桜花歳時記
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最強、襲来!
「おーい、喜三太、お前に山野先生から手紙来てるぞー」
加藤団蔵はたまたま通りすがった事務室の前で、主任である吉野作蔵から手紙を預かった。
差出人は、風魔流忍術学校の山野金太先生である。
長屋の喜三太と金吾の部屋で声をかけると、
「はにゃ?」
「風魔の山野先生から?」
「あれ、遥先輩こんにちはっ! どうしたんですか、喜三太の部屋で珍しい…わけでもないか」
中にいたのは、蓬川遥だった。
「金吾が家出したから先輩に片付けを手伝ってもらってるの~」
「…もう少し掃除しような、喜三太。そんなことじゃお嫁さんが大変だぞ。なあ、加藤団蔵?」
「………………。それはさておき! 喜三太、山野先生何だって?」
「げっ!」
「どうした?」
「やばい~、どうしよう……」
「蛞蝓にばってん…ってこの暗号、もしかして…」
「おお、喜三太!久方ぶりよの!」
「…っ!?」
「え」
「おお、お主も、元気かえ、遥!」
「や、山村リリーさまっ!?」
「ば、ばーちゃん、何しに来たのさ!?」
「何しに来たのとは何じゃ、お前が良く学んでいるか様子を見に来て何が悪い」
「さ、相模からわざわざ…。もお…、ぼくが可愛いのは分かるんだけどさあ…」
「あ、遥よ、これは大川殿に土産ぞ。蝦蟇の膏薬じゃ。打ち身に捻挫、擦り傷、切り傷、火傷にまで効能がある、風魔秘伝の軟膏なのじゃ」
「うえ!? あ、あ、ありがとうございます」
「だめだよ~。ばーちゃんが作る薬は、いつもとんでもない事になるから嫌なんだよ。学園長先生が大変なことになったらどうするの!」
「………」
団蔵はちょいちょい、と喜三太の袖を引っ張る。
「とんでもないって?」
「例えば、傷薬と間違って惚れ薬使ったり、蝦蟇とガマの穂を間違えたり」
「それはとんでもないな」
「なんぞ言うか。これは山野金太先生が持たせてくれたものじゃ。わらわが作ったわけではない」
「つつしんで承ります!」
「遥は安全と分かると反応早いのう」
「なあなあ、風魔の蝦蟇の油って有名な話だよな! 喜三太、蝦蟇油って何が入っているんだ?」
「さあ~、秘伝だからわかんない」
「いやいやなんで自分ちの秘伝の薬、喜三太が知らないの?」
なにせ、材料がガマガエルだ。
カエルは蛞蝓を食べる。
蝦蟇の油は、あまり作りたくないし、今後は作ることはないのだろうと喜三太は大祖母を見た。
「地元では陣中油と言っての。実は馬の油がベースじゃが、それ以上は秘密じゃ」
「え、馬の油なんですか、遥先輩!」
「ごめん、秘伝だから、私には教えてもらえなかった。でも風魔って独特の馬術があって、坂東の有力大名に召し抱えられたのもその技術ゆえ…らしいよ。確かに厩舎に馬が多かった』
「そうなんだ! 喜三太、すごいな!」
「団蔵、キラキラした目で詰め寄られても…。言うまでもなく、ぼく馬術得意じゃないからね~」
「そうだった…」
「そうなんだ…?」
「でも風魔の里では蝦蟇蛙もたくさん飼ってたよ~。薬をとったり幻術の材料にするんですが、蛞蝓さん食べるから蛙はあんまり好きじゃないけどさ」
「や、やっぱり使うんだな、蝦蟇蛙…」
「その蛙の餌だったはずの蛞蝓を飼い始めおって!」
「ばーちゃんに、ナメさんたちの可愛さはわからない!」
「わかるものかっ」
「あ、あの、リリー様、喜三太もそのくらいに……」
取り直そうとして間に入る遥に、リリーは眉間の皺を深くする。
「に、しても、遥、おぬしは一体いつ足柄に戻る気じゃ?」
「え?」
「山村家の花嫁修行は甘いことない。はよう戻れ」
「えっ!? 先輩、喜三太の嫁になるんですか!?」
「いえあの…山村家に嫁ぐなど私には…」
「ばーちゃん、遥先輩が困ってるじゃないか」
「なんじゃ、喜三太。女子が言う嫌よ嫌よは好きのうちなのじゃ。これすなわち、つんでれと言う」
「え、そうだなんだ! 遥先輩!」
「いや、違っ……う、とも言い難いが、時と場合によりけりだ」
「でも、会う人会う人に嫁に来いって言うのやめてよぉ~。お嫁さんくらい自分で探すから~」
「足柄に嫁に来るような骨のある人間、めったにおらんでな」
「うーん、田舎は嫁不足が深刻なんですね!」
「田舎とはなんじゃ、田舎とは! 掃除洗濯炊事に裁縫、火薬毒薬遁法兵法、教えなくてはならぬものがたくさんある。わらわの目の黒いうちに嫁を育てんと、喜三太の…いや山村家の将来に関わるでな…。――で、遥。いつ戻ってくるんじゃ?」
「いや、あの…」
「こほこほ……わらわはもう長いことない。わらわが生きているうちに少しでも喜三太のために何か遺してやりたいのじゃ…こほこほ」
「リリーさま…」
「だからはよう…」
「リリーさま、お気を強く…」
「わー、先輩! 風魔くの一の色仕掛けにほだされちゃダメだよっ!」
「ばーちゃんったら~、すぐ死にそうなふりする~。僕が産まれたときからそれやってる~」
「遥先輩しっかり! このばーちゃんならあと二十年は大丈夫ですから! だって足柄からひょこひょこ近畿まで来てるんですよ!」
「…はっ、つい!」
「はて、なんの話かの~」
「ばーちゃん、ボケたふりしないでよ~」
「ちなみにの、ワセリン、ラノリン、シコンエキス、スクワラン、ベグノール、尿素、ハッカ油、サリチル酸…」
「な、何の呪文ですか!?」
「今の陣中油の成分じゃ。ちゃんと覚えい」
.