夏油
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この時代は平和だ。
異形の化物と戦う事をしなくていい。
呪力も無ければ、呪式もない。
あの世界とは似て非なる世界。
普通に憧れていたはずなのに、いざ手にするとどこか寂しくてつまらない。
今の私は、呪霊を見ることがない。
今の私は、非術師の為に戦わなくていい。
今の私は、血と死と闇からかけ離れた存在。
普通に笑って友達と遊び
普通に勉強に頭を悩ませ
普通に軽く身体を動かす。
武具を手にすることも
異形と戦うことも
近しい人が死ぬことも
自分が死ぬこともない世界。
転生、なんて夢物語だと思っていた。
なのに……私は再び産まれた。
「名前、ぼーっとしてどうしたの?」
「……なんでもない。
昨日夜更かししすぎたせいかなー」
「ははっ!!ほどほどにしないと」
くだらないことで笑って安全を守られた世界。
それはいいことなはずなのに、どこか寂しくて物足りない。
あんなに前世は嫌だったはずたのに、闇の世界が恋しいなんて私はどこかイカれているままなのかもしれない。
「そういえば!隣のクラスにすごい好青年が転校してきたんだって!!」
「そうなの?」
「うんうん!!見に行かない?」
「パンダ状態じゃん」
「こんな時期に転校生なんて、興味持たない人いる?」
はしゃぐ友人に腕を取られ、ぐいぐいと引かれる。
女子高生にもなれば、恋愛に騒ぎどこの学校の誰が格好いいとかどのクラスの誰が人気だとか情報が回る。
もちろん、男子も同じようなものなのだろうが。
「名前、男に興味無さすぎ!!
どんな男なら興味持つの!?」
「そう?私は聞いてるだけで楽しいからな」
「……もしや、女子が?」
「違う違う。
………忘れられない人がいるだけ」
前世からずっと。
引きずっている女々しい私。
「どんだけいい男だったんだか」
「いやー、ただのクズだよ」
「駄目女かよ」
「そうだね………。私、駄目なんだ」
何度、忘れようとしても。
何度、違う人を好きになろうとしても。
私はあの人を忘れる事は出来ない。
「あっ、いた!!あの人じゃない?」
囲まれて見辛いけど……なんて、友達の言葉に視線をやって、驚いた。
他人のそら似、とはよく言うものの
本人とそっくりな人間なんていない。
どこか、違う部分はあるのだ。
なのに
「爽やかな人だね!!……名前?」
「………」
「一目惚れ?」
「いや……そんなんじゃ、ないよ」
似ていた。いや、本人だと思う。
それくらい、懐かしさがあった。
あの頃は学ランを改造したぼんたんなんて時代遅れのヤンキーな格好だった。
今はブレザーをきっちり着こなしている。
長い髪をきっちりとお団子にまとめていた姿は、今も変わらない。
優しい笑顔を張り付けて、人の良さそうな顔をして分け隔てなく接する姿勢。
堅苦しくなく、誰とでも仲良くする姿。
「私、次サボるよ」
「え?まじで?」
「ノートよろしく」
記憶と同じで、記憶と違う姿に
私はなぜか胸が苦しくなり、その人から視線を反らした。
まだ屋上は肌寒い。
グラウンドではどこかのクラスが教師により走らされていた。
教室からもグラウンドからも見付からないよう、入り口近くに腰を降ろしてぼーっと空を見上げる。
「傑…」
前世、真面目だった同級生。
前世、人の価値観に悩み、魔の道に落ちた友人。
前世、親友の手により命を散らした恋人。
彼が私にとっての全てだった。
彼のいない世界など興味などなく
私も自らの命を終わらせた。
人が聞けば、大恋愛だと言うか?
人が聞けば、愚かだと嗤うか?
あの時の私は確かに恋をし
彼と共に墜ちる事を選び
血で手を汚しても
屍の上に立つ事を悪いことだと思わなかった。
平和な世界は、私を惨めにさせる。
少しでも見えていたなら
自分を正当化出来たのかもしれない。
記憶が無ければ
幸せに生きられたのかもしれない。
コレが前世での罰だというのなら、仕方ないが。
私達が猿だと蔑んだ存在になり
自分も彼らも変わらないちっぽけな存在で
狩り取られる側であるのを忘れるな、と
力を取り上げられ
見える目も取り上げられ
抜きでた才能もなく
愛した人間そっくりな存在を目の前に
記憶に蝕まれて苦しめとでもいうのか。
私達はそれほどまで、神様を怒らせることをしたのかと笑ってしまう。
なら、神様は不平等で意地悪だ。
救いの手など差し出さない。
だけど、裁きは行う。
「神様は、不平等だなぁ」
愛した人間とそっくりな存在を目の前に
私以外の誰かと愛する姿を見せられるなんて
私にとってこれほど辛い罰はない。
泣く資格などあるはずがないのに1人涙を溢す私は神様に罰せられているのに救われたいだなんて矛盾の中で生きている。
できるだけ、会わないようにした。
できるだけ、見ないようにした。
できるだけ、噂を聞かないようにした。
けど、学校に居れば会ってしまうし
見かけてしまうし、転校生ということもあり噂を耳にすることもある。
すれ違う時に、記憶があればいいなんて都合の良いことを考えた事もあったが、そんな偶然あるわけがない。
何度も涙を流した。
彼じゃないとわかっているのに、彼に纏わりつく女とそんな彼女達に笑いかける彼を見るのが辛かった。
けど、自分から彼に近付く勇気もない私。
記憶の彼と同じたびに
記憶の彼と違うたびに
一喜一憂してしまいそうな自分が嫌で
近寄ることすら出来ない私は弱虫の愚か者。
「名前、恋してる?」
「どうして?」
「最近悩んでる顔しているから」
「そうかな?そんなに分かりやすい?」
「いつも何にも興味無くて悠々としてるのに、最近は眉間にシワ寄せて難しい顔してるからね」
「わー、そんな顔してたのか」
「名前が興味持つなんて珍しいからね!!」
友人の言葉に、自分が思っていた以上に気にしていることに気付かされる。
「興味……か。どうだろう」
「違うの?恋じゃないの?」
「………怖い、んだ」
傷付きたくない自分がいる。
けど
近寄りたい自分もいる。
「姿形だけでも、なんて思いたくない。
けど、惹かれてしまうのも事実なんだよ」
「んー…」
「私はワガママだから……
見た目も、心も全てが欲しいんだ」
たった一人を愛した私は
あの時からずっと、進めずにいる。
「名前に惚れられた人って幸せだね」
「………どうして?」
「まだまだ人生これからなのに、その人しか考えられないっ!!ってくらい愛されるなんて運命じゃん」
「どうかな?」
「諦めたくないんでしょ?
なら、諦めずアタックしなきゃ!!
見てるだけじゃ、思っているだけじゃ前になんて進めないよ」
「相手にされないかもしれないのに?」
「そんなのわからないじゃん!!
まだ土俵にすら立ってないのに負けも勝ちも無いでしょ?」
負けたら私が支えてやる!!なんて胸を張る友人に笑ってしまう。
「その時は腕の中開けといてね」
「もちろん!!」
この生活が苦か、と聞かれたら
私は苦ではないと答える。
ここは安全で、安心できる場所だから。
命の危険なんてない、平和な場所。
物足りない気持ちにはなるが
これが私の当たり前の日々となっている。
「あ、珍しいね。
今日は女の子がいないよ」
「本当だね」
「誰か待ってるのかな?」
玄関の入り口でスマホを弄りながら立つ彼。
遠い記憶の中にある、懐かしい光景。
「今日どこ寄る?」
「んー…甘いものの気分かなぁ」
「マックのソフト?」
「金欠?ならまた次回にしよう」
「えー、でも」
「すまない。彼女を借りてもいいかい?」
腕を引かれ、驚く私と友人。
にっこりと人の良い顔をする彼に、友人はどもりながらもどうぞ!!と差し出し、先に帰るね、と走って行ってしまった。
まだ頭が追い付かない私の手を繋ぎ、どこかへ歩きだす彼。
「………あ、の」
「なんだい?」
「なんで……」
なんで、こんなことに?
もしかして、と期待してしまう。
けど、そんな都合がいいわけがないと思ってしまう。
「なんで?」
ピタリと足が止まった彼を見上げる。
記憶よりも幼い顔立ち。
けど、知っている顔立ち。
「君こそ、なんでだい?」
「?」
「私のこと、興味も持てないほどどうでもいい存在になってしまったのかな?」
「何を言って」
「すれ違っても視線は合わないのに、遠くから見て、一人で泣いて……
私は君と巡りあえて嬉しかったのに」
「………嘘だ」
「嘘じゃないよ。記憶、あるんだろ?」
私が君を間違えるわけないだろ、なんて言い出す彼。
そんな……そんな都合の良いことがあっていいのか。
「………傑?」
「偽物じゃないよ」
「記憶……あるの?」
「勿論。
高専で君と出会って、恋をして、共に闇に落ちた記憶がね」
神様。
こんな都合の良い罰なんてあるのかな?
「………私、傑の知っている私じゃないよ」
「ん?」
「呪霊も見えない。呪力もない。
私達が見下した猿共と同じ存在だよ」
「………」
「私はもう……傑の隣に居ていいような、存在じゃ……」
「奇遇だね」
「は?」
「私も呪霊を見るどころか、呪力も呪式もない。特級なんて夢のまた夢の猿になってしまったよ」
「………嘘」
「本当さ。あるのは喧嘩の腕くらいかな?
頑張れば武具は扱えるかもしれないけど……そんな機会なんてなかなかないからね」
くすり、と笑う傑。
くしゃりと歪んだ表情は寂しそうに見えるような、だけどどこか清々しい。
「名前」
「………な、に?」
「特級どころか、呪力も呪式も呪霊すら見えない猿の私じゃ、君の側に居られないかい?」
「………まさか!!」
「いつ、名前が声を掛けてくれるか待ってみたけど、まったく近寄って来てくれないし、それどころか興味すら無さそうで焦ってたんだ」
「………そのわりに、女の子に囲まれて楽しそうだったね」
「ん?そう見えたかい?」
「人に好かれるのは得意だもんね?教祖様は」
「本当に好かれたい人には距離を置かれたから、私自ら声を掛けてみたんだけど」
悠々とした態度で、ペラペラとよく口が回る男だ。
けど……そんな男を愛したのは私で
そんな男を待ち望んでいたのも私だ。
「傑」
「なんだい?」
「傑……傑っ!!」
抱き付いて、抱き締めて。
やっと出会えた唯一無二の人。
「名前」
「傑…好き。好き、だよ。愛してるっ」
「私も変わらず愛してる」
神様。神様。
こんな幸せな罰があってもいいのかな?
呪力もいらない。
呪式もいらない。
呪霊が見える目もいらない。
たった一人。
前世で愛した人が隣にいる。
その人も同じ記憶を保有しているなんて……
こんな奇跡のような罰があって許されるの?
「猿になってしまった私でも、君の隣に居たいんだ」
「私も……一緒に、居たい」
「良かった。嫌だと言われたらどうしてやろうと思ってたよ」
「………性格悪い」
「酷いね。前世からの純愛だよ」
抱き締めて、身近に感じられる温もりが愛おしい。
「名前」
「なぁに?傑」
ーーー共に生きよう、今度こそ。
照れたように言う傑に
私は抱き着いて答える。
ーーー離さないで。
「本当、記憶無いのかと焦ったよ」
「わざと女の子と仲良くしてたってこと?」
「転校初日にそっくりな子を見付けたのに、その子は私を避けるようにいなくなるからね……
ちょっと心が折れかけたよ」
「………ごめん」
「まぁ、何度か核心が持てず私もわざとシカトしたんだけどね」
「クズ」
「一か八かで迎えに来たのに酷いね」
「……好き」
「知ってるよ。前世からずっと」
あとがき
今世では幸せになってほしいな……と思った結果。
のちに五条(他高)がいて、殴りあって仲直りしてほしい。
そこに硝子ちゃん(女子高)と会って、やっぱり殴られて集合してほしい。
後輩には灰原と七海が入って
みんな幸せに生きてくれ……!!!!!
異形の化物と戦う事をしなくていい。
呪力も無ければ、呪式もない。
あの世界とは似て非なる世界。
普通に憧れていたはずなのに、いざ手にするとどこか寂しくてつまらない。
今の私は、呪霊を見ることがない。
今の私は、非術師の為に戦わなくていい。
今の私は、血と死と闇からかけ離れた存在。
普通に笑って友達と遊び
普通に勉強に頭を悩ませ
普通に軽く身体を動かす。
武具を手にすることも
異形と戦うことも
近しい人が死ぬことも
自分が死ぬこともない世界。
転生、なんて夢物語だと思っていた。
なのに……私は再び産まれた。
「名前、ぼーっとしてどうしたの?」
「……なんでもない。
昨日夜更かししすぎたせいかなー」
「ははっ!!ほどほどにしないと」
くだらないことで笑って安全を守られた世界。
それはいいことなはずなのに、どこか寂しくて物足りない。
あんなに前世は嫌だったはずたのに、闇の世界が恋しいなんて私はどこかイカれているままなのかもしれない。
「そういえば!隣のクラスにすごい好青年が転校してきたんだって!!」
「そうなの?」
「うんうん!!見に行かない?」
「パンダ状態じゃん」
「こんな時期に転校生なんて、興味持たない人いる?」
はしゃぐ友人に腕を取られ、ぐいぐいと引かれる。
女子高生にもなれば、恋愛に騒ぎどこの学校の誰が格好いいとかどのクラスの誰が人気だとか情報が回る。
もちろん、男子も同じようなものなのだろうが。
「名前、男に興味無さすぎ!!
どんな男なら興味持つの!?」
「そう?私は聞いてるだけで楽しいからな」
「……もしや、女子が?」
「違う違う。
………忘れられない人がいるだけ」
前世からずっと。
引きずっている女々しい私。
「どんだけいい男だったんだか」
「いやー、ただのクズだよ」
「駄目女かよ」
「そうだね………。私、駄目なんだ」
何度、忘れようとしても。
何度、違う人を好きになろうとしても。
私はあの人を忘れる事は出来ない。
「あっ、いた!!あの人じゃない?」
囲まれて見辛いけど……なんて、友達の言葉に視線をやって、驚いた。
他人のそら似、とはよく言うものの
本人とそっくりな人間なんていない。
どこか、違う部分はあるのだ。
なのに
「爽やかな人だね!!……名前?」
「………」
「一目惚れ?」
「いや……そんなんじゃ、ないよ」
似ていた。いや、本人だと思う。
それくらい、懐かしさがあった。
あの頃は学ランを改造したぼんたんなんて時代遅れのヤンキーな格好だった。
今はブレザーをきっちり着こなしている。
長い髪をきっちりとお団子にまとめていた姿は、今も変わらない。
優しい笑顔を張り付けて、人の良さそうな顔をして分け隔てなく接する姿勢。
堅苦しくなく、誰とでも仲良くする姿。
「私、次サボるよ」
「え?まじで?」
「ノートよろしく」
記憶と同じで、記憶と違う姿に
私はなぜか胸が苦しくなり、その人から視線を反らした。
まだ屋上は肌寒い。
グラウンドではどこかのクラスが教師により走らされていた。
教室からもグラウンドからも見付からないよう、入り口近くに腰を降ろしてぼーっと空を見上げる。
「傑…」
前世、真面目だった同級生。
前世、人の価値観に悩み、魔の道に落ちた友人。
前世、親友の手により命を散らした恋人。
彼が私にとっての全てだった。
彼のいない世界など興味などなく
私も自らの命を終わらせた。
人が聞けば、大恋愛だと言うか?
人が聞けば、愚かだと嗤うか?
あの時の私は確かに恋をし
彼と共に墜ちる事を選び
血で手を汚しても
屍の上に立つ事を悪いことだと思わなかった。
平和な世界は、私を惨めにさせる。
少しでも見えていたなら
自分を正当化出来たのかもしれない。
記憶が無ければ
幸せに生きられたのかもしれない。
コレが前世での罰だというのなら、仕方ないが。
私達が猿だと蔑んだ存在になり
自分も彼らも変わらないちっぽけな存在で
狩り取られる側であるのを忘れるな、と
力を取り上げられ
見える目も取り上げられ
抜きでた才能もなく
愛した人間そっくりな存在を目の前に
記憶に蝕まれて苦しめとでもいうのか。
私達はそれほどまで、神様を怒らせることをしたのかと笑ってしまう。
なら、神様は不平等で意地悪だ。
救いの手など差し出さない。
だけど、裁きは行う。
「神様は、不平等だなぁ」
愛した人間とそっくりな存在を目の前に
私以外の誰かと愛する姿を見せられるなんて
私にとってこれほど辛い罰はない。
泣く資格などあるはずがないのに1人涙を溢す私は神様に罰せられているのに救われたいだなんて矛盾の中で生きている。
できるだけ、会わないようにした。
できるだけ、見ないようにした。
できるだけ、噂を聞かないようにした。
けど、学校に居れば会ってしまうし
見かけてしまうし、転校生ということもあり噂を耳にすることもある。
すれ違う時に、記憶があればいいなんて都合の良いことを考えた事もあったが、そんな偶然あるわけがない。
何度も涙を流した。
彼じゃないとわかっているのに、彼に纏わりつく女とそんな彼女達に笑いかける彼を見るのが辛かった。
けど、自分から彼に近付く勇気もない私。
記憶の彼と同じたびに
記憶の彼と違うたびに
一喜一憂してしまいそうな自分が嫌で
近寄ることすら出来ない私は弱虫の愚か者。
「名前、恋してる?」
「どうして?」
「最近悩んでる顔しているから」
「そうかな?そんなに分かりやすい?」
「いつも何にも興味無くて悠々としてるのに、最近は眉間にシワ寄せて難しい顔してるからね」
「わー、そんな顔してたのか」
「名前が興味持つなんて珍しいからね!!」
友人の言葉に、自分が思っていた以上に気にしていることに気付かされる。
「興味……か。どうだろう」
「違うの?恋じゃないの?」
「………怖い、んだ」
傷付きたくない自分がいる。
けど
近寄りたい自分もいる。
「姿形だけでも、なんて思いたくない。
けど、惹かれてしまうのも事実なんだよ」
「んー…」
「私はワガママだから……
見た目も、心も全てが欲しいんだ」
たった一人を愛した私は
あの時からずっと、進めずにいる。
「名前に惚れられた人って幸せだね」
「………どうして?」
「まだまだ人生これからなのに、その人しか考えられないっ!!ってくらい愛されるなんて運命じゃん」
「どうかな?」
「諦めたくないんでしょ?
なら、諦めずアタックしなきゃ!!
見てるだけじゃ、思っているだけじゃ前になんて進めないよ」
「相手にされないかもしれないのに?」
「そんなのわからないじゃん!!
まだ土俵にすら立ってないのに負けも勝ちも無いでしょ?」
負けたら私が支えてやる!!なんて胸を張る友人に笑ってしまう。
「その時は腕の中開けといてね」
「もちろん!!」
この生活が苦か、と聞かれたら
私は苦ではないと答える。
ここは安全で、安心できる場所だから。
命の危険なんてない、平和な場所。
物足りない気持ちにはなるが
これが私の当たり前の日々となっている。
「あ、珍しいね。
今日は女の子がいないよ」
「本当だね」
「誰か待ってるのかな?」
玄関の入り口でスマホを弄りながら立つ彼。
遠い記憶の中にある、懐かしい光景。
「今日どこ寄る?」
「んー…甘いものの気分かなぁ」
「マックのソフト?」
「金欠?ならまた次回にしよう」
「えー、でも」
「すまない。彼女を借りてもいいかい?」
腕を引かれ、驚く私と友人。
にっこりと人の良い顔をする彼に、友人はどもりながらもどうぞ!!と差し出し、先に帰るね、と走って行ってしまった。
まだ頭が追い付かない私の手を繋ぎ、どこかへ歩きだす彼。
「………あ、の」
「なんだい?」
「なんで……」
なんで、こんなことに?
もしかして、と期待してしまう。
けど、そんな都合がいいわけがないと思ってしまう。
「なんで?」
ピタリと足が止まった彼を見上げる。
記憶よりも幼い顔立ち。
けど、知っている顔立ち。
「君こそ、なんでだい?」
「?」
「私のこと、興味も持てないほどどうでもいい存在になってしまったのかな?」
「何を言って」
「すれ違っても視線は合わないのに、遠くから見て、一人で泣いて……
私は君と巡りあえて嬉しかったのに」
「………嘘だ」
「嘘じゃないよ。記憶、あるんだろ?」
私が君を間違えるわけないだろ、なんて言い出す彼。
そんな……そんな都合の良いことがあっていいのか。
「………傑?」
「偽物じゃないよ」
「記憶……あるの?」
「勿論。
高専で君と出会って、恋をして、共に闇に落ちた記憶がね」
神様。
こんな都合の良い罰なんてあるのかな?
「………私、傑の知っている私じゃないよ」
「ん?」
「呪霊も見えない。呪力もない。
私達が見下した猿共と同じ存在だよ」
「………」
「私はもう……傑の隣に居ていいような、存在じゃ……」
「奇遇だね」
「は?」
「私も呪霊を見るどころか、呪力も呪式もない。特級なんて夢のまた夢の猿になってしまったよ」
「………嘘」
「本当さ。あるのは喧嘩の腕くらいかな?
頑張れば武具は扱えるかもしれないけど……そんな機会なんてなかなかないからね」
くすり、と笑う傑。
くしゃりと歪んだ表情は寂しそうに見えるような、だけどどこか清々しい。
「名前」
「………な、に?」
「特級どころか、呪力も呪式も呪霊すら見えない猿の私じゃ、君の側に居られないかい?」
「………まさか!!」
「いつ、名前が声を掛けてくれるか待ってみたけど、まったく近寄って来てくれないし、それどころか興味すら無さそうで焦ってたんだ」
「………そのわりに、女の子に囲まれて楽しそうだったね」
「ん?そう見えたかい?」
「人に好かれるのは得意だもんね?教祖様は」
「本当に好かれたい人には距離を置かれたから、私自ら声を掛けてみたんだけど」
悠々とした態度で、ペラペラとよく口が回る男だ。
けど……そんな男を愛したのは私で
そんな男を待ち望んでいたのも私だ。
「傑」
「なんだい?」
「傑……傑っ!!」
抱き付いて、抱き締めて。
やっと出会えた唯一無二の人。
「名前」
「傑…好き。好き、だよ。愛してるっ」
「私も変わらず愛してる」
神様。神様。
こんな幸せな罰があってもいいのかな?
呪力もいらない。
呪式もいらない。
呪霊が見える目もいらない。
たった一人。
前世で愛した人が隣にいる。
その人も同じ記憶を保有しているなんて……
こんな奇跡のような罰があって許されるの?
「猿になってしまった私でも、君の隣に居たいんだ」
「私も……一緒に、居たい」
「良かった。嫌だと言われたらどうしてやろうと思ってたよ」
「………性格悪い」
「酷いね。前世からの純愛だよ」
抱き締めて、身近に感じられる温もりが愛おしい。
「名前」
「なぁに?傑」
ーーー共に生きよう、今度こそ。
照れたように言う傑に
私は抱き着いて答える。
ーーー離さないで。
「本当、記憶無いのかと焦ったよ」
「わざと女の子と仲良くしてたってこと?」
「転校初日にそっくりな子を見付けたのに、その子は私を避けるようにいなくなるからね……
ちょっと心が折れかけたよ」
「………ごめん」
「まぁ、何度か核心が持てず私もわざとシカトしたんだけどね」
「クズ」
「一か八かで迎えに来たのに酷いね」
「……好き」
「知ってるよ。前世からずっと」
あとがき
今世では幸せになってほしいな……と思った結果。
のちに五条(他高)がいて、殴りあって仲直りしてほしい。
そこに硝子ちゃん(女子高)と会って、やっぱり殴られて集合してほしい。
後輩には灰原と七海が入って
みんな幸せに生きてくれ……!!!!!