最期まであなたと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名前のバーカ」
今はもう誰も使っていない裏山。
そこは私の休憩場所。
肺に吸い込む煙が苦い。
吐き出す煙を見上げれば紅葉に色付いた木々達。
3年目の紅葉は一人で見上げる秋の空。
名前が離反した、と聞かされたとき
私も五条も何も言わなかった。
やっぱり、と思ってしまったから。
広い教室に並べられた4つの机は
もう2つしかない。
五条は今まで通り任務に行くし、私は高専で医学の勉強をしている。
やっていることは今までと変わらないのに……秋風のようにどこか寂しく冷たいものがある。
名前は呪術師に向いていなかった。
入った頃から普通過ぎた。
見えているだけで、戦えないし強くもない。
努力して追い付こうと必死で
常に命の危機に怯えていた。
そんな名前の支えとなったのは夏油だった。
成長させたのも夏油。
強くさせたのも夏油。
名前にとって夏油はこの呪術界で生きていくためには欠かせない存在になっていた。
ずっと名前を見てきたからこそ、今回の離反は夏油が離反した時点で何となく行ってしまうんだろうと思っていた。
私や五条が側にいても上の空で脱け殻で
私達じゃ名前の支えになんかなれないんだと分かっていた。
臆病で、自信がなくて、泣き虫で、照れ屋で、恥ずかしがり屋で……
控え目に表情を緩めて笑う子だった。
恐怖に涙を流し
怯えて震えるくせに
仲間になりたいと追いかけてくる。
思い出す名前は人間らしい人間だった。
イカれた私達には無い
人間らしい感情を露にする子。
物珍しさに私達は名前に惹かれた。
「またここで吸ってんのかよ」
「嫌なら来るなよ」
「………あいつ、会えたのか」
「会えたんじゃない?
夏油のことだから迎えに行くだろうし」
「………だよな」
「へこむくらいなら夏油から奪って手元に置いときゃよかったじゃん」
「無理だろ。
あいつベタぼれだったし」
「入り込む隙間なんて無いわ。残念」
「………お前慰めてんのか貶してんのかどっちだよ」
「ガキみたいに虐めて振り向くわけねーじゃん」
「ガキで悪かったな」
五条も名前のことを気にかけていた。
それが恋なのか、興味からなのかはわからないし本気だったのかも本人すらわかっていないだろう。
2年になったくらいから五条はちょくちょく名前を目で追うようになり、夏油に阻止されていた。
身近な2人がくっついているからちょっかいかけたかっただけかもしれないが……
少なくとも五条は名前に気があった。
「あいつらここによく来てたな」
「ここから始まったからね」
五条に呪術師を辞めろと言われるたび、涙を流しながら鍛練をしていた名前。
毎日毎日飽きないものだと思って見ていた。
枯れることのない涙。
体力作りから始まりこの裏山を駆け回り
何かやっていたのか何かの型の動きをし
手に合わない呪具を振り回していた。
夏ぐらいから夏油が面倒を見て
仲良くなっていく2人が面白くなかった。
彼女を最初に見付けたのは私なのに
同姓で部屋だって隣なのに
自分は知っているのに
彼女は此方を見ようとしないことが面白くなかった。
視界に入るように顔を合わせれば
友達になりたいなんて言い出すから
どこか抜けてる名前が面白かった。
話せば話すほど、穏やかな子だと思った。
この世界が似合わない子。
黙っていても苦にならず
隣にいるのが心地好い。
「最初に手懐けたのが夏油じゃなかったら
今、変わってたのかね」
「………たらればなんて今さら意味ねーよ」
「だね」
この裏山には名前の努力が沢山刻まれている。
もういない彼女がひょっこり顔を出して、また鍛練を始めるかのような雰囲気が残ったままだ。
「馬鹿だよな」
「うん」
「呪術師辞めてれば普通の幸せもあったのに」
「さぁ?
案外、今の方が幸せかもよ」
「犯罪者の一員になったのに?」
「好きな奴と一緒だから大丈夫だろ」
「………恋愛脳かよ」
「だから名前は呪術師に向かない」
ある意味イカれている。
人生投げ捨てて犯罪者と共に居ることを選んだのだから。
「好きな奴ね……
恋だの愛だの、それが一番歪な呪いだろ」
「五条さ、名前が先生に啖呵切ったの知ってる?」
「は?まじかよ」
「あの日、先生相手に
誰かの為に生きるなら夏油の為に生きたいって言っていなくなったんだって」
「………本当、馬鹿じゃん」
「先生も名前に甘いよね」
短くなってしまったソレをいつものようにポケット灰皿で消す。
もう、ここでじっと私の一服姿をじっと見つめる彼女の姿は無い。
「五条」
「なに」
「もし名前に会ったら言っといて」
「なにを」
「バーカって」
色付いた木々の葉がひらりひらりと落ちていく。
今は色付いた葉のカーペットだが
もうすぐここは寂れた場所となる。
「言っとく」
「………肉まん売ってるかな」
「そろそろ売り出すだろ」
彼女は今、笑っているだろうか?
穏やかに、照れながら
優しさに溢れた笑顔で。
「五条珈琲奢ってよ。ブラックね」
「はいはい」
願わくばーーー彼女が
穏やかに笑っていてくれることを願う。
命の危険などないとこで
普通の生活をしながら
幸せだと思っていてくれたなら
友として祝福したい
自分の為に生きようと必死に足掻き
初めて咲かせた幸せの芽を枯らさぬように……
あとがき
硝子ちゃん視点で何書きたかったの?と言われるとごめんなさいって言いたい。
夏で終わると中途半端だから
ちょっと番外編として秋と冬を作りたかったの……!!
夢主の名前しか出てこないけど。
硝子ちゃんは
夢主ちゃんの友として幸せを願いそう。
応援はしない(笑)