短編(現パロ)
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大晦日には紅白をみるものだと昔から決まっている。
私がそう言うと、二番組同時録画可能なレコーダーがあって正解だった、と戸部先生と金吾はうんうんと頷き合っていた。
「先生、先生、お蕎麦が」
「うむ」
重い鍋だ。
お湯を捨てる時だけは戸部先生がお鍋をもってくださる。
大人だなあ、先生。
「金吾、テーブル拭いて」
「わっ、投げるなよ!」
布巾を放り投げる私に、金吾は文句を言いつつ従う。頼りにならないんだから、こういう時に頑張ってほしい。
そういえば、金吾は今年は実家に帰らないそうだ。
「お蕎麦ですよー」
炬燵の上にお蕎麦をとんとんと並べると、名前は席に着いた。
「ところで、なんで大晦日にお蕎麦食べるの?」
「え、さあ…。でも、むかーしから決まってるんだって」
私たちの視線を受けて、戸部先生は薬味のネギをこんもりと乗せながら、
「細く長く縁がありますようにと」
と言った。
「へえ!」
「そうなんですか」
最近では讃岐地方だけでなく、太く強く縁が続くようにと願ってうどんを食べることもあるそうだ。
そう、先生は付け加える。
讃岐うどんのお店、近くにある。
「夜中の初詣ってあこがれるよね」
「お前は初詣、どうするんだ?」
「え、金吾、明日一緒行こうよ」
「ごめん、明日は、昼から喜三太と遊びに行く約束があるんだ」
「えー。じゃあいいよ、もー」
「クラスの奴らと行ってくればいいじゃんか」
「人込み苦手とか寒いから嫌とか本を読んでた方が良いとかお年玉もらってくるんだとか言ってたんだもん…」
「じゃあ庄左ヱ門とか彦四郎は?」
「庄左ヱ門はおうちの手伝い。彦四郎は左吉たちと行くって」
お蕎麦を台所に下げて、私はぶうっと頬を膨らませた。
一緒に行っても良いかって聞いたら、金吾は良いよって言うと思う。
でも、喜三太と遊ぶ時は一緒に行ってもつまんないんだもの。
実は金吾が喜三太にばかり夢中で、あんまりかまってくれなくて寂しいというのは内緒の話。
ふてくされつつ、みかんに手を伸ばしている金吾の横顔を見た。
ぱちり、と眼があう。
「…なに?」
「別にー」
「良ければ、明日一緒に」
「行かない」
「我儘だな、もう…」
付き合いきれない、そう、金吾が呆れた時だった。
「では、行くか?」
戸部先生の低く短い言葉に、私(と金吾)は、ぱちぱちと眼を瞬かせる。
「これから、初詣に」
「ええ!?戸部先生、連れて行ってくださるんですか!?」
「明日は用事があるが、今夜のうちならば」
今から出られるかと尋ねた新左ヱ門に、私は勢いよく頷いた。
「金吾、お留守番――」
「ちょ…っ、ぼくも行くにきまってるだろう!」
「え、なんで?」
「なんでって…、なんで置いて行こうとするんだよ!ぼくも行く!」
「えーと、戸締りは大丈夫、火の元はしめたし…」
「名前、準備は良いか」
玄関先で待っている戸部先生の声に、私は「はい」と返事を返す。
コートを羽織ると、傍らにいた金吾が懐炉をぽんっと投げてきた。
「そんなにかっちりしなくても、近所の神社に初もうでに行くだけなんだから…」
「年末年始のざわざわしている時こそ、用心しないと――」
「じゃあ、別に混んでいるときに行かなくてもいいじゃないか」
「せっかく三人で初詣なんだから、そういうこと言わないで。――こんなに夜中に外出なんて、ドキドキしてきた」
そう、私はこそり、と耳打ちする。すると、金吾は同じように頷いた。
ぼーん、と遠くから除夜の鐘が聞こえる。
常よりもぴんと張りつめた、でも薄い、墨のような夜のとばり。
新年までもう少し、だ。
「これからも末長くよろしくお願いします、戸部先生、金吾」
「言うの、早くない?まだ年内じゃんか」
「お蕎麦が消化されないうちの方が良いかなって」
「どんな原理だよ…」
「うむ。こちらも、よろしく頼むぞ、二人とも」
「ぼ、ぼくの方こそ末長く!」
もう一度、ぼーん、と鐘の音が響いた。
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