通行人 番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
星漿体の護衛任務の失敗は、俺達に大きな傷を残した。
特級と認められ、急がしい毎日。
帰って来るのは深夜や明け方。
早く帰ってこれる事もあるが、色んな地方に飛ばされて休む暇などなく多忙な毎日を送る。
「悟」
「なに?」
久々に見た傑と硝子。
こうして教室で机並べて揃うのも久々な気がした。
硝子は硝子で反転術式を他人に扱える貴重な存在として重宝されているし、傑も特級と認められ色んな任務に行っている。
三人で揃う事も少なくなった。
少し前までは三人で街中をぶらつき
そして、アイツに……。
「名前に連絡、してないのかい?」
私や硝子のところに連絡きていたよ。
傑の言葉に携帯を眺める。
「………してねぇ」
「なんで?」
「忙しい」
「今は手が空いてるだろ」
「………こっちと関わり持ちたくねぇ奴を
わざわざ引き込む必要はないだろ」
あの日……。
慢心していたわけでも、気を緩ませていたわけでもない。
あの男が俺達よりも強くて
その結果が、任務の失敗だっただけ。
天内と黒井さんの死だっただけ。
あの日、確かに俺達は一度負けた。
けど、今は負けない。
「もう会いに行かないのか」
「オマエらも行くなよ」
一般人に呪術師の存在を公にするのもおかしかったんだ。
こちらの世界を断った時点で、切り離すべきだった。
「アイツは一般人で、俺達は呪術師なんだから」
天内と黒井さんの死が俺達に現実を突き付ける。
一般人と関わるということは、こういう事だと。
俺達が呪術師である限り、呪詛師は弱い方を狙う。
そして邪魔なものは消されていく。
『白髪!!前髪!!美少女!!』
あの笑顔が、消えるなら
俺達と関わらない方がいい。
あの馬鹿は、俺達とは違う。
光の中を歩き、友達に囲まれて笑う普通の子供だ。
「………悟、それでいいのかい?」
「あぁ」
「じゃあ私らは連絡しないよ」
「あぁ」
あれから、色んな事があった。
傑の離反。
七海が一般企業へ。
硝子も医療資格を取りに居なくなったし、
僕も教員の資格を取ったり、任務に行ったり、恵の様子見たりと忙しかった。
ふとした瞬間、隣であの馬鹿が悪ふざけしていて、硝子と傑が笑っていた時を思い出す。
あの時が一番…学生らしかったかもしれない、と苦笑してしまう。
呪術師とか、五条家とか関係なく
ただ一人の学生として
ただ一人の男として
あそんで、ふざけて、恋をした。
どこが好きかだったのかわからないくらい
馬鹿でアホでマヌケな変なヤバイ奴だったけど
一緒にいて楽しかった。
一緒にいるのが楽だった。
傑や硝子とは違う楽しさがあり、確かに特別な存在だった。
「………元気かな」
気紛れで連絡したが、届く事のないメールと通話。
あの日、僕からした約束を僕が破り消え去った男の事など忘れてしまっただろう。
失いたくないと思ったから、離れた。
あの笑顔が消える瞬間を目にするくらいなら
どこか遠くで笑っていて欲しかった。
その隣に居るのが僕じゃなくても。
それから任務、若人の教育などなど多忙な僕。
たまの息抜きでスイーツを食べ歩く。
年を重ねるごとに、こんな時に隣に居るのがアイツだったら良いのに、と思ってしまえば駄目だった。
目につく至るところにあの馬鹿との思い出があって、アイツが通っていた制服を見かけるたびに居ないとわかっていても探してしまう。
閉じ込めていた記憶と思い出が溢れてしまえば、アイツが居ない事が落ち着かない。
伊地知に頼んで調べてもらったが、あの馬鹿本当馬鹿かよ。
住所東京のままで、どこにもいない。
試しにその住所行ってみたら、アイツの幼馴染が居た。
プリン……というより、毛先だけが色素が抜けて金色。黒い殻をかぶってるみたいだった。
何事かとビクつかれたが、所在を聞くといないと言われる。
結婚したのか聞いたが、そんなわけないと言われた。
「今さら名前の事何で探してるの?」
今さら。
そう、今さらだ。
あの頃守りきれる自信が無かったわけじゃない。
じゃあ、何で離れた?と聞かれたら……怖かったから、としか言いようがない。
僕が目を離した途端冷たく虚空を見つめ、動かなくなる存在がある事を知ったから。
近くに置いておくより、どこか遠くで笑っていてくれるならそれでいい、と当時格好つけて手離した僕。
「まぁ、教えないけど」
「は?」
「こわっ。」
悪気はないが、素で低い声が出た。
教えないって喧嘩売られたよね?
なら仕方なくない?
「貴方がいなくなって暫く傷心していたから。
一応あんなんだけど、俺にとっては大事な幼馴染だから」
「………わかった。自力で探すよ」
「アレは馬鹿で単純だから
行き先は貴方が知ってるはずだよ」
にやりと猫のように笑う食えない幼馴染。
回りくどいヒントらしき言葉。
任務の合間に探しても見つからない。
僕の知ってる行き先なんて、既に探し終わっている。
硝子に愚痴を溢せば驚かれた。
「まだ好きだったのか」
「好きだよ」
「じゃあなんで手離した」
「今なら格好つけてたあの頃の僕を殴りたいね」
ため息をつきながら角砂糖をコーヒーへ入れる。
硝子が汚物を見るような視線を向けてくるが、気にしない。
「あの馬鹿、住所も移さずどこ行ったわけ?
放浪の旅でもしてんの?」
「アマゾンとか?」
「………あり得るのが否定できない」
「身一つでどこでも生きて行けそうだもんな」
「まじでアイツならやりかねない」
この僕に頭を抱えさせるとかオマエだけだからな。この馬鹿。本当馬鹿。
どうでもいいテレビを見ていたら沖縄の特集へ。
沖縄ね、沖縄。
約束してそのままいなくなった僕をアイツは怒っているだろうか?
あの日、明け方まで電話で話した内容をアイツは覚えているだろうか?
寝ぼけだして、ふにゃふにゃよくわからないことを呟きながら寝落ちしているアイツに、ズルい僕は想いを告げた。
「名前、好きだよ」
「………スキヤキ?沖縄はアグーだろ、アグー豚」
「うわ、ありきたりな聞き間違い」
「アグー豚は角煮だろ。絶対スキヤキより角煮。
アグー豚ウマイ?やっぱ顔の皮売ってんの?」
「めっちゃ豚気になってるし」
「アグー……あぐあぐ…ぐぅ」
「寝やがった。
………帰ったらちゃんと答え聞かせろよ」
その答えも聞かず
自己満足な告白をした僕。
沖縄の特集をボーッと眺めていると、地元民の若者達が夜飲みに集まっている映像に。
"ん?最近面白かった事?
そりゃーあの姉ちゃんだろ"
"あぁ、あの姉ちゃんな!!
男にフラれて身一つで来たんだっけ?"
"いや、男に全財産奪われて沖縄に捨てて行かれたんだろ?"
"いやいや、男から逃げて沖縄に身一つで……"
"今日も居るぞー"
どんな姉ちゃんだよ、と硝子がツッコむ。
面白いと言いながら内容は面白くないぞ。
そして奥で飲む若い集団の場面へ。
"面白いお姉さんがいると聞いたのですが"
"これだな"
"これだろ"
"こいつです"
"満場一致で指さすのやめい"
「「ごふっ!!」」
硝子と共にコーヒーを噎せた。
いや、オマエ……オマエかよ!!
"なんだか悲惨な理由で沖縄に身一つで来たとか…"
"えっ、誰だよそのデマ流したの。
確かに身一つで来たけど"
"なぜ身一つで沖縄に?"
"心に優しい景色だったから"
"………"
"ちょっ、憐れんだ顔ヤメテ!!
国家試験とかレポートでやられてただけだから!!
あと、就職するのにこっち来ただけ!!"
ケラケラ笑う仲間達に囲まれている。
"身一つで…"
"めちゃくちゃ頼み込んで、お願いして面接ってなったから、急いで来たんです。
で、そのまま住み着きました"
"じゃあ、男の人のアレコレは"
"ないない"
"本当に?"
"………学生の頃に拗らせた恋愛はありますけど、別に面白くないって"
"面白いだろ。
恋心自覚した途端に男に逃げられ"
"傷心して遊び歩きやっぱり引きずって"
"地元だと男との思い出多いからって
男と約束した沖縄に逃げてきたのがこいつです"
"お前ら私の事嫌いなの?なんなの?"
散々暴露されて拗ねながら飲む名前。
レポーターに根掘り葉掘り聞かれているが、答える気はないらしい。
"けどこの人人気なんですよ。水族館で面白いお姉さんで"
"魚に萌え萌えキュンとかするし"
"チビッ子にもするする"
"で、魚にドツかれて"
"人気者なんですね!!"
居場所さえ分かれば伊地知に電話して詳しい調査を頼む。
あとは僕の任務の調整をして、無理矢理休暇をもぎ取った。
伊地知が泣いている?そんなの知らねーし。
硝子が呆れた顔をしていた。
「逃げられるなよ」
「逃がすわけないじゃん」
「約束していたのか」
「………昔ね」
会いに行って、やっと手に入れた。
が、手に入れたらやはり欲が出る。
「遠い」
「なにが」
「帰っておいでよ」
「やだ。仕事楽しいもん」
「仕事と僕どっちが大事?」
「うわぁ……そーゆー事聞いちゃう?」
束縛女かよ、と言われた。
していいなら連れ帰るけど?と言えば黙った。
「僕、一応めちゃくちゃ忙しい男なの。
モテモテであっちこっちに引っ張りだこなの」
「へぇ」
「海外に行くこともあるし、休みらしい休みないんだよ」
「ブラック企業だね」
「ブラックもいいところさ。
だから、帰って来て。僕の家に住んでいいから」
「えー」
「じゃないとほぼ連絡のみどころか連絡も出来ない時あるからね。
いいの?1年どころかずーっと会えないまま」
「それは……ヤダ」
「都合よく名前と休み合うとか無いから」
今回だって結構無理して予定を詰め込み、休暇をもぎとってここに来た。
そんなことを毎回することは出来ないし、緊急の呼び出しもあるのに対応できない。
「いっそ結婚する?」
「は?いきなり?」
「名前は仕事辞めたくないし、僕は会いに来れない。
遠距離でいるなら手っ取り早く僕のにしたい」
「えぇ……」
「あー、けどやっぱり一緒に居たい」
抱き潰すように腕の中に閉じ込める。
もぞもぞと動いてこちらを見上げる名前は困った顔をしている。
「結婚……は、まだ考えられない」
「なんで」
「あー、えーっと……引かない?」
「オマエの数々の奇行よりヤバイ理由?」
「うるさい。
……手、繋いで歩いたり、デートしたい。
恋人の期間が…欲しい、デス」
言ってから顔埋めてくるとか反則じゃない?
可愛いすぎだろ。
「学生の頃散々したじゃん」
「あれは友達だった頃でしょ」
「可愛いすぎかよ」
思わず本音が出た。
コイツ、こんな可愛いかったかな?
「それに」
「ん?」
「結婚するなら一緒に居たい。
恋人同士のうちくらい、仕事優先させて」
「…………はぁ…」
可愛すぎて辛い。
えっ、なんでコイツ今までデレ無かったの?
「………必ず長期休み取れたら戻って来て。
僕の家で寝泊まりして、交通費は全て出すから」
「えっ、悪いよ」
「そんくらいさせてよ。
むしろ、そうしないと会えないなら喜んで出す」
「………けど」
「普通の仕事じゃないからお金の心配ならいらないよ」
「………」
「納得いかない?
お金貰うより身体で支払ってくれればいいから」
「親父かよ」
抱き付いて、見つめ合って、キスして、くすぐったそうに笑って、またキスして。
「今夜は寝かせないよ」
「朝まで?うそだろ」
「寝ぼけてあぐあぐしないでね」
「あぐあぐ?なんの話?」
まずはこの先、どうやってコイツを東京に引き戻そうかと考える僕の本音など知らず、嬉しそうに無邪気に笑う名前を今は抱き潰そうと思った。
「覚悟してよね」
数年間分の愛を君に
あとがき
五条さん目線でした!!
特級と認められ、急がしい毎日。
帰って来るのは深夜や明け方。
早く帰ってこれる事もあるが、色んな地方に飛ばされて休む暇などなく多忙な毎日を送る。
「悟」
「なに?」
久々に見た傑と硝子。
こうして教室で机並べて揃うのも久々な気がした。
硝子は硝子で反転術式を他人に扱える貴重な存在として重宝されているし、傑も特級と認められ色んな任務に行っている。
三人で揃う事も少なくなった。
少し前までは三人で街中をぶらつき
そして、アイツに……。
「名前に連絡、してないのかい?」
私や硝子のところに連絡きていたよ。
傑の言葉に携帯を眺める。
「………してねぇ」
「なんで?」
「忙しい」
「今は手が空いてるだろ」
「………こっちと関わり持ちたくねぇ奴を
わざわざ引き込む必要はないだろ」
あの日……。
慢心していたわけでも、気を緩ませていたわけでもない。
あの男が俺達よりも強くて
その結果が、任務の失敗だっただけ。
天内と黒井さんの死だっただけ。
あの日、確かに俺達は一度負けた。
けど、今は負けない。
「もう会いに行かないのか」
「オマエらも行くなよ」
一般人に呪術師の存在を公にするのもおかしかったんだ。
こちらの世界を断った時点で、切り離すべきだった。
「アイツは一般人で、俺達は呪術師なんだから」
天内と黒井さんの死が俺達に現実を突き付ける。
一般人と関わるということは、こういう事だと。
俺達が呪術師である限り、呪詛師は弱い方を狙う。
そして邪魔なものは消されていく。
『白髪!!前髪!!美少女!!』
あの笑顔が、消えるなら
俺達と関わらない方がいい。
あの馬鹿は、俺達とは違う。
光の中を歩き、友達に囲まれて笑う普通の子供だ。
「………悟、それでいいのかい?」
「あぁ」
「じゃあ私らは連絡しないよ」
「あぁ」
あれから、色んな事があった。
傑の離反。
七海が一般企業へ。
硝子も医療資格を取りに居なくなったし、
僕も教員の資格を取ったり、任務に行ったり、恵の様子見たりと忙しかった。
ふとした瞬間、隣であの馬鹿が悪ふざけしていて、硝子と傑が笑っていた時を思い出す。
あの時が一番…学生らしかったかもしれない、と苦笑してしまう。
呪術師とか、五条家とか関係なく
ただ一人の学生として
ただ一人の男として
あそんで、ふざけて、恋をした。
どこが好きかだったのかわからないくらい
馬鹿でアホでマヌケな変なヤバイ奴だったけど
一緒にいて楽しかった。
一緒にいるのが楽だった。
傑や硝子とは違う楽しさがあり、確かに特別な存在だった。
「………元気かな」
気紛れで連絡したが、届く事のないメールと通話。
あの日、僕からした約束を僕が破り消え去った男の事など忘れてしまっただろう。
失いたくないと思ったから、離れた。
あの笑顔が消える瞬間を目にするくらいなら
どこか遠くで笑っていて欲しかった。
その隣に居るのが僕じゃなくても。
それから任務、若人の教育などなど多忙な僕。
たまの息抜きでスイーツを食べ歩く。
年を重ねるごとに、こんな時に隣に居るのがアイツだったら良いのに、と思ってしまえば駄目だった。
目につく至るところにあの馬鹿との思い出があって、アイツが通っていた制服を見かけるたびに居ないとわかっていても探してしまう。
閉じ込めていた記憶と思い出が溢れてしまえば、アイツが居ない事が落ち着かない。
伊地知に頼んで調べてもらったが、あの馬鹿本当馬鹿かよ。
住所東京のままで、どこにもいない。
試しにその住所行ってみたら、アイツの幼馴染が居た。
プリン……というより、毛先だけが色素が抜けて金色。黒い殻をかぶってるみたいだった。
何事かとビクつかれたが、所在を聞くといないと言われる。
結婚したのか聞いたが、そんなわけないと言われた。
「今さら名前の事何で探してるの?」
今さら。
そう、今さらだ。
あの頃守りきれる自信が無かったわけじゃない。
じゃあ、何で離れた?と聞かれたら……怖かったから、としか言いようがない。
僕が目を離した途端冷たく虚空を見つめ、動かなくなる存在がある事を知ったから。
近くに置いておくより、どこか遠くで笑っていてくれるならそれでいい、と当時格好つけて手離した僕。
「まぁ、教えないけど」
「は?」
「こわっ。」
悪気はないが、素で低い声が出た。
教えないって喧嘩売られたよね?
なら仕方なくない?
「貴方がいなくなって暫く傷心していたから。
一応あんなんだけど、俺にとっては大事な幼馴染だから」
「………わかった。自力で探すよ」
「アレは馬鹿で単純だから
行き先は貴方が知ってるはずだよ」
にやりと猫のように笑う食えない幼馴染。
回りくどいヒントらしき言葉。
任務の合間に探しても見つからない。
僕の知ってる行き先なんて、既に探し終わっている。
硝子に愚痴を溢せば驚かれた。
「まだ好きだったのか」
「好きだよ」
「じゃあなんで手離した」
「今なら格好つけてたあの頃の僕を殴りたいね」
ため息をつきながら角砂糖をコーヒーへ入れる。
硝子が汚物を見るような視線を向けてくるが、気にしない。
「あの馬鹿、住所も移さずどこ行ったわけ?
放浪の旅でもしてんの?」
「アマゾンとか?」
「………あり得るのが否定できない」
「身一つでどこでも生きて行けそうだもんな」
「まじでアイツならやりかねない」
この僕に頭を抱えさせるとかオマエだけだからな。この馬鹿。本当馬鹿。
どうでもいいテレビを見ていたら沖縄の特集へ。
沖縄ね、沖縄。
約束してそのままいなくなった僕をアイツは怒っているだろうか?
あの日、明け方まで電話で話した内容をアイツは覚えているだろうか?
寝ぼけだして、ふにゃふにゃよくわからないことを呟きながら寝落ちしているアイツに、ズルい僕は想いを告げた。
「名前、好きだよ」
「………スキヤキ?沖縄はアグーだろ、アグー豚」
「うわ、ありきたりな聞き間違い」
「アグー豚は角煮だろ。絶対スキヤキより角煮。
アグー豚ウマイ?やっぱ顔の皮売ってんの?」
「めっちゃ豚気になってるし」
「アグー……あぐあぐ…ぐぅ」
「寝やがった。
………帰ったらちゃんと答え聞かせろよ」
その答えも聞かず
自己満足な告白をした僕。
沖縄の特集をボーッと眺めていると、地元民の若者達が夜飲みに集まっている映像に。
"ん?最近面白かった事?
そりゃーあの姉ちゃんだろ"
"あぁ、あの姉ちゃんな!!
男にフラれて身一つで来たんだっけ?"
"いや、男に全財産奪われて沖縄に捨てて行かれたんだろ?"
"いやいや、男から逃げて沖縄に身一つで……"
"今日も居るぞー"
どんな姉ちゃんだよ、と硝子がツッコむ。
面白いと言いながら内容は面白くないぞ。
そして奥で飲む若い集団の場面へ。
"面白いお姉さんがいると聞いたのですが"
"これだな"
"これだろ"
"こいつです"
"満場一致で指さすのやめい"
「「ごふっ!!」」
硝子と共にコーヒーを噎せた。
いや、オマエ……オマエかよ!!
"なんだか悲惨な理由で沖縄に身一つで来たとか…"
"えっ、誰だよそのデマ流したの。
確かに身一つで来たけど"
"なぜ身一つで沖縄に?"
"心に優しい景色だったから"
"………"
"ちょっ、憐れんだ顔ヤメテ!!
国家試験とかレポートでやられてただけだから!!
あと、就職するのにこっち来ただけ!!"
ケラケラ笑う仲間達に囲まれている。
"身一つで…"
"めちゃくちゃ頼み込んで、お願いして面接ってなったから、急いで来たんです。
で、そのまま住み着きました"
"じゃあ、男の人のアレコレは"
"ないない"
"本当に?"
"………学生の頃に拗らせた恋愛はありますけど、別に面白くないって"
"面白いだろ。
恋心自覚した途端に男に逃げられ"
"傷心して遊び歩きやっぱり引きずって"
"地元だと男との思い出多いからって
男と約束した沖縄に逃げてきたのがこいつです"
"お前ら私の事嫌いなの?なんなの?"
散々暴露されて拗ねながら飲む名前。
レポーターに根掘り葉掘り聞かれているが、答える気はないらしい。
"けどこの人人気なんですよ。水族館で面白いお姉さんで"
"魚に萌え萌えキュンとかするし"
"チビッ子にもするする"
"で、魚にドツかれて"
"人気者なんですね!!"
居場所さえ分かれば伊地知に電話して詳しい調査を頼む。
あとは僕の任務の調整をして、無理矢理休暇をもぎ取った。
伊地知が泣いている?そんなの知らねーし。
硝子が呆れた顔をしていた。
「逃げられるなよ」
「逃がすわけないじゃん」
「約束していたのか」
「………昔ね」
会いに行って、やっと手に入れた。
が、手に入れたらやはり欲が出る。
「遠い」
「なにが」
「帰っておいでよ」
「やだ。仕事楽しいもん」
「仕事と僕どっちが大事?」
「うわぁ……そーゆー事聞いちゃう?」
束縛女かよ、と言われた。
していいなら連れ帰るけど?と言えば黙った。
「僕、一応めちゃくちゃ忙しい男なの。
モテモテであっちこっちに引っ張りだこなの」
「へぇ」
「海外に行くこともあるし、休みらしい休みないんだよ」
「ブラック企業だね」
「ブラックもいいところさ。
だから、帰って来て。僕の家に住んでいいから」
「えー」
「じゃないとほぼ連絡のみどころか連絡も出来ない時あるからね。
いいの?1年どころかずーっと会えないまま」
「それは……ヤダ」
「都合よく名前と休み合うとか無いから」
今回だって結構無理して予定を詰め込み、休暇をもぎとってここに来た。
そんなことを毎回することは出来ないし、緊急の呼び出しもあるのに対応できない。
「いっそ結婚する?」
「は?いきなり?」
「名前は仕事辞めたくないし、僕は会いに来れない。
遠距離でいるなら手っ取り早く僕のにしたい」
「えぇ……」
「あー、けどやっぱり一緒に居たい」
抱き潰すように腕の中に閉じ込める。
もぞもぞと動いてこちらを見上げる名前は困った顔をしている。
「結婚……は、まだ考えられない」
「なんで」
「あー、えーっと……引かない?」
「オマエの数々の奇行よりヤバイ理由?」
「うるさい。
……手、繋いで歩いたり、デートしたい。
恋人の期間が…欲しい、デス」
言ってから顔埋めてくるとか反則じゃない?
可愛いすぎだろ。
「学生の頃散々したじゃん」
「あれは友達だった頃でしょ」
「可愛いすぎかよ」
思わず本音が出た。
コイツ、こんな可愛いかったかな?
「それに」
「ん?」
「結婚するなら一緒に居たい。
恋人同士のうちくらい、仕事優先させて」
「…………はぁ…」
可愛すぎて辛い。
えっ、なんでコイツ今までデレ無かったの?
「………必ず長期休み取れたら戻って来て。
僕の家で寝泊まりして、交通費は全て出すから」
「えっ、悪いよ」
「そんくらいさせてよ。
むしろ、そうしないと会えないなら喜んで出す」
「………けど」
「普通の仕事じゃないからお金の心配ならいらないよ」
「………」
「納得いかない?
お金貰うより身体で支払ってくれればいいから」
「親父かよ」
抱き付いて、見つめ合って、キスして、くすぐったそうに笑って、またキスして。
「今夜は寝かせないよ」
「朝まで?うそだろ」
「寝ぼけてあぐあぐしないでね」
「あぐあぐ?なんの話?」
まずはこの先、どうやってコイツを東京に引き戻そうかと考える僕の本音など知らず、嬉しそうに無邪気に笑う名前を今は抱き潰そうと思った。
「覚悟してよね」
数年間分の愛を君に
あとがき
五条さん目線でした!!