短編
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「………名前?」
「学園に出入りしている薬師に変な香をもらったよ」
「………!?」
「なにもそんなに警戒しなくても……。これちょっと嗅いでみて」
「………甘い匂いだな」
「ね」
「………買ったのか」
「もらったんだよ。これはお試しサンプルだって」
「………お試し。………なんの」
「好きな人の夢見られる香りらしいよ」
「………」
「いやいや、長次、いくら私だって寝巻きをひっくり返して寝るっていうおまじないは知ってるよ」
長次が手のひらで衣をクルッと返す動きをすると、名前はそう言った。
「………名前、それを使うのか」
「学園に出入りしている薬師だから、ちょっとした興味本位だよ。眉唾物かもしれないけれど……」
「………タダより高いものはない」
「でも、こういうのも勉強かなって思うんだ。物は試し、というやつで。先生に言われたんだけど、私は挑戦心というものがないみたい」
「………そうだな」
「長次も興味があるなら使ってみる?」
「………」
再び衣をクルッと反対にするジェスチャーをとると、名前は苦笑いした。得体のしれない薬を使うよりも、古来からのおまじないの方が彼にとっては有益らしい。
「長次はロマンチストだもんね」
「………」
よく名前は長次をそう評価している。
い組などにロマンチストと言われては馬鹿にされているようにも感じるが、相手が名前とあれば頬も緩む。
そのまま微笑もうとして頬がひきつり、結局長次は眉をひそめた。
「………寝ている、のか」
私が気がつくと、名前がうとうととしていた。
「………」
放っておきすぎたか。
半開きの唇に指を這わせると、眉を悩ましげに寄せた。
布団まで運ぶか、それとも揺り起こすか。
どちらにしても、起きてしまうだろう。
「………」
しばし悩んで、結局、布団まで抱えてやることにした。
肩と膝裏に手を差し入れて、抱える。お姫様抱っこ、だ。
「ん…」
腕の中で名前が鼻にかかった声を出す。
「…う、じ」
夢の中のはずだった。
「…ん、長次」
「………」
心なしか、名前の頬が上気している気がする。
少し不安になる。
学園に出入りしている薬師。それは、少なからず関係者ということ。忍びの使う薬は、得体の知れないものも多い。里ごとに秘伝薬を持っていることもある。
「………大丈夫か」
心配になって、名前に声をかける。
私の声量で寝たものを起こすのは、少し難しい。耳許で言わないと聞こえないだろう。
「長次……」
「………」
きし、と身体が固まる。
――結局、薬は使ったのだろうか。 使って私の夢を見ているのなら。
それは、とても、嬉しい。
「………名前」
すうすうと、まだ寝息をたてている。
寝言で名を呼ばれただけなのに、酷く目眩がする。
そうっと名前を布団の上におろそうとすると、名前は眉を寄せて身をよじる。離れたくない、と言われているようで、抱えたまま座り込んだ。
ロマンチスト、と名前に言われるまでもない。
「………名前」
低く呟くと、名前の肩が震える。
「………どんな夢を見ている?」
私の夢を、見ているのなら。長次は名前の細いおとがいに指をかけて、少し迷って結局その手を引いた。
もう少し、夢の中にいてくれ。
「………名前」
もう一度名を呼ぶが、彼女は夢からまだ目覚めなかった。
「………良い夢だったか?」
「う、うん」
「………これはどうやら、睡眠薬の類のようだな」
「そっか」
「………夢は、見れたか」
「え、うん、一応」
「………誰の夢を見ていた?」
「えっ」
「………私の名を、呼んでいた」
「え、いや、それは……、えっと、私は、何か言ってたかな」
「………それは、私の口からはとても言えないような」
「わ、忘れていただけるとありがたいのですが!」
「………嘘だ」
「嘘なの!?」
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