妊娠
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※妊娠
「………まじか」
来ないなーと気楽な気持ちでやった市販の検査薬の結果に、トイレで頭を抱えた私。
さてどうしたものかと今後の予定を考える。
「ってなわけで、ちょっと私逃げるね」
「どんな訳だよ」
部屋に遊びに来た硝子が、私の荷造りしている姿に冷めた表情で突っ込む。
落ち着けとその場に座らされ、経緯を話したら呆れられた。
「ノリとテンションでハメ外すなよ」
「ゴムは外しちゃいけませんでしたね、はい」
「おろす選択肢は?」
「無いかな」
「17歳で子持ちでやってけるわけ無いだろ」
「ごもっとも」
「ってゆーかどっちの子さ」
「………わかんない」
硝子の冷めた視線が物凄く怖い。
まともに硝子を見られず、ずっと横を見ている。
「は?」
「ごめんなさい…」
「謝罪じゃなくきちんと話な」
「どっちとも可能性があるし、心当たりしかありません」
「まじないわー」
「返す言葉もありません……」
呆れ果てる硝子に心が痛い。
ちょっと盛り上がって性春してたら子供が出来たとか本当に笑えない。
「まじでどーすんのさ」
「バレる前に逃げる」
「何でそーなんだよ」
「海外に逃げるか……」
「落ち着きなよ」
「とりあえず、逃げる」
再び荷造りを開始する私に、硝子は呆れている。
「おろしたく無いし、父親は誰かわからないし、苦労するだろうけど……あいつらに責任取れなんて言いたくないし」
「怖いだけでしょ」
「…それもある。ただのセフレに子供出来たとか厄介じゃん?」
「名前」
「硝子……内緒だよ?私ね………」
あの日、硝子にだけこっそりと告げて高専から逃げた。
携帯は置いていき、逃げる途中で解約した。
と言っても、海外に逃げたりはせず実は京都にいたりする。
「お腹はち切れそうね」
「初産が双子ってヤバいですよね」
「それがあいつらの子だと思うと腹が立つけどね」
「めちゃくちゃお世話になってすいません……歌姫先輩」
「いや、いーのよ。
身一つで高専飛び出してこれからどうしようか考えて無いと言われた時には驚いたけど…無鉄砲なあんたがどっか雲隠れする前に出会って良かったわ」
「あははは」
そう、高専を飛び出したあの日。
闇雲に実家に帰ろうかどうしようか悩みながら歩いていたら、たまたま東京に来ていた歌姫先輩と出会い、こんな時間に大荷物持って何してるんだと問い詰められ、白状したら頭を殴られた。
そして、歌姫先輩の家に転がり込み……とゆーか、連れられて居候。
実家には歌姫先輩と頭を下げに行き、親から拳骨を頂きながら面倒見て貰っている。
しかも病院に行ってみたら妊娠しているが双子ときたものだ。
最初は渋っていた両親も、孫のエコー写真を送るたびにデレデレして電話がかかってくる。
ちなみに歌姫先輩もデレデレだ。
そんなこんなでとうとう臨月に入る手前、双子だからと早めに入院することになり歌姫先輩が荷物を持って来てくれた。
「そろそろか……何か私が緊張してきたわ」
「まだですよ、歌姫先輩。
陣痛も来てないですって」
「何かあったらすぐに言いなさいよ!!
絶対絶対すぐに連絡するのよ!!」
「わかりましたって」
これから任務だと悔しそうにしながら行ってしまった歌姫先輩。
お腹は二人分の命でパンパンに膨れている。
「早く会いたいね」
どっちの子だとか気にならないほど、これから出会える我が子達が愛おしく、待ち遠しい。
それからあっという間の出来事だった。
歌姫先輩が任務から帰って来た頃に陣痛が始まり、出産。黒髪の男の子と白髪の男の子に私は頭を抱えた。何かの漫画か記事でそーゆー確率があることは知っていたが……まさか、本当にまさかのまさかで自分が当てはまるとは…。
「見間違うことなく奴等の子供ね」
歌姫先輩の言葉に苦笑した。
実家の両親も呪術師の端くれとして、双子を見た瞬間凍りついたが、すぐに孫馬鹿スイッチが入って賑やかに。
しばらくは実家で生活し、小さな一軒家を借りて必死に子育てに没頭した。
ある程度手が掛からなくなれば、歌姫先輩の口添えで京都に移り、喫茶店の店員として働きながらほのぼの暮らしていた。
歌姫先輩と親の助けもあったため何とか一人でもやってこれた。
活発な2人はすくすくと育ってくれて、ばっちり術式も引き継いでいた。
呪霊操術に無下限呪術。
六眼なんてものは無いが、子供ながらに難しい術式を受けついだ子供達は怖いもの知らずで、2人で呪霊に突っ込んで行くのでたまったものじゃない。
そんな生活を5年も過ごしていた頃
ちょっと遠出をと二人と手を繋ぎながら買い物をしているとばったり出会ったのが傑だった。
傑の足元には可愛らしい女の子が2人。
私の足元には男の子が2人。
お互いに顔を見合せ、足元の方に視線をやり。再びお互いの顔を見た瞬間……私の動きはここ最近で一番速かっただろう。
脇に双子をそれぞれ抱えてダッシュする。
この人混みと店内だ。
逃げ切れると思ったし、逃げ切ったと思い途中で気を抜いたのが悪かった。
「ママ、今のなに!?」
「すんごい速かった!!」
「ママは一気に疲れたよ……違うとこで休もうか」
ドンッと、目の前を塞ぐ男の人の腕。
そしてにこりと威圧的な笑顔。
「久しぶりだね、名前」
「オゥ……」
「説明してもらおうか」
退路を経たれた私は大人しく降参。
傑と子供達を連れてなぜか近くのファミレスへ。
「で、どういうことだい?」
「どうもこうも、見てわかるかと?」
「君が高専から居なくなった理由は妊娠したからかい?」
「だね。父親はわからないし、17歳だったし、硝子にだけは言って逃げ出しました。
病院行ったら双子だし、産まれたらご覧の通りです」
「………今まで一人で?」
「頼りになる先輩に匿ってもらいながら
実家に頼ったりして……どーにかこうにか」
「なぜ言わなかった?」
「子供おろす気は無かったし、親の責任押し付ける気も無かったからね」
「はぁ……そうか。それにしても……そっくりだね」
「だよね」
我が子ながら、父親にそっくりな2人。
私の要素どこにいったのかと思うくらいほとんど父親似だ。
「傑こそいつの間に結婚したのさ。連れ子?」
「結婚はしてないけど、私の家族だよ」
「へぇ。女の子可愛いな……
うちの子もスカート着せて遊んだけど
あんた達の女装みたいで辞めたんだよね」
可愛いけれど、大人の姿へと繋がるためすぐに辞めた。
「………名前は、何も知らないんだね」
「ん?何が?」
「私も高専を途中で辞めているんだよ」
「傑が?」
「名前がいなくなってから色々あってね…今は呪詛師なんだ」
「へー……え?」
聞き間違いかと傑をみれば、にこりと笑っている。
「呪詛師?呪術師じゃなくて?」
「猿共殺して高専から追われる身となったんだ」
「優等生に何があった」
「ははっ!!
名前のそのふざけた気楽さ、嫌いじゃないよ」
「私ディスられてない?」
「悟も知らないんだよね?この子達のこと」
「知らないよ。言う気も無いし」
「名前」
「だが断る」
何かを言おうとした傑にピシャリと放つ。
言いたいことはだいたいわかっているし、元来真面目なこの男のことだ。腑に落ちないという表情をしている傑。
「私と名前の子だろう」
「私の子だよ。父親はいません」
「そんなに私は頼りないかい?
名前と子供達を養う分くらいなんてことないよ」
「今のところ不自由してないから。
のちのちは呪術師に復帰するし」
「復帰するのかい?」
「あー…でも途中で逃げたから私学生やり直しかな……」
「それなら私のとこに来ればいいだろ」
「いや、呪詛師にはならないよ」
「私は今も名前が好きなのに」
「驚いた……セフレだと思ってたのに」
「は?」
「あの頃はお互い若かった。生存本能だよ」
「こら」
「とにかく!!私は傑を頼る気は無い」
ピシャリと言い放てば傑は面白くなさそうな顔をする。
「………ママ」
「ん?どうかした?」
「パフェ食べ終わった」
「早く買い物の続き行こ」
ぐいぐいと袖を引っ張る双子の口元を拭いてやる。ちらちらと傑を見ては、早く早くと急かす双子に、子供の前で話す内容でも無かったな、と苦笑する。聡いこの子達のことだから、話の内容は何となく理解しているのだろう。
母親を取られたくない子供達は必死にこの場から去ろうとしているのがわかり、財布からお金を机に置く。
「お金はいらないよ」
「じゃあこのお金は娘ちゃん達のお菓子代」
「「ママ!!」」
「じゃあね、傑」
「名前、困ったら連絡して来なよ」
ひらひらと手を降る傑。
後から気付いたが、傑の連絡先が書かれたものが忍ばされていた。
子育てしている間に、あの真面目な男に何があったのか知らない。呪術関係者……両親も歌姫先輩も傑の話はしなかったから、知っていたのに黙っていてくれたのかもしれない。
高専を追われる身……即ち、傑は追放となる事をした。その意味がどんなことを示すのか私でもわかる。
「ママ」
「大丈夫。ママはお前達だけのママだよ」
「……うん!!」
「ママ好きっ!!」
「ママも2人が大好き」
三人で抱き合いながら笑う。
子供が幼稚園に行っている間、傑と出会ったことを歌姫先輩に告げれば、頭を抱えられた。
「今まで言わなかったのは私だけど……あんた、何も無かったの?」
「連絡先貰ったくらいです。
先に見付けた子供らに落書きされ千切られ、解読不能でしたけど」
「あっそ。それ、私意外に話すんじゃないわよ」
「話せませんよ。呪詛師と連絡先交換しましたって私ヤバいじゃないですか」
「……あんた、京都校来る気ない?」
「私中卒ですよ」
「私から口添えするわよ。最初は雑務しかやらせてもらえないかもしれないけど、おいおい任務してまずは二級術師になりなさい。そっから一級への推薦は私がしてあげるからあんたなら楽勝でしょ」
「ブランクありますけど」
「そんなの理由にならないわよ」
子供らに教えながら呪霊祓ってんの知ってるんだぞ、と言われると顔を背けてしまう。
子供達がやんちゃな分、怖さと恐ろしさを教えつつ、鈍らないようにしていたのはバレていたらしい。
「やるわよね」
「………やらせていただきます」
こうして京都校の呪術師となったのだが……
まぁ、呪術師に戻る=昔の知り合いにも出会うわけで……
「は?何で名前がここにいるの?」
顔に布を巻いた長身の男に引き止められ、普通にビビった。
「歌姫、どーゆーことさ」
「私の可愛い後輩引き止めるんじゃないわよ。
ほら、あんたも早く行かないと間に合わないわよ」
「歌姫先輩本っ当にごめんなさい!!ありがとうございます!!」
まさか悟と出会うことはあるだろうなーと思ってた矢先に会うことになるとは……しかし、今は子供達が熱を出したと連絡が入ったので歌姫先輩に負担をかけてしまうが急いで迎えに行かなければ。
と、その時は逃がしてもらえたが……
2度目はそうもいかない。
後ろは壁。そして足の間には悟の長い足を挟められ、両側には腕をつけられれば退路は無い。
「何で行方眩ませたお前がここにいるのか僕の頭でも理解出来るように説明出来るよね?」
「若気の至りとしか…」
「あ?」
怖い。普通に怖い。
前回とは違って歌姫先輩は今いないし、補助監督や学長は見てみないふりだ。酷い。
「硝子に聞いても自業自得としか言わないし、歌姫には絶対話さないって言われるし」
「色々あったんだよ」
「伊地知に調べさせたら子供二人もいるし」
「………は?」
今何て言った?こいつ。
聞き逃せない言葉に悟を見上げれば、悟はぐっと顔を近付けてくる。
「どっちの子?」
「教えない」
「お前わかってんの?あいつの子供だったらお前も子供も未来は無いんだぞ」
「私の子供だよ。父親はいない。」
「子供見れば一発だろ」
「もう一回言うよ。
私の子供であって、父親はいないの」
「あいつの子か」
「昔の馴染みとはいえ、勝手に個人事情調べないでくれる?」
「そっちこそふざけんなよ。
いきなり行方眩ませて、ひょっこり戻って来たと思ったら子持ち?しかも時期的には明らかに僕かあいつの子供じゃん」
「あの人にも言ったけど、責任押し付ける気はさらさら無いから。私の子供だから私が育ててる」
「………会ったの?いつ?どこで?」
やっべ。地雷踏んだと焦る。
より雰囲気が凶悪になった。
「仕事の邪魔。どいてくれる?」
「何で頑なに言わないかなぁ。
疚しいことでもあんの?」
「私が出会ったのは追放後だけど、周りが気を使って言わないでいてくれたの。
本人からさらっと聞いた後で詳しく教えて貰った。
だから疚しいことなんか何も無い」
「会わせてよ」
「は?何に?」
「子供」
「嫌だよ」
「あいつの子供でも僕なら上に何も言わせないし、庇えるよ」
「私の話聞いてた?私の子供」
「まずは子供に会わせてよ」
「断る」
悟を振り切り仕事に戻るが、奴のしつこさを忘れていた。
「………嘘でしょ」
保育園に行くと、何故か悟がいた。
お母様方や先生方にちやほやされている。
「歌姫先輩……」
「私は知らないわよ」
任務帰りで報告も済ませ、用事が無いからと一緒に迎えに来た歌姫先輩の顔がひきつっている。
「名前こそ子供のこと言ったの?」
「後輩使って私の個人情報調べられました」
「あいつキッッモ!!」
「名前、お疲れ。あ、歌姫もいたんだ」
「近寄んな」
しっしっ、と追い払う歌姫先輩に苦笑し子供達を迎えに行く。
元気に走ってくる双子に表情が緩む。
「「ママ!!ただいま!!」」
「はい、おかえりなさい」
「歌ちゃんだ!!」
「歌ちゃん今日お仕事お休み?」
「そうよ!!だから今日は一緒に遊んでご飯行くわよ」
「「わーい!!」」
「………嘘だろ」
「ところで歌ちゃん」
「そのサングラス歌ちゃんの彼氏?」
「んなわけあるか!!知らない人よ、知らない人」
「ママ、不審者?」
「通報する?」
お口が達者な子供達は悟を見て小声になっていないヒソヒソ話をする姿に苦笑する。
「ほら、先生にご挨拶して」
「「先生さよーなら」」
「チビ達、今日何食べたい?」
「「お肉!!」」
「よし、夜に焼き肉行くわよ」
「「わーい!!」」
はしゃぎ出す子供達と手を繋いで歩き出せば、黙っていた悟に肩を掴まれる。
「名前、結婚しよ」
「だが断る」
「苦労はさせない」
「さーて、お家に帰ろうか」
「名前、僕真面目に言ってんだけど」
「東京に帰れ」
真顔な悟に対し、笑顔で断る私。
しつこい悟を何度も追い返すことになるとは
このときの私は考えていなかったのだった。
あとがき
高専時代に若気の至りでデキちゃった話。
確率は低いけれど、ありえる話です。
何かの記事読んでて書きたくなったので、つい。
「………まじか」
来ないなーと気楽な気持ちでやった市販の検査薬の結果に、トイレで頭を抱えた私。
さてどうしたものかと今後の予定を考える。
「ってなわけで、ちょっと私逃げるね」
「どんな訳だよ」
部屋に遊びに来た硝子が、私の荷造りしている姿に冷めた表情で突っ込む。
落ち着けとその場に座らされ、経緯を話したら呆れられた。
「ノリとテンションでハメ外すなよ」
「ゴムは外しちゃいけませんでしたね、はい」
「おろす選択肢は?」
「無いかな」
「17歳で子持ちでやってけるわけ無いだろ」
「ごもっとも」
「ってゆーかどっちの子さ」
「………わかんない」
硝子の冷めた視線が物凄く怖い。
まともに硝子を見られず、ずっと横を見ている。
「は?」
「ごめんなさい…」
「謝罪じゃなくきちんと話な」
「どっちとも可能性があるし、心当たりしかありません」
「まじないわー」
「返す言葉もありません……」
呆れ果てる硝子に心が痛い。
ちょっと盛り上がって性春してたら子供が出来たとか本当に笑えない。
「まじでどーすんのさ」
「バレる前に逃げる」
「何でそーなんだよ」
「海外に逃げるか……」
「落ち着きなよ」
「とりあえず、逃げる」
再び荷造りを開始する私に、硝子は呆れている。
「おろしたく無いし、父親は誰かわからないし、苦労するだろうけど……あいつらに責任取れなんて言いたくないし」
「怖いだけでしょ」
「…それもある。ただのセフレに子供出来たとか厄介じゃん?」
「名前」
「硝子……内緒だよ?私ね………」
あの日、硝子にだけこっそりと告げて高専から逃げた。
携帯は置いていき、逃げる途中で解約した。
と言っても、海外に逃げたりはせず実は京都にいたりする。
「お腹はち切れそうね」
「初産が双子ってヤバいですよね」
「それがあいつらの子だと思うと腹が立つけどね」
「めちゃくちゃお世話になってすいません……歌姫先輩」
「いや、いーのよ。
身一つで高専飛び出してこれからどうしようか考えて無いと言われた時には驚いたけど…無鉄砲なあんたがどっか雲隠れする前に出会って良かったわ」
「あははは」
そう、高専を飛び出したあの日。
闇雲に実家に帰ろうかどうしようか悩みながら歩いていたら、たまたま東京に来ていた歌姫先輩と出会い、こんな時間に大荷物持って何してるんだと問い詰められ、白状したら頭を殴られた。
そして、歌姫先輩の家に転がり込み……とゆーか、連れられて居候。
実家には歌姫先輩と頭を下げに行き、親から拳骨を頂きながら面倒見て貰っている。
しかも病院に行ってみたら妊娠しているが双子ときたものだ。
最初は渋っていた両親も、孫のエコー写真を送るたびにデレデレして電話がかかってくる。
ちなみに歌姫先輩もデレデレだ。
そんなこんなでとうとう臨月に入る手前、双子だからと早めに入院することになり歌姫先輩が荷物を持って来てくれた。
「そろそろか……何か私が緊張してきたわ」
「まだですよ、歌姫先輩。
陣痛も来てないですって」
「何かあったらすぐに言いなさいよ!!
絶対絶対すぐに連絡するのよ!!」
「わかりましたって」
これから任務だと悔しそうにしながら行ってしまった歌姫先輩。
お腹は二人分の命でパンパンに膨れている。
「早く会いたいね」
どっちの子だとか気にならないほど、これから出会える我が子達が愛おしく、待ち遠しい。
それからあっという間の出来事だった。
歌姫先輩が任務から帰って来た頃に陣痛が始まり、出産。黒髪の男の子と白髪の男の子に私は頭を抱えた。何かの漫画か記事でそーゆー確率があることは知っていたが……まさか、本当にまさかのまさかで自分が当てはまるとは…。
「見間違うことなく奴等の子供ね」
歌姫先輩の言葉に苦笑した。
実家の両親も呪術師の端くれとして、双子を見た瞬間凍りついたが、すぐに孫馬鹿スイッチが入って賑やかに。
しばらくは実家で生活し、小さな一軒家を借りて必死に子育てに没頭した。
ある程度手が掛からなくなれば、歌姫先輩の口添えで京都に移り、喫茶店の店員として働きながらほのぼの暮らしていた。
歌姫先輩と親の助けもあったため何とか一人でもやってこれた。
活発な2人はすくすくと育ってくれて、ばっちり術式も引き継いでいた。
呪霊操術に無下限呪術。
六眼なんてものは無いが、子供ながらに難しい術式を受けついだ子供達は怖いもの知らずで、2人で呪霊に突っ込んで行くのでたまったものじゃない。
そんな生活を5年も過ごしていた頃
ちょっと遠出をと二人と手を繋ぎながら買い物をしているとばったり出会ったのが傑だった。
傑の足元には可愛らしい女の子が2人。
私の足元には男の子が2人。
お互いに顔を見合せ、足元の方に視線をやり。再びお互いの顔を見た瞬間……私の動きはここ最近で一番速かっただろう。
脇に双子をそれぞれ抱えてダッシュする。
この人混みと店内だ。
逃げ切れると思ったし、逃げ切ったと思い途中で気を抜いたのが悪かった。
「ママ、今のなに!?」
「すんごい速かった!!」
「ママは一気に疲れたよ……違うとこで休もうか」
ドンッと、目の前を塞ぐ男の人の腕。
そしてにこりと威圧的な笑顔。
「久しぶりだね、名前」
「オゥ……」
「説明してもらおうか」
退路を経たれた私は大人しく降参。
傑と子供達を連れてなぜか近くのファミレスへ。
「で、どういうことだい?」
「どうもこうも、見てわかるかと?」
「君が高専から居なくなった理由は妊娠したからかい?」
「だね。父親はわからないし、17歳だったし、硝子にだけは言って逃げ出しました。
病院行ったら双子だし、産まれたらご覧の通りです」
「………今まで一人で?」
「頼りになる先輩に匿ってもらいながら
実家に頼ったりして……どーにかこうにか」
「なぜ言わなかった?」
「子供おろす気は無かったし、親の責任押し付ける気も無かったからね」
「はぁ……そうか。それにしても……そっくりだね」
「だよね」
我が子ながら、父親にそっくりな2人。
私の要素どこにいったのかと思うくらいほとんど父親似だ。
「傑こそいつの間に結婚したのさ。連れ子?」
「結婚はしてないけど、私の家族だよ」
「へぇ。女の子可愛いな……
うちの子もスカート着せて遊んだけど
あんた達の女装みたいで辞めたんだよね」
可愛いけれど、大人の姿へと繋がるためすぐに辞めた。
「………名前は、何も知らないんだね」
「ん?何が?」
「私も高専を途中で辞めているんだよ」
「傑が?」
「名前がいなくなってから色々あってね…今は呪詛師なんだ」
「へー……え?」
聞き間違いかと傑をみれば、にこりと笑っている。
「呪詛師?呪術師じゃなくて?」
「猿共殺して高専から追われる身となったんだ」
「優等生に何があった」
「ははっ!!
名前のそのふざけた気楽さ、嫌いじゃないよ」
「私ディスられてない?」
「悟も知らないんだよね?この子達のこと」
「知らないよ。言う気も無いし」
「名前」
「だが断る」
何かを言おうとした傑にピシャリと放つ。
言いたいことはだいたいわかっているし、元来真面目なこの男のことだ。腑に落ちないという表情をしている傑。
「私と名前の子だろう」
「私の子だよ。父親はいません」
「そんなに私は頼りないかい?
名前と子供達を養う分くらいなんてことないよ」
「今のところ不自由してないから。
のちのちは呪術師に復帰するし」
「復帰するのかい?」
「あー…でも途中で逃げたから私学生やり直しかな……」
「それなら私のとこに来ればいいだろ」
「いや、呪詛師にはならないよ」
「私は今も名前が好きなのに」
「驚いた……セフレだと思ってたのに」
「は?」
「あの頃はお互い若かった。生存本能だよ」
「こら」
「とにかく!!私は傑を頼る気は無い」
ピシャリと言い放てば傑は面白くなさそうな顔をする。
「………ママ」
「ん?どうかした?」
「パフェ食べ終わった」
「早く買い物の続き行こ」
ぐいぐいと袖を引っ張る双子の口元を拭いてやる。ちらちらと傑を見ては、早く早くと急かす双子に、子供の前で話す内容でも無かったな、と苦笑する。聡いこの子達のことだから、話の内容は何となく理解しているのだろう。
母親を取られたくない子供達は必死にこの場から去ろうとしているのがわかり、財布からお金を机に置く。
「お金はいらないよ」
「じゃあこのお金は娘ちゃん達のお菓子代」
「「ママ!!」」
「じゃあね、傑」
「名前、困ったら連絡して来なよ」
ひらひらと手を降る傑。
後から気付いたが、傑の連絡先が書かれたものが忍ばされていた。
子育てしている間に、あの真面目な男に何があったのか知らない。呪術関係者……両親も歌姫先輩も傑の話はしなかったから、知っていたのに黙っていてくれたのかもしれない。
高専を追われる身……即ち、傑は追放となる事をした。その意味がどんなことを示すのか私でもわかる。
「ママ」
「大丈夫。ママはお前達だけのママだよ」
「……うん!!」
「ママ好きっ!!」
「ママも2人が大好き」
三人で抱き合いながら笑う。
子供が幼稚園に行っている間、傑と出会ったことを歌姫先輩に告げれば、頭を抱えられた。
「今まで言わなかったのは私だけど……あんた、何も無かったの?」
「連絡先貰ったくらいです。
先に見付けた子供らに落書きされ千切られ、解読不能でしたけど」
「あっそ。それ、私意外に話すんじゃないわよ」
「話せませんよ。呪詛師と連絡先交換しましたって私ヤバいじゃないですか」
「……あんた、京都校来る気ない?」
「私中卒ですよ」
「私から口添えするわよ。最初は雑務しかやらせてもらえないかもしれないけど、おいおい任務してまずは二級術師になりなさい。そっから一級への推薦は私がしてあげるからあんたなら楽勝でしょ」
「ブランクありますけど」
「そんなの理由にならないわよ」
子供らに教えながら呪霊祓ってんの知ってるんだぞ、と言われると顔を背けてしまう。
子供達がやんちゃな分、怖さと恐ろしさを教えつつ、鈍らないようにしていたのはバレていたらしい。
「やるわよね」
「………やらせていただきます」
こうして京都校の呪術師となったのだが……
まぁ、呪術師に戻る=昔の知り合いにも出会うわけで……
「は?何で名前がここにいるの?」
顔に布を巻いた長身の男に引き止められ、普通にビビった。
「歌姫、どーゆーことさ」
「私の可愛い後輩引き止めるんじゃないわよ。
ほら、あんたも早く行かないと間に合わないわよ」
「歌姫先輩本っ当にごめんなさい!!ありがとうございます!!」
まさか悟と出会うことはあるだろうなーと思ってた矢先に会うことになるとは……しかし、今は子供達が熱を出したと連絡が入ったので歌姫先輩に負担をかけてしまうが急いで迎えに行かなければ。
と、その時は逃がしてもらえたが……
2度目はそうもいかない。
後ろは壁。そして足の間には悟の長い足を挟められ、両側には腕をつけられれば退路は無い。
「何で行方眩ませたお前がここにいるのか僕の頭でも理解出来るように説明出来るよね?」
「若気の至りとしか…」
「あ?」
怖い。普通に怖い。
前回とは違って歌姫先輩は今いないし、補助監督や学長は見てみないふりだ。酷い。
「硝子に聞いても自業自得としか言わないし、歌姫には絶対話さないって言われるし」
「色々あったんだよ」
「伊地知に調べさせたら子供二人もいるし」
「………は?」
今何て言った?こいつ。
聞き逃せない言葉に悟を見上げれば、悟はぐっと顔を近付けてくる。
「どっちの子?」
「教えない」
「お前わかってんの?あいつの子供だったらお前も子供も未来は無いんだぞ」
「私の子供だよ。父親はいない。」
「子供見れば一発だろ」
「もう一回言うよ。
私の子供であって、父親はいないの」
「あいつの子か」
「昔の馴染みとはいえ、勝手に個人事情調べないでくれる?」
「そっちこそふざけんなよ。
いきなり行方眩ませて、ひょっこり戻って来たと思ったら子持ち?しかも時期的には明らかに僕かあいつの子供じゃん」
「あの人にも言ったけど、責任押し付ける気はさらさら無いから。私の子供だから私が育ててる」
「………会ったの?いつ?どこで?」
やっべ。地雷踏んだと焦る。
より雰囲気が凶悪になった。
「仕事の邪魔。どいてくれる?」
「何で頑なに言わないかなぁ。
疚しいことでもあんの?」
「私が出会ったのは追放後だけど、周りが気を使って言わないでいてくれたの。
本人からさらっと聞いた後で詳しく教えて貰った。
だから疚しいことなんか何も無い」
「会わせてよ」
「は?何に?」
「子供」
「嫌だよ」
「あいつの子供でも僕なら上に何も言わせないし、庇えるよ」
「私の話聞いてた?私の子供」
「まずは子供に会わせてよ」
「断る」
悟を振り切り仕事に戻るが、奴のしつこさを忘れていた。
「………嘘でしょ」
保育園に行くと、何故か悟がいた。
お母様方や先生方にちやほやされている。
「歌姫先輩……」
「私は知らないわよ」
任務帰りで報告も済ませ、用事が無いからと一緒に迎えに来た歌姫先輩の顔がひきつっている。
「名前こそ子供のこと言ったの?」
「後輩使って私の個人情報調べられました」
「あいつキッッモ!!」
「名前、お疲れ。あ、歌姫もいたんだ」
「近寄んな」
しっしっ、と追い払う歌姫先輩に苦笑し子供達を迎えに行く。
元気に走ってくる双子に表情が緩む。
「「ママ!!ただいま!!」」
「はい、おかえりなさい」
「歌ちゃんだ!!」
「歌ちゃん今日お仕事お休み?」
「そうよ!!だから今日は一緒に遊んでご飯行くわよ」
「「わーい!!」」
「………嘘だろ」
「ところで歌ちゃん」
「そのサングラス歌ちゃんの彼氏?」
「んなわけあるか!!知らない人よ、知らない人」
「ママ、不審者?」
「通報する?」
お口が達者な子供達は悟を見て小声になっていないヒソヒソ話をする姿に苦笑する。
「ほら、先生にご挨拶して」
「「先生さよーなら」」
「チビ達、今日何食べたい?」
「「お肉!!」」
「よし、夜に焼き肉行くわよ」
「「わーい!!」」
はしゃぎ出す子供達と手を繋いで歩き出せば、黙っていた悟に肩を掴まれる。
「名前、結婚しよ」
「だが断る」
「苦労はさせない」
「さーて、お家に帰ろうか」
「名前、僕真面目に言ってんだけど」
「東京に帰れ」
真顔な悟に対し、笑顔で断る私。
しつこい悟を何度も追い返すことになるとは
このときの私は考えていなかったのだった。
あとがき
高専時代に若気の至りでデキちゃった話。
確率は低いけれど、ありえる話です。
何かの記事読んでて書きたくなったので、つい。