最期まであなたと 2
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日没が近付いている。
私は一人、アルバムを捲りながら傑くんを待っている。
高専時代のもの。
高専から離反した後のもの。
全て笑っている。
人を好きになる喜びを教えてくれた。
人を愛する苦しみを教えてくれた。
人を失う恐怖を教えてくれた。
人を想う愛しさを教えてくれた。
私の人生の半分近く傑くんで埋まっている。
傑くんがいない人生など
もう考えられない。
「………傑くん」
新宿でもなく、京都でもなく
一人高専に向かった傑くん。
百鬼夜行は乙骨くんを一人孤立させるためのもの。
家族達が京都や新宿で騒ぎを起こし、五条くんやその他の呪術師を引き付けている間に傑くんは乙骨くんを殺して折本里香を手に入れる。
学生相手に負けると思ってはいない。
けど
万が一、五条くんが傑くんの思考を読み、乙骨くんを守るために高専に居れば作戦は中止となる。
五条くんは高専時代よりもずっと強くなっていた。
本当の呪術界"最強"である。
「……早く、帰って来て」
離れていることが、こんなに不安になると思っていなかった。
よく考えたら、この数年傑くんと離れた事なんて無かった。
監禁されかけた……というか、された事はあったが、たかが数時間。しかもそのほとんど私は寝入っていたので、起きたらすぐに傑くんと会えたので、まともに離れた記憶は無かった。
笑えるほど、私は傑くんに依存している。
たかが数時間も待てない程に。
誰もいない、しんとした家は寂しい。
けど、待っていると約束した。
必ず帰って来ると。
「いってくるよ」
「いってらっしゃい」
12月24日
家族と呼ぶ幹部の方々と共に、傑くんは戦場へ。
美々子ちゃんも菜々子ちゃんも。
私だけが、この家に残る。
「………傑くん」
「なんだい?」
「少しだけ、時間大丈夫?」
「?」
ぎゅっと、傑くんへ抱きつく。
これが最後ではない。
頭では分かっているのに……寂しくて悲しくなる。
「私に、もっと力があれば良かったな…
五条くんのような最強の力
傑くんのような努力の力」
「どうしたんだい?」
「ずっと、悔しかった。
私に力があれば、強ければ傑くんと共に傑くんが描く理想に手を貸せるのにって」
「………知ってたよ。
知ってたから、私は名前には絶対関わらせなかったんだ。
君は優しいから、私の為に色々な力になってくれる。
けど、それじゃ駄目なんだよ」
「力があったら、傑くんと並べるのに」
「私が欲しかったのは、私が私らしく居られるための安らぎの場所だよ。
名前に力があったら……きっと私は名前を拒んださ」
ずっと、羨ましかった。
五条くんも、傑くんと並べる"家族"も。
側に居ることは許されても、傑くんを守ることも、盾になることも出来ない。
役立たずのお人形だと思って後ろめたい気持ちがあった。
「名前は必ず私を守ろうとするだろ?
守らなくていい。盾になろうとしなくていい。
だから私は名前を戦場から遠ざけた。
……そのせいで、随分後ろめたい気持ちにさせてしまったみたいだが、私にも譲れない事だったんだよ」
強ければ認められるんじゃないかと思って、ずっと鍛えていたけれど、傑くんは困った顔をしていた。
傑くんに懇願するたび、いい返事を貰えず理解したフリをしていた。
貴方と共に戦場に立つ強さが欲しかった。
同じ戦場に立てる皆が羨ましかった。
なのに、どうして傑くんは愛情だけで側に居ることを許してくれるのか……。
傑くんの愛情を疑ってるわけじゃないが、ふとしたときにとても不安になることがあった。
自分に自信が無くなってしまう。
長年のお情けか。
同情なのか。
ずっと、怖くて知らないフリをしていた。
「私が帰りたい居場所なのに……
名前が居なきゃ意味がない」
傑くんの背負っているものを分け合いたかった。
私は傑くんに背負われ、守られて負担となりたくなかった。
私のエゴ。
「名前が居てくれたから、私は充分救われたよ。
高専の時あの日から、何度も何度も」
溢れる涙を拭ってくれる傑くんの大きな手。
この手が血に染まった日からずっと
私は守られて、大切にされてきた。
「だから、名前」
私は傑くんが好きだ。
傑くんを、誰よりも愛してる。
こんなにも胸が高鳴り
こんなにも胸が苦しくなり
涙を流し、愛おしく想い、大切にしたい人は
後にも先にも傑くんしかいない。
「待っていて」
「うん……待ってる。
待ってるから……必ず、帰って来て」
「当たり前だろ」
「待っているから」
さよなら、じゃない。
「いってくる」
必ず帰って来てくれる。
「いってらっしゃい」
私が貴方の帰る場所だと言うのなら
貴方が帰って来るまで待っている。
薄暗くなった部屋。
電気をつければ、外は暗い。
暖房のついた部屋は暖かいはずなのに、私の心は冷えている。毛布にくるまり、黙っていると時間が過ぎる時計の針の音がよく響く。
ゾクリとした、覚えのある呪力。
ガタンッと、音がして、何事かと玄関に向かえば、血だらけの傑くんが居た。
その隣には五条くんの姿。
こんなに近くに居るのに、傑くんから呪力をまったく感じない。
「………すぐる、くん」
「はは……っ、ただいま」
笑っているのに、片腕が無い。
呼吸が浅く速くなっていて、急いで反転術式を使った。
無くなった腕は戻らないが、傷口を塞ぐことは出来る。
私に身体を預ける傑くんを支えるように寄り添えば、片腕で抱き締められた。
物足りない包容に、代わりに隙間を無くすように私がしっかりと背中に腕を回す。
生きてる。
生きてる。
生きてるっ。
ボロボロと溢れる涙は止まらない。
温かな体温と、動く心臓。
約束通り
帰って来てくれた傑くん。
「おか……おかえ、り……おかえりっ」
「うん………ただいま」
「ふっ、すぐるく……傑くんっ!!」
「遅くなって、こんな姿でごめん」
涙でぼやけて傑くんの姿が見えにくい。
止まらない涙を擦り、今は帰って来てくれた喜びに浸っていたいがそれは出来ない。
そっと、顔を上げて見つめる先にいるのは五条くん。
いつか見た白い目隠しはしておらず、綺麗な顔を出している。
学生時代と変わらないんじゃないかと思うくらいの童顔に驚きはあるものの、五条くんと傑くんが共に来た理由を聞かなくちゃいけない。
「五条くん……」
「相変わらず泣き虫だね、名前」
「泣かせているのは傑くんのせい」
「知ってる」
「………何で?って聞いてもいい?」
何で傑くんから呪力を感じないのか。
何で傑くんと共に来たのか。
何で私達を前に何もしないのか。
「見逃すのは一回まで、と決めていたよ」
「一回は高専の時に使って貰ったよ」
「うん。
だから次に会ったらオマエらは敵だし僕はオマエ達を殺さなきゃいけない」
「………うん」
「憂太に負けた傑を僕は殺さなきゃいけなかった」
「………うん」
「けど、傑の言い残す言葉が
"名前を待たせてるから頼んだ"
なんて言われちゃったらさ
僕の手に負えないじゃん」
傑くんを見れば、罰が悪そうにしている。
睨み付けて脇腹をツネれば痛い、ごめん、と溢している。
そんな私達を見て五条くんは呆れている。
「傑の呪力はとーーーっても貴重な呪具で封印させてもらった。
その呪具探すのにめちゃくちゃ苦労したんだから感謝しろよ」
「……封印されたら、傑くんは呪術師としていられなくなる?」
「呪力は無いし、術式は勿論使えない。
呪霊は見えるけどほぼ非術師と変わんないよ。
呪具は扱えるかもしんないけど……」
ちらり、と傑くんを見る五条くん。
傑くんは眉を下げて首を振る。
「使わないよ」
「万が一、億が一
名前が呪詛師として活動していたなら殺す気だった」
「言ったろ。
名前は一切汚れていない。
あの頃のままだよ」
「うん。宣戦布告して来た時も分かってた。
だから僕は決めたんだ。
名前の為に一度だけ見逃すって」
ははっ、と笑う五条くん。
私はよく分かっておらず、頭を傾げる。
「上には死んだことにしておいてやる。
だから二度とこちらに関わらずに消えなよ」
「悟、拗らせてるよね」
「うるせーよ。
オマエこそ泣かしてんじゃねーよ」
「羨ましいからって僻むなよ」
「オマエしか見てないやつを頼まれたって胸くそ悪いに決まってるだろ。
どんな嫌がらせだよ」
「振られ続ければいいさ」
「高専時代に何度も見向きもされず、オマエがいなくなった後も相手にされなかったのに?」
「ははは、ざまぁ」
「傷口抉るぞ」
「怖い怖い」
軽口を叩き合う二人。
五条くんは穏やかに笑って私を見た。
「前回は学長が見逃しただろ
今回は僕が見逃してやる」
「五条くんの立場は?」
「僕の心配するなんて本当に甘ちゃんだよ。
名前さ、僕のこと何だと思ってんの?」
"最強"だよ
「傑の始末は僕に一任されている。
だから、どう処理するかは僕次第ってこと」
「………五条くん、バカだよっ」
「馬鹿はオマエだろ。
傑の後何も考えずに愛情だけで追っ掛けてその先に何があった?
僕が居なきゃオマエ一人で傑が戻って来るまで待ってたの?」
「バカっ!!私達が生き残って誰かの目に止まれば、五条くんだって立場悪くなるんだよ!?」
「そこは上手くやってよ」
「〜〜バカ!!」
「この子酷くない?
傑どんな教育してんだよ」
「名前は今も昔も可愛いよ」
「五条くん………ありがと」
再び溢れる涙を拭う。
「ありがと……ありがとうっ」
「僕らは出来の悪い子に甘いみたいだ。
ニ度目はない。
……もう二度と、こっちの世界に踏み込むな」
幸せに暮らしなよ。
そう言い残して消えた五条くん。
「行っちゃったね…」
「本当、悟には敵わないよ」
「………傑くん」
「はぁ……腕も無いし、呪術師ですらない
猿と同じになってしまった」
憑き物でも落ちたかのように、情けない顔をしながら私を見る傑くん。
「腕が無くても、呪術師じゃなくても
傑くんが生きて隣に居てよ」
抱き締めて、傑くんの身体が冷えてきていることに気付く。
慌てて家の中に引き込み、毛布で身体を包み込む。
相当出血もしているし、傷口を塞いだとはいえ重症だ。
コロリと私の膝に横になる傑くん。
その表情は穏やかだ。
「名前の故郷にでも移ろうか?」
「何も無い所だよ」
「集めた金で海外に行くのもいいね」
「大金……だよね」
「家族達にも残すさ」
「………美々ちゃんと菜々ちゃんは?」
「名前が嫌じゃ無いなら連れてくさ。
私が拾った責任があるからね」
「犬や猫じゃないのに」
「四人で世界を巡ろうか。
この狭い日本に居るよりは見つからないだろうし」
「いいね。素敵」
「名前」
「なぁに?傑くん」
「私が最期に逝く時まで、共に生きてくれるかい?」
片方しかない手を伸ばし、私の頬に触れる。
私はその手に自分の手を重ねて、微笑み、決まっている答えを告げる。
最期まで、あなたと
あとがき
終わったーーー!!!!
最後はかなり原作なんて関係ぬぇーーとへし折りましたが、いかがだったでしょう?
夏油 傑を幸せにする為の物語。
夜蛾先生も、硝子ちゃんも、五条さんも夢主ちゃんに甘い。
だから一回、見逃している。
あ、宣戦布告の時……とか言うの無しね。
そこんとこもカウント甘いから、五条さん。
五条さんが夢主ちゃん初恋だったら拗らせてそう。
絶対に振り向かないと分かってるから、あえて気付かないフリして、宣戦布告の時の穏やかな二人を見てやっと受け入れてたらいいな。っていう妄想。
最後は本当に悩みましたよ……。
原作通りにするか、五条さんに監禁されるか、死亡へし折るか。
まぁ、のちに全部書けばよくね?とifストーリーを考えてはおりますが、夏油傑を幸せにする物語はここで完結とさせていただきます。
本誌によって、バッドエンドルート書く可能性はありますが、まずはハッピーエンドで!!
お付き合いいただきありがとうございました!!
感想頂けたら大喜びします(笑
私は一人、アルバムを捲りながら傑くんを待っている。
高専時代のもの。
高専から離反した後のもの。
全て笑っている。
人を好きになる喜びを教えてくれた。
人を愛する苦しみを教えてくれた。
人を失う恐怖を教えてくれた。
人を想う愛しさを教えてくれた。
私の人生の半分近く傑くんで埋まっている。
傑くんがいない人生など
もう考えられない。
「………傑くん」
新宿でもなく、京都でもなく
一人高専に向かった傑くん。
百鬼夜行は乙骨くんを一人孤立させるためのもの。
家族達が京都や新宿で騒ぎを起こし、五条くんやその他の呪術師を引き付けている間に傑くんは乙骨くんを殺して折本里香を手に入れる。
学生相手に負けると思ってはいない。
けど
万が一、五条くんが傑くんの思考を読み、乙骨くんを守るために高専に居れば作戦は中止となる。
五条くんは高専時代よりもずっと強くなっていた。
本当の呪術界"最強"である。
「……早く、帰って来て」
離れていることが、こんなに不安になると思っていなかった。
よく考えたら、この数年傑くんと離れた事なんて無かった。
監禁されかけた……というか、された事はあったが、たかが数時間。しかもそのほとんど私は寝入っていたので、起きたらすぐに傑くんと会えたので、まともに離れた記憶は無かった。
笑えるほど、私は傑くんに依存している。
たかが数時間も待てない程に。
誰もいない、しんとした家は寂しい。
けど、待っていると約束した。
必ず帰って来ると。
「いってくるよ」
「いってらっしゃい」
12月24日
家族と呼ぶ幹部の方々と共に、傑くんは戦場へ。
美々子ちゃんも菜々子ちゃんも。
私だけが、この家に残る。
「………傑くん」
「なんだい?」
「少しだけ、時間大丈夫?」
「?」
ぎゅっと、傑くんへ抱きつく。
これが最後ではない。
頭では分かっているのに……寂しくて悲しくなる。
「私に、もっと力があれば良かったな…
五条くんのような最強の力
傑くんのような努力の力」
「どうしたんだい?」
「ずっと、悔しかった。
私に力があれば、強ければ傑くんと共に傑くんが描く理想に手を貸せるのにって」
「………知ってたよ。
知ってたから、私は名前には絶対関わらせなかったんだ。
君は優しいから、私の為に色々な力になってくれる。
けど、それじゃ駄目なんだよ」
「力があったら、傑くんと並べるのに」
「私が欲しかったのは、私が私らしく居られるための安らぎの場所だよ。
名前に力があったら……きっと私は名前を拒んださ」
ずっと、羨ましかった。
五条くんも、傑くんと並べる"家族"も。
側に居ることは許されても、傑くんを守ることも、盾になることも出来ない。
役立たずのお人形だと思って後ろめたい気持ちがあった。
「名前は必ず私を守ろうとするだろ?
守らなくていい。盾になろうとしなくていい。
だから私は名前を戦場から遠ざけた。
……そのせいで、随分後ろめたい気持ちにさせてしまったみたいだが、私にも譲れない事だったんだよ」
強ければ認められるんじゃないかと思って、ずっと鍛えていたけれど、傑くんは困った顔をしていた。
傑くんに懇願するたび、いい返事を貰えず理解したフリをしていた。
貴方と共に戦場に立つ強さが欲しかった。
同じ戦場に立てる皆が羨ましかった。
なのに、どうして傑くんは愛情だけで側に居ることを許してくれるのか……。
傑くんの愛情を疑ってるわけじゃないが、ふとしたときにとても不安になることがあった。
自分に自信が無くなってしまう。
長年のお情けか。
同情なのか。
ずっと、怖くて知らないフリをしていた。
「私が帰りたい居場所なのに……
名前が居なきゃ意味がない」
傑くんの背負っているものを分け合いたかった。
私は傑くんに背負われ、守られて負担となりたくなかった。
私のエゴ。
「名前が居てくれたから、私は充分救われたよ。
高専の時あの日から、何度も何度も」
溢れる涙を拭ってくれる傑くんの大きな手。
この手が血に染まった日からずっと
私は守られて、大切にされてきた。
「だから、名前」
私は傑くんが好きだ。
傑くんを、誰よりも愛してる。
こんなにも胸が高鳴り
こんなにも胸が苦しくなり
涙を流し、愛おしく想い、大切にしたい人は
後にも先にも傑くんしかいない。
「待っていて」
「うん……待ってる。
待ってるから……必ず、帰って来て」
「当たり前だろ」
「待っているから」
さよなら、じゃない。
「いってくる」
必ず帰って来てくれる。
「いってらっしゃい」
私が貴方の帰る場所だと言うのなら
貴方が帰って来るまで待っている。
薄暗くなった部屋。
電気をつければ、外は暗い。
暖房のついた部屋は暖かいはずなのに、私の心は冷えている。毛布にくるまり、黙っていると時間が過ぎる時計の針の音がよく響く。
ゾクリとした、覚えのある呪力。
ガタンッと、音がして、何事かと玄関に向かえば、血だらけの傑くんが居た。
その隣には五条くんの姿。
こんなに近くに居るのに、傑くんから呪力をまったく感じない。
「………すぐる、くん」
「はは……っ、ただいま」
笑っているのに、片腕が無い。
呼吸が浅く速くなっていて、急いで反転術式を使った。
無くなった腕は戻らないが、傷口を塞ぐことは出来る。
私に身体を預ける傑くんを支えるように寄り添えば、片腕で抱き締められた。
物足りない包容に、代わりに隙間を無くすように私がしっかりと背中に腕を回す。
生きてる。
生きてる。
生きてるっ。
ボロボロと溢れる涙は止まらない。
温かな体温と、動く心臓。
約束通り
帰って来てくれた傑くん。
「おか……おかえ、り……おかえりっ」
「うん………ただいま」
「ふっ、すぐるく……傑くんっ!!」
「遅くなって、こんな姿でごめん」
涙でぼやけて傑くんの姿が見えにくい。
止まらない涙を擦り、今は帰って来てくれた喜びに浸っていたいがそれは出来ない。
そっと、顔を上げて見つめる先にいるのは五条くん。
いつか見た白い目隠しはしておらず、綺麗な顔を出している。
学生時代と変わらないんじゃないかと思うくらいの童顔に驚きはあるものの、五条くんと傑くんが共に来た理由を聞かなくちゃいけない。
「五条くん……」
「相変わらず泣き虫だね、名前」
「泣かせているのは傑くんのせい」
「知ってる」
「………何で?って聞いてもいい?」
何で傑くんから呪力を感じないのか。
何で傑くんと共に来たのか。
何で私達を前に何もしないのか。
「見逃すのは一回まで、と決めていたよ」
「一回は高専の時に使って貰ったよ」
「うん。
だから次に会ったらオマエらは敵だし僕はオマエ達を殺さなきゃいけない」
「………うん」
「憂太に負けた傑を僕は殺さなきゃいけなかった」
「………うん」
「けど、傑の言い残す言葉が
"名前を待たせてるから頼んだ"
なんて言われちゃったらさ
僕の手に負えないじゃん」
傑くんを見れば、罰が悪そうにしている。
睨み付けて脇腹をツネれば痛い、ごめん、と溢している。
そんな私達を見て五条くんは呆れている。
「傑の呪力はとーーーっても貴重な呪具で封印させてもらった。
その呪具探すのにめちゃくちゃ苦労したんだから感謝しろよ」
「……封印されたら、傑くんは呪術師としていられなくなる?」
「呪力は無いし、術式は勿論使えない。
呪霊は見えるけどほぼ非術師と変わんないよ。
呪具は扱えるかもしんないけど……」
ちらり、と傑くんを見る五条くん。
傑くんは眉を下げて首を振る。
「使わないよ」
「万が一、億が一
名前が呪詛師として活動していたなら殺す気だった」
「言ったろ。
名前は一切汚れていない。
あの頃のままだよ」
「うん。宣戦布告して来た時も分かってた。
だから僕は決めたんだ。
名前の為に一度だけ見逃すって」
ははっ、と笑う五条くん。
私はよく分かっておらず、頭を傾げる。
「上には死んだことにしておいてやる。
だから二度とこちらに関わらずに消えなよ」
「悟、拗らせてるよね」
「うるせーよ。
オマエこそ泣かしてんじゃねーよ」
「羨ましいからって僻むなよ」
「オマエしか見てないやつを頼まれたって胸くそ悪いに決まってるだろ。
どんな嫌がらせだよ」
「振られ続ければいいさ」
「高専時代に何度も見向きもされず、オマエがいなくなった後も相手にされなかったのに?」
「ははは、ざまぁ」
「傷口抉るぞ」
「怖い怖い」
軽口を叩き合う二人。
五条くんは穏やかに笑って私を見た。
「前回は学長が見逃しただろ
今回は僕が見逃してやる」
「五条くんの立場は?」
「僕の心配するなんて本当に甘ちゃんだよ。
名前さ、僕のこと何だと思ってんの?」
"最強"だよ
「傑の始末は僕に一任されている。
だから、どう処理するかは僕次第ってこと」
「………五条くん、バカだよっ」
「馬鹿はオマエだろ。
傑の後何も考えずに愛情だけで追っ掛けてその先に何があった?
僕が居なきゃオマエ一人で傑が戻って来るまで待ってたの?」
「バカっ!!私達が生き残って誰かの目に止まれば、五条くんだって立場悪くなるんだよ!?」
「そこは上手くやってよ」
「〜〜バカ!!」
「この子酷くない?
傑どんな教育してんだよ」
「名前は今も昔も可愛いよ」
「五条くん………ありがと」
再び溢れる涙を拭う。
「ありがと……ありがとうっ」
「僕らは出来の悪い子に甘いみたいだ。
ニ度目はない。
……もう二度と、こっちの世界に踏み込むな」
幸せに暮らしなよ。
そう言い残して消えた五条くん。
「行っちゃったね…」
「本当、悟には敵わないよ」
「………傑くん」
「はぁ……腕も無いし、呪術師ですらない
猿と同じになってしまった」
憑き物でも落ちたかのように、情けない顔をしながら私を見る傑くん。
「腕が無くても、呪術師じゃなくても
傑くんが生きて隣に居てよ」
抱き締めて、傑くんの身体が冷えてきていることに気付く。
慌てて家の中に引き込み、毛布で身体を包み込む。
相当出血もしているし、傷口を塞いだとはいえ重症だ。
コロリと私の膝に横になる傑くん。
その表情は穏やかだ。
「名前の故郷にでも移ろうか?」
「何も無い所だよ」
「集めた金で海外に行くのもいいね」
「大金……だよね」
「家族達にも残すさ」
「………美々ちゃんと菜々ちゃんは?」
「名前が嫌じゃ無いなら連れてくさ。
私が拾った責任があるからね」
「犬や猫じゃないのに」
「四人で世界を巡ろうか。
この狭い日本に居るよりは見つからないだろうし」
「いいね。素敵」
「名前」
「なぁに?傑くん」
「私が最期に逝く時まで、共に生きてくれるかい?」
片方しかない手を伸ばし、私の頬に触れる。
私はその手に自分の手を重ねて、微笑み、決まっている答えを告げる。
最期まで、あなたと
あとがき
終わったーーー!!!!
最後はかなり原作なんて関係ぬぇーーとへし折りましたが、いかがだったでしょう?
夏油 傑を幸せにする為の物語。
夜蛾先生も、硝子ちゃんも、五条さんも夢主ちゃんに甘い。
だから一回、見逃している。
あ、宣戦布告の時……とか言うの無しね。
そこんとこもカウント甘いから、五条さん。
五条さんが夢主ちゃん初恋だったら拗らせてそう。
絶対に振り向かないと分かってるから、あえて気付かないフリして、宣戦布告の時の穏やかな二人を見てやっと受け入れてたらいいな。っていう妄想。
最後は本当に悩みましたよ……。
原作通りにするか、五条さんに監禁されるか、死亡へし折るか。
まぁ、のちに全部書けばよくね?とifストーリーを考えてはおりますが、夏油傑を幸せにする物語はここで完結とさせていただきます。
本誌によって、バッドエンドルート書く可能性はありますが、まずはハッピーエンドで!!
お付き合いいただきありがとうございました!!
感想頂けたら大喜びします(笑