桜花歳時記
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
梅の実、黄なり
「今日は、からっと晴れましたね、センパイ」
「そうだな…」
「今年もこの季節がやってきてしまいましたね、センパイ」
「そうだな」
同級生である鉢屋三郎、そして一学年年上の蓬川遥。尾浜勘右衛門は、二人の会話に緊張感を感じる。
「あの…、なんで今日はこんなにものものしいの、二人とも…」
「勘右衛門、これを持ってろ」
「なんだよ、これ。……竹の串?」
「それと、これも」
「えーっと、なんですか? 割烹着?」
「長次にかしてもらった割烹着だ。似合う似合う、可愛いぞ、勘右衛門」
「いや、似合いませんて。ぶっかぶかですって。しかもレースついてますって。…っていうか、意外にもくたりとした洗いざらしの柔らかな着心地…!もしかして中在家先輩これ御愛用なんですか?」
「長次のお気に入りらしい」
「そ、そーですか…。で、今日はこれから何をするんでしょう。笊に壺に竹の串…砂糖と焼酎ですか? 三郎が背負っているその籠の中身は?」
「これが、今日の重大任務だ」
「重大な任務……」
「今日は」
遥は、ぐっとたすき掛けして袖をまくり上げる。
「今日は! 梅酒を! 作ります!」
「…………」
「…………」
「重大任務」
「「重大任務だ!」」
「あ、ほんとだ、梅だ!」
勘右衛門が覗き込むと、三郎は肩をすくめて、
「梅干しは、一年生坊主がしこたま作ってくれたらしいから、我々は梅酒担当」
と、籠をおろす。
「マムシとかサソリとか酒に漬けて飲むだろう。学園長の我儘…いや命令で毎年作ってるんだ。来賓と飲んだりするらしいぞ」
「マムシとかサソリとはだいぶ違うと思うんだけど…。そうか、だから割烹着なんだな」
「そういうこと。勘右衛門が学級に入ったから、こういうとき私は楽だなあ」
「学級委員長委員会の毎年の恒例行事なんだ。これが終わると、そろそろ梅雨入りだなって実感するよ」
実感する、としみじみ言った遥は、手慣れた様子で梅を選別している。
「あ、確かにそろそろ梅雨ですね。梅雨かー、億劫だなー」
「気配を消す手間がはぶけていいじゃないか」
「三郎の変装は雨は大丈夫なのか?」
「心配ご無用!ウォータープルーフだから!」
「さ、最近の化粧は凄いんだな…」
「ほら、干した梅に竹串で穴をあけて……壺の底に詰めていく。こうすると、早く飲めるようになる」
「はーい」
「毎年大量に作るんだが、春前にはなくなるんだぜ」
「梅の実、黄なり…ですね。先輩、梅酒できたら味見させてくださいね!」
「長く漬けこむと美味しいらしいけど、一年もたないんだよな、いつも。梅酒は黒糖で漬けたら美味しいらしいですよって話したら、学園長先生、今年は大量に黒砂糖を注文されてな…」
「ああ、そういえば、センパイが風魔に行っている間に、梅酒を学園長先生が庵の縁の下に保存して、大変な事になったことがありました」
「ああ、宿茶の毒騒ぎね」
宿茶の毒。
宵越しの茶は飲むな、という。
そういう毒の製造方法があるからだ。
質の良いお茶を濃い目に淹れて竹筒に注ぐ。そのまま四十日土の中で放置すると、毒薬になる。
「なんだ、それは。どんな騒ぎに?」
「いいえ、学園長先生と乱きりしんが絡んだだけです。ご安心を」
「…その説明でどう安心しろと…まあいい後で聞く。…梅酒ができたらみんなで飲もうな」
「「嫌です」」
「なにも二人異口同音に…」
「先輩の酒癖の悪さにはついていけません」
「セクハラが酷いのでご遠慮させていただきます。お飲みになるならばお一人でどうぞ、センパイ」
「先輩、後輩がドライすぎて時々寂しくなる時があるんだが…」
.