通行人 番外編
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力が欲しかった。
思い上がった奴らを全て壊す力が。
抜け出したかった。
今の理不尽な生活から。
力があれば変われると思った。
「今が苦しくて、しんどくても
周り全てが敵じゃない」
うるさい。
お前に何がわかる。
「必ずあんたを見て向き合ってくれる人はいる」
うるさい!
うるさいうるさいうるさい!
「だから腐るな」
うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!
それでお前は何をしてくれた?
お前だって口先ばかりだろう?
誰も助けてくれなかった。
友人だと思っていた人々も逃げていった。
見て見ぬふりして影で笑って楽しんでいた奴らばかりだったのに、お前に何が出来るって言うんだ!!!!
人に心なんてない。
心があるなら理不尽な虐めも暴力も見て見ぬフリなんてしないはずだ。
母さんだって死ななくて良かった。
僕らは誰かに呪われるほど悪いことをしていた?
僕らが生きていることで誰かに迷惑をかけていた?
僕らの存在は常に呪われるべき生だった?
何が正しくて
何が間違っているなかんてどうだっていい。
僕も母さんも呪われるべき人間だったというのなら
僕らだって他人を呪って奪っても止める権利など誰にもないだろ?
「順平はさ、まぁ頭いいんだろうね。
でも熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ。
君ってその典型!!
順平って君が馬鹿にしている人間のその次位には馬鹿だから
だから、死ぬんだよ」
身体が変形していく痛み。
目の前の悠仁を敵だと襲う身体。
身体のいうことがきかない。
視界が低い。
全身が痛い。
頭が痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
どこが痛いのか、何が起こっているのかわからない。
だけど……自分の命の終わりはわかった。
悠仁の泣きそうな顔が見える。
必死に僕を助けようと叫んでいる。
けどね、悠仁。
もう身体が痛いんだ。
もう意識が朧気なんだ。
もう耳が遠いんだ。
もう、視界が…………。
痛いなぁ。
けど、痛くなくなったな。
真っ暗な暗闇にポツンと立たされていた。
上も下も右も左もわからない。
「……ははっ、地獄って案外何も無いんだ」
この暗闇の中、僕の気が狂うまで居続けるのが僕への罰なのだろうか?
天国と地獄なんて在り来たりな場所にすら行けず、人を呪い、悠仁を信じきれなかった罪を此処で気が狂うまで……。
あぁ、そういえば。
真人さんが面白い人を紹介すると引き合わせてくれた変な女の人。
馴れ馴れしくしながらも、無理矢理連絡先を手渡してきて無茶苦茶言ってた人。
「連絡待ってる」
……今になって彼女の言葉を思い出す。
僕がもっと彼女の言葉を聞いていたなら、僕がもっと広く視野を持っていたなら、僕がもっと悠仁を信じられたなら……彼女は僕を変えてくれたのだろうか?
もしもあの時
僕が彼女に連絡していたらどうなったかな?
僕が虐められている事を先生にも見て見ぬフリされていた事を伝えていたらどうなったかな?
「やっほ!!来ちゃった!」
「いや、何やってんですか貴女」
「よーっし、じゃあ行こうぜ!!」
「は?何処に……ちょっ、やめっ」
僕を引きずって学校に行く彼女。
堂々と職員室の扉を勢いよく開く。
「頼もう!!!!!」
「……誰ですか、貴女!?」
「順平くんの担任出しな」
「部外者は出てってもらえますか?」
「部外者ですがこの子から事情を知った身としては黙ってられなかったので。
この子だって親に知られたくない子心があり、部外者の私を頼ってくれたわけですし。
なら、部外者なりにちょーーっと納得いく説明して貰えるなら黙りますよ」
ーーー子供の額に煙草押し付けて、虐め黙認してる理由をきっちり説明してくれるならな。
彼女の言葉にシンッとした職員室。
彼女は綺麗な笑顔を張り付けて笑う。
「お話……しましょうか?」
通された校長室。
ザワザワと落ち着かない校長に教頭。
「我が校では虐めなど…」
「あー、そういうのいいんで。
こっちが嘘ついてるとか被害妄想とかいうのも無しで」
「ですが、証拠などっ」
「証拠?証言?
それを探し出すのが貴殿方教師の役割では?」
「一方的に虐めと断言するには」
「じゃあ今すぐ全校生徒に虐めに関する調査実施しましょう?はい、これ。虐めのアンケート作成してきましたよー!!あ、コピー機お借りできるなら今すぐ出来ますね!コピー代お出ししましょうか?」
「それは……教育委員会などと」
「貴殿方は学校の看板ばかり気にしてたった一人であろうと生徒の声すら聞かないんですね」
呆れたようにため息をつく彼女。
「子供が道に迷っている時。子供が助けを求めた時に手を差しのべるのが大人でしょう」
「それは……」
「子供同士の遊びの延長だとでも言いますか?」
「事実を確認し次第ご返答致しますので」
「じゃあ、子供同士が何をしていても貴殿方は見て見ぬフリをするんですね?」
「そんな事は言って……」
気まずそうに顔を背ける。
あぁ、本当に大人って……。
心に黒い影がさす。
「順平くんや」
「は、はいっ?」
「キミにとってこの学校もここの生徒も大事かな?」
そう聞かれると……大事ではない。
見て見ぬフリをする生徒も先生も。
笑って見下す馬鹿達も。
「……いらない」
「OK。それじゃこうしよう。
順平くん、この学校退学しよ」
「えっ?」
「行く気になれない学校ならお金払うだけ無駄だって。
そのお金あれば焼き肉行けるし」
「だけどっ」
「高校卒業資格なんて夜間でも行けば取れるし。わりと人生どうとでもなるよ」
「そんな勝手な事ばかり…」
「お金を気にするなら高専も一つの道だよ。
オススメはしたくないけど」
「高専?」
何かの専門学校なのだろうか?
苦笑しながら少し影を落とす彼女。
「この学校より順平くんの事わかってくれる人達ばかりだよ」
「僕を?」
僕をわかってくれる?
そんな人間母さん以外に誰もいなかった。
だから、僕は今も……っ
「順平くん。
わかろうとしてくれる人と、わかったふりする人を一緒にしちゃいけないよ。
人を疑う事はいい事だと思う。
けどね、人を信じる事も大事」
「選んだ人が裏切る場合だってあるだろ」
「そうね。けど、それも含めて選んだのはキミだ」
その言葉にズキンッと心が痛む。
そうだ。
僕は選んだ。
自分で選んで、あの人の手を取った。
「裏切られても信じたいと思える相手があんな奴しかいなかった……。
ごめんね、もっとキミに寄り添うべきだった」
先程までの学校の景色が、先生方が泥人形のように崩れて消えていく。
体育館で倒れる生徒達。
駆け付けた悠仁。
寄り添おうとしてくれた。
話そうとしてくれた。
話を聞いてくれた。
引き離そうとしてくれた。
けど
信じたのはあの人。
一気に身体に走る痛み。
あぁ、またあの痛みだ。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も
痛い。
痛くて、苦しくて、殺してくれと思うのに……あの痛みを何度も繰り返す。
これは彼女を信じれなかった痛み?
悠仁を信じられなかった痛み?
誰かを頼れなかった痛み?
誰を頼れば良かった?
学校ではあいつらに痛め付けられ
教師は取り合ってくれず
生徒も遠巻きに見ているだけ。
母さんに心配かけたくなくて言えなかった。
母さんは気付いていただろうけど何も言わず好きにさせてくれた。
何が、悪かったの……?
「何も悪くないさ」
またあの痛み……と心が絶望していた時
痛みもなく、身体が包まれた。
「何度も自分を責めなくていい。
順平くんが罰を受ける必要なんてない」
「……どう、して」
「キミの心が罰を望む限り何度も繰り返すよ」
僕が悪かった?
僕が悪いと思っていると?
「キミは頑張った。
虐めにも負けず立ち向かった。
そこから逃げたのはキミが自分を守るためだった。キミがいなくなって一番悲しむのはお母さんだ。
なぁに、学校に行かなくても人は死にはしない。
好きに生きて、やりたいこと見付けて笑っていられるならお母さんもそれで良かったんだよ」「けど、最後に選ぶ人を間違えたっ」
「最後?
まだ、間に合うよ」
何を、言って……
真っ暗な世界に光がさした。
光に目を閉じ、ゆっくりと開けるとそこは……先程校長達と話している場面。
「この学校より順平くんの事わかってくれる人達ばかりだよ」
さっきの……。
「……貴方は、僕をわかろうとしてくれるんですか?」
「当たり前じゃん。
だから私は此処に来たんだ」
ニヤリ、と笑う彼女。
あぁ、本当に………。
変な人だ。
「……お願い、します」
信じれば良かった。
無性に助けてくれる偽善者などいないと思っていた。
手を伸ばせば良かった。
「助けて……っ、助けて、ください…っ!!」
年甲斐も無く叫べば良かった。
「痛いのも……っ、暗いのも……っ
何度も繰り返す結果もっ!!!
この世界から……助けてっ!!!」
「任せなさい!!」
彼女は笑って僕の手を取った。
騒然とする校長と教頭と先生方。
「社会的に死ぬのとこの学校内で処理するのとどちらがいいかな?」
「なっ!?」
「此方は被害届出して裁判持ち込んでもいいよ」
「……一度しっかりと話し合わせて下さい」
「しっかりとした大人の見本として頼みたいですね。
さーて!順平くん行こうか」
「えっ?」
僕の手を引いて歩き出す。
どこかへ連絡する彼女。
「もしもーし?悟?
あのさぁ、ちょっとプリチーな彼女のお願い聞いてくれない?
可愛らしい子捕まえちゃったから。
……は?浮気じゃないし。
善人な大人の活動だし。
ちょっと気難しさもあるからセラピー悠仁くん派遣してくれない?
野薔薇ちゃんやめぐみんはほら、あの……刺激がね?
セラピー悠仁くん含めて面談しよ」
もしも。
こんな未来があったなら。
僕は今も母さんと笑いあえたかな?
「順平じゃん!?
何で?何で名前姉と?」
「チーッス!!悠仁くん知り合いだったの?」
「うん!こないだ友達なった!!」
「まじか。コミュ力ヤバみ」
「名前姉こそ順平拉致してくるって相当のコミュ力じゃん」
「まぁね」
「褒めてねーって。説明」
「お節介で学校乗り込んで辞めさせてきた!!」
「何してんのオマエ」
笑って、騒がしい。
「順平!!この人変だけど悪い人じゃねーから!」
「悠仁くん?その説明おかしくない?」
「だって名前姉が変わってるの事実だし」
「アイアム一般人!!」
「一般人は学校乗り込みませんよ」
ふっ、と思わず笑ってしまう。
何だよ……あんなに苦しかった日々をこんな簡単に終わらせるなんて。
久しぶりに声を出して笑った。
「順平も高専に通うの?」
「ん……まだ、しっかり母さんと話してないけど。急だったし」
「高専はアレだよ。あの……呪い祓ってお金貰えてブラックな学校」
「変な説明やめてくんない?」
「悟の説明よりマシじゃない?」
「先生も名前姉も酷ぇよ」
こんな未来があったなら。
こんな道があったなら。
僕は幸せになれたかな?
もしも。
もしも、でしかない。
選んだのは僕だった。
幸せな時間は終わりを告げて
再び真っ暗な世界へ。
「……ははっ、自業自得…だよ」
泣いても、悔いても、羨んでも
終わりを告げた世界にもしもは無い。
でも、それでも……っ
叶うならば、あの人に……。
あの時振り払った手を取って助けてと……。
「……え」
ポワリッと光る何かが目の前に。
見れば……あの人から貰った連絡先。
無意識に手を伸ばし、紙を掴もうとするが紙はヒラヒラと意思を持っているかのように暗闇を進んでいく。
「っ、待って!!」
追いかけて、追いかけて。
真っ暗な世界を走る。
「お願い……っ!!」
貴女を信じてみたい。
何も知らない。
ただの偽善者でもいい。
これは僕の都合のいい妄想でしかない。
それでもっ!!
あの時信じられなかった貴女を
最期にもう一度だけチャンスがあるのならっ
「助けてっ!!」
ひらり。ひらり。
逃げていた連絡先を掴んだ瞬間……世界が光に包まれた。
「あら?順平?」
「……母さん?」
「何であんたもここに?
そもそもここどこだと思う?」
「ここ……?」
真っ白な世界だった。
けど、先程の真っ暗な世界よりはずっと居心地がいい。
"ん?何だオマエら"
ふと、どこから現れたのかわからない子供が一人。
全身が真っ白な子供。
その子供の周りを先程の連絡先がヒラヒラ舞っている。
「それ……」
"これ?オマエの物か?"
「貰った物です。けど、使わなかった…」
"ふーん。これ、アイツのだろ?"
ニヤリと笑う子供。
連絡先を手に取り懐かしそうな顔をして見ている。
"アイツ、でかくなったか?"
「え?」
"お人好しで変な奴"
「多分……その人、かと」
クスクスと笑って楽しそうな子供。
"アイツの知り合いなら仕方ねぇな。ついてこいよ"
「え?」
"迷子の道案内くらいしてやる"
「ねぇ、ここどこなの?私と順平どうなってるの?」
"狭間だよ。ここはあの世とこの世の狭間。
魂が長い時間居座れば自分を見失って消えちまう。
自分を無くし消えたら最期。もう2度と輪廻には戻れねぇ"
白い子供は淡々と話す。
母さんと二人、白い子供に置いていかれないよう必死についていく。
"たまーに居るんだよ。
後悔や苦悩や心残りでどこにも行けず迷子になっちまう奴。
地獄みてーな苦しみを何度も繰り返したり、心残りさえ忘れて脱け殻となって消えちまう奴。
オレはたまに来てそんな奴らの道標となってるが救いを求められなければ救いようもねぇ"
「何で、僕らは…」
"アイツのおかげだろ?"
「あの人の?」
"アイツの事だからオマエの事心配だったのかもな。
オマエもアイツに助けを求めたんだろ?
だからオレが来たんだ"
「何かよくわからないけど息子が誰かに救われたって事?」
"さぁな。救われたかどうかまでは知らねぇが
ここで輪廻も待てず朽ちて消えず
来世へ繋げる事が出来たって事実のみだ"
ケラケラ笑って真っ白な世界を進む。
何も無い空間に突然扉が現れた。
"ほら、ここを開けて行けよ。
次は幸せにな"
「よくわからないけどありがとうね、坊や」
"坊やじゃねぇ!!"
「順平、行きましょ」
母さんがドアに手を掛けて此方に手を伸ばす。
ドアの向こうは花畑や川だけじゃなく町のようなものも見える。
「キミは?」
"オレはまだ行けねぇ。神様だからな"
「神様?」
"此処に居てもオレは平気なんだよ。
ほら、アイツが用意した道を無駄にすんな"
「あの……」
"今度は迷子になるなよ"
ポンッ、と背中を押される。
扉は勝手に閉まっていく。
"オマエの来世に幸福を"
笑って手をふる白い子供。
扉が閉まると扉事態が消えてしまった。
「さあ、順平。
母さんと一緒に行こう」
「………うん!」
あとがき
幸せになってくれよ順平!!!!!
ってことで、これは救済になれたのかな?
いつだったか自殺した魂はその場から動けず死後何度もその苦しみを繰り返すと聞いたことがあります。
天国にも地獄にも行けず、永遠と同じ痛みを繰り返し続ける。楽になりたかったはずなのに、何度も何度も救われないと。
それが生きることを諦めた罰なのかもしれませんが。
もしもそうだとしたら悲しいですよね。
神様シロたんが順平を救ってくれたらいいなと。
シロたんのプチご加護により来世の順平とママンは幸せになります。
まじで幸せになってくれ……順平っ!!
思い上がった奴らを全て壊す力が。
抜け出したかった。
今の理不尽な生活から。
力があれば変われると思った。
「今が苦しくて、しんどくても
周り全てが敵じゃない」
うるさい。
お前に何がわかる。
「必ずあんたを見て向き合ってくれる人はいる」
うるさい!
うるさいうるさいうるさい!
「だから腐るな」
うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!
それでお前は何をしてくれた?
お前だって口先ばかりだろう?
誰も助けてくれなかった。
友人だと思っていた人々も逃げていった。
見て見ぬふりして影で笑って楽しんでいた奴らばかりだったのに、お前に何が出来るって言うんだ!!!!
人に心なんてない。
心があるなら理不尽な虐めも暴力も見て見ぬフリなんてしないはずだ。
母さんだって死ななくて良かった。
僕らは誰かに呪われるほど悪いことをしていた?
僕らが生きていることで誰かに迷惑をかけていた?
僕らの存在は常に呪われるべき生だった?
何が正しくて
何が間違っているなかんてどうだっていい。
僕も母さんも呪われるべき人間だったというのなら
僕らだって他人を呪って奪っても止める権利など誰にもないだろ?
「順平はさ、まぁ頭いいんだろうね。
でも熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ。
君ってその典型!!
順平って君が馬鹿にしている人間のその次位には馬鹿だから
だから、死ぬんだよ」
身体が変形していく痛み。
目の前の悠仁を敵だと襲う身体。
身体のいうことがきかない。
視界が低い。
全身が痛い。
頭が痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
どこが痛いのか、何が起こっているのかわからない。
だけど……自分の命の終わりはわかった。
悠仁の泣きそうな顔が見える。
必死に僕を助けようと叫んでいる。
けどね、悠仁。
もう身体が痛いんだ。
もう意識が朧気なんだ。
もう耳が遠いんだ。
もう、視界が…………。
痛いなぁ。
けど、痛くなくなったな。
真っ暗な暗闇にポツンと立たされていた。
上も下も右も左もわからない。
「……ははっ、地獄って案外何も無いんだ」
この暗闇の中、僕の気が狂うまで居続けるのが僕への罰なのだろうか?
天国と地獄なんて在り来たりな場所にすら行けず、人を呪い、悠仁を信じきれなかった罪を此処で気が狂うまで……。
あぁ、そういえば。
真人さんが面白い人を紹介すると引き合わせてくれた変な女の人。
馴れ馴れしくしながらも、無理矢理連絡先を手渡してきて無茶苦茶言ってた人。
「連絡待ってる」
……今になって彼女の言葉を思い出す。
僕がもっと彼女の言葉を聞いていたなら、僕がもっと広く視野を持っていたなら、僕がもっと悠仁を信じられたなら……彼女は僕を変えてくれたのだろうか?
もしもあの時
僕が彼女に連絡していたらどうなったかな?
僕が虐められている事を先生にも見て見ぬフリされていた事を伝えていたらどうなったかな?
「やっほ!!来ちゃった!」
「いや、何やってんですか貴女」
「よーっし、じゃあ行こうぜ!!」
「は?何処に……ちょっ、やめっ」
僕を引きずって学校に行く彼女。
堂々と職員室の扉を勢いよく開く。
「頼もう!!!!!」
「……誰ですか、貴女!?」
「順平くんの担任出しな」
「部外者は出てってもらえますか?」
「部外者ですがこの子から事情を知った身としては黙ってられなかったので。
この子だって親に知られたくない子心があり、部外者の私を頼ってくれたわけですし。
なら、部外者なりにちょーーっと納得いく説明して貰えるなら黙りますよ」
ーーー子供の額に煙草押し付けて、虐め黙認してる理由をきっちり説明してくれるならな。
彼女の言葉にシンッとした職員室。
彼女は綺麗な笑顔を張り付けて笑う。
「お話……しましょうか?」
通された校長室。
ザワザワと落ち着かない校長に教頭。
「我が校では虐めなど…」
「あー、そういうのいいんで。
こっちが嘘ついてるとか被害妄想とかいうのも無しで」
「ですが、証拠などっ」
「証拠?証言?
それを探し出すのが貴殿方教師の役割では?」
「一方的に虐めと断言するには」
「じゃあ今すぐ全校生徒に虐めに関する調査実施しましょう?はい、これ。虐めのアンケート作成してきましたよー!!あ、コピー機お借りできるなら今すぐ出来ますね!コピー代お出ししましょうか?」
「それは……教育委員会などと」
「貴殿方は学校の看板ばかり気にしてたった一人であろうと生徒の声すら聞かないんですね」
呆れたようにため息をつく彼女。
「子供が道に迷っている時。子供が助けを求めた時に手を差しのべるのが大人でしょう」
「それは……」
「子供同士の遊びの延長だとでも言いますか?」
「事実を確認し次第ご返答致しますので」
「じゃあ、子供同士が何をしていても貴殿方は見て見ぬフリをするんですね?」
「そんな事は言って……」
気まずそうに顔を背ける。
あぁ、本当に大人って……。
心に黒い影がさす。
「順平くんや」
「は、はいっ?」
「キミにとってこの学校もここの生徒も大事かな?」
そう聞かれると……大事ではない。
見て見ぬフリをする生徒も先生も。
笑って見下す馬鹿達も。
「……いらない」
「OK。それじゃこうしよう。
順平くん、この学校退学しよ」
「えっ?」
「行く気になれない学校ならお金払うだけ無駄だって。
そのお金あれば焼き肉行けるし」
「だけどっ」
「高校卒業資格なんて夜間でも行けば取れるし。わりと人生どうとでもなるよ」
「そんな勝手な事ばかり…」
「お金を気にするなら高専も一つの道だよ。
オススメはしたくないけど」
「高専?」
何かの専門学校なのだろうか?
苦笑しながら少し影を落とす彼女。
「この学校より順平くんの事わかってくれる人達ばかりだよ」
「僕を?」
僕をわかってくれる?
そんな人間母さん以外に誰もいなかった。
だから、僕は今も……っ
「順平くん。
わかろうとしてくれる人と、わかったふりする人を一緒にしちゃいけないよ。
人を疑う事はいい事だと思う。
けどね、人を信じる事も大事」
「選んだ人が裏切る場合だってあるだろ」
「そうね。けど、それも含めて選んだのはキミだ」
その言葉にズキンッと心が痛む。
そうだ。
僕は選んだ。
自分で選んで、あの人の手を取った。
「裏切られても信じたいと思える相手があんな奴しかいなかった……。
ごめんね、もっとキミに寄り添うべきだった」
先程までの学校の景色が、先生方が泥人形のように崩れて消えていく。
体育館で倒れる生徒達。
駆け付けた悠仁。
寄り添おうとしてくれた。
話そうとしてくれた。
話を聞いてくれた。
引き離そうとしてくれた。
けど
信じたのはあの人。
一気に身体に走る痛み。
あぁ、またあの痛みだ。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も
痛い。
痛くて、苦しくて、殺してくれと思うのに……あの痛みを何度も繰り返す。
これは彼女を信じれなかった痛み?
悠仁を信じられなかった痛み?
誰かを頼れなかった痛み?
誰を頼れば良かった?
学校ではあいつらに痛め付けられ
教師は取り合ってくれず
生徒も遠巻きに見ているだけ。
母さんに心配かけたくなくて言えなかった。
母さんは気付いていただろうけど何も言わず好きにさせてくれた。
何が、悪かったの……?
「何も悪くないさ」
またあの痛み……と心が絶望していた時
痛みもなく、身体が包まれた。
「何度も自分を責めなくていい。
順平くんが罰を受ける必要なんてない」
「……どう、して」
「キミの心が罰を望む限り何度も繰り返すよ」
僕が悪かった?
僕が悪いと思っていると?
「キミは頑張った。
虐めにも負けず立ち向かった。
そこから逃げたのはキミが自分を守るためだった。キミがいなくなって一番悲しむのはお母さんだ。
なぁに、学校に行かなくても人は死にはしない。
好きに生きて、やりたいこと見付けて笑っていられるならお母さんもそれで良かったんだよ」「けど、最後に選ぶ人を間違えたっ」
「最後?
まだ、間に合うよ」
何を、言って……
真っ暗な世界に光がさした。
光に目を閉じ、ゆっくりと開けるとそこは……先程校長達と話している場面。
「この学校より順平くんの事わかってくれる人達ばかりだよ」
さっきの……。
「……貴方は、僕をわかろうとしてくれるんですか?」
「当たり前じゃん。
だから私は此処に来たんだ」
ニヤリ、と笑う彼女。
あぁ、本当に………。
変な人だ。
「……お願い、します」
信じれば良かった。
無性に助けてくれる偽善者などいないと思っていた。
手を伸ばせば良かった。
「助けて……っ、助けて、ください…っ!!」
年甲斐も無く叫べば良かった。
「痛いのも……っ、暗いのも……っ
何度も繰り返す結果もっ!!!
この世界から……助けてっ!!!」
「任せなさい!!」
彼女は笑って僕の手を取った。
騒然とする校長と教頭と先生方。
「社会的に死ぬのとこの学校内で処理するのとどちらがいいかな?」
「なっ!?」
「此方は被害届出して裁判持ち込んでもいいよ」
「……一度しっかりと話し合わせて下さい」
「しっかりとした大人の見本として頼みたいですね。
さーて!順平くん行こうか」
「えっ?」
僕の手を引いて歩き出す。
どこかへ連絡する彼女。
「もしもーし?悟?
あのさぁ、ちょっとプリチーな彼女のお願い聞いてくれない?
可愛らしい子捕まえちゃったから。
……は?浮気じゃないし。
善人な大人の活動だし。
ちょっと気難しさもあるからセラピー悠仁くん派遣してくれない?
野薔薇ちゃんやめぐみんはほら、あの……刺激がね?
セラピー悠仁くん含めて面談しよ」
もしも。
こんな未来があったなら。
僕は今も母さんと笑いあえたかな?
「順平じゃん!?
何で?何で名前姉と?」
「チーッス!!悠仁くん知り合いだったの?」
「うん!こないだ友達なった!!」
「まじか。コミュ力ヤバみ」
「名前姉こそ順平拉致してくるって相当のコミュ力じゃん」
「まぁね」
「褒めてねーって。説明」
「お節介で学校乗り込んで辞めさせてきた!!」
「何してんのオマエ」
笑って、騒がしい。
「順平!!この人変だけど悪い人じゃねーから!」
「悠仁くん?その説明おかしくない?」
「だって名前姉が変わってるの事実だし」
「アイアム一般人!!」
「一般人は学校乗り込みませんよ」
ふっ、と思わず笑ってしまう。
何だよ……あんなに苦しかった日々をこんな簡単に終わらせるなんて。
久しぶりに声を出して笑った。
「順平も高専に通うの?」
「ん……まだ、しっかり母さんと話してないけど。急だったし」
「高専はアレだよ。あの……呪い祓ってお金貰えてブラックな学校」
「変な説明やめてくんない?」
「悟の説明よりマシじゃない?」
「先生も名前姉も酷ぇよ」
こんな未来があったなら。
こんな道があったなら。
僕は幸せになれたかな?
もしも。
もしも、でしかない。
選んだのは僕だった。
幸せな時間は終わりを告げて
再び真っ暗な世界へ。
「……ははっ、自業自得…だよ」
泣いても、悔いても、羨んでも
終わりを告げた世界にもしもは無い。
でも、それでも……っ
叶うならば、あの人に……。
あの時振り払った手を取って助けてと……。
「……え」
ポワリッと光る何かが目の前に。
見れば……あの人から貰った連絡先。
無意識に手を伸ばし、紙を掴もうとするが紙はヒラヒラと意思を持っているかのように暗闇を進んでいく。
「っ、待って!!」
追いかけて、追いかけて。
真っ暗な世界を走る。
「お願い……っ!!」
貴女を信じてみたい。
何も知らない。
ただの偽善者でもいい。
これは僕の都合のいい妄想でしかない。
それでもっ!!
あの時信じられなかった貴女を
最期にもう一度だけチャンスがあるのならっ
「助けてっ!!」
ひらり。ひらり。
逃げていた連絡先を掴んだ瞬間……世界が光に包まれた。
「あら?順平?」
「……母さん?」
「何であんたもここに?
そもそもここどこだと思う?」
「ここ……?」
真っ白な世界だった。
けど、先程の真っ暗な世界よりはずっと居心地がいい。
"ん?何だオマエら"
ふと、どこから現れたのかわからない子供が一人。
全身が真っ白な子供。
その子供の周りを先程の連絡先がヒラヒラ舞っている。
「それ……」
"これ?オマエの物か?"
「貰った物です。けど、使わなかった…」
"ふーん。これ、アイツのだろ?"
ニヤリと笑う子供。
連絡先を手に取り懐かしそうな顔をして見ている。
"アイツ、でかくなったか?"
「え?」
"お人好しで変な奴"
「多分……その人、かと」
クスクスと笑って楽しそうな子供。
"アイツの知り合いなら仕方ねぇな。ついてこいよ"
「え?」
"迷子の道案内くらいしてやる"
「ねぇ、ここどこなの?私と順平どうなってるの?」
"狭間だよ。ここはあの世とこの世の狭間。
魂が長い時間居座れば自分を見失って消えちまう。
自分を無くし消えたら最期。もう2度と輪廻には戻れねぇ"
白い子供は淡々と話す。
母さんと二人、白い子供に置いていかれないよう必死についていく。
"たまーに居るんだよ。
後悔や苦悩や心残りでどこにも行けず迷子になっちまう奴。
地獄みてーな苦しみを何度も繰り返したり、心残りさえ忘れて脱け殻となって消えちまう奴。
オレはたまに来てそんな奴らの道標となってるが救いを求められなければ救いようもねぇ"
「何で、僕らは…」
"アイツのおかげだろ?"
「あの人の?」
"アイツの事だからオマエの事心配だったのかもな。
オマエもアイツに助けを求めたんだろ?
だからオレが来たんだ"
「何かよくわからないけど息子が誰かに救われたって事?」
"さぁな。救われたかどうかまでは知らねぇが
ここで輪廻も待てず朽ちて消えず
来世へ繋げる事が出来たって事実のみだ"
ケラケラ笑って真っ白な世界を進む。
何も無い空間に突然扉が現れた。
"ほら、ここを開けて行けよ。
次は幸せにな"
「よくわからないけどありがとうね、坊や」
"坊やじゃねぇ!!"
「順平、行きましょ」
母さんがドアに手を掛けて此方に手を伸ばす。
ドアの向こうは花畑や川だけじゃなく町のようなものも見える。
「キミは?」
"オレはまだ行けねぇ。神様だからな"
「神様?」
"此処に居てもオレは平気なんだよ。
ほら、アイツが用意した道を無駄にすんな"
「あの……」
"今度は迷子になるなよ"
ポンッ、と背中を押される。
扉は勝手に閉まっていく。
"オマエの来世に幸福を"
笑って手をふる白い子供。
扉が閉まると扉事態が消えてしまった。
「さあ、順平。
母さんと一緒に行こう」
「………うん!」
あとがき
幸せになってくれよ順平!!!!!
ってことで、これは救済になれたのかな?
いつだったか自殺した魂はその場から動けず死後何度もその苦しみを繰り返すと聞いたことがあります。
天国にも地獄にも行けず、永遠と同じ痛みを繰り返し続ける。楽になりたかったはずなのに、何度も何度も救われないと。
それが生きることを諦めた罰なのかもしれませんが。
もしもそうだとしたら悲しいですよね。
神様シロたんが順平を救ってくれたらいいなと。
シロたんのプチご加護により来世の順平とママンは幸せになります。
まじで幸せになってくれ……順平っ!!