界に無下限呪術の術式を当てて来た。
バリバリと10層あった結界は壊れていき……残り一枚にヒビが入って……術式が消えた。
「一枚。
その一枚で俺の術式防げるようになるくらいは強固しよーぜ」
「………っうぅ…っ」
まさかいきなり五条家相伝の無下限呪術を当てられるとは思わなかった。
迫りくる攻撃に、どんなに力を込めても、気持ちを強く持っても壊される結界。
「ふぅ……うっ…」
「え!?何泣いて……い"っ!!」
「ふざけんなよクズ」
「悟……やっていい事と悪いことがあるよね?」
傑くんと硝子ちゃんが悟くんを殴り付ける。
言いたいことはわかるけれど、悟くんの術式を防げるほど強くなれる未来が見えない……。
心が折れた。
「悪いって!!ちゃんと枚数割られる度、意識するほど結界は強くなっていたから繰り返せば!!
」
「……うぅ…っ、繰り返しは……ごめ、んなさっ」
「トラウマ植え付けてんじゃねーよ」
「悟、謝るんだ」
傑くんと硝子ちゃんにより、三日ほど悟くんは私に接近禁止令を出された。
「さて、私が教える正確性はまずは名前自身、結界術式で何が出来るか調べよう」
「結界術式を?」
「多種多様で実用性重視なら、やれることは多そうだろう?」
「そうですね!」
「結界は基本として後は家から伝えられていることは?」
「そうですね……式神を使えます」
「式神?」
「こんなただの四角い印のついた紙なんですが……術者の呪力の具現化により守護・使役できるんです」
一枚、呪力を込めるとポンッと立体的に手足が這えた。
ちょこちょこ傑くんの足元を歩いている。
「形はその時望んだ形を取れます。
伝達なら鳥、力仕事ならこの子、イメージを強めれば人形も」
「……万能か?」
「私達はこの式神を基本的には修復術の時に使っています」
「「「しゅうふくじゅつ?」」」
「呪力を使って行う意味通り現場の修復ですね……一般人に迷惑をかけぬ事が開祖の信念だったみたいで…」
試しに悟くんが数日前に抉った場所の修復を頼めばえっさほいさと砂利を埋めている。
「建物が壊れた場合、瓦礫を集めて組み立てながら私の呪力を元に直すのでとっても疲れちゃいます」
「建物は?」
「……犬小屋くらいなら」
「ぶはっ!!犬小屋…っ」
仕方ないじゃないか。
私の呪力量を考えたら、建物全体を直すなんて出来ないんだから。
「他には?」
「結界は基本直方体なんですが、捕縛するためにこうして……結界を糸状にすれば拘束が可能です」
「捕縛……」
「傑、顔やべーぞ」
「あとは一応結界師なので、相手の結界を強制解除する事も可能です」
「なるほど」
「探査用結界は……結界領域の範囲内にいる呪霊の数と居場所がわかるくらいですね」
「聞いていると本当に多種多様だね」
出来ることは確かに多いのだが、私の呪力量と実力が凄ければ術式自体はとても使い勝手がいいだろう。
「結界師として腕を磨けばもっと出来ることはあるみたいなんですが……私は基礎すら出来ていなくて」
「それだけ出来るならたいしたもんだよ」
「硝子ちゃん、ありがとう」
結界の固さや粘度をコントロールする他に、特定の対象のみ結界の出入りを許可、禁止するなど……結界内の理を変えることで多彩な応用が効く。
「なるほど……思っていた以上に出来ることが多いな。どこから手をつければいいかわからなくなってしまうね」
「正確さ……ってなるとやっぱり祓う事を第一優先に考えるべきか?」
「そうだね。確実に呪霊を捕まえる方位・定礎・結の流れかな。
指定した位置に結界を作ること。
それが最初の名前の課題でいいかな?」
「はいっ!!」
「ってことで、ここに許可された私の呪霊がいます」
「……はい」
もぞもぞと傑くんの足下から出てきた呪霊達。
それぞれ四方八方な飛んでいく。
「名前は今逃げた呪霊達を結界に閉じ込めること。
あぁ、祓うのは無しにしてくれ」
「それでいいんですか?」
「修行だからね。呪霊のサイズピッタリの結界を作るんだ」
「ピッタリ……」
「大きすぎたり、小さすぎても駄目だよ?」
「はい」
「あ、ちなみに一回でもミスをしたらやり直しだよ?」
「え……」
「終わるまでは帰れないよ?」
傑くんの笑顔が怖い……。
「私も心苦しいけど頑張ろうね、名前」
「お、終わらない……終わらない……っ」
「泣かすなよ」
「そーだそーだ!」
「硝子、悟。
可愛くてもしっかりやる時はやらせなくちゃ」
「あぁぁっ」
「はい、もう一回」
「うぅぅ……ぐすっ……」
「鬼だ」
「鬼畜だな」
悟くんと硝子ちゃんが傑くんへ野次を飛ばす。
傑くんは笑顔で応援してくれた。
体力と気力がついたが……少し心が折れた。
「反転術式のコツ?」
「うん」
「感覚」
「……硝子ちゃん」
「オマエの説明わかんねーっつの」
「センスねーな」
「センス……無い……」
「慣れしかないよ」
「慣れ、かぁ」
説明が得意ではないらしい硝子ちゃん。
びゅーんひょいっって説明に思わず頭を傾げて聞き返してしまったくらいだ。
「じゃあ練習すればいい」
突然持っていたメスでザックリと腕を切る硝子ちゃん。
悟くんと傑くんすら驚いて慌てた。
「しょ、硝子ちゃんっ」
「ほら」
「何やってんだよ硝子!!」
「早く止血をっ!!」
「名前」
「っ!!」
「反転術式使いたいなら覚悟を決めろ」
真剣な顔で此方を見る硝子ちゃん。
ショックで泣き出してしまったものの、泣いている場合ではないと必死に硝子ちゃんの腕を治す。
「ちゃんと出来たな」
「硝子ちゃん……もう、2度としないで……っ」
「反転術式なんて数こなしてこそだぞ」
「だけどわざとはだめっ」
「悪かったよ。もうしない」
よしよし、と頭を撫でられるが涙が出てしまう。もしも硝子ちゃんの腕を治せなかったら……と考えると怖くて涙が止まらない。
「先生ー!硝子ちゃんが名前ちゃん泣かせましたー」
「酷いトラウマ植え付けてまーす」
「オマエらに言われたくねー」
よく喧嘩する悟くんと傑くんのおかげもあり、反転術式は上達していった。
ただし、硝子ちゃんがメスや刃物を持っている姿を見ると心がバッキバキに折れる事になった。
あとがき
結界師の解釈間違えていたらすいません。
かなり前に読んだので、知識が……。
結界師読んだことある方は名前ちゃんの家は雪村・墨村家の分家だと思ってください。
なので、正統後継者の良守や時音より結界師としての腕は未熟だし、絶界とか管理者とかまでいけません。
結界師知らない方でも読める……はず!
楽しく学びながらトラウマ増やされてる名前ちゃん。
ちなみに直哉くんは京都でモンモンしています。
・メンタル成長させられてる名前ちゃん
同級生名前呼び(えっへん)
心が折られる度、メンタル強化されている。
迷子になる常習犯。本人の意思ではない。
同級生の修行内容がトラウマ。
・蒼放って泣かれた悟くん
真面目に謝った。そんなつもりは無かったけど、これに耐えれたらどんな敵も問題ないからガンガンいくぜ!!ってまたやる。
・呪霊と鬼ごっこで泣かれた傑くん
泣いても笑顔で頭撫でた。
捕縛用の結界に興味津々。
ちゃんと捕まえるんだよ?と許可貰って10体放った。捕まえるまで帰れま10開始。
小さいのから大きいのまで。
遅いものから素早いものまで。
一発で捕らえられなかったら最初から。
・びゅーんひょいっで泣かれた硝子ちゃん
己を追い込めば出来るって、とわりと鬼畜。
指導?こう……びゅーんひょいっだって。
わからない?
じゃあ私の腕貸すからやってみな、とザックリして泣かれた。
謝ったがまたやる。
ーー標的指定
「定礎」
ーーー位置指定
「結」
ーーー生成・発動
私の術式はこれで成り立っている。
基本は直方体に空間を支配するという非常にシンプルな能力。結界の固さや粘度をコントロールするほかに特定の対象のみ結界の出入りを許可、禁止するなど結界内の理を変えることで多彩な応用が効く……はずなのだが、私はご先祖様ほどの応用力は無く、やっと結界を作れる程度。
昔は何やら凄いものを守るために先祖代々受け継がれてきていたが、ここ数十年の間にそれは無くなったらしい。
並べられた空き缶の下には□のマーク。
出来るだけ早く、出来るだけ正確に。
「うーん……ちょっとズレてる」
結界の上に乗る空き缶。
下に描いた正方形からはみ出している。
基本中の基本だが、それすらまともに出来ていない私はやはり落ちこぼれだ。
一度解除し、次ははみ出さないように綺麗な正方形。その上に同じ正方形を作り積んでいく。
「はよ。何やってんの?コレ」
「〜〜っ!!」
後ろから聞こえた声に驚いて結界がズレてしまう。
「あ"っ」
「あーあ」
集中力がブレると定礎がズレ結界自体がブレてしまい崩れる。
解、で結界を解除して結界を消す。
「いつ見ても不思議だよな、それ」
「そうですか?」
私の術式は結界術。
実用性重視の為にシンプルではある。
昔の古書を漁って調べたものの、歴史は古いくせにここ数十年で記録は途絶えている。
曾祖父いわく何代か前の凄い人が色々と一族の因縁とやらを終わらせたそうだ。
なので、父や私の代では古い歴史はあるものの一族がやるべき重大な任務というのはやっていない。
術式あるし、祓い屋を個人でやるよりは組織に……と呪術界に入ったのも何代か前らしい。
その時、禪院家の方と血を交わったと聞いたものの、禪院家の術式を受け継ぐ子はいない。
どちらかといえばうちは結界系の術式を持つ者が多い。
「空間を固定するなんてぶっ飛んでる」
「使い勝手はいいのですが、集中力が途切れてしまうと途端に崩れてしまいますが」
大小のサイズや、長さ。
固さや形まで変えてやろうと思えば多種多様な結界。
しかし、私は一連の方位、定礎、結までが限界。
集中力が散漫で結界の強度すら微妙な時もある。
「三級あたりならばギリギリですが……同じ三級でも姿が大きすぎると一撃では……」
「は?嘘でしょ?」
「本当ですよ?」
下手すれば四級でも身体が大きすぎると無理。
大きすぎる結界は薄くなり呪霊の攻撃を一撃でも受ければ解けてしまう。
「いやいやいや。名前、その術式強いって」
「へ?」
「指導者とかいねーの?」
「お父さんから基礎を教わったくらいで、お父さんも基礎ぐらいしか……」
「嘘だろ。宝の持ち腐れ」
「……ごめんなさい」
悟さ……くん、の目から見れば凄いのかもしれない。だけど、それは術式が凄いのであって、使う者が弱ければ意味がない。
ご先祖様もさぞや残念だろう。
「今は?何してた?」
「えっと……定礎を正確なものにしようと思って」
自分の思い描く位置と狂わず生成出来るように。
まぁ、それすらイメージとズレてしまっているのだが。
「名前はどうしたい?」
「……どう?とは…?」
「でかい結界が作りたいのか、確実に仕留める為に作りたいのか」
「えっと……」
「デカイ敵を一度に囲うのが大変なら、小分けに囲むとかできねーの?」
「理論的には出来る……と思います」
複数の結界を出せない事は無い。
ただ、そうなると一つ一つが小さくて……
「あっ」
「でかい敵に立ち向かう方法はいくらでもあるだろ?
地道に削るのも、一気に倒すのも」
「なるほど……」
「名前の場合、精神的にブレッブレで結界が安定してないからまずそこからじゃね?」
「返すお言葉がありません……」
後ろから挨拶されたくらいで崩れるのなら、そもそも強度とか関係無く基本が出来ていない。
自身の不甲斐なさにため息が出てしまう。
「っ!?」
「はい、頑張って」
「なっ、にを!?」
突然後ろから悟さ……くんに抱き上げられた。
暴れる私を気にせず抱き上げている悟く…んはニヤリと笑う。
「常に緊張している。又は常に同じ精神状態の維持が修行なるんだろ?
じゃあこうしていた方が修行なるじゃん」
「だっ、からと言っても……っ」
「傑と硝子にも協力してもらえ。
で、緊張しなくなったらまた次考えていこ」
まずは緊張状態で定礎な、とニヤニヤ笑う悟……くん。
呼吸を整え結界を作ったら……
「うわ、まじか」
「………ごめんなさい」
馬鹿みたいにでかくて長い結界が。
悟…くんの笑い声が響いた。
「まずは……くっ、基礎…か、らっ」
「……はい」
それからボチボチと授業合間に突然抱き付かれたり、抱き上げられたり、膝に乗せられたり、引っ付かれたりなどなど……スキンシップが多くなった。
「何をしているんだい?」
「セクハラなら容赦しねーよ?」
「見てわかんねーの?修行だろ」
「悟が無理矢理泣きそうな名前を抱いて嫌がらせをしてるとしか……」
「オイ」
「弱みにぎられたのか?」
「オイッ!!」
悟様から……悟くんから話を聞いて協力してくれると言ってくれたも。
「そういう事なら私達も協力するよ」
「で?具体的には嫌がらせでいいの?」
「硝子、言い方……。
けど、どこまでなら名前は平気なんだい?」
「み"っ!!」
悟様が後ろにいる状態で、傑様は私の髪の毛を手に取ると、顔を寄せて……指一つ分の距離で髪の毛の束に唇を落としてきた。
チュッ……と聞こえた音が頭に響く。
そのまま私を上目遣いで見上げてきて……
「うあっ!!!」
「「「あっ」」」
いざやってみると……悟くんだけじゃなく傑さっ…傑くんのスキンシップの近さに驚きすぎて教室の壁をぶち抜いてしまった。三人はポカンとした後爆笑した。
……勿論先生もいる状態だったので、先生もポカンとしたあと……頭を抱えてしまいわざとではないとしても、もう少しコントロールを……、と注意された。
それから方向性を変えて常に結界をいくつか出している状況から三人のスキンシップに耐える、というものに変わった。
突然驚いた拍子に何度も壁を開けていては教室が使い物にならないので、少し方向性を変えた。
最初は何度も結界がボロボロになったものの、人間慣れるのは早いもので安定してきた。
「最近結界安定してきたな」
「うっ……つまらなさそうに言わないで下さい」
「少し私達に慣れた証拠だね」
「その節はご迷惑をおかけしました……」
「名前で呼べるようになってきたのも進歩したよね」
「硝子ちゃん!」
悟くんの膝の上に乗せられながら、肩に顎を乗せられている。
ほぼ1日、結界を保つ事が出来るようになってきた。突然の驚きや焦りがあっても結界に影響はほとんどない。
「結界解けたら罰ゲームできねーじゃん」
「悟くん、残念そうにしないでください」
「一回結界ブレるごとにだったからね」
「はい……」
罰ゲームがあればより成長出来ると追加されたもの。
私が結界を保てないと、三人は直ぐにその場で罰ゲームを言い渡す。
「腹筋、背筋、腕立て。校内走り込みに壁走り」
「俺らと組み手の時は泣いてたな」
「ちゃんと手加減しているんだけどね?」
「泣きながら逃げる名前を笑って追いかけて空にぶん投げて追い詰めてんのを楽しめるのはオマエらだけだろ」
そう。
罰ゲームは体力作りと近接練習と受け身。
「式神使いではないにしろ、名前の戦い方は術者本人が叩かれたら終わりだからな」
「私達は近接に弱いからね」
「傑くんで弱かったら私は……」
体力がつく事で結界が安定した感じもある。
「次は強度か?」
「正確性の方がいいんじゃないか?」
「だいたいでいいだろ」
「正確な位置、正確な形の意識をしっかり認識すれば強度のイメージのしやすさや名前自身の呪力の負担も少なく済むだろ?」
「だいたいの感覚で出来るって」
「悟と名前を一緒にするな」
「過保護じゃ何も出来ねーよ」
「正確さだ」
「強度だろ」
「「……………」」
バチバチとし始めた悟くんと傑くん。
硝子ちゃんに手を引かれさっさと教室を出れば、その数秒後には教室から酷い音が。
「くっだらねー」
「あははは……」
まだ入学して5ヶ月程。
悟くんを始め傑くんも硝子ちゃんもとても良くしてくれた。
駄目な私に最後まで付き合ってくれる三人。
三人はとても凄いのに、私だけ平凡以下。
そんな私を駄目な奴と言わず、こうして私の術式にも向き合ってくれる三人はとても優しくて自慢の友達。
「何ニヤニヤしてんの?」
「……そんなに顔、緩んでいましたか?」
「嬉しそうな顔していた」
「……三人が同級生で嬉しいなって思ってました」
「……照れんなばーか」
「ふふっ」
今では三人を様付けせず、目を見て話す事が出きるほどには普通になれた。
「硝子ちゃん」
「何?」
「あのね、今度の休み此処に行ってみたいです」
「いいよ。どうせならこの後行く?」
「ありがとう!!」
「いいなー!俺もいきたーい」
「悟くん……もう終わったんですか?」
「どうせなら四人で行かないかい?」
今日は早めに喧嘩が終わったらしい。
少しボロボロの二人が硝子ちゃんと私の隣にそれぞれ並んだ。
「来んなよ」
「ピュアっ子の名前の保護者いないと駄目だろ?すぐキャッチ捕まるし」
「変な輩に素直に付いて行ってしまうからね……」
「よし、来い」
心配性……だとは思うが、それくらい心配かけてしまっているらしい。
悪気は無いのだが……直哉様以外と話してはいけない状況だった事に慣れてしまったのが、徐々にクラスメートと談笑する楽しみを覚え、街で声を掛けられると反応してしまう。
困っているというから付いて行ってしまうのだが……良くない事だった。
「はい、お出かけのお約束!」
「えっと……知らない人に付いて行ってはいけません。
困っている人がいても無闇に近寄らず、同行者に相談する。
困ったら三人に連絡する。
必ず三人の誰かと手を繋ぐ!」
「……子供のお使いかよ」
「いいや、硝子。これくらいが打倒だよ」
「あ、そうだ。
名前、さっきの話同時進行する事にしたわ」
「……ん?」
「私と悟で話し合った結果……甘やかすばかりでは成長出来ないと思ってね」
「傑が正確性。俺が強度」
「……お断りする事は」
「「駄目」」
「硝子ちゃんっ!!」
「良かったじゃん。反転術式も勉強出来るよね?」
同級生達は優しいけれどスパルタでした。
子供より子供扱いをする三人だが、この数時間後……三人が少し余所見をした瞬間に迷子を見付けてしまい離れるとは知らない。
「……やらかした。
名前、いいカモに見えるから凄い狙われやすいんだ」
「意味わかんね!!なんでたった一瞬で消えるんだよ!?
結界か!?だとしたら天才だろ!!」
「キレてないで探すよ。
五条、眼使え。何のための六眼だよ」
「迷子探しじゃねーことは確かだよ!!」
三人が探している頃……私はというと親はすぐ見付かったものの、三人とはぐれて困ってしまった。
「……どうしよう」
「どうしたの?一人?」
「迷子?」
「えっと……」
見知らぬ男性に囲まれ、困る。
三人との約束で連絡しようと思ったのだが……あれよあれよという間にカラオケボックスに連れられそうになってしまう。
「っいた!!」
「す、傑くんっ」
「良かった……何も無かったかい?」
「うん。ごめんなさい、はぐれて」
「ちょっとちょっと君何?」
「この子の何だよ」
「キミらこそ彼女に何の用だい?」
汗をかきながら探してくれていた傑くんは私を見付けるとホッとした顔をした。
毎回毎回傑くんが見付けてくれるのは、日頃よく一緒に任務を組むからだと思われる。
……こんな事に慣れて欲しくなかったが、慣れさせてしまったのは私で申し訳なくなる。
「傑、いた?」
「名前!」
「おっ、可愛い子がもう一人」
「ねぇ、そっちの可愛い子も一緒に…」
「「「あ"あん?」」」
三人に見られ、男達はいなくなってしまった。
この後めちゃくちゃ三人から怒られたものの、心配したとそれぞれから抱き締められた。
お出かけする時は必ず二人以上で誰かと手を繋いで離さない約束が追加された。
「じゃあまずこの岩持ち上げれるか?」
「はいっ!!」
裏山の自然豊かな高専の山。
そこにあった大きな岩。
岩の下を方位し、定礎。そして結で持ち上げ……
「〜〜〜っ」
持ち上がらない。
「まずは軽いものから持ち上げるか」
「頑張り…ま、す」
まずは大きな岩からじゃなく、徐々に大きくする事にした。
空き缶は以前から持ち上がられる。
「五条や夏油で試してみたら?」
「さらっと私達を実験台にしようとしてるね?」
恐る恐る、まずは悟くんから。
「おー、エスカレーターみてぇ」
「……私がこのまま上に乗る?」
「多分……いけそう?です」
傑くんへ足場を作って上に乗って貰う。
少し結界が重くなったものの、持ち直した。
「なんとかって感じだね」
「………」
「どうした?悟」
「名前、自分に結界張れるか?
5重……いや、できるだけ」
「?」
「傑と硝子と三人入って、ミルフィーユみたいに何層も出来る限り強固なイメージで」
言われた通り、10層くらい強い壁をイメージして囲う。
結界の中におぉ、と硝子ちゃんと傑くんは叩いてみたり触ったりしている。
結界の外には悟くん。
「名前はさ、突発的に結界に流す呪力がバラバラなんだよな。
最近は一定になってきたけど、集中しているから一定なわけ」
「はい」
「ってことで"蒼"」
「「「!!?」」」
ズガガガッ、と地面を抉りながら結界に無下限呪術の術式を当てて来た。
バリバリと10層あった結界は壊れていき……残り一枚にヒビが入って……術式が消えた。
「一枚。
その一枚で俺の術式防げるようになるくらいは強固しよーぜ」
「………っうぅ…っ」
まさかいきなり五条家相伝の無下限呪術を当てられるとは思わなかった。
迫りくる攻撃に、どんなに力を込めても、気持ちを強く持っても壊される結界。
「ふぅ……うっ…」
「え!?何泣いて……い"っ!!」
「ふざけんなよクズ」
「悟……やっていい事と悪いことがあるよね?」
傑くんと硝子ちゃんが悟くんを殴り付ける。
言いたいことはわかるけれど、悟くんの術式を防げるほど強くなれる未来が見えない……。
心が折れた。
「悪いって!!ちゃんと枚数割られる度、意識するほど結界は強くなっていたから繰り返せば!!
」
「……うぅ…っ、繰り返しは……ごめ、んなさっ」
「トラウマ植え付けてんじゃねーよ」
「悟、謝るんだ」
傑くんと硝子ちゃんにより、三日ほど悟くんは私に接近禁止令を出された。
「さて、私が教える正確性はまずは名前自身、結界術式で何が出来るか調べよう」
「結界術式を?」
「多種多様で実用性重視なら、やれることは多そうだろう?」
「そうですね!」
「結界は基本として後は家から伝えられていることは?」
「そうですね……式神を使えます」
「式神?」
「こんなただの四角い印のついた紙なんですが……術者の呪力の具現化により守護・使役できるんです」
一枚、呪力を込めるとポンッと立体的に手足が這えた。
ちょこちょこ傑くんの足元を歩いている。
「形はその時望んだ形を取れます。
伝達なら鳥、力仕事ならこの子、イメージを強めれば人形も」
「……万能か?」
「私達はこの式神を基本的には修復術の時に使っています」
「「「しゅうふくじゅつ?」」」
「呪力を使って行う意味通り現場の修復ですね……一般人に迷惑をかけぬ事が開祖の信念だったみたいで…」
試しに悟くんが数日前に抉った場所の修復を頼めばえっさほいさと砂利を埋めている。
「建物が壊れた場合、瓦礫を集めて組み立てながら私の呪力を元に直すのでとっても疲れちゃいます」
「建物は?」
「……犬小屋くらいなら」
「ぶはっ!!犬小屋…っ」
仕方ないじゃないか。
私の呪力量を考えたら、建物全体を直すなんて出来ないんだから。
「他には?」
「結界は基本直方体なんですが、捕縛するためにこうして……結界を糸状にすれば拘束が可能です」
「捕縛……」
「傑、顔やべーぞ」
「あとは一応結界師なので、相手の結界を強制解除する事も可能です」
「なるほど」
「探査用結界は……結界領域の範囲内にいる呪霊の数と居場所がわかるくらいですね」
「聞いていると本当に多種多様だね」
出来ることは確かに多いのだが、私の呪力量と実力が凄ければ術式自体はとても使い勝手がいいだろう。
「結界師として腕を磨けばもっと出来ることはあるみたいなんですが……私は基礎すら出来ていなくて」
「それだけ出来るならたいしたもんだよ」
「硝子ちゃん、ありがとう」
結界の固さや粘度をコントロールする他に、特定の対象のみ結界の出入りを許可、禁止するなど……結界内の理を変えることで多彩な応用が効く。
「なるほど……思っていた以上に出来ることが多いな。どこから手をつければいいかわからなくなってしまうね」
「正確さ……ってなるとやっぱり祓う事を第一優先に考えるべきか?」
「そうだね。確実に呪霊を捕まえる方位・定礎・結の流れかな。
指定した位置に結界を作ること。
それが最初の名前の課題でいいかな?」
「はいっ!!」
「ってことで、ここに許可された私の呪霊がいます」
「……はい」
もぞもぞと傑くんの足下から出てきた呪霊達。
それぞれ四方八方な飛んでいく。
「名前は今逃げた呪霊達を結界に閉じ込めること。
あぁ、祓うのは無しにしてくれ」
「それでいいんですか?」
「修行だからね。呪霊のサイズピッタリの結界を作るんだ」
「ピッタリ……」
「大きすぎたり、小さすぎても駄目だよ?」
「はい」
「あ、ちなみに一回でもミスをしたらやり直しだよ?」
「え……」
「終わるまでは帰れないよ?」
傑くんの笑顔が怖い……。
「私も心苦しいけど頑張ろうね、名前」
「お、終わらない……終わらない……っ」
「泣かすなよ」
「そーだそーだ!」
「硝子、悟。
可愛くてもしっかりやる時はやらせなくちゃ」
「あぁぁっ」
「はい、もう一回」
「うぅぅ……ぐすっ……」
「鬼だ」
「鬼畜だな」
悟くんと硝子ちゃんが傑くんへ野次を飛ばす。
傑くんは笑顔で応援してくれた。
体力と気力がついたが……少し心が折れた。
「反転術式のコツ?」
「うん」
「感覚」
「……硝子ちゃん」
「オマエの説明わかんねーっつの」
「センスねーな」
「センス……無い……」
「慣れしかないよ」
「慣れ、かぁ」
説明が得意ではないらしい硝子ちゃん。
びゅーんひょいっって説明に思わず頭を傾げて聞き返してしまったくらいだ。
「じゃあ練習すればいい」
突然持っていたメスでザックリと腕を切る硝子ちゃん。
悟くんと傑くんすら驚いて慌てた。
「しょ、硝子ちゃんっ」
「ほら」
「何やってんだよ硝子!!」
「早く止血をっ!!」
「名前」
「っ!!」
「反転術式使いたいなら覚悟を決めろ」
真剣な顔で此方を見る硝子ちゃん。
ショックで泣き出してしまったものの、泣いている場合ではないと必死に硝子ちゃんの腕を治す。
「ちゃんと出来たな」
「硝子ちゃん……もう、2度としないで……っ」
「反転術式なんて数こなしてこそだぞ」
「だけどわざとはだめっ」
「悪かったよ。もうしない」
よしよし、と頭を撫でられるが涙が出てしまう。もしも硝子ちゃんの腕を治せなかったら……と考えると怖くて涙が止まらない。
「先生ー!硝子ちゃんが名前ちゃん泣かせましたー」
「酷いトラウマ植え付けてまーす」
「オマエらに言われたくねー」
よく喧嘩する悟くんと傑くんのおかげもあり、反転術式は上達していった。
ただし、硝子ちゃんがメスや刃物を持っている姿を見ると心がバッキバキに折れる事になった。
あとがき
結界師の解釈間違えていたらすいません。
かなり前に読んだので、知識が……。
結界師読んだことある方は名前ちゃんの家は雪村・墨村家の分家だと思ってください。
なので、正統後継者の良守や時音より結界師としての腕は未熟だし、絶界とか管理者とかまでいけません。
結界師知らない方でも読める……はず!
楽しく学びながらトラウマ増やされてる名前ちゃん。
ちなみに直哉くんは京都でモンモンしています。
・メンタル成長させられてる名前ちゃん
同級生名前呼び(えっへん)
心が折られる度、メンタル強化されている。
迷子になる常習犯。本人の意思ではない。
同級生の修行内容がトラウマ。
・蒼放って泣かれた悟くん
真面目に謝った。そんなつもりは無かったけど、これに耐えれたらどんな敵も問題ないからガンガンいくぜ!!ってまたやる。
・呪霊と鬼ごっこで泣かれた傑くん
泣いても笑顔で頭撫でた。
捕縛用の結界に興味津々。
ちゃんと捕まえるんだよ?と許可貰って10体放った。捕まえるまで帰れま10開始。
小さいのから大きいのまで。
遅いものから素早いものまで。
一発で捕らえられなかったら最初から。
・びゅーんひょいっで泣かれた硝子ちゃん
己を追い込めば出来るって、とわりと鬼畜。
指導?こう……びゅーんひょいっだって。
わからない?
じゃあ私の腕貸すからやってみな、とザックリして泣かれた。
謝ったがまたやる。