最期まであなたと
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君に出会って恋をした。
君と過ごして愛を育んだ。
当たり前に隣にいることが幸せで
嘘つきな君も
意地悪な君も
弱い君も
優しい君も
正義感がある君も
強い君も
愛しくて
哀しかった。
16歳の春、君と出会い
16歳の夏、君に恋をし
16歳の秋、君達と仲間になれ
16歳の冬、君と通じあい
17歳の春、君と笑い
17歳の夏、君は絶望し
17歳の秋、君は悩み
17歳の冬、君は離れようとし
18歳の春、君に手を伸ばした。
3年目の春
暖かくなってきた高専に、少ないながらまた新入生が入って来ていた。
ほとんど任務でいない私達だが、まだ繁忙期に入っていないせいか、傑くんとの時間が以前よりは増えた。
話を聞いて欲しいと言ったけど、傑くんから話す感じではなく……ただ穏やかに、一緒に過ごした。
距離を置いていたのを埋めるように……
失ったナニカを埋めるように……
「名前」
うとうととしてきた寝入る前。
傑くんがぽつりぽつりと話し出した。
「名前は非術師をどう思う」
「非術師……?」
「あの日から私の中の非術師の価値が揺らいでいるんだ」
「………傑くん
あの日……何があったの?」
聞けなかった一言。
二人で布団の中で向き合いお互いを見る。
「………報告は聞いているだろ」
「報告と傑くんが見てきたことは違うでしょ
教えて
傑くんが出会った星漿体の少女のこと。
傑くんが見たこと」
一年が経とうとしているのに……あの日から傑くんの時間は止まったままだ。
傑くんが話してくれる気になってくれたなら、私は傑くんから聞きたかった。
「報告書じゃどんな少女だったのか何も書かれていない。
傑くんが見て、話して来た彼女はどんな人だったの?」
「………生意気な、子だったよ」
「うん」
「ホテルが襲撃されて、窓から放り投げられて……気絶してたのを私が拾ったんだ」
「………最初から凄い出会いだね」
「天元様の暴走による呪術界の転覆を目論む呪詛師は弱かったな……
彼女ーー理子ちゃんのお世話係はメイド服だったよ」
「もしかして、五条くんの満面の笑顔の写真って……」
「悟も同じ時に呪詛師と戦ってたみたいだからね」
ボコボコでいい笑顔の五条くんの写真に、硝子ちゃんと何してんの?と頭を傾げた記憶がある。
「なかなか目覚めなくてね……目が覚めて抱いていた悟が頬にビンタされてたよ」
「………すごい子だね。
あの五条くんを初対面でビンタ……」
「私は嘘つきの顔って言われたな。
あと、前髪も変って」
「………ふっ」
「笑うなよ」
ぐりぐりと指で頭を押される。
痛くはないが、髪の毛がぐしゃぐしゃになる。
「悟と二人で引き伸ばしたな」
「………星漿体を?」
「足と手を持ってね」
「何やってるの」
「元気な子で、生意気で、変な喋り方だったよ」
どこか楽しそうに話す傑くん。
「理子ちゃんはね、家族を幼い頃に亡くしてて……家族と呼べる人はお世話係の黒井さんだけだったんだ」
「そっか……」
「学校に行って理子ちゃんの懸賞金目当てで呪詛師が襲撃してきたんだ」
「懸賞金?」
「そう。闇サイトで期限付きで。
悟が理子ちゃんを保護していて、私も向かったら……黒井さんが拐われてね。
取引場所が沖縄だったんだ」
「………沖縄?」
「沖縄」
同化まで2日ほどの護衛話が、なぜ沖縄……と本来ならば、真面目に聞かなきゃいけない話なのに……どこか突拍子もない状況にどんな反応をしていいか困る。
困ってる私に傑くんも苦笑する。
「次の日に朝から沖縄に行って昼には海水浴で遊んでたよ」
「楽しそうだったもんね、写真」
「改めて考えると可笑しな話だな」
傑くんからメールがくるたび、硝子ちゃんとどんな状況?と頭を傾げていて、お土産を頼んだ気がする。
旅行じゃないと断られたが、楽しそうだった。
「悟なりに理子ちゃんのことを思って観光させたかったんだ……2日間、悟は術式を解かず寝ていなかった。
高専の結界内に入ってやっと悟は術式を解いたんだ。
そして、悟が刺された」
「結界内で?」
「特殊な天与呪縛の持ち主だったんだ。
その場は悟に任せて黒井さんと理子ちゃんと薨星宮に向かった。
黒井さんは途中までしか行けず、2人は別れを済ませ……本殿への前で………」
言葉を切った傑くん。
「理子ちゃんが同化を選んでも、拒否しても私達なら何とかなると思ってた。
理子ちゃんの未来を保証すると……あの時は本気で思っていたんだ」
「………うん」
「皆と一緒にいたいと、色んな所に行き色んな物を見て……あの子は生きたいと願っていた。
だから、帰ろうと……手を伸ばしたんだ」
「………うん」
「理子ちゃんの手は伸ばされたのに……重なることなく、理子ちゃんは侵入者に頭を撃ち抜かれたよ」
「………え」
「彼女の虚ろな瞳が、未だに忘れられない」
何てこと無いように話す傑くん。
私達は確かに何度か助けられなかった人達を看取った。
呪霊のせいで生き絶えてしまった人達を。
私達は万能じゃない。
力があっても……同じ人間で、私達はまだ心の不安定な子供だ。
大人ですら耐えきれないであろう、命を掛けた現場に送られることだってある。
なのに……
守ると約束した少女を目の前で失った傑くんの気持ちなど、誰もが想像したところで……当人しかわからない辛さがある。
涙を流す私に、傑くんは続ける。
「侵入者は悟と黒井さんを殺して来たと言ったよ。
私は彼に負けたし……怪我は負ったが死なない程度に生かされた。
だから硝子の反転術式でどうにかなっただけ……私は手も足も出なかったよ」
「傑くん……っ」
「私が駆け付けた時には……悟が侵入者を返り討ちにしていたし、死を乗り越えて得た強さなのだろうね……悟はあぁなっていた」
「………っ」
「私が見たものは何も珍しくない。
周知の醜悪さ。
知った上で私は術師として人々を救う選択をしてきた」
「傑くん……もう、もういいっ」
「呪術は非術師を守るためにあると考えていた……
弱者故の尊さ、弱者故の醜さ
非術師を見下す自分、それを否定する自分」
「傑くん……」
世界は優しさで出来てなんかいない。
「分からないんだ……」
泣いているのに、泣かない君が優しすぎて……
私が泣いている。
君が背負うべきことじゃないはずなのに……世界は力ある傑くんへ重荷を増やす。
この優しい人を苦しめないで欲しい。
真面目で優しい傑くんは……自分で自分の首を締め付ける。
泣き虫な私の涙を静かに拭う。
傑くんの胸元へ頭を押し付ければ、抱き締めてくれる。
「ごめんなさい……辛いこと、話させて……っ」
「……もう、過去のことさ」
「けど、傑くんの心を痛めてるよ」
「……いつか、君が理子ちゃんのように非術師に殺されてしまうんじゃないかと夢を見るんだ」
少しだけ震えている傑くんの手を握る。
見上げた先には、目を細めて切ない顔をする傑くん。
「情けない話
優しい君が非術師を守るために命を落とすのかと思うと……怖くなった。
呪霊と戦って命を落とすのも、非術師によって命を落とすのも……君が居なくなることが嫌なんだ」
「私は……」
「だから、いっそ術師など辞めてくれと思ったよ」
ずっと応援してくれていた傑くんから、はっきりと言われた否定。
「………ごめん。名前は頑張っているのに」
「ううん、平気…」
「君を手離せばこの悪夢から解放されるんじゃないかと思った時もあった……
けど、駄目だね。
私は私が思っている以上に君が……名前が好きなんだよ」
悲痛に歪んだ表情の傑くん。
「……私は名前が思っているような男じゃない。
嫉妬深いし、根に持つし、優しくなんかない。
君に近付いたのも下心があったからだし
君が私を好いてくれるように甘やかした」
「………」
「名前、今ならまだ君を巻き込まないで済む」
「………」
「私が君を殺す前にーー」
「傑くんはやっぱり優しいよ」
私の言葉に、傑くんは眉を寄せる。
場違いながら、私は笑った。
傑くんに手を伸ばして頬に触れれば、痩せてしまったな……と彼の心労が伺える。
「………名前、話を聞いてたかい?」
「ごめんね、傑くん……私、嬉しい」
「……なぜだい?」
「傑くんが私を好きだって言ってくれるのが……何よりも嬉しいの」
泣いているくせに、笑う私はおかしいのだろう。
「愛されているって……
こんなにも、嬉しい事なんだね」
「………名前」
「私はもう傑くん以外の誰かに恋を出来ないと思うの」
恋が
こんなにも苦しくて
こんなにも甘くて
こんなにも哀しくて
こんなにも愛しいと知れたのは
全て貴方が教えてくれた感情。
生きることに必死だった私に
恋を教えてくれた貴方。
「傑くん」
私はきっと、間違っている。
恋に浮かれて周りが見えていないと言われても……この人を一人にはしたくなかった。
「傑くんが決めた時、教えて
私は傑くんが決めた道を一緒に生きたい」
「………何を言ってるか、分かってるのかい」
「私がいらないその時は……傑くんの手で終わらせて」
傑くんの手を取り、その手を首に触れさせる。
傑くんの手がピクリっと動いた
「私の全てをあげるから」
君に恋をして
私は幸せなんだ。
「私の欲しかったものをくれたのは傑くんだよ。
なら、私の全て傑くんの好きにしてほしい」
君の想いが狂っているというのなら
私の歪んだ想いも狂っている。
「好きだよ……
傑くんが、大好き」
君と離れるくらいなら、私は君の手で終わりたい。
君と離れるくらいなら、私は君の呪霊となりたい。
君の力になれるなら
君の隣に居られるならば
私は全てを捨てて、君と歩みたい。
「もう、傑くんがいない世界なんて考えられないよ」
「………馬鹿だね、名前は」
「馬鹿なの」
「離してやれないよ」
「そう言って、傑くんなら置いて行きそうだ」
「………ごめん、ありがとう」
傑くんを支えきれるとは思っていない。
傑くんを救えるとは思っていない。
私は弱くて、邪魔だと思う。
それでも傑くんと共に居たいと願う……
私の我が儘とエゴだ。
好き、というだけの決断で傑くんに迷惑かけたくないのに……
私は傑くんから離れたくない。離れられない。
私が願うのは
私の幸せ。
その私の幸せの中で、傑くんが幸せだと思ってくれるならば……
二人で泣きながら抱き合って眠った。
彼の弱さも
私の弱さも
溶け合って流れてしまえばいい。
明日からは少しだけ……私は強くなるから。
あとがき
あー……むーずーかーしぃぃいいいいっ!!!
この話が一番悩んだ気がします。
きっかけが理子ちゃんから始まり
灰原と夏の大量討伐で蓄積されていき
みみななで選ぶのなら
この時期はまだまだ迷いながらも
着々と心は堕ちていると思いました。
そんな中で
誰かがこれからも一緒に居てくれるなら
ちょっとでも心の支えになれれば
傑の気持ちが穏やかにあれ……と思います。
次でラストです。
その後の小話はボチボチ書くので
まずは次で終わりにしまっす!!
最後までお付き合いお願いいたします。
君と過ごして愛を育んだ。
当たり前に隣にいることが幸せで
嘘つきな君も
意地悪な君も
弱い君も
優しい君も
正義感がある君も
強い君も
愛しくて
哀しかった。
16歳の春、君と出会い
16歳の夏、君に恋をし
16歳の秋、君達と仲間になれ
16歳の冬、君と通じあい
17歳の春、君と笑い
17歳の夏、君は絶望し
17歳の秋、君は悩み
17歳の冬、君は離れようとし
18歳の春、君に手を伸ばした。
3年目の春
暖かくなってきた高専に、少ないながらまた新入生が入って来ていた。
ほとんど任務でいない私達だが、まだ繁忙期に入っていないせいか、傑くんとの時間が以前よりは増えた。
話を聞いて欲しいと言ったけど、傑くんから話す感じではなく……ただ穏やかに、一緒に過ごした。
距離を置いていたのを埋めるように……
失ったナニカを埋めるように……
「名前」
うとうととしてきた寝入る前。
傑くんがぽつりぽつりと話し出した。
「名前は非術師をどう思う」
「非術師……?」
「あの日から私の中の非術師の価値が揺らいでいるんだ」
「………傑くん
あの日……何があったの?」
聞けなかった一言。
二人で布団の中で向き合いお互いを見る。
「………報告は聞いているだろ」
「報告と傑くんが見てきたことは違うでしょ
教えて
傑くんが出会った星漿体の少女のこと。
傑くんが見たこと」
一年が経とうとしているのに……あの日から傑くんの時間は止まったままだ。
傑くんが話してくれる気になってくれたなら、私は傑くんから聞きたかった。
「報告書じゃどんな少女だったのか何も書かれていない。
傑くんが見て、話して来た彼女はどんな人だったの?」
「………生意気な、子だったよ」
「うん」
「ホテルが襲撃されて、窓から放り投げられて……気絶してたのを私が拾ったんだ」
「………最初から凄い出会いだね」
「天元様の暴走による呪術界の転覆を目論む呪詛師は弱かったな……
彼女ーー理子ちゃんのお世話係はメイド服だったよ」
「もしかして、五条くんの満面の笑顔の写真って……」
「悟も同じ時に呪詛師と戦ってたみたいだからね」
ボコボコでいい笑顔の五条くんの写真に、硝子ちゃんと何してんの?と頭を傾げた記憶がある。
「なかなか目覚めなくてね……目が覚めて抱いていた悟が頬にビンタされてたよ」
「………すごい子だね。
あの五条くんを初対面でビンタ……」
「私は嘘つきの顔って言われたな。
あと、前髪も変って」
「………ふっ」
「笑うなよ」
ぐりぐりと指で頭を押される。
痛くはないが、髪の毛がぐしゃぐしゃになる。
「悟と二人で引き伸ばしたな」
「………星漿体を?」
「足と手を持ってね」
「何やってるの」
「元気な子で、生意気で、変な喋り方だったよ」
どこか楽しそうに話す傑くん。
「理子ちゃんはね、家族を幼い頃に亡くしてて……家族と呼べる人はお世話係の黒井さんだけだったんだ」
「そっか……」
「学校に行って理子ちゃんの懸賞金目当てで呪詛師が襲撃してきたんだ」
「懸賞金?」
「そう。闇サイトで期限付きで。
悟が理子ちゃんを保護していて、私も向かったら……黒井さんが拐われてね。
取引場所が沖縄だったんだ」
「………沖縄?」
「沖縄」
同化まで2日ほどの護衛話が、なぜ沖縄……と本来ならば、真面目に聞かなきゃいけない話なのに……どこか突拍子もない状況にどんな反応をしていいか困る。
困ってる私に傑くんも苦笑する。
「次の日に朝から沖縄に行って昼には海水浴で遊んでたよ」
「楽しそうだったもんね、写真」
「改めて考えると可笑しな話だな」
傑くんからメールがくるたび、硝子ちゃんとどんな状況?と頭を傾げていて、お土産を頼んだ気がする。
旅行じゃないと断られたが、楽しそうだった。
「悟なりに理子ちゃんのことを思って観光させたかったんだ……2日間、悟は術式を解かず寝ていなかった。
高専の結界内に入ってやっと悟は術式を解いたんだ。
そして、悟が刺された」
「結界内で?」
「特殊な天与呪縛の持ち主だったんだ。
その場は悟に任せて黒井さんと理子ちゃんと薨星宮に向かった。
黒井さんは途中までしか行けず、2人は別れを済ませ……本殿への前で………」
言葉を切った傑くん。
「理子ちゃんが同化を選んでも、拒否しても私達なら何とかなると思ってた。
理子ちゃんの未来を保証すると……あの時は本気で思っていたんだ」
「………うん」
「皆と一緒にいたいと、色んな所に行き色んな物を見て……あの子は生きたいと願っていた。
だから、帰ろうと……手を伸ばしたんだ」
「………うん」
「理子ちゃんの手は伸ばされたのに……重なることなく、理子ちゃんは侵入者に頭を撃ち抜かれたよ」
「………え」
「彼女の虚ろな瞳が、未だに忘れられない」
何てこと無いように話す傑くん。
私達は確かに何度か助けられなかった人達を看取った。
呪霊のせいで生き絶えてしまった人達を。
私達は万能じゃない。
力があっても……同じ人間で、私達はまだ心の不安定な子供だ。
大人ですら耐えきれないであろう、命を掛けた現場に送られることだってある。
なのに……
守ると約束した少女を目の前で失った傑くんの気持ちなど、誰もが想像したところで……当人しかわからない辛さがある。
涙を流す私に、傑くんは続ける。
「侵入者は悟と黒井さんを殺して来たと言ったよ。
私は彼に負けたし……怪我は負ったが死なない程度に生かされた。
だから硝子の反転術式でどうにかなっただけ……私は手も足も出なかったよ」
「傑くん……っ」
「私が駆け付けた時には……悟が侵入者を返り討ちにしていたし、死を乗り越えて得た強さなのだろうね……悟はあぁなっていた」
「………っ」
「私が見たものは何も珍しくない。
周知の醜悪さ。
知った上で私は術師として人々を救う選択をしてきた」
「傑くん……もう、もういいっ」
「呪術は非術師を守るためにあると考えていた……
弱者故の尊さ、弱者故の醜さ
非術師を見下す自分、それを否定する自分」
「傑くん……」
世界は優しさで出来てなんかいない。
「分からないんだ……」
泣いているのに、泣かない君が優しすぎて……
私が泣いている。
君が背負うべきことじゃないはずなのに……世界は力ある傑くんへ重荷を増やす。
この優しい人を苦しめないで欲しい。
真面目で優しい傑くんは……自分で自分の首を締め付ける。
泣き虫な私の涙を静かに拭う。
傑くんの胸元へ頭を押し付ければ、抱き締めてくれる。
「ごめんなさい……辛いこと、話させて……っ」
「……もう、過去のことさ」
「けど、傑くんの心を痛めてるよ」
「……いつか、君が理子ちゃんのように非術師に殺されてしまうんじゃないかと夢を見るんだ」
少しだけ震えている傑くんの手を握る。
見上げた先には、目を細めて切ない顔をする傑くん。
「情けない話
優しい君が非術師を守るために命を落とすのかと思うと……怖くなった。
呪霊と戦って命を落とすのも、非術師によって命を落とすのも……君が居なくなることが嫌なんだ」
「私は……」
「だから、いっそ術師など辞めてくれと思ったよ」
ずっと応援してくれていた傑くんから、はっきりと言われた否定。
「………ごめん。名前は頑張っているのに」
「ううん、平気…」
「君を手離せばこの悪夢から解放されるんじゃないかと思った時もあった……
けど、駄目だね。
私は私が思っている以上に君が……名前が好きなんだよ」
悲痛に歪んだ表情の傑くん。
「……私は名前が思っているような男じゃない。
嫉妬深いし、根に持つし、優しくなんかない。
君に近付いたのも下心があったからだし
君が私を好いてくれるように甘やかした」
「………」
「名前、今ならまだ君を巻き込まないで済む」
「………」
「私が君を殺す前にーー」
「傑くんはやっぱり優しいよ」
私の言葉に、傑くんは眉を寄せる。
場違いながら、私は笑った。
傑くんに手を伸ばして頬に触れれば、痩せてしまったな……と彼の心労が伺える。
「………名前、話を聞いてたかい?」
「ごめんね、傑くん……私、嬉しい」
「……なぜだい?」
「傑くんが私を好きだって言ってくれるのが……何よりも嬉しいの」
泣いているくせに、笑う私はおかしいのだろう。
「愛されているって……
こんなにも、嬉しい事なんだね」
「………名前」
「私はもう傑くん以外の誰かに恋を出来ないと思うの」
恋が
こんなにも苦しくて
こんなにも甘くて
こんなにも哀しくて
こんなにも愛しいと知れたのは
全て貴方が教えてくれた感情。
生きることに必死だった私に
恋を教えてくれた貴方。
「傑くん」
私はきっと、間違っている。
恋に浮かれて周りが見えていないと言われても……この人を一人にはしたくなかった。
「傑くんが決めた時、教えて
私は傑くんが決めた道を一緒に生きたい」
「………何を言ってるか、分かってるのかい」
「私がいらないその時は……傑くんの手で終わらせて」
傑くんの手を取り、その手を首に触れさせる。
傑くんの手がピクリっと動いた
「私の全てをあげるから」
君に恋をして
私は幸せなんだ。
「私の欲しかったものをくれたのは傑くんだよ。
なら、私の全て傑くんの好きにしてほしい」
君の想いが狂っているというのなら
私の歪んだ想いも狂っている。
「好きだよ……
傑くんが、大好き」
君と離れるくらいなら、私は君の手で終わりたい。
君と離れるくらいなら、私は君の呪霊となりたい。
君の力になれるなら
君の隣に居られるならば
私は全てを捨てて、君と歩みたい。
「もう、傑くんがいない世界なんて考えられないよ」
「………馬鹿だね、名前は」
「馬鹿なの」
「離してやれないよ」
「そう言って、傑くんなら置いて行きそうだ」
「………ごめん、ありがとう」
傑くんを支えきれるとは思っていない。
傑くんを救えるとは思っていない。
私は弱くて、邪魔だと思う。
それでも傑くんと共に居たいと願う……
私の我が儘とエゴだ。
好き、というだけの決断で傑くんに迷惑かけたくないのに……
私は傑くんから離れたくない。離れられない。
私が願うのは
私の幸せ。
その私の幸せの中で、傑くんが幸せだと思ってくれるならば……
二人で泣きながら抱き合って眠った。
彼の弱さも
私の弱さも
溶け合って流れてしまえばいい。
明日からは少しだけ……私は強くなるから。
あとがき
あー……むーずーかーしぃぃいいいいっ!!!
この話が一番悩んだ気がします。
きっかけが理子ちゃんから始まり
灰原と夏の大量討伐で蓄積されていき
みみななで選ぶのなら
この時期はまだまだ迷いながらも
着々と心は堕ちていると思いました。
そんな中で
誰かがこれからも一緒に居てくれるなら
ちょっとでも心の支えになれれば
傑の気持ちが穏やかにあれ……と思います。
次でラストです。
その後の小話はボチボチ書くので
まずは次で終わりにしまっす!!
最後までお付き合いお願いいたします。