通行人A
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近所の誰も来ないような少し古びた神社。
ーーーあぁ、懐かしい。
そこは私と研磨の秘密基地。
虫取をしたり、かくれんぼしたり、二人でひっそりと遊ぶ場所。
ーーーいや、違う。
私が遊んでいたら、あの子が来た。
もう一人居た気がした。
ーーーあの子は恥ずかしがり屋で……
けど、色んな事を知っていた。
その子は気紛れで……
ーーーいつもはいない。時々現れる子。
今は二人の秘密基地。
ーーー三人だけの秘密基地だった。
私が世界を嫌うから。
私が化け物が怖いと泣くから。
研磨と一緒にお願いしたんだ………。
二人で行って、少ないお小遣いで二人でお願いをした。
「名前をお化けから守ってください」
「守ってください」
"その願い、聞き届けた"
ーーーあの子に。
クロと出会うよりも前。
私には研磨しかいなくて、研磨にも私しかいなかった世界。
家族と研磨が居れば良かった。
「あんた達!!引きこもってばかりいないでたまには日光を浴びてきなさい!!」
二人で部屋でゲームしていたらぺいっと、母さんに外に放り出された。
私も研磨もお外遊びは苦手だから暑い日に外に出されても遊ぶ気力なんかない。
放り出された日は二人で手を繋いで家の回りをお散歩する。
だけど、お外に出ればソレらは居て必ず寄ってくる。
「だいじょうぶ」
研磨がギュッと手を握ってくれる。
だから私も手を握り返す。
研磨がいてくれれば私は少しだけ勇気が出た。
いつもと同じ散歩道。
「アンタ変わってるね」
「「!!」」
あの子は突然現れた。
真っ白な着物を着た子供だった。
音も気配も無く現れて声を掛けられた。
研磨ですら見えているその子に、私はわけがわからない。
人間なのか……人間じゃないのか。
姿は人間。なのに、その子の気配は人間離れしている。
「だれ」
「誰だろうな?」
「………」
「帰ろ」
不思議なその子供はニヤニヤと笑っていた。
怪しく思った研磨が手を引いて帰ろうとする。
だが、元の道はぐにゃりと曲がる。
「アソボウ」
白い着物の子供はぐにゃりと笑う。
歪に笑って目が赤く濁っていく。
私達が声を掛けられたモノはこの世のモノじゃなかった。
ぐにゃぐにゃと酔ってしまいそうなあべこべの世界。
気持ちの悪そうな研磨がその場にしゃがみこんでしまう。
「アソボ」
研磨の具合が悪そうな様子に私は泣き出してしまう。
アレの言葉を聞いてはいけない。
アレの相手をしてはいけない。
けど、このままだと研磨が………
咄嗟に私はポケットに入っていた飴玉を手に、ソレに向かって投げ付けた。
「う"っっ!!」
ガンッ、と顔面に当たった飴玉。
最近ハマっているドングリガムの飴ちゃんだ。
中にガムが入っていて、飴でコーティングされているやつ。
何個もポケットに入れているのでまだある。
「オマエ……」
「………!!」ブンッ
「ちょっ」
「!!」ブンッ
「いたっ」
「!!」ブンッ
「や、やめっ」
「!!」ブンッ
「地味に痛いからヤメロ!!」
全力投球でドングリガムをぶつける。
痛がるから人間なのか……?と考えるが、人間ならあんな禍々しさなどあり得ない。
ドングリガムが化け物に効くなんて初耳だが、効いているならぶん投げようと再び構える。
「待て。ヤメロ。話し合おう」
「………」フルフル
「わかった!!何もしないから話し合おう!!」
歪んでいた世界が元通りになった。
研磨も具合が良くなったのか顔色が戻っていた。
「研磨、大丈夫?」
「平気」
「何なんだ…お前ら」
私の描く絵のせいで研磨は化け物の耐性がつきつつある。
それに比べ目の前の白い子供は怖さなどない。
ほとんど自分と変わらない子供の何を怖がれと?
「ったく……普通ならオレを怖がるのに」
「見た目人間だし」
「うん」
「ドングリガムに負けてたし」
「うん」
「仕方なくない!?意外と痛いよあのお菓子!!!」
ギャーギャーと騒ぐ子供。
「チクショウ……
変わった人間だったから声を掛けたのに」
「何これ?お化けなの?」
「さあ?」
「フッ……聞いて驚け!!!
我こそは偉大なるこの神社に住まう由緒正しき土地神の一人……その名も!!」
「「神社?」」
「………オイオイ。まさか知らないなんて」
「「知らない」」
「え?」
「「知らない」」
崩れ落ちた白い子供。
「まじで?まじで何も知らない?」
「「知らない」」
「これでも昔は有名な神社だったんだけどなぁ」
来いよ、と言う白い子供。
研磨と顔を見合わせてどうしようか考える。
「何もしねーよ。さっきの術だって力使いきって今はもう出来ねぇし」
白い子供に着いていくと、住宅の外れに寂れた小さな社があった。
ボロボロの社は人の手が入った様子はない。
もう何年も放置されているようだ。
「昔は祭りなんかも開催されて賑やかだったんだぜ」
懐かしそうに話す子供。
「遊びに来た子供らに混じって遊ぶのが楽しかったんだ」
どれほど昔の出来事なのか。
「なぁ、お前ら。
オレと遊んでくれないか?」
そう言った子供。
私と研磨は彼をシロと呼んで、たまにこの神社に来て遊んだ。
シロは色んな遊びを教えてくれた。
虫を捕まえて逃げ回る私と研磨を笑うシロ。
綾取りをして研磨に負かされるシロ。
鬼ごっこして三人で泥まみれになった。
シロが話す昔話は恐ろしくも悲しい話が多かった。
シロを神様として村人はシロに何度もお願いに来た。シロは初めは神様じゃなかったらしい。
人々によってシロに感謝を伝え、シロの社に毎日のように皆が通い、挨拶をしていた。
村の子供が社に来ては遊び夕暮れと共に帰っていく。そうしているうちに、シロは神様となったらしい。そして、そんな穏やかな日々がシロは好きだったと。
けど、月日が流れていくうちに時代も変わっていく。
シロの元に通う人々が少なくなった。そして村にも変化が。
村が貧しくなり、村に病気が流行り、人の手に負えなくなってシロを頼ってお願いしに来た。
「オレは何も出来なかった」
神様と言え、何か出来る万能なわけじゃない。
人が願ってもその人達の分願いを叶えてやれない。
歯がゆい思いを抱えながら見守ることしか出来なかった。
土地を耕し実りを与えても、人々の満足のいく出来じゃない年がある。
雨を降らし恵みを与えても、人々の生活が常に潤う事はない。
それぞれが貧しくも健やかに生きる姿を見守り、天へ帰るときに道標となるくらいしか出来ないのに、人々はシロへ願う。
「オレはちっぽけな神様だからさ、村人みんなに小さな加護を与えるしか出来ない。
その加護っつっても気持ち長生き出来たり、死んだ後迷子にならないためのもの。
不治の病気が治ったり、村に劇的な恵みを与えられるほど万能じゃないんだよ」
時には供物を。
時には人を。
「どんなものを差し出されても、オレの神としての力なんてたいしたことない。
名のある土地神ならどうにか出来たのかもしれないけどな」
そうして滅んだ村が何個もあった。
その度にシロは違う社へと移動する。
神々の住まう国へと招待され、臨時の神として神様のいない、社へ。
「オレみたいな神はさ、信仰が無くなればどんどん力は弱まるんだ。
そうして神と認められなくなったオレは神の国すら行けず消え去るのを待つしかない」
簡単に消えれば楽なのに、紛い物ながらも神となったものは簡単には消えない。
「中には祟り神や呪いとなって自我すら無くなり人々に悪影響をもたらす奴らも少なくない」
人は良くも悪くも
神へと影響を与えてしまう。
「オレも人の負の感情を受けすぎた」
人がいないから人を呪う者。
人がいないから命を断つ者。
人がいないから命を奪う者。
人がいないから人を襲う者。
「沢山見てきた。沢山の恨み言を聞いてきた」
この身が朽ちる前に
この身が堕ちる前にせめてーー
「オレは誰かを救える神様でありたい」
無力な神様だった。
たいした力もないのに皆が願ってくれた。
たいした力もないのに皆が祈ってくれた。
その恩を返せず罵倒されたこともあったが……
「オレは人が好きなんだ」
シロは笑う。
もう時間がないから、せめて
「オレと遊んで。
オレが消え去るその時まで」
オレが人を好きなまま、いなくなれるように。
シロのお願いは子供のようだった。
ならば、子供の私達がすることは……
シロに言われなくてもいっぱい遊ぶこと。
シロのやりたい遊びだけじゃなく、時代の違う私達の遊びも。
「は?なんだこれ」
「「ゲーム」」
「げぇむ?」
「こうやって草むら入るとモンスターが出て来て」
「戦って捕まえます」
「何が楽しいんだ?」
「「楽しい」」
「そんなのよりオレと身体を使って遊べ!!」
「シロ、時代はゲームだよ」
「ほら、シロにもやらせてあげるから」
「お、おぅ……」
「は? 鬼事のルール違くね?」
「シロ……ろうそく鬼や氷鬼やドロケイ知らないの?」
「なんか微妙に違う」
「地域差じゃない?」
「「なるほどね」」
シロと遊んでいくうちに、シロは少しずつ存在が薄くなっていった。
そして………
「世界にいるお化けがシロみたいならいいのに」
「化け物?」
「シロと違って怖い化け物。
何度も何度も私の周りで酷いことするの」
「あー……なるほどな」
「私……いつか研磨や家族も傷付けられそうで怖いんだ」
この世界は私には優しくない。
私の言葉一つであの化け物達が何をするかわからないから。
「オマエはオレらみたいな存在には特別だからな」
「特別?」
「オレも呪いに堕ちていたのにオマエのお陰で今もまだ意識を保てている」
「シロ最初化け物だと思ったもん」
「オマエはオレらにとって唯一の存在。
巫女や神子なんかよりももっと身近にオレらと共に生き、土地や人に恵みをもたらすことが出来る存在なんだよ」
「意味わかんない」
「あー……アレだ。オレらの癒し処みたいな」
「私で勝手にリラックスすんなよ」
シロは化け物を恨むなと笑う。
「オマエにどうにかして貰いたいんだよ」
「だからといって人様に迷惑かけるの良くないと思いまーす」
「呪いだから呪うのが性分なんだ」
「理不尽か」
その頃の私はシロの話を理解出来なかった。
いや、理解したくなかった。
私もあの化け物の仲間入りなどしたくなかったから。
「そんなに辛いなら、願えよ」
シロは言った。
「オレの残ってる力を全て使ってオマエを守ってやるから」
みんな、じゃなく。
個人だけを。
「堕ちかけたとはいえ、オレは神様だ」
「……そしたらシロ、消えちゃうじゃん」
「いいんだよ。言ったろ?
オレは人が好きだって」
研磨と共に、神様のシロへ願った。
「名前をお化けから守ってください」
「守ってください」
"その願い、聞き届けた"
シロは笑っていた。
暖かい何かに包まれ、私を呪ったシロ。
"気をつけろよ。ソレは呪いだ"
キラキラと透けていく姿は幻想的だが、寂しい。
"呪いはいつか、祓われる"
「シロ」
"まぁ、並大抵の奴らになんか祓わせねーよ。
神様からの加護の呪いだぜ?"
「シロ、シロッ」
"オレと遊んでくれてありがとな。
神様のまま消えることが出来たのはオマエのお陰だ"
「シロ……ッ」
"オマエが長生き出来るように……"
「ありがとう!!シロ!!」
私を呪った神様は
心優しい
呪いに堕ちかけた神様だった。
彼が掛けた呪いは私の身を守っていてくれた。
「………」
「目が覚めたかい?」
チラリ、とこちらを覗き込むサマーオイル。
「チィッッ」
「盛大な舌打ちだね」
「目覚めが悪い」
「そりゃ悪かったね」
起き上がればいつの間にかそこはどっかの部屋。
薄暗く陰気なその場所。
「どこ?ここ」
「ヤクザの事務所」
「は?」
「ちょっと場所を譲って貰ったのさ」
「………ちなみにヤクザは?」
「聞きたいかい?」
にっこり笑顔のサマーオイルに首を横に振った。絶対生きてねーだろ。
「記憶は巡れたかい?」
「お陰様で」
「その呪いを解く方法は?」
「多分無理」
「おや?わからなかったのかい?」
「だってコレは心優しい神様からの贈り物だから」
長いこと忘れていたシロの存在。
きっと、シロが記憶を隠していたのだろう。
怖がりな私を心配していたから。
「まぁ、そう簡単にいくものだとは思ってないさ」
「さっさと帰せよ誘拐犯」
「随分嫌われてしまってるね」
「あんたの目的が何かは知らんが友人の姿で好き勝手されて嫌わない奴いる?」
「結構忠実に再現出来てると思うんだけど?」
まだボーッとする頭。
シロは言った。
私は呪いの癒し処だと。
けど宿儺は呪いを率いる存在だと。
「ねぇ」
「なんだい?」
「あんたの知ってる私の価値って何?」
まだわからないことが多い。
私のような存在に出会った事がないし、悟や伊地知さんが調べても似た存在は見つかっていない。
「キミは自身の価値をどこまで知ってる?」
「呪霊ホイホイ」
「そうだね。じゃあ、なぜ呪霊は寄ってくると思う?」
「美味しそうだから?呪霊の稀血的な」
なぜ、こいつは私の存在を知っているのか?
どこまで私の利用価値を知っているのか?
「稀血ね……あながち間違いではないと思うよ。
キミの魂に呪霊達は惹かれている」
「なんで?」
「キミの魂が居心地良いからさ。
だから呪い達は寄ってくる」
「だから呪いを解いて百鬼夜行しようって?」
「それも目的の一つだけど、ソレ以上に興味があるんだ」
「にやにやすんな。キモイ」
「失礼だよね、キミ」
友達と同じ顔でニタニタされてみろ。
腹立つじゃん。
「キミが願えば呪い共は喜んでキミの願いを全力で叶える。
つまりキミは呪霊の持つ力を最大限に引き出せる存在だ」
「そんな大袈裟な」
「出来るよ」
「だってキミは人でありながら呪いに愛された存在だから」
「………あんた、何者なの」
「友人さ。キミのね」
まだ眠いだろう?眠るといいよ、なんて言って視界を閉じさせるサマーオイル。
次目覚めたら殴ってやると心に決めて、私の意識は闇に落ちた。
あとがき
めちゃくちゃ神様のことについては捏造ですので。
珍しくシリアス。
シリアルになりきれなかった通行人。
次回「あなたは何を怯えているの?まるで迷子のキツネリスのように。怖がらないで、私はただあなたに自分の国へ帰ってもらいたいだけ」
通行人の逆襲開始
ーーーあぁ、懐かしい。
そこは私と研磨の秘密基地。
虫取をしたり、かくれんぼしたり、二人でひっそりと遊ぶ場所。
ーーーいや、違う。
私が遊んでいたら、あの子が来た。
もう一人居た気がした。
ーーーあの子は恥ずかしがり屋で……
けど、色んな事を知っていた。
その子は気紛れで……
ーーーいつもはいない。時々現れる子。
今は二人の秘密基地。
ーーー三人だけの秘密基地だった。
私が世界を嫌うから。
私が化け物が怖いと泣くから。
研磨と一緒にお願いしたんだ………。
二人で行って、少ないお小遣いで二人でお願いをした。
「名前をお化けから守ってください」
「守ってください」
"その願い、聞き届けた"
ーーーあの子に。
クロと出会うよりも前。
私には研磨しかいなくて、研磨にも私しかいなかった世界。
家族と研磨が居れば良かった。
「あんた達!!引きこもってばかりいないでたまには日光を浴びてきなさい!!」
二人で部屋でゲームしていたらぺいっと、母さんに外に放り出された。
私も研磨もお外遊びは苦手だから暑い日に外に出されても遊ぶ気力なんかない。
放り出された日は二人で手を繋いで家の回りをお散歩する。
だけど、お外に出ればソレらは居て必ず寄ってくる。
「だいじょうぶ」
研磨がギュッと手を握ってくれる。
だから私も手を握り返す。
研磨がいてくれれば私は少しだけ勇気が出た。
いつもと同じ散歩道。
「アンタ変わってるね」
「「!!」」
あの子は突然現れた。
真っ白な着物を着た子供だった。
音も気配も無く現れて声を掛けられた。
研磨ですら見えているその子に、私はわけがわからない。
人間なのか……人間じゃないのか。
姿は人間。なのに、その子の気配は人間離れしている。
「だれ」
「誰だろうな?」
「………」
「帰ろ」
不思議なその子供はニヤニヤと笑っていた。
怪しく思った研磨が手を引いて帰ろうとする。
だが、元の道はぐにゃりと曲がる。
「アソボウ」
白い着物の子供はぐにゃりと笑う。
歪に笑って目が赤く濁っていく。
私達が声を掛けられたモノはこの世のモノじゃなかった。
ぐにゃぐにゃと酔ってしまいそうなあべこべの世界。
気持ちの悪そうな研磨がその場にしゃがみこんでしまう。
「アソボ」
研磨の具合が悪そうな様子に私は泣き出してしまう。
アレの言葉を聞いてはいけない。
アレの相手をしてはいけない。
けど、このままだと研磨が………
咄嗟に私はポケットに入っていた飴玉を手に、ソレに向かって投げ付けた。
「う"っっ!!」
ガンッ、と顔面に当たった飴玉。
最近ハマっているドングリガムの飴ちゃんだ。
中にガムが入っていて、飴でコーティングされているやつ。
何個もポケットに入れているのでまだある。
「オマエ……」
「………!!」ブンッ
「ちょっ」
「!!」ブンッ
「いたっ」
「!!」ブンッ
「や、やめっ」
「!!」ブンッ
「地味に痛いからヤメロ!!」
全力投球でドングリガムをぶつける。
痛がるから人間なのか……?と考えるが、人間ならあんな禍々しさなどあり得ない。
ドングリガムが化け物に効くなんて初耳だが、効いているならぶん投げようと再び構える。
「待て。ヤメロ。話し合おう」
「………」フルフル
「わかった!!何もしないから話し合おう!!」
歪んでいた世界が元通りになった。
研磨も具合が良くなったのか顔色が戻っていた。
「研磨、大丈夫?」
「平気」
「何なんだ…お前ら」
私の描く絵のせいで研磨は化け物の耐性がつきつつある。
それに比べ目の前の白い子供は怖さなどない。
ほとんど自分と変わらない子供の何を怖がれと?
「ったく……普通ならオレを怖がるのに」
「見た目人間だし」
「うん」
「ドングリガムに負けてたし」
「うん」
「仕方なくない!?意外と痛いよあのお菓子!!!」
ギャーギャーと騒ぐ子供。
「チクショウ……
変わった人間だったから声を掛けたのに」
「何これ?お化けなの?」
「さあ?」
「フッ……聞いて驚け!!!
我こそは偉大なるこの神社に住まう由緒正しき土地神の一人……その名も!!」
「「神社?」」
「………オイオイ。まさか知らないなんて」
「「知らない」」
「え?」
「「知らない」」
崩れ落ちた白い子供。
「まじで?まじで何も知らない?」
「「知らない」」
「これでも昔は有名な神社だったんだけどなぁ」
来いよ、と言う白い子供。
研磨と顔を見合わせてどうしようか考える。
「何もしねーよ。さっきの術だって力使いきって今はもう出来ねぇし」
白い子供に着いていくと、住宅の外れに寂れた小さな社があった。
ボロボロの社は人の手が入った様子はない。
もう何年も放置されているようだ。
「昔は祭りなんかも開催されて賑やかだったんだぜ」
懐かしそうに話す子供。
「遊びに来た子供らに混じって遊ぶのが楽しかったんだ」
どれほど昔の出来事なのか。
「なぁ、お前ら。
オレと遊んでくれないか?」
そう言った子供。
私と研磨は彼をシロと呼んで、たまにこの神社に来て遊んだ。
シロは色んな遊びを教えてくれた。
虫を捕まえて逃げ回る私と研磨を笑うシロ。
綾取りをして研磨に負かされるシロ。
鬼ごっこして三人で泥まみれになった。
シロが話す昔話は恐ろしくも悲しい話が多かった。
シロを神様として村人はシロに何度もお願いに来た。シロは初めは神様じゃなかったらしい。
人々によってシロに感謝を伝え、シロの社に毎日のように皆が通い、挨拶をしていた。
村の子供が社に来ては遊び夕暮れと共に帰っていく。そうしているうちに、シロは神様となったらしい。そして、そんな穏やかな日々がシロは好きだったと。
けど、月日が流れていくうちに時代も変わっていく。
シロの元に通う人々が少なくなった。そして村にも変化が。
村が貧しくなり、村に病気が流行り、人の手に負えなくなってシロを頼ってお願いしに来た。
「オレは何も出来なかった」
神様と言え、何か出来る万能なわけじゃない。
人が願ってもその人達の分願いを叶えてやれない。
歯がゆい思いを抱えながら見守ることしか出来なかった。
土地を耕し実りを与えても、人々の満足のいく出来じゃない年がある。
雨を降らし恵みを与えても、人々の生活が常に潤う事はない。
それぞれが貧しくも健やかに生きる姿を見守り、天へ帰るときに道標となるくらいしか出来ないのに、人々はシロへ願う。
「オレはちっぽけな神様だからさ、村人みんなに小さな加護を与えるしか出来ない。
その加護っつっても気持ち長生き出来たり、死んだ後迷子にならないためのもの。
不治の病気が治ったり、村に劇的な恵みを与えられるほど万能じゃないんだよ」
時には供物を。
時には人を。
「どんなものを差し出されても、オレの神としての力なんてたいしたことない。
名のある土地神ならどうにか出来たのかもしれないけどな」
そうして滅んだ村が何個もあった。
その度にシロは違う社へと移動する。
神々の住まう国へと招待され、臨時の神として神様のいない、社へ。
「オレみたいな神はさ、信仰が無くなればどんどん力は弱まるんだ。
そうして神と認められなくなったオレは神の国すら行けず消え去るのを待つしかない」
簡単に消えれば楽なのに、紛い物ながらも神となったものは簡単には消えない。
「中には祟り神や呪いとなって自我すら無くなり人々に悪影響をもたらす奴らも少なくない」
人は良くも悪くも
神へと影響を与えてしまう。
「オレも人の負の感情を受けすぎた」
人がいないから人を呪う者。
人がいないから命を断つ者。
人がいないから命を奪う者。
人がいないから人を襲う者。
「沢山見てきた。沢山の恨み言を聞いてきた」
この身が朽ちる前に
この身が堕ちる前にせめてーー
「オレは誰かを救える神様でありたい」
無力な神様だった。
たいした力もないのに皆が願ってくれた。
たいした力もないのに皆が祈ってくれた。
その恩を返せず罵倒されたこともあったが……
「オレは人が好きなんだ」
シロは笑う。
もう時間がないから、せめて
「オレと遊んで。
オレが消え去るその時まで」
オレが人を好きなまま、いなくなれるように。
シロのお願いは子供のようだった。
ならば、子供の私達がすることは……
シロに言われなくてもいっぱい遊ぶこと。
シロのやりたい遊びだけじゃなく、時代の違う私達の遊びも。
「は?なんだこれ」
「「ゲーム」」
「げぇむ?」
「こうやって草むら入るとモンスターが出て来て」
「戦って捕まえます」
「何が楽しいんだ?」
「「楽しい」」
「そんなのよりオレと身体を使って遊べ!!」
「シロ、時代はゲームだよ」
「ほら、シロにもやらせてあげるから」
「お、おぅ……」
「は? 鬼事のルール違くね?」
「シロ……ろうそく鬼や氷鬼やドロケイ知らないの?」
「なんか微妙に違う」
「地域差じゃない?」
「「なるほどね」」
シロと遊んでいくうちに、シロは少しずつ存在が薄くなっていった。
そして………
「世界にいるお化けがシロみたいならいいのに」
「化け物?」
「シロと違って怖い化け物。
何度も何度も私の周りで酷いことするの」
「あー……なるほどな」
「私……いつか研磨や家族も傷付けられそうで怖いんだ」
この世界は私には優しくない。
私の言葉一つであの化け物達が何をするかわからないから。
「オマエはオレらみたいな存在には特別だからな」
「特別?」
「オレも呪いに堕ちていたのにオマエのお陰で今もまだ意識を保てている」
「シロ最初化け物だと思ったもん」
「オマエはオレらにとって唯一の存在。
巫女や神子なんかよりももっと身近にオレらと共に生き、土地や人に恵みをもたらすことが出来る存在なんだよ」
「意味わかんない」
「あー……アレだ。オレらの癒し処みたいな」
「私で勝手にリラックスすんなよ」
シロは化け物を恨むなと笑う。
「オマエにどうにかして貰いたいんだよ」
「だからといって人様に迷惑かけるの良くないと思いまーす」
「呪いだから呪うのが性分なんだ」
「理不尽か」
その頃の私はシロの話を理解出来なかった。
いや、理解したくなかった。
私もあの化け物の仲間入りなどしたくなかったから。
「そんなに辛いなら、願えよ」
シロは言った。
「オレの残ってる力を全て使ってオマエを守ってやるから」
みんな、じゃなく。
個人だけを。
「堕ちかけたとはいえ、オレは神様だ」
「……そしたらシロ、消えちゃうじゃん」
「いいんだよ。言ったろ?
オレは人が好きだって」
研磨と共に、神様のシロへ願った。
「名前をお化けから守ってください」
「守ってください」
"その願い、聞き届けた"
シロは笑っていた。
暖かい何かに包まれ、私を呪ったシロ。
"気をつけろよ。ソレは呪いだ"
キラキラと透けていく姿は幻想的だが、寂しい。
"呪いはいつか、祓われる"
「シロ」
"まぁ、並大抵の奴らになんか祓わせねーよ。
神様からの加護の呪いだぜ?"
「シロ、シロッ」
"オレと遊んでくれてありがとな。
神様のまま消えることが出来たのはオマエのお陰だ"
「シロ……ッ」
"オマエが長生き出来るように……"
「ありがとう!!シロ!!」
私を呪った神様は
心優しい
呪いに堕ちかけた神様だった。
彼が掛けた呪いは私の身を守っていてくれた。
「………」
「目が覚めたかい?」
チラリ、とこちらを覗き込むサマーオイル。
「チィッッ」
「盛大な舌打ちだね」
「目覚めが悪い」
「そりゃ悪かったね」
起き上がればいつの間にかそこはどっかの部屋。
薄暗く陰気なその場所。
「どこ?ここ」
「ヤクザの事務所」
「は?」
「ちょっと場所を譲って貰ったのさ」
「………ちなみにヤクザは?」
「聞きたいかい?」
にっこり笑顔のサマーオイルに首を横に振った。絶対生きてねーだろ。
「記憶は巡れたかい?」
「お陰様で」
「その呪いを解く方法は?」
「多分無理」
「おや?わからなかったのかい?」
「だってコレは心優しい神様からの贈り物だから」
長いこと忘れていたシロの存在。
きっと、シロが記憶を隠していたのだろう。
怖がりな私を心配していたから。
「まぁ、そう簡単にいくものだとは思ってないさ」
「さっさと帰せよ誘拐犯」
「随分嫌われてしまってるね」
「あんたの目的が何かは知らんが友人の姿で好き勝手されて嫌わない奴いる?」
「結構忠実に再現出来てると思うんだけど?」
まだボーッとする頭。
シロは言った。
私は呪いの癒し処だと。
けど宿儺は呪いを率いる存在だと。
「ねぇ」
「なんだい?」
「あんたの知ってる私の価値って何?」
まだわからないことが多い。
私のような存在に出会った事がないし、悟や伊地知さんが調べても似た存在は見つかっていない。
「キミは自身の価値をどこまで知ってる?」
「呪霊ホイホイ」
「そうだね。じゃあ、なぜ呪霊は寄ってくると思う?」
「美味しそうだから?呪霊の稀血的な」
なぜ、こいつは私の存在を知っているのか?
どこまで私の利用価値を知っているのか?
「稀血ね……あながち間違いではないと思うよ。
キミの魂に呪霊達は惹かれている」
「なんで?」
「キミの魂が居心地良いからさ。
だから呪い達は寄ってくる」
「だから呪いを解いて百鬼夜行しようって?」
「それも目的の一つだけど、ソレ以上に興味があるんだ」
「にやにやすんな。キモイ」
「失礼だよね、キミ」
友達と同じ顔でニタニタされてみろ。
腹立つじゃん。
「キミが願えば呪い共は喜んでキミの願いを全力で叶える。
つまりキミは呪霊の持つ力を最大限に引き出せる存在だ」
「そんな大袈裟な」
「出来るよ」
「だってキミは人でありながら呪いに愛された存在だから」
「………あんた、何者なの」
「友人さ。キミのね」
まだ眠いだろう?眠るといいよ、なんて言って視界を閉じさせるサマーオイル。
次目覚めたら殴ってやると心に決めて、私の意識は闇に落ちた。
あとがき
めちゃくちゃ神様のことについては捏造ですので。
珍しくシリアス。
シリアルになりきれなかった通行人。
次回「あなたは何を怯えているの?まるで迷子のキツネリスのように。怖がらないで、私はただあなたに自分の国へ帰ってもらいたいだけ」
通行人の逆襲開始