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「そろそろ私は行くよ」
ふと……どこか、聞き覚えのある台詞だった。
線路を歩くオイル。
一瞬とはいえ、何やら夢を見ていた気がする。
どうやら私は陀艮ちゃんの締め上げで軽く意識が飛びかけたらしい。
「陀艮ちゃん」
「ブモォ」
あの時逃げられたのは?
あの時はーーー
「"お願い"」
「!!」
「"離して"」
一瞬でいい。
私のお願いに陀艮ちゃんが戸惑う。
締め上げられた身体が緩んだ瞬間、私はそこから抜け出して走り出す。
「悟っ」
膝をつき、何かに囚われている悟。
悟の目の前にはツギハギとオイル。
「名前……」
走って、走って
「簡単に捕まってんじゃねーよバーカ」
こんな時まで笑っている悟。
あんた、笑ってる場合じゃないでしょ。
「悟もね!!」
秘技
実家に帰らせていただきます!!〜両足を添えて〜
「うらぁ!!」
「危ないね」
「なーにやってんの?」
前髪とツギハギに走った勢いのまま飛び蹴りしたがかわされた。
当たると思って無いから問題なし。
着地して悟を見る。
「駄目そう?」
「駄目かも」
念のため悟に確認する。
脱出が駄目かも、なんて悟らしからぬ発言だがそれほどまでにヤバい状況だと理解する。
なら、私のすることは一つ。
少し手を伸ばせば触れられる距離。
「相変わらず元気だねぇー」
「元気過ぎて困ってしまうよ」
オイルとツギハギに隙はない。
奇跡を信じたり、ヒロインよろしく絶対勝ちゲーに持ち込む勝機も無い。
負け戦をするほど愚かな選択をするつもりはない。
動けない悟の頬に触れる。
「私を信じてくれる?」
「信じてるよ」
悟の即答に笑ってしまう。
触れるだけのキスを唇に落とし、無理矢理笑う。
「私は自由だぁー!!」
「「えっ」」
甘い雰囲気じゃなかった?って?
我、通行人ぞ?
指先揃えて足上げてダッシュでホームから階段を駆け上がる。
後ろから悟の笑い声が聞こえた。
「ごめん、悟」
私じゃ絶対に助けられない。
私が奴らと居ることで足手まといになるくらいなら、私はいない方がいい。
「諦めない」
必ず生きてまた悟と会うために今は少しの別れ。
だから私は走る。
寄ってくる改造された呪いを避け、集まってきた呪いをシカトして地上へ。
「あははは!まさかあんな方法で逃げるなんて」
「追う?」
「逃げられないさ」
お腹を抱えて笑う夏油。
「見捨てられたのかな?
いらないなら彼女貰ってもいいかい?」
「誰がやるか」
「殺るなら俺が殺りたーい」
「あの馬鹿を扱えるのは僕だけだ」
走る、走る、走る。
私、通行人名前。
今ね、地下をぐるぐる上がったり下がったりと逃げ回ってるの。
「どこだよ此処っっ!!!」
どこ走っても呪いだらけ。
なかなか地上に出られず1歩進めば2歩下がるレベルで前に進まない。
「上がって下がって上がって下がって……
あれ?私何目指してんの?
むしろどこ目指せばいいの?」
厄介な事に普通の呪いならば私に害を与える事は限りなく低い。
しかし、改造された呪いとなるとツギハギの命令が優先されるのか襲ってくる。
なので無闇に突っ込んで逃げることも出来ず結果、足止めされるように行ったり来たりを繰り返していた。
「これ逆に線路突っ走った方が良い?
改造がいる限り上手く抜けられないし」
流れ落ちる汗を拭う。
こうして立っている間に呪いは此方の様子を見ながら増えている。
「………」
多分だが、私の加護の力は消えた。
なのでどんなに私が今まで通りシカトしようとしても呪い達は関わろうとしてくる。
宿儺さんやオイルの口ぶりに呪いは私を無視せずに寄ってくる。
ーーーもう、逃げ続ける事は出来ない。
悟があの状態となってしまった以上、きっと良くない状況だ。
どうする?
どうすればいい?
何が正解かわからないが自分には何ができる?
私がオイルの側にいるのは良いことではない。
だが、逃げた先には閉じ込められた人々や襲われた人々の恐怖により呪いが生まれていく。
その呪いは私に寄ってくる。
呪いを引き連れて地上に戻るのが正解なのか?
それとも………
逃げてしまう?
「(違う!逃げない、考えろ考えろ考えろ!!)」
私は何を優先すべきか。
増え続ける呪霊。
出会う改造呪霊。
逃げ惑う人々。
既に事切れた人々。
呼吸が浅くなっていく。
考えがまとまらず、逃げようと囁く本能に頭を振る。
そうしているうちに、私は何がしたいのかわからなくなってきた。
「(私は………生きていていいのか?)」
怖い。
加護が無いことがこんなにも怖いなんて。
口先では何度も覚悟を口にしていたのに……いざこの場では自分のことばかり考えてしまっている。
"化け物"
言われていないはずの言葉が頭を巡る。
人が怖い。
呪いなんかよりも人間が怖い。
人の目が、吐き出される言葉が、悪意が怖い。
漏瑚さんの言葉が真実だったのでは?私は偽善で人間なんて守るべき価値など………
頭がズキズキする。
体験したような、していないような夢心地。
気をしっかり持てと己を叱咤し、目の前の状況の打破を考える。
みんなの前では格好つけて年上ぶって良いことを言っていたくせに怯むな私!!
逃げ出したい自分と
動きたい自分が全く纏まってくれない。
私は………私は、今
何をしたくてこの場にいるのか……
何をしなきゃいけなくて逃げているのか
自分がわからない。
泣く資格などないのに、自分自身が情けなくて泣けてくる。
加護が切れたと自覚していくたび、全て投げ捨てて逃げ出したい気持ちになるなんてーーー
私はこんな弱かった?
"お姉ちゃん"
「!?」
白いナニカがいた。
ソレは人の形らしきものを型どっていたが……顔まではわからない。
"怖がらないで"
周りの呪いがいなくなっていた。
呪いだけじゃなく逃げ惑う人々も死体も呪いも全てがいなくなっており、まるで時が止まったかのように音がしない。
自分の心臓の鼓動だけが耳によく響く。
アレはなに?
人でもなく、呪いでもない存在にブワリと毛穴から汗が吹き出るような感覚。
ゆっくりとナニカが近付いてくるのに動かない足。
"あの子達を怖がらないで"
"大丈夫だよ"
"あの子達はただ、お姉ちゃんのお願いを待っているだけ"
一歩、一歩と近付いてくるソレ。
冷や汗が止まらない。
コレは何?
"お姉ちゃんはまだ受け入れたくないんだよ"
「私、は……」
"どんなに覚悟を決めても言葉だけ。
だからあの子達が怖いの"
「私は……っ」
ぺたり、とソレが私に触れる。
"お願い"
怖い怖い怖い。
逃げたい。
触るな。
見るな。
暴くな!
"否定しないで"
真っ白なナニカは少女だった。
ボロボロの服を着た少女は怖がる私を宥めるように優しく触れる。
"お姉ちゃんにしか出来ない事だよ"
「だ、けどっ!!」
"大丈夫"
「っ!!」
"私も一緒だよ"
ーーー1人ぼっちは寂しいから。
少女の言葉はストン、と私の胸に落ちてきた。
どんなに"覚悟"を言葉にしても
胸の奥底に眠る弱さが邪魔をする。
幼い頃の恐怖から逃げられず、目をそらそうとしてしまう。
私よりも年若い子供達が逃げずに頑張っているのに。
何度も見てきたのに。
彼らは呪術師で、私は一般人だからと言い訳をして逃げ道を作ってきたズルい奴。
何が大人だ。
何が頼れる人だ。
何が覚悟だ。
バチンッッ、と両頬を両手で叩く。
痛々しい音と共に頬が痛む。
「……私は弱虫だから、1人ぼっちは嫌なんだ」
"私も"
「だから、お願い」
"うん"
「私がヘタレたり弱音吐いて逃げようとしたらさ、ちゃんと背中押して」
"何度だって、側にいるよ"
ここで覚悟を決めなきゃいつ決める?
ここで逃げたら……誰の顔も見れない。
ここで逃げたら
また
失う。
「怖い。嫌だ。逃げたい。関わりたくない。
こんな弱さを誰にも知られなくない」
"うん"
「けど、私は選んだの」
"そうだね"
平穏な生活を捨てることを。
非日常の世界を選んだ。
ーーー 名前 ーーー
心からたった一人を好きになった。
この想いを捨てきれず、何度も何度も逃げ道を作ってくれていたのに側に居たいと手を伸ばし選んだ。
この想いを嘘にしたくない。
「後悔したくない。
後悔したら……私の悟への気持ちさえ後悔することになる」
"お姉ちゃんは凄いね"
「凄くない。今だって君を否定して逃げたいくらいの弱虫だよ」
"私は誰かの為になんて思わなかったもの"
クスリ、と笑う少女がそっと私の手を握る。
"カミサマは願ってくれた。
私が長生き出来ることを"
"私は幸せだったから、次はお姉さんの番"
"大丈夫"
"この力は怖いものじゃないよ"
"やり方は簡単"
"願って"
"褒めて"
"あの子達は答えてくれる"
もう、少女は怖くなかった。
温度など感じないはずの手が暖かく感じられた。
"お姉ちゃんがあの子達を救ってあげて"
にこり、と笑った少女は私の中に溶け込むように消えていった。
荒れていた気持ちは落ち着いた。
止まっていた時間が戻り……目の前には悲惨な光景。
此方を見る改造呪霊。
「ニ……ニン、ゲン」
「ねぇ、聞こえる?」
ーーーもう、逃げない。
「私の願いを聞いてよ」
ーーーもう、十分逃げたから。
「私をあげることは出来ないけど
お前達の願いを聞ける事までなら聞いてやる」
ーーー守ってもらうばかりの可愛いヒロインにはなれない。
だって私はどちらかといえば囚われているばかりのヒロインなんて向いていないから
「私に力を貸して」
ーーー悟には呆れられるかもしれないけど
黙って待っていたのはあの時だけ
「あの子を開放してあげて」
理性も感情も全て呪いによって作り替えられてしまった元人間。
呪いでもなく、人間でもなく。
命じられたまま人間を襲う哀れな生き物。
私の後ろにいた呪い達が一斉に改造呪霊に向かっていく。
呪いが呪いを襲う事に困惑している間に改造呪霊は呪い達によって殺されてしまった。
こちらをじっと見つめる呪い達は黙っている。
私も呪いから目を離さず見続け……肩の力を抜いて笑う。
「ありがとう」
呪い達の目を見ながら告げた言葉に呪い達は歓喜するかのように叫びだす。
ーーー私はもう、戻れない。
私を見ている生き残った人々の視線が痛い。
「………化物」
小さく呟かれただけの言葉すら耳に届く。
呟かれた言葉が胸を刺す。
だが……悲しんでいられない。
私がすべき事。
「行こう」
呪いを引き連れて歩き出す。
もう、迷わない。
茨の道を歩む事になったとしても
私は一人じゃないのだから。
あとがき
2度目の登場、名も無き少女。
宿儺さんに呪われた魂の欠片。
"長生き"するための力がチート。
宿儺さんに呪われた魂なんざチートでも充分いけそうだな、と設定モリモリ(笑)
通行人の魂でもあるので、通行人がチートなのは今更だよねwww
通行人もなんやかんやブッ飛んでいますが、平々凡々?に普通に暮らしていた子ですからね。
こんな地獄絵図間近で見て逃げ回っていたら精神状態ぶっ壊れますわ。
呪術師の方々は見慣れていく、または呪いに突っ込んでいくイカレたとこあるので割りきる事も上手く出来るようになっていくのだろうが……通行人さん……五条さんに大事にされすぎてそんな現場に出会っていませんでしたから!!!
悠仁とほぼ変わらない一般人レベルの情緒なんです。
むしろ、現場出てない分情緒は一般人なんです。
そら逃げたくもなるって。怖いって。
けど、通行人シリーズの主人公なので情緒の回復も驚く速さ。
覚悟もバッチリ決めるぜ!!
次回「どうした化け物、それでもこの世で最も邪悪な一族と言われた末裔か!!」
覚悟は決まった!
さあ、進め!!
ふと……どこか、聞き覚えのある台詞だった。
線路を歩くオイル。
一瞬とはいえ、何やら夢を見ていた気がする。
どうやら私は陀艮ちゃんの締め上げで軽く意識が飛びかけたらしい。
「陀艮ちゃん」
「ブモォ」
あの時逃げられたのは?
あの時はーーー
「"お願い"」
「!!」
「"離して"」
一瞬でいい。
私のお願いに陀艮ちゃんが戸惑う。
締め上げられた身体が緩んだ瞬間、私はそこから抜け出して走り出す。
「悟っ」
膝をつき、何かに囚われている悟。
悟の目の前にはツギハギとオイル。
「名前……」
走って、走って
「簡単に捕まってんじゃねーよバーカ」
こんな時まで笑っている悟。
あんた、笑ってる場合じゃないでしょ。
「悟もね!!」
秘技
実家に帰らせていただきます!!〜両足を添えて〜
「うらぁ!!」
「危ないね」
「なーにやってんの?」
前髪とツギハギに走った勢いのまま飛び蹴りしたがかわされた。
当たると思って無いから問題なし。
着地して悟を見る。
「駄目そう?」
「駄目かも」
念のため悟に確認する。
脱出が駄目かも、なんて悟らしからぬ発言だがそれほどまでにヤバい状況だと理解する。
なら、私のすることは一つ。
少し手を伸ばせば触れられる距離。
「相変わらず元気だねぇー」
「元気過ぎて困ってしまうよ」
オイルとツギハギに隙はない。
奇跡を信じたり、ヒロインよろしく絶対勝ちゲーに持ち込む勝機も無い。
負け戦をするほど愚かな選択をするつもりはない。
動けない悟の頬に触れる。
「私を信じてくれる?」
「信じてるよ」
悟の即答に笑ってしまう。
触れるだけのキスを唇に落とし、無理矢理笑う。
「私は自由だぁー!!」
「「えっ」」
甘い雰囲気じゃなかった?って?
我、通行人ぞ?
指先揃えて足上げてダッシュでホームから階段を駆け上がる。
後ろから悟の笑い声が聞こえた。
「ごめん、悟」
私じゃ絶対に助けられない。
私が奴らと居ることで足手まといになるくらいなら、私はいない方がいい。
「諦めない」
必ず生きてまた悟と会うために今は少しの別れ。
だから私は走る。
寄ってくる改造された呪いを避け、集まってきた呪いをシカトして地上へ。
「あははは!まさかあんな方法で逃げるなんて」
「追う?」
「逃げられないさ」
お腹を抱えて笑う夏油。
「見捨てられたのかな?
いらないなら彼女貰ってもいいかい?」
「誰がやるか」
「殺るなら俺が殺りたーい」
「あの馬鹿を扱えるのは僕だけだ」
走る、走る、走る。
私、通行人名前。
今ね、地下をぐるぐる上がったり下がったりと逃げ回ってるの。
「どこだよ此処っっ!!!」
どこ走っても呪いだらけ。
なかなか地上に出られず1歩進めば2歩下がるレベルで前に進まない。
「上がって下がって上がって下がって……
あれ?私何目指してんの?
むしろどこ目指せばいいの?」
厄介な事に普通の呪いならば私に害を与える事は限りなく低い。
しかし、改造された呪いとなるとツギハギの命令が優先されるのか襲ってくる。
なので無闇に突っ込んで逃げることも出来ず結果、足止めされるように行ったり来たりを繰り返していた。
「これ逆に線路突っ走った方が良い?
改造がいる限り上手く抜けられないし」
流れ落ちる汗を拭う。
こうして立っている間に呪いは此方の様子を見ながら増えている。
「………」
多分だが、私の加護の力は消えた。
なのでどんなに私が今まで通りシカトしようとしても呪い達は関わろうとしてくる。
宿儺さんやオイルの口ぶりに呪いは私を無視せずに寄ってくる。
ーーーもう、逃げ続ける事は出来ない。
悟があの状態となってしまった以上、きっと良くない状況だ。
どうする?
どうすればいい?
何が正解かわからないが自分には何ができる?
私がオイルの側にいるのは良いことではない。
だが、逃げた先には閉じ込められた人々や襲われた人々の恐怖により呪いが生まれていく。
その呪いは私に寄ってくる。
呪いを引き連れて地上に戻るのが正解なのか?
それとも………
逃げてしまう?
「(違う!逃げない、考えろ考えろ考えろ!!)」
私は何を優先すべきか。
増え続ける呪霊。
出会う改造呪霊。
逃げ惑う人々。
既に事切れた人々。
呼吸が浅くなっていく。
考えがまとまらず、逃げようと囁く本能に頭を振る。
そうしているうちに、私は何がしたいのかわからなくなってきた。
「(私は………生きていていいのか?)」
怖い。
加護が無いことがこんなにも怖いなんて。
口先では何度も覚悟を口にしていたのに……いざこの場では自分のことばかり考えてしまっている。
"化け物"
言われていないはずの言葉が頭を巡る。
人が怖い。
呪いなんかよりも人間が怖い。
人の目が、吐き出される言葉が、悪意が怖い。
漏瑚さんの言葉が真実だったのでは?私は偽善で人間なんて守るべき価値など………
頭がズキズキする。
体験したような、していないような夢心地。
気をしっかり持てと己を叱咤し、目の前の状況の打破を考える。
みんなの前では格好つけて年上ぶって良いことを言っていたくせに怯むな私!!
逃げ出したい自分と
動きたい自分が全く纏まってくれない。
私は………私は、今
何をしたくてこの場にいるのか……
何をしなきゃいけなくて逃げているのか
自分がわからない。
泣く資格などないのに、自分自身が情けなくて泣けてくる。
加護が切れたと自覚していくたび、全て投げ捨てて逃げ出したい気持ちになるなんてーーー
私はこんな弱かった?
"お姉ちゃん"
「!?」
白いナニカがいた。
ソレは人の形らしきものを型どっていたが……顔まではわからない。
"怖がらないで"
周りの呪いがいなくなっていた。
呪いだけじゃなく逃げ惑う人々も死体も呪いも全てがいなくなっており、まるで時が止まったかのように音がしない。
自分の心臓の鼓動だけが耳によく響く。
アレはなに?
人でもなく、呪いでもない存在にブワリと毛穴から汗が吹き出るような感覚。
ゆっくりとナニカが近付いてくるのに動かない足。
"あの子達を怖がらないで"
"大丈夫だよ"
"あの子達はただ、お姉ちゃんのお願いを待っているだけ"
一歩、一歩と近付いてくるソレ。
冷や汗が止まらない。
コレは何?
"お姉ちゃんはまだ受け入れたくないんだよ"
「私、は……」
"どんなに覚悟を決めても言葉だけ。
だからあの子達が怖いの"
「私は……っ」
ぺたり、とソレが私に触れる。
"お願い"
怖い怖い怖い。
逃げたい。
触るな。
見るな。
暴くな!
"否定しないで"
真っ白なナニカは少女だった。
ボロボロの服を着た少女は怖がる私を宥めるように優しく触れる。
"お姉ちゃんにしか出来ない事だよ"
「だ、けどっ!!」
"大丈夫"
「っ!!」
"私も一緒だよ"
ーーー1人ぼっちは寂しいから。
少女の言葉はストン、と私の胸に落ちてきた。
どんなに"覚悟"を言葉にしても
胸の奥底に眠る弱さが邪魔をする。
幼い頃の恐怖から逃げられず、目をそらそうとしてしまう。
私よりも年若い子供達が逃げずに頑張っているのに。
何度も見てきたのに。
彼らは呪術師で、私は一般人だからと言い訳をして逃げ道を作ってきたズルい奴。
何が大人だ。
何が頼れる人だ。
何が覚悟だ。
バチンッッ、と両頬を両手で叩く。
痛々しい音と共に頬が痛む。
「……私は弱虫だから、1人ぼっちは嫌なんだ」
"私も"
「だから、お願い」
"うん"
「私がヘタレたり弱音吐いて逃げようとしたらさ、ちゃんと背中押して」
"何度だって、側にいるよ"
ここで覚悟を決めなきゃいつ決める?
ここで逃げたら……誰の顔も見れない。
ここで逃げたら
また
失う。
「怖い。嫌だ。逃げたい。関わりたくない。
こんな弱さを誰にも知られなくない」
"うん"
「けど、私は選んだの」
"そうだね"
平穏な生活を捨てることを。
非日常の世界を選んだ。
ーーー 名前 ーーー
心からたった一人を好きになった。
この想いを捨てきれず、何度も何度も逃げ道を作ってくれていたのに側に居たいと手を伸ばし選んだ。
この想いを嘘にしたくない。
「後悔したくない。
後悔したら……私の悟への気持ちさえ後悔することになる」
"お姉ちゃんは凄いね"
「凄くない。今だって君を否定して逃げたいくらいの弱虫だよ」
"私は誰かの為になんて思わなかったもの"
クスリ、と笑う少女がそっと私の手を握る。
"カミサマは願ってくれた。
私が長生き出来ることを"
"私は幸せだったから、次はお姉さんの番"
"大丈夫"
"この力は怖いものじゃないよ"
"やり方は簡単"
"願って"
"褒めて"
"あの子達は答えてくれる"
もう、少女は怖くなかった。
温度など感じないはずの手が暖かく感じられた。
"お姉ちゃんがあの子達を救ってあげて"
にこり、と笑った少女は私の中に溶け込むように消えていった。
荒れていた気持ちは落ち着いた。
止まっていた時間が戻り……目の前には悲惨な光景。
此方を見る改造呪霊。
「ニ……ニン、ゲン」
「ねぇ、聞こえる?」
ーーーもう、逃げない。
「私の願いを聞いてよ」
ーーーもう、十分逃げたから。
「私をあげることは出来ないけど
お前達の願いを聞ける事までなら聞いてやる」
ーーー守ってもらうばかりの可愛いヒロインにはなれない。
だって私はどちらかといえば囚われているばかりのヒロインなんて向いていないから
「私に力を貸して」
ーーー悟には呆れられるかもしれないけど
黙って待っていたのはあの時だけ
「あの子を開放してあげて」
理性も感情も全て呪いによって作り替えられてしまった元人間。
呪いでもなく、人間でもなく。
命じられたまま人間を襲う哀れな生き物。
私の後ろにいた呪い達が一斉に改造呪霊に向かっていく。
呪いが呪いを襲う事に困惑している間に改造呪霊は呪い達によって殺されてしまった。
こちらをじっと見つめる呪い達は黙っている。
私も呪いから目を離さず見続け……肩の力を抜いて笑う。
「ありがとう」
呪い達の目を見ながら告げた言葉に呪い達は歓喜するかのように叫びだす。
ーーー私はもう、戻れない。
私を見ている生き残った人々の視線が痛い。
「………化物」
小さく呟かれただけの言葉すら耳に届く。
呟かれた言葉が胸を刺す。
だが……悲しんでいられない。
私がすべき事。
「行こう」
呪いを引き連れて歩き出す。
もう、迷わない。
茨の道を歩む事になったとしても
私は一人じゃないのだから。
あとがき
2度目の登場、名も無き少女。
宿儺さんに呪われた魂の欠片。
"長生き"するための力がチート。
宿儺さんに呪われた魂なんざチートでも充分いけそうだな、と設定モリモリ(笑)
通行人の魂でもあるので、通行人がチートなのは今更だよねwww
通行人もなんやかんやブッ飛んでいますが、平々凡々?に普通に暮らしていた子ですからね。
こんな地獄絵図間近で見て逃げ回っていたら精神状態ぶっ壊れますわ。
呪術師の方々は見慣れていく、または呪いに突っ込んでいくイカレたとこあるので割りきる事も上手く出来るようになっていくのだろうが……通行人さん……五条さんに大事にされすぎてそんな現場に出会っていませんでしたから!!!
悠仁とほぼ変わらない一般人レベルの情緒なんです。
むしろ、現場出てない分情緒は一般人なんです。
そら逃げたくもなるって。怖いって。
けど、通行人シリーズの主人公なので情緒の回復も驚く速さ。
覚悟もバッチリ決めるぜ!!
次回「どうした化け物、それでもこの世で最も邪悪な一族と言われた末裔か!!」
覚悟は決まった!
さあ、進め!!