夏油
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※気分のよくない表現あります
いつも目にするのは
柵越しに見る空
手を伸ばしても届かない
私が焦がれる、もの。
ここがどこだか、私は知らない。
私の知っている世界は、柵のつけられた
狭い部屋の中だけ。
産まれついた時から
忌み子
鬼の子と言われ、育ってきた。
他の人には見えないモノが見える。
他の人には扱えないコトが出来る。
村に雨が降らなくなれば
私のせいだと殴られて
村に病が流行れば
私の呪いだと髪を引かれ
村に死者が出れば
私が奪ったのだと叩き付けられる
村の悪いことは
私が何かしたのだと言われ
その身に余る罰を受けた。
悲しいことは何も無い。
悲しい、ということがワカラナイ。
痛みも、悲しみも、苦しみも
全て知らない。
村の人の気がすめば
いつかいなくなってくれるから
少しの間、耐えればいいだけ。
私は
感情というものを
痛みというものを
忘れてしまったのだから。
何度殴られても
何度叩き付けられても
何度斬られようと
私は、死ななかった。
ある程度の傷は治ってしまう。
私が、モノノケなら、良かったのに……
そうすれば、夢を見なくてすんだ。
この柵から出ることを
この村から出ることを
自由になることを……夢見てしまうのは
私が少なくとも
人間の心を持つ鬼の子だからなのだろうか…?
吐き出すような暴力と
蔑んだ目の毎日
いつもと、変わらないと思っていたのに
君はそこに立ってた
話しかけちゃダメなのに
「やぁ、君の名前が知りたいな」
にっこりと優しげな笑顔を見せてくれる。
村の人ではない。
僧衣を着て、ハーフアップのお団子にし
前髪が少し変わっていて
彼の後ろには可愛らしい女の子達がいる。
私の名前を知りたい、と彼はいった。
だけど、ごめんね。
私には名前も舌も無いんだ。
何も言わない。
何も反応のない私に
彼は首を傾げながらこちらに近寄ってくる。
彼の側にいる
村の人が何か言っているが
私にはどうでもいい。
きっと鬼の子である私で遊びに来た
物好きの1人なのだろう………。
今回の彼は一体ナニをするのかな?
村の人のように、暴力をするのか。
素手で、棒で、ハサミで、トンカチで……
どこを傷めつけるのだろう?
それとも、変わり者は
身体を触って遊ぶのだろうか……?
窓から見える空は
今日はどんよりと暗くなっている。
屋根に当たる音に
雨でも降っているのかな……?と
ぼんやりと外を見ていると
ごとり、と
何か重たいものが落ちた。
私をいたぶる道具だろうか……?と
音の方へ目を向けると
先ほどまで話していた村の人が
血塗れで倒れている。
床を汚す赤が
じわじわと広がっていた。
「猿め」
酷く冷たい目で
血濡れの村の人を見るその人。
こちらへと視線を向けると
先ほど私に見せてくれた
優しい笑顔になったり
「柵は邪魔だな」
壊してしまおう、と
僧衣を着た彼の隣に
突然化け物が現れる。
ソレは簡単に柵を壊して
彼と一緒に中へと入ってくる。
「手足を鎖で繋いで、首輪までして……
猿が我々を使役しようだなんて
一体どんな勘違いをすれば、出来るんだか」
首や手足についている鎖を見て
彼は冷たい表情をする。
今度は違う女のようなハサミを持った化け物が
大きなハサミでチョキン、と
簡単に鎖を切ってしまった。
「夏油様」
「美々子、菜々子
この人を頼んだよ?」
「はい!!」
子供達が入ってきて
傍に座る。
彼はにっこりと笑うと
ーー少しの間、待っていておくれ、と
部屋から出ていってしまった。
突然のことに、頭がついていかない。
一体彼は何をしたいのだろう?
こんなことをしたら
村の人達に怒られてしまうのは
彼の方なのに……
「大丈夫ですか?」
「痛いとことか、ないですか?」
2人の少女は
眉を下げたまま、こちらを見上げている。
黒髪の子は、今にも泣き出してしまいそうだ。
ふるふると首を振れば
色素の薄い子が笑ってくれる。
行こう!!と、手をぐいぐい引っ張るが
この子達は何をしたいのだろう?
全く立とうとしない私に
2人は不安そうな表情となる。
行こう、と言ってくれる2人だが
私はここから出てはいけないので
首を横に振る。
私が出ることによって
この子達が暴力を振るわれるかもしれない…
それだけは、あってはいけない。
「美々子、菜々子」
「夏油様!!終わりましたか?」
「終わったよ」
にこやかに笑っている彼は
子供達の頭を撫でる。
嬉しそうにする2人だったが
私の方を見ると悲しそうに表情を歪める。
「夏油様、この人動いてくれないの」
「どこも怪我はしてないのに…」
「………困ったね」
私の目の前にしゃがんだ彼は
私を見つめ
とても優しく笑う。
手を差し出して
「一緒に帰ろう」
帰る?
私に帰る場所はない。
私が居るべき居場所が、ここなだけ。
小首を傾げれば
彼は苦笑し、困った顔をする。
「もう、君を縛るものは何もないよ」
「夏油様と一緒なら、何も怖くないよ!!」
「お姉さん、一緒に帰ろう」
「さぁ」
差し出された3人分の手。
なぜ、この人達は私を連れ出そうとしてくれるの?
見つかれば、殺されてしまうのに…
首を横に振れば、彼らは悲しそうな顔をする。
日が暮れれば、村の人が来てしまう。
その前に、彼らには立ち去ってもらわないと
何をされるかわからない。
パクパクと、伝えられない声で扉を指差す。
私に、優しくしてくれたこの人達を
殺させたくはない……。
ここに居るようになって
何人も、私を連れ出そうとしてくれた人はいた。
そのたびに、目の前で皆殺されてしまった。
私を見て、困った顔をしていた彼だが
口を開いた私を見て驚きの表情へ変わる。
「舌が………」
「え……」
「!!」
子供達の顔が青ざめる。
彼は、驚いた表情から眉間に眉を寄せ
表情が抜け落ちていく。
「話せないんだね?」
こくり、と頷く。
舌は、とうの昔に取られてしまった。
「一緒に行けないのは
もしや、歩くことも出来ないのかい……?」
再び、頷く。
ここから出ないようにと
足の健を切られてしまったから。
昔は、まだ人間だったと思う。
傷がつけば、痛かったし血が流れた。
治るまで時間もかかった。
なのに今は、傷ついた瞬間から
治ってしまう。
しかし、昔の傷までは治ってくれず
私はずっと、話せないし歩けないままだ。
私を見て、泣き出してしまった子供達に
少しだけ申し訳ない。
怖がらせてしまっただろうか……?
彼はくしゃりと表情を歪ませて
私の頬へと手を伸ばす。
温かくて、少しガサガサとした大きな手。
「君はもう、自由だよ」
とんっ、と小さな衝撃に目を向けると
子供達が抱きついてきている。
大粒の涙をボロボロ流しながら
ぎゅっと抱き締めてくれているところから
じわじわと温かい。
「こんな……ところ、嫌だよっ」
「お姉さん…ここは、嫌だ……っ」
いつぶりだろう…
こんな風に、温かいさを感じたのは
人に、人として扱われたのは…
ぽろり、ぽろりと
私の目から流れ落ちる雫。
いいのだろうか……?
私は、自由になって
「一緒に帰ろう」
彼が、子供達と一緒に抱き締めてくれる。
あぁ………
人は、温かいのなぁ…
こくり、と彼の腕の中で頷く。
自由になっていいと言うのなら…
私はこの人達と行ってみたい。
大きな手でくしゃりと頭を撫でられる。
子供達に離れるように言うと
彼は片手で私を抱き上げた。
驚いて、彼の服にしがみつけば
近い位置に彼の顔が見える。
にこりと笑う彼
「私は夏油 傑と言うんだ」
君の名前は?
優しい彼の声に、私は首を横に振る。
「名前も無いのかい?」
「夏油様、お名前決めないと…!!」
「菜々子、私達だけで決めるの……?」
「彼女もこれから我々の家族になるんだ
皆で決めた方がいいかもしれないね」
きゃっきゃと彼の……夏油さんの足元で
楽しそうに笑う子供達。
「さぁ、帰ろうか」
初めて出た外は
雨が上がり、綺麗な夕暮れのだった。
「名前」
温かい手のひらが、頭を撫でてくれている。
ゆっくりと瞼を開けると
にこりと笑っている傑の姿。
「よく眠れたかい?」
こくり、と縦に頷くと
それは良かった、と笑ってくれる。
近くに置いてあったタブレットを取ろうと
手を伸ばしたが、それより先に身体が浮き上がり驚いて傑の服を掴んでしまう。
くすくすと笑いながら
膝の上に私を座らせ
大きな両手で顔を包まれる。
「ソレで話すよりも
私は名前と話したいんだが?」
タブレットでいつもどおり話そうとしたが
傑の膝に乗せられると
テーブルにあるタブレットは
手が届かない。
困った彼の悪癖に眉を寄せる。
数年、一緒にいることで
簡単な会話ならば
傑は口の動きだけでわかってくれるが
わざわざ膝に乗せて
真正面を向けられるので
とても気恥ずかしいのだ。
「名前、何の夢を見ていたんだい?」
とても、幸せそうに笑っていたよ。
傑の言葉に、先ほどまでの夢の内容を思い出そうとするが、どんな内容だったかは忘れてしまった。
"忘れちゃった"
「そーかい?」
"けど、傑やみんなの夢かな"
私が幸せだと言うのなら
傑がいて、みんながいる夢のはず。
"傑"
「何だい?名前」
"ありがとう"
私を見つけてくれて
私を連れ出してくれて
ガチャリ、とドアが開いて
そちらを向けば
美々子と菜々子の姿。
「あー!!名前姉起きてる!!」
「さっきは寝てたのに」
"おはよ"
「名前姉、見て見て!!
ここのクレープ美味しそうじゃない?」
「今度、夏油様と原宿に行くんだけど
名前姉さんはどんな味食べたい?」
楽しそうに携帯のサイトを見せてくる美々子に
菜々子はお土産何がいい?と聞いてくる。
あぁ……幸せだな、と思ってしまう。
美々子と奈々子の頭を撫でると
2人はきょとんとしてしまう。
「どうしたの?名前姉」
「何かあった?」
「信者に何か言われた?」
「吊るす?吊るす?」
何を考えたのか
2人のなかで私が元気ないと
思われたらしい。
特に理由はないのだが……
慌てて首を振ると、2人はお互いを見合せ
ぎゅっと抱き付いてくる。
「名前姉、無理してない?大丈夫?」
「美々子も奈々子もいるからね」
「ふっ……っ
2人共、名前は懐かしい夢を見て
まだまだ寝ぼけている最中らしい」
困っている私が楽しいのか
心配する2人が可愛いからなのか
傑はくつくつと笑っている。
なーんだ、と安心した2人は離れて
それぞれ好きな場所に座る。
「名前」
"なぁに?傑"
「幸せかい?」
傑の言葉に
私は笑って頷いた。
あとがき
六兆年と一夜物語を
イメージして書いてみました。
たまたま聞いていたら、美々子と奈々子じゃない?と思いまして。
ちょっと似たような感じで
書いてみたのですが……
相変わらず名前変換使わないとゆう……
すみませんwww
本当の六兆年と一夜物語は
悲しい結末なんですよね…??(知らないwww)
夏油書くと悲しくなっちゃうので
ハッピーにしたいのです。
短編書くの苦手だな……
夏油ばかり書いてる気もするが
推しは五条ですwww
お読みいただき、ありがとうございました!!