最期まであなたと 2
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夢ならばどれほど良かっただろう。
12月24日
あの日、傑くんは帰って来なかった。
朝になっても帰って来ない傑くん。
25日になっちゃったよ、と一人寂しく待っていた。
連絡の来ないスマホを触る勇気が出ない。
一人大人しく、傑くんがただいま、と帰って来ることを祈り続ける。
ガチャリ、と響いた音に玄関に走って行く。
ドアを開けた先に居たのは私が待っていた傑くんではなく、五条くんだった。
「名前」
「………っ」
「逃げるな」
ドアから離れようとした私を、五条くんが掴む。
必死に振りほどこうとしても、五条くんには子供の抵抗なのだろう。
玄関のドアに押し付けられて、五条くんの腕のなかに閉じ込められる。
「離してっ」
「傑ならいない」
「そんなことない!!」
「帰って来ないよ」
「約束したの!!絶対帰って…」
「僕が傑を殺した」
冷たい氷水を頭から掛けられたかのように、全身が震える。あり得ない、嘘だと五条くんの胸ぐらを掴んで吠えればいいのに……私は納得してしまった。
ズリズリと力無く壁を滑り落ちる。
床を見ながらポタポタと流れ落ちる涙が、スカートに染みを作る。
「傑から聞いたよ。
一度も呪詛師として活動させて貰えなかったんだって?」
「傑はずっとオマエの心配していたよ」
「アイツ、僕に何て言ったと思う?
"名前が待っているから、頼んだよ"ってさ」
「馬鹿だよ。本当……オマエら馬鹿過ぎ」
しゃがみこんだ五条くんが目の前に居る。
ぐいっと、白い目隠しを外してこちらを見る青い澄んだ瞳。
学生時代と変わらない、少し幼い顔立ちの五条くんが居た。
「今ならオマエを傑に囚われていた人質として解放できる。
少しの間、閉じこめることになる可能性はあるけど、絶対に殺させない」
「………ひと、じち?」
「あの日、自らの足で出て行った事を知ってるのは学長と僕と硝子だけだ。
僕らが口を出さなければ、オマエは死刑処分にはならない」
「宣戦布告しに行ったのに?」
「オマエが呪詛師として活動出来る奴じゃないことは僕らが一番知っている。
傑だって分かっていたからオマエに何もさせなかったんだろ」
力が弱かったからじゃない。
心が弱い私を守っていてくれたのは、傑くんだ。
「宣戦布告の時……オマエが穏やかにあの頃と変わらず居る姿を見て、思ったよ」
傑は名前に一切汚れた事をさせていないと。
「分かるんだよ。
僕らみたいに汚れきった人間は同族を間違えない」
「………私」
「傑に大事に守られていたんだな……」
「五条くん」
「なに?」
「私も殺してって言ったら……怒る?」
流れ落ちる涙で笑う私は酷い顔だろう。
五条くんは眉間にシワを寄せる。
少し怒った顔をする五条くんは幼い子供のように見える。
「怒るに決まってんだろ」
「私、自害しちゃうよ」
「僕がさせないよ」
「どうかな?」
「オマエまで居なくなんな」
五条くんの弱々しい声に驚く。
じっと五条くんを見れば、顔を反らされる。
この人もーーー私と同じように、置いて逝かれた人だったと思い出す。
たった一人の親友。二人で"最強"だった二人。
実力で置いて行った五条くん。
距離を置いた傑くん。
どちらも器用なくせに、不器用にすれ違った。
最期に置いて逝ったのは……傑くんだ。
「………傑くんの嘘つき」
「アイツはずっと嘘つき野郎だよ」
自分は五条くんの手で逝ったのに、私には生きろと言うのか。
傑くんの手で終わらせて、と願ったのに傑くんは私を一人にする。
帰って来てくれず
自害することも許されず
最期まで共に居ることすら許されず
一人で生きろと……。
傑くん無しでは生きられないというのに。
「酷い人……」
「本当、酷い奴だよ」
「五条くんに頼むなんて、ね?」
「親友に女頼まれて素直に面倒見る僕って偉くない?」
「偉い偉い」
「………オマエ、図太くなった?」
「傑くんに甘やかされ過ぎてしまったからね」
共に生きたいと願った。
傑くんの帰る場所だと言われたから
未だに鮮明に傑くんを思い出せるのに
私は待っていたかったのに
君はもう、二度と帰って来てくれない。
筋肉質な両腕でしっかりと抱き締めてくれて、ふわりと香るお香の匂い。
たまに、除菌の匂いになることもあるが、ぎゅっと抱き締めた時に傑くんの筋肉質な身体が好き。
私が抱き着いたあと、少し屈んで顔を近付けてくれる。髪の毛が落ちてきて、少しだけくすぐったくなるの。
両手で頬に手を添えれば、私の手を掴みすり寄る姿。
手のひらに唇を寄せながら、ちらりとこちらを目を細めながら見てくると、キスしてほしい合図。
少しだけ背伸びして、首に腕を回せば……嬉しそうな顔をしながら、腰に腕を回し私の後頭部に手を添えるんだ。
非呪術師を猿と見下す冷たい顔
家族と会えて楽しそうにする顔
子供のように拗ねる顔
困って小首を傾げながら笑う顔
口角を上げてニヤリと企む悪い顔
愛しいと告げる顔
沢山の顔を見てきた。
沢山の時間を過ごしてきた。
どんな道でも共に堕ちると誓ったのに
最期まで、私が堕ちる事を拒否した。
大切に大切に、されてきた。
私は傑くんの人生の中で誰よりも優先され
誰よりも優しく包まれて大事に守られていた。
「………傑くんっ」
私が今悪夢の中に取り残されていて
目覚めた時に、傑くんが心配そうに覗き込んでくれていたら……私は笑って、傑くんを抱き締めるのに。
泣き出した私。
子供のように、わーわーと声を上げて泣く。
五条くんは隣に座って何も言わなかった。
狭い玄関に二人で座り込み、寒さなんて気にせず泣き声だけが響きわたる。
きっともうこれ以上、傷付く事などありはしない。
私の最愛の人。
戻らない幸せがあることを、最期にあなたが教えてくれた。
あの日の悲しみ
あの日の苦しみ
その全てを、愛してた。
傑くんを思い出す度、傑くんの思い出に触れる度、私は何度もこの悲しみを、苦しみを繰り返し泣くのだろうか……。
溢れて、止まらない涙が傑くんを想って溢すものならば、私は何度も泣くのだろう。
今でも、傑くんは私にとっての光だから。
「名前、元気?」
「………五条くん、久しぶり」
「こんな辛気臭いとこでごめんね。
けど、オマエを生かす条件として高専での監視だからさぁ」
「平気だよ。硝子ちゃんが顔だしてくれる」
「暇人かよ」
「五条くんにも当てはまるよ?それ」
高専の地下。
快適な程、色んな物が揃っていて不自由を感じることはない。
私は上からの許可が無い限り外出は出来ない。まぁ、する気も無いのだが。
私はこの先、死ぬまで出ることは出来ない。
表の世界では私が傑くんに飼い慣らされていた事になっている。
長年にわたる拉致、監禁、洗脳状態だったことから繋がりがあったことを配慮し、死刑は無しに。
夏油傑という、呪詛師が起こした事件に関わっていないとはいえ、万が一復讐など考え無いよう厳重な監視と軟禁。
傑くんの"家族"の事
傑くんの事
宗教の事
私の事
聞かれた質問は沢山あったけど、答えられたのは私の事のみ。
傑くんへの愛をたっぷりと含ませた解答に、私は傑くんの愛玩人形として洗脳状態であると判断された。
「オマエ、女優の才能あるよ」
「ふふふっ、イカれて見えたなら良かった」
「女は怖いねぇ」
「本音ばかりなんだけどなぁ」
「だとしたら本当イカれてるよ。
大量呪殺者に対して、今でも愛してるなんて」
「世間なんて知らないよ。
私は傑くんが居れば、それだけで良かったんだから」
「重たいねぇ」
「私が思うよりずーっと重たく、傑くんに恋してたんだ。
傑くんを思い出すだけで息が苦しくなる。
今でも鮮明に思い出せるんだよ。
なのに……居ないの」
溢れて出てくる涙。
あんなに側に居ても、私は傑くんが足りない。
忘れることも、思い出に生きることも出来ない。
「私は今でも、傑くんを愛してるよ」
「知ってる」
呆れたようにこちらを見下ろす五条くん。
「オマエの惚気聞きに着たわけじゃねーの」
「ん?」
「宿儺ってわかる?」
「凄い呪いの王様?」
「まぁ、それでいーや。で、その宿儺なんだけどさー器が見つかったんだ」
「ふーん」
「で、死んじゃった」
「へぇ」
「で、生き返ったから面倒よろしく」
「せっ、先生!?説明雑過ぎない!?」
ひょっこりと、五条くんの後ろから出てきたのは一人の少年。
「上には死亡で通してるから悠仁が強くなるまでは内緒にして匿っておきたいんだよね」
「じゃあ、ここはうってつけだ」
「そーそー」
「あの、えーっと…」
「悠仁、重たく拗らせた面倒な女だけど
世話とかしてくれるメイドだと思えばいーよ」
「五条くん嫌い」
「僕は好き。って事で悠仁のことよろしく」
困っている少年を置き去りにスタスタといなくなってしまう五条くん。
「少年」
「はっ、はい!!」
「トイレとお風呂あっち。
部屋は……見ての通り無いから、雑魚寝になるかな。ベッド頼む?
必要だと思うことは言ってくれたら五条くんに連絡するから」
「えーっと……お姉さんは、その……いいの?」
「ん?私は犯罪者(仮)だから気にしないで」
「へ?」
「嫌いな食べ物は?」
「特に無いけど」
「気になる事はその時に聞いて。
私、基本的にここで寝てるか泣いてるかご飯作ってるから」
「………誰か死んじゃったの?」
恐る恐る聞いてきた少年に、私は微笑む。
「唯一無二の人を亡くしちゃったよ」
「………寂しいね」
「うん、寂しい」
俺もじぃちゃんが死んでね……と、高専に来た理由を話し始めた少年。
心の優しい子だ。
「前向きにはなれそーにないの?」
「出来ないだろうなぁ……
最期まで、側に居たかったから」
「お姉さんにそんなに愛されて幸せだね、その人」
「だったら嬉しいなぁ」
「お姉さん、名前教えて」
「名前」
「俺、虎杖悠仁!!お世話になります!!」
元気がいい少年に笑う。
ソファーから起き上がってキッチンへ。
「何か食べる?」
「いいの?」
「豪華な料理は作れないけどね」
傑くん。
私は今も生きてしまっている。
だから、貴方が寂しくなったら
早めに迎えに来て欲しいな。
出来る限り、早めに。
私も寂しいから。
「名前さんの大事な人ってどんな人?」
「………優しくて、強くて、嘘つきで、意地悪。
前髪変だし、甘えん坊だし、酷い人」
「そ…そっか…」
「私の生涯、唯一無二の愛しい人だよ」
傑くん
最期まで、共に生きたかったよ。
あとがき
バッドエンドルートです。
五条さんが頑張りたいところですが
こちら夏油夢なので、五条さんが入る隙間ありませーーーん!!!!
穏やかに見えて、壊れていく夢主。
主題歌はlemonでおねしゃす。
バッドルートは主題歌lemon。
夏油傑の為の主題歌だと思っています。
12月24日
あの日、傑くんは帰って来なかった。
朝になっても帰って来ない傑くん。
25日になっちゃったよ、と一人寂しく待っていた。
連絡の来ないスマホを触る勇気が出ない。
一人大人しく、傑くんがただいま、と帰って来ることを祈り続ける。
ガチャリ、と響いた音に玄関に走って行く。
ドアを開けた先に居たのは私が待っていた傑くんではなく、五条くんだった。
「名前」
「………っ」
「逃げるな」
ドアから離れようとした私を、五条くんが掴む。
必死に振りほどこうとしても、五条くんには子供の抵抗なのだろう。
玄関のドアに押し付けられて、五条くんの腕のなかに閉じ込められる。
「離してっ」
「傑ならいない」
「そんなことない!!」
「帰って来ないよ」
「約束したの!!絶対帰って…」
「僕が傑を殺した」
冷たい氷水を頭から掛けられたかのように、全身が震える。あり得ない、嘘だと五条くんの胸ぐらを掴んで吠えればいいのに……私は納得してしまった。
ズリズリと力無く壁を滑り落ちる。
床を見ながらポタポタと流れ落ちる涙が、スカートに染みを作る。
「傑から聞いたよ。
一度も呪詛師として活動させて貰えなかったんだって?」
「傑はずっとオマエの心配していたよ」
「アイツ、僕に何て言ったと思う?
"名前が待っているから、頼んだよ"ってさ」
「馬鹿だよ。本当……オマエら馬鹿過ぎ」
しゃがみこんだ五条くんが目の前に居る。
ぐいっと、白い目隠しを外してこちらを見る青い澄んだ瞳。
学生時代と変わらない、少し幼い顔立ちの五条くんが居た。
「今ならオマエを傑に囚われていた人質として解放できる。
少しの間、閉じこめることになる可能性はあるけど、絶対に殺させない」
「………ひと、じち?」
「あの日、自らの足で出て行った事を知ってるのは学長と僕と硝子だけだ。
僕らが口を出さなければ、オマエは死刑処分にはならない」
「宣戦布告しに行ったのに?」
「オマエが呪詛師として活動出来る奴じゃないことは僕らが一番知っている。
傑だって分かっていたからオマエに何もさせなかったんだろ」
力が弱かったからじゃない。
心が弱い私を守っていてくれたのは、傑くんだ。
「宣戦布告の時……オマエが穏やかにあの頃と変わらず居る姿を見て、思ったよ」
傑は名前に一切汚れた事をさせていないと。
「分かるんだよ。
僕らみたいに汚れきった人間は同族を間違えない」
「………私」
「傑に大事に守られていたんだな……」
「五条くん」
「なに?」
「私も殺してって言ったら……怒る?」
流れ落ちる涙で笑う私は酷い顔だろう。
五条くんは眉間にシワを寄せる。
少し怒った顔をする五条くんは幼い子供のように見える。
「怒るに決まってんだろ」
「私、自害しちゃうよ」
「僕がさせないよ」
「どうかな?」
「オマエまで居なくなんな」
五条くんの弱々しい声に驚く。
じっと五条くんを見れば、顔を反らされる。
この人もーーー私と同じように、置いて逝かれた人だったと思い出す。
たった一人の親友。二人で"最強"だった二人。
実力で置いて行った五条くん。
距離を置いた傑くん。
どちらも器用なくせに、不器用にすれ違った。
最期に置いて逝ったのは……傑くんだ。
「………傑くんの嘘つき」
「アイツはずっと嘘つき野郎だよ」
自分は五条くんの手で逝ったのに、私には生きろと言うのか。
傑くんの手で終わらせて、と願ったのに傑くんは私を一人にする。
帰って来てくれず
自害することも許されず
最期まで共に居ることすら許されず
一人で生きろと……。
傑くん無しでは生きられないというのに。
「酷い人……」
「本当、酷い奴だよ」
「五条くんに頼むなんて、ね?」
「親友に女頼まれて素直に面倒見る僕って偉くない?」
「偉い偉い」
「………オマエ、図太くなった?」
「傑くんに甘やかされ過ぎてしまったからね」
共に生きたいと願った。
傑くんの帰る場所だと言われたから
未だに鮮明に傑くんを思い出せるのに
私は待っていたかったのに
君はもう、二度と帰って来てくれない。
筋肉質な両腕でしっかりと抱き締めてくれて、ふわりと香るお香の匂い。
たまに、除菌の匂いになることもあるが、ぎゅっと抱き締めた時に傑くんの筋肉質な身体が好き。
私が抱き着いたあと、少し屈んで顔を近付けてくれる。髪の毛が落ちてきて、少しだけくすぐったくなるの。
両手で頬に手を添えれば、私の手を掴みすり寄る姿。
手のひらに唇を寄せながら、ちらりとこちらを目を細めながら見てくると、キスしてほしい合図。
少しだけ背伸びして、首に腕を回せば……嬉しそうな顔をしながら、腰に腕を回し私の後頭部に手を添えるんだ。
非呪術師を猿と見下す冷たい顔
家族と会えて楽しそうにする顔
子供のように拗ねる顔
困って小首を傾げながら笑う顔
口角を上げてニヤリと企む悪い顔
愛しいと告げる顔
沢山の顔を見てきた。
沢山の時間を過ごしてきた。
どんな道でも共に堕ちると誓ったのに
最期まで、私が堕ちる事を拒否した。
大切に大切に、されてきた。
私は傑くんの人生の中で誰よりも優先され
誰よりも優しく包まれて大事に守られていた。
「………傑くんっ」
私が今悪夢の中に取り残されていて
目覚めた時に、傑くんが心配そうに覗き込んでくれていたら……私は笑って、傑くんを抱き締めるのに。
泣き出した私。
子供のように、わーわーと声を上げて泣く。
五条くんは隣に座って何も言わなかった。
狭い玄関に二人で座り込み、寒さなんて気にせず泣き声だけが響きわたる。
きっともうこれ以上、傷付く事などありはしない。
私の最愛の人。
戻らない幸せがあることを、最期にあなたが教えてくれた。
あの日の悲しみ
あの日の苦しみ
その全てを、愛してた。
傑くんを思い出す度、傑くんの思い出に触れる度、私は何度もこの悲しみを、苦しみを繰り返し泣くのだろうか……。
溢れて、止まらない涙が傑くんを想って溢すものならば、私は何度も泣くのだろう。
今でも、傑くんは私にとっての光だから。
「名前、元気?」
「………五条くん、久しぶり」
「こんな辛気臭いとこでごめんね。
けど、オマエを生かす条件として高専での監視だからさぁ」
「平気だよ。硝子ちゃんが顔だしてくれる」
「暇人かよ」
「五条くんにも当てはまるよ?それ」
高専の地下。
快適な程、色んな物が揃っていて不自由を感じることはない。
私は上からの許可が無い限り外出は出来ない。まぁ、する気も無いのだが。
私はこの先、死ぬまで出ることは出来ない。
表の世界では私が傑くんに飼い慣らされていた事になっている。
長年にわたる拉致、監禁、洗脳状態だったことから繋がりがあったことを配慮し、死刑は無しに。
夏油傑という、呪詛師が起こした事件に関わっていないとはいえ、万が一復讐など考え無いよう厳重な監視と軟禁。
傑くんの"家族"の事
傑くんの事
宗教の事
私の事
聞かれた質問は沢山あったけど、答えられたのは私の事のみ。
傑くんへの愛をたっぷりと含ませた解答に、私は傑くんの愛玩人形として洗脳状態であると判断された。
「オマエ、女優の才能あるよ」
「ふふふっ、イカれて見えたなら良かった」
「女は怖いねぇ」
「本音ばかりなんだけどなぁ」
「だとしたら本当イカれてるよ。
大量呪殺者に対して、今でも愛してるなんて」
「世間なんて知らないよ。
私は傑くんが居れば、それだけで良かったんだから」
「重たいねぇ」
「私が思うよりずーっと重たく、傑くんに恋してたんだ。
傑くんを思い出すだけで息が苦しくなる。
今でも鮮明に思い出せるんだよ。
なのに……居ないの」
溢れて出てくる涙。
あんなに側に居ても、私は傑くんが足りない。
忘れることも、思い出に生きることも出来ない。
「私は今でも、傑くんを愛してるよ」
「知ってる」
呆れたようにこちらを見下ろす五条くん。
「オマエの惚気聞きに着たわけじゃねーの」
「ん?」
「宿儺ってわかる?」
「凄い呪いの王様?」
「まぁ、それでいーや。で、その宿儺なんだけどさー器が見つかったんだ」
「ふーん」
「で、死んじゃった」
「へぇ」
「で、生き返ったから面倒よろしく」
「せっ、先生!?説明雑過ぎない!?」
ひょっこりと、五条くんの後ろから出てきたのは一人の少年。
「上には死亡で通してるから悠仁が強くなるまでは内緒にして匿っておきたいんだよね」
「じゃあ、ここはうってつけだ」
「そーそー」
「あの、えーっと…」
「悠仁、重たく拗らせた面倒な女だけど
世話とかしてくれるメイドだと思えばいーよ」
「五条くん嫌い」
「僕は好き。って事で悠仁のことよろしく」
困っている少年を置き去りにスタスタといなくなってしまう五条くん。
「少年」
「はっ、はい!!」
「トイレとお風呂あっち。
部屋は……見ての通り無いから、雑魚寝になるかな。ベッド頼む?
必要だと思うことは言ってくれたら五条くんに連絡するから」
「えーっと……お姉さんは、その……いいの?」
「ん?私は犯罪者(仮)だから気にしないで」
「へ?」
「嫌いな食べ物は?」
「特に無いけど」
「気になる事はその時に聞いて。
私、基本的にここで寝てるか泣いてるかご飯作ってるから」
「………誰か死んじゃったの?」
恐る恐る聞いてきた少年に、私は微笑む。
「唯一無二の人を亡くしちゃったよ」
「………寂しいね」
「うん、寂しい」
俺もじぃちゃんが死んでね……と、高専に来た理由を話し始めた少年。
心の優しい子だ。
「前向きにはなれそーにないの?」
「出来ないだろうなぁ……
最期まで、側に居たかったから」
「お姉さんにそんなに愛されて幸せだね、その人」
「だったら嬉しいなぁ」
「お姉さん、名前教えて」
「名前」
「俺、虎杖悠仁!!お世話になります!!」
元気がいい少年に笑う。
ソファーから起き上がってキッチンへ。
「何か食べる?」
「いいの?」
「豪華な料理は作れないけどね」
傑くん。
私は今も生きてしまっている。
だから、貴方が寂しくなったら
早めに迎えに来て欲しいな。
出来る限り、早めに。
私も寂しいから。
「名前さんの大事な人ってどんな人?」
「………優しくて、強くて、嘘つきで、意地悪。
前髪変だし、甘えん坊だし、酷い人」
「そ…そっか…」
「私の生涯、唯一無二の愛しい人だよ」
傑くん
最期まで、共に生きたかったよ。
あとがき
バッドエンドルートです。
五条さんが頑張りたいところですが
こちら夏油夢なので、五条さんが入る隙間ありませーーーん!!!!
穏やかに見えて、壊れていく夢主。
主題歌はlemonでおねしゃす。
バッドルートは主題歌lemon。
夏油傑の為の主題歌だと思っています。