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「恵くん」
姉とは違う笑顔。
姉とは違う料理の味。
姉とは違う声。
それでも
彼女の全てが俺を大事にしていてくれて
暖かくて、くすぐったかった。
最初の頃はどう接すればいいのかわからず、必要最低限の言葉のみで部屋に籠ろうと思っていたのだが………
「恵くん、DVDみるー?」
「恵くーん、一緒に買い物行かない?」
「めっぐ、ご飯できたよー出ておいで!!」
「めぐめぐ、一緒にお茶会なさらない?」
「めぐみーん、一杯付き合ってよ。
あ、めぐみんはジュースね」
めちゃくちゃ関わってくる。
部屋に居ようが乗り込んでくるから、もういっそ一緒に居た方がいい気がして、寝るとき以外はリビングに居ることにした。
「何でそんな気にかけてくれるんですか」
「何が?」
「五条さんの彼女であるあなたが俺の世話全てしなくても平気です」
他人。
たまたま一緒に過ごしてるだけ。
おかしな空間。
彼氏であるはずの五条さんは特級で忙しくあちこち飛び回っているので、ゆっくりこの家に居る時間は少ない。
「子供がそんなこと気にしないの」
「気にします」
「恵くんって甘え下手?それとも甘え方知らず?
あ、反抗期とか?思春期だもんね」
「…………」
「無言やめてよ。なんか滑ってる感ヤバいじゃん」
くすくすと何が楽しいのか、俺と話すと楽しそうにしている。
気の効いた言葉を言ったわけじゃない。
むしろ、いつも素っ気ない態度しかできない。
「もしかしなくても絡み方うざい?」
「………少し」
「すまん、慣れて」
「直す気無しですか」
「この家広すぎるのに、いつも一人でいたからさ。
誰かがいるのが嬉しいんだ」
お酒片手にテレビを見る彼女。
リビングのテーブル席に座る俺に対し、ソファーに座る彼女。
これが俺達の距離感。
他人であり、顔見知りであり、世話する人とされる人。
特別な関係でもなければ、成り行きで一緒に過ごすことになった人。
「悟は忙しいからね」
「そうですね」
「一人で食べるご飯より、誰かと一緒に食べた方が美味しいし
誰かと話すのは楽しいことだよ」
その言葉に、姉が倒れてから一人過ごしてきた日々を思い出す。
少し多めに作った料理。
温かいのにどこか冷たいご飯。
自分の動きの音しかしない家。
テレビの音だけが響く静かな部屋。
一人、というのは慣れてしまうが……
どこか虚無感だけは消えずに残ってしまう。
ここに来てからは
朝起きれば良い香りと「おはよう」の言葉と温かいご飯。
外に出るときには「いってきます」「いってらっしゃい」と。
戻って来たときには「おかえり」と。
自分以外の気配があり、話せば返ってくる言葉がある。
少し前には俺にもそうしてくれる人がいて
小さな小言を言われながら過ごしていた。
それが突然無くなってしまい、静かな家で静かに息をしていた。
「一人は寂しいからね」
その言葉が、俺に言ったのか……
はたまた彼女自身の思いが溢れたのかわからない。
けど、その気持ちはよくわかった。
一緒に住んでいても帰らない五条さん。
帰って来たときにには彼女もいつも通りに振る舞うが、いつもより楽しそうだし嬉しそうだ。
よく笑い
よく話し
コロコロ変わる表情
姉と過ごしていた"普通"の生活を思い出させる彼女。
失って気付く、寂しさや不安。
知っているからこそ欲しくなる温もり。
「名前さん」
「なぁに?恵くん」
「一緒に映画観ません?」
「いいね!!何見る?ムカデ人間?」
「なんでそれなんですか」
「たまーに観たくならない?」
「なりませんよ」
彼女が意識して、気遣ってくれているだけじゃなく、自然に出来てしまう人だと気付いた時には自分は彼女に甘えていた。
テーブル席と離れたソファーに居た距離が、いつの間にか自分から彼女の隣に座って一緒にテレビを眺めていたし、そのまま寝るときもあった。
一緒に買い物しながら、一緒にキッチンに立つ。
たまに暴言を吐けば落ち込んだり、言い返されたりして二人で笑う。
「ただいま」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「………君ら仲良くなりすぎじゃない?」
「え?そう?」
「普通ですよ」
「距離感近い」
「「?」」
五条さんに指摘されても何が?と思い付かないほど彼女に慣れてしまっていた。
「恵良い感じに毒されてんね」
「………ですね」
ケラケラ笑う五条さん。
よく考えておかしくないか?と思う自分と、あの人と距離を置く……いや、無理だと早々に諦めてしまう自分。
今さら最初の頃のように部屋に籠ろうとは思えず、どうしたものかと悩みだす。
「まぁいーけど」
「………嫌じゃないんですか?」
「嫌なら恵を名前に預けないよ。
名前の距離感のおかしさには慣れてるから」
その言葉に納得したのは、幼馴染から連絡がきてまた荷物が増えたから受け取りに行くと言った彼女に五条さんも着いていくと言った時。
「ほら、恵も行くよ」
「は?なんでですか」
「恵くん、用意して。ほらほら」
「は?」
なぜか彼女の幼馴染の家に行くことなり、意味もわからず着いていく。
「研磨ただいまー」
「ただいまー」
「……お邪魔します」
まず、なんで幼馴染の家に彼女も五条さんまでただいまなのか。
ツッコミたかったが、まるで実家のように家主が見えなくても入って行く二人。
「おかえり」
「うわっ。今回もなかなか溜まったね」
「あの人達いつまで送って来る気なんだろ」
「鉄朗邪魔。僕コタツ入れない」
「邪魔って酷くない?先に居たの僕です」
「クロ寝そべってないで避けて」
「クロ、足邪魔」
トサカみたいな髪型の人が追いやられている。
五条さんは慣れた様子でコタツに入るし、染め直していないままの髪の人はゲームをしているし、彼女は大量の荷物を開けている。
「恵もコタツ入りなよ」
「何でそんな和んでるんすか」
ここ、一応彼女の幼馴染の家だよな?
姉弟でもなければ一応他人だよな?
幼馴染ってこんな密になるもんか?
「………誰」
「恵だよ、研磨」
「どんな関係?って聞きたかったんだろ」
「今年度の悟のとこの生徒。
けど、色々あって今悟の家で預かってるのさ」
「ふーん」
「………ってことは名前が面倒見てんの?」
「そりゃそーでしょ」
「オマエ……中学生に手出しちゃダメだぞ」
「トサカむしるぞ」
ニヤニヤしながら冗談を話すクロ?さん。
それに対して絶対零度の視線を向ける彼女。
研磨さんがこっちをじっと見てる。
「座れば」
「……失礼します」
「研磨、アップルパイ風味のお菓子だって」
「いる」
「はい」
「ん」
は?と、己の目を疑った。
流れるように包装の袋を破き、研磨さんの口に運ぶ彼女。
ゲームから目を離さず食べる研磨さん。
「どう?」
「………アップルパイではない」
「風味、だからね」
「名前、僕にもちょーだい」
「はい」
「………そこは研磨みたいにしてよ」
「悟くん、それは無理ダロ」
その後も研磨さんと彼女の距離感のおかしさに何度か五条さんを見たが、特に気にしていない。
クロさんには当たりキツめなのに、研磨さんとの阿吽の呼吸にあれ?付き合ってんの?いや、姉弟?……母かな?と頭をフル回転した。
「恵くんもほら、お食べ」
「お土産すごいですね」
「うん。だから消費して」
「持ち帰れよ」
「真希ちゃん達にも配るかな……今回お菓子率高過ぎ」
「前回の謎のお土産シリーズよりいいよ」
「あれはね……」
「クロも持ってってね」
「ハイハイ」
おかしな空間にもそもそお菓子を食べる。
何で俺、ここにいるんだろ。
五条さんは普通にテレビ見てるし
彼女はなぜか料理を始めた。
研磨さんはゲームしていて
クロさんは………なぜか俺をじっと見てる。
「………なんですか」
「悟くんの生徒だっけ?
悟くんいけないんだー。生徒に手ェ出してる」
「出して無いし。恵の保護者が僕なの」
「似てない兄弟ダネ」
「五条さんとは血の繋がり無いんで」
「クロ、面白がって首突っ込むのやめなよ」
「妹分が野郎とでかい子供連れてきた時の親の心境考えて」
「クロが親とか名前嫌がりそう」
「迷惑かけた自覚はあるけど、クロに育てられた覚えはない」
「はいでたー。この幼馴染コンビの鞭。
僕、心が折れそうです」
鼻で笑う彼女と研磨さん。
彼らにとってクロさんはそーゆー扱いらしい。
「その年で大きい子供の保護者とか訳ありすぎんだろ。
面白がってるわけじゃないけど大変なこともあるだろ?」
「名前に任せてる事多くて苦労かけてんのはわかってるよ」
「名前は大丈夫だ」
「平気」
「「長年(研磨・俺)の面倒見てるから」」
「僕、君らのそーゆーとこ好き」
ケラケラ笑う五条さん。
普通幼馴染なら心配するべきでは?
なぜ世話に関して太鼓判押してんだ?
「少年、大丈夫か?」
「お世話になってます」
「世話好きなのは昔っからだから気にすんな。
けど、アレと暮らすには少年には重荷なんじゃ?」
「?」
「風呂にいきなり入って来て裸ガン見したり
風呂上がりに髪濡れたままにしたり
どこでも寝たり
突然部屋に入って来たり……」
「慣れました」
「………オイ、名前ちゃーん。
いたいけな少年を毒すなよ」
「人を痴女扱いやめてくんない?
お風呂はちょっとタイミング悪くセクハラしちゃったけど……」
「オイ」
「恵くんは研磨や悟よりは全然手がかからないから」
「僕だってやればできる子ですー」
「俺はやりたくない」
晩御飯の用意が出来たらしく、並べていく彼女。
大人数でのご飯なんてほとんど経験が無いから戸惑ってしまう。
けど、騒がしくて慌ただしくて喧しくて……楽しくて。
いつもと変わらない彼女の料理がもっと美味しく感じられた。
「少年、名前にセクハラされたら言えよ。
黒尾お兄さんが助けてやるから」
「クロ、三十路越えたらもうおじさんだよ」
「やめてくんない?俺はまだお兄さん!!」
「お兄さん、三十路越えて寝癖のまま歩かないで」
「これはオシャレ!!!」
嘘だろ?
あれ寝癖……!?
みんなで笑いながらご飯を食べて
お土産もらって帰って来た。
「恵」
「なんですか」
「名前寂しがりだから僕が居ないときは構ってやってね」
見えていない幼馴染達に大切にされ
見えていることに理解してもらい
大切に愛されてきた彼女。
贅沢だ、と思える環境にいるのに
彼女は此方に手を伸ばす。
普通を手放し、非日常に足を踏み込むのは
どんなに勇気がいることなのだろうか。
贅沢で幸せに囲まれて生きる道もあったのに。
「五条さん」
「なに?」
「なんであの人と一緒に居るんですか」
手離せば彼女はまだ戻れるはず。
一番危なくて厄介な相手と共に居なくてもいいはずだ。
見えていても、彼女には普通の居場所がある。
「名前と居るとさ、楽しいんだよね。
馬鹿だし、飽きないし、突拍子もなくやらかすし」
"最強"であるが故に、浮いていて
"最強"であるが為に、融通が効いて
"最強"であるあらこそ、守ることができる人。
「僕が僕で居られるから」
"最強"が溢した小さな弱音。
いや、弱音にすらならないのかもしれないが…
いつも悠々として適当な五条さんの本音を聞いた気がした。
「名前が普通で居てくれると
普通から離れている僕らには
眩しくて羨ましくて安心すんだよ」
呪術師ではなく、御三家でもなく、たった一人の個人として扱ってくれる人。
自分を見てくれる人。
だから、手を伸ばしたくなる。
彼女なら……その手を掴んでくれるとわかっているから。
「非呪術師代表ってわけじゃないけど、名前との関わりは君らにとって必ずプラスになるから」
此方の世界に関われば、一瞬で命を刈られてしまう弱い存在。
俺らが守らなければいけない存在。
けど、世界は彼女のような人間ばかりではないと知っている。
「いつか誰かに取られますよ」
彼女は暖かすぎる。
一度触れてしまえば、離れがたくなる。
「あげないよ。
僕が見付けた僕のだからね」
「すっげー自信」
「僕以上に名前を惚れさせられるとしたら、研磨くらいだと思ってるから」
「………無理ですね」
あの仲に入って行ける猛者がいるとしたら、それは空気も読めない愚か者だ。
早々にダメージくらって自信喪失するレベル。
「よくあの人手にできましたね」
「めちゃくちゃ苦労した」
「でしょうね」
彼女の隣は心地がいい。
生きている、と教えてくれるようで安心する。
だから
「仕方ないから、アンタがいない時は変なの寄り付かないように見ておきます」
「恵、惚れちゃ駄目だよ」
「………アンタやあの幼馴染を敵にしたくない」
「研磨と鉄朗は手強いよ」
「なーに楽しそうに二人で話してんの?」
また髪の毛乾かさないで風呂から上がってきた彼女。
五条さんが手招きすれば近寄って、肩に掛けたタオルでゴシゴシ拭かれている。
「名前がまた髪の毛乾かさないで出てくるだろうね、って話」
「悟、乾かして」
「恵ドライヤーある?」
「取ってきます」
2人の話声が聞こえる。
楽しそうに控え目に笑っていて、たまに五条さんが悪戯に軽いキスをしている。
「そーゆーことは俺のいないとこでしてください」
「恵のエッチ。盗み見は良くないよ」
「………殴っていいっすか?」
「暴力反対!!反抗期なんだから」
全ての人間を救いたいと思わない。
全ての人間がいい奴らだとは思わない。
姉が、彼女が
自分が居ない未来でも笑って居てほしいと願いながら俺は俺のすべきことをする。
あとがき
めぐみん視点からの閑話。
入学する少し前だと思ってほしいです。
めぐみんって面倒見いい人に懐くの早そうなイメージ。
あと、寂しがりにそっと寄り添える出来る男。
幼少期に甘やかされ慣れてないから、ちょっと野良猫感あるけど、気付いたら隣居て距離感0的な(笑)
姉とは違う笑顔。
姉とは違う料理の味。
姉とは違う声。
それでも
彼女の全てが俺を大事にしていてくれて
暖かくて、くすぐったかった。
最初の頃はどう接すればいいのかわからず、必要最低限の言葉のみで部屋に籠ろうと思っていたのだが………
「恵くん、DVDみるー?」
「恵くーん、一緒に買い物行かない?」
「めっぐ、ご飯できたよー出ておいで!!」
「めぐめぐ、一緒にお茶会なさらない?」
「めぐみーん、一杯付き合ってよ。
あ、めぐみんはジュースね」
めちゃくちゃ関わってくる。
部屋に居ようが乗り込んでくるから、もういっそ一緒に居た方がいい気がして、寝るとき以外はリビングに居ることにした。
「何でそんな気にかけてくれるんですか」
「何が?」
「五条さんの彼女であるあなたが俺の世話全てしなくても平気です」
他人。
たまたま一緒に過ごしてるだけ。
おかしな空間。
彼氏であるはずの五条さんは特級で忙しくあちこち飛び回っているので、ゆっくりこの家に居る時間は少ない。
「子供がそんなこと気にしないの」
「気にします」
「恵くんって甘え下手?それとも甘え方知らず?
あ、反抗期とか?思春期だもんね」
「…………」
「無言やめてよ。なんか滑ってる感ヤバいじゃん」
くすくすと何が楽しいのか、俺と話すと楽しそうにしている。
気の効いた言葉を言ったわけじゃない。
むしろ、いつも素っ気ない態度しかできない。
「もしかしなくても絡み方うざい?」
「………少し」
「すまん、慣れて」
「直す気無しですか」
「この家広すぎるのに、いつも一人でいたからさ。
誰かがいるのが嬉しいんだ」
お酒片手にテレビを見る彼女。
リビングのテーブル席に座る俺に対し、ソファーに座る彼女。
これが俺達の距離感。
他人であり、顔見知りであり、世話する人とされる人。
特別な関係でもなければ、成り行きで一緒に過ごすことになった人。
「悟は忙しいからね」
「そうですね」
「一人で食べるご飯より、誰かと一緒に食べた方が美味しいし
誰かと話すのは楽しいことだよ」
その言葉に、姉が倒れてから一人過ごしてきた日々を思い出す。
少し多めに作った料理。
温かいのにどこか冷たいご飯。
自分の動きの音しかしない家。
テレビの音だけが響く静かな部屋。
一人、というのは慣れてしまうが……
どこか虚無感だけは消えずに残ってしまう。
ここに来てからは
朝起きれば良い香りと「おはよう」の言葉と温かいご飯。
外に出るときには「いってきます」「いってらっしゃい」と。
戻って来たときには「おかえり」と。
自分以外の気配があり、話せば返ってくる言葉がある。
少し前には俺にもそうしてくれる人がいて
小さな小言を言われながら過ごしていた。
それが突然無くなってしまい、静かな家で静かに息をしていた。
「一人は寂しいからね」
その言葉が、俺に言ったのか……
はたまた彼女自身の思いが溢れたのかわからない。
けど、その気持ちはよくわかった。
一緒に住んでいても帰らない五条さん。
帰って来たときにには彼女もいつも通りに振る舞うが、いつもより楽しそうだし嬉しそうだ。
よく笑い
よく話し
コロコロ変わる表情
姉と過ごしていた"普通"の生活を思い出させる彼女。
失って気付く、寂しさや不安。
知っているからこそ欲しくなる温もり。
「名前さん」
「なぁに?恵くん」
「一緒に映画観ません?」
「いいね!!何見る?ムカデ人間?」
「なんでそれなんですか」
「たまーに観たくならない?」
「なりませんよ」
彼女が意識して、気遣ってくれているだけじゃなく、自然に出来てしまう人だと気付いた時には自分は彼女に甘えていた。
テーブル席と離れたソファーに居た距離が、いつの間にか自分から彼女の隣に座って一緒にテレビを眺めていたし、そのまま寝るときもあった。
一緒に買い物しながら、一緒にキッチンに立つ。
たまに暴言を吐けば落ち込んだり、言い返されたりして二人で笑う。
「ただいま」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「………君ら仲良くなりすぎじゃない?」
「え?そう?」
「普通ですよ」
「距離感近い」
「「?」」
五条さんに指摘されても何が?と思い付かないほど彼女に慣れてしまっていた。
「恵良い感じに毒されてんね」
「………ですね」
ケラケラ笑う五条さん。
よく考えておかしくないか?と思う自分と、あの人と距離を置く……いや、無理だと早々に諦めてしまう自分。
今さら最初の頃のように部屋に籠ろうとは思えず、どうしたものかと悩みだす。
「まぁいーけど」
「………嫌じゃないんですか?」
「嫌なら恵を名前に預けないよ。
名前の距離感のおかしさには慣れてるから」
その言葉に納得したのは、幼馴染から連絡がきてまた荷物が増えたから受け取りに行くと言った彼女に五条さんも着いていくと言った時。
「ほら、恵も行くよ」
「は?なんでですか」
「恵くん、用意して。ほらほら」
「は?」
なぜか彼女の幼馴染の家に行くことなり、意味もわからず着いていく。
「研磨ただいまー」
「ただいまー」
「……お邪魔します」
まず、なんで幼馴染の家に彼女も五条さんまでただいまなのか。
ツッコミたかったが、まるで実家のように家主が見えなくても入って行く二人。
「おかえり」
「うわっ。今回もなかなか溜まったね」
「あの人達いつまで送って来る気なんだろ」
「鉄朗邪魔。僕コタツ入れない」
「邪魔って酷くない?先に居たの僕です」
「クロ寝そべってないで避けて」
「クロ、足邪魔」
トサカみたいな髪型の人が追いやられている。
五条さんは慣れた様子でコタツに入るし、染め直していないままの髪の人はゲームをしているし、彼女は大量の荷物を開けている。
「恵もコタツ入りなよ」
「何でそんな和んでるんすか」
ここ、一応彼女の幼馴染の家だよな?
姉弟でもなければ一応他人だよな?
幼馴染ってこんな密になるもんか?
「………誰」
「恵だよ、研磨」
「どんな関係?って聞きたかったんだろ」
「今年度の悟のとこの生徒。
けど、色々あって今悟の家で預かってるのさ」
「ふーん」
「………ってことは名前が面倒見てんの?」
「そりゃそーでしょ」
「オマエ……中学生に手出しちゃダメだぞ」
「トサカむしるぞ」
ニヤニヤしながら冗談を話すクロ?さん。
それに対して絶対零度の視線を向ける彼女。
研磨さんがこっちをじっと見てる。
「座れば」
「……失礼します」
「研磨、アップルパイ風味のお菓子だって」
「いる」
「はい」
「ん」
は?と、己の目を疑った。
流れるように包装の袋を破き、研磨さんの口に運ぶ彼女。
ゲームから目を離さず食べる研磨さん。
「どう?」
「………アップルパイではない」
「風味、だからね」
「名前、僕にもちょーだい」
「はい」
「………そこは研磨みたいにしてよ」
「悟くん、それは無理ダロ」
その後も研磨さんと彼女の距離感のおかしさに何度か五条さんを見たが、特に気にしていない。
クロさんには当たりキツめなのに、研磨さんとの阿吽の呼吸にあれ?付き合ってんの?いや、姉弟?……母かな?と頭をフル回転した。
「恵くんもほら、お食べ」
「お土産すごいですね」
「うん。だから消費して」
「持ち帰れよ」
「真希ちゃん達にも配るかな……今回お菓子率高過ぎ」
「前回の謎のお土産シリーズよりいいよ」
「あれはね……」
「クロも持ってってね」
「ハイハイ」
おかしな空間にもそもそお菓子を食べる。
何で俺、ここにいるんだろ。
五条さんは普通にテレビ見てるし
彼女はなぜか料理を始めた。
研磨さんはゲームしていて
クロさんは………なぜか俺をじっと見てる。
「………なんですか」
「悟くんの生徒だっけ?
悟くんいけないんだー。生徒に手ェ出してる」
「出して無いし。恵の保護者が僕なの」
「似てない兄弟ダネ」
「五条さんとは血の繋がり無いんで」
「クロ、面白がって首突っ込むのやめなよ」
「妹分が野郎とでかい子供連れてきた時の親の心境考えて」
「クロが親とか名前嫌がりそう」
「迷惑かけた自覚はあるけど、クロに育てられた覚えはない」
「はいでたー。この幼馴染コンビの鞭。
僕、心が折れそうです」
鼻で笑う彼女と研磨さん。
彼らにとってクロさんはそーゆー扱いらしい。
「その年で大きい子供の保護者とか訳ありすぎんだろ。
面白がってるわけじゃないけど大変なこともあるだろ?」
「名前に任せてる事多くて苦労かけてんのはわかってるよ」
「名前は大丈夫だ」
「平気」
「「長年(研磨・俺)の面倒見てるから」」
「僕、君らのそーゆーとこ好き」
ケラケラ笑う五条さん。
普通幼馴染なら心配するべきでは?
なぜ世話に関して太鼓判押してんだ?
「少年、大丈夫か?」
「お世話になってます」
「世話好きなのは昔っからだから気にすんな。
けど、アレと暮らすには少年には重荷なんじゃ?」
「?」
「風呂にいきなり入って来て裸ガン見したり
風呂上がりに髪濡れたままにしたり
どこでも寝たり
突然部屋に入って来たり……」
「慣れました」
「………オイ、名前ちゃーん。
いたいけな少年を毒すなよ」
「人を痴女扱いやめてくんない?
お風呂はちょっとタイミング悪くセクハラしちゃったけど……」
「オイ」
「恵くんは研磨や悟よりは全然手がかからないから」
「僕だってやればできる子ですー」
「俺はやりたくない」
晩御飯の用意が出来たらしく、並べていく彼女。
大人数でのご飯なんてほとんど経験が無いから戸惑ってしまう。
けど、騒がしくて慌ただしくて喧しくて……楽しくて。
いつもと変わらない彼女の料理がもっと美味しく感じられた。
「少年、名前にセクハラされたら言えよ。
黒尾お兄さんが助けてやるから」
「クロ、三十路越えたらもうおじさんだよ」
「やめてくんない?俺はまだお兄さん!!」
「お兄さん、三十路越えて寝癖のまま歩かないで」
「これはオシャレ!!!」
嘘だろ?
あれ寝癖……!?
みんなで笑いながらご飯を食べて
お土産もらって帰って来た。
「恵」
「なんですか」
「名前寂しがりだから僕が居ないときは構ってやってね」
見えていない幼馴染達に大切にされ
見えていることに理解してもらい
大切に愛されてきた彼女。
贅沢だ、と思える環境にいるのに
彼女は此方に手を伸ばす。
普通を手放し、非日常に足を踏み込むのは
どんなに勇気がいることなのだろうか。
贅沢で幸せに囲まれて生きる道もあったのに。
「五条さん」
「なに?」
「なんであの人と一緒に居るんですか」
手離せば彼女はまだ戻れるはず。
一番危なくて厄介な相手と共に居なくてもいいはずだ。
見えていても、彼女には普通の居場所がある。
「名前と居るとさ、楽しいんだよね。
馬鹿だし、飽きないし、突拍子もなくやらかすし」
"最強"であるが故に、浮いていて
"最強"であるが為に、融通が効いて
"最強"であるあらこそ、守ることができる人。
「僕が僕で居られるから」
"最強"が溢した小さな弱音。
いや、弱音にすらならないのかもしれないが…
いつも悠々として適当な五条さんの本音を聞いた気がした。
「名前が普通で居てくれると
普通から離れている僕らには
眩しくて羨ましくて安心すんだよ」
呪術師ではなく、御三家でもなく、たった一人の個人として扱ってくれる人。
自分を見てくれる人。
だから、手を伸ばしたくなる。
彼女なら……その手を掴んでくれるとわかっているから。
「非呪術師代表ってわけじゃないけど、名前との関わりは君らにとって必ずプラスになるから」
此方の世界に関われば、一瞬で命を刈られてしまう弱い存在。
俺らが守らなければいけない存在。
けど、世界は彼女のような人間ばかりではないと知っている。
「いつか誰かに取られますよ」
彼女は暖かすぎる。
一度触れてしまえば、離れがたくなる。
「あげないよ。
僕が見付けた僕のだからね」
「すっげー自信」
「僕以上に名前を惚れさせられるとしたら、研磨くらいだと思ってるから」
「………無理ですね」
あの仲に入って行ける猛者がいるとしたら、それは空気も読めない愚か者だ。
早々にダメージくらって自信喪失するレベル。
「よくあの人手にできましたね」
「めちゃくちゃ苦労した」
「でしょうね」
彼女の隣は心地がいい。
生きている、と教えてくれるようで安心する。
だから
「仕方ないから、アンタがいない時は変なの寄り付かないように見ておきます」
「恵、惚れちゃ駄目だよ」
「………アンタやあの幼馴染を敵にしたくない」
「研磨と鉄朗は手強いよ」
「なーに楽しそうに二人で話してんの?」
また髪の毛乾かさないで風呂から上がってきた彼女。
五条さんが手招きすれば近寄って、肩に掛けたタオルでゴシゴシ拭かれている。
「名前がまた髪の毛乾かさないで出てくるだろうね、って話」
「悟、乾かして」
「恵ドライヤーある?」
「取ってきます」
2人の話声が聞こえる。
楽しそうに控え目に笑っていて、たまに五条さんが悪戯に軽いキスをしている。
「そーゆーことは俺のいないとこでしてください」
「恵のエッチ。盗み見は良くないよ」
「………殴っていいっすか?」
「暴力反対!!反抗期なんだから」
全ての人間を救いたいと思わない。
全ての人間がいい奴らだとは思わない。
姉が、彼女が
自分が居ない未来でも笑って居てほしいと願いながら俺は俺のすべきことをする。
あとがき
めぐみん視点からの閑話。
入学する少し前だと思ってほしいです。
めぐみんって面倒見いい人に懐くの早そうなイメージ。
あと、寂しがりにそっと寄り添える出来る男。
幼少期に甘やかされ慣れてないから、ちょっと野良猫感あるけど、気付いたら隣居て距離感0的な(笑)