桜花歳時記
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いさなとり
えびすさまは豊作と商売繁盛の神様。「笹もってこい」と歌うきり丸の顔が目に浮かぶ。
冬の立つころ、神様はそろって出雲の国へ詣でられる。
日本中の神様が総出で出雲におわす中、それでも人間たちを守る者がいないのは気の毒だと思ったのか、それとも大勢の神様の宴など面倒なだけ だと思われたのかは知れないが、留守を預かる神様が一柱。
それがえびすさまだ。
「えびすさまです」
包みを手渡されて、私は一瞬とまどった。
六年い組は郊外実習、六年は組は補習授業で学園にいない。
留守を守るそんな中で、来客があった。兵庫水軍の水練、重さんだ。
「こっちが学園長へ、こっちが食堂へ、それでこれがあなたのぶんです。内緒ですよ」
獣のような独特のにおい。それで、その包みが鯨の肉だと分かった。
今朝方、浜に打ち上げられていたそうだ。
「えびす神は、豊穣と漁業の神様なんですよ。だから鯨のことを、えびすさまと呼んだりするんです」
重さんは、そう言って笑う。
鯨ひとつで、村ひとつが潤う。鯨が来れば、七つの浦を満たす。
確かに今の時期に鯨が打ち上げられるなんて、えびすさまのお恵みなのかもしれない。
「あれ、じゃあ、お忙しいのでは…」
「はい、浜はお祭りみたいなものです。すぐに帰らないと、航にぶっ飛ばされちまう」
航さんと重さんは同じ歳だ。仲も良い。だから、遠慮がない。
拳を鳴らしている航さんが脳裏によぎって、私も愛想笑いを返した。
「お忙しい中、わざわざすみません」
「いや、今回は旗取り競争、勝ちましたから!みよし丸の兄貴が当直でいなかったのが幸いだった…」
「旗取り…?」
「え、あ、いやいや、こっちの話で!」
慌てたように手を振る重さん。
水軍の訓練の話だろうか。いつもいつも浜や海で訓練や模擬戦をしているのを見る。兵庫水軍も大変だ。
「ありがとうございます。えびすさま、美味しくいただきます」
「はい、あの、たまには海の方にも遊びに来てくださいね!」
「………ただいま」
「鍛練兼見回り、お疲れさま」
「腹減った!今日の夜食は何だ?」
「えびすさま」
「は?えび?」
「………まさか人魚の肉か」
「違う、えびすさま」
しっかり留守を守りましょう。
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