最期まであなたと
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君に出会って恋をした。
君と過ごして愛を育んだ。
当たり前に隣にいることが幸せで
嘘つきな君も
意地悪な君も
弱い君も
優しい君も
正義感がある君も
強い君も
愛しくて
哀しかった。
16歳の春、君と出会い
16歳の夏、君に恋をし
16歳の秋、君達と仲間になれ
16歳の冬、君と通じあい
17歳の春、君と笑い
17歳の夏、君は絶望し
17歳の秋、君は悩み
17歳の冬、君は離れようとした。
何も解決せぬまま、冬が来た。
地元と違い、東京の冬は暖かい。
といっても、こちらの気候に体が慣れてしまうと寒いものは寒いと感じてしまう。
「平気そうですね」
「七海くん」
「寒くないんですか?」
「寒いけど、地元はもっと寒かったから」
「どこでしたっけ?」
「北海道」
今日は珍しく後輩との任務だ。
七海くんは北海道の冬を思い浮かべたのか、嫌そうに表情を歪めていて、素直に顔に出してしまう七海くんに笑ってしまう。
「だから苗字さんは夏が苦手なんですね」
「こっちの夏おかしいよ」
「北海道の冬もおかしいですよ」
「わかる」
二人でクスクス笑っているが、なかなか呪霊が出てこない。
二人で廃ビルをうろうろしているものの、特に変わった様子はない。
「早く帰りたいね」
「ですね」
「七海くんは年越し帰るの?」
「そうですね。苗字さんは?」
「迷い中」
地元に帰ればもっと寒い洗礼が待ち受けているし、何より急に呼び出されても海を挟んでいる。
去年は北海道の討伐を任されたのはいいが、縮尺の関係をもっとよく理解してて欲しいと思うくらい、北海道を移動した。
「こっちはさ、一時間あれば隣の県行けるかもしれないけど……北海道、広いんだよ」
「大変そうですね」
「うん、移動だけで大変だったから
今年はやっぱり呼び出されても大丈夫なように居残るかなぁ」
そしたら討伐の依頼が入っても、高専ならば誰かしらいるし補助監督さんとも連絡が取りやすい。
一人で納得していれば、やっと呪霊の気配に七海くんと構える。
「終わらせたらご飯食べに行こうか」
「いいですね。奢りでお願いします」
七海くんのお陰で簡単に片付いたため、ご飯を約束通り奢って高専に帰ってきた。
「おかえり」
「硝子ちゃん、ただいま!!」
「怪我は?」
「七海くんが優秀だから怪我ないよ」
また悪い子の帰りなのだろう。
硝子ちゃんの体から香る匂いに苦笑してしまうが、一緒に寮まで戻る。
「お土産は?」
「都内だから無いよ」
「ちぇっ」
「後から一緒にコンビニ行く?」
「行く」
硝子ちゃんとは変わらず仲良くさせてもらっている。
討伐任務が多くなるたび、硝子ちゃんが出迎えてくれるだけでほっとするようになった。
帰って来れた安心。
生きている安心。
弱い私はいつ自分の命が消えてしまうのかと
怯えてしまう。
誰かが助けてくれる、なんて希望は持てないくらい呪術界は人手が足りない。
だからこそ、学生にも任務は容赦なく回ってくる。
私で疲労を感じるくらいならば
五条くんや傑くんの疲労は計り知れないだろう。
硝子ちゃんとコンビニに行ったら、久しぶりに五条くんを見た。
甘いものコーナーを見ている五条くんに硝子ちゃんと目を見開いた。
「おつー」
「おう」
「何だか久しぶりだね……五条くん」
「だな」
硝子ちゃんは甘いものコーナーを素通りして飲み物のところへ。
私も疲れたからと甘いものを見ていれば、五条くんがじっとこちらを見ている。
「?
何かついてる?」
「傑は?」
「まだ帰って来て無かったよ」
「ふーん」
プリンにしようと手に取り、私も飲み物のコーナーへ。
一通り店内を見てレジに向かえば、五条くんと硝子ちゃんがいて、その後ろに並ぶと五条くんが私の品物も一緒にとレジを通していく。
「あの、五条くん!?」
「五条、私肉まん」
「なら俺あんまん。名前は?」
「え?えっと、あんまん」
「傑は……肉まんでいっか」
五条くんが定員に肉まんとあんまんも頼んで会計をする。
肉まんとあんまんを受け取った硝子ちゃんはそのまま外へ。
商品の袋を重て……と、呟きながら持っている五条くんに頭を掴まれながら外へ出ると、すでに肉まんを頬張る硝子ちゃん。
「はい、名前」
「名前、俺のあんまん」
「あの…五条くん、お金」
「コンビニくらいたいした金額じゃねーよ」
「名前、五条が奢ってくれるって言うんだから甘えとこう」
「甘えとけ甘えとけ。
で、俺のあんまん早く」
「あっ、ごめんね」
袋からあんまんを取り出して手渡せば、かぶりつく五条くん。
「五条くん、ご馳走になります」
「おー」
あんまんを取り出して食べれば温かい。
肌寒い外で食べる中華まんの美味しさに、頬が緩む。
「五条くん、忙しそうだけどきちんと休めてる?」
「おー。手応えないから余裕」
「そっか。なら良かった」
「お前は?ちゃんと任務出来てんの?」
「一応大怪我はしてないよ」
「ふーん。まぁ、無理すんなよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられるのはいいが、勢いが強すぎてあんまんが口元に。
中身が地味に熱いし、口元から離すとあんまみれ。
硝子ちゃんと五条くんが一瞬黙ったが、私を見てすぐに吹き出して笑った。……酷い。
寮の談話室に行くと、部屋着姿の傑くんに会った。
「おかえりなさい、傑くん」
「ただいま。……三人でコンビニかい?」
「硝子ちゃんとコンビニ行ったら五条くんが居たんだ。
あ、これ五条くんから肉まん」
「今はお腹いっぱいだから後から食べるよ」
机に品物を広げる五条くん。
おや?とちょっとした違和感。
だけど、違和感の正体がわからずに私は普通に輪の中へ。
「傑何かいる?」
「いや、私はいいよ」
「ほら、硝子と名前の」
「ありがとう五条くん」
「サンキュー」
久しぶりに4人で他愛もない会話。
その最中も違和感はあったが、気にしないようにしてその場を楽しんだ。
それぞれが部屋に戻った後も、違和感の正体がはっきりとわからずにモヤモヤする。
布団に入って何だろうと考えた時に
ふと、傑くんに触れられたのはいつだろうと思う。
いつもは、傑くんが話の最中であろうと手を繋いだり頭を撫でてくれた。
名前を呼んで、側に居させてくれたのに…
今日は私と距離のある場所に座っていて、私に触れていたのは硝子ちゃんや五条くんだ。
メールもするし、電話もする。
話もするし、隣にいる。
なのに……どこか距離のある傑くんの存在に気付くと、今日の違和感の正体がはっきりする。
それから、傑くんは私を避けるように理由を着けて会おうとしてくれなくなった。
連絡はしてくれるのに、会おうとしない。
会ってもどこか視線が合わない。
私が何かしてしまったのかと思うが、馬鹿だから思い当たることしかない。
ついに愛想尽きたのかと怖くなる。
距離を置かれると、途端に恋しくなる欲。
いずれ手離されてしまうなら、自分から距離を置いた方がいいのかと連絡すら戸惑う。
怖い。
一人、部屋で声を押し殺して泣く。
そんな日が続いて、私の涙腺はすぐに崩壊してしまうようになっていた。
毎日目元が腫れていないかチェックすることが日課となり、自分の弱さに嫌になる。
避けようと、距離を置こうとすればなぜか出会ってしまう。
ばったり出会った傑くんを見て、挨拶しようとしたのに私の緩んだ涙腺に涙が溜まり、慌てて顔を反らす。
「名前?」
傑くんの驚いたような、戸惑った声に何でもないと返したいのに、口の中が渇き、声が出ない。
駄目だ、と全力でその場から走り出せば焦ったような傑くんの名前を呼ぶ声。
泣くな、普通でいろ、泣くな、耐えろ。
自分に言い聞かせるように考えても、すぐに抜け落ち何も考えられなくなる。
涙が出てきて、視界が見えにくい。
息が苦しい。
ぐいっと、後ろに引かれて驚く。
何事かと見れば傑くんが居て、反射的に腕を振り払おうとしたがそのまま抱き込まれる。
「ごめん」
傑くんの一言で、全てが終わった気がした。
強く強く抱き締めてくれる腕とは反対に、心がどんどん冷えていく。
「ごめん」
謝らないでといいたいのに、涙が溢れる。
それがズルいとわかっていても、弱い私は耐えられない。
ただ、傑くんが抱き締める腕にそっと手を添えるだけ。
「ごめ、んなさ……っ!!」
「……名前」
「今すぐ…すぐ、いなくなる、からっ
もう、関わらない…からっ
……嫌いに、ならないで」
彼女じゃなくていい。
触れて欲しいなんて願わない。
好きでいて欲しいなんて、贅沢なこと言わないから……嫌いにならないで。
「名前?」
「ごめんなさいっ」
優しい声に、涙が溢れる。
お願い…優しくしないで。
私の決心が鈍ってしまうから…。
「別れようと、思った」
「………!!」
「だから、距離を置こうとした」
傑くんの口から出る言葉に耳を塞ぎたい。
心が苦しくて、辛い。
「嫌いになれないから離れようとした」
傑くんの抱き締める腕の力が増す。
痛いくらいの抱擁は、傑くんの気持ちを表しているみたいだった。
「まだ、私自身の答えが見つかってないんだ」
「名前を巻き込みたくない」
「けど」
「手離したくない私もいるっ」
「ごめん…」
「傷付けて、ごめん」
傑くんも苦しそうで…
彼の悩みはどんどん彼を苦しめている。
「……私じゃ…傑くんの、力になれない」
「名前?」
「ずっと悩んでいて、ずっと苦しそうなのに……私じゃ、傑くんの力になれない」
「………」
「距離を置かれるならいっそ、お別れした方がいいと思ったよ」
覚悟は、したはずなのに……
苦しいと、寂しいと、辛いと叫ぶもう一人の私がいる。
「ごめんね……傑くん…」
私は君の邪魔になっている。
「私……やだっ!!
傑くんが触れてくれないのも…
傑くんが他の誰かに優しくするのも…
傑くんが私以外の誰かを好きになるのも!!
我が儘だってわかってるっ
傑くんの邪魔だって……!!力になれないって頭では理解してても…嫌なんだよ!!」
ごめんなさい。
私は控え目なんかじゃない。
こんなにも、欲にまみれた……醜い私。
一度叫んでしまうと言葉が止まらない。
「手離されるくらいなら……
好きじゃないなら、傑くんの手で殺してよ」
「………名前」
「私……傑くんが思ってるような可愛らしさなんてないよっ!!」
知らなかったの。
いつも物分かりいいフリしていたから……
私が醜く狂っているのだと。
「好きだよ……好き、なんだよ!!
傑くんが私以外のことを考えていることすら腹が立つほど…っ!!
けど!!私は傑くんみたいな強さは無いから!!
傑くんを助けることも、救うことも出来ずに……何も出来ない私が!!一番っ!!腹が立つ!!」
どんなに頑張っても
どんなに強くなっても
同じ高みへは届かない。
君を苦しめるものから
救いたいのに
私は何も出来ず
離れていく君を見ているだけなんて
自分が許せず……殺してしまいたい。
「……名前、君…」
「……ごめんなさい、取り乱して。
気にしないで、いい…
傑くんには沢山感謝してるのに……八つ当たりして…」
驚く傑くんを見て、やってしまったと思う。
腕の中から抜け出そうとするのに、傑くんの腕の力にすら敵わない。
無力で、弱くて……嫌になる。
「もう少し……もう少しだけ、考えさせて欲しい」
「………?」
「私の考えをまとめるから……私も答えが分からない。
だから、まだ迷っているんだ」
「傑くん?」
「私の話を聞いてくれるかい?」
泣きそうな声だった。
弱々しいその声に、私は驚く。
「………聞く。
聞かせて欲しい」
「うん……それを聞いて、離れるかどうか決めて欲しい」
「………うん」
「私も名前が好きだ。
誰かに手渡したくないし、誰かの手に渡るくらいなら……私が手折りたいと思うくらい」
首もとに顔を埋めた傑くん。
じわり、と肩が濡れた気がしたが……
気付かないフリをして私も涙を流した。
あとがき
うわあああっ本当傑難しいよぉっ!!
ごめんなさい……
もう少し付き合ってくださいね。
頑張るから……頑張るからっ!!
君と過ごして愛を育んだ。
当たり前に隣にいることが幸せで
嘘つきな君も
意地悪な君も
弱い君も
優しい君も
正義感がある君も
強い君も
愛しくて
哀しかった。
16歳の春、君と出会い
16歳の夏、君に恋をし
16歳の秋、君達と仲間になれ
16歳の冬、君と通じあい
17歳の春、君と笑い
17歳の夏、君は絶望し
17歳の秋、君は悩み
17歳の冬、君は離れようとした。
何も解決せぬまま、冬が来た。
地元と違い、東京の冬は暖かい。
といっても、こちらの気候に体が慣れてしまうと寒いものは寒いと感じてしまう。
「平気そうですね」
「七海くん」
「寒くないんですか?」
「寒いけど、地元はもっと寒かったから」
「どこでしたっけ?」
「北海道」
今日は珍しく後輩との任務だ。
七海くんは北海道の冬を思い浮かべたのか、嫌そうに表情を歪めていて、素直に顔に出してしまう七海くんに笑ってしまう。
「だから苗字さんは夏が苦手なんですね」
「こっちの夏おかしいよ」
「北海道の冬もおかしいですよ」
「わかる」
二人でクスクス笑っているが、なかなか呪霊が出てこない。
二人で廃ビルをうろうろしているものの、特に変わった様子はない。
「早く帰りたいね」
「ですね」
「七海くんは年越し帰るの?」
「そうですね。苗字さんは?」
「迷い中」
地元に帰ればもっと寒い洗礼が待ち受けているし、何より急に呼び出されても海を挟んでいる。
去年は北海道の討伐を任されたのはいいが、縮尺の関係をもっとよく理解してて欲しいと思うくらい、北海道を移動した。
「こっちはさ、一時間あれば隣の県行けるかもしれないけど……北海道、広いんだよ」
「大変そうですね」
「うん、移動だけで大変だったから
今年はやっぱり呼び出されても大丈夫なように居残るかなぁ」
そしたら討伐の依頼が入っても、高専ならば誰かしらいるし補助監督さんとも連絡が取りやすい。
一人で納得していれば、やっと呪霊の気配に七海くんと構える。
「終わらせたらご飯食べに行こうか」
「いいですね。奢りでお願いします」
七海くんのお陰で簡単に片付いたため、ご飯を約束通り奢って高専に帰ってきた。
「おかえり」
「硝子ちゃん、ただいま!!」
「怪我は?」
「七海くんが優秀だから怪我ないよ」
また悪い子の帰りなのだろう。
硝子ちゃんの体から香る匂いに苦笑してしまうが、一緒に寮まで戻る。
「お土産は?」
「都内だから無いよ」
「ちぇっ」
「後から一緒にコンビニ行く?」
「行く」
硝子ちゃんとは変わらず仲良くさせてもらっている。
討伐任務が多くなるたび、硝子ちゃんが出迎えてくれるだけでほっとするようになった。
帰って来れた安心。
生きている安心。
弱い私はいつ自分の命が消えてしまうのかと
怯えてしまう。
誰かが助けてくれる、なんて希望は持てないくらい呪術界は人手が足りない。
だからこそ、学生にも任務は容赦なく回ってくる。
私で疲労を感じるくらいならば
五条くんや傑くんの疲労は計り知れないだろう。
硝子ちゃんとコンビニに行ったら、久しぶりに五条くんを見た。
甘いものコーナーを見ている五条くんに硝子ちゃんと目を見開いた。
「おつー」
「おう」
「何だか久しぶりだね……五条くん」
「だな」
硝子ちゃんは甘いものコーナーを素通りして飲み物のところへ。
私も疲れたからと甘いものを見ていれば、五条くんがじっとこちらを見ている。
「?
何かついてる?」
「傑は?」
「まだ帰って来て無かったよ」
「ふーん」
プリンにしようと手に取り、私も飲み物のコーナーへ。
一通り店内を見てレジに向かえば、五条くんと硝子ちゃんがいて、その後ろに並ぶと五条くんが私の品物も一緒にとレジを通していく。
「あの、五条くん!?」
「五条、私肉まん」
「なら俺あんまん。名前は?」
「え?えっと、あんまん」
「傑は……肉まんでいっか」
五条くんが定員に肉まんとあんまんも頼んで会計をする。
肉まんとあんまんを受け取った硝子ちゃんはそのまま外へ。
商品の袋を重て……と、呟きながら持っている五条くんに頭を掴まれながら外へ出ると、すでに肉まんを頬張る硝子ちゃん。
「はい、名前」
「名前、俺のあんまん」
「あの…五条くん、お金」
「コンビニくらいたいした金額じゃねーよ」
「名前、五条が奢ってくれるって言うんだから甘えとこう」
「甘えとけ甘えとけ。
で、俺のあんまん早く」
「あっ、ごめんね」
袋からあんまんを取り出して手渡せば、かぶりつく五条くん。
「五条くん、ご馳走になります」
「おー」
あんまんを取り出して食べれば温かい。
肌寒い外で食べる中華まんの美味しさに、頬が緩む。
「五条くん、忙しそうだけどきちんと休めてる?」
「おー。手応えないから余裕」
「そっか。なら良かった」
「お前は?ちゃんと任務出来てんの?」
「一応大怪我はしてないよ」
「ふーん。まぁ、無理すんなよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられるのはいいが、勢いが強すぎてあんまんが口元に。
中身が地味に熱いし、口元から離すとあんまみれ。
硝子ちゃんと五条くんが一瞬黙ったが、私を見てすぐに吹き出して笑った。……酷い。
寮の談話室に行くと、部屋着姿の傑くんに会った。
「おかえりなさい、傑くん」
「ただいま。……三人でコンビニかい?」
「硝子ちゃんとコンビニ行ったら五条くんが居たんだ。
あ、これ五条くんから肉まん」
「今はお腹いっぱいだから後から食べるよ」
机に品物を広げる五条くん。
おや?とちょっとした違和感。
だけど、違和感の正体がわからずに私は普通に輪の中へ。
「傑何かいる?」
「いや、私はいいよ」
「ほら、硝子と名前の」
「ありがとう五条くん」
「サンキュー」
久しぶりに4人で他愛もない会話。
その最中も違和感はあったが、気にしないようにしてその場を楽しんだ。
それぞれが部屋に戻った後も、違和感の正体がはっきりとわからずにモヤモヤする。
布団に入って何だろうと考えた時に
ふと、傑くんに触れられたのはいつだろうと思う。
いつもは、傑くんが話の最中であろうと手を繋いだり頭を撫でてくれた。
名前を呼んで、側に居させてくれたのに…
今日は私と距離のある場所に座っていて、私に触れていたのは硝子ちゃんや五条くんだ。
メールもするし、電話もする。
話もするし、隣にいる。
なのに……どこか距離のある傑くんの存在に気付くと、今日の違和感の正体がはっきりする。
それから、傑くんは私を避けるように理由を着けて会おうとしてくれなくなった。
連絡はしてくれるのに、会おうとしない。
会ってもどこか視線が合わない。
私が何かしてしまったのかと思うが、馬鹿だから思い当たることしかない。
ついに愛想尽きたのかと怖くなる。
距離を置かれると、途端に恋しくなる欲。
いずれ手離されてしまうなら、自分から距離を置いた方がいいのかと連絡すら戸惑う。
怖い。
一人、部屋で声を押し殺して泣く。
そんな日が続いて、私の涙腺はすぐに崩壊してしまうようになっていた。
毎日目元が腫れていないかチェックすることが日課となり、自分の弱さに嫌になる。
避けようと、距離を置こうとすればなぜか出会ってしまう。
ばったり出会った傑くんを見て、挨拶しようとしたのに私の緩んだ涙腺に涙が溜まり、慌てて顔を反らす。
「名前?」
傑くんの驚いたような、戸惑った声に何でもないと返したいのに、口の中が渇き、声が出ない。
駄目だ、と全力でその場から走り出せば焦ったような傑くんの名前を呼ぶ声。
泣くな、普通でいろ、泣くな、耐えろ。
自分に言い聞かせるように考えても、すぐに抜け落ち何も考えられなくなる。
涙が出てきて、視界が見えにくい。
息が苦しい。
ぐいっと、後ろに引かれて驚く。
何事かと見れば傑くんが居て、反射的に腕を振り払おうとしたがそのまま抱き込まれる。
「ごめん」
傑くんの一言で、全てが終わった気がした。
強く強く抱き締めてくれる腕とは反対に、心がどんどん冷えていく。
「ごめん」
謝らないでといいたいのに、涙が溢れる。
それがズルいとわかっていても、弱い私は耐えられない。
ただ、傑くんが抱き締める腕にそっと手を添えるだけ。
「ごめ、んなさ……っ!!」
「……名前」
「今すぐ…すぐ、いなくなる、からっ
もう、関わらない…からっ
……嫌いに、ならないで」
彼女じゃなくていい。
触れて欲しいなんて願わない。
好きでいて欲しいなんて、贅沢なこと言わないから……嫌いにならないで。
「名前?」
「ごめんなさいっ」
優しい声に、涙が溢れる。
お願い…優しくしないで。
私の決心が鈍ってしまうから…。
「別れようと、思った」
「………!!」
「だから、距離を置こうとした」
傑くんの口から出る言葉に耳を塞ぎたい。
心が苦しくて、辛い。
「嫌いになれないから離れようとした」
傑くんの抱き締める腕の力が増す。
痛いくらいの抱擁は、傑くんの気持ちを表しているみたいだった。
「まだ、私自身の答えが見つかってないんだ」
「名前を巻き込みたくない」
「けど」
「手離したくない私もいるっ」
「ごめん…」
「傷付けて、ごめん」
傑くんも苦しそうで…
彼の悩みはどんどん彼を苦しめている。
「……私じゃ…傑くんの、力になれない」
「名前?」
「ずっと悩んでいて、ずっと苦しそうなのに……私じゃ、傑くんの力になれない」
「………」
「距離を置かれるならいっそ、お別れした方がいいと思ったよ」
覚悟は、したはずなのに……
苦しいと、寂しいと、辛いと叫ぶもう一人の私がいる。
「ごめんね……傑くん…」
私は君の邪魔になっている。
「私……やだっ!!
傑くんが触れてくれないのも…
傑くんが他の誰かに優しくするのも…
傑くんが私以外の誰かを好きになるのも!!
我が儘だってわかってるっ
傑くんの邪魔だって……!!力になれないって頭では理解してても…嫌なんだよ!!」
ごめんなさい。
私は控え目なんかじゃない。
こんなにも、欲にまみれた……醜い私。
一度叫んでしまうと言葉が止まらない。
「手離されるくらいなら……
好きじゃないなら、傑くんの手で殺してよ」
「………名前」
「私……傑くんが思ってるような可愛らしさなんてないよっ!!」
知らなかったの。
いつも物分かりいいフリしていたから……
私が醜く狂っているのだと。
「好きだよ……好き、なんだよ!!
傑くんが私以外のことを考えていることすら腹が立つほど…っ!!
けど!!私は傑くんみたいな強さは無いから!!
傑くんを助けることも、救うことも出来ずに……何も出来ない私が!!一番っ!!腹が立つ!!」
どんなに頑張っても
どんなに強くなっても
同じ高みへは届かない。
君を苦しめるものから
救いたいのに
私は何も出来ず
離れていく君を見ているだけなんて
自分が許せず……殺してしまいたい。
「……名前、君…」
「……ごめんなさい、取り乱して。
気にしないで、いい…
傑くんには沢山感謝してるのに……八つ当たりして…」
驚く傑くんを見て、やってしまったと思う。
腕の中から抜け出そうとするのに、傑くんの腕の力にすら敵わない。
無力で、弱くて……嫌になる。
「もう少し……もう少しだけ、考えさせて欲しい」
「………?」
「私の考えをまとめるから……私も答えが分からない。
だから、まだ迷っているんだ」
「傑くん?」
「私の話を聞いてくれるかい?」
泣きそうな声だった。
弱々しいその声に、私は驚く。
「………聞く。
聞かせて欲しい」
「うん……それを聞いて、離れるかどうか決めて欲しい」
「………うん」
「私も名前が好きだ。
誰かに手渡したくないし、誰かの手に渡るくらいなら……私が手折りたいと思うくらい」
首もとに顔を埋めた傑くん。
じわり、と肩が濡れた気がしたが……
気付かないフリをして私も涙を流した。
あとがき
うわあああっ本当傑難しいよぉっ!!
ごめんなさい……
もう少し付き合ってくださいね。
頑張るから……頑張るからっ!!