呪縛
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「…………」
「えーっと……」
夏油傑は困っていた。
「………」
「その、大丈夫かい?」
プルプルプルプル。
自分の横で震える小さな小動物。
「先生!!傑くんが名前さんを虐めています!」
「悟?」
「いーけないんだーいけないんだー」
「硝子?」
「(ガタガタガタガタ)」
「…………」
夏油傑(16歳)心が折れそうです。
〜あらすじ〜
クソ野郎の婚約者のせいで、心に傷を負った少女名前と隣同士の席になった!!
迷子かな?と教室案内して挨拶しただけなのに、泣かれちゃったよ!!
聞いた時は同じスタート位置だったはずの女子生徒は、たった一晩でなぜか少し仲良さげなのにっっ!!!!!
チラリ、と此方を涙目で見上げる女の子……名前は、私と目が合うと肩を震わせて悟を見る。
悟の制服の袖を引けば、悟はドロリと甘さを含んだ瞳で名前を見下ろす。
「傑と話したいなら、ちゃんと話してごらん?」
「……は、い」
「ほら、傑見てる」
恐る恐る此方を見る。
怖がらせないように、と思って笑うとより身体を跳ねさせて視線を逸らされた。
え?普通なら女の子はトキメくんだが?
「悟」
「何」
「私の笑顔はそんなに怖いか?」
「怖い怖い。弱い者狩り捕ろうとする獣の目だわ」
「っ!?」
「止めてくれ……。
名前、違う。そうじゃないんだ」
確かに?
確かに少し……少しだけ思ったさ。
こんだけ震えて怯えられると……ちょっと追い詰めたくなるというか。
悪戯はしたくなるだろ?
「アウト。夏油触んなよ」
「まだ何も言ってないよ、硝子」
「顔がアウトだった」
「キャーーー!!獣よ!!獣の傑が現れたわ!!
その前髪こそ獣の印よ!!」(高音)
「悟、一度キミとは拳で語り合うべきかな?」
ミシッ、と拳が鳴った。
それくらい苛立った。
隣の少女はうつ向いて唇を噛み締めている。
「……名前、私が怖いかい?」
私の質問になぜだか泣きそうな顔をして此方を見たあと、口をパクパクさせ……首を振った。
「私が怖いわけではないんだね」
そう聞くとコクコクと頷く名前。
これも婚約者の後遺症だと考えると苦い気持ちになる。
彼女は悪くない。
「ゆっくりでいいよ。
キミのペースで私と仲良くしてくれるかな?」
できる限りの優しい声を出せば申し訳なさそうな顔をして頷いてくれた。
「今日は体術訓練をする」
高専から支給されたジャージ。
最初に気付いたのは硝子。
一緒に走り込みを始め……気だるげだった瞳をカッ、と見開き名前を引き止める。
そしてジャージを下ろし……頭を抱えていた。
「先生」
「どうした」
「名前と可愛いジャージ買いに行っていいですか?」
「自由か」
「ちょっとこれはよろしくない」
頭を傾げる名前。
夜蛾先生の言葉を聞く前に硝子は彼女を引きずって高専の車を借りる手配までしていなくなる。
「先生、俺らもこのクソダセェジャージだと気分乗らないから買いに行っていい?」
「私は別に……」
「……もういい。お前達まとめて討伐任務に当たれ」
なんやかんやと体術練習から討伐任務へ。
出発しようとした硝子と名前の乗った車を停めて共に乗り込む。
「何だよオマエらまで」
「討伐任務行ってこいってさ」
「へぇ、頑張れ。私と名前は買い物行く」
「ジャージならオソロにしよ。オソロ」
「ジャージより大事なもん買いに行くんだよ」
「? 硝子と名前はジャージを買いに来たをんじゃないのかい?」
私が前に。
悟、名前、硝子と座っている後ろ。
バックミラーで硝子を見ながら問いかける。
「オマエらに関係無い」
「名前、何買うの?」
硝子が口を割らないとわかると悟は名前へ。
私の時は泣き出しそうになるのに、悟との会話はすんなりと行われた。
「えっと……下着を買わなきゃ駄目だって」
「「ん?」」
「名前」
……今、何て言ったこの子?
私と悟が聞き返すのに対して硝子は名を呼び止めている。
「下着?何で?」
「硝子様が、今のままじゃ駄目だと」
「今?どんなの着けてんだよ」
悟が笑ってふざけながら名前のジャージの胸元を引っ張る。
その瞬間、えっ?って悟の声と硝子が悟を殴ったので悟の頭が徐席に当たった。
「悟、何をして……」
「………かった」
「は?」
「……つけて、無かった」
「本当ふざけんなクズ」
………つけて、無かった?
何が?とは聞かない。
思わず名前の胸元をじっと見つめてしまった私は悪くないと思うが、硝子にゴミを見る目を向けられた。
「悟様……これ、駄目なんでしょうか?」
「ありか無しで言ったら俺はあり」
「黙れよクズ」
「だってヌーブラってエロくね?傑だって好きだよな?」
「私を巻き込まないでくれないか?」
ヌーブラ?は?
今この子ヌーブラだけなの?
待って。それめちゃくちゃエロい。
だから走ってるときあんなに…いや、思い出すな。
「だから走ってるときあんな揺れてたのか」
「悟」
キミと同じ事考えていたなんて私達はやはり気が合うらしい。
……いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。
「……婚約者の趣味でこの子それかサラシしか無いんだよ」
「うわっ、変態かよ」
「覗き見たオマエも変態だよクズ」
「俺は婚約者に下着まで趣味押し付けねぇーよ」
オッエー、と吐く真似をする悟。
当たり前のように会話しているが……普通、ではないよな?
同級生の下着事情を聞くなど思わないじゃないか。
「ってことでオマエらは討伐。私らは買い物に行く」
「面白そうだから着いて行く」
「来んな」
「下着全部揃えるならそれなりの金額になるだろ?なら俺払うし」
「そんなっ!!悟様にお支払だなんてっ」
「いーの。名前は気にせず受け取んな」
「でも……」
困り顔の名前。
キミはもう少し危機感を持とうか。
普通の同級生は下着をプレゼントなんてしないから。
「……いや、受け取っときな。アンタ部屋着やスパッツやタイツだって揃えなきゃいけないんだし」
「まじ?そんな物ねぇの?」
「部屋着はありますよ?」
「ベビードールを部屋着とは認めない」
「「ベビードール?」」
硝子、今なんて???
「本当腐った婚約者だな」
「うわぁ……まじかよ」
「……悟。呪術界では普通の事なのかい?」
だとしたら私は呪術界の常識についてはいけない。
「普通に名前の婚約者がおかしいっつの」
討伐任務を後回しにしてひとまず買い物へ。
ジャージなんてもう買う気などなく、硝子と悟は名前の腕を引いて明らかに男は入りにくいはずのランジェリーショップへ入って行った。
私?………察してくれ。
「この子のサイズ測って貰えますか?」
硝子様に背を押され店員さんに腕引かれて案内される。
言われるがまま身体をメジャーで測られサイズを教えられる。
「お客様のサイズですと此方ですね」
「……Dか」
「品物によってはもう一サイズ上でも大丈夫かと」
「もう一サイズ……」
「五条、オマエは絶対選ぶなよ」
あれがいいこれがいいと二人で言い合っている。
よくわからないままフィッティングルームに連れて行かれ、店員さんに指導される。
少しだけ苦しいかな?と思うものの直哉様のお部屋にあった雑誌の女性のようだ。
水着のようなものに見えるが、この上から服を着たら胸が目立つ気が……。
「どう?着け心地とか」
「……硝子様、あのこれだと胸が強調されすぎて服が…」
カーテンから出て行けば、ギョッとした硝子様。
悟様も目をキョトンとしている。
「バッッ!!中戻れ!!」
「えっと……あの、駄目でしたか?」
「下着は乳支えるもんだから強調されてもいーの!」
「は、はい」
再びカーテンに押し込まれる。
「あの、どうしたら……」
「店員さん、この下着の水色ってある?」
「ございます」
「それ着けてやって。そのまま着て帰るから」
悟様の声に店員さんらしき人がコツコツとヒールを鳴らしていなくなる音がする。
今は白い物。
すぐに持ってきたらしい店員さんは失礼します、と入って来てまた先程のように着けてくれた。
値札を取ってくれてにこりと笑う。
「そのままお召し物をどうぞ。
……素敵な彼氏様ですね」
彼氏では無いのだが、店員のお姉さんはニコニコとしている。
大人しくさっきまで着ていたジャージを着てみればなんだか胸元が大きくて違和感がある。
着物に胸は邪魔なので潰していたのだが、こうしてみると何だか女性らしくなった気がして、少し自分が大人になった気分に。
カーテンから出ると硝子様がいた。
悟様はどこに……と思ったら店員さんと真剣にあれこれと話し合っていた。
「アイツまじありえねー」
「名前、夜付けるナイトブラ何色がいい?」
「えっと……何色でも」
「五条、黒のブラも買え。淡い色も似合うが黒だろ黒」
「店員さん、動きやすさ重視で黒のエロいのある?」
「ございます」
「エロくなくていいけど柄がウザくないやつ」
「勿論ございます」
気付けば悟様と硝子様とで話が進んでいる。
「セットでお買い上げいたしますか?」
「名前、パンツ何がいいの?」
「此方がセット内容の下です」
Tバック、普通のもの、普通……に見えてお尻側が透けているもの。
私は迷わずいつもの穿いているものを選んだ。
「………」
「五条、顔」
「嘘だろ?硝子さん」
「事実だ、五条」
「?」
顔に手を当て大きな溜め息をついている。
硝子様も驚いていたが、動きやすいし着物の時に目立たないからとてもいいのに。
思っていたよりも多めに悟様が購入してくれて何度頭を下げても足りないくらいだ。
お店から出ると傑様が気付いて歩み寄ってくる。
「ゆっくり選べたかい?」
「傑、今度は傑がプレゼントしてやれ」
「は?」
「俺的にガーターベルトがいい」
「名前、コイツらと2度と下着は買いに行くな。いいな?」
今度は部屋着だ、と三人に連れられて歩き出す。
悟様に手を引かれ、硝子様と傑様と一緒に。
「あ、これいいんじゃね?」
「硝子、そこはコレだろ」
「女の子は部屋着に種類があるんだね」
あれこれと再び選ばれる。
タイツやスパッツも何点か既にかごに入れており、部屋着を三点選ぶことに。
「名前、好みとかある?」
「……肌触りのいいものが」
「肌触りね」
悟様、硝子様、傑様がそれぞれ選んでくれる事になり、私もパーカーを一着選んだ。
「ホラ」
先に手渡されたのは硝子様。
短いズボンにトレーナー。
「部屋着ならこれで十分」
「はい、次俺ー」
悟様が籠に入れたのはロングパーカー。
「これならスッポリ被れるから楽だろ?」
「悟ならもっとヤバイの選ぶと思ったよ」
「たまになら着て欲しいけど常にだと目のやり場に困る」
「わかる」
「クズ共の性癖なんか聞いてねーよ」
「……私はこれを」
傑様が入れたのはフワフワ生地のパーカーとズボン。
「ルームウェアで探したらこういったものが多くてね」
「傑も無難なやつだな」
「彼女ならともかく、同級生に贈るとなったら無難にもなるよ」
「まともじゃなかったらオマエら二人実費で選んだヤツオマエらに着させたわ」
硝子様の言葉に黙る二人。
会計を済ませたら思っていたよりも安く済んだ。きっと皆さんが値段と私の好みを考えてくれた結果からだろう。
「あの……ありがとう、ござい…ます」
なんだかとても、心が温かくなった。
購入した袋を抱き締めて伝えれば、三人は黙って此方を見ている。
何か間違えただろうか……?と不安になったが、悟様に頭を雑に撫でられる。
「ちゃんと使えよ」
「はい」
「じゃあチャチャっと祓いに行こうぜ」
悟様の言葉通り、呪霊はさっと悟様と傑様が祓ってしまった。
「……で?何か言いたいことはあるか?」
四人で仲良く正座。
夜蛾先生を目の前に私達は叱られていた。
「お言葉ですが先生。怒られている意味がわかりません」
「そーだそーだ!」
「そうか。お前達は何と言って授業をサボった?」
その言葉にそれぞれが顔を背ける。
ジャージを買いに行く……と言ったが、私達はそもそもジャージなど買わずに戻ってきた。
「やっぱりジャージは指定のがいいと思いまして」
「せっかく用意してもらったからね」
「そのあと呪霊も祓ったし問題ねーじゃん」
私、硝子、悟とそれぞれ足を崩す。
名前だけは正座を崩すことなく申し訳なさそうな顔をして夜蛾先生と悟を交互に見つめていた。その視線に気付いた二人は名前を見るのは自然な事。
「どうした?」
「何かあった?」
二人にそう問われ、ますます泣きそうな顔をしながら申し訳なさそうにする名前。
「……先生、本当に申し訳ありませんでした」
突然の土下座にギョッとする私達。
何事かと夜蛾先生ですら名前と視線を合わせるようにしゃがみこむ。
「先生のご指導や授業を妨害して、皆様のお時間を無駄にしてしまい本当に……」
「待て。一体何の話だ」
「今日、皆様は私のせいで授業を中断してしまったことのお詫びを」
「どういうことだ?」
「私が下着を一つも持っていなかったが為に」
「ん"ん"っ!?」
「「ぶふっ!!」」
……今、この子何て???
夜蛾先生は聞き間違いかと耳を疑っているし、悟と硝子はそれぞれ顔を横に向けてうつ向いている。……が、その身体はバイブのように震えている。
「……名前、今日の事は」
「私が浅はかでした……硝子様は忠告してくださっていたのに、私はサラシだと着替えが大変かと思って辞めてしまいました……。
私の見苦しい姿の失態のせいで……」
「名前、もういい」
「皆様は私に普通を教えてくださっただけで、皆様は悪くないんです!
だから、どうか罰するなら私だけをっ」
「わかった。わかったからもういい」
真面目に謝罪している姿に流石の夜蛾先生は顔に手を当て天を仰いだ。
「名前」
「は、はいっ!」
「……次、困ったら女性の補助監督か硝子に言って事前に知らせてくれ」
「はい?」
あ、この子わかっていない。
硝子と悟の腹筋が死んだ。
悪い子ではない。
ただ、少し特殊な環境で育ったせい。
「名前、辞めろ。その格好で外に出るなと言ったろ」
「でも、硝子様……あの、飲み物を」
「せめてパーカーの前閉めろ」
風呂上がりなのか、ぶかぶかのパーカーを羽織りチャックも閉めずに自販機の前に居た名前。私と悟もシャワーを浴びて自販機の前に居たら出会ったのだが……パーカーの中が黒のベビードールだった。
スケてはいないものの、目のやり場に困る程度に際どい。
胸の谷間は見えているし、横はなぜか紐が交差しているだけだし、下……は流石にショートパンツは履いているが……想像がどんどんと膨らんでいく。
「……名前、俺らが買ったやつは?」
「今、洗濯していて」
「そっかー」
悟が天を仰いだ。
どうやら三枚じゃ足りなかったらしい
「名前、その格好で男の前に出たら駄目だっつったろ。男は獣だ」
「でも、直哉様はこれが普通だと」
「その婚約者頭おかしい」
「おかしい……」
その後も硝子が名前の面倒を見ていたら二人は自然と仲良くなった。
私とはまだ少し距離があるが、名前から歩み寄ろうと頑張っているので気長に待とうとは思っている。
「…………」
「傑、そんな顔すんなって」
「羨ましいからって笑顔で圧かけんなよ」
「嫌だな、硝子。そんな事するわけないじゃないか」
プルプル震える姿に心が折れかけても。
本人に悪気は無いのだから。
「……ご、ごめん……なさいっ」
「「なーかせた、なーかせた」」
「怒るよ?二人とも」
そんな日々が続いていたのだが、任務となれば話は別。
「傑と名前はこっちの任務に。
悟と硝子はこっちだ」
繁忙期に入り学生とはいえ別々に行動する事が増えた。
今回は私との初任務に不安そうにする名前。
「大丈夫。すぐ終わるさ」
深々とお辞儀する姿に出来るだけ早く終わらそうと思った。
いい子なのは短い間だが一緒に過ごしていて理解している。
だが、こうも話辛い相手と長い時間を共にするのは此方も苦手だ。
任務はとても簡単に終わった。
悟程では無いにしろ、名前も高専に来る前から実戦を積んでいる為か現場慣れしている。
名前は自分の術式に自信が無いと言っているものの、探索能力にも優れている。
建物だろうが山中だろうが水中だろうが低級もいる中から目的の残穢を探る能力。
結界も多種多様で大きさや固さなどの調整も可能。
使い方一つで何でも出来そうな便利な術式だった。
任務地は都内だった為路地から出ればそこはすぐに人混みが。
思いの外早く終わった任務にお昼でも食べようかと後ろにいるであろう名前に声を掛けようとしたのだが……いない。
どこへ……と思ったら
「こんな所女の子が歩いてどーしたの?」
「あぁ、薬欲しい?」
「………っ」
何か変なのに捕まっていた。
「すいません、お兄さん方。
その子私の友人なので」
「あぁ?」
凄んできた怪しい男達を携帯片手に110の文字で黙らせればいなくなった。
「名前、お昼なんだけどファーストフード店でもいいかい?」
こくり、と頷いた名前。
じゃあ行こうか、とここら辺から近かった飲食店を探して歩く。
「あぁ、あったよ。
名前はファーストフードって……え?」
嘘だろ……と、思った。
たった数分。歩いただけなのに姿が無い。
慌てて来た道を戻れば
「お嬢さんお願い。ね?すぐ終わる写真撮影だから!!ちゃんとお金も出すからね?」
「すまないが別な子に頼めるかい?」
変なのに絡まれていた!!!!
名前の腕を掴み泣きそうな名前に押せばいけると思って強引だったのかわからないが、男の手を叩き落として名前を背に庇う。
「いいかい?あぁいった変なのに着いて行ってはいけないよ?」
怖かったのか、こくこくと頷いている。
まさかこの短時間で怪しい男達に声を掛けられるなんて……。
言葉が出ず、オドオドとか弱い小動物はいい餌食らしい。
後ろを歩かせては見失うし、気付きにくい。
「名前、私の隣を歩けるかい?
後ろだとはぐれてしまいやすいから」
流石に三度目は無いと思いたい……が、万が一を考えた措置。
困った顔をされたものの、早く食欲を満たしたいし早く帰りたい。
そう思って隣を歩いて貰ったが、彼女の性格的に少し離れて歩く。
「すいませーん!ちょっと道を聞きたいんですが……あ、わかりにくいかなぁ。
ちょっとここまで道案内を」
「あそこに交番がありますよ?どうぞそちらへ」
まさかだった。
駄目だ……この子、目を離したら駄目だ。
たかが数メートル歩いただけなのに変なのが釣れる。
このままじゃいけない、と悪いとは思ったがこれが最善だと思った。
名前の手を取り、手を繋いで歩く。
ビクリッ、とされたものの手を離す気はない。
「ごめんね?さっきから変なのが多いから」
「………」
「嫌だろうけど耐えてね」
見付けたファーストフード店に入り、適当に注文する。
名前の気になるものを指差してもらい、それも一緒に注文して支払う。
出来上がるまで端に寄り携帯で補助監督に居場所をメール。
すぐに着くと連絡が来て待っていれば品物も出来上がった。
「すぐに補助監督が車回してくれるみたいだよ」
車が来て後ろに一緒に乗り込む。
名前の食べたかった品物を手渡して私もかぶりつく。
お金を出そうとしていたが、あまり頼んでいないので今回はいらないと断った。
名前もお腹が減っていたのか恐る恐る口に運ぶと驚いた顔をしていた。
「ははっ、初めて食べたのかい?」
いつもより目を輝かせながら頷き、顔を緩めて食べる姿は可愛らしかった。
高専に戻れば悟と硝子の方が早かったらしく先にいた。
「お疲れ」
「遅かったな」
「ちょっとね」
予想外の出来事が多くて。
「等級違ったとか?」
「いや、そんなんじゃないさ」
「……あ、の」
「ん?」
くいっ、と私の袖を引く名前。
ほんのりと頬を赤くして私を見上げている。
「今日は……色々、助けてくださり……ありがとうございました」
「……あ、うん」
「いつも……傑様の事、勝手に怖がってごめんなさい。なのに、傑様はいつも優しくしてくれて……ありがとうございます」
言いきってから耳まで真っ赤にしてうつむく名前。
その頭に手をのせて頭を撫でる。
「気にしてないよ。
言ったろ?名前のペースで慣れて、って」
いつも通りを心掛けて話す。
名前はへにゃりと笑うと私の手にすり寄るように頭を押し付けてきた。
「ありがとう、ございます」
身体が固まる。
名前は硝子に呼ばれて先に行ってしまう。
するり、と簡単にいなくなった温もりが寂しい。
「良かったじゃん傑」
「……悟」
「この任務で随分打ち解けたんだな」
「あの子と歩くときは首輪をオススメするよ」
「ん?何つった?」
感極まって可笑しな事を口走ったが覚えていない。
あまりに可愛らしく無防備な姿に色々とギュッと掴まれた感覚。
「悟……あの子は保護しなきゃ駄目だ」
「本当に何あった?」
保護欲と嬉しさとその他諸々の感情の波が押し寄せてきて、私は少し泣いた。
あの子は守らなきゃ。
あとがき
・不審者ホイホイ名前ちゃん
おてて繋いだ事により、傑くんって本当にいい人!!となった。
あと不審者で困っている時全部どうにかしてくれた……凄くいい人!!
今までごめんねをしてこれから積極的に交流を試みる。
・不審者直哉くん
下着やベビードールの趣味はいいが、己の性癖押し付けちゃう人
・下着を買った悟くん
ランジェリーショップとか楽しそうって理由で行く。恥ずかしい?いやいや俺が選んだの身に付けるって良くない?
入店して三度見くらいされる。女性のが恥ずかしくなって出ていかれる顔のよさである意味営業妨害だが、いっぱい買った太客。
傑くんだけビビられててウケる。
まだ保護者。(重要)
・乳揺れにギョッとした硝子ちゃん
走って揺れる乳にギョッとした。
何で今日に限ってサラシじゃないんだよ!!
まじでこの子ほっといたらヤバイと思った。
最近は夏油弄りが楽しい。
保護者になりつつある。
・話しかけられて感動した傑くん
私だけビビられてていじけてはいない……べ、別に……っ悔しく、なんか……っ。
嘘だろ。目を離したらこの子どんだけ……
この後、よく任務を組むようになり一番苦労する人。
プルプルして視線合わなかったのに、視線が合って袖引かれて話しかけられて頭ショートした。首輪つけなきゃ……保護しなきゃ……この子は私が守らなきゃ……。嬉しくて色々ぶっ飛んだ。が、首輪云々は無自覚。
多分一番面倒見いい。
保護者へ
・天を仰いだ夜蛾先生
教え子のそんな事情知りたくなかった。
なのに、真面目な顔で真剣に謝られたからこのクラスまともなの一人もいねぇと今後の苦労を察した。
・不屈の従業員精神で対応したランジェリーの店員
めっちゃ顔のいい男の客いた。
そして客はみんないなくなった……チィッ!!
女の子二人引き連れてきたがこれだから顔のいい野郎は……(最近フられた)
え?なんでこの子ブラしないでジャージ?
え?普通にカーテンから出てきたぞ?
え?男が真剣に選んで……え?
え?めっちゃ買ってくれるしもう一人の女の子も容赦なく男に買わせるじゃん?
顔は崩さず対応した。MVP。
「えーっと……」
夏油傑は困っていた。
「………」
「その、大丈夫かい?」
プルプルプルプル。
自分の横で震える小さな小動物。
「先生!!傑くんが名前さんを虐めています!」
「悟?」
「いーけないんだーいけないんだー」
「硝子?」
「(ガタガタガタガタ)」
「…………」
夏油傑(16歳)心が折れそうです。
〜あらすじ〜
クソ野郎の婚約者のせいで、心に傷を負った少女名前と隣同士の席になった!!
迷子かな?と教室案内して挨拶しただけなのに、泣かれちゃったよ!!
聞いた時は同じスタート位置だったはずの女子生徒は、たった一晩でなぜか少し仲良さげなのにっっ!!!!!
チラリ、と此方を涙目で見上げる女の子……名前は、私と目が合うと肩を震わせて悟を見る。
悟の制服の袖を引けば、悟はドロリと甘さを含んだ瞳で名前を見下ろす。
「傑と話したいなら、ちゃんと話してごらん?」
「……は、い」
「ほら、傑見てる」
恐る恐る此方を見る。
怖がらせないように、と思って笑うとより身体を跳ねさせて視線を逸らされた。
え?普通なら女の子はトキメくんだが?
「悟」
「何」
「私の笑顔はそんなに怖いか?」
「怖い怖い。弱い者狩り捕ろうとする獣の目だわ」
「っ!?」
「止めてくれ……。
名前、違う。そうじゃないんだ」
確かに?
確かに少し……少しだけ思ったさ。
こんだけ震えて怯えられると……ちょっと追い詰めたくなるというか。
悪戯はしたくなるだろ?
「アウト。夏油触んなよ」
「まだ何も言ってないよ、硝子」
「顔がアウトだった」
「キャーーー!!獣よ!!獣の傑が現れたわ!!
その前髪こそ獣の印よ!!」(高音)
「悟、一度キミとは拳で語り合うべきかな?」
ミシッ、と拳が鳴った。
それくらい苛立った。
隣の少女はうつ向いて唇を噛み締めている。
「……名前、私が怖いかい?」
私の質問になぜだか泣きそうな顔をして此方を見たあと、口をパクパクさせ……首を振った。
「私が怖いわけではないんだね」
そう聞くとコクコクと頷く名前。
これも婚約者の後遺症だと考えると苦い気持ちになる。
彼女は悪くない。
「ゆっくりでいいよ。
キミのペースで私と仲良くしてくれるかな?」
できる限りの優しい声を出せば申し訳なさそうな顔をして頷いてくれた。
「今日は体術訓練をする」
高専から支給されたジャージ。
最初に気付いたのは硝子。
一緒に走り込みを始め……気だるげだった瞳をカッ、と見開き名前を引き止める。
そしてジャージを下ろし……頭を抱えていた。
「先生」
「どうした」
「名前と可愛いジャージ買いに行っていいですか?」
「自由か」
「ちょっとこれはよろしくない」
頭を傾げる名前。
夜蛾先生の言葉を聞く前に硝子は彼女を引きずって高専の車を借りる手配までしていなくなる。
「先生、俺らもこのクソダセェジャージだと気分乗らないから買いに行っていい?」
「私は別に……」
「……もういい。お前達まとめて討伐任務に当たれ」
なんやかんやと体術練習から討伐任務へ。
出発しようとした硝子と名前の乗った車を停めて共に乗り込む。
「何だよオマエらまで」
「討伐任務行ってこいってさ」
「へぇ、頑張れ。私と名前は買い物行く」
「ジャージならオソロにしよ。オソロ」
「ジャージより大事なもん買いに行くんだよ」
「? 硝子と名前はジャージを買いに来たをんじゃないのかい?」
私が前に。
悟、名前、硝子と座っている後ろ。
バックミラーで硝子を見ながら問いかける。
「オマエらに関係無い」
「名前、何買うの?」
硝子が口を割らないとわかると悟は名前へ。
私の時は泣き出しそうになるのに、悟との会話はすんなりと行われた。
「えっと……下着を買わなきゃ駄目だって」
「「ん?」」
「名前」
……今、何て言ったこの子?
私と悟が聞き返すのに対して硝子は名を呼び止めている。
「下着?何で?」
「硝子様が、今のままじゃ駄目だと」
「今?どんなの着けてんだよ」
悟が笑ってふざけながら名前のジャージの胸元を引っ張る。
その瞬間、えっ?って悟の声と硝子が悟を殴ったので悟の頭が徐席に当たった。
「悟、何をして……」
「………かった」
「は?」
「……つけて、無かった」
「本当ふざけんなクズ」
………つけて、無かった?
何が?とは聞かない。
思わず名前の胸元をじっと見つめてしまった私は悪くないと思うが、硝子にゴミを見る目を向けられた。
「悟様……これ、駄目なんでしょうか?」
「ありか無しで言ったら俺はあり」
「黙れよクズ」
「だってヌーブラってエロくね?傑だって好きだよな?」
「私を巻き込まないでくれないか?」
ヌーブラ?は?
今この子ヌーブラだけなの?
待って。それめちゃくちゃエロい。
だから走ってるときあんなに…いや、思い出すな。
「だから走ってるときあんな揺れてたのか」
「悟」
キミと同じ事考えていたなんて私達はやはり気が合うらしい。
……いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。
「……婚約者の趣味でこの子それかサラシしか無いんだよ」
「うわっ、変態かよ」
「覗き見たオマエも変態だよクズ」
「俺は婚約者に下着まで趣味押し付けねぇーよ」
オッエー、と吐く真似をする悟。
当たり前のように会話しているが……普通、ではないよな?
同級生の下着事情を聞くなど思わないじゃないか。
「ってことでオマエらは討伐。私らは買い物に行く」
「面白そうだから着いて行く」
「来んな」
「下着全部揃えるならそれなりの金額になるだろ?なら俺払うし」
「そんなっ!!悟様にお支払だなんてっ」
「いーの。名前は気にせず受け取んな」
「でも……」
困り顔の名前。
キミはもう少し危機感を持とうか。
普通の同級生は下着をプレゼントなんてしないから。
「……いや、受け取っときな。アンタ部屋着やスパッツやタイツだって揃えなきゃいけないんだし」
「まじ?そんな物ねぇの?」
「部屋着はありますよ?」
「ベビードールを部屋着とは認めない」
「「ベビードール?」」
硝子、今なんて???
「本当腐った婚約者だな」
「うわぁ……まじかよ」
「……悟。呪術界では普通の事なのかい?」
だとしたら私は呪術界の常識についてはいけない。
「普通に名前の婚約者がおかしいっつの」
討伐任務を後回しにしてひとまず買い物へ。
ジャージなんてもう買う気などなく、硝子と悟は名前の腕を引いて明らかに男は入りにくいはずのランジェリーショップへ入って行った。
私?………察してくれ。
「この子のサイズ測って貰えますか?」
硝子様に背を押され店員さんに腕引かれて案内される。
言われるがまま身体をメジャーで測られサイズを教えられる。
「お客様のサイズですと此方ですね」
「……Dか」
「品物によってはもう一サイズ上でも大丈夫かと」
「もう一サイズ……」
「五条、オマエは絶対選ぶなよ」
あれがいいこれがいいと二人で言い合っている。
よくわからないままフィッティングルームに連れて行かれ、店員さんに指導される。
少しだけ苦しいかな?と思うものの直哉様のお部屋にあった雑誌の女性のようだ。
水着のようなものに見えるが、この上から服を着たら胸が目立つ気が……。
「どう?着け心地とか」
「……硝子様、あのこれだと胸が強調されすぎて服が…」
カーテンから出て行けば、ギョッとした硝子様。
悟様も目をキョトンとしている。
「バッッ!!中戻れ!!」
「えっと……あの、駄目でしたか?」
「下着は乳支えるもんだから強調されてもいーの!」
「は、はい」
再びカーテンに押し込まれる。
「あの、どうしたら……」
「店員さん、この下着の水色ってある?」
「ございます」
「それ着けてやって。そのまま着て帰るから」
悟様の声に店員さんらしき人がコツコツとヒールを鳴らしていなくなる音がする。
今は白い物。
すぐに持ってきたらしい店員さんは失礼します、と入って来てまた先程のように着けてくれた。
値札を取ってくれてにこりと笑う。
「そのままお召し物をどうぞ。
……素敵な彼氏様ですね」
彼氏では無いのだが、店員のお姉さんはニコニコとしている。
大人しくさっきまで着ていたジャージを着てみればなんだか胸元が大きくて違和感がある。
着物に胸は邪魔なので潰していたのだが、こうしてみると何だか女性らしくなった気がして、少し自分が大人になった気分に。
カーテンから出ると硝子様がいた。
悟様はどこに……と思ったら店員さんと真剣にあれこれと話し合っていた。
「アイツまじありえねー」
「名前、夜付けるナイトブラ何色がいい?」
「えっと……何色でも」
「五条、黒のブラも買え。淡い色も似合うが黒だろ黒」
「店員さん、動きやすさ重視で黒のエロいのある?」
「ございます」
「エロくなくていいけど柄がウザくないやつ」
「勿論ございます」
気付けば悟様と硝子様とで話が進んでいる。
「セットでお買い上げいたしますか?」
「名前、パンツ何がいいの?」
「此方がセット内容の下です」
Tバック、普通のもの、普通……に見えてお尻側が透けているもの。
私は迷わずいつもの穿いているものを選んだ。
「………」
「五条、顔」
「嘘だろ?硝子さん」
「事実だ、五条」
「?」
顔に手を当て大きな溜め息をついている。
硝子様も驚いていたが、動きやすいし着物の時に目立たないからとてもいいのに。
思っていたよりも多めに悟様が購入してくれて何度頭を下げても足りないくらいだ。
お店から出ると傑様が気付いて歩み寄ってくる。
「ゆっくり選べたかい?」
「傑、今度は傑がプレゼントしてやれ」
「は?」
「俺的にガーターベルトがいい」
「名前、コイツらと2度と下着は買いに行くな。いいな?」
今度は部屋着だ、と三人に連れられて歩き出す。
悟様に手を引かれ、硝子様と傑様と一緒に。
「あ、これいいんじゃね?」
「硝子、そこはコレだろ」
「女の子は部屋着に種類があるんだね」
あれこれと再び選ばれる。
タイツやスパッツも何点か既にかごに入れており、部屋着を三点選ぶことに。
「名前、好みとかある?」
「……肌触りのいいものが」
「肌触りね」
悟様、硝子様、傑様がそれぞれ選んでくれる事になり、私もパーカーを一着選んだ。
「ホラ」
先に手渡されたのは硝子様。
短いズボンにトレーナー。
「部屋着ならこれで十分」
「はい、次俺ー」
悟様が籠に入れたのはロングパーカー。
「これならスッポリ被れるから楽だろ?」
「悟ならもっとヤバイの選ぶと思ったよ」
「たまになら着て欲しいけど常にだと目のやり場に困る」
「わかる」
「クズ共の性癖なんか聞いてねーよ」
「……私はこれを」
傑様が入れたのはフワフワ生地のパーカーとズボン。
「ルームウェアで探したらこういったものが多くてね」
「傑も無難なやつだな」
「彼女ならともかく、同級生に贈るとなったら無難にもなるよ」
「まともじゃなかったらオマエら二人実費で選んだヤツオマエらに着させたわ」
硝子様の言葉に黙る二人。
会計を済ませたら思っていたよりも安く済んだ。きっと皆さんが値段と私の好みを考えてくれた結果からだろう。
「あの……ありがとう、ござい…ます」
なんだかとても、心が温かくなった。
購入した袋を抱き締めて伝えれば、三人は黙って此方を見ている。
何か間違えただろうか……?と不安になったが、悟様に頭を雑に撫でられる。
「ちゃんと使えよ」
「はい」
「じゃあチャチャっと祓いに行こうぜ」
悟様の言葉通り、呪霊はさっと悟様と傑様が祓ってしまった。
「……で?何か言いたいことはあるか?」
四人で仲良く正座。
夜蛾先生を目の前に私達は叱られていた。
「お言葉ですが先生。怒られている意味がわかりません」
「そーだそーだ!」
「そうか。お前達は何と言って授業をサボった?」
その言葉にそれぞれが顔を背ける。
ジャージを買いに行く……と言ったが、私達はそもそもジャージなど買わずに戻ってきた。
「やっぱりジャージは指定のがいいと思いまして」
「せっかく用意してもらったからね」
「そのあと呪霊も祓ったし問題ねーじゃん」
私、硝子、悟とそれぞれ足を崩す。
名前だけは正座を崩すことなく申し訳なさそうな顔をして夜蛾先生と悟を交互に見つめていた。その視線に気付いた二人は名前を見るのは自然な事。
「どうした?」
「何かあった?」
二人にそう問われ、ますます泣きそうな顔をしながら申し訳なさそうにする名前。
「……先生、本当に申し訳ありませんでした」
突然の土下座にギョッとする私達。
何事かと夜蛾先生ですら名前と視線を合わせるようにしゃがみこむ。
「先生のご指導や授業を妨害して、皆様のお時間を無駄にしてしまい本当に……」
「待て。一体何の話だ」
「今日、皆様は私のせいで授業を中断してしまったことのお詫びを」
「どういうことだ?」
「私が下着を一つも持っていなかったが為に」
「ん"ん"っ!?」
「「ぶふっ!!」」
……今、この子何て???
夜蛾先生は聞き間違いかと耳を疑っているし、悟と硝子はそれぞれ顔を横に向けてうつ向いている。……が、その身体はバイブのように震えている。
「……名前、今日の事は」
「私が浅はかでした……硝子様は忠告してくださっていたのに、私はサラシだと着替えが大変かと思って辞めてしまいました……。
私の見苦しい姿の失態のせいで……」
「名前、もういい」
「皆様は私に普通を教えてくださっただけで、皆様は悪くないんです!
だから、どうか罰するなら私だけをっ」
「わかった。わかったからもういい」
真面目に謝罪している姿に流石の夜蛾先生は顔に手を当て天を仰いだ。
「名前」
「は、はいっ!」
「……次、困ったら女性の補助監督か硝子に言って事前に知らせてくれ」
「はい?」
あ、この子わかっていない。
硝子と悟の腹筋が死んだ。
悪い子ではない。
ただ、少し特殊な環境で育ったせい。
「名前、辞めろ。その格好で外に出るなと言ったろ」
「でも、硝子様……あの、飲み物を」
「せめてパーカーの前閉めろ」
風呂上がりなのか、ぶかぶかのパーカーを羽織りチャックも閉めずに自販機の前に居た名前。私と悟もシャワーを浴びて自販機の前に居たら出会ったのだが……パーカーの中が黒のベビードールだった。
スケてはいないものの、目のやり場に困る程度に際どい。
胸の谷間は見えているし、横はなぜか紐が交差しているだけだし、下……は流石にショートパンツは履いているが……想像がどんどんと膨らんでいく。
「……名前、俺らが買ったやつは?」
「今、洗濯していて」
「そっかー」
悟が天を仰いだ。
どうやら三枚じゃ足りなかったらしい
「名前、その格好で男の前に出たら駄目だっつったろ。男は獣だ」
「でも、直哉様はこれが普通だと」
「その婚約者頭おかしい」
「おかしい……」
その後も硝子が名前の面倒を見ていたら二人は自然と仲良くなった。
私とはまだ少し距離があるが、名前から歩み寄ろうと頑張っているので気長に待とうとは思っている。
「…………」
「傑、そんな顔すんなって」
「羨ましいからって笑顔で圧かけんなよ」
「嫌だな、硝子。そんな事するわけないじゃないか」
プルプル震える姿に心が折れかけても。
本人に悪気は無いのだから。
「……ご、ごめん……なさいっ」
「「なーかせた、なーかせた」」
「怒るよ?二人とも」
そんな日々が続いていたのだが、任務となれば話は別。
「傑と名前はこっちの任務に。
悟と硝子はこっちだ」
繁忙期に入り学生とはいえ別々に行動する事が増えた。
今回は私との初任務に不安そうにする名前。
「大丈夫。すぐ終わるさ」
深々とお辞儀する姿に出来るだけ早く終わらそうと思った。
いい子なのは短い間だが一緒に過ごしていて理解している。
だが、こうも話辛い相手と長い時間を共にするのは此方も苦手だ。
任務はとても簡単に終わった。
悟程では無いにしろ、名前も高専に来る前から実戦を積んでいる為か現場慣れしている。
名前は自分の術式に自信が無いと言っているものの、探索能力にも優れている。
建物だろうが山中だろうが水中だろうが低級もいる中から目的の残穢を探る能力。
結界も多種多様で大きさや固さなどの調整も可能。
使い方一つで何でも出来そうな便利な術式だった。
任務地は都内だった為路地から出ればそこはすぐに人混みが。
思いの外早く終わった任務にお昼でも食べようかと後ろにいるであろう名前に声を掛けようとしたのだが……いない。
どこへ……と思ったら
「こんな所女の子が歩いてどーしたの?」
「あぁ、薬欲しい?」
「………っ」
何か変なのに捕まっていた。
「すいません、お兄さん方。
その子私の友人なので」
「あぁ?」
凄んできた怪しい男達を携帯片手に110の文字で黙らせればいなくなった。
「名前、お昼なんだけどファーストフード店でもいいかい?」
こくり、と頷いた名前。
じゃあ行こうか、とここら辺から近かった飲食店を探して歩く。
「あぁ、あったよ。
名前はファーストフードって……え?」
嘘だろ……と、思った。
たった数分。歩いただけなのに姿が無い。
慌てて来た道を戻れば
「お嬢さんお願い。ね?すぐ終わる写真撮影だから!!ちゃんとお金も出すからね?」
「すまないが別な子に頼めるかい?」
変なのに絡まれていた!!!!
名前の腕を掴み泣きそうな名前に押せばいけると思って強引だったのかわからないが、男の手を叩き落として名前を背に庇う。
「いいかい?あぁいった変なのに着いて行ってはいけないよ?」
怖かったのか、こくこくと頷いている。
まさかこの短時間で怪しい男達に声を掛けられるなんて……。
言葉が出ず、オドオドとか弱い小動物はいい餌食らしい。
後ろを歩かせては見失うし、気付きにくい。
「名前、私の隣を歩けるかい?
後ろだとはぐれてしまいやすいから」
流石に三度目は無いと思いたい……が、万が一を考えた措置。
困った顔をされたものの、早く食欲を満たしたいし早く帰りたい。
そう思って隣を歩いて貰ったが、彼女の性格的に少し離れて歩く。
「すいませーん!ちょっと道を聞きたいんですが……あ、わかりにくいかなぁ。
ちょっとここまで道案内を」
「あそこに交番がありますよ?どうぞそちらへ」
まさかだった。
駄目だ……この子、目を離したら駄目だ。
たかが数メートル歩いただけなのに変なのが釣れる。
このままじゃいけない、と悪いとは思ったがこれが最善だと思った。
名前の手を取り、手を繋いで歩く。
ビクリッ、とされたものの手を離す気はない。
「ごめんね?さっきから変なのが多いから」
「………」
「嫌だろうけど耐えてね」
見付けたファーストフード店に入り、適当に注文する。
名前の気になるものを指差してもらい、それも一緒に注文して支払う。
出来上がるまで端に寄り携帯で補助監督に居場所をメール。
すぐに着くと連絡が来て待っていれば品物も出来上がった。
「すぐに補助監督が車回してくれるみたいだよ」
車が来て後ろに一緒に乗り込む。
名前の食べたかった品物を手渡して私もかぶりつく。
お金を出そうとしていたが、あまり頼んでいないので今回はいらないと断った。
名前もお腹が減っていたのか恐る恐る口に運ぶと驚いた顔をしていた。
「ははっ、初めて食べたのかい?」
いつもより目を輝かせながら頷き、顔を緩めて食べる姿は可愛らしかった。
高専に戻れば悟と硝子の方が早かったらしく先にいた。
「お疲れ」
「遅かったな」
「ちょっとね」
予想外の出来事が多くて。
「等級違ったとか?」
「いや、そんなんじゃないさ」
「……あ、の」
「ん?」
くいっ、と私の袖を引く名前。
ほんのりと頬を赤くして私を見上げている。
「今日は……色々、助けてくださり……ありがとうございました」
「……あ、うん」
「いつも……傑様の事、勝手に怖がってごめんなさい。なのに、傑様はいつも優しくしてくれて……ありがとうございます」
言いきってから耳まで真っ赤にしてうつむく名前。
その頭に手をのせて頭を撫でる。
「気にしてないよ。
言ったろ?名前のペースで慣れて、って」
いつも通りを心掛けて話す。
名前はへにゃりと笑うと私の手にすり寄るように頭を押し付けてきた。
「ありがとう、ございます」
身体が固まる。
名前は硝子に呼ばれて先に行ってしまう。
するり、と簡単にいなくなった温もりが寂しい。
「良かったじゃん傑」
「……悟」
「この任務で随分打ち解けたんだな」
「あの子と歩くときは首輪をオススメするよ」
「ん?何つった?」
感極まって可笑しな事を口走ったが覚えていない。
あまりに可愛らしく無防備な姿に色々とギュッと掴まれた感覚。
「悟……あの子は保護しなきゃ駄目だ」
「本当に何あった?」
保護欲と嬉しさとその他諸々の感情の波が押し寄せてきて、私は少し泣いた。
あの子は守らなきゃ。
あとがき
・不審者ホイホイ名前ちゃん
おてて繋いだ事により、傑くんって本当にいい人!!となった。
あと不審者で困っている時全部どうにかしてくれた……凄くいい人!!
今までごめんねをしてこれから積極的に交流を試みる。
・不審者直哉くん
下着やベビードールの趣味はいいが、己の性癖押し付けちゃう人
・下着を買った悟くん
ランジェリーショップとか楽しそうって理由で行く。恥ずかしい?いやいや俺が選んだの身に付けるって良くない?
入店して三度見くらいされる。女性のが恥ずかしくなって出ていかれる顔のよさである意味営業妨害だが、いっぱい買った太客。
傑くんだけビビられててウケる。
まだ保護者。(重要)
・乳揺れにギョッとした硝子ちゃん
走って揺れる乳にギョッとした。
何で今日に限ってサラシじゃないんだよ!!
まじでこの子ほっといたらヤバイと思った。
最近は夏油弄りが楽しい。
保護者になりつつある。
・話しかけられて感動した傑くん
私だけビビられてていじけてはいない……べ、別に……っ悔しく、なんか……っ。
嘘だろ。目を離したらこの子どんだけ……
この後、よく任務を組むようになり一番苦労する人。
プルプルして視線合わなかったのに、視線が合って袖引かれて話しかけられて頭ショートした。首輪つけなきゃ……保護しなきゃ……この子は私が守らなきゃ……。嬉しくて色々ぶっ飛んだ。が、首輪云々は無自覚。
多分一番面倒見いい。
保護者へ
・天を仰いだ夜蛾先生
教え子のそんな事情知りたくなかった。
なのに、真面目な顔で真剣に謝られたからこのクラスまともなの一人もいねぇと今後の苦労を察した。
・不屈の従業員精神で対応したランジェリーの店員
めっちゃ顔のいい男の客いた。
そして客はみんないなくなった……チィッ!!
女の子二人引き連れてきたがこれだから顔のいい野郎は……(最近フられた)
え?なんでこの子ブラしないでジャージ?
え?普通にカーテンから出てきたぞ?
え?男が真剣に選んで……え?
え?めっちゃ買ってくれるしもう一人の女の子も容赦なく男に買わせるじゃん?
顔は崩さず対応した。MVP。