桜花歳時記
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
尚武
※桜花で「七松先輩のようになりたい」の後のお話。
「兜割を教えろって?」
「そうそう」
小平太が、道場の私のところに来るのは珍しい。
首を傾げる私に、小平太はどかっと座り込む。
「金吾に教えてやりたいのだ!」
「金吾?」
こっくりと頷いた小平太に、私は再び首を傾げる。
金吾というのは、一年は組の皆本金吾。
小平太にとっては振り回してしまうくらい可愛い委員会の後輩。そして私にとっては愛すべき弟のような存在。
その金吾に、小平太が剣術の一種である兜割の技を教えたいという。
「…なんでまた?」
「まーいろいろあって、この前その話になったんだ」
「なんでだよ」
「いや、妬くなよ」
「剣術なら戸部先生が…っていうか私が教えるのに…なんで小平太に…」
「いろいろあるのだ、男というものは!」
「ふーん…、まあいいけど」
「それで、兜割というのは!」
「…知ってのとおり、刀というのは、技量に左右される武器だ。下手者が振るえば刃は折れてしまうが、達人が振るえばその斬撃は鉄をも断つ」
「うんうん」
「刀は斬る方向に合わせてブレずに刃を通さなければならない。これを『刃筋を通す』という。それができれば竹も畳も兜も同じように斬ることができる」
「うん、それで」
「だから、兜を割る…つまり鉄を断つには技量がいるんだよ。気迫や馬鹿力だけでどうにかなる技ではないんだ。小平太には無理」
すぱっと言い切ると、小平太は腕組みをして何か考え込んでいる。
それから、じーっとこちらを見上げてきた。
なんだ、その子犬のような目は。
「お前はできるのか?」
だから何なの、その寂しげな目は!
「ちょ、調子が良ければね!」
「できるのか…」
それだけ呟くと「ふーむ」と考え込んでしまった。
本当になんなの。
「でも、現実問題として、兜を割る機会なんてそうはないと思うよ」
「そこはそれだろ、鎧武者と対峙したら正面から倒したいと思うものじゃないか、男として!」
「そういうものなの?」
「そういうものだ!」
「でも、どうして急に剣術なんて?」
「…んー、転がる岩を割る程度では、金吾に感動してもらえないらしくてな」
「…………ん?」
「いや、先日金吾の目の前でこれくらいの岩を割ったのだが」
これくらい、と小平太は天井をさす。
「………」
「この程度の土木技術ではやはり感動してもらえんらしい!」
「………」
「がっかりさせてしまったようなので、私も金吾にいろいろ教えてやりたいのだが、どうにも刀のようなデリケートな武器は性に合わないようだな」
「………」
「やはり剣術の方面は戸部先生にお任せするのが良いんだろうな!私は基礎体力を伸ばしてやるか!」
「………」
「どーした?」
「いや、なんでも…。金吾も大概小平太のチートっぷりに慣れてしまっているらしいな…」
確かに大岩を叩き割るなど、土木技術だ。用途としては土木技術でしかない。
しかし。
人並みはずれた動態視力と、力。圧倒的な技術とそれらを相乗させる経験値。
小平太をしみじみ見ると、彼は邪気の無い顔でのぞき込んでくる。
「うん?どうした?」
「いや、なんでもない、なんでも」
「そっか、じゃあ私はこれから体育委員会だから!行ってきます!」
「はいはい、いってらっしゃい」
基礎体力を伸ばしてやるか。
そう、小平太が笑っていたことに私が気が付いたのは、彼の姿が見えなくなってからだった。
基礎体力を伸ばす。
「って、あの委員会活動以上に金吾になにさせる気だ!?」
.