通行人A
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「………そっか」
「言わない方が良かった?」
「いや……知らなかったらずっと待ってた」
「オマエが気にすることじゃないよ」
そう言いながら頭を撫でてくれた悟。
私に電話を掛けることなく
かけがえのない人さえ奪われ、この世を怨みながらいなくなってしまった一つの命の終わりを知った。
どうか彼が
来世で笑っていられるよう願うばかり……。
ほんの少しだけ……私の話をしよう。
研磨しか知らない、私の秘密の話。
幼い頃、この目が嫌いだった。
この目を通してみる世界が嫌いだった。
今ではこんな陽キャで馬鹿騒ぎしている私だが……研磨しか知らない私がいる。
クロと出会う前……
まだ幼稚園ぐらいの時の話。
私は研磨の後ろに隠れていつも研磨の背中や後頭部や繋いだ手を見ていた。
外に出るのが嫌いで
人と関わるのが嫌いで
家族以外の人間は全て大っ嫌いだった。
だって外には沢山の化物がいる。
大きいのも小さいのも
動物みたいなのも
虫みたいなのも
その化物達は皆私に寄ってきてよくわからない言葉を投げ付ける。
"ヨンデ"
"ハナシテ"
"コエヲ"
"イッテ"
"オネガイ"
ーーードウカ オネガイ ヲ ーーー
私が声を出せばケラケラと喜び近くにいた猫を潰した。
私が声を出せばケラケラと楽しそうに近所の犬を引きちぎった。
私が声を出せばケラケラと嘲笑って………。
怖くなった。
私が話すだけで、声を出すだけで化物は喜ぶ。
触っていた時に引っ掻いて痛みを訴えた時も
リードが外れていて吠えながら追いかけてきた恐怖に拒否の言葉を言った時も
怖くて怖くて誰とも話したくなくて
部屋に引きこもったこともあった。
私は異常でオカシな子だから私が話すだけで家族や研磨に迷惑がかかってしまった時……
私は私を許せなくなる。
「名前」
真っ暗な部屋で布団をかぶって出ようとしない私に研磨が声を掛ける。
「出てきてよ」
「………」
「名前、こっちきて」
「………」
「そんな暗いとこいたら名前まで暗闇に食べられるよ」
「………だって」
「名前が怖がるから喜ぶんだよ」
「え…」
「お化けは人を驚かすのが仕事だから
怖がる人に寄ってくるんだって」
研磨が必死に色んな事を話す。
お化けなんて見ないフリすれば大丈夫。
気付いてる人に寄ってくるんだって。
暗いところに寄ってくるよ。
ウジウジしてたら来るんだよ。
……一人は寂しい。
研磨と手を繋いで、寂しい寂しいって泣いた。
私も研磨も他の友達の輪に入るのが下手くそでいつも二人でいたから、一人の幼稚園も、一人の部屋も寂しかった。
お互い寂しかったと泣いて、しっかり手を握って、額をくっ付ける。
「だいじょうぶ」
「だいじょーぶ」
「けんまはつよいこ」
「名前はつよいこ」
「わらって」
「わらって」
「オネガイしにいこ」
「うん」
近所の誰も来ないような少し古びた神社。
そこは私と研磨の秘密基地。
虫取をしたり、かくれんぼしたり、二人でひっそりと遊ぶ場所。
昔はもう一人居た気がしたが……今は二人の秘密基地。
二人で行って、少ないお小遣いで二人でお願いをした。
「名前をお化けから守ってください」
「守ってください」
お互い目を腫らして笑い合った。
それから私はまた研磨と幼稚園に通うようになった。
二人で手を繋いでいれば、どちらかが弱気になってもどちらかが強くいられると思うから。
見ないフリはなかなか難しくて、いきなり飛び出されると体が反応した。
それでも必死に見ないフリを頑張った。
それから小学生になり、私と研磨が二人でいるのをからかう人が増えた。
デキテイル、ツキアッテル、フウフ
からかう子供に対し、私達は特に気にしなかった。
クロが引っ越してくる頃には私は今のような性格になっていた。
研磨を虐める男子を蹴り飛ばし
クロと男子に混ざって遊んでもらい
研磨とクロを巻き込んでホラー体験したり……。
男勝りで活発で元気な子供。
私が大人しい性格だったなんて今じゃ誰も信じないだろう。
だからこそ、研磨だけは知っている。
私が今もこの目が、この目を通した世界が嫌いなことを。
「なぁ、なんで名前はこの業界に踏み入れようと思ったんダ?
やっぱ悟と居たいから?」
「突然どーしたんすか?パンダ先輩」
「特に理由はないけど気になっただけ」
学長が呼び出されて席を外した途端に、ゆるっとした空気に。
「んー…特に理由は無い、かな。
けど悟が理由っていうのは合ってるかも」
「ノロケか」
「惚気……なら良かったのかなぁ」
窓になったのは見えるから。
けど、それよりも…
「一人になることが嫌だったんだ」
「?」
「いつまでも幼馴染と居られないし私は悟を選んだ。
なら……向き合おうと思ったの」
大っ嫌いな世界。
無くなればいいと思える目。
「可愛いくて生意気な皆にも会えたし
悪いことばかりじゃないかな?って思えるようになったんだよ」
だけど
その目があったから悟や硝子ちゃんにも
みんなにも出会えた。
私しか知らなかった世界がどんどん色付いていく。
「名前は寂しん坊だよな」
「そーだね」
「今ならオレのモフモフ開いてるゾ」
「パンダやーっさしー!!」
「オイ、掃除真面目にしろよ」
「しゃけ」
「ってゆーか馬鹿どこ行ったのよ名前さん」
「五条先生ならさっき逃げたよ」
「はぁ!?」
「あの人が真面目に掃除するわけないだろ」
「悟のことだから面倒だからって術式使いそう」
「名前姉流石にそれは……
………それは、ない……よね?」
「悠仁、馬鹿だぞ?
やるに決まってるだろ」
「ってゆーかさっさと終わらせてシャワー行きたいんだけど」
「超わかる、野薔薇ちゃん。
生クリームがすごいギトギトで不愉快」
「名前がこんなもん買ってくるからダロ」
「やらかしたの棘くんだよ」
「しゃけ」
「てへ☆じゃないから」
怖い。
ーー優しい。
辛い。
ーー楽しい。
苦しい。
ーー愛おしい。
好きになることは出来ないけれど
この世界で生きる人々まで嫌いにはなれなかった。
「うわ……いい年した女がクリームまみれで何してるんだ」
「硝子ちゃん!!」
「ほら着替え」
「ありがとー!!」
「下着はどうするつもりだ?」
「………考えてなかった」
「だろうな。
さっき五条に会ったから頼んでおいたぞ」
「嘘でしょ」
「ノーパンで帰る気か」
それなら着替え一式頼んでくれよ硝子ちゃん。
「……懐かしいな」
「なにが?」
「昔を思い出しただけだ」
「私のやる馬鹿な事に巻き込まれるのが?」
「あぁ」
「懐かしいね」
「懐かしいな」
もう二度と四人で集まることは無いけれど
思い出の中の私達はいつだって笑っている。
「今度三人で流し素麺する?」
「馬鹿か。しない」
「じゃあガムの酸っぱいやつ」
「甘いのはいらん」
「どんじゃら」
「一人足りないだろ」
「久しぶりにファーストフードは?」
「ふっ……それはいいかもな」
青春は一度きり。
「掃除サボってなに黄昏てんの?」
「サボったのは悟じゃん」
「下着持ってきてやったのに」
「ありがとう……って言いたいが彼氏に下着漁られて持ってきてもらうとかつらっ」
「可愛いの選んできたから」
「勝負下着か」
「サラッとやめてよ硝子ちゃん」
ーーーどうかお願い。
「掃除サボってんじゃねーよ馬鹿二人」
「早くしろよ馬鹿二人」
「しゃけ」
「お呼びだよ悟くん」
「僕学長に呼び出されてるよ名前ちゃん」
「何したの」
「どの話だろうね?」
「ちょっと!!ちゃんと掃除しなさいよ!!」
「僕の代わりに頑張ってよ名前」
「OK。
みんな頑張って掃除終わったら悟が高級なもの奢ってくれるってさ」
「今さら高級なものくらいで俺らが動くとでも?」
「はい!!俺うな重!!」
「ハーゲンダッツ1ダース持ってきなさいよ」
「オレウマイもの」
「しゃけ」
「………わりと安いもので動くね、この子ら」
「可愛いよね」
悟からしたら安いものなんだろうね。
ひとまず本気で掃除終わらせて早くシャワーに行きたい。
「じゃあ後よろしく」
「はーい」
くしゃり、と撫でられた頭。
私は悟に笑顔で手を振る。
「さっさと片付けてパーティーの続きしようか」
「その前にシャワーね」
「ベタベタだもんな」
真面目に片付けをしたらすぐに終わった。
そしてぞろぞろとシャワー室に向かう私達。
「真希ちゃんか野薔薇ちゃんシャンプーとボディーソープ貸してー」
「ほら」
「ありがと!!
………泡たたない」
「もう2度とクリーム投げしない」
「つーか買ってくんな」
「生クリームは食べるものよ」
着替えて教室に戻れば男の子達は既に食べ始めていた。
「………」
「どうしたんですか?難しい顔して」
「………めぐみん、パンダってシャワー入ったの?」
「入ってましたよ」
「……中身綿なのに?」
「………入ってましたよ」
「オイ、中身綿とか言うなよ。
オレ泣いちゃうぞ?いいのか?」
「脱水した?」
「脱水とか言うなよ」
パンダの謎は深まるばかり……。
「お疲れサマンサー!!
ほら、ハーゲンダッツ」
「……伊地知さんか」
「勿論」
ごさっ、と入った袋を生徒らに渡す。
すぐにアイスだーと袋の中身を見る悠仁くんと野薔薇ちゃん。
アイス争奪戦が始まろうとしていた。
「青春だね」
「あれ青春?」
「くだらないことでも楽しんだら青春でしょ?」
「そーかも」
「名前はくだらないことばっかだったよね」
「ふざけんな。めっちゃ充実させてたわ」
ーーーこの子達の笑顔が
「後悔してる?」
「ん?」
「この世界に踏み込んだ事」
「……聞いてたの?」
「さあ?
けどオマエ、昔からこの世界嫌いでしょ」
「………わぉ、驚いた」
まさか悟に気付かれるなんて。
「巻き込みたくないとは思ったけど……
一緒に居たいから巻き込んだこと後悔してないよ、僕は」
「後悔してるって答えたら殴ってた」
「暴力的だなぁ」
「……私も後悔していないよ」
大っ嫌いな目も
大っ嫌いな世界も変わらない
けど
「悟や皆がいるなら悪くないって思えるよ」
「そっか」
「うん」
理解してくれる人がいる
共有できる人がいる
一人で頑張らなくても
助けてくれる人達がいて
心強くいられる。
「この子達は笑っていて欲しいね」
「うん」
「頑張ってよ、最強」
「育って欲しいからある程度の無茶はさせるよ」
「スパルタだなぁ」
「弱いままならオマエ悲しむし、後悔するでしょ」
「……するね」
「泣くなとは言わないけど泣くなら僕の前だけにしてよ」
「泣きたいときにいないじゃん」
「その時は我慢」
「鬼畜かよ」
「オマエは僕が見付けた僕だけの唯一なんだから。
甘やかすのは許すけど
オマエの弱さを知ってるのは僕だけでいい。
アイツらの前では馬鹿でうるさいお調子者で優しい名前お姉さんでいなよ」
にやり、と口元だけで笑う悟。
目隠しされた目は見えないが……多分私を愛しいというように見ているのだろう。
「弱さを知るのは悟だけでいい……ね」
「当たり前。
オマエの涙を拭うのは僕だけなんだから」
「キュンときたわー」
「でしょ?」
「好きポイント1アップしました」
「1だけ?」
「じゃあ10」
「適当すぎない?」
「そんなもんでしょ」
二人でくっついて笑う私達。
それを見て生徒達はまたか、と呆れている。
「イチャイチャするなら俺らの見えないとこでしてください」
「金取るわよ」
「野薔薇ちゃんおかしくない?」
「見せ付けられてる慰謝料と迷惑料よ」
「わかる」
「しゃけ」
「僕らが羨ましいからって変な因縁つけないでくださーい」
「うぜぇ」
「うざいわね」
「うざいっすね」
「うざいな」
「しゃけ」
「悟フルボッコじゃん」
「名前姉も関係あるはずなんだけど」
ーーー続きますように
「愚かな小娘だな」
ケヒッ、と骨の上で笑う男。
「此方の世界に踏み込まねばまだ長生き出来たものを」
頬杖をつきながら虎杖の目を通して見る。
呪に好かれ
呪に求められ
呪に呪われた女
「楽しませろ小娘」
この呪の王を、飽きさせず
「数ある呪を拒みもがくのか
数ある呪を受け入れ上に立つのか…」
王の隣に立つのか
王を拒み抗うのか
「オマエの絶望する顔が楽しみだな」
ケヒッケヒヒヒッ、と一人で嗤う。
あとがき
第二部終了だぬーーーんっ!!!!
通行人シリーズをここまで読んでくださった方々、応援してくださった方々、ありがとうございます!!
第二部を期待し、切望してくださった方々のおかげで無事?第二部終了!!
第三部も書きたいけどまだまだ本誌の行方が読めないのでしばらく間を開けさせていただきます!!
まさかpixivで遊び半分に書いていた通行人がここまでの大作になると思っておらず……
読み切りとか数話で終わるつもりが続編も期待してもらってここまでこれました。
応援してくださった方々ありがとうございます!!!!
まだまだ通行人の明かされないフラグも回収したいし、宿儺さんと絡んでほしいし、脳ミソとも絡んでほしい。
通行人のボケでどこまで生き残れるのか……!!
ってゆーか、ななみんと絡んでねぇ!!!!
ななみん困らせたいwww
めっちゃななみん困らせたいwww
第三部はまずななみんを困らせようwww
ではまた!!!
「言わない方が良かった?」
「いや……知らなかったらずっと待ってた」
「オマエが気にすることじゃないよ」
そう言いながら頭を撫でてくれた悟。
私に電話を掛けることなく
かけがえのない人さえ奪われ、この世を怨みながらいなくなってしまった一つの命の終わりを知った。
どうか彼が
来世で笑っていられるよう願うばかり……。
ほんの少しだけ……私の話をしよう。
研磨しか知らない、私の秘密の話。
幼い頃、この目が嫌いだった。
この目を通してみる世界が嫌いだった。
今ではこんな陽キャで馬鹿騒ぎしている私だが……研磨しか知らない私がいる。
クロと出会う前……
まだ幼稚園ぐらいの時の話。
私は研磨の後ろに隠れていつも研磨の背中や後頭部や繋いだ手を見ていた。
外に出るのが嫌いで
人と関わるのが嫌いで
家族以外の人間は全て大っ嫌いだった。
だって外には沢山の化物がいる。
大きいのも小さいのも
動物みたいなのも
虫みたいなのも
その化物達は皆私に寄ってきてよくわからない言葉を投げ付ける。
"ヨンデ"
"ハナシテ"
"コエヲ"
"イッテ"
"オネガイ"
ーーードウカ オネガイ ヲ ーーー
私が声を出せばケラケラと喜び近くにいた猫を潰した。
私が声を出せばケラケラと楽しそうに近所の犬を引きちぎった。
私が声を出せばケラケラと嘲笑って………。
怖くなった。
私が話すだけで、声を出すだけで化物は喜ぶ。
触っていた時に引っ掻いて痛みを訴えた時も
リードが外れていて吠えながら追いかけてきた恐怖に拒否の言葉を言った時も
怖くて怖くて誰とも話したくなくて
部屋に引きこもったこともあった。
私は異常でオカシな子だから私が話すだけで家族や研磨に迷惑がかかってしまった時……
私は私を許せなくなる。
「名前」
真っ暗な部屋で布団をかぶって出ようとしない私に研磨が声を掛ける。
「出てきてよ」
「………」
「名前、こっちきて」
「………」
「そんな暗いとこいたら名前まで暗闇に食べられるよ」
「………だって」
「名前が怖がるから喜ぶんだよ」
「え…」
「お化けは人を驚かすのが仕事だから
怖がる人に寄ってくるんだって」
研磨が必死に色んな事を話す。
お化けなんて見ないフリすれば大丈夫。
気付いてる人に寄ってくるんだって。
暗いところに寄ってくるよ。
ウジウジしてたら来るんだよ。
……一人は寂しい。
研磨と手を繋いで、寂しい寂しいって泣いた。
私も研磨も他の友達の輪に入るのが下手くそでいつも二人でいたから、一人の幼稚園も、一人の部屋も寂しかった。
お互い寂しかったと泣いて、しっかり手を握って、額をくっ付ける。
「だいじょうぶ」
「だいじょーぶ」
「けんまはつよいこ」
「名前はつよいこ」
「わらって」
「わらって」
「オネガイしにいこ」
「うん」
近所の誰も来ないような少し古びた神社。
そこは私と研磨の秘密基地。
虫取をしたり、かくれんぼしたり、二人でひっそりと遊ぶ場所。
昔はもう一人居た気がしたが……今は二人の秘密基地。
二人で行って、少ないお小遣いで二人でお願いをした。
「名前をお化けから守ってください」
「守ってください」
お互い目を腫らして笑い合った。
それから私はまた研磨と幼稚園に通うようになった。
二人で手を繋いでいれば、どちらかが弱気になってもどちらかが強くいられると思うから。
見ないフリはなかなか難しくて、いきなり飛び出されると体が反応した。
それでも必死に見ないフリを頑張った。
それから小学生になり、私と研磨が二人でいるのをからかう人が増えた。
デキテイル、ツキアッテル、フウフ
からかう子供に対し、私達は特に気にしなかった。
クロが引っ越してくる頃には私は今のような性格になっていた。
研磨を虐める男子を蹴り飛ばし
クロと男子に混ざって遊んでもらい
研磨とクロを巻き込んでホラー体験したり……。
男勝りで活発で元気な子供。
私が大人しい性格だったなんて今じゃ誰も信じないだろう。
だからこそ、研磨だけは知っている。
私が今もこの目が、この目を通した世界が嫌いなことを。
「なぁ、なんで名前はこの業界に踏み入れようと思ったんダ?
やっぱ悟と居たいから?」
「突然どーしたんすか?パンダ先輩」
「特に理由はないけど気になっただけ」
学長が呼び出されて席を外した途端に、ゆるっとした空気に。
「んー…特に理由は無い、かな。
けど悟が理由っていうのは合ってるかも」
「ノロケか」
「惚気……なら良かったのかなぁ」
窓になったのは見えるから。
けど、それよりも…
「一人になることが嫌だったんだ」
「?」
「いつまでも幼馴染と居られないし私は悟を選んだ。
なら……向き合おうと思ったの」
大っ嫌いな世界。
無くなればいいと思える目。
「可愛いくて生意気な皆にも会えたし
悪いことばかりじゃないかな?って思えるようになったんだよ」
だけど
その目があったから悟や硝子ちゃんにも
みんなにも出会えた。
私しか知らなかった世界がどんどん色付いていく。
「名前は寂しん坊だよな」
「そーだね」
「今ならオレのモフモフ開いてるゾ」
「パンダやーっさしー!!」
「オイ、掃除真面目にしろよ」
「しゃけ」
「ってゆーか馬鹿どこ行ったのよ名前さん」
「五条先生ならさっき逃げたよ」
「はぁ!?」
「あの人が真面目に掃除するわけないだろ」
「悟のことだから面倒だからって術式使いそう」
「名前姉流石にそれは……
………それは、ない……よね?」
「悠仁、馬鹿だぞ?
やるに決まってるだろ」
「ってゆーかさっさと終わらせてシャワー行きたいんだけど」
「超わかる、野薔薇ちゃん。
生クリームがすごいギトギトで不愉快」
「名前がこんなもん買ってくるからダロ」
「やらかしたの棘くんだよ」
「しゃけ」
「てへ☆じゃないから」
怖い。
ーー優しい。
辛い。
ーー楽しい。
苦しい。
ーー愛おしい。
好きになることは出来ないけれど
この世界で生きる人々まで嫌いにはなれなかった。
「うわ……いい年した女がクリームまみれで何してるんだ」
「硝子ちゃん!!」
「ほら着替え」
「ありがとー!!」
「下着はどうするつもりだ?」
「………考えてなかった」
「だろうな。
さっき五条に会ったから頼んでおいたぞ」
「嘘でしょ」
「ノーパンで帰る気か」
それなら着替え一式頼んでくれよ硝子ちゃん。
「……懐かしいな」
「なにが?」
「昔を思い出しただけだ」
「私のやる馬鹿な事に巻き込まれるのが?」
「あぁ」
「懐かしいね」
「懐かしいな」
もう二度と四人で集まることは無いけれど
思い出の中の私達はいつだって笑っている。
「今度三人で流し素麺する?」
「馬鹿か。しない」
「じゃあガムの酸っぱいやつ」
「甘いのはいらん」
「どんじゃら」
「一人足りないだろ」
「久しぶりにファーストフードは?」
「ふっ……それはいいかもな」
青春は一度きり。
「掃除サボってなに黄昏てんの?」
「サボったのは悟じゃん」
「下着持ってきてやったのに」
「ありがとう……って言いたいが彼氏に下着漁られて持ってきてもらうとかつらっ」
「可愛いの選んできたから」
「勝負下着か」
「サラッとやめてよ硝子ちゃん」
ーーーどうかお願い。
「掃除サボってんじゃねーよ馬鹿二人」
「早くしろよ馬鹿二人」
「しゃけ」
「お呼びだよ悟くん」
「僕学長に呼び出されてるよ名前ちゃん」
「何したの」
「どの話だろうね?」
「ちょっと!!ちゃんと掃除しなさいよ!!」
「僕の代わりに頑張ってよ名前」
「OK。
みんな頑張って掃除終わったら悟が高級なもの奢ってくれるってさ」
「今さら高級なものくらいで俺らが動くとでも?」
「はい!!俺うな重!!」
「ハーゲンダッツ1ダース持ってきなさいよ」
「オレウマイもの」
「しゃけ」
「………わりと安いもので動くね、この子ら」
「可愛いよね」
悟からしたら安いものなんだろうね。
ひとまず本気で掃除終わらせて早くシャワーに行きたい。
「じゃあ後よろしく」
「はーい」
くしゃり、と撫でられた頭。
私は悟に笑顔で手を振る。
「さっさと片付けてパーティーの続きしようか」
「その前にシャワーね」
「ベタベタだもんな」
真面目に片付けをしたらすぐに終わった。
そしてぞろぞろとシャワー室に向かう私達。
「真希ちゃんか野薔薇ちゃんシャンプーとボディーソープ貸してー」
「ほら」
「ありがと!!
………泡たたない」
「もう2度とクリーム投げしない」
「つーか買ってくんな」
「生クリームは食べるものよ」
着替えて教室に戻れば男の子達は既に食べ始めていた。
「………」
「どうしたんですか?難しい顔して」
「………めぐみん、パンダってシャワー入ったの?」
「入ってましたよ」
「……中身綿なのに?」
「………入ってましたよ」
「オイ、中身綿とか言うなよ。
オレ泣いちゃうぞ?いいのか?」
「脱水した?」
「脱水とか言うなよ」
パンダの謎は深まるばかり……。
「お疲れサマンサー!!
ほら、ハーゲンダッツ」
「……伊地知さんか」
「勿論」
ごさっ、と入った袋を生徒らに渡す。
すぐにアイスだーと袋の中身を見る悠仁くんと野薔薇ちゃん。
アイス争奪戦が始まろうとしていた。
「青春だね」
「あれ青春?」
「くだらないことでも楽しんだら青春でしょ?」
「そーかも」
「名前はくだらないことばっかだったよね」
「ふざけんな。めっちゃ充実させてたわ」
ーーーこの子達の笑顔が
「後悔してる?」
「ん?」
「この世界に踏み込んだ事」
「……聞いてたの?」
「さあ?
けどオマエ、昔からこの世界嫌いでしょ」
「………わぉ、驚いた」
まさか悟に気付かれるなんて。
「巻き込みたくないとは思ったけど……
一緒に居たいから巻き込んだこと後悔してないよ、僕は」
「後悔してるって答えたら殴ってた」
「暴力的だなぁ」
「……私も後悔していないよ」
大っ嫌いな目も
大っ嫌いな世界も変わらない
けど
「悟や皆がいるなら悪くないって思えるよ」
「そっか」
「うん」
理解してくれる人がいる
共有できる人がいる
一人で頑張らなくても
助けてくれる人達がいて
心強くいられる。
「この子達は笑っていて欲しいね」
「うん」
「頑張ってよ、最強」
「育って欲しいからある程度の無茶はさせるよ」
「スパルタだなぁ」
「弱いままならオマエ悲しむし、後悔するでしょ」
「……するね」
「泣くなとは言わないけど泣くなら僕の前だけにしてよ」
「泣きたいときにいないじゃん」
「その時は我慢」
「鬼畜かよ」
「オマエは僕が見付けた僕だけの唯一なんだから。
甘やかすのは許すけど
オマエの弱さを知ってるのは僕だけでいい。
アイツらの前では馬鹿でうるさいお調子者で優しい名前お姉さんでいなよ」
にやり、と口元だけで笑う悟。
目隠しされた目は見えないが……多分私を愛しいというように見ているのだろう。
「弱さを知るのは悟だけでいい……ね」
「当たり前。
オマエの涙を拭うのは僕だけなんだから」
「キュンときたわー」
「でしょ?」
「好きポイント1アップしました」
「1だけ?」
「じゃあ10」
「適当すぎない?」
「そんなもんでしょ」
二人でくっついて笑う私達。
それを見て生徒達はまたか、と呆れている。
「イチャイチャするなら俺らの見えないとこでしてください」
「金取るわよ」
「野薔薇ちゃんおかしくない?」
「見せ付けられてる慰謝料と迷惑料よ」
「わかる」
「しゃけ」
「僕らが羨ましいからって変な因縁つけないでくださーい」
「うぜぇ」
「うざいわね」
「うざいっすね」
「うざいな」
「しゃけ」
「悟フルボッコじゃん」
「名前姉も関係あるはずなんだけど」
ーーー続きますように
「愚かな小娘だな」
ケヒッ、と骨の上で笑う男。
「此方の世界に踏み込まねばまだ長生き出来たものを」
頬杖をつきながら虎杖の目を通して見る。
呪に好かれ
呪に求められ
呪に呪われた女
「楽しませろ小娘」
この呪の王を、飽きさせず
「数ある呪を拒みもがくのか
数ある呪を受け入れ上に立つのか…」
王の隣に立つのか
王を拒み抗うのか
「オマエの絶望する顔が楽しみだな」
ケヒッケヒヒヒッ、と一人で嗤う。
あとがき
第二部終了だぬーーーんっ!!!!
通行人シリーズをここまで読んでくださった方々、応援してくださった方々、ありがとうございます!!
第二部を期待し、切望してくださった方々のおかげで無事?第二部終了!!
第三部も書きたいけどまだまだ本誌の行方が読めないのでしばらく間を開けさせていただきます!!
まさかpixivで遊び半分に書いていた通行人がここまでの大作になると思っておらず……
読み切りとか数話で終わるつもりが続編も期待してもらってここまでこれました。
応援してくださった方々ありがとうございます!!!!
まだまだ通行人の明かされないフラグも回収したいし、宿儺さんと絡んでほしいし、脳ミソとも絡んでほしい。
通行人のボケでどこまで生き残れるのか……!!
ってゆーか、ななみんと絡んでねぇ!!!!
ななみん困らせたいwww
めっちゃななみん困らせたいwww
第三部はまずななみんを困らせようwww
ではまた!!!