通行人 番外編
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貴女は知らないと思う。
私と貴女は彼と出会うよりもっと前に知ってた事を。
彼女を知ったのはたまたま。
学校帰りに香ばしい匂いに誘われ目を向けた先に彼女はいた。
友人……なのか、彼氏なのか。
距離感の近さから彼氏なのかもしれないが、一つのパンを二人で分けあっていた。
色んな一般人を見てきたが、世界が違うと思っていた。
見えている自分と、見えていない人。
その境界線は大きくて、見えていない幸せを何度願ったことか。
彼女もまた、見えていない世界の人間で自分と関わり合うことなど無いのだと思っていた。
なのに
パンを分け合い楽しそうに笑う彼女。
その後ろについて回る不要なモノ。
笑顔の彼女の後ろから羨ましそうに覗き込むモノ。
不自然にならないよう見ていれば、ふとおかしなことに気付く。
見えていないはずの彼女はソレが男の方に行こうとすると不自然にならない程度にソレの前に行く。
決して男の方に行かないように。
チョロチョロ動き回る彼女の姿に、男はただ「落ち着きなよ」と声を掛ける。
彼女は「美味しいものを食べたらテンション上がるよね!!」とチョロチョロしていた。
やがて公園に入り、ベンチに座ってパンを食べながら雑談する二人。
付きまとうソレにどうしようか、と思っていたのだが……先ほどよりも酷いものが2人の目の前に。
季節外れのトレンチコート。
なぜか二人の目の前……いや、実際には呪霊を挟んで立つ怪しい男。
不審に思ったのか、男の方が彼女の手を引いて移動しようと立ち上がる。
「ハァハァ……見、見て……オジサンを見て…」
バサッ、と広げられたコートの中は裸。
あれ?ヤバくないか?
通報しなきゃ……いや、けど呪霊……と思っていたのだが。
「え?なに?見えないけど?」
「止めなって」
「いや、ごめん。マジレスすると本当目に入らないんだわ」
「お腹出てるもんね」
「大層ご立派なものお持ちだから自慢したかったのかもしれないけど……本当……うん」
何を言ってるんだこの人、と思った。
「オジサン、残念ながら見えないわ」
オジサンは逃げた。
両手で顔を覆って逃げた。
ちなみに彼女は真顔で電話を始めた。
「今○✕公園で裸にトレンチコートを着たオジサンが○○方面に走って逃げていきました」
特徴を詳しく話していたのだが……。
ふと、その彼女がパンを呪霊にブン投げて……いや、アレ殴った気がする。殴って隣の男へ携帯を手渡し、凄い勢いで走って行った。
呪霊はパンで殴られ怯んでいた。
急いで電話をしながら追いかける男。
自分も呪霊を祓い、彼らを追いかけてみる。
少し走ると凄い勢いのままトレンチコートに追い付いた彼女は………
「未成年にセクハラ禁止ぃぃいいいいっ!!!」
「ぎゃっ!!」
変態に飛び蹴り食らわせていた。
転んだ変態の真上に乗り、どこに持っていたのか手足をガムテープで素早く巻いていく。
ガムテープ片手に変態を踏みつける姿に、回りにいた親子連れから拍手が。
警察が駆け付け変態はその場で逮捕。
……なんだか凄いものを見た気がした。
「いきなり走り出したから何事かと思った」
「この時間なら確か親子連れで散歩したりしてる人多かったと思って。
未来ある子供達に粗末なもの見せちゃ駄目でしょ」
「俺はバッチリ見せられたんだけど」
「私キモい化物しか視界に入ってなかったから、勝ち組……とも言えないこの気持ちどうしよう?」
「俺の方がどうしようだよ」
あぁ、彼女は見えていたのか。
だから男の方へ行かないように……。
「せっかくの部活休みだったのに」
「さっきのパン屋で買ったアップルパイ多めに食べていいから。あといつもの店でアップルパイ買ってあげるから元気出してよ」
「5個」
不思議で印象の強い彼女。
その後、何度か見かけた彼女はいつも楽しそうにしていた。
子供が好きで、子供に混じって遊ぶ姿。
呪霊がいればさりげなく友人を避難させる姿。
一人でも周りに危険が行かないようにする姿。
周りに気遣えて楽しそうに笑う姿が印象に残っており……淡い恋心が育っていた事に気付かないまま。
高専に入学して驚いた。
なぜか談話室に落ちていた彼女のプリクラ。
こちら……いや、カメラに向かって家入さんと二人で写る姿。
いつもより少し笑っている家入さんに、満面の笑顔で写る姿は控え目に言っても美女達のプリクラ。
「わあ!!綺麗な人だね、七海!!」
「………」
「けどこの人見たこと無いよね?制服も違うし……」
家入さんの友達かな?なんて話す灰原。
なぜ、家入さんが彼女と?と思った。
「やあ、七海に灰原」
「夏油さん!!お疲れ様です!」
「ん?それは?」
夏油さんが自分の持つプリクラを見る。
「この人どなたですか?家入さんのお友達ですか?」
「あぁ、彼女か」
「家入さんがこんな笑っているのも珍しいですし」
「硝子だけじゃなく私や悟とも知り合いだよ」
「そうなんですか!?」
「悟の奴、硝子からこれ盗んだな……硝子に怒られるのに」
クツクツと笑う夏油さん。
そこへバタバタと走ってくる慌ただしい音。
「傑!!プリクラ知らね!?」
「コレかい?」
「あっったぁぁああああ!!」
「硝子に怒られるよ」
「硝子の代わりに大事にしてんだろ」
「落としていたくせに」
「色んなとこに貼ってたら落ちたんだよ」
回収されるプリクラ。
話によると家入さんのものらしいのに、なぜ五条さんが?
「五条さん、その方とどんなご関係なんですか?」
「何だっていいだろ」
「悟の片思いだよ」
「そうなんですか!?」
「ハッ」
「オイ、七海。今鼻で笑ったろ」
こんな愉快な事が……と思うと同時に、モヤッとした気持ちになる。
「その方……どんな方なんですか」
「……何だよ」
「一般人の方ですよね?先輩達と関わるなんて良くないのでは?」
普通のことっぽく言っているが……少しの嫉妬。
自分の方が先に見知っていたと思っていたのに、先輩達とは仲の良さそうな関係が面白くない。
「別に俺らが誰と関わろうが関係無いだろ」
「彼女は見えている人間だから何度か高専に誘っているんだけど振られてしまっていてね」
「おい、傑」
「学校側からは?」
「夜蛾先生が直々に誘いに行ったが、怪しい組織だと勘違いされてからますます離れてしまってね」
「は?」
「私達は怪しくないと説得してもなかなか頷いてくれなくて」
困った子なんだよ、と笑う夏油さん。
「だから彼女とは友人なんだよ、七海」
「そうですか」
自分の嫉妬が見抜かれたのではと思うほど丁寧に話してくれた夏油さん。
なぜか五条さんは此方を敵視しながら睨んでくる。
「五条さんはこの人のどこが好きなんですか?」
おい、灰原。
ズバッと言う奴ではあるが、そこをズバッと聞くのか、と見てしまう。
夏油さんは笑っていた。
「どこって……色々だよ、色々」
「美人ですもんね!」
「「ブッ!!」」
「夏油さん?五条さん?」
「び、美人……っ!!そ、そう……ふぐっ、そうだ、ね……ふふっ」
「笑いすぎ……だろ……っ」
「悟、もね……っ。
あの子の素顔を知ってる身としては……美人にカウントしてしまうと美人の定義が揺らいでしまいそうで」
「それな」
「黙っていれば……うん、美人だよ…ふっ」
声に出して笑う夏油さんなんて珍しいのでは?と思って見てしまう。
クスクスと笑う二人。
自分の知らない彼女の一面を知っていると言わんばかりの二人になぜだかイラつく。
「普段はこんなんだけどな」
「ブハッッッ!!!」
「なにを……!?!?」
吹き出した灰原は崩れ落ちた。
自分もソレを見た瞬間何か諸々の感情がすっ飛んだ。
ソレは……言葉に出来ないプリクラだった。
先ほどの家入さんとの美人な姿を見た後だからこそ破壊力が酷い。
「………コレは?」
「つい最近撮った誰が変顔酷いか選手権優勝のやつ」
「酷いよね、コレ」
「何度見ても呪霊よりひっでーわ」
「我々が男として見られていない証拠だね」
「言うな。ヤメロ」
変顔どころか、もはや同一人物なのかも疑いたくなるような一枚。
いや、彼女もこんなお茶目な一面が……
「コレもなかなか酷いよ」
「こっちは……フッ。傑もヤバっっっ!」
「悟、それを渡そうか」
「コレを処分しても多分どっかにも貼っといた」
「オイ、悟」
夏油さんの目がエグいほどデカイ。
ちなみに彼女の目もデカイがそれより顔が崩れて変顔……顔面崩壊。
「悟だって酷いだろ」
「うわっ!!あいつ落書きしやがって!!」
「こっちの耳は……あざといね」
「アイツ変顔多過ぎんだろ」
まともなやつ硝子とのやつじゃねーと無いんだよ、と文句を言う五条さん。
いや、もう彼女の変顔お腹いっぱいなんで止めてほしい。
自分の中の彼女がどんどん崩れていく。
「この人何者なんですか?」
「変人かな?」
「変人だな」
ヤメロ。
灰原、これ以上傷を抉るな。
綺麗な思い出として……いや、無かったことにしたいからこれ以上の情報はちょっと…。
「変人ってどう言うことですか?夏油さん」
「んー……例えば
某ファーストフード店でアップルパイ30個買ったり
硝子に因縁つけてきた女子に対して罵倒しつつ、硝子がいかに美人か語りまくったり
街中で突然パラパラ踊って蝿頭追っ払ったり
小学生に手を出そうとした変質者にボディーブロー入れるようなヤバい子かな?」
「路上で友人とジブリ即興ネタしたり
カツアゲしてる不良の話を聞いたり
某ファーストフード店で人生相談されたり
変な男に好かれて振られたり
やることなすことヤベェ女」
「………え?そんな人間います?」
「「いる」」
忘れかけていたが、初めて出会った時も変質者に飛び蹴り食らわせていたな……。
あれ?自分は彼女を美化し過ぎていた……?
パリン、と何かが壊れた気がした。
「一緒にいて面白い子だよ」
「馬鹿過ぎて腹痛くなる」
先輩達は楽しそうに笑っていた。
その姿に、自分では手が届かないのだと納得してしまった。
「七海、彼女が気になるのかい?」
「いえ」
夏油さんの視線が何かを探るようなものだったが、自分は何も知らないフリをした。
談話室だけじゃなく、いたるところに貼られたプリクラ。
夏油さんと五条さんの三人で写るものが多かったが、どれも言葉に出来ない変顔ばかり。
この人本当何やってんだ、と笑えるようになっていった。
自分の淡い恋心は自分が認めた瞬間粉々に砕け散ってしまった。
あれから五条さんの彼女への執着は少し鼻で笑えるものが多かった。
どんなにアピールしてもヒラリと交わされ、しまいにはゴミを見るような目をされたと聞いた時は拍手してしまい、睨まれた。
関わりは無いのに常に話題の中心の彼女は、薄暗く血生臭い自分達の世界とは違っていると思い知らされると同時に……普通に笑える機会を与えてくれていた。
笑うことを忘れない。
化け物のような先輩方ですら人で居させてくれる、身近な存在として認められる気がした。
なのに
星奬体の任務後から五条さんは変わった。
雰囲気も強さも。
そして彼女との関わりも。
「五条さん」
「……七海じゃん。おつー」
特級として一人任務をする五条さんは変わってしまった。
彼女との関わりを止めてその日限りの女性と遊ぶ。
「匂い酷いですよ」
「まじ?」
「………彼女はもういいんですか?」
「彼女?」
「プリクラの」
「………アイツはこっちの世界には来ねーよ」
視線が合わない。
明らかに本心じゃないくせに。
「諦めたんですか?」
「なぁに?七海ィ。アイツに惚れた?」
「五条さんでも落とせない人いたんですね」
「落とさなかったんだっつーの。
つかまじでアイツのことになると七海食いつくよな」
「面白い話題の人でしたから」
「……もう2度と話題に上がんねーよ」
五条さんはそう吐き捨てて行ってしまった。
色々なことがあったが、呪術師がクソで辞めたのに結局自分に合う仕事として呪術師に戻って来た。
風の噂で彼に大切な人が出来たと聞いた。
高専を出入りしているらしいが実際に出会ったことは無かった。
「なーなみぃ!!聞いて聞いて聞いて」
「嫌です」
「ほら見て。今朝撮ったんだけど控え目に言っても可愛くない?」
「犬猫でも飼ったんですか?」
「まっったく躾のなってないペットだよ」
興味が無くて見ていなかったのに、ぐいぐいと携帯の画面を押し付けてくる五条さん。
イラッとしたので叩き割ってやろうかと見た画面には……彼女がいた。
あの頃よりずっと綺麗になっていた彼女。
ぐっすりとシーツに埋もれて幸せそうによだれを滴しながら眠っている姿。
「………よだれ」
「可愛いでしょ?」
ふわりと優しく笑う五条さん。
大人となって学生の頃のトゲトゲしさが身を潜めるようになったとはいえ、こんなにも優しく笑う姿に驚いた。
同時に、彼女はこの男に囚われたのだと理解した。
今ならハッキリとわかる。
ーーー初恋だった。
そう気付くには自分を誤魔化し気付かないようにしていた。
話したことも無い、変わった人だった。
笑顔が暖かくていつも楽しそうだった。
例え言葉に出来ないほど顔面崩壊した変顔のプリクラを見て自分の想像の中の彼女が崩壊してしまい、恋心も崩壊してしまったとしても。
五条さんがあまりに優しく笑うものだから、悔しさなんて沸き上がらなかった。
この人も人だったのか、と思ってしまい……同時に、この人をこんな風に人で居させるのは昔から彼女しか出来ないのかもしれないと思ってしまった。
「……綺麗になりましたね」
「だろ?」
お祝いの言葉なぞ言いたくない。
これは少しの嫉妬。
「七海さぁ」
「何ですか」
「………まぁいーや。あ、これも見る?半目」
「うわ…」
変顔の才能ありすぎて引きますね。
いや、本人寝てるから無自覚か……どちらにしろ
「半目に白目でよだれの写真バレたら怒られるのでは?」
「大丈夫。本人に送った」
それ、大丈夫なんですかね?
なんて会話があってからまさか彼女と出会う機会があるとは思ってもいなかった。
「大丈夫ですか?」
たまたま助けた女性が彼女で
「今すぐ片付けますので」
これが、初めての会話。
成り行きで共に食事をすることになったのだが、話せば話すほど彼女は自分の考えていたような人ではなかった。
一般人……としての期間はあるが、仕事ばかりの毎日で一般人らしい事はしていない。
彼女も一般人にしては……少し、いや結構ズレているせいなのか会話がポンポンと弾む。
主に五条さんの事だが。
けど、五条さんの事を話すほど彼女は楽しそうに笑う。
私が見惚れたあの頃と同じような笑顔で。
いや、もしかしたらあの頃よりもっと綺麗に。
人は恋をすれば綺麗になる。
そう、聞いたことはあったが……こういうことか、と納得してしまった。
お互いに連絡先を交換して家まで送った。
食事中に呪詛の大量ラインを送りつけてきていたご本人はどうやら家に帰宅済らしい。
彼女は気付いていないが、送り届ける事をラインしておいたから待っていたのだろう。
じっと窓越しだが殺気混じりに此方を見下ろしていた五条さんが見えた。
きっと伊地知さんを困らせて帰宅したのだろう。あの人はそういう人だ。
「今日はありがとう。
二人とも気をつけてね」
「名前さんこそお気をつけてください」
「そーそー!!また呪霊に襲われたら大変なんですから!!」
「はーい!気をつけるよ」
「五条さんによろしくお伝えください」
「また今度飯行きましょ!!」
「あぁ、名前さん」
「なーに?七海くん」
「もしも五条さんに絡まれた時は………
一目惚れした瞬間、変顔してるプリクラ見て引いたって言っておいて下さい」
「一目惚れ云々ってさっきのか。悟そこまで気にするかな?」
「あの人わりと心狭いですよ。
あんな虚しい体験、後にも先にもあれっきりなんですから」
「待って。私どんだけヤバい顔のやつ?」
「だから安心してください。 初恋の事実は無かったことにしています」
言った言葉に彼女は家の前で盛大に吹き出し笑った。
私はにっ、と微笑み口元に指を一本。
「七海くん、それ私本人に言うとかウケる」
「五条さんによろしくお伝え下さい」
「わかったよー!!
今日は本当にありがとう!!またね!」
元気に手を振る彼女を見送る。
「七海さんの初恋ってマジで名前さんなんですか?」
「嘘を言いませんよ」
「まじっすか」
初恋が一瞬で砕け散るプリクラって……と、猪野くんがどこか遠くを見始めた。
まぁ、あのプリクラの破壊力は私たちだけが知るものだ。
「もう少し早く出会っていたら、また恋をしていたかもしれません」
「略奪っすか!?」
「嫌ですよ。五条さんに殺されます」
「またまたー」
「五条さんを敵に回すと厄介なので」
「え?まじなんすか?」
「なーなみぃ」
ガシッと肩に腕を回され鬱陶しい。
さっさと肩にから腕を外すがへの字口でこちらを見ている五条さん。
「顔面が鬱陶しいです」
「おいおいおーい。イケメンの僕に向かってそれはないだろなーなみぃ!」
「鬱陶しいです」
「オマエさぁ、学生の頃の名前に惚れてたけど、今の名前にも惚れたろ」
ズバッと言い当てられた恋心。
しかし、疚しいことなど無いので
「そうですね」
「僕に喧嘩売ってる?」
「まさか」
「じゃあ何でアイツと仲良くしてんだよ」
頻繁に美味しいパン屋や食事処の情報共有や、五条さんの愚痴やらをラインしているのでどうやら敵視されてしまったらしい。
「私と彼女はただの友人です。仲良くするのは普通かと」
「ふーーーん」
「確かにあの頃よりも綺麗になっていて見惚れましたし、素敵な人だと思っています」
「へーーー」
「余裕無いですね」
「そりゃー無いよ。アイツ無自覚に色んな奴らタラシこむ天才だもん」
「学生と随分仲良しですからね」
「僕のだよ」
「取りませんのでご安心を。
私は貴方と彼女が楽しそうにしている姿を見ている方がいいので」
彼女を綺麗にしたのは五条さんだ。
「なので私の息抜きを取らないで下さい」
「僕のだってば」
「主に私のストレスの原因貴方ですよ」
「えー?そんなことある?」
「まぁ、貴方が彼女をいらない……ということはないだろうと思いますが…
手放すなら喜んで奪いますよ」
「絶対手放さないし」
「そうであることを願います」
ーーー彼女から笑顔を奪わないで下さいね。
「私は彼女の笑っている顔を好ましく思っていますから」
私達を笑顔にさせてくれる。
馬鹿で
抜けてて
ドジで
ポンコツな人。
「五条さんよりも早く出会いたかったとは思っていますが、今は友人で良いと思っています」
「今は?
ねぇ、七海。それ僕に宣戦布告?殺る?」
「殺りません。しつこい人ですね」
「絶対あげない。アレは僕のだよ」
「まったく……ものじゃないんですから」
願わくば
彼女が幸せであるように。
願わくば
彼女が笑って居てくれますように。
その先に居るのが私じゃなくても
周りを笑顔に出来る彼女が
どうか少しでも長く生きて居てくれますように。
あとがき
こんなん書いたら、もしもで七海と先に出会ったらを書きたくなるじゃん。
余裕があったら今度書いてみよう。
七海は灰原といい、悠仁といい、猪野っちといい……陽キャに好かれてるな。
だからこそ通行人とも合いそうと思っていたのに辛い。七海……。
五条さんは普段は自分のに手出しされても絶対自分のが好かれているからと余裕そう。
ちなみにちょっかいかけられたの知ったら嫉妬で倍返しはする。
所有欲強めなので、学生からあれ?もしかしてこいつ……と勘づいていたからこそ予想外に仲良しな二人に焦りそう(笑)
まぁ、まっっったく何も無いんだけどwww
だって初恋クラッシャーされてるからwww
五条さんの珍しい余裕の無さに、楽しむ七海。
遊ばれてるよ、五条さん!!(笑)
七海を幸せにしたい。うっ………。
私と貴女は彼と出会うよりもっと前に知ってた事を。
彼女を知ったのはたまたま。
学校帰りに香ばしい匂いに誘われ目を向けた先に彼女はいた。
友人……なのか、彼氏なのか。
距離感の近さから彼氏なのかもしれないが、一つのパンを二人で分けあっていた。
色んな一般人を見てきたが、世界が違うと思っていた。
見えている自分と、見えていない人。
その境界線は大きくて、見えていない幸せを何度願ったことか。
彼女もまた、見えていない世界の人間で自分と関わり合うことなど無いのだと思っていた。
なのに
パンを分け合い楽しそうに笑う彼女。
その後ろについて回る不要なモノ。
笑顔の彼女の後ろから羨ましそうに覗き込むモノ。
不自然にならないよう見ていれば、ふとおかしなことに気付く。
見えていないはずの彼女はソレが男の方に行こうとすると不自然にならない程度にソレの前に行く。
決して男の方に行かないように。
チョロチョロ動き回る彼女の姿に、男はただ「落ち着きなよ」と声を掛ける。
彼女は「美味しいものを食べたらテンション上がるよね!!」とチョロチョロしていた。
やがて公園に入り、ベンチに座ってパンを食べながら雑談する二人。
付きまとうソレにどうしようか、と思っていたのだが……先ほどよりも酷いものが2人の目の前に。
季節外れのトレンチコート。
なぜか二人の目の前……いや、実際には呪霊を挟んで立つ怪しい男。
不審に思ったのか、男の方が彼女の手を引いて移動しようと立ち上がる。
「ハァハァ……見、見て……オジサンを見て…」
バサッ、と広げられたコートの中は裸。
あれ?ヤバくないか?
通報しなきゃ……いや、けど呪霊……と思っていたのだが。
「え?なに?見えないけど?」
「止めなって」
「いや、ごめん。マジレスすると本当目に入らないんだわ」
「お腹出てるもんね」
「大層ご立派なものお持ちだから自慢したかったのかもしれないけど……本当……うん」
何を言ってるんだこの人、と思った。
「オジサン、残念ながら見えないわ」
オジサンは逃げた。
両手で顔を覆って逃げた。
ちなみに彼女は真顔で電話を始めた。
「今○✕公園で裸にトレンチコートを着たオジサンが○○方面に走って逃げていきました」
特徴を詳しく話していたのだが……。
ふと、その彼女がパンを呪霊にブン投げて……いや、アレ殴った気がする。殴って隣の男へ携帯を手渡し、凄い勢いで走って行った。
呪霊はパンで殴られ怯んでいた。
急いで電話をしながら追いかける男。
自分も呪霊を祓い、彼らを追いかけてみる。
少し走ると凄い勢いのままトレンチコートに追い付いた彼女は………
「未成年にセクハラ禁止ぃぃいいいいっ!!!」
「ぎゃっ!!」
変態に飛び蹴り食らわせていた。
転んだ変態の真上に乗り、どこに持っていたのか手足をガムテープで素早く巻いていく。
ガムテープ片手に変態を踏みつける姿に、回りにいた親子連れから拍手が。
警察が駆け付け変態はその場で逮捕。
……なんだか凄いものを見た気がした。
「いきなり走り出したから何事かと思った」
「この時間なら確か親子連れで散歩したりしてる人多かったと思って。
未来ある子供達に粗末なもの見せちゃ駄目でしょ」
「俺はバッチリ見せられたんだけど」
「私キモい化物しか視界に入ってなかったから、勝ち組……とも言えないこの気持ちどうしよう?」
「俺の方がどうしようだよ」
あぁ、彼女は見えていたのか。
だから男の方へ行かないように……。
「せっかくの部活休みだったのに」
「さっきのパン屋で買ったアップルパイ多めに食べていいから。あといつもの店でアップルパイ買ってあげるから元気出してよ」
「5個」
不思議で印象の強い彼女。
その後、何度か見かけた彼女はいつも楽しそうにしていた。
子供が好きで、子供に混じって遊ぶ姿。
呪霊がいればさりげなく友人を避難させる姿。
一人でも周りに危険が行かないようにする姿。
周りに気遣えて楽しそうに笑う姿が印象に残っており……淡い恋心が育っていた事に気付かないまま。
高専に入学して驚いた。
なぜか談話室に落ちていた彼女のプリクラ。
こちら……いや、カメラに向かって家入さんと二人で写る姿。
いつもより少し笑っている家入さんに、満面の笑顔で写る姿は控え目に言っても美女達のプリクラ。
「わあ!!綺麗な人だね、七海!!」
「………」
「けどこの人見たこと無いよね?制服も違うし……」
家入さんの友達かな?なんて話す灰原。
なぜ、家入さんが彼女と?と思った。
「やあ、七海に灰原」
「夏油さん!!お疲れ様です!」
「ん?それは?」
夏油さんが自分の持つプリクラを見る。
「この人どなたですか?家入さんのお友達ですか?」
「あぁ、彼女か」
「家入さんがこんな笑っているのも珍しいですし」
「硝子だけじゃなく私や悟とも知り合いだよ」
「そうなんですか!?」
「悟の奴、硝子からこれ盗んだな……硝子に怒られるのに」
クツクツと笑う夏油さん。
そこへバタバタと走ってくる慌ただしい音。
「傑!!プリクラ知らね!?」
「コレかい?」
「あっったぁぁああああ!!」
「硝子に怒られるよ」
「硝子の代わりに大事にしてんだろ」
「落としていたくせに」
「色んなとこに貼ってたら落ちたんだよ」
回収されるプリクラ。
話によると家入さんのものらしいのに、なぜ五条さんが?
「五条さん、その方とどんなご関係なんですか?」
「何だっていいだろ」
「悟の片思いだよ」
「そうなんですか!?」
「ハッ」
「オイ、七海。今鼻で笑ったろ」
こんな愉快な事が……と思うと同時に、モヤッとした気持ちになる。
「その方……どんな方なんですか」
「……何だよ」
「一般人の方ですよね?先輩達と関わるなんて良くないのでは?」
普通のことっぽく言っているが……少しの嫉妬。
自分の方が先に見知っていたと思っていたのに、先輩達とは仲の良さそうな関係が面白くない。
「別に俺らが誰と関わろうが関係無いだろ」
「彼女は見えている人間だから何度か高専に誘っているんだけど振られてしまっていてね」
「おい、傑」
「学校側からは?」
「夜蛾先生が直々に誘いに行ったが、怪しい組織だと勘違いされてからますます離れてしまってね」
「は?」
「私達は怪しくないと説得してもなかなか頷いてくれなくて」
困った子なんだよ、と笑う夏油さん。
「だから彼女とは友人なんだよ、七海」
「そうですか」
自分の嫉妬が見抜かれたのではと思うほど丁寧に話してくれた夏油さん。
なぜか五条さんは此方を敵視しながら睨んでくる。
「五条さんはこの人のどこが好きなんですか?」
おい、灰原。
ズバッと言う奴ではあるが、そこをズバッと聞くのか、と見てしまう。
夏油さんは笑っていた。
「どこって……色々だよ、色々」
「美人ですもんね!」
「「ブッ!!」」
「夏油さん?五条さん?」
「び、美人……っ!!そ、そう……ふぐっ、そうだ、ね……ふふっ」
「笑いすぎ……だろ……っ」
「悟、もね……っ。
あの子の素顔を知ってる身としては……美人にカウントしてしまうと美人の定義が揺らいでしまいそうで」
「それな」
「黙っていれば……うん、美人だよ…ふっ」
声に出して笑う夏油さんなんて珍しいのでは?と思って見てしまう。
クスクスと笑う二人。
自分の知らない彼女の一面を知っていると言わんばかりの二人になぜだかイラつく。
「普段はこんなんだけどな」
「ブハッッッ!!!」
「なにを……!?!?」
吹き出した灰原は崩れ落ちた。
自分もソレを見た瞬間何か諸々の感情がすっ飛んだ。
ソレは……言葉に出来ないプリクラだった。
先ほどの家入さんとの美人な姿を見た後だからこそ破壊力が酷い。
「………コレは?」
「つい最近撮った誰が変顔酷いか選手権優勝のやつ」
「酷いよね、コレ」
「何度見ても呪霊よりひっでーわ」
「我々が男として見られていない証拠だね」
「言うな。ヤメロ」
変顔どころか、もはや同一人物なのかも疑いたくなるような一枚。
いや、彼女もこんなお茶目な一面が……
「コレもなかなか酷いよ」
「こっちは……フッ。傑もヤバっっっ!」
「悟、それを渡そうか」
「コレを処分しても多分どっかにも貼っといた」
「オイ、悟」
夏油さんの目がエグいほどデカイ。
ちなみに彼女の目もデカイがそれより顔が崩れて変顔……顔面崩壊。
「悟だって酷いだろ」
「うわっ!!あいつ落書きしやがって!!」
「こっちの耳は……あざといね」
「アイツ変顔多過ぎんだろ」
まともなやつ硝子とのやつじゃねーと無いんだよ、と文句を言う五条さん。
いや、もう彼女の変顔お腹いっぱいなんで止めてほしい。
自分の中の彼女がどんどん崩れていく。
「この人何者なんですか?」
「変人かな?」
「変人だな」
ヤメロ。
灰原、これ以上傷を抉るな。
綺麗な思い出として……いや、無かったことにしたいからこれ以上の情報はちょっと…。
「変人ってどう言うことですか?夏油さん」
「んー……例えば
某ファーストフード店でアップルパイ30個買ったり
硝子に因縁つけてきた女子に対して罵倒しつつ、硝子がいかに美人か語りまくったり
街中で突然パラパラ踊って蝿頭追っ払ったり
小学生に手を出そうとした変質者にボディーブロー入れるようなヤバい子かな?」
「路上で友人とジブリ即興ネタしたり
カツアゲしてる不良の話を聞いたり
某ファーストフード店で人生相談されたり
変な男に好かれて振られたり
やることなすことヤベェ女」
「………え?そんな人間います?」
「「いる」」
忘れかけていたが、初めて出会った時も変質者に飛び蹴り食らわせていたな……。
あれ?自分は彼女を美化し過ぎていた……?
パリン、と何かが壊れた気がした。
「一緒にいて面白い子だよ」
「馬鹿過ぎて腹痛くなる」
先輩達は楽しそうに笑っていた。
その姿に、自分では手が届かないのだと納得してしまった。
「七海、彼女が気になるのかい?」
「いえ」
夏油さんの視線が何かを探るようなものだったが、自分は何も知らないフリをした。
談話室だけじゃなく、いたるところに貼られたプリクラ。
夏油さんと五条さんの三人で写るものが多かったが、どれも言葉に出来ない変顔ばかり。
この人本当何やってんだ、と笑えるようになっていった。
自分の淡い恋心は自分が認めた瞬間粉々に砕け散ってしまった。
あれから五条さんの彼女への執着は少し鼻で笑えるものが多かった。
どんなにアピールしてもヒラリと交わされ、しまいにはゴミを見るような目をされたと聞いた時は拍手してしまい、睨まれた。
関わりは無いのに常に話題の中心の彼女は、薄暗く血生臭い自分達の世界とは違っていると思い知らされると同時に……普通に笑える機会を与えてくれていた。
笑うことを忘れない。
化け物のような先輩方ですら人で居させてくれる、身近な存在として認められる気がした。
なのに
星奬体の任務後から五条さんは変わった。
雰囲気も強さも。
そして彼女との関わりも。
「五条さん」
「……七海じゃん。おつー」
特級として一人任務をする五条さんは変わってしまった。
彼女との関わりを止めてその日限りの女性と遊ぶ。
「匂い酷いですよ」
「まじ?」
「………彼女はもういいんですか?」
「彼女?」
「プリクラの」
「………アイツはこっちの世界には来ねーよ」
視線が合わない。
明らかに本心じゃないくせに。
「諦めたんですか?」
「なぁに?七海ィ。アイツに惚れた?」
「五条さんでも落とせない人いたんですね」
「落とさなかったんだっつーの。
つかまじでアイツのことになると七海食いつくよな」
「面白い話題の人でしたから」
「……もう2度と話題に上がんねーよ」
五条さんはそう吐き捨てて行ってしまった。
色々なことがあったが、呪術師がクソで辞めたのに結局自分に合う仕事として呪術師に戻って来た。
風の噂で彼に大切な人が出来たと聞いた。
高専を出入りしているらしいが実際に出会ったことは無かった。
「なーなみぃ!!聞いて聞いて聞いて」
「嫌です」
「ほら見て。今朝撮ったんだけど控え目に言っても可愛くない?」
「犬猫でも飼ったんですか?」
「まっったく躾のなってないペットだよ」
興味が無くて見ていなかったのに、ぐいぐいと携帯の画面を押し付けてくる五条さん。
イラッとしたので叩き割ってやろうかと見た画面には……彼女がいた。
あの頃よりずっと綺麗になっていた彼女。
ぐっすりとシーツに埋もれて幸せそうによだれを滴しながら眠っている姿。
「………よだれ」
「可愛いでしょ?」
ふわりと優しく笑う五条さん。
大人となって学生の頃のトゲトゲしさが身を潜めるようになったとはいえ、こんなにも優しく笑う姿に驚いた。
同時に、彼女はこの男に囚われたのだと理解した。
今ならハッキリとわかる。
ーーー初恋だった。
そう気付くには自分を誤魔化し気付かないようにしていた。
話したことも無い、変わった人だった。
笑顔が暖かくていつも楽しそうだった。
例え言葉に出来ないほど顔面崩壊した変顔のプリクラを見て自分の想像の中の彼女が崩壊してしまい、恋心も崩壊してしまったとしても。
五条さんがあまりに優しく笑うものだから、悔しさなんて沸き上がらなかった。
この人も人だったのか、と思ってしまい……同時に、この人をこんな風に人で居させるのは昔から彼女しか出来ないのかもしれないと思ってしまった。
「……綺麗になりましたね」
「だろ?」
お祝いの言葉なぞ言いたくない。
これは少しの嫉妬。
「七海さぁ」
「何ですか」
「………まぁいーや。あ、これも見る?半目」
「うわ…」
変顔の才能ありすぎて引きますね。
いや、本人寝てるから無自覚か……どちらにしろ
「半目に白目でよだれの写真バレたら怒られるのでは?」
「大丈夫。本人に送った」
それ、大丈夫なんですかね?
なんて会話があってからまさか彼女と出会う機会があるとは思ってもいなかった。
「大丈夫ですか?」
たまたま助けた女性が彼女で
「今すぐ片付けますので」
これが、初めての会話。
成り行きで共に食事をすることになったのだが、話せば話すほど彼女は自分の考えていたような人ではなかった。
一般人……としての期間はあるが、仕事ばかりの毎日で一般人らしい事はしていない。
彼女も一般人にしては……少し、いや結構ズレているせいなのか会話がポンポンと弾む。
主に五条さんの事だが。
けど、五条さんの事を話すほど彼女は楽しそうに笑う。
私が見惚れたあの頃と同じような笑顔で。
いや、もしかしたらあの頃よりもっと綺麗に。
人は恋をすれば綺麗になる。
そう、聞いたことはあったが……こういうことか、と納得してしまった。
お互いに連絡先を交換して家まで送った。
食事中に呪詛の大量ラインを送りつけてきていたご本人はどうやら家に帰宅済らしい。
彼女は気付いていないが、送り届ける事をラインしておいたから待っていたのだろう。
じっと窓越しだが殺気混じりに此方を見下ろしていた五条さんが見えた。
きっと伊地知さんを困らせて帰宅したのだろう。あの人はそういう人だ。
「今日はありがとう。
二人とも気をつけてね」
「名前さんこそお気をつけてください」
「そーそー!!また呪霊に襲われたら大変なんですから!!」
「はーい!気をつけるよ」
「五条さんによろしくお伝えください」
「また今度飯行きましょ!!」
「あぁ、名前さん」
「なーに?七海くん」
「もしも五条さんに絡まれた時は………
一目惚れした瞬間、変顔してるプリクラ見て引いたって言っておいて下さい」
「一目惚れ云々ってさっきのか。悟そこまで気にするかな?」
「あの人わりと心狭いですよ。
あんな虚しい体験、後にも先にもあれっきりなんですから」
「待って。私どんだけヤバい顔のやつ?」
「だから安心してください。 初恋の事実は無かったことにしています」
言った言葉に彼女は家の前で盛大に吹き出し笑った。
私はにっ、と微笑み口元に指を一本。
「七海くん、それ私本人に言うとかウケる」
「五条さんによろしくお伝え下さい」
「わかったよー!!
今日は本当にありがとう!!またね!」
元気に手を振る彼女を見送る。
「七海さんの初恋ってマジで名前さんなんですか?」
「嘘を言いませんよ」
「まじっすか」
初恋が一瞬で砕け散るプリクラって……と、猪野くんがどこか遠くを見始めた。
まぁ、あのプリクラの破壊力は私たちだけが知るものだ。
「もう少し早く出会っていたら、また恋をしていたかもしれません」
「略奪っすか!?」
「嫌ですよ。五条さんに殺されます」
「またまたー」
「五条さんを敵に回すと厄介なので」
「え?まじなんすか?」
「なーなみぃ」
ガシッと肩に腕を回され鬱陶しい。
さっさと肩にから腕を外すがへの字口でこちらを見ている五条さん。
「顔面が鬱陶しいです」
「おいおいおーい。イケメンの僕に向かってそれはないだろなーなみぃ!」
「鬱陶しいです」
「オマエさぁ、学生の頃の名前に惚れてたけど、今の名前にも惚れたろ」
ズバッと言い当てられた恋心。
しかし、疚しいことなど無いので
「そうですね」
「僕に喧嘩売ってる?」
「まさか」
「じゃあ何でアイツと仲良くしてんだよ」
頻繁に美味しいパン屋や食事処の情報共有や、五条さんの愚痴やらをラインしているのでどうやら敵視されてしまったらしい。
「私と彼女はただの友人です。仲良くするのは普通かと」
「ふーーーん」
「確かにあの頃よりも綺麗になっていて見惚れましたし、素敵な人だと思っています」
「へーーー」
「余裕無いですね」
「そりゃー無いよ。アイツ無自覚に色んな奴らタラシこむ天才だもん」
「学生と随分仲良しですからね」
「僕のだよ」
「取りませんのでご安心を。
私は貴方と彼女が楽しそうにしている姿を見ている方がいいので」
彼女を綺麗にしたのは五条さんだ。
「なので私の息抜きを取らないで下さい」
「僕のだってば」
「主に私のストレスの原因貴方ですよ」
「えー?そんなことある?」
「まぁ、貴方が彼女をいらない……ということはないだろうと思いますが…
手放すなら喜んで奪いますよ」
「絶対手放さないし」
「そうであることを願います」
ーーー彼女から笑顔を奪わないで下さいね。
「私は彼女の笑っている顔を好ましく思っていますから」
私達を笑顔にさせてくれる。
馬鹿で
抜けてて
ドジで
ポンコツな人。
「五条さんよりも早く出会いたかったとは思っていますが、今は友人で良いと思っています」
「今は?
ねぇ、七海。それ僕に宣戦布告?殺る?」
「殺りません。しつこい人ですね」
「絶対あげない。アレは僕のだよ」
「まったく……ものじゃないんですから」
願わくば
彼女が幸せであるように。
願わくば
彼女が笑って居てくれますように。
その先に居るのが私じゃなくても
周りを笑顔に出来る彼女が
どうか少しでも長く生きて居てくれますように。
あとがき
こんなん書いたら、もしもで七海と先に出会ったらを書きたくなるじゃん。
余裕があったら今度書いてみよう。
七海は灰原といい、悠仁といい、猪野っちといい……陽キャに好かれてるな。
だからこそ通行人とも合いそうと思っていたのに辛い。七海……。
五条さんは普段は自分のに手出しされても絶対自分のが好かれているからと余裕そう。
ちなみにちょっかいかけられたの知ったら嫉妬で倍返しはする。
所有欲強めなので、学生からあれ?もしかしてこいつ……と勘づいていたからこそ予想外に仲良しな二人に焦りそう(笑)
まぁ、まっっったく何も無いんだけどwww
だって初恋クラッシャーされてるからwww
五条さんの珍しい余裕の無さに、楽しむ七海。
遊ばれてるよ、五条さん!!(笑)
七海を幸せにしたい。うっ………。