先輩シリーズ (五条)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部屋に戻っても
眠ることが出来ず
ふらふらと部屋を抜け出し
寮の外へ。
月明かりを頼りに
宛もなくさ迷う。
高専内は広く、少し離れれば
森になっている。
どこまで歩いてきたのか
気付けば寮からかなり離れていた。
静かな森は、風の音だけが響いている。
「………はぁ」
溜め息が一つ。
ごちゃごちゃと考えがまとまらず
考えることを放棄したのだが
それでは駄目だと、その場に腰を下ろす。
おにーさんの最期が過る。
私を見て、笑っていた。
呟くように言った名前に
私の名前、覚えていたのかと。
温かな血が
冷たく固まっていく感覚。
重たくなって
冷たくなっていく温度に
人は死ぬんだ、と
改めて思う。
同業者が死んでいくのを
見たことがなかったわけじゃないのに
「………ばか」
勝手にいなくなって
勝手に死んで
あの頃みたいな眼差しで
あの頃みたいな優しい顔して
「ばーーかっ」
涙は出てこない。
涙は流れない。
悲しいのに
辛いのに
あんな満たされた顔をされたら
私は…
じゃりっ、と誰かの足音がした。
次の瞬間には、慣れた匂いと温もりに包まれる。
「泣いてんの?」
頭を横に振る。
「名前に戦い方教えたの、あいつだろ」
「うん」
「好きだったやつも」
「うん」
「置いてったのも」
「うん」
今の私は
おにーさんがいたからこそ
強さを得て、ここにいる。
「俺のこと恨む?」
悟の言葉に、頭を横に振る。
「俺さ」
「?」
「あいつに一回殺されたんだけど」
「は?」
くるり、と振り向けば
悟は前髪をかきあげおでこを見せる。
そこには、傷跡のようなものが見える。
「喉ぶっ刺されて
引き裂かれて
足ズタズタに刺されて
頭刺された」
「え?何で生きてんの?」
「酷くない?」
「悟……生きて、るよね?」
「死んでたら触れねーじゃん」
悟の頬に手を伸ばせば温かい。
私の手にすり寄ってくる悟は
にっ、と笑った。
「…悟、反転術式出来たの?」
「成功したことねーよ」
「失敗してたら、終わりじゃん」
「喉ぶっ刺された時に反撃諦めて
反転術式に集中した。
死に際に掴んだ呪力の核心だよ」
とんとん、と自分の額を指差す悟。
「強かった」
「……うん」
「名前より
えげつない戦い方するやつだった」
「……何か、言ってた?」
「数年後にガキが禪院に売られるから
好きにしろってさ」
「そっか」
子供が出来たと言っていたが
その子は術式を持って産まれたのだろう。
「名前」
手合わせしよ、と悟は立ち上がった。
術式無しの組み手ね、と
勝手に決めて私の目の前に立つ。
悟とは、気まずくなってから
組み手はしていない。
傑とはしていたが、最近だと
傑の方が手を抜いてくれていて
引き分けにされてしまう。
2人は、本当に強くなった。
遠慮なく、悟の急所を狙っていくが
悟は余裕を持って避けている。
おにーさんのような速さはないので
柔軟と素早さでカバーしてきた。
「本当、似ててムカついてくるんだけど」
「………悟」
「何」
「私、悟が怖かったよ」
「知ってる」
「無視されてても
避けられても
寂しかったけど、平気だった」
けど、あの時
「悟が別人に見えて、怖かった」
おにーさんが死んだよりも
悟が変わってしまうことが怖かった。
「悟に手を伸ばせなかった」
もう、呆れられたと
終わったのだと思った。
悟の正面に立ち
真っ直ぐ悟を見つめる。
「ごめんね」
「………何か一人で
勝手に盛り上がってるけどさ」
スタスタと距離を縮めに来た悟。
ぐっと、身を屈めて視線を合わせてくれる。
「俺がいつ、名前を諦めるっつった?」
「………だけど」
「勝手にお前が
俺の気持ち知った気でいるなよ」
「………」
「お前の初恋とか知らねーし
婚約者とか知らねーし
元々俺は気が長い方じゃないし
グダグダ理由つけられて逃げ道与えるのは
もう止めた」
屈めていた腰を伸ばし
真っ直ぐ立っている悟。
「俺のものになれよ、名前
血筋も、才能も、ガキのことも
何もかも棄てて
俺のことだけ考えてろよ」
月明かりに照らされた
髪がキラキラしていて
真っ暗な空なのに
綺麗な空色が笑う。
「くだらない名前のアレコレは
全部俺がどうにかしてやる
だから、黙って俺と結婚しなさい」
「……馬鹿だね。悟
私なんかに、そんな価値ないのに」
「………名前って自己評価低すぎない?」
「普通だと思うけど」
「術式は残念だし
強いけど弱いし
頑固だし
男運悪いし
甘いし
辛い人生歩もうとするド変態だけどさ」
「………そんな…うん、ソーデスネ」
「綺麗で、強くて、強さに自信あるところが
格好いいと思ってる。
けど、甘えん坊で、自分に自信のないところが
可愛くて守りたくなる」
へらり、と笑う悟。
「俺は死なないよ
置いていかない」
だからーー
「名前が好きだよ」
ぽろり、と涙が出た。
そのまま、悟へと抱きつけば
悟は嬉しそうに笑った。
「来年の俺の誕生日に、結婚しよ」
「学生じゃん」
「入籍したもん勝ち」
「馬鹿じゃん」
「名前が俺のになるなら
手段なんて選ばねーよ」
もう、充分待った。
だから、離してやらない。
そう呟いた悟に
また涙が溢れる。
「付き合った記念に、休みの日どっか行く?」
「付き合ってないし、多忙な時期なので
休みもありません」
「はぁ?」
苛ついた悟の声。
そっと、両手で悟の頬を包む。
「来年の悟の誕生日に
今と同じ気持ちだったときに
悟が最高のプロポーズしてよ」
「………逆プロポーズ受けた気分」
「悟……待てる?」
「離れたいって言っても
2度と離してやんねぇ」
重なりあった唇に
幸せを感じた。
私は、親の愛が欲しかった。
"私"を見て欲しかった。
おにーさんが"私"を見てくれた。
だから私は嬉しくて
おにーさんに無意識に依存していった。
特別な好きだった。
おにーさんも私に特別な感情を持って
可愛がってくれているとわかったから
お互いに依存していたのかもしれない。
特別な存在。
けど、おにーさんは私とお別れした。
私を大切でも、置いていくことを選び
あの日、私と決別した。
自分の自由を得るために
自分以外のものは置いていった。
あの時、私は
おにーさんは戻ってきてくれると
私を連れ出してくれると
どこかで勝手に期待していて
迎えに来てくれない日々に
お別れ出来なかったこと悔いて
どんどんとあの家に執着していった。
親を言い訳にして
婚約者を言い訳にして
真希と真衣を言い訳にして
おにーさんを言い訳にして
嫌いな場所なのに
おにーさんとの思い出の場所に執着し
迎えになんてこないのに
自分で自分の首を絞めていった。
捨てたかった。
どんなに期待されても
私の術式はちっぽけなもので
女の私には、いつか限界がきてしまう。
けど、自分を強く見せていないと
誰も"私"を見てはくれない。
子供のように駄々をこねて
存在感を出して
構ってほしかっただけ。
そんなことしていても
結局は誰も見てはくれないのに。
ただ、あの日
意地を張って
執着しなければ良かったのかと
自問自答しては
戻れることなく
自分の首を絞めていく。
このまま、苦しくても
自分の首を絞めて生きていかなきゃと
そう思っていたのに…
なのに
おにーさんは目の前に現れた。
我が儘ばかりの私を見て
仕方ない、と笑っていたあの頃のように。
おにーさんが息絶える時を
私は見守っていた。
2度と戻っては来ないのに
どこか、満たされた気持ちになった。
「おにーさん………」
私は寂しかったんだ。
けど
おにーさんを看取れた時
確かに満たされた。
特別な存在だった人と
最期に共に居られた。
直接お別れは出来なかったけど
確かに、あの瞬間
私の鎖がほどけた気がした。
馬鹿な私を
おにーさんは迎えにきて
余計なモノだけ取り払っていなくなった。
ーーー本当、面倒臭ぇやつ
そう言いながら
笑うおにーさんの声が聞こえた気がした。
「………さよなら、おにーさん」
私はやっと
あの日の私の背中を押してあげられた。
泣いて、泣いて
一人は寂しいと
一人は嫌だと
駄々をこねる子供の私に
大丈夫だと、言えた気がした。
あとがき
思っていた
最初書いていたものとは
違うものになってしまった……。
消えるの本当辛い……
眠ることが出来ず
ふらふらと部屋を抜け出し
寮の外へ。
月明かりを頼りに
宛もなくさ迷う。
高専内は広く、少し離れれば
森になっている。
どこまで歩いてきたのか
気付けば寮からかなり離れていた。
静かな森は、風の音だけが響いている。
「………はぁ」
溜め息が一つ。
ごちゃごちゃと考えがまとまらず
考えることを放棄したのだが
それでは駄目だと、その場に腰を下ろす。
おにーさんの最期が過る。
私を見て、笑っていた。
呟くように言った名前に
私の名前、覚えていたのかと。
温かな血が
冷たく固まっていく感覚。
重たくなって
冷たくなっていく温度に
人は死ぬんだ、と
改めて思う。
同業者が死んでいくのを
見たことがなかったわけじゃないのに
「………ばか」
勝手にいなくなって
勝手に死んで
あの頃みたいな眼差しで
あの頃みたいな優しい顔して
「ばーーかっ」
涙は出てこない。
涙は流れない。
悲しいのに
辛いのに
あんな満たされた顔をされたら
私は…
じゃりっ、と誰かの足音がした。
次の瞬間には、慣れた匂いと温もりに包まれる。
「泣いてんの?」
頭を横に振る。
「名前に戦い方教えたの、あいつだろ」
「うん」
「好きだったやつも」
「うん」
「置いてったのも」
「うん」
今の私は
おにーさんがいたからこそ
強さを得て、ここにいる。
「俺のこと恨む?」
悟の言葉に、頭を横に振る。
「俺さ」
「?」
「あいつに一回殺されたんだけど」
「は?」
くるり、と振り向けば
悟は前髪をかきあげおでこを見せる。
そこには、傷跡のようなものが見える。
「喉ぶっ刺されて
引き裂かれて
足ズタズタに刺されて
頭刺された」
「え?何で生きてんの?」
「酷くない?」
「悟……生きて、るよね?」
「死んでたら触れねーじゃん」
悟の頬に手を伸ばせば温かい。
私の手にすり寄ってくる悟は
にっ、と笑った。
「…悟、反転術式出来たの?」
「成功したことねーよ」
「失敗してたら、終わりじゃん」
「喉ぶっ刺された時に反撃諦めて
反転術式に集中した。
死に際に掴んだ呪力の核心だよ」
とんとん、と自分の額を指差す悟。
「強かった」
「……うん」
「名前より
えげつない戦い方するやつだった」
「……何か、言ってた?」
「数年後にガキが禪院に売られるから
好きにしろってさ」
「そっか」
子供が出来たと言っていたが
その子は術式を持って産まれたのだろう。
「名前」
手合わせしよ、と悟は立ち上がった。
術式無しの組み手ね、と
勝手に決めて私の目の前に立つ。
悟とは、気まずくなってから
組み手はしていない。
傑とはしていたが、最近だと
傑の方が手を抜いてくれていて
引き分けにされてしまう。
2人は、本当に強くなった。
遠慮なく、悟の急所を狙っていくが
悟は余裕を持って避けている。
おにーさんのような速さはないので
柔軟と素早さでカバーしてきた。
「本当、似ててムカついてくるんだけど」
「………悟」
「何」
「私、悟が怖かったよ」
「知ってる」
「無視されてても
避けられても
寂しかったけど、平気だった」
けど、あの時
「悟が別人に見えて、怖かった」
おにーさんが死んだよりも
悟が変わってしまうことが怖かった。
「悟に手を伸ばせなかった」
もう、呆れられたと
終わったのだと思った。
悟の正面に立ち
真っ直ぐ悟を見つめる。
「ごめんね」
「………何か一人で
勝手に盛り上がってるけどさ」
スタスタと距離を縮めに来た悟。
ぐっと、身を屈めて視線を合わせてくれる。
「俺がいつ、名前を諦めるっつった?」
「………だけど」
「勝手にお前が
俺の気持ち知った気でいるなよ」
「………」
「お前の初恋とか知らねーし
婚約者とか知らねーし
元々俺は気が長い方じゃないし
グダグダ理由つけられて逃げ道与えるのは
もう止めた」
屈めていた腰を伸ばし
真っ直ぐ立っている悟。
「俺のものになれよ、名前
血筋も、才能も、ガキのことも
何もかも棄てて
俺のことだけ考えてろよ」
月明かりに照らされた
髪がキラキラしていて
真っ暗な空なのに
綺麗な空色が笑う。
「くだらない名前のアレコレは
全部俺がどうにかしてやる
だから、黙って俺と結婚しなさい」
「……馬鹿だね。悟
私なんかに、そんな価値ないのに」
「………名前って自己評価低すぎない?」
「普通だと思うけど」
「術式は残念だし
強いけど弱いし
頑固だし
男運悪いし
甘いし
辛い人生歩もうとするド変態だけどさ」
「………そんな…うん、ソーデスネ」
「綺麗で、強くて、強さに自信あるところが
格好いいと思ってる。
けど、甘えん坊で、自分に自信のないところが
可愛くて守りたくなる」
へらり、と笑う悟。
「俺は死なないよ
置いていかない」
だからーー
「名前が好きだよ」
ぽろり、と涙が出た。
そのまま、悟へと抱きつけば
悟は嬉しそうに笑った。
「来年の俺の誕生日に、結婚しよ」
「学生じゃん」
「入籍したもん勝ち」
「馬鹿じゃん」
「名前が俺のになるなら
手段なんて選ばねーよ」
もう、充分待った。
だから、離してやらない。
そう呟いた悟に
また涙が溢れる。
「付き合った記念に、休みの日どっか行く?」
「付き合ってないし、多忙な時期なので
休みもありません」
「はぁ?」
苛ついた悟の声。
そっと、両手で悟の頬を包む。
「来年の悟の誕生日に
今と同じ気持ちだったときに
悟が最高のプロポーズしてよ」
「………逆プロポーズ受けた気分」
「悟……待てる?」
「離れたいって言っても
2度と離してやんねぇ」
重なりあった唇に
幸せを感じた。
私は、親の愛が欲しかった。
"私"を見て欲しかった。
おにーさんが"私"を見てくれた。
だから私は嬉しくて
おにーさんに無意識に依存していった。
特別な好きだった。
おにーさんも私に特別な感情を持って
可愛がってくれているとわかったから
お互いに依存していたのかもしれない。
特別な存在。
けど、おにーさんは私とお別れした。
私を大切でも、置いていくことを選び
あの日、私と決別した。
自分の自由を得るために
自分以外のものは置いていった。
あの時、私は
おにーさんは戻ってきてくれると
私を連れ出してくれると
どこかで勝手に期待していて
迎えに来てくれない日々に
お別れ出来なかったこと悔いて
どんどんとあの家に執着していった。
親を言い訳にして
婚約者を言い訳にして
真希と真衣を言い訳にして
おにーさんを言い訳にして
嫌いな場所なのに
おにーさんとの思い出の場所に執着し
迎えになんてこないのに
自分で自分の首を絞めていった。
捨てたかった。
どんなに期待されても
私の術式はちっぽけなもので
女の私には、いつか限界がきてしまう。
けど、自分を強く見せていないと
誰も"私"を見てはくれない。
子供のように駄々をこねて
存在感を出して
構ってほしかっただけ。
そんなことしていても
結局は誰も見てはくれないのに。
ただ、あの日
意地を張って
執着しなければ良かったのかと
自問自答しては
戻れることなく
自分の首を絞めていく。
このまま、苦しくても
自分の首を絞めて生きていかなきゃと
そう思っていたのに…
なのに
おにーさんは目の前に現れた。
我が儘ばかりの私を見て
仕方ない、と笑っていたあの頃のように。
おにーさんが息絶える時を
私は見守っていた。
2度と戻っては来ないのに
どこか、満たされた気持ちになった。
「おにーさん………」
私は寂しかったんだ。
けど
おにーさんを看取れた時
確かに満たされた。
特別な存在だった人と
最期に共に居られた。
直接お別れは出来なかったけど
確かに、あの瞬間
私の鎖がほどけた気がした。
馬鹿な私を
おにーさんは迎えにきて
余計なモノだけ取り払っていなくなった。
ーーー本当、面倒臭ぇやつ
そう言いながら
笑うおにーさんの声が聞こえた気がした。
「………さよなら、おにーさん」
私はやっと
あの日の私の背中を押してあげられた。
泣いて、泣いて
一人は寂しいと
一人は嫌だと
駄々をこねる子供の私に
大丈夫だと、言えた気がした。
あとがき
思っていた
最初書いていたものとは
違うものになってしまった……。
消えるの本当辛い……