桜花歳時記
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お歳暮まわり
「ふあ…」
年末の大祓だ。いらないものを燃やそうと焚火の傍まで行くと、井桁模様の一年生がいた。
番をしているのは、一年は組の加藤団蔵だ。
うとうととしている。立ったままで。
「加藤団蔵」
「うわっ、先輩っ、ごめんなさい、居眠りしてませんっ!」
「箒持ったまま立って眠れるのはすごいな…。…似てきた」
「誰にですかっ!?いやだ、先輩、今のは本当に寝てませんからぁっ!」
「はいはい」
ぴーぴー喚く彼をあしらっていると、フッと影が差す。曇ってきたかと空を見上げると、
「ごめんくださーいっ」
「馬っ!?」
「びびび、びっくりしたぁっ!…って、あ、異界妖号っ!」
「ということは…清八さんっ!?」
塀を飛び越え軽やかに蹄を鳴らして降り立ったのは、異界妖号――。つまり馬借の清八さんだった。
正面門から入ってください、小松田さんに叱られますよ。
「こんにちは、年末の大祓の最中にもうしわけありません」
「どうしたのさ、清八!」
「お届けものです、若旦那」
そう、清八さんが荷物を馬からおろす。すると。
「お届け物って…わああっ!?ちっちゃいじーちゃんがぐったりしてるーっ!?」
「し、しっかりなさってくださ…園田村の乙名さんっ!?」
「心配無用、馬酔いです…ご無沙汰しておりま…げふっ」
「あああ…お顔が真っ青に…、加藤、お水と手ぬぐいをお持ちして…」
「あ、受け取りにサインお願いします」
「先輩、ぼくのサインでいいですか?」
「聞けよ、こらっ!」
「お歳暮、ですか?」
「はい、年末ですので。これから一回りしてきます」
学園長の離れに案内する間に、園田村の乙名である手潟潔斎さんは、包みを抱えてそう笑った。
この時期、村々では代官館にお歳暮を納める。柿や大根、お酒や柴、薪や茶筒などなどが一般的だ。
「お忙しい中、ご丁寧に…。佐武村への支払いやタソガレドキへの課役もあるでしょうに…」
「先輩、課役って?」
そう、加藤団蔵が裾を引いてくる。
「禁制…かばいの制札をもらったから、園田村はタソガレドキの領民扱いになるんだ。だから、タソガレドキに税を払わねばならない。年末だから、算用が待っているんだよ」
「あああ…決済とか算用とかもう聞きたくない…!」
「加藤はそれで眠そうだったんだな…」
「あれ、でも、かばいの制札って判銭だけで銭十三貫文…一万三千枚ですよ!?それでも馬の飼料まで要求されて、それでまだ税を納めろって!?」
「しかも、制札を受けたからといっても、本当に乱暴されたときには自分の村の力でその狼藉者を捕らえなければならない」
「え、そうなんですか、タソガレドキ軍は出てきてくれないの?」
「制札はあくまでも『敵ではありません』という証明書であって、村の安全は保障しないんだよ」
「えええ、なんかずるい!」
「ご安心を、加藤村の若旦那。ほかの村と一緒に代官館に押し掛けて、年貢の方をまけさせました。それに、年末の忘年会、オーマガトキ城でさんざん飲み食いしてやりますわ。うちの村が無事に戦火をくぐり抜けられたのも、忍術学園の手助けがあったから…あなた方のおかげです」
「えっ、いや、おれたち何も…」
「ありがとう」
静かに頭を下げる乙名は、とても穏やかな顔をしていた。
「先輩、あのじーちゃんすごいですよね」
「そうだな…」
「うん。お金を切り崩して面子をつぶして大きな犠牲を払って…。結局園田村を守ったのは、佐武村でもおれたちでもなくあの人なんですよね…。おれも、あのじーちゃんとか、うちの父ちゃんみたいになれるかなぁ…」
私は加藤団蔵の背をぽんっ、と打った。
まだ小さい、その背中。
「頑張れ、若旦那」
「…えへへ、見ててね先輩! おれ頑張る!」
照れて笑う加藤は可愛い。よしよしと頭を撫でていると、渡り廊下の先に影がさす。
「しかし、さし当たってお前の目標はあそこじゃないのか?」
「え?」
「団蔵っ、帳簿の計算合ってねえぞっ!!」
文次郎、と私が苦笑すると、加藤団蔵は「うっ」と背中にしがみついてきた。
「先輩、お願い、手伝ってっ!!」
「大祓が終わったらね」
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