呪縛
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「………」
どうしよう。
「………」
困った。
高専に来て入学式のサボリを謝罪後、夜蛾先生に経緯を説明。その後制服をどんなカスタマイズがいいか相談し、明日には間に合わすと言われてまずは荷物の荷解きからしておいでと寮の部屋に案内してもらった。
私の送った荷物はそのままになっており、備え付けのベッドにまずは布団を。そしてその他の荷物を使い勝手がいいように設置していく。
小さなキッチンもついているので自炊が出来そうだ。
今後の生活にわくわくとしていたものの……同級生の反応を思い出して気分が下がる。
「……絶対、印象悪かったよなぁ」
まともに顔をも見れず、勝手に震えて。
じっと、感情の無い瞳が怖い。
呆れたような溜め息が怖い。
蔑むような瞳が怖い。
嫌悪された空気が怖い。
家族は何も知らないからホッとする。
悟様にギュッとされているとホッとする。
初めて会う人達は私のこの反応に大概気分を悪くしてしまう。
ちゃんとしていないから、相手の気分を害してしまう。
直哉様の許可が無いと……いや、これは言い訳だ。
もっと私が愛想良くしていれば
もっと私が上手く対応出来ていれば
もっと私が……直哉様の機嫌を取れていれば
こんな事にはならなかったのだから。
ここに直哉様はいない。
だからちゃんとしなくては。
悟様を見ても答えが出てくるわけじゃない。
もっとしっかりしなきゃ。
もっとまともに。
もっと正しく。
もっと間違わず。
もっと柔軟に。
もっと賢く。
そうすれば直哉様だって優しくなるから。
また、昔みたいに……。
ギリッ、と腕に爪を立てる。
大丈夫。大丈夫。
私は、大丈夫……。
まずは荷物をどうにかしなきゃ。
黙々と荷解きをしていれば、気が付けば汗と埃で身体が気持ち悪い。
お風呂……と考えた所で思い出す。
「私……お風呂とお手洗いの場所知らない」
廊下に出て少し歩くと、お手洗いはあった。
ではお風呂は?と思って歩き回るものの……無い。
さて、どうしたものか……。
お風呂はもしかして寮の外に出なくてはいけないのだろうか?
どうせ汚れるからと、Tシャツと短パンで行っていたのでこの姿のまま外に出るのはどうなんだろう?と考えてしまう。
もう空も暗くなってきているし、出来るなら早めにシャワーなりお風呂なり入りたいのだが……困ってしまった。
「名前はさ、初めて会った時
俺と咄嗟に話した事を内緒にしてくれって謝って来たんだよね」
今日来た同級生。
婚約者とイチャついて入学式に間に合わなかったと馬鹿みたいな理由で1日遅れで来たら、迷子。
どんな奴かと思って会ったら……まるで初めて呪霊でも見たかのような反応をしてきた。
失礼な奴だと思った。
プルプルプルプル。
小動物みたいに脅えた目をして、冷や汗かきながら視線をキョロキョロさせて。
どこか逃げ場を探していた。
五条と仲が良さそうに話していたくせに、私らと居たら五条とすら話せなくなるなんて意味わかんねぇ、と思って見ていた。
呪霊討伐は何て事なく無表情でこなした癖に。
呪霊よりも人間が怖いなんて。
先生と消えた意味わかんねぇ同級生が居なくなった後、五条が口を開いた。
あの女を庇うような発言に私も夏油も五条の一人言にしてはデカイ話に耳を傾ける。
「ずっと謝ってた」
「……」
「最初は何コイツ?って思ったし、名前が騒げば騒ぐ程俺が会合逃げ出した意味無くなるし。
で、よく見たら謝りながら呼吸してねーの。
ずっと吸ってばっかで腕抱いて震えてんの」
ーーー実物見て体験した方が早い。
五条は確かにそう言った。
「頬に痣になるくらいの力で殴られて
誰かと会う度呼吸止めて
話す許可なきゃ話せなくなるなるってどれだけの期間必要なんだろうな」
「……五条が会ったのはいつ?」
「小学くらい?もう覚えてねーけど俺が会った時には既にあぁだった。
"自分は胎としか能が無いから"
"悪いのは自分だから仕方ない"ってさ」
「……最悪だな」
「胸糞悪い話だ」
夏油の眉間にシワが寄る。
これが呪術界の闇だとしても酷すぎる。
「いつもどこかしら怪我してて、そのくせ婚約者が正しくて婚約者が好きだと疑ってねーの。
馬鹿なくらい素直で純情なんだよな」
「刷り込まれりゃ癖になる。
暴力被害者が逃れらんねー理由知ってる?
"優しい"姿を知ってるから、"優しく"されたら自分が悪いんだって思い込むんだよ」
「だからと言って暴力をしていい理由にはならないよ」
「何がキッカケで婚約者がそうなったのかなんて知らねーけど……
そいつ、まじでクソ」
同じ女として許せはしない。
彼女に非があったにせよ、無かったにせよ。
「だから同情して優しくしろって言いたいの?」
だとしたらお断りだ。
呪術師に甘さなど命取りもいいところ。
自分だけじゃなく弱った同級生の面倒まで見ろって?無理無理。
「私戦闘系じゃねーし、子守りするために入学したわけじゃねーよ」
「……境遇は可哀想ではあるけど、あの子自身が乗り越えなければいけないのでは?」
「名前、自分自身呪ってんだよ。
アレは死後呪いになる」
「は……?」
「アイツの実力的に一級は確実。下手すりゃ特級だ」
「その証拠は」
「俺の眼」
クッソ面倒。
ほっといて死ねば特級呪霊?まじでふざけんな。
「生きる希望があれば、少しだけ呪いが解けたんだよ。
キモいぐらい年々自分を呪い続けているけど、原因とは離した」
「何言いたい?」
にやり、と笑って此方を見る五条。
「硝子も傑も気に入るよ。
あんな面白い奴早々いねーから」
「気に入って世話焼くとでも?」
「やるね。この俺が世話してるくらいだもん。
お前ら俺より構いたがりっぽいし」
「同級生のお世話は悟だけで充分だよ」
「傑、それどーゆー意味だよオイ」
「そのままの意味だよ?」
ただならぬ雰囲気にそそくさと教室から出る。
ガシャーンッ、とガラスの割れた音。
アイツらも充分面倒臭い。
その上、精神的に面倒臭い同級生の世話?
……勝手にやっててくれ。
私は関係無い。
関係、無い。
そう思っていたのだが……。
目の前でキョロキョロしながらあちこちチョロチョロしている小動物がいる。
部屋着なのかTシャツは男物っぽくて身体に合っていないからデカイ。なので肩は見えている。ショートパンツのせいで下に何も履いていないように見える。
トイレ見付けて嬉しそうにしてるがまた困った顔であちこちうろうろ。
玄関の方に行きキョロキョロしては戻ってくる。
……何してんのコイツ。
「ねぇ」
「ッッッ!!」
ビクッ、と肩を震わせて恐る恐る此方を見てくる。
キョロキョロと視線を彷徨わせ、私を見て頭を下げている。
「何してんの」
「………」
「不審者かよ」
「………」
「黙りか」
……疲れる。
ヤニギレで部屋で吸うとバレるから、と思って外に吸いに行こうと思ったのに。
面倒だからほっとこう。
答える気の無い奴の返答を待つ必要は無い。
横を通り過ぎようかと思ったら……ぐいっと、思ったより強い力で腕を引かれた。
「何」
腕を引いたのは一人しかいない。
聞いてみれば金魚のように口をパクパクさせて泣きそうな顔をしている。
「……何?」
まるで此方が悪いことをした気分になってくる。
出来るだけ優しく聞いてみれば申し訳なさそうな顔をして小さな小さな声を出した。
「……お風呂、って…何処に、ありますか?」
「風呂?」
そーいや来てすぐ話し合いして部屋の荷解きだったんだっけ?
「トイレは?わかった?」
「……はい」
「風呂行くなら用意して来なよ。今から一服ついでに案内ならするから」
「は、はいっ」
「……あ、何か羽織れよ」
「?」
わかってないな、コイツ……。
ぐいっと首もとを引けば、私がギョッとした。
「何も着けて無いのか」
「?」
「……いや、これヌーブラ?」
思わず覗き込めば乳首は見えていない。
下着着けずヌーブラだけで外に出るなんて馬鹿のやることだ。
「ちゃんと下着は着けて来いよ」
「?」
「……嘘だろ」
待て。待て待て待て。
なぜそこでキョトンとする?
「ブラ持って無いのか?」
「……パンツ、履いてますよ?」
「上は?」
「上?」
嘘だろ、おい。
はぁ、と溜め息をついて顔を手で覆う。
「……今まで上は今着けてるやつだけだったのか?」
「お着物でしたから……サラシを巻いてて」
「寝るときは?」
「寝るときにはえーっと……ベビードール?です」
嘘だろ。
コイツの婚約者出てこい。
性癖盛り盛りじゃねーか。
「とりあえず上に何か羽織れ。そしてしっかり上まで閉めろ」
コクコクと頷き、部屋に戻る。
はぁぁぁ、と大きな溜め息が一つ。
「………」
アイツ、昼間もヌーブラかサラシだったって事か。
明日、絶対買いに行けと伝えなきゃ駄目だと思い、ふと気付く。
……買い物、一人で出来るのか?
絶対五条に頼む。つまり、五条と下着選び……?可愛がっているから無いとは思う。
無い、とは思うが……あの男の性癖でおかしな下着を……と考えて頭を振る。
いやいや。そんな。まさか。
パタパタと走って来た音に顔を向けるときちんとパーカーを上まで閉めて来た。
タオルとお風呂用具を手に持ちやって来た。
「……行くか」
お風呂に案内して、万が一わからなかった時の為に、とシャワー室やお風呂の説明をサッとする。
「……あの、ありがとうございました。硝子様」
「別に」
「ちなみにお洗濯とかは……?」
「女子寮の洗面所見た?」
「いえ」
「後で見てみな」
「わかりました。何から何まで本当にご迷惑をおかけして……」
「気にしなくていいよ」
この短時間で気付いたのは、最初は言葉に詰まるものの二人だと思っていたよりも会話が出来ること。
しかし、誰かとすれ違い誰かに見られている、という状況となると反応が変わってしまう。
五条も人に見られる事を恐れていたような口振りで話していたから、"誰かに見られている"という状況だと震え出すのかもしれない。
「……ちょっと待て」
「?」
「嘘だろ。まじか」
下着……Tバックだったんだが。
思ってた以上にベビードールも際どい。
待て。コレ着てパーカー羽織って帰るのか?まじか。
………明日。明日絶対下着やルームウェア買いに行かせよう。
じゃないと喰われる。
家入硝子はそう、心に決めた。
「いいか?これから着る学生服は必ず下着が必要だ。下着ってーのはコレ。
上も下も必要なの。あと絶対タイツとハーパン……万が一スカート捲れても大丈夫なようにスパッツもなきゃ駄目だ」
「……これは、どこで?」
「明日買いに行く」
硝子様から携帯で見せられたのは私にとって見慣れないものばかり。
あまり洋服を着る機会が無かったので必要としていなかったのだが……なるほど。
学生服を着る時はこういったものが必要なのか。
あと、今の私の部屋着は駄目らしい。
人様の前に出られないので普通の部屋着を買わなきゃ駄目だと言われた。
カスタマイズ自由と言われたので、私はバックプリーツタイプのパーカー付きワンピースにしてもらった。
それなら頭から被ればいいだけだし、スカートのヒラヒラは落ち着かないが出来るだけ肌の露出をさせたくないのでそうしてもらった。
パーカーにしてしまえばYシャツを中に着なくてもいいかな?と思ったし、夏になれば薄手のものも支給して貰えるとの事なので。
下着はサラシを巻けばいいと思っていたが……私の安易な考えは却下されてしまった。
お風呂でサッパリした所で着替えて出ると、硝子様が待っていてくれた。
一服していたらしく、此方に気付くと咥えていた葉巻物を携帯用の灰皿にしまっていた。
「ゆっくり入れた?」
「は、はい!あの、お待たせしてしまいましたか……?」
「ほら、行くぞ。ついでに洗濯の場所教えるから」
丁寧に使い方まで教えてもらい、部屋に戻れば隣同士だった。
「おやすみ」
「お、おやすみなさい。今日は、えっと…あの、ありがとうございました」
「また明日」
ひらひらと手を振って部屋に戻った硝子様。
私も部屋に入って一息つく。
直哉様がいない1日は何だかあっという間だった。
「………直哉様」
寝る前に直哉様に抱えられながらその日あった1日の出来事を話すのに、今日からは無い。
私よりも大きな手のひらで頭を撫でながら首元に顔を埋めて相槌を打ったり、気紛れに手の爪の手入れをしたり、私が直哉様のお耳の掃除をしたり……。
どちらかが眠くなると額に口付けておやすみ、を言っていたのに。
「……寂しい、なんて」
やはり駄目だな、私……。
いつもより静かな部屋。
悟様に頂いた人形をベッドに持っていく。
形が崩れたら嫌だからベッドに乗せて置く気は無かったのに……。
今日、だけ。
肌触りの良い人形にすり寄って眼を閉じた。
翌朝
補助監督さんが朝一で制服を届けてくれた。
今の私はパンツだけでどうしようかと悩んでいる。
サラシを巻こうかと思っていたが、下着屋さんに行くのであればサラシを外す時邪魔になる。
洋服の時に付けると言われたものは下着ではないと言われたが、下着屋さんに行くのであれば此方のが良さそうだ。
あとはキャミソールやタンクトップなどのインナー。
下着屋さんで面倒じゃなさそうなヌーブラにキャミソールを着て制服を被った。
制服はとても動きやすく肌触りの良い物だった。
姿見の前に立てば前の方はパーカー生地で少し口元が隠れる。
左肩あたりに高専生を表す金色の渦巻きのボタンが一つ。
前は膝下まで無地のワンピース。
後ろを見れば少し大きめのパーカーは薄い水色。
背中部分からプリーツが膝下まで。
靴は直哉様と共に行っていた任務の時から使っていた膝下までのブーツ。
変な所は無さそうなので少し早いが寮を出た。
東京……にしては自然の多い都内から少し離れた位置にある高専は静かだ。
建物の作りは木造建築で古風。
昨日行った教室らしき場所を記憶を頼りに歩いていく。
「………迷った?」
早めに出て良かった。
教室……と言っても似た建物が多くどうしたものか、と悩んでいると
「おはよ。早いね?」
にこり、と微笑みかけて居たのは傑様。
その瞬間、ぶわっと嫌な汗が吹き出す。
廊下の端に寄って頭を下げれば目の前まで来て止まる。
「そんな固くならないで。
教室を探していたのかい?」
傑様の質問に頭を縦に動かす。
恐る恐る顔を上げれば困った顔をしていて、私に気付くとにこりと笑う。
「案内するよ」
歩き出した傑様から少し離れて着いていく。
とてもありがたかったが、傑様に微笑まれると言葉が出て来なくなる。
教室に着くと中には四席の机が横並びにあった。
傑様は窓際から2番目の席に座る。
もう席は決まっているのだろうか?
「キミの席は此処だよ」
傑様の右側……廊下側から2番の席を指差す。
深々とお辞儀をする。
そんな私の姿に苦笑していたら、ガラッと開いた扉。
「はよ。一人で来れたんだ」
硝子様がひらひらと手を振っていた。
それにお辞儀を返せば、何故だかホッとしてしまった。
ホッとした瞬間、安心したせいでポロリ、と涙が零れてしまった。
それを見た硝子様と傑様は驚いて目を見開く。
「……おいクズ。何した」
「誤解だよ。困っていたみたいだから教室まで一緒に来ただけ」
「一緒に来ただけで泣くか?」
「本当に何かした覚えは無いんだけど」
ポロリ、ポロリ。
止まらない涙に自分でもわからない。
泣いていたら傑様は何もしていないのに誤解されてしまう。
涙を拭おうとしていた時、ガラッとまた開いた扉。
「傑、先に行くなら起こせ……よ……」
「「うわぁ」」
パチリ、と悟様と目があった。
眠そうにしていたのに今は目を大きく見開いている。
「………傑」
「違う。なぜ私を疑う」
「傑が一番虐めそうだから」
「悟?」
「なーにボロボロ泣いてんの?寂しかった?」
よしよし、と近寄ってきて頭を撫でる悟様。
そうされるとまた涙が溢れてくる。
「そっかそっか。寂しかったのか」
「悟、その顔はヤバいぞ」
「デロッデロじゃん」
「うっせーよ」
ごめんなさい。
すぐ泣き止むから。
次からは頑張って私から挨拶するから。
怖い。
寂しい。
安心する。
自分でもよくわかっていないけれど……
私はこの人達と仲良くしたい。
そう、思った。
あとがき
・直哉に染められている名前ちゃん
着物の中には何も着なさそう。
そうやって生きてきたから下着に頓着無し。
そして着る物にも頓着無し。
可愛いのと肌触りの良い物が好き。
本家にいた頃は女中さんとはお話出来たので硝子ちゃんと話すのはまだ大丈夫。
ただし、人数が増えると何があるかわからないので黙ってしまう。
傑くんの笑顔はどこか直哉くんの胡散臭い笑顔を思い出すので怖い。
硝子ちゃん来てホッとしてしまい、悟くんに夜寂しかったのまでバレてて恥ずかしくなった。
・出番無いけど趣味押し付けてたのバレた直哉くん
おっぱいは正義。だから余計なもん着けんなや……とブラの存在を隠蔽。抱っこする時然り気無くおっぱい触っていたのはコイツです。
Tバックもベビードールもきっとコイツの趣味。
なのに……純愛なのでキスまでしかしてない驚き。我慢強いんじゃない、ヘタレなだけwww
・最後しか出番の無かった悟くん
寂しかったのかーそっかそっか。
すり寄ってくる夢主にデレデレ。
・下着買いに行く硝子ちゃん
あんまりいい印象無かったし、関わるつもりも無かったのに……駄目だ、この子。
ちゃんと見てないとまじでクズ2人にバレたら喰われる。
プルプルチョロチョロしているの見ていたら、チワワかな?って見えてきた。
この子に普通教えなきゃヤベーな、と思わず世話焼いてしまう。
・泣かれた傑くん
えっ?挨拶と道案内しただけなんだが!?
今回被害者。
直哉をむっつりスケベにしたい。
ヘタレにしたい。
なのに暴力ふるっちまうクソ野郎。
どうしよう。
「………」
困った。
高専に来て入学式のサボリを謝罪後、夜蛾先生に経緯を説明。その後制服をどんなカスタマイズがいいか相談し、明日には間に合わすと言われてまずは荷物の荷解きからしておいでと寮の部屋に案内してもらった。
私の送った荷物はそのままになっており、備え付けのベッドにまずは布団を。そしてその他の荷物を使い勝手がいいように設置していく。
小さなキッチンもついているので自炊が出来そうだ。
今後の生活にわくわくとしていたものの……同級生の反応を思い出して気分が下がる。
「……絶対、印象悪かったよなぁ」
まともに顔をも見れず、勝手に震えて。
じっと、感情の無い瞳が怖い。
呆れたような溜め息が怖い。
蔑むような瞳が怖い。
嫌悪された空気が怖い。
家族は何も知らないからホッとする。
悟様にギュッとされているとホッとする。
初めて会う人達は私のこの反応に大概気分を悪くしてしまう。
ちゃんとしていないから、相手の気分を害してしまう。
直哉様の許可が無いと……いや、これは言い訳だ。
もっと私が愛想良くしていれば
もっと私が上手く対応出来ていれば
もっと私が……直哉様の機嫌を取れていれば
こんな事にはならなかったのだから。
ここに直哉様はいない。
だからちゃんとしなくては。
悟様を見ても答えが出てくるわけじゃない。
もっとしっかりしなきゃ。
もっとまともに。
もっと正しく。
もっと間違わず。
もっと柔軟に。
もっと賢く。
そうすれば直哉様だって優しくなるから。
また、昔みたいに……。
ギリッ、と腕に爪を立てる。
大丈夫。大丈夫。
私は、大丈夫……。
まずは荷物をどうにかしなきゃ。
黙々と荷解きをしていれば、気が付けば汗と埃で身体が気持ち悪い。
お風呂……と考えた所で思い出す。
「私……お風呂とお手洗いの場所知らない」
廊下に出て少し歩くと、お手洗いはあった。
ではお風呂は?と思って歩き回るものの……無い。
さて、どうしたものか……。
お風呂はもしかして寮の外に出なくてはいけないのだろうか?
どうせ汚れるからと、Tシャツと短パンで行っていたのでこの姿のまま外に出るのはどうなんだろう?と考えてしまう。
もう空も暗くなってきているし、出来るなら早めにシャワーなりお風呂なり入りたいのだが……困ってしまった。
「名前はさ、初めて会った時
俺と咄嗟に話した事を内緒にしてくれって謝って来たんだよね」
今日来た同級生。
婚約者とイチャついて入学式に間に合わなかったと馬鹿みたいな理由で1日遅れで来たら、迷子。
どんな奴かと思って会ったら……まるで初めて呪霊でも見たかのような反応をしてきた。
失礼な奴だと思った。
プルプルプルプル。
小動物みたいに脅えた目をして、冷や汗かきながら視線をキョロキョロさせて。
どこか逃げ場を探していた。
五条と仲が良さそうに話していたくせに、私らと居たら五条とすら話せなくなるなんて意味わかんねぇ、と思って見ていた。
呪霊討伐は何て事なく無表情でこなした癖に。
呪霊よりも人間が怖いなんて。
先生と消えた意味わかんねぇ同級生が居なくなった後、五条が口を開いた。
あの女を庇うような発言に私も夏油も五条の一人言にしてはデカイ話に耳を傾ける。
「ずっと謝ってた」
「……」
「最初は何コイツ?って思ったし、名前が騒げば騒ぐ程俺が会合逃げ出した意味無くなるし。
で、よく見たら謝りながら呼吸してねーの。
ずっと吸ってばっかで腕抱いて震えてんの」
ーーー実物見て体験した方が早い。
五条は確かにそう言った。
「頬に痣になるくらいの力で殴られて
誰かと会う度呼吸止めて
話す許可なきゃ話せなくなるなるってどれだけの期間必要なんだろうな」
「……五条が会ったのはいつ?」
「小学くらい?もう覚えてねーけど俺が会った時には既にあぁだった。
"自分は胎としか能が無いから"
"悪いのは自分だから仕方ない"ってさ」
「……最悪だな」
「胸糞悪い話だ」
夏油の眉間にシワが寄る。
これが呪術界の闇だとしても酷すぎる。
「いつもどこかしら怪我してて、そのくせ婚約者が正しくて婚約者が好きだと疑ってねーの。
馬鹿なくらい素直で純情なんだよな」
「刷り込まれりゃ癖になる。
暴力被害者が逃れらんねー理由知ってる?
"優しい"姿を知ってるから、"優しく"されたら自分が悪いんだって思い込むんだよ」
「だからと言って暴力をしていい理由にはならないよ」
「何がキッカケで婚約者がそうなったのかなんて知らねーけど……
そいつ、まじでクソ」
同じ女として許せはしない。
彼女に非があったにせよ、無かったにせよ。
「だから同情して優しくしろって言いたいの?」
だとしたらお断りだ。
呪術師に甘さなど命取りもいいところ。
自分だけじゃなく弱った同級生の面倒まで見ろって?無理無理。
「私戦闘系じゃねーし、子守りするために入学したわけじゃねーよ」
「……境遇は可哀想ではあるけど、あの子自身が乗り越えなければいけないのでは?」
「名前、自分自身呪ってんだよ。
アレは死後呪いになる」
「は……?」
「アイツの実力的に一級は確実。下手すりゃ特級だ」
「その証拠は」
「俺の眼」
クッソ面倒。
ほっといて死ねば特級呪霊?まじでふざけんな。
「生きる希望があれば、少しだけ呪いが解けたんだよ。
キモいぐらい年々自分を呪い続けているけど、原因とは離した」
「何言いたい?」
にやり、と笑って此方を見る五条。
「硝子も傑も気に入るよ。
あんな面白い奴早々いねーから」
「気に入って世話焼くとでも?」
「やるね。この俺が世話してるくらいだもん。
お前ら俺より構いたがりっぽいし」
「同級生のお世話は悟だけで充分だよ」
「傑、それどーゆー意味だよオイ」
「そのままの意味だよ?」
ただならぬ雰囲気にそそくさと教室から出る。
ガシャーンッ、とガラスの割れた音。
アイツらも充分面倒臭い。
その上、精神的に面倒臭い同級生の世話?
……勝手にやっててくれ。
私は関係無い。
関係、無い。
そう思っていたのだが……。
目の前でキョロキョロしながらあちこちチョロチョロしている小動物がいる。
部屋着なのかTシャツは男物っぽくて身体に合っていないからデカイ。なので肩は見えている。ショートパンツのせいで下に何も履いていないように見える。
トイレ見付けて嬉しそうにしてるがまた困った顔であちこちうろうろ。
玄関の方に行きキョロキョロしては戻ってくる。
……何してんのコイツ。
「ねぇ」
「ッッッ!!」
ビクッ、と肩を震わせて恐る恐る此方を見てくる。
キョロキョロと視線を彷徨わせ、私を見て頭を下げている。
「何してんの」
「………」
「不審者かよ」
「………」
「黙りか」
……疲れる。
ヤニギレで部屋で吸うとバレるから、と思って外に吸いに行こうと思ったのに。
面倒だからほっとこう。
答える気の無い奴の返答を待つ必要は無い。
横を通り過ぎようかと思ったら……ぐいっと、思ったより強い力で腕を引かれた。
「何」
腕を引いたのは一人しかいない。
聞いてみれば金魚のように口をパクパクさせて泣きそうな顔をしている。
「……何?」
まるで此方が悪いことをした気分になってくる。
出来るだけ優しく聞いてみれば申し訳なさそうな顔をして小さな小さな声を出した。
「……お風呂、って…何処に、ありますか?」
「風呂?」
そーいや来てすぐ話し合いして部屋の荷解きだったんだっけ?
「トイレは?わかった?」
「……はい」
「風呂行くなら用意して来なよ。今から一服ついでに案内ならするから」
「は、はいっ」
「……あ、何か羽織れよ」
「?」
わかってないな、コイツ……。
ぐいっと首もとを引けば、私がギョッとした。
「何も着けて無いのか」
「?」
「……いや、これヌーブラ?」
思わず覗き込めば乳首は見えていない。
下着着けずヌーブラだけで外に出るなんて馬鹿のやることだ。
「ちゃんと下着は着けて来いよ」
「?」
「……嘘だろ」
待て。待て待て待て。
なぜそこでキョトンとする?
「ブラ持って無いのか?」
「……パンツ、履いてますよ?」
「上は?」
「上?」
嘘だろ、おい。
はぁ、と溜め息をついて顔を手で覆う。
「……今まで上は今着けてるやつだけだったのか?」
「お着物でしたから……サラシを巻いてて」
「寝るときは?」
「寝るときにはえーっと……ベビードール?です」
嘘だろ。
コイツの婚約者出てこい。
性癖盛り盛りじゃねーか。
「とりあえず上に何か羽織れ。そしてしっかり上まで閉めろ」
コクコクと頷き、部屋に戻る。
はぁぁぁ、と大きな溜め息が一つ。
「………」
アイツ、昼間もヌーブラかサラシだったって事か。
明日、絶対買いに行けと伝えなきゃ駄目だと思い、ふと気付く。
……買い物、一人で出来るのか?
絶対五条に頼む。つまり、五条と下着選び……?可愛がっているから無いとは思う。
無い、とは思うが……あの男の性癖でおかしな下着を……と考えて頭を振る。
いやいや。そんな。まさか。
パタパタと走って来た音に顔を向けるときちんとパーカーを上まで閉めて来た。
タオルとお風呂用具を手に持ちやって来た。
「……行くか」
お風呂に案内して、万が一わからなかった時の為に、とシャワー室やお風呂の説明をサッとする。
「……あの、ありがとうございました。硝子様」
「別に」
「ちなみにお洗濯とかは……?」
「女子寮の洗面所見た?」
「いえ」
「後で見てみな」
「わかりました。何から何まで本当にご迷惑をおかけして……」
「気にしなくていいよ」
この短時間で気付いたのは、最初は言葉に詰まるものの二人だと思っていたよりも会話が出来ること。
しかし、誰かとすれ違い誰かに見られている、という状況となると反応が変わってしまう。
五条も人に見られる事を恐れていたような口振りで話していたから、"誰かに見られている"という状況だと震え出すのかもしれない。
「……ちょっと待て」
「?」
「嘘だろ。まじか」
下着……Tバックだったんだが。
思ってた以上にベビードールも際どい。
待て。コレ着てパーカー羽織って帰るのか?まじか。
………明日。明日絶対下着やルームウェア買いに行かせよう。
じゃないと喰われる。
家入硝子はそう、心に決めた。
「いいか?これから着る学生服は必ず下着が必要だ。下着ってーのはコレ。
上も下も必要なの。あと絶対タイツとハーパン……万が一スカート捲れても大丈夫なようにスパッツもなきゃ駄目だ」
「……これは、どこで?」
「明日買いに行く」
硝子様から携帯で見せられたのは私にとって見慣れないものばかり。
あまり洋服を着る機会が無かったので必要としていなかったのだが……なるほど。
学生服を着る時はこういったものが必要なのか。
あと、今の私の部屋着は駄目らしい。
人様の前に出られないので普通の部屋着を買わなきゃ駄目だと言われた。
カスタマイズ自由と言われたので、私はバックプリーツタイプのパーカー付きワンピースにしてもらった。
それなら頭から被ればいいだけだし、スカートのヒラヒラは落ち着かないが出来るだけ肌の露出をさせたくないのでそうしてもらった。
パーカーにしてしまえばYシャツを中に着なくてもいいかな?と思ったし、夏になれば薄手のものも支給して貰えるとの事なので。
下着はサラシを巻けばいいと思っていたが……私の安易な考えは却下されてしまった。
お風呂でサッパリした所で着替えて出ると、硝子様が待っていてくれた。
一服していたらしく、此方に気付くと咥えていた葉巻物を携帯用の灰皿にしまっていた。
「ゆっくり入れた?」
「は、はい!あの、お待たせしてしまいましたか……?」
「ほら、行くぞ。ついでに洗濯の場所教えるから」
丁寧に使い方まで教えてもらい、部屋に戻れば隣同士だった。
「おやすみ」
「お、おやすみなさい。今日は、えっと…あの、ありがとうございました」
「また明日」
ひらひらと手を振って部屋に戻った硝子様。
私も部屋に入って一息つく。
直哉様がいない1日は何だかあっという間だった。
「………直哉様」
寝る前に直哉様に抱えられながらその日あった1日の出来事を話すのに、今日からは無い。
私よりも大きな手のひらで頭を撫でながら首元に顔を埋めて相槌を打ったり、気紛れに手の爪の手入れをしたり、私が直哉様のお耳の掃除をしたり……。
どちらかが眠くなると額に口付けておやすみ、を言っていたのに。
「……寂しい、なんて」
やはり駄目だな、私……。
いつもより静かな部屋。
悟様に頂いた人形をベッドに持っていく。
形が崩れたら嫌だからベッドに乗せて置く気は無かったのに……。
今日、だけ。
肌触りの良い人形にすり寄って眼を閉じた。
翌朝
補助監督さんが朝一で制服を届けてくれた。
今の私はパンツだけでどうしようかと悩んでいる。
サラシを巻こうかと思っていたが、下着屋さんに行くのであればサラシを外す時邪魔になる。
洋服の時に付けると言われたものは下着ではないと言われたが、下着屋さんに行くのであれば此方のが良さそうだ。
あとはキャミソールやタンクトップなどのインナー。
下着屋さんで面倒じゃなさそうなヌーブラにキャミソールを着て制服を被った。
制服はとても動きやすく肌触りの良い物だった。
姿見の前に立てば前の方はパーカー生地で少し口元が隠れる。
左肩あたりに高専生を表す金色の渦巻きのボタンが一つ。
前は膝下まで無地のワンピース。
後ろを見れば少し大きめのパーカーは薄い水色。
背中部分からプリーツが膝下まで。
靴は直哉様と共に行っていた任務の時から使っていた膝下までのブーツ。
変な所は無さそうなので少し早いが寮を出た。
東京……にしては自然の多い都内から少し離れた位置にある高専は静かだ。
建物の作りは木造建築で古風。
昨日行った教室らしき場所を記憶を頼りに歩いていく。
「………迷った?」
早めに出て良かった。
教室……と言っても似た建物が多くどうしたものか、と悩んでいると
「おはよ。早いね?」
にこり、と微笑みかけて居たのは傑様。
その瞬間、ぶわっと嫌な汗が吹き出す。
廊下の端に寄って頭を下げれば目の前まで来て止まる。
「そんな固くならないで。
教室を探していたのかい?」
傑様の質問に頭を縦に動かす。
恐る恐る顔を上げれば困った顔をしていて、私に気付くとにこりと笑う。
「案内するよ」
歩き出した傑様から少し離れて着いていく。
とてもありがたかったが、傑様に微笑まれると言葉が出て来なくなる。
教室に着くと中には四席の机が横並びにあった。
傑様は窓際から2番目の席に座る。
もう席は決まっているのだろうか?
「キミの席は此処だよ」
傑様の右側……廊下側から2番の席を指差す。
深々とお辞儀をする。
そんな私の姿に苦笑していたら、ガラッと開いた扉。
「はよ。一人で来れたんだ」
硝子様がひらひらと手を振っていた。
それにお辞儀を返せば、何故だかホッとしてしまった。
ホッとした瞬間、安心したせいでポロリ、と涙が零れてしまった。
それを見た硝子様と傑様は驚いて目を見開く。
「……おいクズ。何した」
「誤解だよ。困っていたみたいだから教室まで一緒に来ただけ」
「一緒に来ただけで泣くか?」
「本当に何かした覚えは無いんだけど」
ポロリ、ポロリ。
止まらない涙に自分でもわからない。
泣いていたら傑様は何もしていないのに誤解されてしまう。
涙を拭おうとしていた時、ガラッとまた開いた扉。
「傑、先に行くなら起こせ……よ……」
「「うわぁ」」
パチリ、と悟様と目があった。
眠そうにしていたのに今は目を大きく見開いている。
「………傑」
「違う。なぜ私を疑う」
「傑が一番虐めそうだから」
「悟?」
「なーにボロボロ泣いてんの?寂しかった?」
よしよし、と近寄ってきて頭を撫でる悟様。
そうされるとまた涙が溢れてくる。
「そっかそっか。寂しかったのか」
「悟、その顔はヤバいぞ」
「デロッデロじゃん」
「うっせーよ」
ごめんなさい。
すぐ泣き止むから。
次からは頑張って私から挨拶するから。
怖い。
寂しい。
安心する。
自分でもよくわかっていないけれど……
私はこの人達と仲良くしたい。
そう、思った。
あとがき
・直哉に染められている名前ちゃん
着物の中には何も着なさそう。
そうやって生きてきたから下着に頓着無し。
そして着る物にも頓着無し。
可愛いのと肌触りの良い物が好き。
本家にいた頃は女中さんとはお話出来たので硝子ちゃんと話すのはまだ大丈夫。
ただし、人数が増えると何があるかわからないので黙ってしまう。
傑くんの笑顔はどこか直哉くんの胡散臭い笑顔を思い出すので怖い。
硝子ちゃん来てホッとしてしまい、悟くんに夜寂しかったのまでバレてて恥ずかしくなった。
・出番無いけど趣味押し付けてたのバレた直哉くん
おっぱいは正義。だから余計なもん着けんなや……とブラの存在を隠蔽。抱っこする時然り気無くおっぱい触っていたのはコイツです。
Tバックもベビードールもきっとコイツの趣味。
なのに……純愛なのでキスまでしかしてない驚き。我慢強いんじゃない、ヘタレなだけwww
・最後しか出番の無かった悟くん
寂しかったのかーそっかそっか。
すり寄ってくる夢主にデレデレ。
・下着買いに行く硝子ちゃん
あんまりいい印象無かったし、関わるつもりも無かったのに……駄目だ、この子。
ちゃんと見てないとまじでクズ2人にバレたら喰われる。
プルプルチョロチョロしているの見ていたら、チワワかな?って見えてきた。
この子に普通教えなきゃヤベーな、と思わず世話焼いてしまう。
・泣かれた傑くん
えっ?挨拶と道案内しただけなんだが!?
今回被害者。
直哉をむっつりスケベにしたい。
ヘタレにしたい。
なのに暴力ふるっちまうクソ野郎。