短編
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とげぬき
「トゲが刺さった!!」
「………」
団蔵が、はい、と当然のように手のひらを出してくるため、私はその手にそっと針を乗せてやった。
それから、再び本に向かう。
「ちょっと待てよ、やってくれてもいいじゃないか!」
「トゲくらい自分でとりなさい。こっちは宿題で忙しい」
学園は木造。しかも生徒たちが荒く使うものだから、いたるところが毛羽立っている。
だから、木戸や床板にひっかけて、よくトゲが刺さるのだ。
よくあること。
「愛がないなあ」
「ないよ」
「あー冷たい冷たい、悲しいよおれは」
背後でブツブツ言っている団蔵に、私は息をつく。
「うるさいなあ…、そこで喚かれると宿題がすすまないじゃない」
「ちょっとくらい甘やかしてくれたっていいのにー」
「甘やかすとつけあがるくせに」
「おれ、褒めて甘やかされると伸びる子なんだよ!」
「それ以上身長が伸びると縫い物が大変だから、そろそろやめて」
そう言うと、団蔵はぶーっとふくれっ面で床に転がった。
ちょっと前まで同じくらいの背丈だったのに、いつの間にか大きくなってしまって、肩幅も背中も広くなってしまった。
なんだか不思議。
「あーあー、おれトゲ抜き苦手」
「どうして?」
「針って怖いだろ」
「刀や鉞も平気なのに、針がイヤなの?」
「なんか、怖いだろ!」
どんな殺気を向けられても、怖じ気付くことなどないくせに。
そう思うと不覚にも吹き出してしまった。
そんな私に「え、なになに?なんで笑ったんだ?」と団蔵は身を乗り出してくる。
それに免じて、
「手、出して」
団蔵に、自分の手を差し出す。
「やってくれんの?」
うれしそうに出してきた手も指も、すっかり男の人のそれだった。
怖いものなんて、何もなさそうなのに。
「どうした?」
「なんでもない」
さっきから変なやつだな。
そう団蔵が屈託なく笑う。
変なヤツは、団蔵の方だ。
すると、彼は手をもぞと動かす。
「ちょっと、じっとしててくれないと…」
「なあ、本当はあるよな」
「うん?」
「愛」
「うーん…」
私は、否定しなかった。
目をあげると、団蔵は、柄にもなく頬を赤くしている。
「トゲ抜けた?」
それから、団蔵は、にっこり笑って私の手を握った。
――まだ、抜けてないんだけどな。
2023年12月
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