桜花歳時記
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大根炊き
明け六つを知らせる半鐘が鳴る。
その音を聞きつつ、私は味噌汁の鍋の中に大根の葉を放りこんだ。
昨晩から、ちらちらと降ってきていた雪は、それなりに積もっていた。
今年の冬は雪が多いらしい…とは、生物委員会の伊賀崎孫兵の弁。
水鶏の巣も蟷螂の卵も、藪の高い位置でみつけたそうだ。
そういえば、今年はまだ金楽寺の和尚様へお歳暮を持って行っていなかった。十三日には煤払いもしなければ。用務の吉野先生に後で確認しないといけない。
年の瀬を前に、立て込んだ用事を脳内で数えていると、
「うー、さみーっ!」
「ほんっとーにすまない、留三郎!」
そんな、声が外から聞こえてきた。
そういえば、先日から六年は組は校外に出ていたのだった。
私はそんなふうに思ってから、台所の勝手口から顔を出す。
案の定、伊作と留三郎の二人が手をこすり合わせながら帰ってきていた。
「お帰り、二人とも」
「あ、ただいま!」
「おう!」
「雪は大丈夫だったか?こんな日に野外実習なんて不運で………というか、二人ともなんで頭に雪積もってるんだ…?」
それはそれは、頭巾にあつく積もっている。
何故、と私が首を傾げる前に留三郎は「聞くなっ」と首をふった。
「あはは…、ちょっと、さっき………あれは…タイミング悪かったよね」
「なんであんだけ狙ったタイミングで屋根から雪が降ってくんだよ、畜生」
「あ、あはは」
伊作はそう愛想笑いをしてから、パタパタと頭からかぶったであろう雪を払った。
それから、くしゃみを何回か。
「そういえば伊作って一番最初に風邪をひいて、一番最後にまた酷い風邪をもらうんだよね、毎年」
そう、毎年そうだ。
保健委員会の宿命なのかもしれないが、それにしても判で押したように毎年である。
「こ、今年は大丈夫だって!」
「で、留三郎にうつるんだよな」
「はっはっはっ、同室だからな!」
胸を張っている場合ではないだろう。
虚勢を張っているのがいっそう物悲しい。
「見ているだけで寒いよ、二人とも」
この時間では、お風呂は沸いていない。
一番暖かいところが、火の気のある台所…ここだ。
「早く火にあたって」
頭巾をはずして竈の前で背を丸める二人に、私は味噌汁と、煮た大根を差し出す。
出汁をすってふっくらと透き通った大根は、寒ければ寒いほど甘みを増す。この時期が一番美味しい。
「お、うまそう!」
「わあ、ありがとう!」
そういえば、金楽寺の大根炊きがそろそろ始まる頃だろうか。
外が白い。
雪が降っていた。
やっぱり、伊作はこの後、風邪をひいたんだけど。
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