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ーーー私を助けてくれた神様。
記憶にあるのは同じ人間とは思えない非道なゴミ達。
同じ言葉を話しているはずなのに、私の理解出来ない言葉を吐く。
その度に、ゴミ達の後ろで嗤うナニカ。
気持ちばかりの良心で、それに手を伸ばし祓うのに、ゴミ達は恐ろしいものを見たとばかりに拳を振り上げ私の意識は遠くなる。
この世界は
このゴミ達は
何て可哀想なんだろう
ーーー私に生きる機会を与えてくれた神様。
優しい手付きで撫でられた。
もう大丈夫だと触れられた。
私の為に、とゴミ達は赤い塊に。
私の為に、とゴミ達は赤い液体に。
優しい顔で笑うその人は私を助けてくれた神様。
その手を取るのは当たり前だった。
ーーー私に世界を見返す機会をくれた神様。
呪力、術式、呪術師、呪詛師。
色々な事を教えて貰った。
ゴミ達とは違う、私達は頭のおかしい人間ではないのだと。
力の使い方も教わった。
私達を家族だと言って自分が誰よりも最前線に赴き、除け者にされ除外される者達に慈悲を与えてくれる神様。
誰よりも強いから、簡単な頼み事以外は自分で動いてしまう。
神様は神様だから忙しい。
力になりたくて皆で神様の手伝いをしていれば、優しい神様は眉を下げて笑うんだ。
ーーー私達は神様の為に生きる。
神様の目指す世界の為に
ゴミ共に私達の家族を奪わせない為に
家族で笑ってご飯を食べる為に
神様は私よりも高専に詳しいから私が高専に進入しなくても良かった。
神様は私に危ないことをさせない。
大人と違って私も妹達もまだ保護すべき子供だから、と遠ざける。
だから本当に高専に行くと言った時には困った顔で何度も止められた。
私が無理を言って家族を説得して、私の我が儘で動いた。
高専に潜入して、情報を得ること。
高専関係者の前で然り気無く呪術を使い、高専関係者と繋がりを持ち、東京の高専に入学。
家族と迂闊に連絡を取れない。
入学の時に家族に捨てられ孤児として生きていた事にしているから。
……と、言っても買い物がてら街に出掛けて適当なゴミ共に声を掛けられたらついていく。
個室に入ってしまえば家族と安心して連絡出来る。
ゴミ?早々に気絶させて転がしている。
殺してしまえば後々面倒だし、家族と連絡取るたび殺してたら事件を疑われる。
そんな面倒事はごめんだ。
癖の強い同級生達。
パンダに、おにぎりの具に、男前な女。
パンダってなんだ?と思ってしまうが割愛。
妹達が好きそうだ。
高専生と言ってもどこにでも立ち入る事は出来ない。
広い土地を持つ高専なので、迷子防止として同級生達と探索して歩く。パンダが立ち入り禁止区域に詳しいらしく、それぞれ気になった場所に踏み入れようとしたら止められる。
禁止区域の理由を軽く聞きながら頭の中で地図を完成させていく。
警備らしき人々は確かにいるものの、家族達の敵ではない。
それとなく同級生と仲を深める。
私が普通に生きられたなら
ここは"幸せな私"の理想の世界があった。
「やっほー、名前」
「五条先生」
「こんなとこで何してんの?」
新しく入学した特級の乙骨を楽しそうにしごく真希。
パンダも狗巻も楽しそうに乙骨を弄っている。
私は彼らから離れてその様子を見つめる。
「……幸せ、だなぁと思って」
「年寄り?」
「"普通"って"幸せ"なんですね、先生」
もしも、本当の家族に愛されていたなら
もしも、友達がいたなら
もしも、学校生活が送れたなら
もしも、もしも、もしも……
ここは、暖かい。
仲間もいて
友達もいて
頼れる大人もいる。
「私が見てきた世界より、優しい」
「………まだまだ若いのに何言ってんの」
くしゃくしゃと頭を撫でる五条先生。
髪の毛がぐしゃぐしゃになり不満です、と見上げれば包帯で目隠しする見た目は怪しい担任。
神様の唯一の親友。
神様と喧嘩した親友。
神様と渡り合える最強。
神様の話す昔話よりも大人になったのか……
生徒思いでたまに無理を強いるし、雑な事も多いけど……強くなる術を教えてくれる人。
先生のお陰で反転術式も使えるようになったから回復要員として大事にされる地位を手にした。
五条先生よりは家入先生に教えて貰っているが、家入先生は……その、指導に向かない。
神様は私達にある程度の知識と術を教えてくれるが、命をかけてまで動かなくていいと言ってくれる。
先生は命をかけた方が強くなれると言う。
神様の為に生きる私もその家族も、神様が一人戦場を先行くのが苦しくて必死に追い付こうとしてる。
神様は望んでいないけど、私達は……私は強さが欲しい。
神様を守る盾でありたい。
神様の矛でありたい。
私達よりもずっとずっと強い神様には必要ではないかもしれないが……私達も神様の理想の為に神様が笑える未来の為に力が欲しい。
「なぁに?見惚れた?」
神様の特別。
自分の手札の為なら生徒であろうと強さを引き出してくれる。
「相変わらずダッサイなぁと思って」
「酷くない?」
「見た目完全に不審者です」
「ナイスガイに向かって不審者って」
「あ、すいません。触られるのはちょっと……」
「オイ」
「セクハラで訴えますよ」
「真顔で止めてよ」
もしも、があった時の"幸せ"。
私が今望む"幸せ"ではない。
だって私は幸せだもの。
独特な家族達も
強くて優しい神様もいる
私の帰るべき場所がある。
なのに
「神様……」
乙骨が神様を倒しちゃった。
真希と乙骨と高専に残っていた。
家入先生が怪我人が多いであろう場所に向かったので、万が一に備えて私は学校待機。
手薄な今なら高専の呪物を盗めるし、神様の手助けを出来る。
神様が殺してしまった高専関係者を見たフリをしながら、神様と共に乙骨の特級仮想呪霊を取り込んだあと逃げる。
そう、思ってたのに……
「神様っ!!神様、神様!!」
「………名前、かい?」
「すぐに傷塞いで、それで……っ」
「名前、よく聞くんだ」
血だらけで、呼吸も荒く
「名前はこのまま高専に居るんだ」
いつも妹達が楽しんですいていた髪もバラバラで
「このままスパイとして此処に居れば家族達に情報を流せるし、バレても私に脅されていたと言いなさい」
優しく撫でてくれる腕も無くて
「名前が幸せなら、違う道もある」
身体が熱を奪っていく
「大丈夫。名前の手はまだ汚れてない」
笑う神様。
「そんな事、言わないで……っ」
私は神様と家族で幸せなの。
家族達と居たから、幸せになれたの。
神様に救われたあの日ーーー
私は初めて息をすることが出来た。
「神様がいない世界なんていらないっ
神様と家族がいない世界なんていらないっ!!」
生きて。
今回駄目でも生きていてくれたら次に繋げられる。
神様が救ってくれた家族。
神様が造り上げる世界。
神様と私達が幸せになるための世界。
なのに、神様がいないなんて……
「生きてっ、神様生きてよっ!!」
「………肩を貸して貰えるかい?」
高専の外へ。
五条先生が来る前に。
狗巻とパンダを送り込んできた時点で五条先生は気付いている。
ここに神様がいる事を。
だから、早く。早く早く早くっ!!
ゆっくり。神様の身体に無理の無いように。
早く。神様の温もりが無くならないように。
「名前」
「お願い。お願いします。話さないで。
無理しないで。すぐに助けるからっ」
「ありがとう」
「………神様?」
片腕しかない神様が強く強く抱き締めてくれる。
私の黒い学ランは神様の血で汚れている。
「生きて」
その瞬間、襲ってきた痛みに目の前がぐらりとした。
視界がブレて気持ちが悪い。
意識が遠くなる。
「すまない、名前」
申し訳なさそうに笑う神様。
手を伸ばしたのに、私は地面に倒れ込んでしまう。
声を出したくても、声が出ない。
パクパクと口を開け閉めする私を置いて行く神様。
行かないで。
やめて。
置いていかないで。
涙を流しながら無力な私は気を失った。
次に目覚めたら、全て終わっていた。
私は高専関係者の回復に走り回っていた途中に神様と出会い、気絶させられた事になっていた。
息をしていた者は確かに治した。
死体でも傷を塞いだ。
それくらいのカモフラージュが無いと私が内通者だとバレてしまうから。
医務室で目覚めた私の側に居たのは五条先生。
家入先生は軽く体調を確認した後出ていってしまった。
いつものヘラヘラした先生と違って反らすことを許さない綺麗な瞳。
「傑を治したの名前だろ」
「………はい」
「傑の死体の処理は僕がしたからバレないけど、どうして?」
五条先生の目は誤魔化せない。
神様を治した私の残穢を見逃さない。
下手な言い訳は出来ない。
けど、内通者だとバレるわけにもいなかない。
神様が遺してくれた機会を無駄にしてはいけない。
「バレたらキミは傑の内通者として生かすことは出来ない。
だから答えて」
「………から」
「何」
「………親友、だ…から」
神様の唯一無二。
神様の片割れ。
神様の友達。
懐かしそうに、寂しそうに話す神様はいつだって五条悟の話をしていた。
「先生の、たった一人の親友だから」
喧嘩した、と言っていた。
五条悟と過ごした日々は神様にとってもかけがえのないものだから。
「例え敵対していたとしても……
先生にとって、大事な人だったから」
神様にとって、大事な人だから。
ポロポロと涙が止まらない。
珍しくサングラス姿の先生は何かを口にしようとして飲み込んだ。
止まらない涙に、五条先生の細くも固い指先が涙を拭う。
そのまま乱暴な手付きで頭を撫でる五条先生は……寂しそうに笑った。
「どこで知ったの?」
「ごめんなさい……昔の報告書の整理を頼まれて見ていた時に……今回の騒動の事や、先生とあの人が……仲が良かったと、聞いて……」
「そっかぁ」
嘘と本当を少しずつ混ぜる。
報告書整理を頼まれていたのは本当だし、口の軽い事務員が勝手に話していたのも本当だ。
「何もされてない?」
「はい。すぐに、気絶させられちゃったので」
「名前は弱いね」
「先生の力不足では?」
「……うん、わかった。
名前の確認だけしたかったから……
今は休みな。お疲れ様」
神様、神様、神様。
貴方がいない世界なんていらないのに。
貴方がいない世界なんて望んでいなかったのに。
どうして、私を一緒に連れていってくれなかったの?
私達には貴方が必要なのに。
「………先生」
「なに?」
「あの人の最期に立ち会ったのは先生ですか?」
「……そうだよ」
五条先生は私の頭を何度か撫でて立ち去った。
神様を殺したのは五条悟。
私達の光を奪ったのは五条悟。
けど、五条悟は神様の唯一の親友。
大好き。
大好きな神様。
大好き。
大好きな家族達。
また、笑ってご飯を食べたかった。
また、笑って過ごしたかった。
私達の強くて優しい神様。
貴方が望んだ私達術師が幸せの為に
ゴミ達がいない世界を作る……
神様が目指した理想の世界を作る必要はありますか?
そこに、神様はいないのに。
私は、ただ
貴方に生きていて欲しかったのに。
生きている貴方の為に動きたかったのに。
貴方がいない世界を目指し
貴方がいない世界を完成させても
私達は笑えない。
私達は幸せになれないのに。
家族は嘆いた。
けど、神様の理想の為に歩みを止めないと神様の意思を継ごうと動く事にした。
妹達は五条悟を憎んだ。
憎んだけれどそれよりももっと憎むべき相手が出来た。
「姉妹校交流会の時がチャンスだと思いますよ。
特級レベルが暴れたら内部に配置されるのは二級レベル。
内部ほど手薄ですから」
「へー」
「幸いな事に東京の三年は問題起こして停学中。
京都校もろとも生徒が危険になれば五条悟は生徒の為に動く事を優先する。
けど、五条悟が入れない結界が成功するのなら破られる事を前提としていても時間が稼げればアナタなら簡単でしょう?」
「いいの?そんな事俺に話して」
顔も身体もツギハギだらけの特級呪霊。
いつものよう、適当な男に声を掛けられ着いていき……楽しかった家族との電話も、今では人間の肥溜めから産まれたクソのような呪いとの密会。
「そっちこそいいの?
京都の内通者との縛りを破ることになる」
「縛りは守るって。じゃないと罰を受けるのは俺って言われてるし」
「そう。なら多少の予定外な行動は多めに見てくれるんじゃないかしら?」
「悪い奴だねー、名前は」
「呪詛師にいいも悪いも無いと思うけど」
苦い煙草を肺に入れる。
吐き出せば煙が部屋に広がる。
この一年で覚えた苦くて不味い味。
神様の気持ちを理解するには程遠いけれど、慣れたくない不味さに慣れてきた私がいる。
「あぁ、暴れるなら派手にやってね?
じゃないと五条悟は鋭いから」
「俺も混ざりたいなぁ」
「キミがきちんと働いてくれないと困るのはあの人」
「はいはい。ちゃーんと働くよ。
中身が違うのによく慕えるね?」
人間って意味わかんね、と話す特級呪霊。
先に特級がいなくなる。
彼らはメディア媒介に映らないから自由だ。
ゴミを置き去りにホテルを出る。
私は家族のように神様の理想を叶えようと、神様の意志を継ぐために動こうと思えない。
妹達のように見た目だけのあの人は神様じゃないから殺したい。身体を取り戻したいって気持ちはわかるけど……
神様の息耐える瞬間を見たくない私は妹達ほどの覚悟がない。
あの日唯一、神様の近くにいたのに……私は何も出来なかった。
神様を守る盾にも、矛にも。
神様が生かしてくれた命を、神様の為に使うことを許されずに生かされた。
家族達は誰も私を責めなかった。
それが何よりも申し訳ないし、心苦しい。
大好きな神様はもういない。
けど、神様の死を受け入れることも出来ない。
見た目だけの神様が"生きている"と錯覚出来る今が虚しいけど私を突き動かす。
中途半端な私は神様が死んだ日から動き出せないでいる。
「名前」
神様と別れた場所で、煙草を吹かす私。
「五条先生……お疲れ様です」
「悪い子みーつけた」
「しー、ですよ」
目隠しをしたままの先生が隣に並ぶ。
もう、残穢も血痕も無いただの通路。
私の時間が止まっている場所。
「いつからそんな悪い子になっちゃったの?」
「悪い子になりたくなる年頃なんです」
「身体に良くないよ」
「そうですね」
「あとキスすると苦い」
「喫煙者とキスしたことあるんですか?」
「ひーみーつ」
おちゃらけて笑う先生。
肺に吸い込む煙が苦い。
外とはいえ、吐き出した煙が身体に纏わりつく。
「ねぇ、先生」
「なぁに」
口の中が苦い。
肺が苦しい。
心が辛い。
「先生は乗り越えられましたか?」
私は動けない。
生きているのに死んでいる。
「先生の心は晴れてますか?」
あの人の姿を見るたび、私の罪だと攻められている気がする。
あの人の真似をされるたび、心が違うと叫んでいる。
あの人に優しくされるたび、神様との違いに落胆する。
「………名前って僕の事大好きなの?」
「あはは。まっさかー」
「それはそれで酷い」
「先生の事を凄いとは思いますが恋愛対象としてはちょっと……」
「僕みたいな男いないよー?」
「生徒相手に何言ってるんですか」
2度と手に出来ない幸せな時間。
「先生みたいな人、絶対お断りですよ」
優しくしてくれるのも
大事にされるのも
誰かを愛するのも
誰かに恋するのも
私は進みたくない
煙草を消して携帯灰皿へと仕舞う。
じっとこちらを見る先生に笑う。
「しー、ですよ?先生」
「教師としては見逃せないなぁ」
「先生と私の秘密」
「……じゃあさ」
先生の顔が近付いてきて、唇に触れる柔らかなもの。
驚いて開いた口にねじ込まれる舌が口内をぐるりと混ぜる。
驚く私をそのままにすぐに顔を離した先生。
「まっず」
「………淫乱教師」
「いいじゃん。これで秘密の共有」
ニヤリと笑う先生に呆れてしまう。
漫画や二次元だけの世界かと思っていたが、教え子に手を出すなんて本当にあることなんだと他人事のように考えてしまう。
「名前」
「はい?」
「溜め込まないでちゃんと先生に言うこと!
真希達みたいにさ」
「五条先生」
「キミも僕の生徒なんだから」
ポンポン、と撫でられた頭。
「……先生、頼りになっても信用出来ないからなぁ」
「酷い」
「先生こそお気をつけて」
「僕最強だから問題ないよ」
「最強だからこそ、ですよ。
先生の背を追いかける人は多くても
先生の背を守る人はいないんだから」
先生とは違う方向に足を進める。
面倒だが先程から同級生達からの連絡が鳴り止まない。
一年二人をしごくらしい。
気乗りしないが、潜入している身としてはある程度の仲間関係を大切にしておかないと。
「最強故に
アナタの手でアナタが終わらせたんだから」
最期まで、ちゃんと終わらせて欲しかった。
最期の甘さで、アナタの親友は今……
「ごめんね、先生」
アナタを理由に私は生きる。
神様のいない世界と向き合う為に
家族の為に
「私はアナタに恋はしないよ」
口の中の苦さも
身に纏わりつく臭いも
いつの間にか消えていた。
あとがき
明けましておめでとうございます!
新年早々に一発目があまり明るくない唐突に書きたくなった呪詛師と先生。
落ちなどない。
呪詛師だから宿儺さんに殺される未来しかないので……続かない。
こんな感じで今年もよろしくお願いいたします!
記憶にあるのは同じ人間とは思えない非道なゴミ達。
同じ言葉を話しているはずなのに、私の理解出来ない言葉を吐く。
その度に、ゴミ達の後ろで嗤うナニカ。
気持ちばかりの良心で、それに手を伸ばし祓うのに、ゴミ達は恐ろしいものを見たとばかりに拳を振り上げ私の意識は遠くなる。
この世界は
このゴミ達は
何て可哀想なんだろう
ーーー私に生きる機会を与えてくれた神様。
優しい手付きで撫でられた。
もう大丈夫だと触れられた。
私の為に、とゴミ達は赤い塊に。
私の為に、とゴミ達は赤い液体に。
優しい顔で笑うその人は私を助けてくれた神様。
その手を取るのは当たり前だった。
ーーー私に世界を見返す機会をくれた神様。
呪力、術式、呪術師、呪詛師。
色々な事を教えて貰った。
ゴミ達とは違う、私達は頭のおかしい人間ではないのだと。
力の使い方も教わった。
私達を家族だと言って自分が誰よりも最前線に赴き、除け者にされ除外される者達に慈悲を与えてくれる神様。
誰よりも強いから、簡単な頼み事以外は自分で動いてしまう。
神様は神様だから忙しい。
力になりたくて皆で神様の手伝いをしていれば、優しい神様は眉を下げて笑うんだ。
ーーー私達は神様の為に生きる。
神様の目指す世界の為に
ゴミ共に私達の家族を奪わせない為に
家族で笑ってご飯を食べる為に
神様は私よりも高専に詳しいから私が高専に進入しなくても良かった。
神様は私に危ないことをさせない。
大人と違って私も妹達もまだ保護すべき子供だから、と遠ざける。
だから本当に高専に行くと言った時には困った顔で何度も止められた。
私が無理を言って家族を説得して、私の我が儘で動いた。
高専に潜入して、情報を得ること。
高専関係者の前で然り気無く呪術を使い、高専関係者と繋がりを持ち、東京の高専に入学。
家族と迂闊に連絡を取れない。
入学の時に家族に捨てられ孤児として生きていた事にしているから。
……と、言っても買い物がてら街に出掛けて適当なゴミ共に声を掛けられたらついていく。
個室に入ってしまえば家族と安心して連絡出来る。
ゴミ?早々に気絶させて転がしている。
殺してしまえば後々面倒だし、家族と連絡取るたび殺してたら事件を疑われる。
そんな面倒事はごめんだ。
癖の強い同級生達。
パンダに、おにぎりの具に、男前な女。
パンダってなんだ?と思ってしまうが割愛。
妹達が好きそうだ。
高専生と言ってもどこにでも立ち入る事は出来ない。
広い土地を持つ高専なので、迷子防止として同級生達と探索して歩く。パンダが立ち入り禁止区域に詳しいらしく、それぞれ気になった場所に踏み入れようとしたら止められる。
禁止区域の理由を軽く聞きながら頭の中で地図を完成させていく。
警備らしき人々は確かにいるものの、家族達の敵ではない。
それとなく同級生と仲を深める。
私が普通に生きられたなら
ここは"幸せな私"の理想の世界があった。
「やっほー、名前」
「五条先生」
「こんなとこで何してんの?」
新しく入学した特級の乙骨を楽しそうにしごく真希。
パンダも狗巻も楽しそうに乙骨を弄っている。
私は彼らから離れてその様子を見つめる。
「……幸せ、だなぁと思って」
「年寄り?」
「"普通"って"幸せ"なんですね、先生」
もしも、本当の家族に愛されていたなら
もしも、友達がいたなら
もしも、学校生活が送れたなら
もしも、もしも、もしも……
ここは、暖かい。
仲間もいて
友達もいて
頼れる大人もいる。
「私が見てきた世界より、優しい」
「………まだまだ若いのに何言ってんの」
くしゃくしゃと頭を撫でる五条先生。
髪の毛がぐしゃぐしゃになり不満です、と見上げれば包帯で目隠しする見た目は怪しい担任。
神様の唯一の親友。
神様と喧嘩した親友。
神様と渡り合える最強。
神様の話す昔話よりも大人になったのか……
生徒思いでたまに無理を強いるし、雑な事も多いけど……強くなる術を教えてくれる人。
先生のお陰で反転術式も使えるようになったから回復要員として大事にされる地位を手にした。
五条先生よりは家入先生に教えて貰っているが、家入先生は……その、指導に向かない。
神様は私達にある程度の知識と術を教えてくれるが、命をかけてまで動かなくていいと言ってくれる。
先生は命をかけた方が強くなれると言う。
神様の為に生きる私もその家族も、神様が一人戦場を先行くのが苦しくて必死に追い付こうとしてる。
神様は望んでいないけど、私達は……私は強さが欲しい。
神様を守る盾でありたい。
神様の矛でありたい。
私達よりもずっとずっと強い神様には必要ではないかもしれないが……私達も神様の理想の為に神様が笑える未来の為に力が欲しい。
「なぁに?見惚れた?」
神様の特別。
自分の手札の為なら生徒であろうと強さを引き出してくれる。
「相変わらずダッサイなぁと思って」
「酷くない?」
「見た目完全に不審者です」
「ナイスガイに向かって不審者って」
「あ、すいません。触られるのはちょっと……」
「オイ」
「セクハラで訴えますよ」
「真顔で止めてよ」
もしも、があった時の"幸せ"。
私が今望む"幸せ"ではない。
だって私は幸せだもの。
独特な家族達も
強くて優しい神様もいる
私の帰るべき場所がある。
なのに
「神様……」
乙骨が神様を倒しちゃった。
真希と乙骨と高専に残っていた。
家入先生が怪我人が多いであろう場所に向かったので、万が一に備えて私は学校待機。
手薄な今なら高専の呪物を盗めるし、神様の手助けを出来る。
神様が殺してしまった高専関係者を見たフリをしながら、神様と共に乙骨の特級仮想呪霊を取り込んだあと逃げる。
そう、思ってたのに……
「神様っ!!神様、神様!!」
「………名前、かい?」
「すぐに傷塞いで、それで……っ」
「名前、よく聞くんだ」
血だらけで、呼吸も荒く
「名前はこのまま高専に居るんだ」
いつも妹達が楽しんですいていた髪もバラバラで
「このままスパイとして此処に居れば家族達に情報を流せるし、バレても私に脅されていたと言いなさい」
優しく撫でてくれる腕も無くて
「名前が幸せなら、違う道もある」
身体が熱を奪っていく
「大丈夫。名前の手はまだ汚れてない」
笑う神様。
「そんな事、言わないで……っ」
私は神様と家族で幸せなの。
家族達と居たから、幸せになれたの。
神様に救われたあの日ーーー
私は初めて息をすることが出来た。
「神様がいない世界なんていらないっ
神様と家族がいない世界なんていらないっ!!」
生きて。
今回駄目でも生きていてくれたら次に繋げられる。
神様が救ってくれた家族。
神様が造り上げる世界。
神様と私達が幸せになるための世界。
なのに、神様がいないなんて……
「生きてっ、神様生きてよっ!!」
「………肩を貸して貰えるかい?」
高専の外へ。
五条先生が来る前に。
狗巻とパンダを送り込んできた時点で五条先生は気付いている。
ここに神様がいる事を。
だから、早く。早く早く早くっ!!
ゆっくり。神様の身体に無理の無いように。
早く。神様の温もりが無くならないように。
「名前」
「お願い。お願いします。話さないで。
無理しないで。すぐに助けるからっ」
「ありがとう」
「………神様?」
片腕しかない神様が強く強く抱き締めてくれる。
私の黒い学ランは神様の血で汚れている。
「生きて」
その瞬間、襲ってきた痛みに目の前がぐらりとした。
視界がブレて気持ちが悪い。
意識が遠くなる。
「すまない、名前」
申し訳なさそうに笑う神様。
手を伸ばしたのに、私は地面に倒れ込んでしまう。
声を出したくても、声が出ない。
パクパクと口を開け閉めする私を置いて行く神様。
行かないで。
やめて。
置いていかないで。
涙を流しながら無力な私は気を失った。
次に目覚めたら、全て終わっていた。
私は高専関係者の回復に走り回っていた途中に神様と出会い、気絶させられた事になっていた。
息をしていた者は確かに治した。
死体でも傷を塞いだ。
それくらいのカモフラージュが無いと私が内通者だとバレてしまうから。
医務室で目覚めた私の側に居たのは五条先生。
家入先生は軽く体調を確認した後出ていってしまった。
いつものヘラヘラした先生と違って反らすことを許さない綺麗な瞳。
「傑を治したの名前だろ」
「………はい」
「傑の死体の処理は僕がしたからバレないけど、どうして?」
五条先生の目は誤魔化せない。
神様を治した私の残穢を見逃さない。
下手な言い訳は出来ない。
けど、内通者だとバレるわけにもいなかない。
神様が遺してくれた機会を無駄にしてはいけない。
「バレたらキミは傑の内通者として生かすことは出来ない。
だから答えて」
「………から」
「何」
「………親友、だ…から」
神様の唯一無二。
神様の片割れ。
神様の友達。
懐かしそうに、寂しそうに話す神様はいつだって五条悟の話をしていた。
「先生の、たった一人の親友だから」
喧嘩した、と言っていた。
五条悟と過ごした日々は神様にとってもかけがえのないものだから。
「例え敵対していたとしても……
先生にとって、大事な人だったから」
神様にとって、大事な人だから。
ポロポロと涙が止まらない。
珍しくサングラス姿の先生は何かを口にしようとして飲み込んだ。
止まらない涙に、五条先生の細くも固い指先が涙を拭う。
そのまま乱暴な手付きで頭を撫でる五条先生は……寂しそうに笑った。
「どこで知ったの?」
「ごめんなさい……昔の報告書の整理を頼まれて見ていた時に……今回の騒動の事や、先生とあの人が……仲が良かったと、聞いて……」
「そっかぁ」
嘘と本当を少しずつ混ぜる。
報告書整理を頼まれていたのは本当だし、口の軽い事務員が勝手に話していたのも本当だ。
「何もされてない?」
「はい。すぐに、気絶させられちゃったので」
「名前は弱いね」
「先生の力不足では?」
「……うん、わかった。
名前の確認だけしたかったから……
今は休みな。お疲れ様」
神様、神様、神様。
貴方がいない世界なんていらないのに。
貴方がいない世界なんて望んでいなかったのに。
どうして、私を一緒に連れていってくれなかったの?
私達には貴方が必要なのに。
「………先生」
「なに?」
「あの人の最期に立ち会ったのは先生ですか?」
「……そうだよ」
五条先生は私の頭を何度か撫でて立ち去った。
神様を殺したのは五条悟。
私達の光を奪ったのは五条悟。
けど、五条悟は神様の唯一の親友。
大好き。
大好きな神様。
大好き。
大好きな家族達。
また、笑ってご飯を食べたかった。
また、笑って過ごしたかった。
私達の強くて優しい神様。
貴方が望んだ私達術師が幸せの為に
ゴミ達がいない世界を作る……
神様が目指した理想の世界を作る必要はありますか?
そこに、神様はいないのに。
私は、ただ
貴方に生きていて欲しかったのに。
生きている貴方の為に動きたかったのに。
貴方がいない世界を目指し
貴方がいない世界を完成させても
私達は笑えない。
私達は幸せになれないのに。
家族は嘆いた。
けど、神様の理想の為に歩みを止めないと神様の意思を継ごうと動く事にした。
妹達は五条悟を憎んだ。
憎んだけれどそれよりももっと憎むべき相手が出来た。
「姉妹校交流会の時がチャンスだと思いますよ。
特級レベルが暴れたら内部に配置されるのは二級レベル。
内部ほど手薄ですから」
「へー」
「幸いな事に東京の三年は問題起こして停学中。
京都校もろとも生徒が危険になれば五条悟は生徒の為に動く事を優先する。
けど、五条悟が入れない結界が成功するのなら破られる事を前提としていても時間が稼げればアナタなら簡単でしょう?」
「いいの?そんな事俺に話して」
顔も身体もツギハギだらけの特級呪霊。
いつものよう、適当な男に声を掛けられ着いていき……楽しかった家族との電話も、今では人間の肥溜めから産まれたクソのような呪いとの密会。
「そっちこそいいの?
京都の内通者との縛りを破ることになる」
「縛りは守るって。じゃないと罰を受けるのは俺って言われてるし」
「そう。なら多少の予定外な行動は多めに見てくれるんじゃないかしら?」
「悪い奴だねー、名前は」
「呪詛師にいいも悪いも無いと思うけど」
苦い煙草を肺に入れる。
吐き出せば煙が部屋に広がる。
この一年で覚えた苦くて不味い味。
神様の気持ちを理解するには程遠いけれど、慣れたくない不味さに慣れてきた私がいる。
「あぁ、暴れるなら派手にやってね?
じゃないと五条悟は鋭いから」
「俺も混ざりたいなぁ」
「キミがきちんと働いてくれないと困るのはあの人」
「はいはい。ちゃーんと働くよ。
中身が違うのによく慕えるね?」
人間って意味わかんね、と話す特級呪霊。
先に特級がいなくなる。
彼らはメディア媒介に映らないから自由だ。
ゴミを置き去りにホテルを出る。
私は家族のように神様の理想を叶えようと、神様の意志を継ぐために動こうと思えない。
妹達のように見た目だけのあの人は神様じゃないから殺したい。身体を取り戻したいって気持ちはわかるけど……
神様の息耐える瞬間を見たくない私は妹達ほどの覚悟がない。
あの日唯一、神様の近くにいたのに……私は何も出来なかった。
神様を守る盾にも、矛にも。
神様が生かしてくれた命を、神様の為に使うことを許されずに生かされた。
家族達は誰も私を責めなかった。
それが何よりも申し訳ないし、心苦しい。
大好きな神様はもういない。
けど、神様の死を受け入れることも出来ない。
見た目だけの神様が"生きている"と錯覚出来る今が虚しいけど私を突き動かす。
中途半端な私は神様が死んだ日から動き出せないでいる。
「名前」
神様と別れた場所で、煙草を吹かす私。
「五条先生……お疲れ様です」
「悪い子みーつけた」
「しー、ですよ」
目隠しをしたままの先生が隣に並ぶ。
もう、残穢も血痕も無いただの通路。
私の時間が止まっている場所。
「いつからそんな悪い子になっちゃったの?」
「悪い子になりたくなる年頃なんです」
「身体に良くないよ」
「そうですね」
「あとキスすると苦い」
「喫煙者とキスしたことあるんですか?」
「ひーみーつ」
おちゃらけて笑う先生。
肺に吸い込む煙が苦い。
外とはいえ、吐き出した煙が身体に纏わりつく。
「ねぇ、先生」
「なぁに」
口の中が苦い。
肺が苦しい。
心が辛い。
「先生は乗り越えられましたか?」
私は動けない。
生きているのに死んでいる。
「先生の心は晴れてますか?」
あの人の姿を見るたび、私の罪だと攻められている気がする。
あの人の真似をされるたび、心が違うと叫んでいる。
あの人に優しくされるたび、神様との違いに落胆する。
「………名前って僕の事大好きなの?」
「あはは。まっさかー」
「それはそれで酷い」
「先生の事を凄いとは思いますが恋愛対象としてはちょっと……」
「僕みたいな男いないよー?」
「生徒相手に何言ってるんですか」
2度と手に出来ない幸せな時間。
「先生みたいな人、絶対お断りですよ」
優しくしてくれるのも
大事にされるのも
誰かを愛するのも
誰かに恋するのも
私は進みたくない
煙草を消して携帯灰皿へと仕舞う。
じっとこちらを見る先生に笑う。
「しー、ですよ?先生」
「教師としては見逃せないなぁ」
「先生と私の秘密」
「……じゃあさ」
先生の顔が近付いてきて、唇に触れる柔らかなもの。
驚いて開いた口にねじ込まれる舌が口内をぐるりと混ぜる。
驚く私をそのままにすぐに顔を離した先生。
「まっず」
「………淫乱教師」
「いいじゃん。これで秘密の共有」
ニヤリと笑う先生に呆れてしまう。
漫画や二次元だけの世界かと思っていたが、教え子に手を出すなんて本当にあることなんだと他人事のように考えてしまう。
「名前」
「はい?」
「溜め込まないでちゃんと先生に言うこと!
真希達みたいにさ」
「五条先生」
「キミも僕の生徒なんだから」
ポンポン、と撫でられた頭。
「……先生、頼りになっても信用出来ないからなぁ」
「酷い」
「先生こそお気をつけて」
「僕最強だから問題ないよ」
「最強だからこそ、ですよ。
先生の背を追いかける人は多くても
先生の背を守る人はいないんだから」
先生とは違う方向に足を進める。
面倒だが先程から同級生達からの連絡が鳴り止まない。
一年二人をしごくらしい。
気乗りしないが、潜入している身としてはある程度の仲間関係を大切にしておかないと。
「最強故に
アナタの手でアナタが終わらせたんだから」
最期まで、ちゃんと終わらせて欲しかった。
最期の甘さで、アナタの親友は今……
「ごめんね、先生」
アナタを理由に私は生きる。
神様のいない世界と向き合う為に
家族の為に
「私はアナタに恋はしないよ」
口の中の苦さも
身に纏わりつく臭いも
いつの間にか消えていた。
あとがき
明けましておめでとうございます!
新年早々に一発目があまり明るくない唐突に書きたくなった呪詛師と先生。
落ちなどない。
呪詛師だから宿儺さんに殺される未来しかないので……続かない。
こんな感じで今年もよろしくお願いいたします!